東方七世界   作:tesorus

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粉々に裂ける蓮の花

スミの不幸は結界の中にまで伝わる。魔界式の、時空を超えてもとばすことのできる軍用無線。無線としての機能の他にも、簡易的なメール機能を持つ。

 

「…ルイズからだ。菫子ちゃんが捕まっただけで、他はルイズがついてるって。」

 

「そう。すぐには殺されないでしょう?持っておけば人質になるでしょうし、仮にも殺していても生きていると嘘をついて交渉しているなどということはあり得ないわ。」

 

「だねえ。超能力者の虫の知らせは凄いからねえ。普通、虫の知らせってのは最期のオーラの破片が飛び散って、その人を思う人に引き寄せられて起こるものだけれど、スミの場合はオーラの総量が多いから、蓮子は確実に気づくはずだからね。」

 

メリーの住む境界は、簡易的な空間となっており、短期間ならば住むことができる。キッチンや風呂などはないが、メリーが生活の必需品を何個かをトウキョウであらかじめストックしてあるので、食料などにも数日は困ることはない。

 

「…お腹すいた。」

 

「カップラーメンと乾パンで良い?」

 

「…うん。」

 

未来都市の人民服にも、空腹を満たす機能はついていないようだ。鼓石はスミ達のことが心配でしばらくはメリー達とも一切口を聞かなかったが、ここにきて初めて口を開く。

 

「…ねえ、お姉ちゃんメリーって言うの?」

 

「そうよ。マエリベリー・ハーン。それが私の名前。」

 

「…勘違いだったら悪いけれど、私、あなたの名前をお姉ちゃんから聞いたかもしれないの。どっかのシステムの開発者の名前で、確か名前は…なんだっけ。」

 

「…知らないわ。きっと蓮子やあなたのように、よく似た誰かが居るのでは?」

 

「…うん、そうだよね。ごめん。」

 

鼓石の無邪気な呟きに、メリーは黙って食料庫を探す。しかし、彼女の心臓は彼女の心情に嘘偽ることなく正直であった。

 

一方私達は、その後野宿して一晩を過ごした。寝る直前にルイズは、二度くらいは寝ている場所が変わっているかもしれないが、その辺りは覚悟せよと言っていた。実際、私達は街の北側で眠っていたが、気がつけば潰えた一つの村にいた。

 

外には、高電圧の柵がかかっている。ルイズは火を起こし、そこで魚を焼いている。村には血の匂いが漂い、かつての村人の物と思われる肉片が転がる。

 

「…小さな村や集落が戦争に巻き込まれると言うことは、あまり珍しいことではありません。私の読んだ小説では、革命を目論む組織が集落を乗っ取ろうとして、かけつけた連合軍の兵士達と戦争になっていましたしね。」

 

「うん。でもこれは…」

 

「はい。戦争の犠牲というよりは、月の軍隊に滅ぼされたのでしょう。」

 

彼女はしばらくすると、焼いていた魚を一つ私にくれた。しかしその魚をよく見ると、どうにも食用とは言い難い色をしていた。

 

「これ…鯉?」

 

「はい、食べられなくはないですよ。マニュアル通りに調理すれば平気です。」

 

彼女の話を少しだけ疑いつつ、腹の辺りを少しだけかじる。魚に臭みはなく、普通に美味しい魚の味がした。思えば昨日から飯などロクに食べていなかった。

 

水は一度沸騰させて除菌した方が身体に無害ですね、と彼女は水が入った水筒を差し出した。そのせいか少しだけ温いが、菌の溢れる川の水を飲むよりはマシだろう。

 

他の二人はどうしたか、と思って周りを見回すと、リネアは輪に外れて一人で魚を頬張っていた。彼女は若干猫舌なのか、食べるまで少し鯉を覚ましていたらしい。

 

「リネアさんは、刺身にした方が宜しかったですね。」

 

「サシミ…?何それ。」

 

「魚の生身をカットしたもので、醤油というスパイスをつけて召し上がる料理です。」

 

「ちょ…ふざけないでよ!魚の生肉なんか誰が!」

 

「そうですか。意外に美味ですよ?」

 

まあ、確かに初め聞いたらそうなるよね。鯉の刺身ってどんな味するんだろ。

 

