リリカルモンスターズ外伝   作:光来斗

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リリカルモンズターズ外伝 

注意点
リリカルモンスターズ外伝シリーズは、ニコニコ動画に投稿されている架空デュエル(アニメキャラが遊戯王などのカードゲームを行う動画)の外伝小説です。
一切カード要素は出てきませんが、裏話要素が強いためにこれだけでは意味不明な部分が多くなるかもしれません、ご了承ください。
ニコニコ動画 リリカルモンスターズURL http://www.nicovideo.jp/my/mylist/#/44964464


紅蓮の出会い

 

 

 

――プロローグ――

――久しぶりに、なのはと喧嘩をしてしまった。

いや、久しぶりといっても……最初の一回以来だ。わたしがまだまだ子どもで、気になった女の子……すずかのリボンを取っちゃったあの事件。

 最終的にはすずかが私たち二人を腹パンして沈めるという、我ながら情けない幕引きだったんだけど。でも、あの出来事が私たちの始まりだった。

 学校の中の仲良しグループでも、一番だったという自信がある。拳で結んだ友情は強いのだ。

 今まで隠し事もなく……塾の愚痴とかいろいろおしゃべりしながらやってきて……

 なのはに異変が起きたのは、いつのころだったっけ……

 確か、あのフェレットを拾った翌日にはなんだかすごいウキウキしたような表情だった。

 いつもあの子は、自分に自信がなくて――私よりも算数できるくせに、それしかできないだなんて言ってた。

 もしかしたら、桃子さんに新しいケーキの作り方でも教わって、上手に作れるようになったのかもしれない。

……最初はそんな暢気なことを考えていて。

 でもすぐにおかしいって気が付いた。

 授業中はぼうっとしているように見えて先生の話は聞いているし。

 でも私が投げた消しゴムには気が付かない。

 まるで、ここではないどこかに意識を飛ばしているような……変な感覚。

 今にして考えれば。私はそれが怖くて……親友がどこかに行ってしまうような、すずかやなのはと出会う一人ぼっちだったころの私に戻ってしまう気がして、怖かったんだと思う。

 だから、ただただその感情をそのままなのはにぶつけてしまった。

 はたから見れば、私が突然キレたようにしか見えなかったと思う。

 それでも、すずかが私についてきてくれたのは、やっぱり私がなのはよりも心が弱いから。私の方が心配だったんだろうと思った。

 ――それが情けなくて、悔しくて……次にどんな顔して会えばいいのかわかんなくて。

 わたしはついてきてくれたすずかさえ振り切って逃げだした。

 私の足なんて、すずかならすぐに追いつけるだろうに。

 追って来なかった彼女は本当にいい子だと思った。

 

 

 

 

――どれくらい走ったんだろうか。

 と、思えるほど全力疾走できるほどのスタミナはもちろん私にはなく。

 夕暮れでにぎわう商店街のただなかに私はいた。

 あと少し歩けば、翠屋が見えるはずだ。

(――よし。決めた。もう謝っちゃおう。

 洗いざらい全部話して、聞けることだけ聞いてしまおう)

 そう、腹をくくる。

 決めてしまったらなんだか肩の荷が下りたような気がして。実際にはまだ何にもしてないのに緊張が解けたのかおなかがすいてきて……

 全力ダッシュした足が少し痛かった。

 翠屋の甘いバニラの香りに惹かれるように私はそちらに歩き出して……

 

 

――彼女に出会ったんだ。

 

 

 透き通るように澄んだ、サファイアのような瞳にフランス人形のように白い肌。

 そんな線が細い体なのに。

 胸に誰よりも熱い、紅蓮の炎を宿したもう一人のなのはに……

 

 

 

最初は、なのはが髪形を変えたんだと思った。

 その後姿が、あまりにも桃子さんにそっくりだったから。

 腰まで伸びた栗色の髪の毛は、何にも縛られていなくて。二年生の温泉旅行の時になのはが髪を下ろしているのを見たのが最後だったが、そのとき悪い虫が付かないようにとすずかと私でツインテールを強制したのだ。

(も、もしかして私が当たり散らしたのがショックで髪形を変えちゃったの!?)

 一瞬で先ほど固めたばかりの決意が揺らぐ。疲労で動かないのか、プレッシャーで動かないのか。鉛のように重くなった足を無理やり引きずって私は近づいていった。

「な、なのは!!! さっきはごめん!!!」

 開口一声、謝り深々と頭を下げた。

 いきなり現れた私に、驚いた表情をするだろうか。謝られて面を喰らっているのだろうか。

 5秒――返事がない。10秒――気配がない。15秒――周りの視線がいたくなってきた……

「ってえおおおい!?

 無視かよ!?」

 いくらなんでもあんまりな親友の所業。

 なのはってばこんなに冷たい子だったっけ!? いやそれだけ怒っているということか?

 人ごみに紛れてしまいそうなその背中を必死に追いかけて、無理やり手をつかむ。

 無気力に下げられたその手を引きずって、私は公園へその子を引きずり込んだ。

「た、確かに私が悪かったけど! 無視することはないんじゃないの!?」

「――はぁ」

 間の抜けた声。まるでそのあたりの石っころを見るような視線に、私は思わずすくみ上った。

(――あれ、この子。もしかしてなのはじゃない???)

「いや……なのは。聞き覚えがある。そうか、あなたはオリジナルの関係者なのですね」

 疑念が確信に変わる。この子はなのはじゃない。

「ちょうどよかった。あなたはなのは……そうだ。高町なのはのなんですか?」

「わ、私は――」

 言葉に、詰まる。

 昨日までなら友達だといいきれていた自信があった。だけど今は……

「ふむ。人質の価値もなさそうですね。交渉のカードにもならなそうだ」

(な、なに言ってんのかしらコイツ……もしかして危ない人!?)

