ストライク・ザ・ブラッド~赤き弓兵の戦記~ 作:シュトレンベルク
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絃神島に戻った翌日、つまり夏休み最終日である今日。俺は仕事仲間とも言える奴とファミレスで会っていた。土産を渡し、そのまま雑談していた。
「それで、今回はどうだったんだよ?仕事の厳選は俺の方でやっといたけどさ」
「どうもこうもねぇよ。最後の運搬の仕事以外は面倒なのが多すぎだ。っていうか、お前。北欧方面の仕事組んだだろ?あれ、大変だったんだぞ?」
「ははははっ。いや~……あれはちょっと王女に頼まれて」
「お前……やっぱり俺を売ったのか?」
恨み満載の視線を向けられた、俺の仕事仲間兼友人である鳴神大河は申し訳なそうな表情を浮かべた。しかし、こいつにも言いたい事があるのか口を開いた。
「いや、だって……毎日毎日決まった時間に電話かけてくるんだぞ?それが一ヶ月も続けば流石に折れるわ。しかも夏休み前の日にも念押しの電話来たんだぞ?」
「……しつこすぎるな」
「だろ?それにお前だって整備のためにあっちに行く必要はあったんだろ?どちらにしても行かなきゃならなかったじゃん」
「そりゃあ、そうなんだけどさ。あの規模で向かってくるとは思わなかった……」
「どれくらいだったんだよ?お前の能力ならそうそう大変な事には……」
「……一個大隊規模が追っかけてきた。しかも、逃げたら逃げたでその二倍の人数が待ち構えてた。合計で三個大隊の相手をしなくちゃならなかった。めちゃくちゃ疲れた……」
「ああ~それはなんていうか……ご愁傷さま」
「あれはさすがに絶望した。俺は吸血鬼じゃないんだぜ?あくまでも一対一が基本の
「まぁ、お前は固有結界とか持ってる訳じゃねぇしな。無理もないか」
固有結界。それはこの世界の単語ではない。そしてそれが俺がこいつと友人であり、仕事仲間であるゆえんでもあった。それはつまりこの世界の外の知識を有しているという事。
大河は俺と同じ転生者と言われる分類の人間だった。ただ俺と違ってそこそこサブカルチャーにも通じている。俺に最初に話しかけた理由と言うのも、俺の名前が理由だったらしい。
どうも俺の名前が大河の知っているゲームの主人公と同じだったらしい。能力そのものも、俺の持っている物と似ているらしい。当たらずとも遠からず、という感じだ。
俺の同類と認識してからは俺の仕事を手伝うようになり、俺を通じてそのパイプを広げていた。俺の知り合いには大河の事を気に入っている者もいる。人間・魔族問わずだが。
「しかし、こうして改めて考えると変わってるよな。俺たちって」
「何を今更言ってるんだよ」
「いや、だってさ。俺だって日本人だし、仏教を信じてない訳じゃなかったけどさ。輪廻転生なんて物を自分が経験するとは思ってなかったよ。しかも同じような経験をした奴がもう一人いるとは思わねぇじゃん?」
「そりゃあ、そうだけどな。今あるのが現実なんだから、それを受け止めるしかねぇじゃん」
「お前が言わなかったら、俺はここの世界がフィクションの世界だったなんて思わなかったな」
「フィクションの塊みたいな力を使っておいて何言ってんだよ……まぁ、確かにそうだよな。って言っても、俺にはこの世界がどんな世界かなんて知らないけどな」
「頼りにならねぇな」
「うるせぇよ。転生してかれこれ十五年だぞ?覚えてられる訳ねぇだろ。良いんだよ、俺はお前のサポートに徹するって決めてんだから。……っと、俺はそろそろ行くわ」
「彼女と一緒に買い物か?満喫してるな」
「うるせぇよ。お前だって早く彼女作ればいいだろ?お前ならより取り見取りだろうし」
「馬鹿か。知りもしねぇ奴と付き合ってどうすんだ。俺に告ってくる奴の大半は顔も知らなかったような奴なんだぞ?」
