不幸な人生を歩んだ俺は死んでからも無能勇者にしかなれなかったらしい 作:larme
Sランク武器は人間の力で作り出すことは不可能である。
魔王の生み出した魔物の体内にあることがほとんどであり、その魔物を倒すことでなぜか体内から直接、武器の形をしてあらわれる。
ランクの高い武器というのはイコールで持ち主の魔力を増幅させる力の量である。
これは人間にだけ当てはまることではなく、魔物の体内に含まれてる場合も同じであり、ランクの高い武器を体内に含んでいる魔物は強力な魔力を持つ。
つまり、ここに来て2〜3日の俺がこんなにレベルが高い魔物を倒すのはほぼ不可能。
ましてや、俺には魔力がないのだ。
さらに勝てない可能性が増す。
……じゃあ、どうするか。
頭を使う。これしかない。
昨日、3日以内にSランク武器を手に入れるという約束を幼女としてから今まで情報集めをしてきたのだが、わかったことはいくつかある。
まず、武器にも種類があるということ。
まあ、普通に考えてそうなのだけどそれぞれの人がそれぞれに特化している武器があって、Sランクともなるとその武器の種に特化している人しか扱えないらしい。
エリーゼは魔法に特化していることを考えると扱える武器は杖か魔道書だと思われる。
そして、もうひとつ。
この街にもSランク武器を扱っている人がいるらしい。
剣に特化したその人物は相当な剣技を持ち合わせていて、魔力値も相当高いらしい。
その剣士が今、クエストに出ているため、俺は昨日の酒場で待っている。
クエストの受注も酒場で行っているため、必ずここに戻ってくる。
昨日あれほど騒がしかった酒場だが、今の昼という時間帯には人がポツポツとしかいなく、閑散としていた。
静かな酒場だからこそ昨日は気づかなかった木製のテーブルや椅子の傷が目立つ。
そんな静かな酒場が少しざわつき始めた。
ある男がクエストから帰ってきたらしい。
その男の左肩に深い傷がうかがえる。
そいつはカウンターでクエストの報酬を受け取るとサッサとその場を去ろうとした。
その時に俺の席の前も通ったのだが、剣の柄と鞘のデザインの差に少し違和感を覚えた。
まあ、そんなことより間違いない。
俺が探していた人物はこいつだ。
俺はその人物に話しかけることはせず、酒場のカウンターに向かった。
「あの、さっきの人が受けたクエストの内容、確認させてもらってもいいですか?」
俺はその日はもうしばらく情報集めをして、次の日また、街に出た。
幼女と決めた、3日という期間。正確には明後日の夜10時が締め切りだ。
その期限を守るため、俺は昨日の男との接触を試みた。
街の中を歩き回っていると案外簡単に見つけ出すことができた。
前回、幼女に話しかけるときは少しミスをしたが、今回は違う。
1日という考える時間で俺はどのようにこの男から武器をとるのかを考えた。
まあ、昨日のこいつの様子とクエストの内容からもう、武器を持っていない可能性が高いのだが……。
俺は冷静にその男に近づき、目の前にたった。
そして、一言。
「昨日のクエスト、大変だったみたいだね」
すると、男の顔色が変わったのが明らかに伝わった。
恐怖心を煽る。詐欺の基本的なテクニックだ。
だから、俺はさらに続けた。
「昨日、あなたが犯したミスを知っている。名声を落とされたくなかったら少し話をしないか?」
男は目を見開き、俺の発言に怯えながら頷いた。
俺が昨日調べた、こいつの情報。
この男はプライドが高いらしい。クエストはほとんど1人でいき、モンスターに関しては討伐にこだわっているらしい。
しかし、昨日は違った……。
俺は男を連れ、酒場に入った。
俺はこの段階で一石二鳥の作戦を考えていた。仲間をいっぺんに2人手に入れる方法。
「君は、昨日、キマイラの討伐に失敗してるね」
これは自分の推論だった。
クエストの内容がキマイラの討伐or封印。
この世界でのクエストでの封印というのはどこかの洞窟の中でモンスターにバインド魔法をかけ、さらに洞窟の出入り口に結界を張る。
結界はモンスターが中から外に出ることもできないし、魔力を持つものなら人間でもモンスターでも中に入ることができない。
そして、この男は討伐ではなく、その封印を選択した可能性が高い。
男の動揺の色が強くなったところを見ると、間違いないらしい。
「で、君、武器をキマイラに食われた……だろう?」
「い……いや、そんなことは……」
「明らかに違うんだよ。昨日持ってた鞘と今日の鞘」
すると、慌ててその鞘を手で覆い隠す男。
わかりやすい男である。
恐怖心を煽るのはこのレベルでいいだろう。
次のステップへ進もうか。
「で、俺はあることさえ約束してくれたら、このことは誰にも言わない」
「あることって……?」
恐れながらも聞いてくる男。もう、落ちたも同然なんだが、なんか、かわいそうになってきた。
仲間になってもらうために返報性の心理を用いよう。
「本当は仲間になってもらいたかったんだけど、そんなに簡単にお願いすることはできないだろう。だから……」
俺は紙にある場所の住所を書き込み渡した。
「明日の夜の10時にここに来てくれ。ここでSランク武器を返してやる。そうしたら、仲間になってくれ」
すると、ばんと机を叩いてその場で立つ男。
プライドの高いこいつを一方的に攻めるのは間違いだったか?
俺にも少し焦りが出てきたが、そいつがむすっとした顔をして
「わかった」
と、少し納得がいかないようにその場を早足で去っていった。
さて、ただでさえ静かな酒場が緊張のせいかさらに静かに感じる。
明日はキマイラと戦う。多分、Sランクを取り込んだキマイラに普通に魔力を用いて勝つことは不可能なのだろう。
しかし、結界の中でバインド魔法をくらっているキマイラにだったら、俺なら勝てる。
俺が集めた情報を総合した結果、そのはずなのだ。
俺は覚悟を決めると、明日に備えて体力を蓄えるために酒場を後にすることにした。
気がつくと日はすっかり落ち、酒場はよるの賑わいを見せていた。
自分の初のクエストがSランク武器を取り込んだモンスターとの戦い。
緊張しないわけがない。