「あぁ。いや……私はいわゆる記憶喪失という状態のようです。

 あるのは、ただ高町なのはという人間を殺せという意識だけ。

 あなたに会えてよかったですよ。見知らぬ人。それだけでも思い出せた」

 殺す? 何を言っているんだろうこの子は。

「あなたを殺したら、高町なのははここに現れますかね?」

 キーンと、なんだか甲高い音が響きながら、彼女の足元が光り輝いた。

「――封絶」

 ――後に知ることになるのだが、この封絶という魔法は、魔力を持っている者かそれに接している物にのみ、行動を許す魔法らしい。

 つまり、私が今動けているのは彼女に接触を許しているからにほかならなくて……

 というか、顔面を右手で鷲頭かみにされて空中に釣り上げられていた。

「ん~~!?!?」

 眼玉を白黒させていると、彼女は左手に紅蓮の炎を生み出した。

「抵抗も出来ない、か……ただの一般人のようですね。これから先――二度と私にかかわらないでください。

 あなたの顔をつかむ手を入れ替えなくてはいけません。その年で二度と鏡を見れなくなるのは酷でしょう」

 そう、私地面に投げ捨てると同時に封絶を解除した。

 因果律そのものをずらす結界型の捕縛魔法。封絶。それを察知するには、魔力探査ではなく因果律調査魔法が必要だ。故に、どれほど優秀な結界魔導士でもその結界の中で起きたことを知るすべはないという。

 興味をなくしたかのように、一瞥もせずに公園から出ていこうとする彼女に……私は今ここで彼女を引き留めなくてはいけないとなぜか思った。

 ここで追いかけなくては、本当に追いつけなくなってしまう。

 何にかはわからない。どうすればいいのかもわからない。

 ただ、決定的な何かに敗北する予感が、息の仕方すら忘れた私の体を突き動かした。

 足の感覚もなく、前後もわからずに。ただ彼女に手を伸ばした。

「――面倒な人だ。今度あったら燃やしますよ」

 私の手が、彼女の髪を一房つかんでいるのを一瞥すると、いつの間にか私のカバンから抜き取っていたらしい直線定規を逆手で振るう。

 喉笛をかき切られたような錯覚に陥りながら、こわごわと目を開けると……

 そこには栗色の髪が、切り落とされて宙に舞っているだけだった――

 

 

 数分ぐらい、立ち尽くしていた気がする。

 脳みそが今の出来事を処理するのを拒否するかのように。何が起きたのかを理解するのに時間がかかった。

 よし、見なかったことにしよう。と、思うにはあまりにも刺激が強すぎた。今でさえ眼を閉じれば彼女の姿が脳裏によぎる。まるで網膜に焼き付けられてしまったのかのように。

 いやーそれよりも、未だに私の手の中にある一房の髪が、何よりも彼女が実在したという証拠に他ならなかった。

(じゃあ、本当になのはをあの子は殺そうとしてるっていうわけ……そんな馬鹿な)

 でも、あの紅蓮の炎は間違いなく超常のものだ。普通じゃない。

 あんなものをなのはが受けたら、一瞬で消えてなくなってしまう。

 いつしか、私の頭からはなのはと喧嘩していた事実なんて吹き飛んでいた。

「鮫島! すぐにツインテールのなのはがどこにいるのか調べて!

 あと、一応すずかの安否の確認も!!」

 あの子は私に人質の価値がないと判断したようだが、もしすずかに出会ったら何をされるかわからない。

 私の執事は優秀だった。すぐに神社の方に向かってなのはが走り出しているという情報が転がり込んできた。

(よし――ここからなら私が神社につく方が早い!! 車で……いや)

 自分の執事を、そんな何が起こるかわからないところに連れていくわけにはいかない。

「鮫島! すぐにすずかを私の部屋に連れてくるように手配して!

 なのはに関することっていえば了承してくれるはず!!」

 屋敷の中なら、偶然出くわすこともないはずだ――

 心配そうな顔をする鮫島に、申し訳なく思いながらも私は神社へ駆け出した――

 

 

 ――なのは!

 一心不乱に走るうち、これも後から聞いた話なのだが……私はこの日二度目の結界突入を果たしたらしい。

 あのフェレットもどきがこのとき使った魔法は、人払い。

 しかし、粘着質な客がいるように。明確な意思と目的を持った相手に対してはこの魔法は効力が弱まるという。

 現場には一番乗りしたと思う。そして、いの一番に逃げ出した。

(ね、猫の化け物!?)

 いや、もはやこれは猫とは言えないだろう。昔読んだ洋書の挿絵にあった、キメラのような謎の生物。

 しかし私もいい加減なれた。友達によく似た不審者に襲われたのだ。この程度では驚かない。グルルルと唸りなくキメラを倒せるとは到底思えなかったので、とりあえずここに向かっているというなのはに警告を飛ばそうと携帯を取り出し……

 バキン! と、音を立ててその画面が吹き飛んだ。

(な、なんだ……空気がビリビリする……!?)

 髪の毛が帯電して、ふわっと浮き上がるこそばゆい感覚。

 直後、キメラに向かって雷が落ちた。

 最初は、私を助けに来てくれた魔法少女か何かだと思った。

 あのなのはのそっくりさんと同じ線の細い体に、私よりも鮮やかな金色の髪。そしてどこか憂いた真紅の瞳――

 そこまでならば、異国の少女で済む話だった。しかし、彼女の右手に握られた大鎌が戦う女の子だと知らせる。

 もはや何がどうなっているのか皆目見当がつかないが、真っ黒な出で立ちとその漆黒の大鎌から連想したイメージは……死神。

 感覚がマヒしてきたのか、魔法少女ってリリカルマジカル呪文唱えるもんじゃなかったっけ? とかアホな方向に思考が流れる。

「どっせえええええいいいいい!!!!」

 現実逃避しかけた私の目の前に、非現実の塊が突っ込んで来た。ぴょこぴょこと揺れるツインテール……先ほど喧嘩別れしたばかりの私のもう一人の親友だ――

(というかなのは! 獣だからって不意打ちするときに掛け声あげるんじゃない!!!)

 思わずそう叫びそうになったところを、

 

――ガサッ!!!

