2003年3月、30ほどの23kgの砲弾が大きな弧を描いて赤茶けた砂漠にその焔をまき散らした…。
2003年、人類は太平洋において未確認の海洋性生命体と接触した、マグロほどの大きさの魚類型からヒューマノイド型まで多種多様な形状をしたそれらを人類は「深海棲艦」と呼称した。それらは得体の知れない力を使い、その小さな体から航空機や大型砲弾を放ち、且つ航跡を残さず、レーダーやソナーにもほとんど映らなかったため、現代兵器では有効な攻撃すらできなかった。
そんな深海棲艦を発見攻撃することができ、且つ有効な攻撃をすることのできる唯一の存在、それが「艦娘」である。
それから10年、2013年5月17日、艦娘による連合部隊、「連合艦隊」は深海棲艦の泊地の一つ、ハワイ諸島を奇襲した、2週間半に及ぶ激戦ののち、深海側は主力戦艦をはじめとする主力部隊の大半を失ったのに対し、艦娘側は巡洋艦を一隻失ったのみであった。
失われたのは当時最新鋭の第5世代型艤装システムを搭載していた巡洋艦「伊吹」であった。この損失は連合艦隊において非常に痛手であった。しかし不幸中の幸いとして艤装自体は回収することができた。そのためその艤装を身につけ、「伊吹」になれる運用要員が選びだされた。
「私が…巡洋艦に…ですか?」
元戦艦「富士」の艤装を操縦していた富士は、少し上目使いをし、眉間にしわを寄せて難色の表情を見せた。
「しかしながら私は旧型の戦艦であり、動きの軽快な巡洋艦の操縦は不適と思われますが…」
そういいつつ少しだけ右足の位置をずらす。
「しかし艤装を操縦していた艦娘は富士さんしかいらっしゃいません。」
眼鏡に光を反射させて連合艦隊旗艦の巡洋艦「大淀」はつづけた。
「深海との戦いが始まってからすでに10年になります…すでに人類の補給線は疲弊しています。我々は一刻も早く海を取り返さねばなりません…!」
おろしていたクリップボードを胸の前で両手に持ち大淀は深呼吸をするように一歩下がった。
富士改め伊吹は巡洋艦寮の扉を開いた。巡洋艦という艦種にふさわしく非常に多くのものが散乱し、良く言えばカラフルな、悪く言えばごちゃごちゃとした部屋である。伊吹が在籍する那珂湊戦略泊地は茨城県のひたちなか市から水戸市の地下にあり、寮は各艦種ごとに簡略な鉄骨造りの、30畳ほどの空母の格納庫のような空間を中心に、その壁面にずらりと一人当たり4畳の部屋があてがわれていた。地下にあるせいか、空間を奪うような窮屈感や、床のリノリウムがまさに軍艦といった印象を受ける。照明は少なく何となく圧迫感のあるような感じだ。
伊吹の部屋は最上型の列の一番端にあった。元伊吹の隣の部屋で、本来は建造されるはずだった伊吹の同型艦の部屋として作られたそうだ。部屋の中は真正面に机と本棚、右側にベットが置いてありその上が荷物入れになっている簡略なものだった。今までいた退役艦寮と同じ配置である。しかし伊吹はそれが自分から何かを削り取るように感じた。
伊吹は荷物と艤装を持ち運びやすくした圧縮艤装を机の上に置き、そのままベットに腰掛け、後ろに倒れた。
圧縮された艤装には「いぶき」と平仮名で書いてある艦尾が上を向いている。伊吹は自分が巡洋艦としてやっていかなけらばならないことに今更ながら何とも言いようのない感情がこみあげてきた。耳が熱くなるのを感じた。自分が戦艦ということに少なからず誇りを持っていたことに悔しさを感じた。
もう夜だ…。そんなことを荷物棚の金網に思い、伊吹は海に沈むように目をつぶった…が、眠ることを許さない何かが伊吹を襲った。
「やったぁー!待ちに待った夜戦だぁぁぁぁぁ」
伊吹が少しだけ戸を開くと、中巡らしき艦娘が艤装を展開しているのが見えた。
「お姉さん、落ち着いてください、艤装を展開していると防火扉のセンサーをくぐれませんよ?」
はしゃいでいる姉妹の姉と思われる艦娘をなだめるように何となく武士の様な得体の知れないオーラを感じるおとしやかな艦娘が姉の艤装を抑える。
(どっちがお姉さんなの???)
伊吹が混乱していると、妹と思われるほうがこちらに気づいたようだ。
すかさず伊吹は、ドアをはねのけ部屋を出て腕を上げ敬礼をしつつ
「夜戦ですか!」と聞いた。
自己紹介を忘れたことを思い出しとっさに続けようと思ったが、それよりも早く相手が口を開いた。
「そうだよ!夜戦だよ!私と一緒に!YASENN!しよ!」
5メートル離れてもわかる熱気だが伊吹は全力でおしたおをされまいと踏ん張った。
「お姉さん落ち着いてください!魚雷撃ちこみますよ!」
(?なんか今やばいこと言わなかった)と思った伊吹だが既に処理能力の限界である。
「あの…姉が申し訳ありません…軽巡洋艦、神通です。富士さん、大変お疲れではないですか?お休みになれる時に、お休みになってくださいね?」
神通はおどおどとしつつもどことなく武人を感じさせる雰囲気で伊吹の手を握り自己紹介をした。
伊吹は自分の名前を相手が知っていることに気づきながらも「せ、戦艦、ふ、ふじ
じゃなくて、ぇ、ぇ、ぇい、伊吹です!」と答えた。
筆者の疲れにより1話完
50話くらいつづくはず。