昨日凄まじい戦闘力を見せつけたリネアだったが、今こうして見ると、羽根が生えただけの綺麗な乙女だ。頭に光る天使の輪が、彼女の綺麗さを一層際立てる。

 

二人は、それぞれが生きる意味を持っている。リネアは大天使に役目を渡され、にとりは幻想郷の代表として人造の妖怪を見つける為に来ている。

 

私は、一体何をしているのだろう。思えば私には何もない。こんなよくもわからない連中と飯を食って、命がけでドンパチして。

 

やめたいのに、止められない。気がつくと私は、死にゆく人間を見るたびに羨ましいと思い、もしそれが自分であったならばと妄想して眠る。

 

朝起きれば、手と腕の付け根が赤く染まっている。今となってはかなりこれらのことが減ったが、昔は毎日のようにあったことだ。

 

スミには、私がニュースを見ているといつもバラエティ番組などにチャンネルを変えられたものだ。昔のそんな癖をどうにもこうにも止められず、彼女には「死」に関するものを全て遮断されていた時もあった。

 

昨日だって、去り際に死体を見ていたら少し変な気持ちになった。あそこで気持ちよさそうに死んでいる生物が、もし私ならば良かったのに。

 

自己犠牲なんかじゃない。紛れもない「死にたがり」だ。

 

そうだ、私は超能力者。体内をおかしなウィルスに染色され、オーラを操作できる人間の欠陥品。私は何をしているのだろう。どうして私はあの月の軍勢に囚われなかったのだろう。そうすれば激しい痛みと共に死の足音で欲情できるのに。

 

「…ねえ、ルイズ。」

 

「何ですか?」

 

「…その銃で、あの時のように私を殺してはくれませんか?」

 

「……笑えない冗談ですね。」

 

「安心してください、冗談じゃないんです。私、昔からずっと…」

 

私がそう言いかけたその瞬間、私の頬に張り手が飛ぶ。頬の痛みが身体に伝わり、痛いという感情が脳を刺す。

 

「…そうですか。それがあなたの本性ですか。生憎、私は死なないでと言うような生ぬるい優しさなど持たぬ非道な戦闘員です。そんなに死にたいのなら今すぐ殺してあげます。」

 

彼女が、手に持つ拳銃を私の首に突きつける。お望み通り、踊り狂いながら死ぬようにしてあげますと上等な文句を話し、私は目を閉じる。

 

月の夜明け前に、拳銃の音が鳴る。

 

本当に、これで死ねたのだろうか。私はどうなった?

 

死んだらどうなる?黄泉の世界など存在しないことはとっくに知っている。

 

結局、ロクでもない人生だった。生まれ変わるならば、せめてもう少しマシな生き方をしたい。

 

本当に生きていて無駄だった?何のために生まれてきた?ただの欠陥品な人生だった?粉々に裂ける蓮の花。今までの記憶が粒子になって降り注ぐ。

 

暗闇の空間の空気が頬を伝う。この世界は死後の世界か?

 

不意に浮かぶ、仲間の姿。私を見て笑ってくれるみんなの顔。

 

…違う!私は例え欠陥品だとしても、今の私はもう人間の感触を知ってしまった。一緒にいるだけで幸せな友達。また仲間と一緒にご飯でも食べて、一緒に遊びたい!

 

確かに、生きていて意味なんかない!私なんかが生きていても必要としてくれる人なんかいやしない!

 

だからなんだ、生きていることに意味なんかいらない!必要としてくれる人なんかいらない!一方的に遊びたくて何が悪い!必要とされていない命が生きていて何が悪い!

 

「…見つけましたね。」

 

死後の世界に居ると思っていた私の眼差しは、急に現実の私にリンクし、意識は現実の私と融合する。

 

「あれ…私、死んだんじゃ…」

 

「空弾です。目が覚めましたか?あなたが変な癖に構っている間に、二人は尖兵に駆り出しておきました。私達も行きましょう。」

 

もっとも、まだ死にたいのならば今度は実弾でと言われた。そうか、私は死んだ幻想を見ていたのかと、先ほどまで死んだと思って感じていた心情を思い出す。

 

私は彼女に礼を言って、月の都へ走り出した。

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