ストライク・ザ・ブラッド~赤き弓兵の戦記~   作:シュトレンベルク

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聖者の右腕編
弓兵と剣巫


 空港に着いた俺はさっさと搭乗手続きを済ませた。そして退屈な時間を空港に置いてあるお土産を何個か買ったり、手荷物に入っていた本を読みながら潰した。

 

 生前、というよりはこの身体に入る前の事はほとんど覚えていない。しかし、勉強に関してはほとんど大丈夫だったので、夏休みに苦しんだりはしていない。

 

 最初の内に済ませ、その後はいろんな仕事で引っ剥りだこになっている。アーチャーとして有名な自分は仕事用の電話を夏休みなどの長期休暇に限り、開けている。それ以外は大体、留守電で放置している。

 

 言い忘れていたが、俺は現在中学三年。普通だったら高校受験とかで焦る時期なのだろうが、俺が通っている学校は中高一貫校なのでその必要がない。少なくともそれなりの成績を取っている俺にはそれほど問題ではない。

 

「しかし、今回の仕事も面倒くさいのが多かったな。警護は良いけど相手の数が分からないとかアホか。しかも、逃げるのはいいけど荷物は捨てていけ、っての」

 

 二週間ほど警護の仕事が入ったのだが、その依頼主というのが強欲に過ぎた。狙われた理由というのも、依頼主が金を稼ぐ過程で潰した連中の復讐だった。依頼だったので撃退したが、面倒くさかった。

 

 ちなみに、その依頼主は数日後に粉飾決算などの汚職がバレて捕まっていた。ニュースでは匿名による通報があったと言う話だったが……はてさて、一体誰がやったのやら。

 

 まぁ、そんな事はどうでも良い。俺にとってもあんまり思い出したくない相手だったし。さっさと絃神島に戻ってゆっくりしたい。我ながらどうかと思うが、それが俺の本音だった。

 

 搭乗時間になり、荷物を持って移動した。そして予約していた席に座り、外を眺めていた。他の席もちらほらと埋まり始め、そろそろ出るかと思ったところで席の前の通路に人が現れた。

 

「あれ?」

 

「はい?」

 

 そこには縁堂縁に雪菜と呼ばれていた少女がいた。しかも、俺が通っている学校――――彩海学園の制服を着て。改めて見てみると、やっぱり可愛いなと思いながら。

 

「あの……どうかしましたか?」

 

「あ……いや、失敬。こんな場所で学校の制服を見る事になるとは思ってなかったので、ちょっと驚いただけです。この席ですか?」

 

「あ、はい。それじゃあ、失礼します」

 

「俺にそんな事を言う必要はありませんよ」

 

 俺の隣に彼女が座った。なんというか、座る姿にも品があるな。うちの学校じゃ到底見れないな、こんな姿。そう思うと、本当に希少な物なんだなと思った。

 

 一見、どこか冷たいような気配もあるが、たぶん緊張しているだけなんだろうな。彼女は俺の視線を感じたのか、俺に話しかけてきた。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「うん?ああ、ごめんごめん。いや、君みたいな美少女に会える機会なんてそうそうないからね。ついつい見つめちゃったよ」

 

「えっ!?あ、その……」

 

 う~ん、恥じらう姿も可愛いな。何しても可愛いとか、もう完璧だな。そう思っていた時、ちょうどフライト時刻になったのか、シートベルトを締めるように放送が流れた。

 

 俺がシートベルトを締めた時、ふと彼女の方に視線を向けた。すると、シートベルトを握ったまま固まっていた。俺でなくても、どうしたのかと思うレベルだった。

 

「えっと……とりあえずシートベルト締めたら?」

 

「え、あ、は、はいっ!」

 

 たどたどしくシートベルトを締める姿に、思わず微笑が浮かんだ。笑い声が聞こえたのか、彼女は頬を赤く染めて恥じらっていた。そんな姿もまた可愛かった。

 

