緋弾のアリア―交錯する者達   作:孤独な白狼

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では、どうぞごゆっくりしていって下さい。




第3話 手荒い歓迎

海斗たちがボストーク号に乗船し、1時間ほど経った頃。

二人は教授(プロフェシオン)と共にボストーク号の大広間にいた。

 

(まさか潜水艦の内装が高級ホテルみたいに改造されてるのには驚いたけど、この大広間も大概だな…いったい幾らするのか分からない壺や剣なんかがそこら中に飾ってあるうえにかなり広い。教授(プロフェシオン)はここで幹部との顔合わせを行うって言ってたけど…一体何人集まるのやら)

 

続々とやってくるイ・ウーのメンバーを海斗が眺めていると、見た目があきらかに人外の者以外にも様々な身体的特徴や装備をした者達が数個のグループを形勢し、お互いに牽制しあっていることが分かった。

 

(結構な人数いるがほとんどが各幹部の部下だな。この中で幹部はおそらく2・3人…教授(プロフェシオン)に聞いていた人数より少ない。ここに集まったので全員ではないみたいだ。)

 

そんな事を考えているうちに、教授(プロフェシオン)の進行によって海斗とレキの紹介が行われようとすると、二人の紹介を遮るように幹部の1人が不機嫌な態度を隠さず声を上げた。

 

「そんなひょろい奴をメンバーに加えるだって?俺は納得できねぇ」

 

そう言った鬼のような見た目で体の数箇所に目の様な刺青(・・・・・・)のある人外に賛同するかのように周りも頷いていた。

だが、そうやって2人のメンバー入りに納得出来ない者達が現れることも推理済みだったのか、教授(プロフェシオン)はニコニコとした表情を変えることもなく答える。

 

「では、どうすれば納得してもらえるかね?ブラド君」

「そりゃあもちろん、俺とそのガキを戦わせろ。そして俺に強さを示せれば、納得してやる」

 

教授(プロフェシオン)の言葉を聞いたブラドはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら大広間の中央まで行き、そう言い放った。

それを聞いた他の者たちも同意見なのか先ほどと同じように頷いていた。

 

「彼はああ言っているがどうするかね?海斗君」

「いいですよ、教授(プロフェシオン)。なら…ルールはどちらかの降参又は殺害でどうだ?バルドのおっさん」

「ああ、それで構わねぇ。ぶっ殺してやるよクソ餓鬼」

「決まりだ。悪いけどレキここは俺に任せてくれ、それと俺の武器預かっててくれないか?」

 

そう言うとレキがコクリと頷いたのを見てから海斗は弾切れのヘカートⅡとM92Fを手渡し、ブラドのいる大広間の中央まで歩いていく。

 

「それでは、審判は公平を期して…そうだね。ジャンヌ君、お願い出来るかな?」

「は、はい。分かりました。―それではこれより、ブラド対里見海斗による決闘を開始します!」

 

ジャンヌと呼ばれた少女の合図と同時に能力を使ってブラドに向かって海斗は走る。

 

「ただ足が速い位で武器もねぇのにこの俺に勝てるわけねぇだろ!」

 

ブラドは右腕全体を使って勢いよく横合いから殴りつけようとするも、当たる直前に海斗が地面スレスレまで体勢を下げたことにより躱され体勢が大きく崩れる。

その瞬間を狙って海斗は能力で上昇させた腕力に走った勢いも合わせ、ブラドの腹をアッパー気味に殴りつける。

 

「………この程度で倒せると思ったかァ?」

「チッ!」

 

一瞬体が数センチとはいえ浮き上がったにもかかわらず、バルドはわずかに息苦しそうにしただけで特にダメージは入らなかったようで、ニヤリと嗤った。

元々この程度では倒せない事は分かっていたが、少しもダメージの入っていない様子に舌打ちをしつつ海斗はすぐさまバックステップで逃れようとするが、それよりもブラドの方が早かった。

 

「オラァァ!!!」

「グハッ!」

 

とっさに腕をクロスして防御するがブラドの左腕が直撃し、吹き飛ばされた海斗は観戦していた人達を巻き込んで止まった。

 

(あっぶねぇ。いくら能力で肉体が頑丈になってるからって、あんなのまともに食らったらさすがに骨折れるぞ…防御が間に合ったのと下がったのが功を奏したな。…さて、どう攻略しよう?)

