東方七世界   作:tesorus

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起動する未来都市

やっぱり、見捨てられない。そう思って結界を飛び出したのは、夕方の月世界であった。

 

囚われの菫子、蓮子達は行方知れず。この状況に耐えかねた私は、メリーやレイクロクには何も言わずに外へ飛び出した。

 

大丈夫。私には時空を超えるアイテムがある。いざとなれば、それでメトロポリスに逃げれば良い。そうすれば、みんなに迷惑がかからずに済む。

 

ひたすら駆ける夕方の森。街は遥か遠く。私の脚ならばどれだけ走ろうが疲れることなどない。私は、そう創られた。

 

《止めときなよ。人間はどうせ裏切る。だから余計な御世話をしたって時間の無駄って話だよ?》

 

頭の奥で、生まれる前に聞いた言葉が繰り返される。だが、私はそんなものには従わずに走り続ける。

 

それはあくまであなたの話。私には私の事情がある。幾つもの竹を抜け、ひたすらに蓮子達がいる場所へと手を伸ばす。

 

行けども這えども同じ景色。角一つ曲がるだけで景色が違うメトロポリスとは大違いだ。

 

一つ間違えれば、私も菫子と同じように捕まってしまう。それを考えるだけで震えで心臓がうるさくなる。

 

しかし、その私の脚は一人の男によって止められる。

 

「やれやれ…一体どこへ向かおうと言うのですか?」

 

誰かの声がした。私は立ち止まり、月の兵隊かと思って涙を一粒流した。しかし、もうダメだと思い、逆に絶望したという意味での落ち着きを取り戻すと、その声が知り合いのものであると脳が認識するにまで至る。

 

「デールさん…」

 

私は安心して、彼が心配する中で一粒流れた涙を最後まで流し切る。

 

私と同じ服を着た男、デール。とは言っても、灰色のスカートをはいた私とは違う男性用の人民服を着ていて、ズボンを履いているが。彼は私の姉であり、私の世界の科学者だ。男は私を軽々と持ち上げ、探したのですよと私の頬をさする。

 

「なんで探してたの…?お姉ちゃんに何か言われたの?」

 

「はい。とは言っても、少し様子を見てくるよう古明地博士に言われただけですがね。彼女は心配性ですから。それで、いかがなさいました?」

 

私は彼に、友人がこの世界の組織に囚われてしまったことと、友人達は他世界を脅かすとされる妖怪を探していることを話した。

 

蓮子は私の世界を毛嫌いするが、私からすればメトロポリスは私の故郷だ。デールさんや他の科学者達を出し抜くことはできない。

 

「なるほど…残念ですが、妖怪の件については協力いたしかねます。私は主に機械の開発が専門なので、よく解りません。」

 

「…まあ、そうだよね。ごめんなさい。」

 

「いやいや、謝らねばならないのは僕の方ですよ。しかし、鼓石さんのご友人の話ならばお手伝いしましょう。」

 

私が謝ると、彼は私がはめている腕輪を操作して、自身の腕輪とリンクした。腕輪をちらりと見ると、「UPDATE ver4.85」の文字。

 

「…アップデート?」

 

「はい。ジャック博士の玄孫であるフリク・ヘルラーが、ディメンション・ムーバーをアップデートしたのです。これによって、4.84版では限定的であった物品のデータ保存が自由化されます。」

 

「…うん。」

 

「これに加えて、あなたの腕輪には三つのアイテムを加えておきます。どうしてもという時にお使いください。」

 

「…うん、解った。」

 

それだけ渡し、アップデートが終わると、彼はメトロポリスに帰ってしまった。腕輪のメニューを開くと、確かに三つのアイテムが内臓されている。

 

一つはイービル・キラー。どんなに肉質の固い妖怪であっても、刺せば簡単に心臓を貫く硬さを持つナイフ。

 

もう二つは、アビリティ・ライフとマシンアール・アルファ。マシンアール・アルファの説明欄には使えば分かるとデールさんからメッセージがあった。

 

私はそれらを確認し終わると、再び月の都へ走り出した。

 

見慣れない竹林。嗅ぎ慣れない草むらの匂い。都会育ちの私にはまるで縁のないこの景色が、さらに私の心臓を逆撫でる。

 

「はぁ…疲れた疲れた。もう侵入者なんて、とっくに帰ってるんじゃねえの?早く帰って寝てえな…」

 

「馬鹿!敵の前で醜態を晒すなど、誇り高き月の兵隊にはあってはならないぞ!ちゃんと見張れ!」

 

「はいはい。まあ減給されても困るしなあ…」

 

私達のせいだろうか。月の都の監視は更に固くなっており、見つかりそうになるところをギリギリで切り抜けていく。

 

彼らが他愛ない話をしていたから切り抜けられたが、彼らが注意を配っていれば間違いなく見つかっていただろう。これから先、こんなことはいくらでもあるかもしれない。あの兵隊の女の人は、こんなことを毎日繰り返してきたのだろうか。

