ストライク・ザ・ブラッド~赤き弓兵の戦記~   作:シュトレンベルク

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弓兵と情報提供

「さて、まずは自己紹介を。第四真祖、暁古城殿。私はディミトリエ・ヴァトラー。アルデアル領を治めております。以後、お見知りおきを」

 

 あの後。俺たちはヴァトラーの案内で中に入った。ウェイターが盆にワインを乗せて近づいてきた。それを断り、ヴァトラーの方に注意を向けた。ヴァトラーはワインを受け取り、暁先輩に話しかけた。しかし、あのウェイターどこかで見た事があるような……?

 

「あ、ああ……それで、なんで態々俺を呼んだんだ?」

 

 暁先輩はこちらにチラチラと視線を向けつつも、ヴァトラーに尋ねた。あのリアクションはさっきの俺の言葉を聞いたせいなのか?まぁ、どっちでもいいけど。ただ、正直ちょっと鬱陶しい。

 

「その話をする前に、1つ聞いておきたいんだ。古城、君は黒死皇派という組織を知っているかな?」

 

 なんか急に呼び方が馴れ馴れしくなってるな。そっちの気でもあるのか?俺に下手な事をしかけたら即死コースまっしぐらだけど。どっちかと言うと真っ先に殺したくなる感じだからな、こいつ。

 

「そりゃあ、名前ぐらいは。たしか、獣人のテロリスト集団だろ?でも、その組織は壊滅したって聞いた気がする」

 

「……そこの蛇使いが首領であった男を殺したからな。頭を失った集団は脆く崩れ去ったという事だ」

 

「アーチャーが言ったとおり、僕は黒死皇派の首領を殺した。変わった能力を持った獣人の爺さんだったよ」

 

「……それで、その組織がなんだって言うんだよ。もう崩壊したんなら、気にする必要はないんだろ?」

 

「ここからが本題だよ。黒死皇派の残党たちが新たな首領を据えて活動を再開し始めたんだ。新たな首領の名前はクリストフ・ガルドシュ」

 

 その名前を聞いた瞬間、俺は舌打ちをした。ヴァトラーの声以外何もなかった空間に響いたそれに、全員の視線が俺に集中した。しかし、本当に忌々しい名前を聞いたな。

 

「……クリストフ・ガルドシュは黒死皇派の獣人であり、戦王領域の元軍人。そんな肩書きを持つようなテロリストがまともな事をする訳がない。間違いなく、この島を無茶苦茶にするような何かを持っているはずだ」

 

 それこそ、絃神島に多大なる被害を及ぼすようなそれをクリストフ・ガルドシュは保有している。そして、だからこそ、ヴァトラーはこんな辺鄙な島まで足を運んだのだ。

 

「貴様……ここで戦火をばら撒くつもりなのか?」

 

「そんな怖い顔をしないでくれよ、アーチャー。いくら、ガルドシュが君が逃した数少ない幹部とはいえ、ね」

 

「……それはどういう意味ですか?アルデアル公」

 

「うん?君は誰かな?」

 

「申し遅れました。私は姫柊雪菜と申します先輩────第四真祖の監視を命じられた獅子王機関の剣巫です」

 

「ああ、紗矢香嬢のご同輩か。先ほどの言葉ならそのままの意味だよ。彼は、アーチャーは首領をなくしたことで既に半壊状態だった黒死皇派の幹部のほとんどを皆殺しにしたんだ。彼の名が最初に知れ渡ったのはそれだからね」

 

 確かに、俺は既に半壊状態だった黒死皇派の幹部どもを殺した。少なくとも、その場にいた連中に関しては皆殺しにした。それは事実だ。今更否定するような事は何もない。だが、だからと言って本当に話す奴がいるか?

