「いやあ、ごめんなさいね色々と。」
私達が城を出る頃には、もう街には日が差していた。メリーを結界の中からサルベージしてきて、鈴仙さんがお詫びも兼ねて何か奢ってくれるというので、朝食は彼女にあやかることにした。
…本当は、謝らねばならないのは私達なのだけれどね。
レイクロクは、仕事があるとかでまたどこかに行ってしまった。まあ、居ないならば居ないで面倒な奴が一人消えて整々するというものだ。
「えっと、何か食べたいものはありますか?」
「ラーメン食べたい。」
「フィッシュアンドチップス。」
「私?えっと…BBCかな?」
「…えっと、この世界にあるものでお願いします。」
ちょっと待て、鼓石の口から凄いマズそうな食べ物が出た気がするのは気のせい?
てか、スミは朝からラーメン食べるつもりなのか。育ち盛りの高校生の胃袋は知ったことではないが、私は朝からラーメンなど食べられない。
結局、朝食に関しては彼女に任せることにした。聞けば、街の隅に朝食が美味しい店があるということなので、そこでご馳走してもらうことにした。
「あれ?そういえば、鼓石のお姉さんは?」
「もう帰ったんじゃない?お姉ちゃん忙しいから。」
「…そっか。」
正直、ここまで来れたのは彼女のおかげだ。あれだけメトロポリスの人間を目の敵のように扱っておいてあれだが、やはり彼女にはいつかお礼をしなければならない。
あの方法ではなく、真正の決闘であったならば、彼女には勝てなかった。銃だけの勝負ならば、大体の相手には勝つことができる。しかし、身体能力などを考えると、そんなことはあり得ない。
「そうだ、蓮子。これ、あげるよ。」
鈴仙さんは、不意に私に五つの弾丸が入ったカートンを差し出した。カートンには、取り扱い注意の張り紙がある。
「撃った人間に電流を流す、雷撃弾。これから先、銃で戦うならと思って持ってきたんだ。」
「…ありがとうございます。」
「あと…私もあなた達について行って良いかな?私なら力になれるし、幻想郷のケリは、やっぱり幻想郷の住民がつけないとね。」
臨在の君からも、あなた達の力になるように頼まれたんだよね。彼女は桃色の着物を靡かせ、私の背中を押す。
あれだけの力を持つ兵士が来てくれる。私は彼女の頼みに二つ返事で答えた。それからもう一つ、彼女と私達はもう仲間なのだから、敬語もいらないと言ってくれた。
店の中は、朝にもかかわらず混んでいた。鈴仙が紹介してくれただけあって、巷でもこのお店は評判らしい。
「さて、適当に頼んで良い?」
「うん。私達はよく知らないから任せるよ。」
「はいはい。」
彼女が店の人に注文してしばらくすると、見るものを圧倒させる懐石料理が運ばれてきた。任せるとは言ったが、流石にこれは鈴仙のお財布が心配になる。
「…お財布大丈夫?」
「なんとかなりますよ。お給料日前ですが…」
彼女の顔が若干引きつっている。そんな顔になるなら、無理して頼まなくてもよかったのにと思う私とは裏腹に、にとり達は何の躊躇もなく懐石料理に手を伸ばす。
「……あ!ちょっと!リネアそれは!」
リネアが凄い箸の使い方をしているので、慌ててそれを止めさせる。
そっか。リネアは箸使ったことなんて無いもんね。私が彼女に箸の使い方を教えても、彼女は上手く箸を使ってくれない。
私達が何気なく使っている道具を、彼らは使うことはできない。逆に、鈴仙にイタリアンなどを食べさせたら大変かもしれない。
こいつに箸を教えていたら、飯が冷めてしまう。私はリネアに箸を教え込むことを諦めて、自分の飯にありつく。
「凄く美味しい…」
私達の世界でこれを食ったら、一体何千円かかるのだろうか。適切な味付けと、魚や野菜の美味しさが身にしみる。
