東方七世界   作:tesorus

15 / 50
この真面目な死神さんは、小町見たら怒りそう。


最凶覚追憶

人造の怪物は、この世界には存在しない。というか、そんなものは長らく生きてきたが見ていない。居るとすれば私の管轄が及ばぬ地獄か。だがその確率は低い。

 

大天使はそう言い切り、私達は天界を後にした。レイクロクの居なくなった地上では、再び悪魔と天使が戦争を始めている。リネアが流れ弾を受けて、また昨日のようにならぬように守りながら、開戦中でゲートが開いている地獄へと向かう。

 

「なんだお前たちは、死んでから来い。天使など論外だ。」

 

地獄に広がる黒い海。それを抜けて地獄へ行くには、この舟守を納得させるしかない。舟守は暇そうにタバコを吸いながら、私達が何も言っていないのにその内容を見抜き、それを断った。

 

「なんでよ!小町は通してくれるよ!?」

 

にとりは当たり前のように舟守の死神に突っ掛かり、知り合いの死神の名前をあげる。しかし彼は首を縦には振らず、異世界の死神など知らぬとそれを拒む。

 

にとりは引き下がり、それじゃあこの世界の悪魔達がどうりで馬鹿なわけだと拗ねる。しかし、そこで私は彼女とは全く違う思考に切り替えた。

 

彼は今、異世界の死神という言葉を口にした。ということは、彼は異世界を知っている。というか極端な話、彼が人造の妖怪について知っていればWIN-WINじゃないか。そう思い、率直に彼に聞いてみた。

 

「あの…すみません。今、あなた異世界の死神って…」

 

「ああ、それがどうかしたか?」

 

「つまり、あなたは異世界があることを知っている。異世界に行ったことがあるということですか?よろしければ、人間が造った怪物のことについて何か…」

 

「ない。だが、異世界があることくらいは知ってるさ。地獄も他世界の一つみたいなものだからね。だがあんまり期待しないほうがいい。俺が会った異世界の連中は、古明地鬱夜一人だけだ。あいつは怪物の息子、人造の怪物なんかじゃねえよ。」

 

「そうですか…え!?古明地!?」

 

私はまた別の内容で驚き、不意に鼓石の方を向く。今度はスミやメリーも同じことを考えたのか、彼女の姿を見つめる。

 

古明地。ということは、まさか彼女の家族がこの地獄へ来たということなのだろうか。となると、もしかしたらこの先か、この死神に鼓石に関する何かがあるかもしれない。私は期待して、鼓石を前に出し、死神と向かいあわせる。

 

「おう、何だ。騒がしい連中だな。まあ確かにお前さん、鬱夜そっくりだ。妹か?」

 

「ううん、人違いだと思う。私、ずっとお姉ちゃんと二人で暮らしているから…」

 

マジか。確かに鬱夜って名前で女は無いわな。私はがっかりして、それならリネアを天界に送り届け、もう次の世界に行こうかとメリーに目配せした。

 

しかし、死神は物珍しげな顔をして鼓石を見ていた。

 

「はは、そうかい。正直なお嬢ちゃんだ。しかしお前さんはそう言うが、やはり鬱夜と何か関係がありそうだな。それに…青い髪のお前さんは、鬱夜に関する何かを知ってるんだろう?」

 

死神の問いかけに、にとりは首を縦に振る。彼女はゆっくりと口を開き、幻想郷に起きた一つの異変。そして、鼓石にそっくりな少女の話をした。

 

その少女、古明地こいしは鬱夜と言う青年の妹であるらしく、彼女の能力は、目にした人間が自称する「程度の能力」の全てを封じるというもの。彼女は「覚妖怪」という種類の妖怪であり、その力は底知れぬ禁忌の零の力。覚妖怪のサードアイを封じたものにしか使えぬ力。その能力は兄も持っており、そのせいで幻想郷は一度壊滅の危機に至ったらしい。

 

「最凶覚異変」に似ている。というか、恐らくそれだろう。しかし彼女は、鼓石とこいしが似ている理由までは知らなかった。

 

「はは、久しぶりに面白いものを見た。良いよ、乗りな。光届かぬ地獄の奥底を見せてやる。」

 

死神は笑い、私達を舟に乗せた。自分から頼み込んでおいてあれだが、この黒い海の中を突き進んでいると、本当に自分が死んでしまったように思えてくる。

 

私は、ひょっとすると死ねば地獄の底に落ちて、二度と地上へは帰れないのかもしれない。針山に突き落とされ、血の池で身を清め、そんな死後かもしれない。

 

「どうした、怖気付いたか?」

 

「…冗談でしょ。」

 

「そうか、気をつけな。お前達…特に天使のお前。悪魔につけられてるからな!」

 

死神が、急に舟の速度を上げた。それと時を同じくして、何本もの黒煙を帯びた矢が、舟目掛けて背後から放たれる。

 

背後には、地獄への旅路を閉ざさんとする一人の悪魔が矢を射ていた。彼の放つ矢は私達を乗せた背後に迫り、黒い海に沈む矢は水をわずかに蒸発させる。

 

どうして、悪魔は今は天使達と交戦中なはずなのに!?その答えはリネアにあった。彼の名前はダルアと言って、彼の兄を自分が殺めたとリネアは語った。

 