 

「……それは本当なんですか?アーチャーさん」

 

「……君に言う必要があるのか?それは俺の事情であって、君には関係がないだろう」

 

 そう、関係ない。姫柊さんは俺の事情とは何の関わりもない。英雄という称号は基本的に普通ではない偉業を達成した者に送られる称号だ。俺は自分が英雄であると思った事は1度もないが、そう呼ばれるという事はそういう事だろう。

 

 自分は決して普通ではない。それを念頭に置いて生きている。だからこそ、語る必要のない者に一々俺の事情を語るつもりはない。巻き込みたくないとかそういう事ではなく、ただ純粋に語る意味を見いだせないから。

 

「それは……」

 

「そんな事より、だ。蛇使い、何故ガルドシュがこの島に?」

 

「真祖を殺す神代の巨大兵器。君も知っているんじゃないかい?アーチャー」

 

「ナラクヴェーラか……あれはガルドシュの仕込みだったわけか。それで、貴様はナラクヴェーラと戦うためにここまで来た訳か」

 

「ご明察だ。そこで本題に来る訳だよ、古城。ガルドシュはナラクヴェーラを手に入れれば、間違いなく僕を殺しに来るだろうね。なにせ、首領を殺したのは僕なんだから。でも、僕の眷獣は僕が危険になったら何をしでかすか分からない」

 

 当然だ。眷獣にとって、宿主は必要不可欠な存在だ。だからこそ、宿主が危険な状態に陥れば眷獣は全力で抗うだろう。それこそ────この島に被害を出してでも、宿主を守る。それが眷獣という存在であるが故に。

 

「この島を沈めるって言うのか!?」

 

「可能性だよ、可能性。そうなるかもしれないから、そうなったらごめんね。という話だよ。ここは君の領土という事になってるからね。断っておこうと思って」

 

 とことんふざけた男だ。噂でしか聞いた事がなかったが、あんまり関わり合いたくない相手だ。最も真祖に近いとされる同族喰らいの吸血鬼、ディミトリエ・ヴァトラー。道楽のつもりか知らないが、危険にすぎる。穏便に帰らせるのが一番だろう。だと言うのに────彼女は真っ当すぎる。

 

「いいえ、その必要はありません。アルデアル公」

 

「ほぅ……それはどういう意味かな?まさか君がガルドシュを捕まえるとでも言うつもりかい?」

 

「まさに今あなたが仰ったとおりです。クリストフ・ガルドシュは私が捕らえます」

 

「「なっ!?」」

 

「……あまり勝手な事をされては困るな、剣巫」

 

「アーチャーさん……」

 

 そうだ、勝手な事をされては困る。この1件で姫柊さんが関わる必要性は零に近い。ガルドシュを逃したのは俺だし、黒死皇派がこの島で暴れると言うならそれを壊滅させるのは特区警備隊(アイランド・ガード)がやるべきだ。彼女が事件に関わりを持つ必要はない。

 

「今回は、と言うより前回の件もお前たちは関わりを持つべきではなかった。ただひっそりと生きていれば良かったんだ。だからこそ、今回は黙っていろ」

 

「しかし、これは先輩の問題。ひいては監視役である私の問題でもあります」

 

「何を言っている。第四真祖などという存在は公式に認められてはいない。そこの男にしても、今は未登録魔族という身分だ。そんな連中が何故こんな事件に首を突っ込む必要がある?」

 

「で、でも、俺だって何かした方が良いんじゃないのか?姫柊はまだしも、俺は当事者なんだから……」

 

「貴様のような力の制御もままならんような奴は邪魔でしかない。悪い事は言わんから黙っていろ」

 

 そんな身も蓋もない言葉で暁先輩を黙らせ、ヴァトラーの方に視線を向けた。ヴァトラーはその視線を受け止めながら、ニヤニヤと笑っていた。

 

「この件は俺が、この島の者たちで対処する。別に構わんだろう?当然の事なんだからな」

 

「ああ、別に構わないよ。僕としてはどちらでも構わないからね」

 

「……そうか。ならば、これで俺は失礼する」

 

 そうして俺はその場を立ち去った。背中に視線を受け止めながら、決して振り返ることはなく。

 

雪菜side

 

 アーチャーさんは黙ったままこの場を去っていった。世界にその名を知らしめる伝説の傭兵。その名を知らない者は殆どいないだろう。どの勢力も一目置く存在。

 

「腐っても三騎士の一人という訳か。彼ともいつか戦ってみたいものだね」

 

「三騎士?なんだ、それ」

 

「彼のように国家にも組織にも帰属せず、たった一人で難業を突破した者だよ。ランサー。セイバー。そして彼、アーチャーだ」

 

「槍と剣と弓を使うって事か?でも、そんなのすぐにバレて対策されちまうと思うけど……」

 