「贅沢だなぁ。お前、今大半の男子を敵に回したぞ?」
「別に構わねぇよ。なんだったら相手になってやるさ」
「かぁー!これだから強い奴ってのはずるいよな。そんな風に堂々と言えるんだからよ」
「俺だって強くなるために努力したんだ。お前が遊んでる間、俺はずっと戦場にいたんだぜ?経験が違う、っつーの。それよりもさっさと行けよ。女を待たせるような男は死んだ方がマシだからな」
「手厳しいな。だけどまあ、同意するぜ。それじゃあな」
「ああ……おい、金は置いて行けよ!」
「悪い!今、ちょっと金欠気味なんだよ!今度返すから建て替えといてくれ!」
「ちょ、おま……」
止める暇もなく出て行きやがった……。ここの金、俺が払うのかよ。何とかなるけど、後で金下ろしに行かなきゃならないな。晩飯を買う金すらないとはどうしようもないな。
会計を済ませた後、コンビニのATMに行って金を下ろした。そしてそのまま、業務用スーパーに向かった。そして適当に買い物を済ませた後、レジ袋を下げながら歩いていると制服を着た男女二人組を見つけた。
レジ袋からアイスを取り出し、口に加えた瞬間それが誰なのか分かった。一人は姫柊さんで、もう一人は高等部の暁古城先輩だ。同じクラスにいる暁凪沙という少女の兄だ。
去年までバスケをやっていたが、怪我で止めたとかいう話を聞いた事がある。そんな人物が何故姫柊さんと歩いているのか、幾らか疑問は残るが気にしない事にした。
彼女は獅子王機関の人間で、俺はただの一般人。そういう関係である以上、彼女の交友関係に口を挟むのは間違っている。それが正しくて、当たり前の事だ。
でも、何故だろう?どことなく気に入らないと思う自分がいる。それがどういう感情なのか分からないまま、俺は彼女たちから眼を離してその場を立ち去った。
俺の家は普通の一軒家だ。ほとんど誰もいないその家は、本来は閑散としている筈だった。しかし、家の中にはなぜか明かりがついていた。その事に首を傾げながら入って行くと、そこには二組の靴があった。
その靴に見覚えがあた俺はそのまま進んだ。そして電気のついていた居間に向かうと、そこには体を強張らせた幼女と呑気に寛いでいる中年の男がいた。
「おっ、お帰り士郎。遅かったじゃないか。何してたんだい?」
「何してたって俺の自由でしょう?あんたの方こそ、態々こんな所まで何の用で来たんだよ――――おじさん」
枢木兼光。切嗣の仕事仲間にあたる人だ。切嗣が事故に遭うよりも前に関係を持っていたらしい。事故の後も切嗣とは関係を持っていて、俺も交流を持っていた。というか、今の俺の仮親を務めている人だ。
「いや、僕だって士郎の仮とはいえ親なんだからたまには様子を見に来ないと。それに、今回は士郎に頼みがあってね」
「はぁ……まぁ、良いけど。それで夕飯はもう取ったわけ?」
「いや、まだだよ。何分、着いたのがほんの数十分前だからね。だから、できれば一緒に用意してくれるとありがたいね」
「はいはい。そうだと思ってたよ。……そこの子は好き嫌いとかあるの?」
「……大丈夫、です」
「そう?それなら良いんだけど」
なんと言うか、感情が薄い子だな。単純に知らない相手の前だから緊張しているだけなのかもしれないけど。それ以上は気にしないようにしながら、調理を始めた。
ちなみに今日の夕飯はカレーだ。いろんな場所を回ってたけど、この料理が作り慣れてる。一回作ったら、二・三日は持つし。でも、まあ今回は無くなっちまうかもな。
そんな事を気にしつつ、サラダも適当に作って出した。夕飯の場ではおじさんが一方的に喋っていて、俺はそれに相槌を打ちながら放置していた。幼女の方は黙々とカレーを食べていた。
