東方七世界   作:tesorus

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弓から出る血が止まらない

今から数時間前の、まだ日が昇っていた頃の話。

 

冷え切る茶屋の空気。そんな空気も知らずに、抹茶は一人でに暖かい空気を吐き出していた。

 

「お母さんが殺されたって…」

 

「仕方がないのです。母は元から勘が鈍かったので…別に、人殺しとかではないです。ただ、帝様が街をお通りになる際に頭が高かったので…」

 

彼女は申し訳なさそうに頭を下げ、再び他の客へお茶を出しに行った。暴君じゃない、と吐き捨てて胸糞が悪いような顔をリネアがすると、彼女はそんなことを言ってはいけませんとリネアに忠告した。

 

それからしばらくして、店の中からはだんだんお客さんが居なくなっていき、最後には私とリネアだけになった。

 

「…すみません、申し遅れました。私はお弓と申します。知っての通り、ここの茶屋の店主をつとめております。」

 

「あ…はい。先ほどは申し訳ございませんでした。私は河城にとりと申します。で、こちらはリネアと言います。」

 

「りねあ…さん?えっと、漢字はどう書くのですか?」

 

「カンジ?何それ。スペルならR、I、N、E、A、Rよ。」

 

「すぺ…はい?」

 

どうやら、リネアとお弓さんはカルチャーショックに相当悩まされているらしい。彼らがそんなことを話している間に周囲を見渡していると、一つの絵に私の目が止まった。

 

一人のスーツ姿の少女。名こそ書いていないが、少女のことをどこかで…いや、今日見たような気がした。私のよく知る人。私達の大切な仲間…

 

「鈴仙…」

 

私が彼女の名前を呟くと、お弓さんはリネアとの会話を打ち切って私に応じるように、ご存じでしたかと返した。

 

「それ、昔の月の侍さん達のお召し物だそうです。前に私の友人が連れてきてくださって、私はそれっきりですね。」

 

私は、彼女のことを語るお弓さんを無視して、ずっと幻想郷の頃と変わらない彼女の絵をみていた。その見飽きたスーツ姿も、今となってはひたすらに愛おしい。

 

《煩い!!憎くないの!?私は幻想郷の裏切り者なのよ!そうよ、妖夢が狂わせたのも私!私が魔理沙を殺して、妖夢を能力で狂わせているのよ!信じないと言うのならば、あなたも狂わせて、二度とお仲間と仲良くできないようにしてやるわ!》

 

先ほどの彼女は、本当に苦しそうであった。事実、妖夢の狂いっぷりは明らかに彼女のせいではないと解るのに、彼女はその罪を被ろうとした。

 

妖夢の狂いっぷりは、鈴仙が狂気を操った時の狂い方ではない。恐らく、あの彼女の様子と魔理沙の死体からして、魔理沙を殺したのは…

 

それを鈴仙が知ったらと思うと、彼女は一体どこまで堕ちていくのだろう。

 

「…鈴仙、どんな様子でしたか?」

 

落ち着いた様子をポーカーフェイスで作り、お弓さんに語りかける。

 

私は、この世界に帰ってきた後の彼女をほとんど知らない。幻想郷に帰ってきてほしいと言えば、また苦しめてしまうことは間違いない。

 

だから、せめて彼女がここで幸せならばそれでいいかもしれない。紫には悪いかもしれないが、彼女のいつまでも幻想入りした人々を幻想郷にがんじがらめに縛り上げることは理解できないし、彼女にそんな権利もない。

 

「私ならここに居るわ。」

 

そんな時、茶屋の入り口から声がした。聞き飽きた声の先にいたのは、先ほど出会った赤目の少女。

 

見ると、お弓さんは茶葉を出しに奥に行っていた。こんな姿を彼女が見たら、一体どう思うのだろうか。

 

彼女はその赤い目を光らせ、私のことを冷たい目で見下す。他の仲間は?と私に話し、刀を私に向ける。

 

「鈴仙…」

 

「何?」

 

「鈴仙は、今楽しい?」

 

「……え?」

 

私の突然の発言に、戸惑う鈴仙。それもそうだ。下手をすれば命を落とすこの状況で、そんなくだらないことを聞いている暇もない。

 

「楽しいならいいんだ。鈴仙が向こうで嫌なことされてるんじゃないかって心配だったから…」

 

ダメだ。私にはやはり仲間は斬れない。どうも昔からそういうことは苦手で、他の妖怪達のように異変を起こして悪さをすることなんてできない。

 

「…そっか。なら、もう良いや。好きにしてくれれば良いよ。スミの所に連れてってくれても、この場で斬ってくれてもさ…」

 

私のその言葉に、鈴仙は刀を下げる。彼女は冷たい視線を向けたまま、入り口から私達に近づき、目と鼻の先にまで迫り来る。

 

「…そんなことを言えば、私がこの場で殺さないとでも思っているの?あなたを哀れんで、今朝の恩もあるとかで見逃してくれると思ってるんでしょ?」

 

「いや…それに、今朝のことは、完全に私が悪いしね。」

 

「そう。なら、お望み通りに。」

 

