ストライク・ザ・ブラッド~赤き弓兵の戦記~ 作:シュトレンベルク
「あなた達が相手です。私も手を抜くことなく、初めから全力でやらせていただきましょう!」
そう告げると、オイスタッハはその身体に纏う鎧────
分担としては同じ魔力無効化能力を持つ姫柊さんに眷獣を任せ、俺と
本来なら逆なのだが、こういう事態では仕方がない。真祖と共に戦うなど面倒くさすぎるのだが、ここは我慢する事にする。姫柊さんだけを参戦させる事を、彼は納得しないだろうからな。
「行くぜ、オッサン────!」
暁先輩がオイスタッハに向かって突進する。相手に態々そんな事を伝えてどうすると思いながら、俺は影のように暁先輩の背後につく。そして暁先輩の一撃を躱したオイスタッハに追撃を放つ。
「ぬぅっ!?ハァッ!」
「チッ……」
ギリギリではあったが、こちらの一撃が躱された。距離を置くため、鳩尾に向けて蹴りを放つ。鎧に阻まれ直接的なダメージにはならなかったが、距離を置く事は出来た。
分かっていた事ではあるが、あの鎧鬱陶しいな。流石は要塞の名を冠するだけはある。俺には鬱陶しいだけなんだけど。序に言えば、暁先輩と連携を取れないのも痛い。俺の行く先に先輩がいてぶつかりそうになった。
「さぁ、どうしました!?よもやその程度で私を倒せると思うほど、甘くはないでしょう!」
「……第四真祖。何か手はあるか?」
「ある。俺が眷獣を召喚するから、少し時間を稼いでくれないか?」
「……正気か?真祖の中でも最強と名高い第四真祖の眷獣をこんな閉所で解放するのか?」
真祖の眷獣の破壊力を持ってすれば、こんな閉所は簡単に吹き飛ばす事が出来る。しかも掌握したての眷獣だ。制御しきれるか怪しい所だろう。
しかし、相手の鎧が鬱陶しいのは事実だ。俺の身体に害はないが、ピカピカ光っていて実に鬱陶しい。目くらまし……と言うよりは目潰しにはなっていた。
「……良いだろう。しかし、ホムンクルスにぶつけるなよ。奴らを倒せても、この場所が吹き飛んでしまっては困る」
「ああ!」
俺は先に出て、オイスタッハに向かう。その際、両手に持つ剣を合わせながら、呟いた。
「
俺の言葉とともに、剣もまた光り輝き始めた。本来混じり合うはずのない2本の剣を無理矢理混ぜようとしているからか、剣に込められた魔力が雷となりまき散らされていた。
「混ざれ、『青鋼倚天』」
俺の言葉に反応した剣は更に輝きを強め、その輝きが最高長に達するとそこには1本の長剣があった。オイスタッハがそれに驚いている間に、俺は距離を詰めて剣を振りかぶる。そして剣の間合いに入った瞬間に振り下ろす。
「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
先ほどとは異なり、今度は刃が戦斧にくいこんでいた。3割ほどくい込むと、オイスタッハも全力で俺を吹き飛ばした。確かにこれ以上斬られれば、武器として使い物にならなくなるしな。
「アーチャー!今、一体何をしたのですか!?」
「態々自分の手の内を晒すと思っているのか?もしそう思っているのならとんだ間抜けだな」
俺の武器は俺が想像《イメージ》した武器を魔力で実体化させている。本来なら、俺のイメージが切れれば武器は消えるだけだ。だが、名前を与えられた時だけは別なのだ。
幻想の武器に名前という肉を付けることで、完全な形でこの世に存在する事ができる。まぁ、他にもアレンジを加えはしたがそれはまた別の機会に語るとしよう。
「悠長に驚いている暇があるのか?存外余裕じゃないか、殲教師!」
「くっ!舐めるな、アーチャー!」
俺が繰り出す連撃にオイスタッハは対応するのが精一杯だった。しかし、暫らくすると後ろから声がかかった。その瞬間に俺は後方に下がり、距離を取った。
「
その瞬間、膨大な量の魔力と共に現れたのは雷光を纏った獅子だった。その威圧感はまさしく真祖の眷獣。一般的な吸血鬼の眷獣とは一線を介するその魔力と重圧感は、それだけで格の違いを浮き彫りにしていた。
「これが……第四真祖の眷獣ですか!」
防ぎきれない。たとえ魔族用の鎧があろうが、災厄の顕現と称される真祖の眷獣の攻撃までは防ぎきれない。そもそも規格からして違うのだから、しょうがないことではあるのだが。そもそも真祖の攻撃など同じ真祖でもなければ防ぎようがない、という現実も存在する。