幼女――――おじさん曰く、美遊ちゃんと言うらしい。出身は本島の方で、おじさんが連れて来たらしい。おじさんはこっちで数日程仕事があるらしく、居座る事になっているらしい。もっと前から知らせて欲しかったのが本音だ。
おじさんは貿易会社に勤めており、絃神島と本島の貿易を一手に担っている。その関係で絃神島にも知り合いが多く、この家も元々はおじさんがこっちで仕事をしていた時に買ったものだそうだ。
「それで?結局、なんでこんな所に来たんだよ?一応、定期的な連絡は欠かして無い筈だけど」
流石に夜も遅くなり美遊ちゃんが寝た後、俺は茶を飲みながらおじさんに急の来訪の理由を訊く。俺は絃神島で自活する代わりに一月に一回、連絡を取るように言われている。それを今まで欠かしたことはない。
「分かってるよ。家内もその辺はきちんとしてるしね。今回は別の用事だよ。士郎にちょっと頼みがあってね」
「頼み、ねぇ……内容にもよるね」
「ハハハッ。そこは切嗣とは違うね。あいつだったら『僕に出来る事だったら』って二つ返事だったよ。まあ、それは良いか。頼みたい事っていうのはね。あの娘――――美遊の事なんだ」
「あの子さ、おじさんの血縁じゃないよね。一時期、おじさんの家にいた時もあんな子がいるなんて聞いた事が無かったし。それになんていうか――――人形みたいな子だ」
人間味が薄い。まるで外界から隔絶されてしまっていたかのように、人間が本来持つ感情が分からない。言っては何だが、人間味の塊のようなおじさんの血縁にそんな子供が出る訳がない。面倒見の鬼だからな、この人。
「うん……まぁ、士郎の言う通り、美遊と僕の間に血縁はないよ。美遊は僕が通りがかったとある街で見つけた孤児なんだ」
「被災者、って事?」
「……当たらずとも遠からじ、と言ったところかな」
おじさんは災害のあった場所にボランティアで行く事がよくある。その類なのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
「僕自身、見ていたけれど何があったかは分からなかったんだ。ただ、いろんな建物が倒壊していてね。一際大きな建物の中に彼女はいたんだ。……周りには結構な数の死体があったよ」
「そうなんだ」
「うん。恥ずかしながら、あれだけの数の生々しい死体を見たのはアレが初めてだったんだ。切嗣の仕事の手伝いをしていた、と言っても僕は裏方担当だったからね」
「おじさんはそれで良いと思うけど。それで、あの子を助けてきたって事?どうせ後で獅子王機関が何とかするんだから、任せておけば良かったのに」
「そうかもしれないけど、見捨てることは出来なかったんだ。獅子王機関への渡りも持ってないしね。助けられる命を助けないのは、『正義の味方』の元相棒としてはどうかと思ったしね」
「……そう。それで?獅子王機関に関係者を紹介すればいいの?」
「いや、士郎には美遊と一緒に暮らしてほしいんだ」
「……は?」
「もちろん生活費はこちらで出すし、諸々の書類はこっちで処理しておくから。士郎にはあの子の面倒を見てほしいんだ」
「いやいや、待ってくれ。おじさん、何を言ってるのか分かってる?俺にだって仕事がある。あの子の面倒ばかり見ていられる訳じゃないんだよ?」
「知っているけど、君の所の上司は君の事情を鑑みてくれているだろう?君は学生なんだ。そうそう変な事にはならないだろう」
「おじさん、俺だって
攻魔官。攻魔師とも呼ばれるその職業は呪術・魔術・仙術などを用い、魔導犯罪者や魔獣の捕縛・殺傷を行う。要するに、ちょっと過激な警察官のような物だ。そんな仕事をしていれば、魔族から恨まれることはよくある。どちらかと言えば、恐れられてる割合のほうが高いけど。
ついでに言えば世界を股にかけるアーチャーである俺は、いろんな奴らから怨まれている。その矛先がこちらに向かない絶対の保証はない。切嗣と一緒にいた時も似たような事はあった。同じような事が無いとは言い切れない。そんな危険に巻き込む訳にはいかない。
