東方七世界   作:tesorus

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月世界編
月の武士達


月の世界、イナバ。街は古き良き時代を思い出させる平安の世界。門を挟んだ向こう側には帝が住まい、手前では住民達が兵士の監視の下暮らしている。

 

街の監視はとても厳しく、私達はこの世界に着てすぐに、月の兵士達に囲まれてしまった。月の兵士達は桃色の服を身につけ、二つの刀を見につける。しかし、それだけではない。

 

彼ら、相当強い。天使や悪魔も相当な強さであったが、こちらはその比ではない。恐らく、こちらの腕では歯が立たないだろう。

 

その桃色の軍勢の中で、リーダー格らしい少女が前に立つ。薄い紫色の髪の美少女はその軍勢とは違い、白いワイシャツの上に赤い服を着ている。

 

「おとなしく投降なさい。そうすれば、命までは取らずにおいてあげる。しかし、あくまで抵抗するというのなら…!」

 

少女が右手を前に差し出すと、桃色の兵隊は一斉に刀に手をかけた。まだ私達は何も話していないのに、この気迫。明らかに選択を誤れば殺される。命は取らないとは言っているが、恐らく後で強制切腹かここで死ぬかの違いだろう。

 

「答えは…これよ!」

 

選択の余地などない。私はオーラを見にまとい、オーラの鞭で兵隊達を感電させる。しかし兵隊達はとても強く、体制を一時崩すだけですぐに立ち上がる。

 

怯むなという少女の発言に対応し、兵隊はすぐさま攻撃を仕掛ける。だが、少女も刀の使い手。こちらにも刀の使い手はいる。

 

にとりは彼女の一瞬の焦りに乗じ、彼女に一太刀を浴びせ、少女もそれに反応し、にとりを斬り返す。

 

「へえ、少しは刀の心得があるようね。」

 

「悪いけど、月の連中なんかには負けないよ!」

 

にとりも中々の腕だが、彼女の刀の腕も柔ではない。彼女とのつばぜり合いの末に、にとりは右肩を少しばかり刀で抉られる。

 

まるで兎のように素早く、刀も彼女の身体の一部であるかのように立ち振る舞う剣術は、見るものを圧倒させる。受け止めるのではなく、受け流す。彼女の刀はにとりの刀の一撃を受け流し、一撃を食らわそうとその心臓を狙う。

 

しかし、今日は上弦の月。零にも無限にも染まらぬ戦場の光。こんな所でにとりが殺られる訳がない。彼女はその刀に水を込め、得意のスペルを放とうとする。

 

「あっ………!」

 

ところが、不意に彼女は一人の月の兵隊を見つけて止まり、その隙に彼女の一撃を見に受ける。

 

これは彼女も予想外であったのか、不意打ちをしないことが彼女の武士道であるのかは解らないが、彼女はにとりにトドメを刺さずに立ち止まった。

 

できればこの隙に少女は私達が倒してしまいたいが、こちらは月の兵隊達から身を守ることで精いっぱいだ。

 

彼女のそれに反応したのか、紫色の髪を持った兵隊の一人はにとりから目をそらし、隙ありと言わんばかりに私の元へ斬りかかり、私のオーラの鞭を刀で引き裂く。

 

「…その命、頂戴します!」

 

「ちょっと待ちなさいよ!あなた、にとりの知り合いなのでしょう!?」

 

「知りませんね!私は優曇華院の鈴仙!帝に仕えしイナバの尖兵!」

 

彼女は超能力の鞭をもろともせず、スミの懐に忍び込む。スミは覚悟を決めて桃色のオーラを放ち、彼女の刀を、オーラで強化した腕で受け止め、隠し玉のレーザー銃を懐から引き抜き、彼女に放つ。

 

しかし、そんな小手先の攻撃が通じる相手ではない。レーザー銃を半身で避けた彼女の向こう側にレーザーは外れ、スミはオーラで電撃を発し、それをいくつもの虫のような飛来物に変えて彼女にぶつける。

 

「魔虫、ライトニング・インセクト!」

 

標的は小さく、ひゅんひゅん飛び回る。しかも、それはスミの身体の一部同然なので、彼女が自由に動かすことができる。鈴仙はその虫を探して斬ろうとするが、中々小さな標的には当たらず、また運良く切ることができても、それを刃の先端に合わせて分裂させることもできるので、虫は無敵の生命体となる。

 