「な!? なに!?!?」

「アリサちゃん、抑えて!!!

 今でてったら流れ弾で死んじゃう!!!」

 必死にふりほどこうとするうち、その声に聞き覚えがあることに気づく――

「――ぷはっ!!

 その前に酸欠で死ぬってば!!

 ……!? すずか!?」

「や~っと気が付いた。

 アリサちゃんの方もいろいろあったみたいだね……」

 

 アリサちゃんの方“も”ということは、多かれ少なかれすずかにもなんだかんだあったのだろう。

 私たちが物陰でもみくちゃになっている間に、なのはと死神の話し合いも終わったらしく……しかもまずいことに敵さんはなのはよりも数段強かったようで。一瞬でなのはは撃墜されてしまった。

「って、一発こっちに来る!?!?」

 思わず駆け寄ろうとした私の方に、一発の光弾が飛んできた。

 

(―間に合わ)

 

 

 

「――軽い攻撃だなぁ。

 僕のオリジナルってこんなに弱っちかったっけ??」

 

 

 

 

「レヴィちゃんありがと!

 助かったよ~」

「ふふふ、これできゃっとふーど?

 ってやつの件はチャラで!!!」

 

 切った。んだと思う。たぶん。

 防いだんじゃない。

 さっきの死神の2Pカラーのような色の、どこか馬鹿っぽい女の子がそこにいた。

「す、すずか? 何この子……どこで拾ってきたの?」

 なんて馬鹿な質問をしてるのか。そうも思ったのだが、この子の雰囲気は私が拾ってくる犬によく似ていた。

「ううん。拾ったんじゃないよ」

 そりゃそうだ。こんなとんでも人間その辺に落ちててたまるか。

 そこまで法治国家日本は甘くない。

「空から落ちてきたの」

 犯罪大国日本!!!

「いやあ、空飛んでたらおなか減っちゃってさ~。

 背に腹は代えられなかったんだよ……」

 顔をクシャクシャにゆがめてそのときの空腹を思い出したかのような表情をとるその子は、後に私がアホの子とさんざんからかうようになる雷っ子だった。

 

 

――――

――

 時は少し戻って。

 

 

「「「「にゃー!!! にゃああああああ!!!!!」」」」

「あれ、なんか庭の方が騒がしいなぁ……」

 アリサちゃんとなのはちゃんの喧嘩……というよりも、アリサちゃんが一方的にどなってただけだったんだけど……そんな喧騒のあった午後。

 私はどうしたらよかったのかなぁ。何ができたかなぁ。そんなことを考えながら、庭の猫さん達に癒しを求めて庭を散歩していた。

 今頃、ノエルにお昼をもらってのんびり昼寝をしている頃だろう。

 私の家の庭は迷宮のようになっているんだけど、ちゃんと歩けば問題ない。

 でも、気分が沈んでいたからか、下をむいて歩いていて……なにか、キラッと光るものを見つけた。

(なんだろこれ……チョコレートのお菓子?)

 三角形のそれは、触ると不思議な温かさのする、見たことのないものだった。

「いだだだだだ!!!

 いいじゃんちょっとくらい!!

 空飛んでて疲れたの! ご飯わけてよ!!」

「にやあああ!!!!!」

「んだよケチー!!!」

 ……なんだろう、聞き覚えのない声と、聞き覚えのある猫の声が喧嘩している???

 いやいや。人の家の庭でそんなアホな会話をしている人なんて要るはずが……

「ふっふ~ん。君たちなんてバルニフィカスを使えばちょちょいのちょいで……

 あ“ない!? 落とした!?!?」

 だめだ、もうだめだ。アリサちゃんを、ツッコミをください。

 途中から水色ツインテールと我が家の猫たちの異種格闘技を見ていてそう思いました。

 みだれひっかき。25回当たった。

「あ、あのーここで何をしてるの?」

「にゃ~」

「ふむ、この子が君たちのドンで、アリサっていう召使のご主人様なんだね?」

 

 いったい“にゃ~”のどこにそんな情報量があったのだろう。

 

「僕の名前はレヴィ。紫天の魔導書の構築体の中で、力をつかさどる王様の守護者だよ」

「む、難しい単語いっぱい知ってるんだね……

 そんなすごい子がなんでこんなところで猫と戯れてたの?」

「ん~

 僕たちは今、魔導書とリンクを切られててね。

 魔力を自分で確保しないといけないの」

(あーこの子、痛い子なんだ……

 あれ? でもなんでアリサちゃんの名前知ってるんだろう?)

「だから、この有機生命体の体の構造を利用して何とか魔力生成しようと……」

「キャットフードを食べようとしてたんだ……」

「おいしかったよ??」

 なんだか、すっごく可哀想になってきました。

 この子におなか一杯おいしいものを食べさせてあげたいなって……

「あ、そうだ……

 ちょっと日向ぼっこしながら食べようかと思ってたんだけど……

 食べる? クッキー」

「クンクン……いい匂いだ。

 でも王様に知らない人から物貰っちゃダメって言われてるしなぁ……」

 ……人の家に勝手に入ってキャットフード争奪戦してた子とは思えないなぁ。

「じゃあ、私の名前は月村すずか。

 これでしらない人じゃないよね、レヴィちゃん」

「おお、すずかは頭がいいなぁ。

 でも、クッキー一枚しかないからすずかの分なくなっちゃうよ?」

「私はそんなにおなかすいてないから大丈夫」

「じゃあ、こうしよう!!!」

 パキッ! と、きれいな音を立ててクッキーが二つに割れた――

 

 

「ふーん、友達二人の喧嘩を止められなかったと」

「うん、レヴィちゃんはどうしたらよかったと思う?」

 なんだか、何でも話せる弟ができたような気分でいつしか私たちはそんな話をしていた。

「僕には難しいことわかんないや。

 でも……」

 いったん、間をおいて。

「それって、そんなに難しい問題なのかな?」

「――え?」

「その友達は、もう一人の子を思ってしゃべらなくて。

 怒鳴った子はその子のためを思ってて……

 だったらなにも問題ないじゃない」

「……そう、かな。

 私は何にもできなくて……」

「すずかはご飯をくれるいい人だからね~

 でもさ、なにかをしてあげるっていうのだけが友達なのかな?」

「……?」

「ただ、そこにいるだけでうれしい。

 一緒にいてほしい。そんな人も友達だと思うよ?

