東方七世界   作:tesorus

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インビジブル

街が再び、紅色に染まる。

 

街には天使の兵と悪魔の兵が降りたち、人々は眠り、空には二つの穴が開く。

 

昨日ならば、空からは天使や悪魔の血が降り注ぎ、いびつな死体で街が埋め尽くされていたことだろう。

 

しかし、今日に限ってそれはなかった。

 

目の前の光景に、私たちは目を疑う。天使と悪魔は、確かに対峙していて、今にも戦争が始まろうとしている。しかし、まるで時間が止まったかのように彼らは微動だにしない。

 

いや、よく見れば彼らは動いている。しかし、彼らの速度はそれほどにゆっくりである。

 

「さて、ここでクエスチョン。天使と悪魔は背中に羽を二つ生やしているね。彼らは羽こそが命の証。でも、羽を生やしたら役に立たなくなる生き物も居る。その生き物は?」

 

この世界の人間はみんな寝ているはず。しかしその声に振り向くと、私たちの背後には、黒い帽子を被った青年がいた。

 

青年は金色の髪に青い瞳を持ち、片手で帽子を押さえながらはにかむ。

 

眠っていないのを見ると、人間ではないか、あるいは別世界から来たと言うことになる。

 

でも、別世界から次元を飛んでこのブラッド・ワールドに来るには、それなりの技術が必要。メリーの霊能力は論外として、今のところ、その技術力を持つ世界は、にとりが居た幻想郷、鼓石の居たメトロポリス、そして、ルイズのミラークロス。

 

幻想郷の人間ならば良いとして、そうでなければ非常に危険な状態だ。メトロポリスは、幻想郷を管理し、支配している世界。その幻想郷の秘密を知る私達を生かしてくれるとは限らない。ミラークロスには私が狙われ、隙あらば捕らえようとしてくる。

 

しかし、なんとなくだが彼が幻想郷の人間とも考えづらい。どちらにせよ、警戒を解く訳にはいかない。

 

「はは、そんなに緊張しなくて良いんだよ?何なら全部教えよう。答えは、二つある。一つ目は蚕。蚕はその上質な糸が縫い物の素材とされるが、成長すると白い羽を生やす。羽を羽ばたかせる蚕は糸を吐かない。つまりそう言うことだよ。そしてもう一つは人間。人間の背中を割けば、赤い羽が生える。そして魂が昇天すれば、もう兵士として使いものにはならない。」

 

道端に眠る人の手から逃れた食物に、烏がたかる。街には青い羽を生やした蝶が飛び回り、空はその闇を増していく。

 

背中を割けば、赤い羽が生える。何を言っているかまったくわからない。だが、彼が私達にとって良い存在でないことは解った。

 

「失礼。俺の名前はレイクロク・マーガトロイド。親戚が随分ご無沙汰だったみたいだね。にとり。」

 

「マーガトロイドだって!?それじゃあ…」

 

彼、レイクロクの発言に反応してにとりが驚き、刀を抜く。私達にとっては何のことだかわからないが、にとりは彼の苗字に酷く怒りの眼差しを向けた。

 

「にとり…こいつのこと、知ってるの!?」

 

私が話しかけても、にとりは何も答えない。代わりに彼女は発狂し、刀を向けて彼との間合いを詰め、レイクロクに斬りかかる。

 

それに対し、レイクロクは刀を素手で受け止める。にとりの刃は彼の腕を深くえぐり、彼の手からは血が流れ落ちる。

 

「よくも…よくもアリスを!」

 

彼女の言葉が、刀にさらなる力を込める。しかし彼の腕をそれ以上えぐることはできない。彼はため息をつき、刀ごと彼女を側に投げ捨てる。

 

「別に僕がアリスをさらった訳じゃないよ。それに、仕方がなかったんだ。僕達は女王には逆らえないからね。」

 

「仕方がない!?私達にとってアリスがどれほどの人かも知らずに、仕方がないなんて!やっぱり、あなたは私が直々にここで始末する!」

 

《水都剣「アトランティス=ソード」》

 

剣から水の雫が吹き出し、三つの水の輪となって刃の周りに漂う。にとりはそのまま走り込み彼に斬りかかるが、彼はその攻撃をひらりとかわす。

 

女王…なるほど、つまり彼は魔界の人間。でも、どうしてまだ私のことを?私はちゃんとルイズに釈明したのに…

 

彼への不意打ちに失敗したにとり。しかし、それも彼女の計算の内。彼女は家の壁に斬り込みを入れて、空に剣を掲げる。

 