もちろん、一発当たりのダメージは雀の涙。だが、それを何百発も受ければ彼女も流石に立てはしないだろう。しかも、タチの悪いことに超能力者でない人間は姿すら見ることも叶わない。超能力者ならば誰でもできるような幼稚な攻撃だが、十分すぎるほどの殺傷能力を持つ攻撃。

 

しかし、確実に追い詰めたと思われた鈴仙は、他の月の兵隊が持ち得ないもう一つの武器を取り出す。イナバの世界とは似ても似つかぬその武器に、スミは目を疑う。

 

「それって…そんな馬鹿な!?」

 

「そう、銃を使えるのはあなただけでは無いのよ!あんまり使うと、依姫様に叱られてしまいますがね!」

 

彼女が魔力の壁から取り出したのは、清楚な桃色の制服とはかけ離れた黒い拳銃。彼女は慣れた手つきで拳銃の引き金を引き、スミのオーラの虫を全て撃ち落とす。撃たれた虫への苦痛は全てスミに跳ね返り、彼女は吐血してその場に倒れる。

 

「やっぱり…永遠亭の鈴仙!どうしてここに居るの!?」

 

にとりが再び少女、依姫の剣技に押される中、彼女は再び鈴仙に視線を向ける。すると依姫は、よそ見はいけませんよとにとりを峰打ちし、彼女の意識を奪う。

 

予想はしていたが、やはり私達では力不足。このまま全員が戦っていれば、もう皆殺されてしまう。

 

惜しいが、残れるメンバーと逃げるメンバーに分かれた方が良い。一度息のあるメリー達は、メリーの結界の中に避難した方が良い。

 

だが、そんなことはすでに頭の回転が早いメリーは気づいていた。すでに私が後ろを振り向くと、鼓石やレイクロク、それにメリーの姿はなく、リネアだけが一人で月の兵隊の相手をしていた。

 

「リネア!どうしてメリー達と逃げなかったの!?」

 

「逃げるなんてできるものですか!そんな腰抜けばかりならば、みんなまとめて私が倒して…」

 

後ろから一撃。リネアは鈴仙に背中を刺されて気を失う。もう意識があるのはあなた一人ね、と刃を首に向ける依姫は、穢多を見るような眼差しをしていた。

 

「どうする?おとなしくしていれば、打ち首か釜茹でかくらいは選ばせてあげるけれど。」

 

もはやこれまで、他人に自らの命を委ねるのは私の好みでは無いが、これも運命と助けを待つしか無いのだろうか。荒れはてた唇を噛み、他に何かできないかと辺りを見渡す。

 

しかし、そんなことを思う必要はどうやらなかったということはすぐにでもわかった。

 

「…あまり、戦場で敵に要らぬ情けをかけることは感心しないわね。」

 

私が前記のようなことを考えていた一瞬、リネアの声が聞こえた。その直後、彼女は彼女を捕らえていた鈴仙の両腕から逃げ出し、依姫の足を射抜き、寄る兵隊を的確に射抜いて意識を奪い、私達を連れて湧いた軍勢とは反対方向に逃げ出す。

 

奴らを追え、としきりに命じる依姫に対し、だから師匠に未熟と言われるのでは?と鈴仙は彼女にぼやく。そんなやり取りを見ないうちに、私達はすでに月の軍勢が見えないほどの場所に居た。

 

聞けば、やはり鼓石やレイクロクはその案には乗らなかったらしく、結局リネアだけが引き上げて、失敗したらそれはそれとなっていたらしい。故に、今の彼女たちの居場所をリネアは知らない。

 

「まあ、どの道捕らえられたら鉄の処女か鉄の椅子ね。知らない方が気が楽って物よ。」

 

縁起でもないことを平気な顔で話す彼女の前で、私はその様子を想像して吐きそうになる。

 

そっか、そうだよね。捕まったら拷問に決まってるよね。この和風な世界で鉄の処女や鉄の椅子はあり得ないが、江戸時代にも釣り責めや石抱きなどの拷問は存在したので、この世界でもそれはあるかもしれない。

 

捕まれば、ただ死ぬよりも辛い思いをした後に死ぬ。そんな世界で生きてきた、中世の騎士のような彼女にとってはこんなことは日常茶飯事。彼女のいうことや実行する作戦は、例外を除いて従っておいた方が良いのかもしれない。




うどんげ!オンドゥルルラギッダンディスカー!
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