温泉を目指す一行に、射命丸文が合流した。彼女も暇を持て余していたのだろう。幻想郷の妖怪なんて、そんなものです。
あらすじは文ちゃんを、ひいては幻想郷の妖怪を愚弄するものではありません。だから許して、文ちゃん。
日付は回ってしまいましたが、大丈夫、まだ23日だ。これを書いている今はな!
というわけで間隔を空けずに投稿です。それでは。
幻想奇譚東方蟲師、始まります。
やっとの思いで、里の一行は温泉にたどり着いた。人一人背負った行進は流石に
日はすっかり傾き、あたりはどんどん薄暗くなっていくばかりだ。だが幸いなことに、今日の天気は晴れである。満月は望みすぎだが、それでも十分に手元足元を、星々や月明かりが照らしてくれることだろう。
一行が到着して間もなく。少し遅れてやってきたギンコと魔理沙、それに射命丸の三人に、慧音が駆け寄って行く。
「温泉に着いたぞ、ギンコ。次は何をすればいい?」
「着いたのなら
「ああ、わかった!」
張り切って返事をする慧音を見て、まるで丁稚だなとギンコは思った。
温泉までやってくれば、ギンコのすることもなくなる。男と女、どちらから入ると話し合っている彼らを少し遠巻きに眺めながら、ギンコは手近な岩に腰を下ろして座り込んだ。ここまで背負ってきた桐箱が、がちゃりと音を立てる。
「ふぅ。やれやれ、とんだ世界に来ちまったが、やることは変わらなかったな」
日は落ちた。
思えばどこからが今日だったのだろうか。森で魔理沙と出会い、人里に来てみれば蟲患いの患者がいて、いつものようにそれを治した。妖怪と呼ばれる存在と出会い、空を飛ぶ人に出会い、そして怨霊というモノと出会った。その途中で生じた疑問。そして今もなお、ギンコの頭をかすめる意識。自分がこの世界に来た、理由のようなもの。
人が根付き、生きているこの土地。緑は濃く、命という尺度で見れば、豊かと言って差し支えないこの世界。しかし、この世界には、ギンコにとって最も馴染み深い存在が少なかった。
ギンコはそっと瞼を閉じる。一つ目の瞼のその奥、もう一つの瞼。二つ目のそれを閉じた時、上からすっと、本当の闇が降りてくる。
そして降りてきた闇を突き上げるように、光が下から溢れてくる。地上を流れる光の川。命の源泉。
ギンコは目を開けた。考えていても始まらないと、一旦思考を打ち切ったギンコは桐箱を開けて葉巻を取り出し、一本を口に咥えた。火種を得るために火打石を取り出して、毛羽立たせて乾燥させた木の皮を
手を止めて光の先を見れば、魔理沙が持っている木の箱から、
その火はギンコと魔理沙の顔をぼんやりと照らし出している。使うんだろ? と笑う魔理沙の好意を受け取り、ギンコは葉巻の先を火に差し込んで、薄く煙を吐いた。
「悪いな」
「いいってことよ」
ギンコの隣に、魔理沙も座り込む。砂利の上だろうとお構い無しと言った様子の魔理沙だが、そこだと尻が痛かろうと、ギンコは桐箱の上に座るよう、魔理沙に勧めた。
「いいのか?」
「いいさ。お前さんが乗ったくらいじゃ、壊れはせん」
じゃ、お言葉に甘えて。魔理沙は桐箱に腰を下ろした。煙の匂いが、よく鼻を通る。幻想郷の温泉は、硫黄の匂いが極端に薄かった。それも、熱源が特殊であることに原因があったが、なんにせよ、地下から湧き出る鉱泉に変わりはなかった。
温泉には女が先に入るようだ。患者の男女比に大きな差はないが、何しろここまで運んできたのは全員男手だ。汗もかいたし、治療を抜きにしても湯に浸かりたいのが人情だろう。数が少ない方が先に入るのは、ある種道理と言って差し支えなかった。
「お前は入らんのか?」
ギンコが魔理沙に聞いた。
「なんだよ。女の湯浴みが見たいなんて、顔に似合わず
そういうこと言ってんじゃねえよ、とギンコが否定すると、楽しそうに魔理沙が笑った。
「なるほど、ギンコさんは顔に似合わず助兵衛と……」
