東方七世界   作:tesorus

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冷酷な天使「リネア」

どこからか吹いてくる風が、身体を優しく包む。

 

この感触は覚えている。遥か昔、友人と摘んだ一粒の果実。それはとても甘くて美味しかった。あの時の地上も、こんな風が吹いていた。

 

「ねえ、私もリネアみたいに強くなりたいなあ。どうやったら強くなれるの?」

 

「別に強くなんかないよ。てか、フライは弓を強く引きすぎなのよ。もうちょっと肩を落として引けば、少しは上達するんじゃない?」

 

「…そうかなあ。」

 

「そうだよ。」

 

「………。」

 

それからしばらくして、大天使様に呼ばれ、私たちは天界に帰った。そして私はあの時に、あの緑色の女にやられて、悪魔からの不意打ちを受けて…

 

ここは、どこだろう。私が死んだのならば、天界に魂が帰り、記憶が抹消された状態で、天使として転生しているはずだ。

 

しかし、私は生きている。息を吸って吐くこともできるし、手足も動く。

 

側には、水を浮かべた銀のボウル。そして、ワイングラスに浮かべた白い液体…サキュパス除けか。それにしても、何故私は人間の部屋に…

 

「あ!良かった。気がついた?」

 

「………!」

 

人の声に気づき、私はすぐさまベッドから離れて臨戦態勢を取り、彼女を警戒する。

 

なるほど。私は人間達に捕まったということか。まあいい。ならばこの家ごと葬るまで。天使を捕らえたらどうなるか。はっきりとその身に知らしめてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!まだ動いたら危ないって!」

 

私が何を伝えようと、彼女には届かない。彼女は再び弓を引き、今離すならば許してやろうと上目遣いで話す。

 

サキュパス除けの牛乳も、彼女の翼に叩きつけられて、グラスは粉々に砕ける。

 

「ほら!ワイングラスだって、足で踏んだら怪我しちゃうよ!まだ病み上がりなのに…」

 

「黙れ!我々を捕らえ、私利私欲の為に使うことを欲する忌まわしき人間め!」

 

「えっ…なんでそうなるの!?…まあいいや。そんな風に言うなら、もう帰れば?後ろの窓、鍵かかってないからさ。」

 

どうやら彼女には、私は単なる人攫いか何かにしか見えないらしい。まあ、元気になったのなら、それに越したことはない。別に私は人攫いでもなければ、忌まわしいと呼ばれる筋合いもない。

 

恩を仇で帰す彼女の行いには少し腹が立つが、自分もかつてはそんな身であった。自分の面倒を見てくれた少年院の先生も、あんな風に罵声を浴びせていた自分が言えることではない。

 

彼女は私のそんな反応に対し、言われなくともと羽根を生やし、窓を開けて外に飛び出した。

 

しかし、すぐに彼女はその窓に戻ってきて、本当に追いかけないの、と私に聞き返してきた。

 

「追いかけないよ。そもそも、私は人攫いなんかじゃないし。」

 

「…じゃあ、本当に私を治療してくれただけなの?」

 

「そうだよ。あと、悪魔から守るために教会に運んだりはしたけどね。他は何も。」

 

「……。」

 

彼女は私が真実を話すと、二階の部屋の窓の淵に座ったまま顔を赤らめ、こんなに優しくしてくれた人間はあなたが初めて。と小さな声で呟いた。

 

彼女の足からは、少量の血が流れている。恐らく、先ほどのガラスにやられたのだろう。診てあげる、と私が彼女に近づいても、もう逃げたりはしなかった。

 

「ねえ、あなた名前は?」

 

「リネア。言っておくけど、怪我が治ったら私さっさと帰るからね。」

 

「うん。別に良いよ。リネアさんにはリネアさんの事情があるもんね。」

 

「…水くさい。リネアで良いよ。」

 

水くさいって、昨日出会ったばかりなのに馴れ馴れしくして良いの?と聞くと彼女は顔を赤らめて目を逸らした。

 

どうやら彼女は相当面倒くさい性格らしい。彼女の足についているガラスを取ってあげていると、所々しみるのか、痛そうに喘いだ。

 

ガラスの処理はホテルの人に任せ、私は彼女に薬と包帯を巻く。彼女の翼は収納可能になっていて、翼を閉じれば天使と悟られずに街を歩けるとリネアは誇らしげに語る。

 

しかし、私には心を開いてくれたものの、私がそろそろメリー達が帰ってくる時間帯だと話すと、彼女は急に警戒をした。

 

どうしたのと聞くと、彼女はあなたならば信用できるが、他の人間はそうとも限らないと言い、私が判断するから、しばらくは物陰で見ていると言ってクローゼットの中に隠れた。

 

「あれ?あの天使はもう元気になったの?」

 