 僕もシュテるんや王様といると楽しいもん!」

「――そっか。

 そうだね……」

「それにさ、

 怒鳴った子の方は普通に話しできそうじゃん!

 行こう。今から!!!」

「い、今!?!?」

「思い立ったが前日だよ!!!」

「それめっちゃ後悔してない!?」

――一緒にいるだけで楽しい。

 だったら、私とレヴィはもう友達だ。

 

 

 

 

「ふーん。へー。そー。

 私が顔面燃やされそうになってる間にそんなイチャイチャがあったと。」

「あ、アリサちゃーん・・・・・・」

「んーおかしいなあシュテるんがそんなことするはずがないんだけど・・・・・・

 実体化が不安定なのかも」

 なんでも、このアホの子とあの手から炎の女の子はただならぬ関係らしい。

 というか、同種の存在のようだ。雷切ってたし。

「実体化が不安定ってどういうこと?

 あなたは普通に・・・・・・というか元気じゃない」

「シュテるんは僕と比べて10000倍はシステム構造が複雑なんだ。

 しかも、コピー元の体が成長著しい不安定な存在だったからねぇ。

 顕現するときにシステムが不安定になったんじゃないかな?」

「た、確かにあんたよりも複雑そうな感じだったわ。

 いろいろと・・・・・・」

(というか、レヴィちゃんが単純すぎる気もする・・・・・・)

 たぶん、すずかの思考と私の思考はこの瞬間リンクしたと思う。

「で、どうすりゃいいのよ?」

「は?」

 小首をかしげる水色のアホの子。

「だから、どうすりゃそのシュテルって子を助けられるかって聞いてるの!!!」

「………………」

 あかね色の瞳が、私を射貫くようにじいっと眺める。

「僕は、シュテるんを助けに行く。

 だって家族だし、大切な人だから。でも――」

 その言葉の先は、聞かなくてもわかった。

“君は無関係じゃないか”

 そうだ、私はあくまで一般人。なのはのように、特別な力を持ち合わせたわけでもない。

 わざわざ危険を冒すことなんてないんだ。

「で、でも何とかしないとなのはが・・・・・・」

「言ったでしょ、シュテるんの顕現は不完全だって。

 あの人払いの結界にも気がついてなかったみたいだし、もう相当弱ってる。

 たぶん、僕みたいに途中で補給すらしてないんだ。もう何もしなくても3日と持たずに消える。いまの白い子でも、問題無く倒せるエネミーにすぎないよ」

 ――でも、それでも……私はあの子にもう一度会いたいと思った。

 理由なんてわからない。そんな物が必要なのかさえ。

「ねぇ、レヴィちゃん。もう少しだけ時間をくれないかな?

 ……アリサちゃん、その子とお話がしたいんでしょ?」

 やっぱり、私の親友は鋭い。

「んー僕が行ってシュテるんを修正するのが一番手っ取り早いんだけどなあ。

 まぁ確かに今すぐ動くよりも、もう一日待って弱ったところに行く方が安全ではあるけど……」

 そうだ……私には、この子を止める理屈も手段もない……

「――あ、レヴィちゃん。カレー食べる?

 今日の晩ご飯なんだけど……」

「晩ご飯!?!?

 んでもってかれぇ!?

 辛いのは苦手だなあ……でもおなかすいたし……」

(アリサちゃん――

 今日は一日レヴィちゃんを預かるから……

 明日またうちに来て!!)

 

 

 

 

――頭を冷やせ、ということなのだろう。

 とぼとぼという擬音が聞こえてきそうなほど重っ苦しい足取りで家を目指す。

 というか、私の家ってこんな遠かったっけ。私の体こんなに重かったっけ……

「――あら? アリサちゃん?

 どうしたの? こんなところで」

 後方不注意どころか前すらよく見ていない脳内思考モードだった私に、突然声が掛けられた。おっとっと何ていいながら、ぽよよんとその胸に私を受け止める。

 大人っぽいというよりはかわいらしいと表現するのが正しい、なのはのお母さん。(小学生からの評価がそれってのもどうかと思うけれどもスルーで)

