幻想奇譚東方蟲師   作:柊 弥生

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<前回のあらすじ>
 ギンコはこの世界が繰り返していることを知る。夢の世界の管理人、ドレミー・スイートの協力を得て、廻陋の世界から脱出する術を探る。





 幻想奇譚東方蟲師、始まります。







第七章 迷い繰る日 捌

「はぁ……ではこの世界を創り出している蟲をどうにかすれば、繰り返しの一日からは抜け出せると。そういうことなんですね」

「そういうことだ。ついでにお前さんの半霊も戻ってくる……というかお前さん、自分がただの人間じゃないって最初に言えよな」

「ちゃんと話しましたよ! ……あ、それは何個か前の繰り返しの時でした」

「ギンコさんはこの一日から記憶の保護をしてるから、以前の記憶はないのよね。ちなみに繰り返しの刻限は日の入りよ。今までは記憶の保護が完全じゃなかったから不定期に繰り返しが起きていたけれど、今度から一日いっぱい活用できるわ。よかったわね」

「よかねえよ。ここでの一日は現実世界でも一日なんだろう? あんまり長々と時間はかけられねえことに変わりはないだろうが」

 

 白玉楼に向かう道中、ギンコはドレミーとの会話で判明した繰り返しの原因とその解決法について、人里で合流した妖夢に話をしていた。この一日が廻陋という蟲によって創られていること。廻陋に囚われているのは妖夢の半霊であること。妖夢は半霊が見ている繰り返しの一日に、自身の夢を通じて迷い込んでしまったこと。ギンコはドレミーがこの一日に引っ張り込んだ現実世界の意識そのままだということ。わかっている限りの情報を、妖夢と共有する。

 屋敷へと続く長い石段を上がりながら、妖夢はギンコの言葉に耳を傾けている。思わぬところで自身の半身の行方も知れることとなり、足掛かりもつかめていなかったことから比べて、光明が見え始めた現状に表情を和らげた。隣を歩くギンコも、その弛緩した様子の横顔を視界に捉える。

 

「……と、まあ話しておくことはこれくらいか。他に何か気になることはあるかね」

「いえ、特には。というか話を聞けば聞くほど、私にできることってないような気がしてきますね」

 

 妖夢は何か誤魔化すように笑ってみせる。そんなことはないさ、とギンコが答えた。

 

「おそらくこの場において、廻陋に対処できる可能性があるのは妖夢、お前さんだけだ」

「え、そうなんですか?」

「予想だがね。その予想が確かなものかどうか、それを今から確かめる」

 

 ギンコの立てた予想。それはドレミーが語ったとある“きっかけ”への考察。

 淀みなく石段を踏みしめる。一つ一つ石を積み上げて作られたであろうそれは、強固な足掛かりとなって人を目的地へと導いていく。

 

「魂魄妖夢。それがお前さんの本名だったな」

「ええ」

「これは話すことでもないかと黙っていたが、廻陋の文献に興味深い記述がある。それはお前さんの名字に関わることなんだが……」

「あー、確か廻陋という蟲を初めて発見した人が私のご先祖様かもしれないんですよね。同じ名字だとかで」

「……そうだが。俺はお前さんにこの話をした覚えがないんだが」

「え? あー、これも何回か前の話でした」

 

 ぽつぽつと開示される追加情報はギンコの話の腰を折っていく。ギンコから向けられる何とも言えぬ視線にさらされて、妖夢も何かを感じ取ったようで、また何かを誤魔化すように苦笑した。

 

「……まあ、いいさ。それで話の続きだが、廻陋はその性質上、外からの観察だけでは存在を確認できない蟲だ。だが文献は存在し、その文献を書き記した人物の名は魂魄という。この二つの事実の意味するところが、今抱えている問題を解決する鍵となるはずだ」

「ええと、つまり……」

「半人半霊の貴女のご先祖様が、廻陋の対処法を知っているかもしれないってことでしょう? でも文献に対処法までは載っていない。だからギンコさんは白玉楼? っていう貴女の家に行って、それらしい記録がないか調べるつもりなのよね?」

 

 ギンコの頭頂部に体を預け、うつ伏せに寝転がるような姿勢をとっているドレミーが口を挟む。ふよふよと空中を浮いて移動することもできる彼女だが、どうも収まりがいいようで、先程からそこを陣取っていた。

 乗り物扱いされているギンコだが、ドレミーからは重さを感じることがないようで、別段気にした様子もなくされるがままになっていた。

 

