ストライク・ザ・ブラッド~赤き弓兵の戦記~ 作:シュトレンベルク
「…………」
アルデアル公から黒死皇派の情報を聞いた翌日、私はいつもと同じように学校に来ていた。いつもと変わらないようで、確かに普段とは違っていた。視線を横の席に向けると、普段いる筈の衛宮君の姿がなかった。
彼は普段から来るのが少し遅い。なんでも妹さんを送り迎えしているそうなので、その辺りも関係しているんだと思います。でも、もうすぐ予鈴が鳴るというのに現れる気配すらありません。ひょっとして風邪なんでしょうか?
「おはよう、姫柊さん」
「あ、おはようございます。……鳴神君、衛宮君はお休みなんですか?」
「なんで俺に訊くの?とか言いたいんだけど……まぁ、良いか。士郎はちょっと環境が特別でさ。絃神島の中でもちょっとだけ特別なんだよね。だから、偶にこうして休む事があるけど、基本的には大丈夫だよ。休むのだって一日だけ。早ければ午後には登校してくるんじゃないかな?」
「そうなんですか?」
「うん。別に風邪とかそういうんじゃないよ。その辺の事情は笹崎先生に訊いてみたら良いんじゃないかな。俺よりは詳しいと思うし」
「そうですよね……」
「姫柊さんも心配性だなぁ……士郎はそんじょそこらの暴漢にやられるような人間じゃないよ。優しそうな外見してるけど、相当体を鍛えてるからね。というか、士郎は育ちがちょっとアレだから」
「アレ……ですか?」
「士郎の親父さんって、世界中を旅していたんだ。士郎はそれについて行ってたんだけど、必然的に危険な地域も行った事があるんだってさ。そうしたら治安の悪い所も必然的にある訳で。そういう相手への対処の仕方も知ってるから心配いらないよ」
「それって、衛宮君が危ない事をしているって意味ですか?」
「違うって。単純にそんな事態になったとしても、心配はいらないって事。そんな風になるような事態はないけど、なったとしても心配する必要ないんだよ。笹崎先生から護身術の類も習ってるしね」
「そうなんですか?」
「笹崎先生って今でこそ教師なんてやってるけど、元々は攻魔官だったらしいよ?まぁ、詳しい事は俺も知らないけどね」
そんな事を話していると、丁度予鈴が鳴った。笹崎先生も鳴り始めるのとほぼ同じタイミングで現れた。それと同時に鳴神君は席に戻った。
「おはよう、皆。今日も元気そうで何より。今日の連絡事項は特にないんだけど、放課後に練習する生徒は最終下校時間を過ぎても残ってる、なんて事がないように気を付けなさい?警備員さんに怒られても知らないからね?」
笹崎先生はそう言うと出欠を取り、それが終わるとすぐさま教室を出て行った。私はすぐさまその後ろを追いかけて教室を出た。
「あの先生、衛宮君は?」
「うん?ああ、衛宮は今日は休み。衛宮も割と忙しいからな。まぁ、心配しなくても大丈夫だって。今日は来れなくても明日にはちゃんと来るだろうし」
「そうですか……」
「それにしても、姫柊ちゃんも衛宮の事となると途端に心配性になるわね~。そんなに気になるの?」
「え、いえ、そういう訳じゃないんです。ただ……」
「ただ?」
「衛宮君ってどこか……危うい気がするんです。何か、生き急いでいるような、そんな気がするんです」
そう、この表現が一番合っているような気がする。何か焦っているような、そんな必要がないのにどこまでも急いでいるような気がする。普段の彼は落ち着いてそんな気配は欠片も感じさせないけれど、それでもどことなくそんな雰囲気を感じさせる。
「……そっか。それじゃあ、衛宮の事をもっとよく知ればいいよ。姫柊ちゃんもそうすれば知る事ができる。姫柊ちゃんが感じている気持ちを、知る事ができると思うわ」
そう言うと、笹崎先生は頭をポンポンと叩いて歩いて行った。笹崎先生が言おうとした意図をこの時の私はまだ分かってはいないのだった。
姫柊side out
士郎side
「……なんだ?」