 高町桃子さんだ。

 そして……その姿はやっぱりあの子――名前はシュテルと言うらしい――に似ている。

「桃子さん……あの……」

 何とも言いづらい後ろめたさが、私の口を重くしていた。

「どうしたどうした~

 なのはと喧嘩でもした?」

「ぐはっ……」

 なんで私の周りの人はみんなこうみんな鋭いんだ……

「いやあアリサちゃん顔に出やすいから~」

 さ、さすがは私がこうなりたい大人の女性、堂々のNo1……

「まぁそれがアリサちゃんのかわいいところでもあるから。

 ――少しお話ししよっか」

 何の因果か連れてこられたのはあの私の顔面爆破事件の事故現場だった。

 いや、まだ爆破されてないけど。

「なんか公園に入ってからさらにテンション低くなってない?」

 今ここで、乙女の危機に遭いまして(顔面的な意味で)とか言ったら大変なことになるんだろうなーとか思いながら、私は出来るだけ喋れることを喋った。

 なのはとギスギスしていること。一方的に喧嘩をふっかけたこと……

 そして、私の手の届かないところで、大きな何かが動きそうで――

 何も出来そうにないこと。

「私は何もしない方がきっと、みんな上手く回るんだと思うんです」

「何かしたい。その誰かのために動きたい」

「はい……」

「難しい問題ね。でも――今、あなたが悩んでいるのは。それはきっと間違いじゃない」

「桃子さん……?」

「そんなの関係ないって、割り切っちゃうのは簡単よ? でも、それだけ相手のためを思って考えられるのは、本当に相手の事を思っているから。それだけは正しいこと」

「悩むのは、間違いじゃない?」

 そっと、私の頭に手が置かれて……

「あなたはまだ小さい。その手で持てるものは少ないし、手を伸ばしても届かないものは多いでしょう。でもね」

 もう片方の手を私の手と絡ませながら語る。

 ふと香る、喫茶店のバニラの香り……なのはによく似た匂い。

「大人になったって、大して手の大きさなんか変わらない。

 体だって大きくはならない。じゃあ、ちっぽけな私たちはどうしたらいいのかしら?」

「……わからないです」

 おもわず、私の本音が口から出ていた。

 わからないから苦しかったんだ。答えがあるのなら、悩まなくていい。

 そして――この人なら答えをくれるかもしれない。

 そんな羨望のまなざしをみてなのか、桃子さんは苦笑いしながらこう告げた。

「一つは、あきらめちゃうこと。

 もうどうしようもないって全部投げちゃえばいい」

「で、でも!!! 私は投げ出したくない! 逃げたくなんかないんだ!!!」

「もう一つは、立ち向かうこと」

 絡んでいた指がほどかれ、思わず話に割り込んだ私の唇を押さえる。

「辛い選択肢よ。傷つくこともあるでしょう。あなたが今思い悩むのは、それを恐れているから。当然の反応なの……でも、もう決まってるんでしょう?」

「っあ……」

 

 

――答えは、もうでていた。

 

 

 桃子さんにお礼を言って、すぐさま今来た道を引き返す。

 この商店街を走り抜けるのは今日で何回目だったか。とっくに日が落ちてもう店じまいをしている所も多い中、私は月村邸へ向けてダッシュした。

「がれえ”よ”おおおおおおおお!?

 こんなの食べさせるなんてすずがは鬼なの!?!?」

「え、えぇ……これ子ども用の超激甘口カレーなんだけど……」

「すずかああああああああ!!!」

 どごおおおおおん!!!

 と、ドアを蹴破りながら優雅(?)な夕食をすごす、すずかの家へ再び。

「あ、アリサちゃん!?」

「どったの?

 ご飯でもたかりに来たの?」

「み、水……」

 威勢の割にやはり私の体は弱かった。どさっと膝から崩れ落ちる。そこへ……

「ほい」

 どろっとした感覚。喉を通る、子ども用に調整された何とも甘い……

「ごほっ!? ゲゲゴボウェ!?!?!」

(って、これカレーじゃないの!!!)

「いやだってさっきそこの箱がカレーは飲み物だって……」

「レヴィちゃん、それはテレビっていうんだよ~テレビジョン」

「ぞんなぜづめいはいいから水を……」

 

 

――閑話休題――

 

「んで、君は何しに来たんだ?」

「やりたいことがわかったの。協力して!」

「アリサちゃん??」

「ま、いうだけならたださ。話してごらん?

 できることがあれば協力しよう。君はすずかの友達だからね」

「私、あの子を殴り飛ばしたいの」

 

 

 

「「……は???」」

 私を差し置いてすずかの友達を名乗っただけはある息の合いようだった。

 たっぷり五秒は唖然とした表情でこちらを見つめた後、レヴィがプククと頬を膨らませた。

「そりゃあ無理さ! いくら弱ってるといっても魔導士に君が勝てる道理はないよ!」

「そんなのわかってる。

 だからここに来たのよ。何か方法はない?」

「アリサちゃん、本気なの!?」

 冗談でこんなバカなことをいうわけがない。

「わたしさ、感情を伝えるのへたくそなの。すずかも知ってるでしょ?」

「そ、それはまあ……たしかにすぐに手が出るほうだけど……」

「ふーん。で、肉体言語なわけ? でもはっきり言って、君がシュテるんに近づいた瞬間に灰になって終わりだよ?」

「ううん。それは違う。だって本当にあの子が無情なら……私はもうここにはいないはずだもの」

 そうだ……私はついて来たら焼くといったあの子の背中を追った。

 本当に私を殺すつもりだったのなら、いくらでもできたはずなのに。

 あの時に答えなんてもう出ていたんだ。

「……足りないかな。それじゃあ」

「な、なにが?」

 おもわずそうレヴィに聞き返す。

「戦うには理由がいるんだよ。そしてそれは戦力差があればあるほど強いものがいる。命を賭けるに足る理由が君には見えない。僕の目には、君が超常現象に出くわして舞い上がっているようにしか見えないね」

「れ、レヴィちゃん……?」

 さきほどからおろおろしているすずかに申し訳なく思いつつも、レヴィの言い分をちゃんと租借し、理解する。

 この、あの子の前にもう一度立って今度は戦いたいという思い。

 この思いの根源は、本当にそんなしょうもないものが理由なのか……?

 なぜ、私はあの子に立ち向かいと思ったのか……

「――いまのあの子は、昔の私と似ているの。いや……今日の朝の私とさえ」

 ぽつり、と。頭の中を整理しながら語る。

「独りぼっちだと思いこんでて。一つのことしか頭になくて。どうすればいいのかもよくわかってない。だから……」

 ぐっと、拳を握る。

「一発でいいの。“あなたは一人じゃない”それを伝えたいの」

 きっと、言葉ではもう伝わらない。だって、あの子の中では私はもう取るに足らない存在として認識されてしまっているだろうから。

 あのときの私だってそうだった。なのはのことを、いつも隅っこで小さくなってる女の子としか見てなかった……

 でも――なのはは私に向かって一歩踏み出したんだ。

 その手段が拳骨なのが間違ってるなんて事はわかってる。

 ちゃんと話し合って解決できれば一番いいんだって理解してる。

 そんなつたない方法しか選べないのは、私が弱いから。まだまだ子どもだから。

 そこであきらめないためには、みっともなくあがくしかないじゃない。

 ――だからこそ。私が戦う意味がある。

 やっとわかった。なんでこんなにも私があの子に惹かれるのか。

「昔ね、女の子がいたの……お父さんとお母さん、お兄ちゃんとお姉ちゃんに囲まれた平和な暮らし。でも、お父さんが仕事で大けがして、そのせいでその仲のよかった家族は少しずつバラバラになっていった」

 今でも思い出せる。幼稚園でさえ、先生に迷惑をかけないようにといい子に徹していたあの子を。

「私はあの時、手を差し伸べられなかった!