「クククッ……そんなに恥ずかしがらなくても良いですよ。確かに絃神島に行くには海路より空路の方が早いですもんね。この時期に学校に間に合おうと思ったら、飛行機に乗るしかないし」

 

「ち、違うんです!別に飛行機が苦手とかじゃないんです。でも、その、ちょっと高い所が……」

 

「ああ、なるほど。だったら窓の外を見えない方が良いか」

 

 カーテンを完全に下ろし、窓の外が見えないようにした。するとあからさまにホッとしたように、安堵の表情を浮かべていた。どれだけ高所恐怖症が酷いんだろうか?

 

「そんなに怖いなら、寝ていた方が良いんじゃないかな?向こうに着いたら放送が流れるし」

 

「い、いえ、眼を閉じるともっと酷くなりそうなので……」

 

「そっか……」

 

 そうなると、出来る事なんか殆んどないぞ。普通だったら音楽を聴くとか、色々とありそうだけど目の前の彼女がそんな類の物を持っているとは到底思えない。

 

「あの……できれば絃神島の事を教えてもらえませんか?知ってる範囲で良いので」

 

「ん?それはまぁ、良いけど……ちなみに、どれぐらい知ってるの?」

 

「『魔族特区』と呼ばれる場所で、人工島である事……ぐらいでしょうか」

 

「まぁ、割とその辺は基本的な部分だな。絃神島はその呼び名の通り、魔族と人間が共存している。人間と魔族の違いを挙げろって言われたら、手首に魔族登録証を付けてる事かな?」

 

 それ以外に具体的な違いはないと言っても良い。正直、外見からはその違いは判らない。少なくとも、島で暮らしている連中は気にしていない。なにせ、それが当たり前なのだから。

 

「もちろん、吸血鬼が眷獣を使ったりしたら特区警備隊(アイランド・ガード)が動くから。別に放置されたりはしないよ。まぁ、使う吸血鬼なんてめったにいないけれどね」

 

「そうなんですか?」

 

「そんな事しなくても、普通に生きていけるし。だから君も、変に挑発しないようにね。知っているかもしれないけど、眷獣っていうのは吸血鬼を最強足らしめている最大の理由なんだから」

 

 眷獣(けんじゅう)――――それは宿主の寿命を喰らい尽くす事で実体化する、異界からの召喚獣。意思を持った魔力の塊であり、強大な戦闘力を持つ。しかしその反面、持っている特性によって基本的には不老不死である吸血鬼にしか扱えない。

 

 まぁ、不老不死って言っても、それは真祖だけだけど。他の吸血鬼は殺そうと思えば、殺す事自体は不可能じゃない。不可能じゃないだけで、長老クラスを殺せる可能性は低いだろうけど。

 

「はい、分かりました」

 

「今の説明で分かるかもしれないけど、魔族たちも人間と大差ないんだ。だから、良い奴もいれば悪い奴もいるって事は分かって欲しいんだ。ナンパしてくる奴とかも偶にいるし」

 

「な、ナンパですか……」

 

「まぁ、それ自体はどうでも良いか。君は可愛いから、可能性はあるだろうけど。そこは別に本題じゃないし。絃神島は君が言った通り、人工島なんだ。だから、基本的に物価が高い」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。絃神島でケーキを一切れ買おうとしたら、本島ではワンホール買える。それぐらい、品物の供給が薄くて高いんだよね。なにか買い物をするんだったら気を付けた方が良いよ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 本島とは文字通り段違いの値段だからな。いくら人工島であるとはいえ、もうちょっと何とかできない物かと思っている。まぁ、一介の住民には何も出来ないんだけど。

 

「まぁ、そこら辺は自分で確認すればいいよ。他には……そうだな。彩海学園に来るみたいだけど、学年は?」

 

「あ、中学三年生です」

 

「なんだ、タメか。もうちょっと年上かと思った」

 

「むっ……それは私が年増に見えるという事ですか?」

 