今、確かに魔力反応を感じた。しかも学校の方角から。学校にこれだけの規模の魔力を放てるような存在はいない――――たった一人の例外を除いて。
「第四真祖か……まったく面倒な事をしてくれる。何の目的で暴走などしているんだ。眷獣をまともに制御する事も出来ないくせに」
作戦場所に向かって進めていた足をすぐさま学校の方に変える。何があったのかは知らないが、混乱が起こっているに違いない。アイランド・ガードではないが、それでも攻魔官資格持ちだ。何もしない訳にはいかない。
まぁ、あっちには既に南宮先生がいるだろうし、何の問題もないだろう。俺は心配するだけ無駄だろう。それよりも首輪の付けられない猛獣の方がはるかに心配だ。猛獣自身よりも猛獣が齎す被害の方が。
「面倒な事態しか招かないな、あの男は……」
まぁ、そうでもなければ真祖に名前を連ねてなどいないだろう。真祖というのは一般的に災害の代名詞でもあるのだから。そんな輩とはあまり付き合いを作りたくはないが……仕方がない。
「
ギリシャの伝令神ヘルメスが用いたとされる靴。本来は黄金のサンダルだが、一々そんな物を履いている暇はない。それならば靴その物を改造する。
空を飛ぶなんて機会はほとんどないが、楽しんでいる余裕はない。翼の形をしてはいるが、別にこの靴は本当に翼で飛んでいると言う訳ではない。翼が飛ぶという概念を象徴しているだけだ。だからこそ、鳥のように飛ぶわけではない。
飛行機じみた速度で飛翔し、数分とかからずに学校に到着する。その頃には魔力の異常はなくなっていたが、その代わり齎した被害があからさまになっていた。学校中の窓ガラスが割れていた。その有様はまさに台風でも現れたかのような惨状だった。
警備員を
「不法侵入とはいただけないな。一体どこへ行くつもりなんだ――――クリストフ・ガルドシュ?」
「……まさかこんなに早く嗅ぎつけられるとは夢にも思わなかったよ。獣人ばりの嗅覚でも持っているのか?アーチャー」
俺の目の前にいるのは初老の老人とまだ若い青年が二人。その全員が獣人であり、黒死皇派のメンバーだ。三人を前に、俺は剣を握る。
「そんな物は持ってないな。なにせ、俺はこう見えてただの一般人だからな。お前のような特殊な存在ではないんだよ」
「笑えない冗談だ、アーチャー。貴様が特別でないのなら、ほとんどの人間は特別ではなくなってしまうな。それより、こちらの質問に答えてくれないかね?」
「なに、簡単な話だ。これが何なのか、あんたには分かるだろう。クリストフ・ガルドシュ」
「それは……」
俺が持っていたのは一枚の写真。仕事に向かう前に大河から受け取った物だ。大河が読み解いた結果、これは何かの暗号だった。調べて貰ったら、これはナラクヴェーラが発見された時に同時に発見された石板の一枚だった。
「俺には何なのか分からないが、ろくでもない事は分かる。だが、見境なしに送り付けた始末が、これだ。黙ってお縄に着くか、それともここで俺に狩られるか――――選べよ、獣人。それとも、その程度も選べない程知能が低いのか?」
「貴様っ!」
「待て、お前たち!」
我慢ができなくなったのか、若い獣人二人が俺に突っ込んできた。しかし、俺はこいつらには全く関心もないし、用事もない。だからこそ、手っ取り早く済まさせてもらう。
「せめて誇り高き王の宝具で散れ。――――
地面から現れた二本の杭が過たず青年たちの心臓を穿つ。指先を震わせながらそれでも俺に近付こうとしたが、届く事はなくその命を落とした。俺は二本の短剣を創りだし、死体が倒れる前に突き刺す。すると、死体は瞬く間に燃え始め、完全に倒れる前に骨も残らずに燃え尽きた。
「……まったく、恐ろしい力だ。その力で私の盟友を次々と葬ったというのだから、すさまじい物だ」
「お前らみたいな存在は邪魔でしかない。だから、疾く消えろ。世界平和になど興味はないが、お前がいなければ多少なりとも平和にはなるだろうしな」