「なるほど、私のご先祖様ですか……」

「文献にあった名前だけが根拠じゃないぞ。お前さんの持っている刀も、どうやら無関係じゃないようなんでな」

「刀が、ですか?」

 

 そう言われて妖夢は自身の腰と、背に備えている大小の刀を交互に見やった。

 大小のうち、小の方。妖夢の腰に差してある、白楼剣という銘の刀。ドレミーの語るところによると、この刀の刀身には廻陋の世界への抑止力のような力が備わっているらしい。事実、廻陋が支配権を持つこの世界でドレミーがギンコと妖夢の記憶を、繰り返しの如何に関わらず保持していられるのはこの刀のおかげらしかった。

 

「白楼剣。迷いを断ち切る刀、だったか。俺には理解の及ばん話だが、そういった異能の力が蟲を退けた例は、この幻想郷に来てからいくつか見ている」

 

 今回もそうだったら話は簡単なんだがな、とギンコが言う。

 そうこう話しているうちに、視界の前方に白玉楼の外観が見えてくる。ここまでくれば一行の足も速く、すぐに屋敷の門にたどり着いた。魂魄の家系についての資料はどこにあるのか、屋敷の敷地内を歩きながらギンコは妖夢に問う。妖夢は自身の記憶を探り、屋敷の裏、庭の片隅にある蔵へとギンコを案内した。

 蔵は一般的な土蔵で、小ぢんまりとした佇まいは納屋のようでもある。造りも屋敷の雰囲気に合わせた質素な白塗りの壁が印象的で、染みひとつないその様は初雪の積もる雪原を思わせた。そんな土蔵の外観とは対照的に、多くの時を刻んだのであろう古く重厚感のある木製の閂を動かし、これまた重そうな両開きの扉をゆっくりと開いていく。少しの土埃と耳障りな音を立てて、大きく口を開いた闇と対面した。

 蔵の入り口。扉側の壁にかけてあった手持ちの燭台に、妖夢が灯をともす。それを掲げるように少し持ち上げると、土蔵の全体像がぼんやりと浮かび上がった。

 中にはいくつかの庭の手入れに必要な道具類、用途のわからない壺や瓶、小分けになった葛籠が整理されて納められていた。庭や屋敷もそうだが、ここも妖夢の手によって定期的に掃除されているのだろう。物置の様相を呈していても、そこにはしっかりと秩序があり、経年による塵や埃の集積も見られなかった。これならすぐに目当てのものは見つかりそうだな、とギンコは思った。

 

「妖夢。目当ての資料はどこにある?」

「ん、あ、はい。確かそっちの葛籠の中に……」

 

 妖夢の横合いから手を差し伸べ、ギンコが燭台を持ち上げる。それにつられて少し背伸びをした妖夢だったが、すぐにその意図を察し、手を離して燭台をギンコに預け、蔵の奥に進んで行った。妖夢の進む先を手元の明かりで照らしながら、ギンコもついていく。やがて妖夢は一つの葛籠の蓋を開け、中を漁り始めた。

 地面にうずくまるような形で葛籠の中身を物色する妖夢の頭上から、ギンコが光を届ける。葛籠の中にはいくつかの巻物や紙の束、赤ん坊をあやす太鼓や綺麗に折りたたまれた背負子などが納められていた。

 

「……多分、これで全部です」

「ん、そうか」

 

 やがて妖夢はひと抱えの巻物と紙束を持ち上げて立ち上がり、ギンコの方を振り返った。

 少ない、ギンコはまずそう思った。廻陋の文献が残された時代を考えると、魂魄の家系も相当な歴史を持った家柄だと踏んでいたが、そういうわけでもないのか、それともやまれぬ事情で資料を紛失してしまったのか。妖夢の抱えるそれは、よくて二代分の記録しか残されていないように思えた。

 

「少ないのね」

 

 同じ感想を抱いていたのか、ドレミーが声を漏らす。

 

「……うちの家系はみんな自分のことを残したがらないようで。父も母も、おじいちゃんも。残してくれたものは剣の腕と、この体くらいです」

「そう……」

 

 一瞬、重苦しい雰囲気が流れる。うっすらと闇を照らす燭台の日が揺れ、誰かの心境を表しているようだった。

 

「行きましょうか。この中身を精査しないことには、話が始まらないんですよね?」

「……そうだな」

 

 ギンコの横をするりとすり抜けて行った妖夢の顔に悲壮感はない。ならばこの場で語ることなどもうないと言わんばかりに、ギンコは燭台の明かりを吹き消した。

 

 

 

「……あったぞ、この記述だ」

 

