東方七世界   作:tesorus

19 / 50
鈴仙「腕はどんなだルイズ、見せてみろ!」

ルイズ「来いよ鈴仙、怖いのか?銃なんて捨ててかかってこい。」

今回は主にこの二人のドンパチ回です。


地獄に堕ちる菫の花

どこに居るのか、私は一体どうなったのか。

 

覚えているのは、私が鈴仙さんと戦って負けて、オーラを撃ち抜かれて倒れたところまで。それからは身体に染みついているわずかな姉のオーラの記憶。それによると、私達は上手く月の兵隊から逃げ出せたようだ。

 

それにしても、寒い場所だ。記憶から推測するに、今ならば丁度どこかに匿ってもらっている頃だろう。月にそんな場所があるかは怪しいが、多分身体が揺れを感じないということは、上手く場所を見つけたのだろう。

 

目が開けたら何をしようか。まずは運んでくれたであろう姉に礼を言わねばならない。それとも、平然を装って迷惑をかけない方が良いだろうか。

 

まあ、それは目を開けてから考えよう。

 

「さて、そろそろお目覚めかしら?」

 

しかし、その目が映し出したものは、私の想像していたものとはかけ離れていた。目の前には刀を抱いた少女、私を縛る縄を引く兵隊に、私は青い囚衣に冷や汗を垂らす。それは淡く生ぬるい妄想などバラバラに切り裂く、あまりにも残酷な現実の世界であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「てっきり、リネアが運んでくれたと思っていたのに…」

 

場所は月世界の外れ。両手は汗まみれ、もう今から戻っても遅いだろう。私が先ほど他人事と聞いていた地獄の惨状に晒される妹の姿など、想像するだけで吐き気がする。

 

そして、例えスミがこの場にいても、この手汗が収まるはずもない。ひたすらに強靭な月の兵隊だろうと、街まで来れば流石にその管轄から外れるだろう。追ってこないだろう。そう思っていた。

 

甘かった。現実に存在する月の世界は、我々人類が想像した儀来河内のような神の世界ではない。全ての住民を兵隊が補完し、その戒律の外なる人間が現れれば抹殺するという地獄郷。民宿などもなく、決められた戒律の中で生かされる。

 

これが月世界イナバ、竹取物語の真実。夜は桃服の兵隊が徘徊し、許可を得ずに外に出る人々を斬り殺す。深夜の寒さが身にしみ、更にスミへの心配が心拍数を上げ、次第に身体の調子も狂わせる。

 

心配するよりも、今は回復に専念せねば助かる命も助からぬとリネアは私に囁く。しかし、今スミが石抱きの拷問などを受けていたらと思うと、不安で吐き気がする。

 

のどが渇く、腹が減る。力など湧いてくるはずもなく、腹の虫が鳴けばそれが遺言となる。

 

「…野宿はやめたほうが良いです。寝れば、それがこの世で見る最後の光景となりますよ。」

 

不意に背後から、少し懐かしいような声がした。振り向くと、何日かぶりに見た金色の髪と、青く汚れた眼差しがそこにあった。しかし彼女はいつものような緑色の軍服は着ておらず、代わりにどこからか仕入れた紫の着物を羽織っている。

 

「街の外れに、脱法ですが曰く付きの者を相手に宿を営んでいる場所があります。こっちへ。」

 

彼女が何故ここに、そんなことを聞けばもう用済みと殺されてしまうような気もした。疲労がたまっているとはいえ、あれだけの戦闘力を見せたリネアを手刀一発で仕留め、彼女は今はリネアを背負っている。腹の虫が抑えきれず、疲労も限界。私はおとなしく彼女の言う通りにした。

 

彼女は私やにとりには自分で歩けと言って、既にリネアと同じ方法で仕留めた、街の外へ通じる道の門番を背に街を抜け出す。

 

街の外へ出れば、もう兵隊は居ませんと彼女は私に呟き、私達に彼女が野宿しようとしている場所まで案内した。

 

「あれ、宿を取ってるんじゃ…」

 

「服を預かっていただいているだけです。そもそも、敵兵のいるかもしれぬ場所で他人の釜の飯を食い一晩を過ごすなど、自殺行為に過ぎません。敵兵のスパイが毒を持っているかもしれませんし、寝ている間に最期を迎える兵がいる事もしばしばです。蓮子さん、兵士にとって、吸う空気、触る地、命令以外の音声、肉体のシチュエーション、味方兵への余計な感情移入、その全てが敵です。特に味方兵への余計な感情移入は、その兵隊への侮辱です。あなたは少し、目の前のニンゲンを疑った方が良いかもしれません。」

 

「…いや、私もにとりも、兵隊なんかじゃないですよ?」

 

「ふふ、そうでしたね。しかし、明日からあなた達がこの世界で菫子さんを救うために月の兵隊と戦うのならば、私達兵隊と同じ覚悟をしておいても怯え過ぎではないと思い…」

 

ルイズは私とにとりに少しばかりの愛想笑いをしながらそう話す。しかし、その直後すぐに話すことをやめ、後方に拳銃を何発も撃つ。私が何事かと聞いても彼女は答えず、弾切れになるまで拳銃を撃つ。その後しばらくして、ルイズが私達に伏せるよう促す。

 

月の兵隊につけられている。促されたすぐ後で、この竹が敷き詰められた野外にそぐわぬ物凄い銃声が私達の背後で響く。

 

鈴仙だ!私達がそう気づいた後ですぐに、ルイズは銃声のした方向へ銃を放ち、その後で私達の元から離れ、鈴仙の仲間を撃ちに向かう。

 