 ただ、一緒に遊ぼうって……そう一言いえばもっと、ずっと助けられたかもしれないのに!」

 じいっと見つめるレヴィを取って食ってしまうんじゃないかという勢いで、私はレヴィへ思いの丈をぶつける。

「だから、今度こそ……今度こそはっ」

 ――間違えたくない。

 あの子を助けたいなんて、高貴な理由じゃなかったんだ。だったらレヴィに任せるのが一番正しいし、それを遮る必要もない。

 ただただ、私のわがままで。あの寂しそうな表情もう一度見るのが嫌で。そしてそれに手を伸ばせる唯一のチャンスがあった。ただそれだけ。

 ぽんっ! っと私の肩に手が置かれる。

「君の思いはよくわかった――いいよ。任せよう」

「レヴィちゃん!?」

「でもまーそんな息も絶え絶えの状態じゃあ拳も握れないでしょ。ご飯食べて寝て!

 明日出撃しよう!!!」

 

 

 

 二年の温泉旅行でのとき、若いってのはいいわねえと。桃子さんが言っていたのを思い出す。足に念のため張っていた湿布と、昨日の自家製電気風呂が効いたらしい。

 ――生きて帰ってこれたらもう一度入りたいな。

 と、なんだか死亡フラグのような事を口走りそうになって必死に飲み込む。

 すずかの家で泊まるときは、いつもおっきなベッドに三人で転がり込むのだが……

 今日は勝手に逃げ出さないようにと私とすずかでレヴィを挟んで寝たのだ。

 そのはずなのに――

「な、なんでこの子頭からフリーフォールしてるのかしら……」

 昨日ベッドの中で語らった作戦とも言えない作戦。その要というか、唯一の対抗手段を持つのがこんなアホの子で大丈夫なのか。

「いやもう迷うな。アリサ!!! やるって決めたんでしょ!!!」

 ぐっと拳を握りしめ、自分に活を入れる。

「アリサちゃん?

 朝ご飯できたってー」

 ツインテールを思いっきり引っ張りたい衝動を必死にこらえながら、私は布団の裏側でなんかもぐもぐやってるアホの子を引きずり出そうとする。

 思いの外軽く、細い体だった。

「行くわよレヴィ!!」

「あと二日……」

「思い立ったが前日なんでしょ!!

 もう翌日になってるわよ!!」

「だってぇ……このお布団ふかふかでほかほかなんだもん……」

「ってぇおい!?

 この子寝ぼけて羽毛食ってるわよ!?」

「だめだよレヴィちゃん!!

 こっちのご飯の方がおいしいから!!」

 

 

 てななんだかんだがあって。

 

 

 

「気配察知の魔法を使うと、逆探知されていろいろと面倒だからね。

 シュテるんの来そうなところで待ち構えるしかないかな」

 私は、早朝の翆屋の前に陣取っていた。

 なんでもあのフェレットはリリカルでマジカルな存在であり、凄腕の魔導師らしい。広域の察知魔法を使ったら一瞬でこちらの場所がバレてしまうとか何とか。

 そんな事は、今の私にとってはどーでもいいことだ。

 だって、待っていたあの子がその姿を現したのだから。

 

 

 最初にあったときと同じ、きれいなはずなのに、どこかごろっとした濁った瞳。

 その目には――きっと私は映っていない。

「次に会ったら燃やすと言ったはずでしたが――」

「じゃあ無理ね。あんたに私は燃やせない」

 キョトン、と、小首をかしげた後。初めて私に興味を持ったかのように口を開く。

「あぁ、魔力切れで翻訳魔法も通じなくなって来ているのですかね」

 みると、ほのかに体が薄くなり、粒子のようなものがこぼれ落ち始めていた。

 戦うときに張っていた封絶も、戦闘服も作り出せないほどに弱っているのか。

 もう、時間がない。私にも、この子にも。

 ぐっと右手を握りしめて私は走り出した――

――――――

――――

――

「でも、君の覚悟がどんなものだったとしても、結局の所一撃もらえば即死なのは変わらない。僕は攻撃特化の魔導師だから、火除けの魔法がどの程度持つのかもわからない。

 確実に言えるのは。向こうさんが本気で打ち込んできたら、瞬きするまもなく燃え尽きるってとこだろうね」

「そ、そんな。アリサちゃん、やっぱりやめた方が……」

「ううん。大丈夫。あの子言ってたの――“今度会ったら必ず燃やす”って」

 一体それのそこが大丈夫なのかと不安な表情をする親友に、私は自信満々に語った。

「だって、私たちはまだ何も始まってない。まだ出会ってすらいない。これから本当のシュテルに会いに行くんだもの」

 

 ――だから。

 私は走り出す。なんの力も、特別なものなんか何もこもっていないこの小さな手を握りしめて。

 そうだ、私たちはまだ始まってすらいない。

 本当の私たちを始めるために、今。私は一歩踏み出した。

 

 

 作戦は、炎弾の初撃をレヴィの火除けの魔法でやり過ごしてつっこむ。ただそれだけ。

 バカがバカなりに考えた、みっともない攻撃方法だ。

 ただ、この作戦の成否は……

(ためらわないこと。一瞬でも怯んで二撃目をもらったら確実に防げない――)

 彼女の右手に炎が現れると共に、その輪郭がぼやけ始める。

(本当に、もう消えかけなんだ――)

 レヴィ曰く、本来なら実体化を維持できなくなった時点で。つまりここまで体の崩壊が進んだ時点で紫天の魔導書に回収されるはずらしい。しかし、いまはそのリンクが切れているから魔力の補充も構築体自身が行わなければいけないし、回収もされない。