雷光の獅子が右足を振り下ろすと、それだけでオイスタッハは吹き飛ばされ壁に激突していた。そんな状態のオイスタッハに追撃をかけようとしていたので、俺は慌てて止めに入った。
「待て、人間が眷獣の一撃を受ければ一瞬で消し炭なんだぞ!?」
しかし、オイスタッハの間にホムンクルスの眷獣が割り込んできた。魔力無効化能力だけでなく、反射能力もあるのか雷光の獅子の雷を弾いた。その雷が周辺にばら撒かれ、辛うじて供犠建材は逃れたが建物を破壊した。
「くっ……」
しかし、実際どうした物やら。魔力無効化能力は今の剣には関係なくても、魔力の塊である眷獣を断ち斬る力はない。実質、今の俺には彼女をどうこうする術がない。さて、どうしたものか。俺がそう思っていると、俺の傍に暁先輩と姫柊さんが近付いてきた。
「アーチャーさん、何か案はありますか?」
「いや、ない。精々、あのホムンクルスの魔力切れを狙うくらいだろう。殲教師がまともに動けない今、それが最善手だろう」
「それだと、あの子の命が持たねぇじゃねえか!」
「随分と余裕なんだな、第四真祖。この島の住民の命と一人のホムンクルスの命。どちらが重要であるか、わざわざ説明することまでないと思うが?」
「それはそうかもしれない……でも、諦めていい訳がないだろ!」
「そう言うのなら、何か代案でもあるんだろうな?それが有用であるのなら、俺もお前の考えを認めてやろう」
俺だって相手の命を奪いたい訳ではないのだ。何とかできる手段があるのなら、それに越した事はない。しかし、それをする方法がないのならこだわる事はない。
「……あります。私に案が」
「……なんだ?」
「彼女の魔力無効化能力は私の雪霞狼と同じ物です。それはつまり、雪霞狼なら突破する事が出来ます。その時に先輩の眷獣で攻撃すれば突破出来る筈です」
「……分かっているのか?それをすれば、君の得物はただではすまないぞ」
真祖の眷獣の一撃を受け止める。しかも彼女の話によれば、眷獣の一撃を受けるのは刃の方ではない。そうなれば間違いなく彼女の武器は間違いなく壊れる。そうしてでも、止めようと言うのか。獅子王機関の秘宝を犠牲にする。それがどういう意味なのか、分からない彼女ではないだろうに。
「覚悟が決まっているなら、俺が何かを言う資格はないか。好きにしろ。サポートぐらいはしてやろう」
「……ありがとうございます!」
どうせ協力する他ない。ここでいがみ合ってこの場所を破壊されても困るのだから。ならば、彼女の案に乗った方が手っ取り早い。
「
手元に弓矢を出現させ、弦を引き絞り矢を放った。もちろん矢は弾かれたが、その瞬間に矢が爆発した。その爆発もダメージはなかったが、目晦ましにはなった。その瞬間、姫柊さんが槍を構えて唱え始めた。
「獅子の巫女たる高神の剣巫が願い奉る――――」
獅子王機関の秘宝、
「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせたまえ!」
槍によって増幅された魔力が眷獣の防御を突き破った。しかし、眷獣をそのまま真っ二つにする事は出来ず、突き刺さっただけだ。そして深々と突き刺さった影響で抜けなくなっていた。
「先輩!」
「ああ!――――
雷光の獅子が眷獣に襲いかかる。普通であれば、先ほどのように弾き返されるのが関の山だ。しかし、今は攻撃を通す手段がある。曰く――――金属は電気をよく通す。
槍を通して雷光の獅子の電撃が眷獣の内部にいるアスタルテに直撃する。魔力無効化能力がある眷獣の中にいるとはいえ、眷獣の内部に入った電撃を防げるわけではない。
電撃を受けたアスタルテは気を失い、倒れ込んだ。その姿を見たオイスタッハは唖然としていた。アスタルテが倒れたという事は、同時にオイスタッハの目的も途絶えたという事だ。
意識が途絶えていた所為で、俺が接近したのに気付くのが遅れた。脇腹に肘を叩きこみ、八極拳の中でも極めて有名な鉄山靠によって壁に叩きつける。その際、呪力を流し込む事で身体の神経を阻害させる。
笹崎先生に習った武術がこんな所で役に立つとは思わなかった。俺は手首を振ると、一本の紐を取り出した。紐と言っても、大河から教わったマグダラの聖骸布という概念礼装が持つ特性を再現した物だ。
これで両手首を縛り、動けなくしていると二人が何やらやっていた。騒がしいなと思いながら近づき、アスタルテの手首も縛っておいた。そして壁際にもたれさせると、まだ騒いでいる二人に声をかけた。