 妖夢の私室で広げた巻物に目を落としながら、ギンコは呟いた。その一言が合図になって、同じように資料に目を通していた妖夢とドレミーがギンコの近くに寄ってくる。

 二人の視線を誘導するように、ギンコは巻物を指差す。それは魂魄の家系の誰かが残したと思われる、日記のようなものだった。妖夢曰く自著の自伝らしいが、この際情報の確度はとやかく言っていられなかった。

 

「なんて書いてあるのかしら」

 

 もうすっかり定位置としてしまったのか、ドレミーがギンコの頭頂部から興味深く声をかけてくる。一瞬、ギンコはそれに意識を向けるように視線を動かしたが、すぐにそれを戻して続けた。

 

「記述はこうだ……『雨を斬り、空を裂き、迷いを絶て。幾星霜の修行の果てに汝、極意の顕れ。それ即ち時の廻陋を断ち切ること也』明確に廻陋の名が出てくるのは興味深い」

「でもこれ自伝ですよ? 眉唾なんじゃ……」

「自伝だろうと真実の記録でないという保証はない。今は情報の確度にこだわっている場合じゃないだろう。それよりも、これは剣術の極意について書かれた一項目だ。お前さん、何か心当たりはないか」

 

 ギンコは隣にいた妖夢に問いかける。妖夢は一瞬考える素振りを見せたが、すぐに思い至る。

 

「おじいちゃんから聞いた話なんですけど……雨を斬れる様になるまでは三十年、空気を斬れる様になるまでは五十年、時を斬れる様になるまでは二百年、時間が掛かると聞いたことがあります」

「それはまた……途方も無い話だな」

 

 しかし時を斬る、か……とギンコは黙考する。

 

「お前さんは時を斬れるのか?」

「……お恥ずかしながら力不足で。せいぜいが空気までです」

「それでも十分すごいじゃない。貴女、見かけによらずお年寄りなのね」

 

 空気を斬れる様になるまで五十年。その記述を引用して、ドレミーが妖夢をからかう。半人半霊の妖夢は純粋な人間とは異なるため、寿命が長い。見た目の老化もそれに伴い遅くなっているようで、おばあちゃんとからかわれ、苦笑いを浮かべていた。

 一方でギンコは考えを巡らせる。魂魄の家系が残した記述。魂魄の家系に伝わる迷いを断ち切る刀。時を斬る。繰り返し循環する廻陋の世界。囚われた妖夢の半霊。これまで判明した情報、状況をギンコは慎重に積み上げていく。

 自分が迷い込んだこの世界。出口のない時の回廊。迷路の如き袋小路を抜け出すには、廻陋をどうにかしなければならない。唯一可能性がありそうな思いつきは妖夢が廻陋を斬ることだが、それは無理だと本人に言われてしまった。蟲師としての対処もギンコをして心当たりなどなく、考えれば考えるほど廻陋自体をどうこうするのは殊更不可能である様に思えた。

 そこでギンコは考え方を変えた。廻陋と妖夢の夢が作り出したこの袋小路を抜け出すため、もう一つの道を模索する。そしてその道を、ギンコはもう見つけつつあった。

 

「妖夢。お前さんの持っているその刀。迷いを断ち切ると聞いたが、それは具体的にどういう力なんだ」

「え? 白楼剣の力ですか?」

 

 ギンコが見出したもう一つの道とは白楼剣を使った半霊の解放である。この世界の繰り返しは廻陋はもちろんそれに囚われている妖夢の半霊の存在がなければ成立しない。廻陋と半霊を斬り離す。それができれば言うことはない。

 迷いを断ち切るという曰くの刀。空気すら斬り裂ける妖夢の剣術。これらを頼りに、行動を起こしてみて損はない。幻想郷に来てからすっかり慣れた仮説と実証の行動原理を、ギンコは静かに後押しする。

 

「この世界は妖夢、お前さんの半霊が迷い込んだ袋小路の回廊だ。ということはその迷いを断つことが出来れば……」

「ちょ、ちょっと待ってください。ギンコさんは白楼剣の力を勘違いしています。この刀に、そんな便利な力はありませんよ」

 

 妖夢はギンコの案を否定して、自らの傍に安置していた小太刀を胸元に引き寄せた。

 

「この刀で断ち切れるという“迷い”とは後悔や残念といった精神的な楔を指すのであって、道を見失って彷徨っている状態のことではありません」

「なるほど……」

「彷徨う魂や道を見失っている人。それらの状態が結果的に解消されることは多いですが、今回のことには当てはまらないと思います」

「いいや、そんなことはない。むしろ効果的かもしれんぞ」

「? どういうことでしょうか」

 

