東方七世界   作:tesorus

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裏切りの弾丸「鈴仙・優曇華院・イナバ」

「…どうして、戻ってきたの?」

 

聞きたいのはこっちの方だ、と彼女を跳ね除ける。月の都について数時間、先に到着していた私、河城にとりは月の兵隊である鈴仙と接触していた。

 

今度は昨日のように捕まった訳ではない。私が彼女と話をしたくて、直接彼女に接触を図ったのだ。

 

「…わかるでしょう?裏切ったのよ。姫様も師匠も深月さんも欺いて月の手先になったのよ!知っているのに、何て物分りの悪い河童なの!?もう幻想郷には…キサラギには戻らないって言ってるでしょ!」

 

「…あなたがそんなことするような奴じゃないってことは、一番私が知ってる。あなたを最初に見た時は、魔理沙の死や妖夢が狂ったのがよほどショックだったのかななんて思ったけど、そんなことじゃあ無いよね。」

 

「煩い!!憎くないの!?私は幻想郷の裏切り者なのよ!そうよ、妖夢が狂わせたのも私!私が魔理沙を殺して、妖夢を能力で狂わせているのよ!信じないと言うのならば、あなたも狂わせて、二度とお仲間と仲良くできないようにしてやるわ!」

 

私に向かって怒鳴り散らす彼女の紅い瞳には涙が浮かび、「あの」妖夢など思い出したく無かったのにと言わんばかりに私を睨みつける。

 

幸いお屋敷の裏庭に呼び出したので人だかりができることもなく、今会話を聞いている者は私と彼女を除いてはいない。確かに、今の彼女は桃色の軍の装束を纏い、その姿は完全に月の手先だ。

 

だが、彼女の紅い瞳には、まだ幻想郷の住民である時の人間臭さが見てうかがえる。しかし、彼女の様子を見ている限りでは別にスパイなどではなく、本当に裏切ったことは確かだろう。

 

しかし、彼女には何かしら訳がある。幻想郷にいられなくなったほどの理由が彼女を縛り、幻想郷を思うが故の結果月の連中の側についた。そうとしか考えられない。あるいは、彼女が幻想郷を去ることで得をする人間か妖怪がいて、彼女はそれを察して幻想郷から姿を消した。

 

病を患う住民に薬の調合をして渡し、また時には師匠の代わりに手当もする。それだけではなく、彼女は時には金に困る患者を無償で診察し、治療する。そんな優しさを持つ彼女ならばあり得る話かもしれない。

 

「…どうしてこんな場所に私と一緒に来たの?今だって、私が月の軍勢をここに待ち伏せさせて居るかもしれないとかは考えないの?菫子さんを人質に、あなたに切腹を要求するかもとかは考えないの?」

 

「…考えないよ。鈴仙、良い人だからそんなことしないって分かってる。」

 

私は彼女の目をじっと見つめる。彼女は私のそれに気づくと、彼女は私から目を逸らす。この様子を見る限りは、そのようなことは無いようだ。もっとも、彼女がそのようなリスクを話していると言うことは、とどのつまりそういうことだろう。

 

妖夢は、狂いながらもずっとあなたの帰りを待っているはず。そんなことを話すと、彼女はもうやめてと私を振り切り、私に刀を向ける。

 

「…やっぱり、何かあるんだね。」

 

「そうよ!帝は幻想郷や我々の世界を脅かす存在が幻想郷に居ることを知っておられる。私はそのことでこっちに戻ってきたの!私がいれば、きっと月軍が幻想郷に侵攻すると言う計画も…」

 

しまった。彼女はそういうような顔で私に月軍の秘密を漏らしかけた所で口を押さえ、あなたのせいよと私に再び怒鳴り散らす。

 

「…追求はしないでおくよ。他言もしないから安心して。喋ったら、鈴仙が処刑の話でしょ?」

 

私が彼女に語りかけた時には、既にその姿は完全に消えていた。

 

もう幻想郷はお終いかもな、私は誰にも聞こえないように話し、蓮子達と合流すべく街へと戻った。

 

街は古き良き世界を醸し出す街並みが広がり、その姿はどこか幻想郷の人間の里に似ているようだ。しかし、人間の里とは大きく異なることがいくつもある。

 

理想郷とは決して言えない厳しい監視。街の至る所に盗聴の魔法具が浮き、住民の話は全て月軍に漏れている。出入り口の監視も厳しく、許可なく出入りする者は囚われる。

 

「どうします?別に月軍やこの国の陛下などどうでもいいのならば、菫子さんを取り戻し、さっさと帰ると言うのも手ですが…」

 

「駄目だよ、ちゃんと月の人達と仲良くならなきゃ…あなたの昨日のようなことは絶対に間違ってる。」

 

「そうですか…同じ世界の人間だからでしょうか。あなた、結衣さんによく似ている気がします。」

 

「けっ、そんなに帝と和解出来りゃあ苦労しねえよ。」

 

