東方七世界   作:tesorus

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一発で決めろって言われてるから

闘技場は、銃撃戦をしやすいように仮想フィールドが敷かれている。城内には結界が張られているので、城を傷つける必要もない。

 

…馬鹿な女だ。銃撃戦で私が民間人に負けるわけがない。てっきり向こうはルイズを用意してくるのかと思ったが、やはり逃げた小鳥は帰ってこない。せめて腕の立ちそうな奴を送り込んだのだろうが、それでも私にはかなわない。

 

しかし、彼女はどこにいる。まるで姿を見せないのならば、銃撃戦のしようがない。

 

いや、彼女はど素人。銃撃戦など怖くて仕方のないはずだ。ひょっとすると耐えきれず、もう自殺しているかもしれない。

 

まあ、まだ潜んでいる可能性もある。慎重に試してみるさ。私は仮想フィールドの街を徘徊し、周囲の様子を伺う。

 

この月兵を鍛える仮想フィールドには戦場が模されているので、荒れ果てた空気や人の死体のレプリカの匂いが漂う。本来ならば、ここは月兵のサバイバルに使われるフィールド。私達の庭のようなものだ。

 

これだけの広さだ。彼女も相当困惑していることだろう。私は銃を構えながら必死に辺りの様子を伺うが、やはり肝心の彼女は見つからない。

 

彼女を探しながら、廃屋の中に隠れる。朝から何も食べていない性で、腹の虫が煩い。この音を彼女に聞かれては不利になると私は察し、近くにある乾パンや何やらを貪る。

 

ここでトレーニングする兵士達は、決着がつくまで何日もこもってサバイバルする場合もある。それに備え、ここには住民の落とし物を模して幾つもの食料がある。味は悪いが、腹持ちは良い。

 

この部屋には誰もいない。このまま私だけが食料を貪って彼女の飢えを狙っても良いが、それだと私も耐えられるか解らない。

 

「っ…早く出てきなさいよ。」

 

正面衝突ならば、私が確実に勝てる。負けるとすれば、不意討ちしかありえない。

 

私に作戦は三つある。一つは、先ほど言った彼女の衰弱を狙う作戦。これならば、数日経った所で倒れた彼女の盾を撃てば終わりだ。

 

二つ目は、私が素早く動いて彼女を見つける作戦。はっきり言って、これが一番早い。

 

しかし、弱点もある。そうなれば私は真っ先に標的となり、試行回数を彼女に出すことにもなる。

 

いや、流石に私が素人相手に殺られることは無いか。だが、念には念を入れておく必要はありそうだ。

 

最後の一つは、私が街の真ん中にワザと出て狙われに行く作戦。相手が素人で、尚且つ拳銃ならば、私が感じることのできる範囲に来なければ当てられない。空寝でもしていれば油断するだろう。

 

さて、どれが一番適切かつ早いか…

 

いや、素早さを優先するのは死に損ないがやることだ。ここはやはり慎重にいこう。

 

銃を構えながら街を歩き、わずかな物音にも対応できるように耳をたてる。すると、不意にガサッという音がした。

 

…勝った。

 

やはり素人。あなたなんかに負けたりはしない。私は音のする方へと走り、壁を挟んだ向こう側に見える茶髪に銃を突き付ける。

 

「はっ、私に銃で勝とうなんざ百年早いのよ!それなのに、身の程も知らずに私と銃で語る?馬鹿じゃないの?…頭上げなさい。今降参するなら、臨在の君に終身刑で許してもらうように…」

 

彼女から答えは無い。自らが死体のレプリカに擬態できているとでも思っているのか。

 

こいつはお笑いだ。

 

「どう?そんなにショックだったんでちゅかあ?どうしまちょうかね〜。貼り付けで脇の下グリグリされるのがお好きでちゅか?それとも…」

 

彼女からの返答もない。ショックのあまりどうにかなってしまったのか。どちらにせよ、私の勝ちには変わりがない。

 

…どうせならば、もっと耳元で虐めてやろうか。

 

「もうそろそろ往生際が…」

 

私はそこで、物凄い恥ずかしいことをしてしまったことに気づき、全身を汗で染め上げる。

 

…それは、本当に死体であった。

 

「…嘘。」

 

これはマズいことをした。私は露骨に声を上げてしまい、尚且つ油断してしまった。

 

彼女は…いない。大丈夫だ。何だ、焦って損した。

 

そうだよね。素人だったらこんな場所で潜伏できる訳ないよね。

 

仕切り直し、仕切り直しだから。私は自分に言い聞かせ、再び彼女を探す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…それから、数時間の時が経った。案外彼女が襲ってくることはなく、私は廃屋で仮眠を取ったりもした。

 

探す所は全て探した。と言うか、流石にもう隠れる場所は無いだろう。

 

もしかして、本当に自殺した?そんな感覚が私を襲う。となると、もう私はここに居る意味がない。

 

私は、闘技場の外へ通じる扉をひたすら探して回った。これだけの時間潜伏していると、どうも東西南北を忘れてしまう。拳銃以外は何も持つなと言われているので、羅針盤も持っていない。

 

だが、どうやって彼女が死んでいることを証明する?実際、彼女は囚衣でここに居る。囚衣は和服。それじゃあ死体のレプリカと見分けがつかない。

 