「闘争の化身がよく言うものだ。お前ほど戦いと血に塗れた者もそうはいまい。そんな貴様が平和を謳うなど、肉食獣が弱肉強食を否定するような物だろう」
「俺だって興味はない。だが、俺にとってお前らみたいなのは鬱陶しいだけだ。余計な事しかしないからな。そうでもなければ、お前になんて誰が関わろうとするものか」
そうだ。俺にとって戦いなんて言うのは日常だ。ガルドシュの言い分は少し言いすぎだが、それでもそう大した違いはない。戦いによってその名を上げた俺が戦いを否定するなど、笑い話にすらならないだろう。
しかし、俺は平和が嫌いな訳ではない。切嗣は多くの人々を平和にしたいと思ったから、正義の味方になろうと思った。俺はその道を否定したが、それは平和を否定した訳では決してないのだ。
単純に優先順位の問題だ。俺は多数ではなく、俺の知っている少数の人々が平和に暮らせればいい。切嗣は自分が知らなくても多くの人々が平和に暮らせればいいと思った。違いなんて言うのはただそれだけのものでしかない。
「お前みたいな戦争ジャンキーと一緒にするな。俺は戦争や戦闘が好きな訳ではない。ただ、手段が戦闘だっただけに過ぎない。お前みたいに手段と目的をはき違えている輩と一緒くたにはされたくないな」
「言ってくれるな、アーチャー。私は手段と目的をはき違えてなどいない。ただ、その二つが重なる時があるだけだ」
「一緒だろう、それは。まぁ、こちらも長々と問答を続ける気はない。貴様はここで落ちろ、ガルドシュ」
剣を握って挑みかかる。首を狩りに行くその軌道を読み取り、ガルドシュは斬撃を躱していく。異能によって次々と武器を生み出し、ガルドシュに向かって放つ。流石にその連撃を交えた攻撃を躱しきることは出来なかった。次々と全身がボロボロになっていった。
「これで、終わ――――ッ!?」
その瞬間、命の危機を感じた俺は手に持っていた武器を悪寒がした方向に投げ、爆発させた。その煙幕から逃れるようにガルドシュから距離を取った。煙幕が晴れると、ガルドシュの姿は消えていた。そして悪寒がした方に視線を向けると――――
「何故邪魔をした?ヴァトラー」
ディミトリエ・ヴァトラーの姿があった。泰然自若とした態度、そしてニヤニヤと笑うその顔から狙ってやった事が窺える。仕事の邪魔をしたのはまだ良い。だが、それによって手間を増やされたのは我慢しがたい。事と次第によっては戦う事になっても構わない。
「邪魔をした訳じゃないさ。君の協力をしようとしたら、偶然そちらに飛んでいっただけだよ」
「ぬけぬけと……次に邪魔をしたらどうなるか、分かっているな?」
「ハハハッ、怖い怖い。分かったよ。次は自粛するとしよう」
そのまま十秒ほど睨みあっていると、バタバタと走って来る音が聞こえた。そちらに視線を向けると、姫柊さんと何故か腹部当たりの服が斬られている暁先輩とヴァトラーの監視役の舞威姫がいた。
「アーチャーさん!一体何が……?」
「……先程、クリストフ・ガルドシュと接敵した。あと一歩で仕留められそうなところで、そこの蛇遣いに邪魔された。それだけの事だ。しかし、第四真祖。こんな人が密集している場所で眷獣を使うとは……どういうつもりだ?」
「使いたくて使ったんじゃねぇよ!ただ、こいつに襲われて暴走しちまったんだよ」
「それは、あんたが雪菜以外の女に色目を使うから!」
「使ってねぇっての!」
子供か、こいつらは。相手をしているのが面倒くさく感じてくる。先ほどまでヴァトラーに対して苛ついていた感情が一気に消え失せていた。
「……もう良い。自分の職務ぐらい、全うしてから余計な事をしろ。職務も全うできないような奴が、余計な事をするんじゃない。今回は
「「ごめんなさい……」」
「分かったら良い。俺はもう行くが、余計な事をするなよ。それではな」
「待ってくれ。ナラクヴェーラの事について話があるんだ」
「……なんだ?こっちは急いでいるんだ。話があるなら手早く済ませてくれ」
「実は……」
教えられた情報にまたもや頭を悩ます事になった俺がいるのだった。