そこ。変なこと書き留めてんじゃねえ、とギンコは射命丸の行動に釘を刺した。全く、変なところで疲れさせてくれる娘たちである。
少し遅れて、魔理沙がギンコの問いに答える。
「私は別にいいよ。裸の付き合いなんて、気の合う奴らだけでやるもんだ」
「そうかい。俺は、男の番になったら、入らせてもらうかね」
「……一緒に入ってやろうか」
微妙な間を開けて、魔理沙が言った。ギンコは深く息を吸って、薄く煙を吐く。細長く蛇行して星空に溶けるそれを見送り、ちらりと魔理沙を見ると、魔理沙は無表情で、どこか遠くを見ていた。
「よせよ。その手の冗談は、もっと年取ってから使うんだな」
「ちぇ」
膨れっ面になった魔理沙は、より幼く見える。魔理沙にその気があるのかないのか、それは本人にもわからないことである。だが、ギンコはそうして背伸びをするような仕草を、少なからず可愛らしいと思った。
「(
そんなギンコの思考に割り込むように、大きな歓声が上がった。どうやら、ギンコの処置が上手くいったらしい。蟲から解放された彼らの声が、大きく遠く、山の方までこだました。
「本当になんとお礼を言えばいいのか」
「いや、私は知恵を貸しただけです。何もしちゃあいませんよ」
辺りはすっかり暗くなり、半月とも満月ともつかぬ
ギンコの前には、蟲患いが完治した里の人間が集まっていた。そしてその代表として、慧音がしきりにギンコへお礼を述べていた。いや、慧音だけではない。今ではここにいる里の人間全てが、ギンコに感謝していた。
「元気になったならそれで良しです。里で家族が待っている人もいるでしょう。ここは、さっさと里に戻りませんか?」
ギンコの提案に、反対する者などいようはずもなかったが、少なからず、夜の道に怯える者がいた。
行きは背負われるだけだった人間たちも、帰りは自分の足がある。ここから里まで、距離こそあるがさほど険しい道というわけでもない。簡単にいくものだとギンコは思っていたが、むしろ帰りの方が気をつけなければならないと、慧音は言う。
幻想郷の夜は深い。人を食い物にする
「ふふふ。皆さんお困りのようですね。ここは私、鴉天狗の射命丸にお任せを」
芝居がかった口調で、射命丸は
きつく目を閉じる。耳元で暴風が荒れ狂い、何が起こっているのか理解ができないギンコは、身を強張らせた。
やがて風が落ち着いた時。恐る恐る目を開けて、ギンコも、里の皆も、我が目を疑った。
目を開けたそこは、人里の入り口だった。視界に広がるは民家の群れ。里の人間には
今の今まで立っていた、砂利と岩石の目立つ景色はそこにはない。月光を背に、鴉天狗は不敵な笑みを浮かべる。
「拠点へ一瞬で戻るには、”つばさ”を使えと、昔から決まっているのですよ」
どこで仕入れた知識なのか、天狗は得意げにそう言った。
化野さんに姪っ子がいるかは謎です。作者の妄想が多分に含まれていますが、いたとしても面白いかと。そして文ちゃんは一体何のつばさを使ったのか。私、気になります。
以下ご連絡です。
この章もあと一話で一応完結いたします。全部で40,000文字程度の章です。お暇な方は、是非是非、暇つぶしにご覧になってください。そして、批判でもなんでも、評価いただけるととても嬉しいです。具体的に評価を下さると更に嬉しいです。作者のモチベが天元突破します。螺旋力が過剰銀河で食い潰します(錯乱)
一章完結後はあまり日を空けず二章を投稿したいと思っていますが、正直一章を書き終えてストックがない状態なので、二章の投稿は三日ほど間が空くかもしれません。そうなってしまっても、ここまで私の作品にお付き合いいただいた皆様でしたら、その広いお心で優しく包み込んでくださると信じています(妄言)。はい、急いで頑張ります。
あと処女作って言っておいたほうがいいんですかね? 皆様結構前書きで注意喚起されていらっしゃるので、気になりました。あ、処女作です(今更)。
それではまた次回。お会いしましょう。