いや、彼女は他のレプリカとは違い、銃を持っている。それならば、他のレプリカと見分けがつく。

 

よし、銃を持った死体を探そう。そうすれば、私のミッションは大成功だ。うん、善は急げだ。早く…

 

「……あれ?」

 

突如響く、鈍い銃声。その銃声と共に、私の身につけた盾から出る煙。

 

……嘘。

 

「私の勝ちね、鈴仙さん。」

 

決着がついたことを知らせるブザーが鳴り響く。それと共に私と彼女以外の仮想フィールドは消滅し、何もないフィールドに私と彼女だけが残る。

 

「…えっ?何が…何が起きたの?」

 

「すみません。私、普段はバイトで警察の元でスナイパーをやってるんです。とは言っても、危険な犯人を睡眠弾で眠らせるだけですがね。」

 

「……どこにいたの?能力、超能力使ったんでしょ!じゃなきゃ…無いか。臨在の君も見てるし…」

 

「ずっと近くから狙ってました。気配を絶つのはスナイパーの鉄則ですからね。あとは、あなたの足音に合わせて走り、あなたの息に合わせて吐いていただけです。」

 

「それじゃあ、私の死体への煽りも…」

 

「はい…でも、あまり細かいことは聞いてませんでした。恥ずかしいことだったのなら安心してくださって結構です。事実、私は一発しか銃に弾を入れてませんでした。」

 

「なんでそんな…負けたら、処刑だって言うのに…」

 

「わかりません。ただ、少年院で先生に教えられたのです。」

 

完敗だ。私がアマチュアで、彼女がプロだったんだ。マルチに鍛えなきゃいけない、しかも普段は銃を使えない兵士が、その道のプロフェッショナルとなんて…

 

「…一発で決めろって言われてますから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何、今更呼びつけて。」

 

呼びつけられたのは夜中の2時。もう逢いたくもない父親の顔をマジマジと見たのはいつ以来だろう。

 

彼は相変わらず、だらしない姿で私の前に立っていた。蓮子や菫子のことは許せても、月軍から裏切って、こんな場所で油を売る為に離反した父親のことは許せない。

 

「どうせ、月軍から脱退しろとか言うんでしょう!?馬鹿じゃないの!みんな勝手過ぎるのよ、あれだけ悪口言っておいて、さっきみたいになったら、結局兵隊に頼るしかないじゃない!」

 

父は何も言わない。代わりに彼は私のことを申し訳なさそうに見つめる。

 

「…馬鹿みたい、帰るわ。あなたも弓みたいに、仕方ないって従ってれば良いのよ。あいつなんて、母親のこと私が殺しても笑顔で居て…内心では私のこと、いつか殺してやろうとか思ってるのよ!」

 

「春秋、それは違う。」

 

「違わないわよ!父さんだって、どうせ月軍を殲滅してやればいいと思って、蓮子のこと匿ってたんでしょ!」

 

「春秋…お前は、死んだ人が何を願うか知っているか。」

 

死んだ人が何を願うか。そんなこと、復讐に決まってる。殺戮を繰り返した物への恨みを返すこと。それこそが死者の願い。だからこそ、心霊を見た人は祟られ、霊魂に呪われるのだ。

 

「…それは違う。」

 

「違わない!父さんだって、永琳って女の人が奪われて、その主犯の輝夜姫を殺そうと企んでたくせに!それが、彼女の願いだって信じてたくせに!私だって…今行けば弓に毒盛られて終わりよ…」

 

「…そうだったな。確かに、あの頃はそうだった。俺もそう信じていたんだ。やられたらやり返すってな。だが違う。死者が願うのは、復讐なんかじゃない…」

 

父親の綺麗事はもう聞き飽きた。私は耳を塞ぎ、うるさいうるさいと父親を振り切る。

 

しかし、何故かその後の父親の言葉だけは聞こえた。

 

「春秋…弓ちゃんは、ずっとお前のことを心配してたぜ。」

 

「…え?」

 

「弓ちゃん、街の外で月軍の死体が見つかったって知ったら、すぐにお前が巻き込まれたかもって泣いてたんだよ。今晩のことも…きっと心配してるんじゃないのか?」

 

「…嘘よ!そんなの嘘っぱちよ!」

 

「そうか…なら、自分で確かめな。」

 

そんなの、絶対に嘘。そんな思いとは裏腹に、私の顔は涙でボロボロになっていた。

 

私はもうその場に居るのが嫌になり、家を飛び出した。後輩の私の顔を見て驚く表情も無視してひたすらに街を駆けていたはずなのに、気づけば合わせる顔もない彼女の店。

 

…もういいや。ここに入ればどうせ私は刺される。刺されなくても、どこかで命を奪われる。

 

そう思って入った店の中。私は不意に視線を落とし、彼女を見て驚き、泣いた。

 

「…馬鹿!こんな…こんなことって…」

 

彼女が、最近いつもより早く客を店から追い出していた意味を、頭の隅で理解する。

 

傷だらけの彼女の指。彼女は疲れ果てて机の上で寝ていた。

 

机の上には、桜と枯葉の模様が入った下駄。側には、綺麗な白い朝顔の押し花。

 

死者が願うのは、遺された物への幸せ。いや、そんなんじゃない。

 

彼女は、私の知らない所で私よりも何倍も早く大人になっていたんだ。

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