 

…ちょっと憧れちゃうかも。

 

女の人のカッコよさへの憧れと、濁った怖さから心臓が早く鼓動し、死にそうになるたびに大丈夫だからと自分に言い聞かせる。

 

私の目指す月の都は、ちょっとだけ寂しげな闇に染まりつつあった。

 

そして、月の妖鳥に化猫の幻が彷徨う月の都は、蓮子達にさらなる残酷な試練を与える。月の都は、いついかなる場所であれ侵入者に癒しの時を与えない。唯一例外があるとするのならば、それは牢屋の中であろう。

 

夜人間達がすることと言えば食事、それから洗面。人々の生活には欠かせないひと時である。それは私、宇佐見蓮子も例外ではない。流石に夏冬さんの家の中ならば兵隊は居ないだろうと思い、全裸で洗面所まで向かった。

 

しかし、私は一つ重要なことを忘れていたのだ。

 

「……あ。」

 

洗面所で、私は16歳くらいの少女に出くわした。彼女は丁度風呂から上がって、身体を拭いていた所であった。

 

少女はどことなく夏冬さんに似ている。黒い髪にブラウンの眼差し。側には綺麗に折りたたんだ月兵の軍服と、二本の刀。

 

「ご…ごめんなさい!」

 

ルイズを連れて、速攻で服を着なおして夏冬さんの家を飛び出す。だから言ったでしょうと呆れるルイズの言葉を背に必死に逃げるが、背後からは先ほどの少女が軍服を羽織りながら追いかけてくる。

 

全裸を見られて怒っているのか、私達を捕まえようとしているのか。どちらにせよ、捕まったらお終いだ。しかし、彼女の物凄い速さを前には敵わず、もう目と鼻の先まで彼女は迫る。

 

「ねえ!もうちょっと速く走れないの!?」

 

「それはどっちの台詞ですか?私が本気で走ったら、あなた追いつけませんよ?」

 

そっか。そうだよね。私はたった一つの強がりも跳ね除けられ、自分の運動神経の無さを嘆く。もちろん月の兵も黙ってはいない。私の背中を刀で斬りつけ、背中を貫く痛みが身体全身に染みる。

 

痛みから発する謎のオーラ。それは身体全身を触り、とうとう痛みで息が出来ぬほどになり、走ることもできなくなる。

 

「…結構あっけなかったわね。」

 

少女は私を後ろ手に縛り、しばらくすると私に立てと命令してきた。

 

「逃げるなんて無駄だから、大人しく捕まれば怪我しなくて済んだのに。」

 

「ま、待って…」

 

冷酷な眼差しを向ける彼女に、命を振り絞って声を出す。すると彼女は私の方を見て、相変わらずの視線を送る。

 

「は…春秋さんですよね?ずっと逢いたかったんです…夏冬さんにあなたのことを聞いて、それで話がしたいって…」

 

「話がしたい?あなた達は都への侵入者。犯罪者に開く口など無いわ。」

 

「ごめんなさい、知りませんでしたで済む話ではないとは解ってます。ですが、私達も急いでいるのです。一刻も早くことを成さないと、後々大変なことに…」

 

「急いでる?何を?」

 

「幻想郷を脅かそうとしている、人造の妖怪を止めたいのです。でなければ、幻想郷が新しい世界となり、既存の世界の法則が乱れてしまうのです。」

 

「既存の世界?そうなれば、月の都も壊滅してしまうと言うの?」

 

「…信じられないかもしれませんが。」

 

私の答えに、彼女は少し口を止めた。しばらくの沈黙の中で、背中だけがじんじん痛む。

 

断られば死。しかし、こんな地獄の駆け引きをせねば月の人間と和解することはできない気がした。彼女は私の汗ばんだ真っ青な顔を見て、嘘はついていないみたいねと困ったような顔をする。

 

「…仕方ないか。」

 

「ゆ、許してくれるんですか?」

 

「知らない。とりあえず、依姫様の所までは通すわ。ただ、依姫様が殺せと言えば殺すし、捕らえろと言えば無条件で捕まってもらうから。」

 

ついてきなさい。私のロープを解き、春秋さんの後に続く。途中から、どこに逃げていたか解らぬルイズが大丈夫そうですね、と言って私の後についてきた。

 

彼女がついていれば、月兵達も攻撃してこない。代わりに彼らは春秋さんに驚き、心配して声をかける。

 

「時灘先輩!なんですかその格好!」

 

「…ああ、ちょっと取り込んでてね。それよりさ、門番に門開けてもらってくれない?お客さん呼んできたって。」

 

「は、はい!解りました!」

 

それからしばらく歩くと、月の館への門が開いていた。

 

城から響く三味線の音。それを聞きながら、私は夏冬さんの言っていた一言、帝と和解できれば苦労していないと言う言葉を思い出していた。

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