「俺は正義の味方じゃない。皆のヒーローにはなれない。時には取捨選択をしなければならない。切嗣がどうして傍に人を置きたがらなかったのか、おじさんは知ってるでしょ?」
「それはもちろん。でも、だからこそ、美遊の面倒を見てあげて欲しいんだ」
「え?」
「君は幼い頃から切嗣の仕事を見続けた所為か、現実に対してとても淡白だ。だから、僕は君と美遊に知ってほしい。人と共にある温かさを、誰かが傍にいてくれる事の嬉しさを。それは何物にも代え難い物なんだ」
「おじさん……」
正義の味方の傍にあり続けた男の片鱗を、眼にした気がする。大衆を救う事のみを追求した切嗣とは違う、この少数を癒したいと願う心は素晴らしいと思った。
「……この話を彼女は了承したの?」
「いや、まだだよ。美遊を君に会わせてから訊こうと思ってたから。この話はまだ知らせてないんだ」
「俺は受けるべきじゃないと思う。俺みたいな人間が傍にいても、おじさんの思った通りにはならない。それだったら、おじさんの傍にいた方がよっぽど――――」
「そんな事、ありません!」
「美遊……」
いつから話を聞いていたのか、寝た筈の美遊ちゃんがそこに立っていた。そしてその瞳は確固たる信念のような物が伺えた。ついさっきまで、そんな物は感じなかったのに。
「士郎さんは、良い人です」
「そんな事はない。俺は君が思っているほど、高尚な人間じゃない」
「良い人です!だって、こんな訳も分からない私のことを心配してくれました。それに、行動の端々に私の思いやりを感じました。誰かを思いやる事が出来る人が、悪い人な筈がありません!」
なに?この懐きよう。いっそ清々しいぐらいなんだけど。俺、そんな大仰なことしたか?そりゃあ、おじさんが連れて来た子だし、出来る限り配慮して接した。
だけど、そんなに凄い事をしたとは思わない。だって、俺がやってきた事なんて誰でも出来る。そんなに言われるほどの物ではないと思うんだが……。
「美遊ちゃん。俺はこれでもそれなりに名の知れた攻魔官だ。命を狙われる事もある。そんな危険があるような奴の傍にいるより、おじさんの傍にいた方がよっぽど安全なんだ。だから」
「でも、それは士郎さんも同じなんじゃないんですか?」
「それはそうだね。でも、俺はそういう連中を退けられる力を持ってる。だから、俺個人に関しては心配なんていらないさ」
心配されるほど弱くないし。第一、切嗣からの教えはそれに終始していた。即ち、自分の身は自分で守れるようにする事。切嗣の仕事の邪魔にならないように、それを必死になって習得した。
だからこそ、自分の身ぐらいは守れる。その技術だけは一際極まっている。だが、だからこそ他人を守る技術にも応用できて……あれ?別に問題なくね?
「………………」
「……士郎さん?」
「……気付いたみたいだね。士郎、僕も君もそう大差ないんだよ。安全的な面で言えば、君の方が良い位だよ。なにせ、名の知れた攻魔官が傍に居るんだから」
「おじさん、おだて過ぎ」
「いやいや、世間の君の評価は大体そんな感じだよ?」
「そりゃあ、世間の目が節穴なんだよ。俺はそんな高尚でもなければ凄くもない。その気になれば、長老にだって殺されかねない。俺は切嗣程の技量もないんだから」
その思想は理解できずとも、俺にとっての理想は切嗣だ。その技術に届くものはあまり想像できない。だからこそ、一人の弓兵としてはその技術こそが手を伸ばすべき高みなのだ。
「それでも、君は誰かを守ることができる。その力があれば、何の問題もないだろう?」
「ああ、もう、分かったよ。俺は何も言わない。好きにすれば良い。どうせ俺に出来ることなんて弓を引くだけなんだから」
俺のその対応に、二人は顔を合わせて笑いあうのだった。