突如、街を覆うほどの津波が街に迫り来る。津波は街を飲み込み、街は一瞬にして深海の底のような光景に代わる。魚が漂い、水に反射して上空の光が淡く輝く。

 

浮力によって身体が浮遊する。しかし、水の中なのに、息ができる。服も濡れない。これは村雨の刀の魔法でできた特殊な水だからだろうか。

 

「へえ…水ねえ。でもこの水、人間の息を封じる能力は無さそうだ。これで君は有利になったって言うのか……あれ!?」

 

彼が見渡すと、にとりは既に消えていた。しかしこの時間に隠れる術など無い。水の中だろうと、先ほどとフィールドは何も変わらない。彼の目を欺いて街の物陰に隠れると言う手段はあるだろう。だが、あれほどの戦闘能力を持つ彼が、そんな動きを許すだろうか。

 

「あれ、どうしたの?隠すのは、道化師みたいなあんたの得意技でしょ?」

 

声がする方に、彼は魔術の弾を放つ。しかし、彼女の悲鳴や血は全く聞こえず見えない。

 

彼が目で彼女を探す、その一瞬。彼の背後から不意に血が噴き出す。僅かな痛みが彼を襲い、彼は一瞬でその傷の方を向いた。しかし、彼女の姿はない。

 

いや、確かに彼女はそこにいた。しかし、彼女は数秒後にはそこから気配を絶っている。別に瞬間移動している訳ではなく、彼女が通った気配はそこに残っている。

 

「…インビジブル!?」

 

彼は一瞬にして、彼女の秘密に気づく。しかしそれは、彼女への攻略を見出したことにはつながらない。むしろ、それは彼女を追うことが不可能であることの裏付けになってしまう。

 

インビジブル。にとりが透明人間になれる力を持つならば、彼にとってこれほど不利な状況はない。もしそうならば、彼女の姿が完全に見えない状況で彼女の相手をせねばならないことになる。

 

目隠しをして彼女の相手をする。そう言う状況になる。しかも相手は、数秒に一回、刀で彼を串刺しにする。

 

しかし、インビジブルなど化学的に不可能だ。それは彼も承知のはず。

 

「…いや、無理だ。確かに、身体の外見をオーラで見えなくすることは可能かもしれない。だが内臓や血を透明にすれば、生物は生きることができなくなる。血の中にあるヘモグロビン、それを透明にすることを必要とするからな。つまり君は、透明なんかにはなれていない。」

 

彼はひたすら目を凝らし、限りなく不可能に近い追跡を開始する。その間に彼女は二回彼を刺し、腕と足を血に染める。

 

そして、にとりが彼の心臓を突き刺さそうとしたその瞬間、ついにその時は訪れる。

 

「…捕まえた!」

 

透明な剣の先端を掴み、彼の腕が見えないにとりを捕らえる。彼女は自分が囚われたことに気づくと、見えない海中から姿を現した。

 

「光学迷彩ね。なるほど、全身を鏡のような電子装甲で纏って、限りなく透明に近いような姿に覆っていたのか。」

 

「…そうだよ。こいつ、海の中じゃないと使えないからね。だから、こういう能力を作り出したんだ。」

 

にとりが指を鳴らすと、辺りの水は蒸発して消えた。水が完全になくなると、空は相変わらずの赤い空であり、地に堕ちた血がそれを更に赤く染めている。

 

「なるほど、まあいいや。蓮子の仲間である君を殺す訳にはいかないからね。聞いての通り、僕は魔界の人間だ。神綺女王の命令でこの世界に来た。蓮子、君を探してね。」

 

「解ってる。でもどうして!?私はちゃんとルイズに約束したのよ?私達も知らないから、ちゃんと白黒つけて彼女に話すって!」

 

「ああ、もちろんそのつもりだ。だから僕は、別に君を拷問にかけたりしに来た訳じゃない。僕に与えられた使命は、君の監視。それだけだよ。」

 

「……あっそ。あんたらの所の女王様って、随分と面倒くさい人だね。まあいいや。監視されるのなら慣れてるし。脳髄の一欠片まで見張ってどうぞっと。リネア、もう出発しちゃって。」

 

「あ…うん。ほらほら、にとりも早く幻想郷救わなきゃいけないからさ…行こ?」

 

半ば無理やり、威嚇を続けるにとりをレイクロクから引き剥がし、リネアの翼で天界へと向かう。

 

後から親しげについてくるレイクロクに、仲間になって良いよなんて言ってないんだけどとジト目で凝視するが、彼に効果はないようだ。




レイクロクが 仲間になりたそうに こちらを みている!

今回は七世界と言うこともあるので、旧作キャラもたくさん出そうと思います。
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