「そろそろ戻ってはどうだ?ここは俺がなんとかしておく」
「良いのか?」
「ここにいてどうやって言い訳をするつもりなんだ?言っておくが、俺は嘘を吐くつもりは一切ないからな」
そう言うと、二人は顔を強張らせた。姫柊さんは獅子王機関の関係者という事でどうにかなるが、暁先輩の方は未登録魔族。
「じゃ、じゃあ、ここは任せた!」
「任された。ほら、さっさと行け」
「アーチャーさん!ありがとうございます!}
俺がしっしっ、と手を振ると暁先輩は礼を言いながら元来た通路に戻って行った。姫柊さんはこちらを何度も振り返り、頭を下げて去っていった。
「さて、
――――呑気な事だな。
どこからともなく聞こえてくる声。本来なら驚き周りを見渡すべきところなのだろうが、俺は慌てない。どうせこの声も俺にしか聞こえていないのだから。
「何が呑気な物か。俺だって疲れてるんだよ」
――――お前が加減してるからだろ。最初から力を出していれば、あんなガキとおっさんぐらい簡単に倒せただろう。
「こんな場所で全力なんて出せる訳ないだろう。キーストーンゲートが吹き飛ぶわ。それにあそこには大河と先輩もいたんだぞ?」
――――それが生温いんだよ。そもそも、最初にあった段階で倒しておきゃ良かったんだ。それが一番手っ取り早かった。
「そんなの結果論だろう。あの時はどういうつもりか分からなかったんだ。何か出来る訳ないだろ」
――――そうだとしても、ここでの戦いを長引かせた理由にはならねぇよな?
「それは……」
――――お前は分かってたんだろ?第四真祖がこの戦いに介入してくるってよ。
「だったら、何なんだ?」
――――お前は決して馬鹿じゃねぇ。獅子王機関の思惑も分かってたはずだ。
「だから、それがどうした。そんな事が何の関わりがある?」
――――いや、もったいねぇ事をしてやがると思ってな。
「もったいない事、だと?」
――――おお、そうさ。お前は人が良すぎる。お前は遠慮が過ぎるんだよ。お前が欲しいと思った女、その逆の女。お前が欲し、お前を欲する物は全部手に入れちまえばいい。あの剣巫だってお前は欲しいんだろう?
「はっ!何を勝手な事を。お前は何を根拠にそんな事を言っているつもりだ」
――――相変わらず固い頭だ。人間の欲得を肯定しなきゃ生きてなんていけないぜ?
「否定なんてしてないさ。お前の言い分を否定しているだけだ」
――――まぁ、良いさ。俺たちは一蓮托生だ。お前のやる事を俺は否定しねぇ。好きなようにやれば良い。
勝手な言い分を言ったまま、その場を離れて行く。こちらの質問に答える事もなく、ただ自分の言いたい事だけを言って去っていく。昔から知ってはいるが、今も昔も勝手な奴だ。必要以上に関わっても仕方がないと分かってはいるが、それでも関わらずにはいられない辺り俺も成長していない。
俺はオイスタッハとアスタルテを
そして疲労もそこそこに学校に向かった。疲れも抜けきっておらず、午前中の授業は大変だった。何度も意識が飛びかけていた。まぁ、姫柊さんもかなり怪しかったけど。
弁当の用意も出来なかったので、俺は大河と一緒に食堂に来ていた。一緒に食事をしていると、向こうから騒がしい声が聞こえてきた。そちらを見てみると、姫柊さんと暁先輩とその妹でクラスメートの暁凪沙。そして大河のバイト先の先輩の藍羽先輩がいた。
「やれやれ、相変わらず騒がしいな」
「あれ、矢瀬先輩。どうしたんですか?」
「いんや、何でもねぇよ。それよりも眠そうだな?」
「そうやって分かっているくせに質問するのは止めてくれませんか?ヘイムダル」
「ハハハッ。本当に昨日は大変だったみたいだな。天下のアーチャー様も大変だ」
「その分ボーナスは弾んでもらいますけどね。交渉は頼んだぞ、大河」
「へいへい、精々毟り取ってやるよ。なにせこっちには第四真祖の暴走を未然に止めたという功績があるからな。その分、金も浮いてるだろうし」
「……俺が言えた義理じゃねぇけど、加減してやれよ?」
「それは向こうの対応次第ですね。俺は俺たちが損しないようにするだけですから」
「まったく、兄貴や親父たちも大変だ」
そう言いながら、矢瀬先輩は笑っていた。俺たちも釣られて笑いながら、俺はふと騒いでいる中心人物たちをチラリと見るのだった。その瞬間、あの声を思い出し俺は視線を逸らすのだった。