鈴仙が、私の首に刀を当てる。私の首から流れる血液が彼女の刀を濡らし、次第に私は痛みを感じるようになる。

 

…その時だった。

 

「ねえ、待って…何の音?」

 

リネアの声に、鈴仙は私から刀を離して耳をすまし、おかしいわねと不思議そうな顔をした。

 

ここまでが、先ほどまでの話。これからの話は、今私が直面している状況の話になる。

 

私にも聞こえる、大量の足音。しかし、それは聞こえるか聞こえないかというほどの大きさであり、いくら月の兵士と言えど、これほどまでに静かに歩けるものだろうか。

 

「鈴仙、大変よ!見たこともない服を着た人達が!」

 

異変を知り、お弓さんが慌てて帰ってくる。彼女の話を聞いて外へ出ると、街の住民達は慌てふためき、月の兵隊達は住民を誘導しながら、街をロボット達から守っていた。

 

ロボットの近くには、見覚えのある服を着た人達が何人もいる。彼らはロボットを操り、邪魔者を排除しながらどんどん城へと詰め寄っていく。

 

不意に、私の脳内に碧髪の少女が浮かぶ。そうだ、彼らは彼女と同じ服を着ている。ということは…

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ですって!?街が襲撃を!?」

 

城内は、騒乱の中にあった。突如として現れた巨大なロボット達。その中では死者さえ出ていないものの、月の兵士達などでは敵わないほどの力量を持つ。

 

混乱する月の兵士達。私達は依姫さんの元にいて、とりあえず縛っておきましょうと言われ、縛られた状態で月兵の寝床にいる。

 

「…ふん、焦るようなことでもないわ。平和ボケしたあんたらにはちょうど良いウォーミングアップじゃない?」

 

彼女の出撃の合図と共に、月の兵士達は街へ走り去る。先ほどまで花札や百人一首で遊んでいたとは思えないほどの速攻に、私は一体彼らとどれほど実力の差があるのだろうと痛感させられる。

 

「さて、私達は手薄な城内を守りますよ。」

 

隣に縛られていたルイズはいつの間にかロープから抜け出し、依姫に共闘を誘う。

 

「…仕方ないわね。春秋!」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

春秋は私の縄を解き、私に笑いかける。

 

さっさとメトロポリスの刺客を止めねば、大変なことになる。目的が何かは知らないが、私達も彼らに尋ねたいことがあってここまで来た。

 

…全部、話してもらうからね。

 

顔も声も知らない人間を期待して、私はこんな時だというのに少しだけ笑っていた。

 

しかしそんな時、街中でメトロポリスを迎え撃つ仲間がいることを、私やルイズは知らなかった。全ては仲間の故郷の為。彼女らはメトロポリスの人間を鎮めようと立ち向かっていた。

 

「ここから先には、行かせない!」

 

鼓石と同じ服を着た女性、トア。発言からして、今回のロボット騒動の首謀者は彼女のようだ。彼女は私、河城にとり達の前に立ち塞がり、余裕そうな表情で私達を見る。

 

「ふうん。ウサギのお嬢さん以外の二人、この世界の人間じゃないの?トウキョウにブラッドね…良いサンプルが取れそうだわ。」

 

女性は腕輪を通して私達を見ながら微笑む。周りの民衆などには目もくれずに自らの欲望のままに動く。やはり慧音達の言っていた通りの連中だ。

 

こいつらのせいで、幻想郷は…

 

「その威勢、いつまで続くかしら!」

 

真っ先に動いたのは、リネアだった。しかし、彼女が弓を引いてトアに矢を放つと、トアの目の前で輝く矢は消滅した。

 

「えっ……」

 

「アビリティ・ライフ。即死級のダメージを無効化する。残念だったわね。」

 

即死級のダメージ。リネアはそんな彼女の説明を聞く暇もなく、彼女は更に無駄な攻撃を次々に打ち込む。

 

おそらく、先ほどの弓矢は彼女の中で最弱の攻撃。私達ならば当たっても致命傷にはなりにくいが、生身の人間が受ければ命に関わる攻撃。

 

つまり、彼女の攻撃は全て機械によって致命傷と認識され、バリアで無効化される。彼女への攻撃は、本当に微弱な攻撃以外通らない。

 

…自体は最悪。妖怪が人間ごときの兵器に負けるなんて。

 

自分達が「弱い」ことをこんな風に利用するなんて…!

 

私はリネアと鈴仙にひとまず退くように伝えるが、彼女達はプライドが許さないと攻撃をやめない。

 

「はぁ、つまらないわね。スリープ・ジェイルで終わりっと。」

 

トアの一言に、リネアと鈴仙は一瞬にして意識を失う。彼女の言葉の前で、そんな私も段々意識が朦朧としてくる。

 

「スリープ・ジェイル。相手の疲労状態が高いほど効果があるガス状魂幽閉具よ。パスワードを本人に呟かない限り、脱出は不可能ってアイテムね。」

 

彼女の説明を聞く頃には、私は力を抜けばすぐに眠ってしまうほどの意識状態にいた。

 

私は、彼女のスカートを掴むだけで精一杯であった。ついにはそれも跳ね除けられ、もう…

 

「パスワードは、ZERO-infinity!」

 

……え?

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