恐らく、それでリネアのことをずっとつけていたのだろう。彼の眼は復讐の炎に包まれ、彼の瞳すら焼き尽くすほどであった。

 

「…死神さん。このままだと危ないから、舟を少し止めてくれないか?」

 

レイクロクが、舟の末尾に立つ。死神は彼の発言に少しばかり動揺したが、しばらくすると彼は舟のスピードを落とし、解ったよと舟を止めた。

 

「ほう、往生際の良い奴だ。この俺様に殺される覚悟ができたか。」

 

ダルアは笑いながら、彼に矢を向ける。恐らく、確実にこの距離ならば仕留められると目論んだのであろう。

 

しかし、彼はその程度で止められる相手ではない。彼が射る矢をひたすら見つめ、攻撃の隙を伺う。

 

「射ってみなよ。どうせ、君に僕は倒せないからね。」

 

「ほざけ!」

 

ダルアは、ついに痺れを切らして黒煙の上がる矢を放つ。しかし、その矢は彼には当たらない。いや、正確には彼は矢が彼を刺す前に腕ずくでそれをへし折っている。

 

あまりの素早さに、ダルアは驚いて周囲を見渡す。しかし、そこに彼の姿はない。彼はダルアのすぐ背後に忍び寄り、彼を背後からナイフで一刺し。ダルアは悲鳴をあげて、不意に振り返る。

 

「お前…一体!?」

 

「ふうん。君の主人は、まともな戦い方も教えてくれないんだ。そんな無能に仕えてて楽しい?僕だったら耐えきれないけど。あ、僕?しがない帽子屋さ。ワンダーシティに店があるんだ。最近は休業してるけどね。」

 

「…くっ!」

 

ダルアは嘘だ、という顔をして振り返り、彼に一撃を喰らわせようと矢を手に持ち、彼に振り下ろす。しかし、その隙を彼が見逃すはずがない。

 

彼はその隙に舟に戻り、先ほどのダルアとは比べ物にならないほど強力な光線で出来た弓を出現させる。

 

「さて。アーチャー同士、勝負しようか。こう見えても僕、軍の弓試験では落ちたことがないんだ。」

 

「軍!?帽子屋ではないのか!?…まあいい。貴様と俺では弓の才が違うことを証明してやる!」

 

…ダルアは恐らく負ける。私でも分かる。弓の使い手が違いすぎるのが見え見えだ。

 

両者が共に、弓に全てを賭けるその刹那。私は彼に宿る儚げな表情をみた。

 

しかしそんな中で、今やらねばいつ殺られるかも解らぬと言う私も心中にいる。その私こそ、ずっと暗い闇の中で暮らしてきた私。

 

黒く塗りつぶされた牢獄。シャバの光を遮る黒い鉄格子。あの頃の私が、害をなす奴の命など殺してしまえと心臓を縛る。

 

「やめ……」

 

「…おい、そろそろ黙れ。」

 

ダメだ、声が届かない。私はひたすらに声を押し出そうとするが、腹の痛みがそれを許さない。そんな中、リネアはレイクロクの首元にナイフを向けた。

 

アングル的に、彼女の表情は見えない。しかし、彼女は明らかに先ほどとは違う顔をしているような気がした。

 

「…ん?でもさあ、向こうだってその気だし、今仕留めなきゃこっちが殺られちゃうよ?ね?」

 

彼の問いかけに、ダルアは冷や汗を流しながらも、嫌々首を縦にふる。しかし、リネアはその一瞬を見逃さない。すぐに、彼の釘穴に釘を刺す。

 

「ダルア、お前今怯えただろ?」

 

「なっ……そんなこと…!」

 

「お前に俺は倒せねえ。こいつなんかもっとだ。恐らく、俺たちの何倍も血の滲むような鍛錬をしている。お前はそれに気づいてるはずだ。勝ち目のない相手とは戦わない、それが俺ら天界兵や、お前らスカーレット家の掟なはずだが?」

 

「………。」

 

「分かったら、別に殺しゃあしねえからさっさと矢をおさめろ。命乞いなんてお前らしくねえ。お前の相手は、世界を救った後にでもしてやる。こちとら世界を救う英雄様を連れてんだ。」

 

「…世界を、救う?」

 

「ああ、そこにいるスーツ姿の女がそれだ。細かいことは、ネカクルスと一緒に聞きな。」

 

来い、道案内しろ。リネアはダルアを睨みつけ、指先で彼に指図した。

 

世界を救う、英雄?彼はそんな訳も解らぬ話を聞き混乱するが、先ほど感じた耐え難い心臓の鼓動が屈辱で仕方ない彼は、できればここで天使を許したことにし、彼らの用事を済ませる為に同行したとすれば、怯えて逃げるか死ぬよりどれほど心理的にも楽かと言うことを直感した。

 

そして、彼女がダメ押しで話した一言は、彼との一時的な和解だけではなく、私達すら驚かす一言となる。

 

「大天使様から聞いたの。事情は複雑になっているだろうけど、いかなることがあろうと、幻想郷の異世界化を進めてはならない。でなければ…全ての世界の中の一つが無作為に選ばれ、その世界は天変地異を起こすってね!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。