「普通はそうだね。だが、彼らはその総てに打ち勝ってきた。どんな小細工だろうと蹴散らし、自分の力を世界に示し続けてきたんだ。彼らはそれだけの功績を示し続けてきたんだ」

 

「アルデアル公は他の三騎士の方々と面識が?」

 

「ランサーとはあるよ。いや、彼もまた素晴らしい戦士だった。残念ながら戦う事は叶わなかったけどね。三騎士の共通点ではあるけど、己の目的に必要な事以外は興味ないみたいだからね」

 

 初めて聞いた。世界にその名を轟かせる三騎士の噂はチラッと聞いた事はあります。でも、そんな人物だとは思っても見なかった。アーチャーさんの存在が一番有名ですけど、それでも多くの魔道犯罪者を捕らえてきた実力者である事は確かです。

 

 師家様曰く、三騎士が組めば斃せない敵はほとんどいない、という事だそうです。それなら何故一緒に行動しないのか不思議に思っていましたが……そういう理由があったんですね。

 

「いやぁ、(ランサー)は素晴らしかったよ。なにせ、戯れに出した僕の眷獣を気付く間もなく斃したんだからね」

 

「アルデアル公の眷獣を、ですか……!?」

 

 吸血鬼が絶対を誇る理由とも言える眷獣。しかもアルデアル公は旧き世代に分類される吸血鬼。そんな相手の眷獣を意図も容易く撃破するなんて、少なくとも私には出来ない。師家様ならかろうじてできるかもしれないけど、そんなのは比べる対象に値しない。

 

「本当さ。こと中距離の戦いで彼に勝てる人物がいるとは思えないな。まぁ、彼が遊んでいたら話は別かもしれないけどね」

 

「……どういう意味だよ?」

 

「ランサーは戦士だ。より強い相手と全力でぶつかり合う事を望んでいる。僕とは違った意味で彼も戦闘を好んでいる、という事だよ」

 

 昔の英雄にはそういう風潮もあったのかもしれませんね。より強い者と戦い、武を競い合う。それを誉れとした時代がきっとあったんだと思います。けど、そんな風潮はもうこの世にはないのではないでしょうか?

 

「そういう意味ではアーチャーは真逆だね。効率、というか結果こそを重視している。そこには一切の遊びがない。己の目的をこそ絶対視している三騎士の中では、彼が特にその傾向が顕著なのかもしれないね」

 

「どういう意味ですか?」

 

「分からないかい?古城――――第四真祖の眷獣はとても魅力的だ。相手がどれほどの実力を持っているか分からない現状において、最大戦力とも言える古城の力を借りないのは良い手とは言えないだろうね。獅子王機関の剣巫にしてもそうだ。では、何故彼が協力を拒んだか。

それはメリットよりもデメリットの方が多いと判断したからだろうね。古城は言わずもがなではあるけれど、剣巫の方は動かせば古城が一緒に動く可能性が高い。それが分かっている以上、君たちを動かすのは得策ではない――――と考えたのかもしれない」

 

「他にも何かあるのかよ?」

 

「分からないかい、古城。そんなの力が無ければ、何の意味もない。そんな事を考えられるって事は、彼にはあるんだよ。――――自分の力に対する絶対の自信がね」

 

 力に自信がなければ、そんな計算はまったくの無意味。そんな計算が出来る事こそが自信の表れなのだと、アルデアル公は語る。だけど、本当にそうなんでしょうか?

 

 先輩が斃されたあの時、アーチャーさんは泣いていた私を抱きしめてくれた。本当にアルデアル公のような情のない人なら、そんな非効率的な事はしない筈です。そんな事をするぐらいならルードルフ・オイスタッハをすぐに追った方がずっと効率的だった。

 

 私の希望でしかないのかもしれない。けれど、アーチャーさんは優しい人だと思う。誰かを想う事の出来る、情のある人間だと私は思う。そうでなければ、あんな風に私や先輩を止めたりしない。ただ、その優しさが遠回りで分かりにくいだけ。

 

 いつか、アーチャーさんの優しさに甘えることなく、隣に立てるような日が来れば良いな、と思います。

 




お久しぶりです。テストやら正月ボケやらなんやらで更新が大幅に遅れました。まことに申し訳ございませぬ……

これからはなるべく早めに更新していきたいと思うので、よろしくお願いします。
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