東方七世界   作:tesorus

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トウキョウ編Ⅱ
虫の知らせ


魂魄妖夢は、何日かぶりに気分が良かった。

 

主である幽々子に、今日は調子が良いと褒められたからだ。

 

彼女にとって、これ程の幸せはなかった。彼女はその日の晩、張り切って夕食をたくさん作った。

 

全ては、幽々子に喜んでもらう為。料理も、最近開かれた宴会で出された酒肴の味が忘れられずにいて、作り方を霊夢に教わったばかりであった。

 

その日、幽々子は冥界での仕事があったので、幽々子は来ていなかった。だから、代わりに自分が作って喜んでもらおうと思ったのである。

 

…何故だか、急に不安が身をがんじがらめに彼女を縛り上げた。

 

おかしい。誰かとの約束を私が忘れているか、それとも何かやることを残しているか。

 

いや、鈴仙との約束は三日後であるし、今日は調子が良くて、芝刈りも掃除も全て午前中に済ませた。彼女はそんなことを思いながら、食事の用意をしていた。

 

もしかすると、食事の味付けを間違えたのかもしれない。それで第六感が気づき、反応したのかも。

 

しかし、彼女が味見をしてみても味は変わらない。醤油の効いた良い味がするだけだ。

 

その後、彼女はやはり気のせいかと思い、しばらくの時間を過ごした。慣れない料理を作って緊張しているのかもしれない。時が経てばこの不安も収まると、料理を作り置いてからはまた修行をしたり、風呂を沸かしたりした。

 

「ちょっと早いけど、もうお夕飯にしようかな。というか、もうこの時間なら幽々子様もきっと…」

 

幽々子様、その言葉を発した瞬間、急に何かが心臓を突き刺すような痛みを彼女は感じはじめた。

 

彼女は、その不安の正体に気づき始めていた。まさか、そんなはずは無い。彼女は青ざめた顔をして、幽々子のいる広間まで向かった。

 

しかしそこに、幽々子は居なかった。そこには、代わりに幽々子の着ていた服が置いてあった。

 

「そんな……幽々子様が、お風呂以外でこの服を脱ぐなんてあり得ないのに。まさか…」

 

彼女は、もう正気では居られなくなった。彼女は目の前の真実を受け入れられず、白玉楼の中を必死に探し回る。

 

大広間、台所、風呂場、屋敷の外。もしかするとお風呂に入ろうとしたが、洗面道具をどこかに置いてきたので、どこかへ向かったのかも。そんなことすら考え、屋敷の隅々を彼女は駆け回る。

 

彼女の眼に涙が浮かぶ。頭の中では受け入れなければいけないことは分かっていても、彼女はそれでも一縷の希望にすがった。

 

彼女は同じ箇所を何度も何度も探し、やがて日は暮れ夜中になった。

 

こんなこと、信じられる訳がない。あまりにも唐突な別れに、彼女は頭の中がショートし、もう何が良くて何が悪いのかすらも分からなくなっていた。

 

しかし、どこを探しても彼女は居ない。やがて彼女は腹の音を上げ、その場で仰向けになった。

 

「誰が…一体誰がこんなことを…」

 

彼女が不意に落とした目線。そこには、わずかに癖のついた金髪の髪。そして、電流によって焼かれた畳のシミが痛々しく残っていた。

 

妖夢は、その二つに驚きも戸惑いもせず、壊れた人形のような顔をして立ち上がり、屋敷の外へと歩き出した。

 

外には、これで幽々子によって幻想郷は救われると慢心した魔理沙が一人で歩いていた。彼女の目線はそんな魔理沙を捉え、彼女に近づく。

 

魔理沙がそれに気づいたのは、彼女が命を落とす数秒前であった。彼女はそれほどまでに息を殺し、魔理沙に近づいた。

 

妖夢はその最中、何も思っていなかった。息を殺し、ひたすら魔理沙めがけて、ひたりひたりと彼女に足を伸ばす。

 

彼女の目には、ところどころ歪んだ視界と魔理沙が映っていた。彼女が足を動かすたびに魔理沙は目の前に近づき、魔理沙は彼女の前で大きくなる。

 

妖夢には、魔理沙の髪の匂いや色、それから服の触り心地すら感じることができた。既に自分の手中から逃れられぬと悟った彼女は、もう彼女を殺すと言う思考以外の解決を考えられる余裕などなかった。

 

耳には、彼女の歩く音と魔理沙の歩く音が、音ズレしたかのような感覚で響き、風の音などはまるで聞こえぬ。まともな思考など残っていない彼女が聞く音は、もはや必要なもの以外残っていなかった。

 

そして、魔理沙が気づいたその刹那、魔理沙は妖夢の口がわずかばかり動いたことを生前最期の光景とした。

 

彼女は魔理沙に走馬灯など見せることもさせずに、彼女の首をはねたのだ。彼女が魔理沙の青ざめた表情を読み取り発した一言。後の正気をわずかばかりに取り戻した妖夢の発言が正しいとすれば、彼女は魔理沙にこう告げたのであろう。

 

「この悪党が、死んで償え…」

 

妖夢がその後村人によって囚われたのは、次の日の昼頃であった。しかし、彼は行方しれずですませば、もう一つの命くらいは助かったのかもしれない。

 

映姫の管理する牢屋敷で、面会に来た霊夢はその全てを知り、次の日に神社で首を吊った彼女が参拝客によって発見された。

 

妖夢はその後、毎日数時間鎌を首に当てられたままで後手に縛り上げられ、映姫の説教を受け、残りを獄中で過ごすこと数年でその罪を贖したが、彼女はその後で幻想郷に戻ることはなく、一人外の世界へ出て行ったままで行方知らずとなった。

 

そして、現在。トウキョウにて、殺された霧雨魔理沙によって作られた学校は解体され、彼女の教え子達は全く違う組織を作っていた。

 

彼らの名前は、「トウキョウナイツグロリアード」。通称TKG。魔法を操り、人探しから震災救助、それにテロリストや侵略者の討伐までを警察や防衛軍と共に行う組織であり、彼らは制服の代わりに、全員共通の黄色いジャージを着ている。

 

その長こそ、マエリベリー・ハーンが渇望までした郷少年の少女、血郷結衣である。

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