私、宇佐見蓮子とルイズが街中で話していると、急に影から声がした。ルイズはその声の主の強さに気づいたのか、彼に対して警戒を解かぬように私に耳打ちをする。

 

「…彼、なかなかの使い手ですね。」

 

「俺がか?さあね、臨在の君の方が俺の何倍も強いぜ?まあ、もう戦うこともないけどな。」

 

離反したんだ、彼は吐き捨てて闇の中に消えた。私とルイズは後を追うが、彼のことは見つからない。しばらくすると、右折してまっすぐ進みなと言う声が聞こえた。言う通りに進むと、寂れた薬局があった。

 

破れた暖簾に何もない入り口。誰が来るのか、と言った雰囲気の薬局だが、人々は行列を作っていた。

 

「ここが、反社会軍のアジトですか?」

 

「まさか、この街に反社会軍なんざ居ねえよ。ああそうだ。俺は夏冬ってんだ。昔は月兵だったが、今はただのヤブ医者。街の人間は俺の腕が良いと言うが、結局俺のやってることは永琳先生の真似事でしかねぇ。」

 

彼は愛想よく一室を貸してくれた。合鍵も貰い、彼はまだ仕事があるからとその場を後にした。

 

部屋には火種や風呂場もあり、なかなかいい部屋である。敵軍の支配下にある住民の部屋になど誰がとルイズは初めは躊躇していたが、私が荷物を置いて風呂場に直行すると、緊張感の無い人と呆れてその場に留まってくれた。

 

「…あなたはつくづく兵士向けではないですね。」

 

「だからぁ、私は兵士なんかじゃないの!」

 

久しぶりのお風呂、そう思いながら手で湯船の温度を確かめる。私の家よりも温めだが、まあ今はお風呂に入れるだけで極楽と言ったところか。

 

いざ入ると、身体全身にお風呂の気持ちよさが染み渡る。スミやにとりには少し悪いが、こんな場所ならばいつまでも居たいと思ってしまう。

 

風呂場はヒノキの良い香りがする木製であり、湯船も申し分ないくらいの広さはある。夏冬さんの風呂場だからオヤジ臭い物ばかりと思いきや、彼の妻の物なのか女物の洗面具もある。

 

私はそれらしき洗面具を使って身体を洗ってから湯船に入った。

 

「…それにしても、夏冬さんの「帝と和解できれば苦労しない」ってどういうことなんだろう。」

 

お風呂に入ると、要らないことを考えてしまうのは私も例外ではない。恐らく、帝と話すことなど到底無理と止めるだけの台詞だろう。しかし、本当にそれだけだろうか。

 

苦労しない、それは彼が月兵であった頃に帝と何かをしたという台詞にも聞こえる。

 

…過去に、帝と何かあったのだろうか。

 

「…知りたいか。」

 

風呂場の外から声がした。私は急な男性の声に驚くが、彼は扉の向こうだ。私は彼が私の近くまで来たことに下心が無いと信じ、彼の問いかけを無言の返答で返す。

 

「それにしても、お前は本当に疑うことを知らないんだな…俺がお前達を泊めてる隙に、なんてことは考えないのか。」

 

「…考えませんよ。あなたはそんな人間に見えませんから。」

 

「そうか…」

 

「それに、そんなことをわざわざ聞きに来てくれると言うことは、つまりそういうことでしょう?」

 

扉を隔てているので彼の表情や仕草は見えないが、彼は無言でうなづき、私の言葉に感謝の気持ちを秘めた。そして彼はそれを踏まえた上で、私に少しは人を疑った方がいいと忠告してきた。

 

「…正直、人を疑うことには疲れました。今まで、たくさん人を突き返して来たので。」

 

「…そうか。だが現に、俺の娘は月軍の兵士だ。ここはそいつの家でもあるから追い返す訳にもいかねえ。俺はそんなことはしねえが、そいつが来たらどうする?」

 

「それはあくまで、あなたの娘さんの話です。それと、私は別に月軍と戦う気はありません。かと言って、彼らに捕まる訳にもいきません。むしろ娘さんが丸腰で来ていただければ、話がしたいくらいです。軍としての仕事でなければ、彼らは丸腰でしょう?」

 

彼は私の意外な返答に、邪気の無い笑みを浮かべてうなづく。もうこいつには何を言っても私に無害で返されると彼は察し、彼は最後に一つを私に話す。

 

「そうか、やめときな…と言ってもお前は聞かねえだろうな。わかった、それ以上は何も言わねえ。事実娘は…春秋は丸腰だ。食材は置いておくから好きにしな。」

 

風呂場から彼の影が消える。私もこれ以上入っていたらのぼせてしまうと風呂場を出る。

 

ならばこの洗面具は春秋さんのものか、と呟く。一度遭ってみたいなと思いながら身体を拭いて部屋へ戻った。




さて、魔理沙は誰が殺したのか!?妖夢が狂ったのは何故!?

なんかサスペンスっぽい…?

あと、実はルイズが昨晩春秋を殺してたんだ!ってのは無いので安心してください。
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