「それだけ凛々しい、って事さ。まぁ、君は元々可愛いのにギャップ萌えみたいな物はもっと凄いみたいだけど。学園に入ったらそれこそ、アイドル的な扱いを受けるんじゃないかな?」

 

「そ、そんな事ないですよ。私なんて普通ですよ」

 

「それは向こうではあまり言わない方が良いかな。嫉妬深い奴からすれば、それだけでイジメになるかもしれないし。まぁ、そんな奴は友達なんてほとんどいないけどね」

 

 出る杭は打たれると言うが、彼女に関しては打たれたとしても大丈夫だろう。俺の方でもそれなりには気を配るけど、慣れれば親しみを持ちやすい。あの島の人間は気候のせいもあってか、温和な奴も多いし杞憂に終わると思う。

 

「他に説明するべき事は特にないかな?なんで絃神島に来たのかは知らないけれど、君も来なければならないだけの事情があったんだろう。特に詮索はしないけれどね」

 

 絃神島に来るために必要な検査というのは、意外なほど多い。それほどに絃神島の出入りというのはとても大変なのだ。俺自身はちょっとした特例だったから幾らか減ったけど、それでも結構な数があった。

 

 彼女が獅子王機関の剣巫である事を知っているのは内緒なのだ。それならこの反応がベストと言ったところだろう。まぁ、彼女も対応しにくいかもしれないけど。

 

 それからしばらくの間、彼女と会話を交わした。お互いの近況やどこから来たのかとか、なんで本土にいたのかとか。そんなとりとめもない話を続けた。そしてそんな話をしている内に絃神島に到着する、という放送が聞こえてきた。

 

 そこで緊張の解けていた彼女もまた緊張をしていた。その姿に苦笑を浮かべつつ、久しぶりに戻ってきた絃神島に微笑を浮かべた。なんだかんだで俺はここでのなんでもない平穏な生活が好きなのだ。飛行機が着陸し、出口に向かって歩き始めた。

 

「はぁ……分かっちゃいたけど、暑いな」

 

 常夏の人工島と言われるだけあって、絃神島は暑い。それはもう年がら年中。本島では長袖を着るような季節になっても、絃神島では頑張れば半袖でいられる程なのだ。

 

 荷物を受け取ると、彼女と空港を出た。さんさんと照り続ける太陽に辟易しつつも、彼女に絃神島について軽く説明した。

 

 絃神島は東西南北に存在する人工島(サブ・フロート)と連結する形で存在している。これは、東洋では有名な四神をモチーフにしている。そうする事によって、龍脈の上に作られた本島はその力に負ける事なく存在し続けている。

 

 もちろん、こんな話は本島にいる人々はほとんど知らないだろう。豆知識のような物だ。無駄かもしれないが、説明しておいても不足はないだろう。

 

「あ、私はここで失礼します。今回は本当にありがとうございました」

 

「いやいや、気にする必要はないよ。クラスメートになるかもしれない相手へのサービスさ。それにまあ、君みたいな美少女と会話できて俺も楽しかったよ」

 

「びしょ……そんなお世辞を言っても無駄ですよ?」

 

「お世辞な物か。俺は美醜の違いははっきりと口にするのが信条なんだ。綺麗な物は綺麗で、汚い物は汚い。はっきりと言うのがね。そんな俺から言わせれば、君は特上の美少女だ」

 

「あう……」

 

 彼女の頬が真っ赤に染まり、その姿がいっそ扇情的ですらあった。でも、まあ、こうやって言い続けるのもここまでにしておこう。こんな状態のままだと、何かされるかもしれないし。

 

「学校への転入手続き、って何時やるんだ?流石に今日じゃないだろ?」

 

「それは明日やる予定ですけど……どうかしましたか?」

 

「いや、学校への行き方が分からないようなら案内しようかと思って。ついでに先生にお土産でも届けようかと思っただけだよ。分かるなら別に良いんだけど」

 