鈴仙の仲間である月の兵隊が彼女めがけて刀で斬りにかかり、鈴仙がそこに銃で追い打ちにかかる。鈴仙の銃撃の音が聞こえると、彼女はすぐさま物陰に隠れる。その後、銃声が止まないにもかかわらず、的確に月の兵隊の一人を撃ち抜いた。

 

数秒後、すかさず彼女は一人の兵隊を捕らえ、彼を盾にして後ろの二人を撃ち抜く。捕らえた兵隊は地面に投げ捨て、心臓に銃撃を二発。そのまま銃を撃ち、もう三人も仕留める。

 

悔しいが、実戦経験が違いすぎる。彼女が居れば、恐らくスミも連れ去られずに済んだ。いや、レイクロクだって居た。彼が本気を出せば、これくらい何てことはなかった。ならば何故、彼はメリー側に…

 

決まってる。私達は別に月の人達と争いに来たわけではない。私は兵士などではないと先ほど言ったばかりではないか。

 

だが、どうすればいい。スミが居なくなって今はできないが、事実あんな扱いを受けたのだから、別に無理をしてまで聞く必要はないだろう。もう次の世界へ向かった方が良かったのかもしれない。

 

どうすれば、この世界の人達と仲良くなれるのだろうか。仲良くなって、人造の妖怪のことを聞くことができればそれ以上のことはないのに…

 

「…さて、鈴仙さん。お互い残弾もキツイでしょうし、そろそろ普通にお話しさせてはいただけませんか?」

 

ルイズさんの誘いに、鈴仙は拳銃を向けながら、竹林の中から這い出す。大丈夫ですよ、とルイズさんは両手を上げ、彼女はどんどん間合いを詰めて行き、最後には彼女の額に銃口が当たる。

 

「意外ね。素直に殺されるなんて。それとも、処刑されるのがお好き?」

 

「ふふ、実は私、この体制でも避けられますよ?あなたの弾丸。」

 

「まあ…そうね。魔界の兵隊ならできて当然よね。私だってできるわ。」

 

鈴仙は、ルイズから銃口を外すと、今度は撃たないから出てきなさいと私達を呼ぶ。

 

あんな銃撃戦を見せられた後では、逆らう術などない。私達は立ち上がり、彼女の眼を見つめる。

 

「あんまり鈴仙の赤い眼を見つめない方が良いよ…操られるから。」

 

にとりの忠告を聞いて、私は彼女から視線をそらす。そうか、メリーから聞いたことがある。月の兎の瞳は人を狂わすから、絶対にその目を見てはいけないと。

 

「鈴仙…月を手を切ったんじゃなかったの?なんでまた、月の手先なんかに…」

 

「黙りなさい。宇佐見菫子の命が惜しくば、あなた達はおとなしく捕まれば良いの。」

 

話せば話すほど苛立ってくる彼女の冷たい吐く息。にとりは彼女の言葉に顔をしかめて抜刀する。

 

しかし、変に争えば本末転倒になる。私はにとりとの間に割って入り、彼女に自らの思いを伝える。

 

「…鈴仙だっけ?私達は、別にあなた達と争う気などない。私達がこの世界に着た理由は、ただの人探し。男か女かもわからないけれど、そいつがメチャクチャをやれば、この月の都だってどうなるか解らない。」

 

「月の都を守ることは我々の役目。あなた達のような下賎なトウキョウの連中に心配される筋合いはない。解ったら、さっさと両腕を上げて私の縛りやすいようになさい。」

 

彼女の眼は血の色で染まり、冷ややかな目線と吐く言葉はまるで冷凍庫で冷え切ったトマトジュースのよう。その月の危険は拷問部屋ででも聞きますと氷の礫を更に投げつけるように私に話し、私の心を更に圧迫する。

 

そして、命すら弄ぶもう一つのディストピアにも、ただひたすらに救いを求める少女が存在した。

 

星がきらめく世界、月世界とはまるで異なる眩しさ。ネオンが煌めく街の景色などに見とれている暇などなく、少女は素足で街をかける。

 

街には、家に入るためのいくつものエレベーターが存在し、遠くにはビルから伸びる宇宙エレベーターが伸びる。上空には情報を街に発信するためのカメラが飛び交い、いくつもの電子標識が行く道を照らす。

 

「どうかご無事でいてください…悟様!」

 

頬に涙を浮かべながら駆ける赤髪の少女は、白い半袖のシャツを羽織り、白い半ズボンを身につけている。

 

「おい、あの女…」

 

「ああ。間違いねえな。どっかの実験ネズミが抜け出したか。まあいずれにせよ…」

 

街には、何人かの灰色の服を着た人間がおり、彼らは少女の姿を見るなり一つのボタンを押した。

 

少女の前に、いくつものビームサーベルを持ったロボットが現れる。少女はロボットを見るなり引き返し、別の道を進む。

 

「どうしよう…捕まれば、また悟様に迷惑をかけてしまう。でも、このままだったら悟様が…!」

 

少女は唇を噛み締め、電子標識が何個もそびえ立つ街の中を抜けていった。

 

ネオンが眩しい街の空は、もはや意味をなさなくなっていた。




終盤の女の子が本編で出てくるのは結構後です。

追記:
蓮子:「座敷牢」って、和風の牢屋って意味じゃなくて、私用の牢屋って意味なんだね…
鈴仙:ふうん…そうなんだ。

言葉の使い方違ったみたいです。すみません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。