 

海斗が攻略法を考えつつ、さっきから下敷きにしたままの人の懐から自動拳銃(ハンドガン)である「P12」をこっそり拝借し、周りから見えないように懐に隠し、立ち上がろうとすると今度はブラドが走って肉薄し、勢いよく右腕を振りかぶる。

それは海斗の腹にクリティカルヒットし再び吹き飛ばす。

 

「あァん?」

 

だが、殴った時の感触に違和感をもったブラドは不思議そうに声を漏らす。

それもそうだろう。

今度の攻撃は海斗が直撃前にブラドの腕に手を添え、力のかかる方向を反らし、まるで殴り飛ばされたかのような演出をしつつ自分から後ろに飛んだだけなのだから、ダメージはまったく入っていない。

それはある物を確保する為だったのだが、少しだけ予想外な事が起こる。

 

「やべっ?!」

「………え?」

 

直前まで誰も居なかったはずの着地予測地点に、運悪く遅れて大広間にやってきた人が入ってしまいぶつかりそうになったのだ。

その人は茶髪を三つ編みにした絶世の美女と言われてもおかしくないレベルで自分よりは年上であろう女性だったが、ぶっ飛んできた海斗に少し驚き目を見開いただけで難なく受け止めてみせた。

 

(あれ?この人……でも、ちょうどいい)

 

「あらら、大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。受け止めてくれてありがとうございます。それと……すみません、少々お借りします」

 

海斗は礼と同時に謝罪をしつつ女性の後ろに飾ってあった片手剣を鞘ごと紐で背中にくくりつけブラドへと再び向かっていく。

ちなみに海斗が女性に謝罪したのは飾ってあった剣を持っていくことではなく、今右手に持っている物に関係する。

 

「え?……っ?!いつの間に…まったく気が付けなかったわ」

 

海斗は隠し持っていたP12を左手に持ち、女性より拝借し右手に持っているピースメーカーと呼ばれる回転式拳銃(リボルバー)をブラドの眉間に向ける。

 

「まさか、あの一瞬でこの私に悟らせずに愛銃(ピースメーカー)をスるなんて…教授(プロフェシオン)が目をつけるだけあって凄い子ね」

 

パァン!という音と共にピースメーカーの銃口から吐き出された銃弾は、避けることさえしなかったブラドの眉間を貫いた。

 

「ゲハハハハッ!その程度の鉛玉が当たったくらいで俺は殺せねぇよ!」

「くそっ!FPS(ゲーム)なら今の「ヘッドショット!」って表示が出そうなくらい綺麗に当たっただろ!?…何で死なねぇんだよブラドのおっさん!!今のは死んどけよ!」

 

銃弾は確かに眉間を貫き普通の人間なら致命傷であるはずなのだが、少し仰け反っただけで何ともなさそうにブラドは笑っていた。

それも体内にめり込んだ銃弾さえポトリと排出され傷口は赤黒い煙を上げつつ塞がっていった。

 

「おいおい、ブラドのおっさん賢者の石でも持ってんじゃねぇだろうな?その凄まじい回復能力なんだよ?!メンドくせぇなぁ!!」

 

そう言いつつも海斗はパンパンっと両手の銃を何度か撃つが、先ほどと同じように排出されては赤黒い煙とともに傷口がすぐに塞がる。

 

「そんな豆鉄砲いくら撃ったところで俺には効かねぇんだよォ。さっさと降参しねぇと死んじまうぞ?ゲハハハハ!!」

 

(まぁさすがに賢者の石なんて空想上の物があるわけないし、おそらく殺す事は可能…だと思うけど、あの異常な回復速度を上回るには手数も武器も弾薬も足りない。こんな場合、こういう奴の攻略法は限られてくる…俺を侮ってくれてるみたいだし、試しにやってみるか)

 

一瞬の思考で作戦を決めた海斗はP12の残弾全てをバルドの頭に叩き込み、反動でわずかに上半身のバランスが後ろに傾いた瞬間を狙いピースメーカーで正確に再び眉間を撃ち抜く。