こんな時間が、いつまでも続けばいいのに。私は一瞬そんなことを思ったが、この幸せはあれだけの危険の上に立っていることを思い出し、その甘えを断ち切る。
「そうだ。メリー、次はどこに行くの?どこが近いのかなんて、あなたにしかわからないんだから。」
そうだ。私達は一体何をしているのだろう。気がつけば、人造の妖怪のことをすっかり忘れていた。
しかし、その心配は要らなかった。既に鈴仙がそれについて臨在の君を介して帝に聞いてくれたようで、帝は、悔しいが月にそんな物を創る技術もないし、そんなことをできるのはメトロポリスの住民くらいであると答えたそうだ。
まあ、確かに言われてみればそうだが。
「もう一つ、ありそうな所はあるけれどね。」
「…そうね。」
鈴仙の付け足しに、メリーは首を縦にふる。彼女達の合図に、にとりはその世界を察するが、あり得ないとその問いを跳ね除ける。
「だって、あそこの住民も人造の妖怪を探してるんでしょ?」
「いや、それはあくまであそこの政府の話。世界一つ一つは広いから、もしかしたら…」
鈴仙の答えに、私やスミ、それにリネアはやっと彼女らが言っている世界に気づく。
「蓮子、その通りよ。私達が次に行く世界は…魔界。魔界都市ミラークロス。」
私は息を飲み、その言葉を受け止める。
やっぱり行くしかないんだ。ルイズの故郷、国民皆兵を敷く真のディストピアに。
私達が、新世界へと足を踏み入れようとした丁度その時。彼女達が残してきた世界では、新たな事態が動こうとしていた。
この話をするには、今から十数年前の大事件を語らねばならない。場所は幻想郷の白玉楼。悲劇の少女、魂魄妖夢はいつものように修行に励んでいた。
「妖夢、少し休んだら?」
「いえ。まだこんなものでは、あの時のように師匠の足手まといになってしまいます。」
妖夢の剣の腕は、最凶覚異変の時に比べて更に上がっていた。師匠が、何も知らない河童の頼みに答えて武道を教えていることも、彼女には相当応えたのであろう。
しかし、悲劇への足音は確実に近づいていた。初めの足音がしたのは、本来ならばそれをかき消すべき場所である博麗神社であった。
「何?幻想郷に大きな異変が?」
「ええ。それで、それを倒す為の鍵が、存在しないはずの世界からの転生者よ。」
霊夢と魔理沙は、その異変に気付いていた。既に人ならざる者となっていた彼らの耳は、より異変に敏感になっていた。
しかし、霊夢と魔理沙の間にはあまり変化はなかった。魔理沙はいつものように霊夢に外の世界での出来事を話し、霊夢はそれに応えていた。
「で、その転生者ってのは見つかったのか?」
「いえ。でも、きっといつか姿を現すわ。」
「きっと…いつかって!幻想郷が滅んでからじゃあヤバいだろ!」
「そんなこと言っても…手がかりがない以上、動きようが無いわ。」
魔理沙は、いつも霊夢の行動の遅さにイライラしていた。彼女は結局異変を救ってくれる。だが、彼女がもっと早く動くことができれば、未然に異変を防ぐことだってできたはずだ。
魔理沙は、居ても立ってもいられず、せっかくここへ来たのだから、お茶でも飲もうと言う彼女の言葉を背に、博麗神社から飛び出した。
存在しないはずの世界。彼女はそれの目星は大体ついていた。神社を抜け、冥界への扉がある森の奥まで向かう。
「やっぱり、異変解決は私の方が向いてるぜ。」
魔理沙は笑いながら冥界へ向かい、かぶる帽子から汗を垂らす。やはり外の世界には行くべきではなかった。そんなことすら考え、救世主を迎えるための準備を始める。
しかし、そんな彼女が考えていないことが一つだけあった。
それは、彼女はもう二度と、幻想郷に戻ることは無いということであった。