 今ここで消えたら。あの子という存在は本当にこの世から消えてなくなってしまうのだ。

 そして……そんな大事な局面で。そんな大切な役目を、出会って1日の私にゆだねてくれたレヴィ。

 私にはもうわかる。あの子は魔法が使えるとか、そういった意味じゃなく私よりも大人だ。

 自分の思いを相手に伝える。それを自然と出来ている。あってすぐに伝わった。この子と友達になりたいって。

 決めたことにまっすぐ立ち向かい、自分の信じたことを信じ抜く強さ。

 そんな彼女にもらった少しの勇気をふるって、私は地を蹴り腕を振る。

 あと、3メートル……

「っつ――」

 爆炎と共に、私を紅蓮の炎が包み込んだ――

 

 

 後に、シュテル自身に教わることになる。

 魔法とは、思いそのものの具現化だと。

 ある白い魔導師は、思いを相手に伝えたいと願ったが故に、その杖はより遠くへ届くようにと槍のような形状に姿を変えた。

 また、ある黒い魔導師の戦斧が、まばゆき光を放つ光剣に姿を変えたのは――

 その師が、教え子の未来を思い進むべき道を切り開く閃光の刃を。と願ったからだという。

 そして、レヴィが言った。戦うには理由がいると。

 魔法という、魂と心そのものを武器に戦う以上。優劣を決めるのは魔力や経験だけじゃない。何を思って戦うなのだと――

 

「――なに!?」

 完全にしのぎきれはしなかった。

 スカートは半分燃え散り、焼け石に水程度に羽織っていた防炎コートは吹っ飛んだ。

 凄まじい異臭が私の鼻を通過していく。

 それでも、私は生きていた。

 すぐさま二つ目の炎弾を形成しようとするが――その動きは遅い。私と始めてあったときの、あの鋭い動きはもうない。

 ここまでのダッシュと、背後の爆炎に後押しされて半分宙を飛ぶようにつっこんだ私の方が早かった。

「とどけえええええええ!!!!!」

 

 殴りに行ったというよりも、顔面から思いっきりダイブした。というのが正直正しかったように思う。

 というか、横から見たら爆発に吹っ飛ばされた私をこの子が受け止めたようにしか見えなかったかもしれない。

 

 頭蓋骨と頭蓋骨で。

 

 あんだけ必死に拳骨を握りしめたのに、吹っ飛んだ衝撃でそれは宙を切り。結果ロケット頭突きのようにつっこんでしまったのである。

 互いの頭蓋骨を支点としたムーンサルトは、遠心力によって私の体を地面にたたきつけた。

 頭が固いとよく言われるが、ズゴオオンという汚い除夜の鐘のような凄まじい音を鳴らしても大丈夫だったあたり、筋金入りのようだ。

「いったああああい!!!」

「……つつ、何て無茶をする人だあなたは」

 二転三転のたうち回る私に向かって、頭をさすりながら冷ややかな視線を投げかける紅蓮の女の子。植え込みの付近まで吹っ飛んだらしく、何とかそれに背中を預けているといった有様だ。

 でも。もう立ち上がる様子はなかった。

 いや――

「あんた、その足……」

「どうやら、ここまでのようですね。もう体を構成している魔力も尽きかけている――」

 私の頭突きが効いたのか、それとも単純に時間切れか。下半身から先が消滅し始めていた。

「あなたは……なんでこんな無茶を?

 ただの一般人でしょうに。あなたが命をかけた理由が私にはわからない」

「別に、気にくわなかったのよ。ただそれだけ」

 そう、気にくわなかった。なのはとおんなじ顔で寂しそうにしてるこの子が。

 そして、寂しそうにしていたなのはを一回見捨ててしまった小さかった私が。

 だから、結局は私のわがままで――だからこそ。その責任は私が取らなくてはいけない。

「ほらこれ、カロリーメイト。あんた達ご飯食べれば魔力作れるんでしょ?」

 っと、秘密兵器を取り出そうとして……

 ポケットごと燃え尽きていることに気がついた。

「……残念ですが、今の私は機能不全です。

 食料から魔力を生成することは出来ません。直接魔力そのものを受け取るぐらいでしか延命できないでしょう」

「そ、そんな。何かないの!? レヴィを連れてきて、魔力分けてもらうとか……」

「あぁ、あの下手な火除けはレヴィのでしたか……よかった。あの子がいるなら安心だ」

 ふっと、消滅の仕方が早くなった気がした。

 直感的にわかった。この子、今死を受け入れたんだ。

 思いそのものが魔法になるのなら、魔力の塊のこの子が生きることをやめてしまえば死が加速するに決まっている。

「だめよ、あんた! なのはと戦うんでしょ!?

 まだ何もしてないじゃない!! なにか、その魔力供給って奴をする方法は……」

「レヴィと私では、雷と星……根本的に魔力が違います。二つを包み込む大いなる闇か、私と同じ星の属性の魔力でないと……」

 この子は、なのはのコピーだっていってた。でも、なのはをここに連れてくる間にこの子はきっと消えてしまうだろう。

 なにか――なにかないのか。

(なにも、ない? いや)

 ある。たった一つ、掛けられるものが。

「だったら……私を使いなさい!!」

「……正気ですか? あなたは魔力を持たない。そんな人間から無理矢理魔力を吸い上げるのは、生命力そのものを奪い取ることに等しい。最悪死にますよ?」

 

 そんな理屈知るか。

 

「昔ね。教わったの。困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるなら……。そのときは迷っちゃいけないって――そしてこれは私の始めたわがままだ。その責任は私が取る」

 じいっと、レヴィが私を見つめたときと同じようにサファイアの瞳が私を射貫く。

「――あなた、名前は?」

「アリサ・バニングス。高町なのはの親友よ」

 ふっ、と。初めて、シュテルが笑ったのを見た気がした。

「……アリサ、目を閉じて」

 きっと痛いんだろうなあ。いや、生命力ってそもそもどう吸うんだろう。と、言われるがままに目を閉じて。

 痛いのはやだなあ、と迫り来る衝撃に身を固めて耐えようとした。

 