 妖夢が否定したことにより、ギンコは自身の案により強い確信を得たようだった。半霊の迷いを断ち切る。それがどうして問題の解決につながるのだろうか。ギンコの言わんとしていることがわからず、説明を求める妖夢がギンコをまっすぐ見つめた。その視線を誘導する様に、ギンコは自身の人差し指を目の前にかざしてみせる。

 

「妖夢。お前さんはなぜこの一日が繰り返されているのか、その理由がわかるか」

「何か理由があるんですか?」

「ああ、おそらくな」

 

 淀みのないギンコの声。重く、静かなその響き。心に効かせることで、意識にするりと割り込んでいく。

 

「本来、廻陋に囚われたものは同じ生涯を繰り返し生き続けるのだという。それは人生という長い時間の循環でもあるが、今回は少し事情が違う」

「繰り返されるのは一日だけ……」

「そうだ。それが霊体を捕らえた故の症状なのか、それを判断するのはこの際置いておく。重要なのはなぜこの一日が選ばれたのか。魂魄妖夢という半人半霊がこれまで生きた時間の中で、なぜ今日という一日が繰り返されるのか」

「それは……」

 

 言われてみれば確かに、と思うことであった。どうしてこの日が繰り返されるのか。そこに意味はないのか、理由はないのか。当然のように受け入れていた事実に、ギンコが改めて切り込んでいく。そうして気付かされた妖夢がその理由を探し始めると、それを後押しする様にギンコが言葉を発する。

 

「蟲というものはただそうある存在だ。その習性に意思や意味を見出そうとするのは、人の都合だろう。しかし理由はある。廻陋が本来の習性と違う動きを見せたのなら、そうさせた理由がある。そしてそれこそ、現状を解決する最も大きな手がかりになるはずだ」

「理由……」

「廻陋は人だけではなく、虫や獣も自身の獲物として捕らえ、その時間を円環状に歪める。しかし人以外の生き物が、時間などというものを正しく認識しているのか? 過去を経験として蓄積し、思考を重ねる存在などではないそれらの時間を円環状に歪めるとは一体どういうことだ? そう、考えた」

「……不自然ね。意味を後付けしているような考え方だわ」

 

 話を聞いて考えを巡らせたのか、ドレミーも呟く。

 

「俺もそう思う。だから思った。廻陋とは本来、生き物の時間を円環状に歪めるという習性などではなかったんじゃないかとな」

「どういうことです?」

「つまり時間を円環状に歪めるというのは結果的にそうなっているだけで、廻陋の性質という理由は別にあるんじゃないか、ということだ。ちょうど、お前さんの刀が迷いを断ち切ることで結果的に道を見失った人を解放するという具合にな」

「それが今日を繰り返している理由とつながる、と?」

「そういうことだ。そしておそらく廻陋は、自身の中に取り込んだ獲物の意識を乗っ取り、支配することが本来の習性なのだろう。意識を乗っ取ることで獲物の動きを止めるという習性の結果、人の主観では記憶の繰り返し、人生の循環という現象が起きている。そう考えた方が自然だ」

「どうしてそういう習性だと思うの?」

「この世界は妖夢の半霊が囚われている廻陋の世界だが、それと同時に妖夢の肉体が見ている夢の世界との繋がりもある。そうだったな」

「ええ。そうね。じゃなきゃ私が介入できないわ」

「つまり廻陋の創る世界は獲物の見ている夢という側面もあるわけだ。そして廻陋の性質によって、獲物は惑わされる。虫や獣と人に共通するもので、かつ人が主観的に認識しているもの。それは意識以外にない。故に意識に影響を与えていると考えた」

「引き込んだ獲物の意識を支配する……それがどう今日を繰り返す理由につながるんでしょう」

「廻陋の獲物を獲る手段は香りによる誘導だ。行き先を誘導する、つまり行動を縛る。進む意思に干渉するのがこいつの習性だ。虫や獣はそのまま、行動を支配し、人を引き込むと、意識への干渉の延長で夢を見せる。これも先ほど話したな。行動的、精神的の二つの状況に象徴される行き先を見失う現象のことを……」

「迷う……獲物を惑わし、迷わせる。自分の中に閉じ込める! そうか、だから!」

「え、なに? どういうこと?」

 

 ギンコの説明に得心がいった様子の妖夢と、理解の及ばないドレミー。二人から交互に質問を挟まれたせいで、少し話す順番を間違えたかと思ったギンコは、ドレミーに言い聞かせるように、場を仕切り直すように話をまとめ始める。

 