それがトドメとなったバルドは一瞬とはいえ完全にバランスを崩し、体勢を立て直そうと無意識のうちに一歩下がってしまった。

それが致命的な行動になるとは知らずに。

 

「ハッ!何度も何度も馬鹿の一つ覚えみたいに撃ちやがって、お前はその程度ってことだ!もう終わりにしてや…ッ?!」

「それはお前だ。馬鹿の一つ覚えみたいに回復能力あてにして避けずに当たってくれてありがとさん」

 

ブラドが驚くのも無理はないだろう。

海斗はピースメーカーを撃った直後、バルドが体勢を崩し一歩下がりきるまでの間に弾切れになったP12を捨て、鞘から黒い両刃の片手剣を抜刀しつつ能力で脚力を上昇させ床がボコッと凹むほどの速度で接近し、すでに目の前にいたのだから。

そのうえ、瞬きする瞬間まで狙われたバルドには海斗が瞬間移動したように見えただろう。

 

「遅ぇよ」

 

そう言って海斗は掴んでこようとしたバルドの腕に向かって先ほど抜いた両刃の片手剣を能力で上昇させた腕力と移動時の勢いをフルに使い振りかぶると、刃は一時的に音速にも届きそうな速度で何の抵抗もなくスッパリとバルドの片腕を肘先から切り飛ばした。

 

「グァァ!!この程度で…」

「この程度なわけがないだろ?」

 

そう言って切り飛ばしたバルドの腕が地面に落ちるよりも早く、もう一方の腕と両足も切り飛ばす。

四肢を切り飛ばされたバルドは背中から地面に倒れこみ、回復するまでとはいえ完全に動けなくなった。

この時バルドは、「俺を動けなくした程度で降伏するとでも思っているのか、この程度の傷なんぞすぐに回復する」と内心ほくそ笑んでいたのだが、ニヤッと嗤った海斗の表情が視界に入った瞬間、これまで戦ってきた中でも体験したことのない程の悪寒を感じた。

 

「傷は回復出来ても痛みは感じるんだろ?」

「グッ…お前何言って?」

 

すると海斗はバルドの回復能力でグロテスクな感じで生えてきた四肢の腱を切ることで動けない状態を維持させつつ、顔や体を刺したり切ったりし続ける。

その光景はもはや拷問であり、周りで観戦していた者達の中には顔を背ける者もいた。

 

「お前!まさか出血でこの俺が死ぬとでも思ってんのか?時間の無駄だぞ?ゲハハハ」

「いや、これでいいんだ。止める気なんてねぇよ」

「何?時間の無駄だ!さっさと止めろ!」

 

バルドが僅かに焦ったような声で叫ぶが無視して海斗は続け、周りで観戦している一部の者たちが「倒せもしないのに何時まで続けるんだ?」「教授(プロフェシオン)は何時になったら止めさせるのか?」などと思い始めた頃、バルドの態度に変化が起こった。

 

「止めろ!止めろ!グハッ……止めろって!止めろつってんだろが!!」

「止める?…俺はあんたが死ぬか降参するまで止める気はないよ」

 

無駄などと言っている割には脂汗をダラダラと流し余裕のなさそうなバルドは海斗にそう言い放つが、海斗はその要求をバッサリと一蹴した。

海斗の死ぬまで続ける宣言を聞いて周りで観戦していた者たちは「どうせ勝てるわけない」「時間の無駄」「早く諦めたらいいのに」などと考えていたが当のバルドには死刑宣告のように聞こえていた。

ずっと痛め続けられても回復するから大丈夫と言ってもそれは体だけであり痛みは感じる。

これまでは自分を脅かす存在などほぼいなかったバルドには手も足も出ない経験などまったく無かった、自分が誰かを拷問にかけて痛めつけることはあっても自分が痛めつけられるなどと思ったことさえ無かったことで無意識の内にこの拷問のようなことが永遠に続くかもしれないという思考に陥り精神的苦痛を更に誘発し、バルドの精神を侵し壊し始めていたのだ。

 

「止めてくれ!グェ…止めてくれ!!止めてくれ!!!」

「止める気はねぇって言ってんだろ?」

 