――ちゅっ。

 

 思わず、目を見開く。

 視界いっぱいに、シュテルの顔があった。この子はこんな近くで何をやっているのだろー。と、ぼうっとした頭の中に疑問が浮かぶ。

「アリサちゃんが!! アリサちゃんが!!!!」

「今妨害したらシュテるん死んじゃうから!!! 魔力回復には蓄えがある人との体液の交換が一番手っ取り早いんだって!!!」

 なんだか茂みの方が騒がしい。

 全身に微弱な電流が流れるような感覚。昨日入ったレヴィ風呂よりもなんだか心地よい、体の芯がほどけていくような感覚。

 思考力が低下し始めたのか、こわばっていた体が緩み、さらにその舌が奥の方に入ってきて――

 そのあたりで私は意識を失った。

 

 

 

――――――

――――

――

 

「アリサちゃん!! アリサちゃんってば!!!」

「……ん、すずか?」

 ふらつく視界に、おぼろげに目に涙を浮かべた親友の姿が映る。

 柔らかくて暖かいこの感覚は、膝枕をされているのだろうか?

「ここは、私の顔面爆破事件の公園かしら……」

「いやあ、アリサ。顔面爆破されてたらもっとどえらいことになってるから」

 この声は……レヴィか。

 私の胸元に顔を沈めて泣きじゃくるすずかの頭をなでてあげようと腕を動かそうとするが……凄まじく重い。

「生命力を相当もらいましたからね……後数分は指一本動かないと思いますよ? 

 ごちそうさまでした、アリサ」

 そういうシュテルのいる方に何とか首を振り向けると、彼女の魔法の証である紅蓮の火の粉が舞い散る封絶が展開されているのがわかる。

 確かに、こんな時間に小学生が公園で倒れていたら問題になるだろう。

「おいしかったですよ? あなたとは相性がいいらしい」

 何がおいしかったのか、思考力そのものが落ちていたために未だに思い出せないのだが……とりあえずすずか。なぜさらに強く私の服を握りしめる。

「僕がシュテるんにやろうとしたのは、他人の魔力を打ち込んで、いったん魔力の流れを乱している隙に正常化するって方法だったんだけど……結果的にアリサのやり方でも大丈夫だったみたいだね」

「お手数を掛けました。アリサ、すずか。あなたたちには大きな借りが出来てしまいましたね」

 飄々と言いのけて見せたシュテルの顔は明るい。このどこかつかみ所のない感じは、同じ構築体といってもレヴィとは違う存在なのだろうと思わせる。

「じゃあ、一つ私と約束しなさい。なのはのことについて」

「今の彼女を取り巻く環境は複雑を極めていますが――

 いいでしょう。何が望みですか?」

 ぼうっとした頭で、思いついたこと。それは……

「あんた、なのはと戦いたいって言ってたじゃない。

 それをちょっとまってほしい。ただそれだけ」

「ちょっと、とは?」

 ふっとすずかが顔を上げたので、ようやくシュテルの顔を眼前に見据えて――

 最高の笑顔で、こう言ってやった。

 

 

 

「――なのはが、あんたよりも強くなるまで」

 

答えは、一つの苦笑だった。

 

 

 

 

 

~~おまけ~~

 

 

 

 そのすぐあと、シュテルとレヴィの王様が自分自身を使ってシステムU-Dを一時的に封印して……残された二人は、戦力を整えるために世界中に散らばったプレシアという人のデッキのカードを探す旅に出た。

 

 もちろん、ちゃんと私たちの家に帰って来る約束で。

 

 そんな大喧嘩から数日後。

「アリサ、これを」

「?? なにこれ? 指輪?」

 すっと私の左手を取って、その薬指に複雑な意匠と、見たこともない文字がびっしり書き込まれた指輪をはめる。

「これは、火除けの指輪――名をアズュール。蓄積魔力の限界値までならば、私の炎でさえもしのぎきります」

 ほへぇ。と、驚く私の右手に化粧箱を握らせて、それでは。といいつつ部屋を出て行くシュテル。

 

――いつかまた喧嘩をしましょう。頭突きは無しで。

 

 去り際の台詞に苦笑しながらも、彼女の趣味がこもっているのであろうその指輪を、蛍光灯の光にかざしながらまじまじと観察する。

 

 うん。悪くない。彼女らしい品格の中にも、派手派手しい感じのしない質素な作り。しかも機能性も十分ときてる。

(でもこれいつかまた全力で殴り合いましょうって意味よね・・・・・・)

 おもわず私が口角をヒクつかせていると……

 

「あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁりさちゃん!?

 指輪!? え? 薬指!?!? 左手!?!?!?」

 入れ替わりで入ってきたすずかと、化粧箱の中に入っていた首から掛ける用のチェーンを見て。奴に次会ったら早速喧嘩しようと魂に誓った。

 

 

 

――――――

――――

――

「ねーシュテるん?

 体が正常稼働して魔力切れの心配なくなったのに、なんで髪の毛短くしたままなの?

 元に戻せばいいじゃん!!」

「――べつに。気まぐれですよ。

 大切な友達に出会った。その記念です」

「ふーん。そっかあ……今日の晩ご飯何かなぁ」

「……空腹に勝る調味料はないと言います。せいぜいがんばっておなかをすかして帰りましょう」

「うん!!!」

 

 

 短くなった髪の毛を少しいじりながら……

 星光の殲滅者と雷刃の襲撃者は世界を巡る――

 いつか、あの暖かな輪の中に三人がそろうことを夢見て…… 

 

 

 

 

~~リリカルモンスターズ外伝・紅蓮の炎~~

おわり

 




基本的に番外編や思いついた小ネタがあるけど動画にしづらいときに小説という形で話を書かせていただきたいと思います。
また、同じ内容をピクシブやニコニコのブロマガに載せています。
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