「廻陋の本来の習性は獲物の意識を支配することだ。実際に世界の時間を巻き戻しているわけじゃないんだからな。それらの結果として、獲物である虫や獣については行動を縛り、人については精神を縛る。これらを一言で言い表すなら、獲物を自身の中で“迷わせている”と言える」

「ふむふむ、それで?」

 

 ギンコの頭頂部でドレミーが興味深そうに頷く。

 

「迷わせることが廻陋の実際の行動であり、人は廻陋に囚われると精神的に縛られ、夢の世界にも似た記憶の再生、人生の循環に閉じ込められる。どうして虫や獣と違い、夢の世界を迷わされるのか。それが“迷い”……妖夢の言葉を借りるなら後悔や残念という精神的な楔が、動物たちを誘い込む花の香りに象徴されるように、人を誘導する香りになるからだ。廻陋は人の“迷い”を足がかりに、意識に干渉しているのだろう」

「じゃあ、妖夢ちゃんが繰り返しの度に感じていた花の香りっていうのは……」

「自身の迷い……後悔や残念に象徴されるものだ。これは文献にもあるが廻陋に囚われたものは夜、花の香りを嗅ぐと不安になるという。自身の後悔を想起させるそれらを前に、不安になるのも頷けるな」

「じゃあじゃあ、この一日が繰り返されている理由っていうのは……」

「妖夢が強い残念、または後悔を感じていた日が今日、この一日なんだろう。一日だけ、というのは妖夢の半身だけしか取り込めていないために、干渉の影響が出にくいのかもな」

「じゃあじゃあじゃあ、白楼剣の迷いを断ち切るっていうのも……」

「その力を使って半霊が、つまりは妖夢自身が感じている“迷い”を断ち切ることができれば、廻陋は精神を縛る足がかりをなくし、半霊から離れるんじゃないか、とな」

 

 まあ、情報から立てた仮説に過ぎないがね、とギンコは言う。しかし、廻陋から初めて抜け出した者が魂魄の家系のものである記録や、事実廻陋が妖夢の半霊を精神的に縛っていて、白楼剣の刀身がそれに介入できた点などからも、ギンコの仮説は真実に迫っているように感じられた。

 随分と遠回りをしたと、ギンコは思っていた。いつもなら文献を参照すればわかるような事実を、問題の渦中にいながら自分で調査して導き出さねばならなかった今。幻想郷に来てからの経験がなければ辿り着けなかったであろう。そしていつにも増して重労働である。眉間を揉み込むように、ギンコは指を添えた。

 一方で妖夢とドレミーは驚嘆していた。断片的な情報をつなぎ合わせて、よくもここまで考えを飛躍させられるものだ。そんな二人の眼差しを受けて、しかしギンコはさらに先を見据えていた。

 

「対処法の目処は立った。あとはそれをどうやって実行するかだが……」

「ただ剣を振るだけじゃダメなのかしら」

「それだけでいいなら刀を抜いた時に問題は解決している。そうじゃないってことは、まだ考えるべきことがあるんだろう」

 

 白楼剣で半霊の迷いを断ち切る。言葉は簡単だが、具体的にはどうすればいいのか。考えるべきことは、まだあった。 

 

「そう言えばこの世界は妖夢ちゃんの迷いを足がかりに創られているのよね? 妖夢ちゃんに心当たりはあるの?」

「え、そ、そうですね……」

 

 ドレミーに聞かれて妖夢は考える。心当たり。今日を繰り返す理由。そして思い至る。

 

「幽々子様に……美味しい秋のご飯を用意して差し上げられなかったからですね、たぶん 」

「……貴女の残念って、平和ね」

 

 それくらいなら刀なんかに頼らずとも、今すぐ割り切ってほしいと思わずにいられないギンコであった。


















 かなり設定説明回です。散々待たせてこんな内容で申し訳ない。
 言い訳をさせていただけるのなら言いますが、誰も地震がきて全面停電とか思いませんよね。はい、完全に不意を突かれました。幸い震源からは遠かったので直接的な被害は受けておりませんが、停電が痛かったです。仕事もわちゃわちゃして大変でした。
 現在は電気も復旧し、以前と変わらない日々を送っております。皆様も災害には十分注意してくださいね。明日は我が身ですよ。

 さて、本編の内容ですが……廻陋の解釈難し過ぎだろう……。設定はあるんですけどどう文章に起こしていいかわからな過ぎて泣きそうです。文章量は多くなるし……簡潔にわかりやすくっていうのは難しいですね。とりあえず、これから週刊連載目指して頑張ります。



 それでは、またお会いしましょう。

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