周りの者達は先程まで強気な態度とっていたバルドが一変して苦しみから逃れる為に懇願し始めたことに驚いたが、それでも海斗がまったく変わらず作業のように切り続けているのを見て戦慄し、ほとんどの者が里見海斗に恐怖を抱いた。

 

「グァ…ハァ…止めて、くれ…俺の負けだ!降参する!だから止めてくれ!!」

 

そうして最後の力を振り絞って出したバルドの声は大広間によく響いた。

その敗北宣言は海斗の計画通りバルドの心がポッキリと折れたことを意味していた。

 

「うむ、お見事だね。さすが海斗君。さて、ジャンヌ君勝敗は決したからね、合図をしてもらえるかな?」

「え?…す、すみません!!ただいまの勝負!バルドが降伏を宣言した為、ルールに基づき里見海斗の勝利とする!」

 

勝利宣言を聞いた海斗はボロボロに刃こぼれした片手剣を鞘に収め、能力を解除しながらレキのいる場所へと戻っていった。

観客はバルドが負けたことが信じられないといった表情で唖然とし、大広間は静まり返り、バルドの部下達は血だまりでぶっ倒れているブラドの許へと慌てて駆け寄り治療を始めた。

 

「海斗さん、お疲れ様です。お見事でした」

「ああ、武器預かってくれてありがとな、レキ。それにしても…二つ名があるからもっと苦戦するかと思ったけど俺のことなめ過ぎで呆気なかったわ」

 

静まり返っていた大広間の中によく響いた海斗達のやり取りを聞いた者達の一部ではイ・ウーNo.2であったバルドの敗北も相まって「あいつを敵に回すのはヤベェ」とか「出来る限り関わらないようにしよう」などと心に刻んでいた。

それもそのはず、トップである教授(プロフェシオン)を除けば実質No.2はイ・ウーの中で幹部であることと同時に最強を意味する。

そのNo.2をあっさり倒した力に周りが恐怖を覚えるのも必然だろう。

ただ、一部には海斗にキラキラだかギラギラだかしてそうな目を向けている例外が数名いたりするのだが。

 

「それでは勝敗も決まったことだし、ここでお開きとしよう」

 

教授(プロフェシオン)がそう宣言すると、ぞろぞろと大広間を出て行く他の者達と同じようにバルドは部下に連れられてあっさり退出していき、海斗とレキ、教授(プロフェシオン)の他に1人の女性だけがそこに残った。

そこで海斗は残ってくれている女性へとピースメーカーを返しに行くことにした。

 

「勝手にお借りしてすみません。でも、これのおかげでバルドに勝つことが出来ました。こちらはお返しします。えっと…」

「気にしないで、スられたことに気がつかなかった私が悪いんだから。色々と良い勉強になったわ。そういえば私、到着遅れたから自己紹介がまだだったわね…ごめんなさい。私の名前はカナよ。よろしく里見君、レキさん」

「俺のことは海斗でいいですよ?カナさん」

「そう?なら海斗君って呼ばせてもらうわね?何か悩みとかここの事で聞きたい事とかあれば遠慮なく聴いてくれればいいわ」

「ありがとうございます。何かあればそうさせてもらいますね」

「ええ、じゃあ私はこの後やることがあるからこの辺でお暇させてもらうわ。それじゃあ海斗君、レキさん、教授(プロフェシオン)、失礼します」

 

そうしてカナは海斗たちに軽く会釈して大広間を出ていった。

 

「それにしても…本当なら僕の友人を1人紹介しておきたかったんだけど…彼女は家族か気に入った人物にしか興味がないからね。…近いうちに時間を取って顔合わせに行くからその時はよろしくね2人とも。この後は特に予定してないから好きにしててもらって構わない。特に海斗君は能力を1日中に何度も使ったんだ、部屋に戻ってゆっくり体を休めたまえ」

「分かった。そうさせてもらうよ。行こうかレキ」

「はい。…失礼します」

 

そう言いながら海斗がレキに向けて手を差し出すとレキは少し恥ずかしそうにしつつもその手を取った。

そうして教授(プロフェシオン)に温かい目で見送られながらも海斗はレキの手を引いて大広間から自分達に割り振られた自室へとゆっくり歩いて向かった。

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。


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