「……ご厚意、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。それぐらいはちゃんと調査済みです」

 

「そっか。それじゃあ、また二学期に会おう」

 

「はい。……あ、ちょっと良いですか!?」

 

「うん?どうかした?」

 

「あの、名前を伺っても良いですか?私は雪菜。姫柊雪菜と申します」

 

 彼女の言葉に流石の俺も呆れた表情を隠せなかった。そんな俺の表情を見て、彼女も気まずそうにしていた。微笑を浮かべながら彼女から背を向けた。

 

「士郎」

 

「え?」

 

 

「衛宮士郎。それが俺の名前だ。よろしく頼むよ?姫柊雪菜さん?」

 

 

「……はい!よろしくお願いしますね、衛宮君!」

 

「ああ。それじゃあな、姫柊さん。また今度」

 

 そう告げると、俺はその場を立ち去った。そして家に戻り、荷物を片付けた。そしてベッドに寝っ転がって昨日・今日と出会った彼女――――姫柊さんの事を思い出していた。

 

「まったく面白い事になってきたじゃないか。第四真祖の出現から大きく世界も変化してきた。これから先、一体どうなるんだろうね?」

 

 そう呟きながら、俺は眼を閉じた。そして睡魔にその身を任せるのだった。

 

士郎side out

 

雪菜side

 

「衛宮士郎君、か」

 

 初めて会った同年代の男子に我ながら信頼を寄せていると思う。その事にはちょっと首を傾げてしまうけど、それは今は脇に置いておく。

 

 第四真祖。12体の眷獣を従え、災厄をもたらすという世界最強の吸血鬼。伝説中の存在とされていたが、獅子王機関により日本・絃神市でその存在が確認された。それの監視役が私の任務。

 

「暁古城。どうして彼はこの島に来たんでしょうか?」

 

 絃神島は日本に唯一存在する魔族特区。第四真祖という超常の存在が出発の基点にするなら、確かにピッタリなのかもしれない。だが、それにしては彼の出現は唐突過ぎた。

 

 政府の国家公安委員会内に設置された特務機関である獅子王機関をもってしても、その存在が把握できたのはごく最近。こんな場所でそんな事があり得るのだろうか?

 

「考えれば考えるほど混乱してきます……」

 

 これもこれ以上考えても仕方がないのかもしれません。私は私の任務を忠実にこなせばいいんですし。そう思った瞬間、頭に浮かんだのは赤い外套とマフラーを纏った男――――アーチャーの姿だった。

 

 高神の杜でも紹介される程に、彼は有名だ。アーチャーは三年ほど前から頭角を現し始め、半年か一年ほど前に真祖と戦い打ち勝った……らしい。詳しい事は分かっていないが。

 

 どの真祖かは分からないが、そんな事――――真祖が人間に敗北した事――――を漏らそう物なら夜の帝国(ドミニオン)のパワーバランスが崩れてしまう。なので、その事実は必死にもみ消された。という話を師家様から聞いた。

 

 それでも尚、その噂は流れていた。彼自身も否定する事はなかった。しかし、後で師家様から聞いてみると、噂とは幾つか違う部分があるらしい。

 

「アーチャーは確かに真祖を殺した。でも、勝ったってのは違うのさ」

 

「殺したなら勝ったって事じゃないんですか?」

 

「あんたは真祖って物を分かってないからねぇ。無理もないけど。アーチャーは見逃されただけさ。真祖が遊んでたから、殺せただけなんだよ。だから、アーチャーも勝ったとは思ってないんじゃないかね」

 

 との事だった。彼がどんな手法を取っているのかは分からないそうだ。それでも、彼のような存在がいるという事は一種の抑止力なんじゃないだろうかと思う。

 

「いやいや、もっと真面目にしないと。うん」

 

 頬をぴしゃりと叩くと、隣に挨拶に伺う事にした。とりあえずお土産を持って部屋を出て、隣の部屋のインターホンに手を伸ばしたのだった。

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