それからしばらくして、メリー達が街の散策から帰ってきた。スミが彼女が居ないことを心配に思い、私に彼女の消息を聞く。

 

「うん。もう元気になって、空の彼方に消えていったよ。生意気な奴だったよ。あれだったら神様も大変なんじゃないかな?」

 

「そっか、なら良いや。元気になったんだったら、私はそれで。朝ごはんどうする?地下に行けばホテルの朝食が食べられるけど…」

 

スミが笑みを浮かべて、鍵を私に渡す。クローゼットの中で扉にもたれかかり、ひたすら話に入る機会を伺う彼女を無視して、スミの誘いに乗る。

 

…素直に行きたいって言えば良いのに。

 

「そうだね。そうしよっか。じゃあ電気消して鍵かけて…」

 

「待ちなさい!私も行く!」

 

みんなが部屋から出たことを確認して電気を消すと、彼女はクローゼットから飛び出して叫んだ。私以外の四人は驚き、私は一人で笑いを堪え、何も気付かなかったかのごとく扉を閉める。

 

彼女はその閉じる扉の間に白い羽根を挟み、それを必死に防ぐ。

 

「待って!ねえ、分かったから!もう良いから!」

 

意外に可愛いなこいつ。

 

流石にこのままだと可愛そうなので、外に出してあげる。彼女は四人の前へ出ると、不意に翼をしまい、あなた達を認めた訳じゃないからと照れ隠しをした。

 

このホテルの地下は大きな食堂になっており、一流のシェフが腕をふるう料理のバイキングになっている。朝からそんなに出されてもお腹に収まらないと思うが。

 

「ねえ!リネア、昨日は物凄く強かったよね!あの弓矢ってどういう仕組みになってるの?」

 

「…気安く私に話しかけないでちょうだい。それに、あなたのような実力者にならば、尚更話したくないわ。」

 

リネアは、相変わらず冷たい表情を見せ続けた。しかし、完全に心を開いていない訳ではないようで、鼓石がつまらないのとふてると、太陽の光を集めて、そこに悪魔が忌み嫌う聖なる光を混ざらせて矢を作っていると、彼女の方を見ずに話しだした。

 

彼女は食事を共にしている内に、こちらの話も聞いてくれるようになった。私は、この世界に来た経緯や、人造の妖怪について話した。

 

この西洋のような世界に妖怪の概念があるかは怪しいので、妖怪というのは、この世界で言う怪物のことね。と私は付け足した。

 

「人造の怪物…怪物ならばデウス・エクス・マキナである可能性はあり得ないか。そうなれば、ごめんなさい。私が知っている情報は無いわ。そもそも怪物は、悪魔達が作り出した悪魔の下僕であって、遥か格下の人間に作れる訳ないしね。やっぱり、大天使様に聞いた方が早いと思うよ。」

 

夕方になったら、天界と地獄とこの世界が繋がり、人間達が眠る戦争の時が来るから、戦争に乗じて天界へ案内すると彼女は約束した。

 

なるほど、それで私達を人間と認めなかったのか。私は納得し、彼女の誘いに乗った。できれば彼らの憎しみあいなど見たくもないが、これがブラッド・ワールドの彼らの常識ならば、私は部外者であり、どうこう言える話ではない。

 

人造の妖怪を探し出し、幻想郷の異変を止める。それが私たちの役目だ。

 

そして、同じ役目を持つ者同士は、互いに惹かれあう。生まれた世界は違えども、生まれた環境すらも乗り越え、口づけを渇望すればするほどに。

 

魔界に存在する女王、神綺は退屈であった。と言うより、さっさと幻想郷の人造の妖怪など殺し、別の面白いことを探して遊びたかった。

 

彼女自身、魔界の住民などただの玩具であり、それが魔界兵ならば手駒にすぎない。壊れればまた別を探して、手駒か玩具にするだけである。また、魔界は国民皆兵の名の元に堅い徴兵制を敷いており、彼女の手から逃れるのは不可能に等しい。

 

「…そろそろアリスをいたぶるのも飽きてきたわ。まあ、あの娘は元々こちらに来るときにはもう壊れていたものね。あの二等兵も遅いし…」

 

彼女が座る玉座の間には、既にやつれた金髪の少女が作業着を着て、集団牢でうずくまる姿が映る。

 

そしてその側には、軍服を着た少年が女王に跪く。女王は玉座から立ち上がると、少年に顔をあげるように命じた。

 

「さて、あんな二等兵にやらせるような情報収集にあなたを充てるのは少々気が引けるけれど…これも人民の未来の為。お願いして良いかしら。」

 

「はい。神綺様の為ならば、私の全てを捧げましょう。それに、ルイズと一緒ならば本望です。」

 

「そう。レイクロク兵長に、人造の妖怪の探索及び、宇佐見蓮子の監視を命じる。頼りにしてるわ。」

 

「はい。もったいなきお言葉。」

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