私が、超能力少女として生を受けてから数年後である2079年、9月28日。私は一つの手紙を元に、とある場所まで向かっていた。
まるでゲームのデバッグを探すような、意味不明の手紙。差出人は不明。それにしても、今どき手紙とは。郵便システムなど、今は廃れたも同然なのに、何故そこまで手紙にこだわるのだろうか。そもそも、私に用があるなら、直接言えば良いのに。
私の名前は宇佐見蓮子。18歳、現役の大学生であり、今は京都に住んでいる。前科は無いが、昔に自分の身体の体質を知ろうと、うざったく迫った記者を吹っ飛ばした性で、数ヶ月少年院に入っていたことならある。
出身は東京で、実家もそちら。家族は父親と母親と、それから妹がいる。とは言っても、今となっては、両親とはあまり口を聞くことはなくなってしまったが。
手紙の内容は、午後4時28分に、京都駅から出発して、東に652歩、北に1820歩、そこから西に1800歩歩け。と言うもの。電車やバスを使ってはいけない。必ず徒歩で行くこと。それしか書いていない。
それから数時間歩き、私はついに目的の場所までたどり着く。
「なんだ、いつも行ってるカフェじゃない。まあ、席って書いてある時点で、カフェかレストランかとは思っていたけれど。」
さて、そのゲーム脳の頭をかち割ってやろうじゃないのと思い、手紙をくしゃくしゃに丸め、カフェの中に入った。
「君が、あの手紙の差出人?」
カフェの中は、いつもと変わらない。実は、あの手紙の差出人はあのマエリベリー・ハーンで、メリーがまたきっと時空を歪めて私に意地悪をしているのかも、とも思ったが、どうやらそうではないらしい。
マエリベリー・ハーン。そう、この間も述べた通りの人物だ。かつて私を捕らえ、あれやこれやの実験台にした、自称元教授、現大学生の変人だ。
そして私は、その彼女が作成したサークルに入っている。その名も、オカルトサークル「緋封倶楽部」。見た目は単に、オカルトな事件などを調査して学祭で発表するだけのサークルだが、それはあくまで表面上の話。
その本質は、過去の異変や異世界の内容を調べ、未来の破滅や世界の崩壊を防ぐサークル。まあそんなこと、やったことはないけれどね。
メリーは、夜のサークルのミーティングや、私と調査に出かける時以外は、一切姿を見ない。一体どこで何をやっているのか。
そもそも、メリーはどこから来たのか、何が目的で大学生をやっているのか。それすらも知らない。
彼女が私を助けたあの術を見るに、彼女が人間かどうかも怪しい話かもしれない。
いや、今回はメリーの悪戯ではなかった。今彼女の話をしても仕方がない。確か依頼主の場所は、食器口から、二番目に離れた席。
そこに居るのは、緑色の髪をして、灰色の服を着た少女。今日は気温が高く、半袖の服を着ても熱中症になる人が出ていると言うのに、彼女は長袖の、首まである服を着ていて、なおかつ手袋までしている。
理由はどうであれ、どうやら、子供の悪戯だったようだ。彼女にガツンと言ってやって、今日は帰るとするか。
しかし、私に見せた彼女の表情は、私の想像とはかけ離れていた。
「ねえ君、あのさ…私も暇じゃないし、こういうのは困るんだけど。」
「……?お姉ちゃん、だあれ?」
「…だあれって、変な手紙送っておいて、今更だあれも無いでしょ。」
「…手紙?手紙ってなあに?」
「あのさあ…」
私は初め、彼女が私をからかっているのか、単にとぼけているのかと思った。私はそのことも彼女に説教をした。
しかし、彼女の反応は全く変わらない。そうしている内に、何だか私の方が悪いことをしているような気持ちになってきた。
一応、彼女に、誰かにここで待つように言われたとか、そんなことがなかったかを聞いた。しかし、彼女はそんなことは無いと言った。
「…そっか、知らないか。うん、わかった。信じるよ。君、名前は?」
「古明地鼓石。」
「ふうん。古明地なんて、変わった苗字してるね。お父さんとお母さんは?」
「…知らない。お姉ちゃんは、もう死んだって。」
「………。」
私はそれを聞いて、更に罪悪感に襲われ、唖然とした、両親は既に死んでいたのに、こんな幼い少女の、小さなトラウマを引き出してしまうような一言を引き出してしまったような気がした。
私はすぐに彼女に謝り、変な勘違いをし、更に不謹慎極まりない質問を吐いたお詫びにと、彼女が食べていたパフェの代金を支払ってあげ、暇なら、お姉さんと一緒にどこかに出かけないと誘った。
はたから見れば、不審者だ。通報されたら、バイトもクビになって、学校も退学になるかもしれない。見ず知らずの大学生が、幼女を変な文句で誘うなど、誘拐に思われる。
しかし、私がそれに気づく前に、彼女は首を縦に振ってくれた。
彼女と共に外に出て、どこに行こうかと、彼女と笑いながら話し合う。
それにしても彼女、見ているだけで暑苦しい服装をしている。多分、この国の出身ではないのかもしれない。それで、彼女の出身国はとても暑くて、この国の暑さなど、寒いくらいなのかもきれない。まあ、日本語の名前なのは気になるが、今時国際結婚など、あまり驚く話でもない。
こうして歩いていると、小さい頃を思い出す。昔は妹と二人で、こうやって店を見回るのも珍しくはなかったっけ。友人など居なかった私は、妹だけが、気が置けない唯一の親友のようなものだった。
今も、私にはメリー以外の友人が居ない。こんなに笑いあって、時間を共有できる友人など、私には…
っと、いけないいけない。今回は、別に遊ぶために彼女に付き合っている訳ではない。幼女の友人など、彼女の姉に通報されれば、一瞬で牢屋に逆戻りだ。今回の要件は、れっきとした贖罪。彼女への償いだ。
それを説明して、何かしら好きなものを買ってあげたら、さっさと帰らねば。そうじゃなきゃ、本当に犯罪になってしまう。
「えっと、鼓石ちゃん。さっきはごめんなさい。誘い出した理由なんだけど…」
「うん!決めた。私、お姉さんと友達になりたい!」
……ああ、ダメだ。そんなことをしてはいけない。見知らぬ幼気な少女に話しかけて、友達など、本当に…
「……ダメ、かな。」
彼女は残念そうな目で、私を見てくる。そんな目で見られたら、ダメだなどと言えるわけがない。
しかし、私も大人。それはかとなく流し、彼女の言葉を振り切った。それから数時間。彼女のお望みのものは何でも買い、夕方に彼女を帰した。
しかし、彼女は帰ろうとしない。私のことはもう良いからと言っても、一向に私に背を向けない。
すると彼女は私に、衝撃の真実を叩きつけてきた。
「私ね、その…この世界の人間じゃないの。遠くから…本当に遠くから来たの。だから、本当に不安で…だから、居場所がないの。寝る場所も、ご飯を食べる場所も、この世界の人達はお金を渡せば、みんなくれる。でも…私…何かが足りない気がして…」
私は、そこから先は何も聞かなかった。なんとなく、彼女の言葉は嘘ではない気がした。私は彼女の身体を抱き、帰ろうと告げた。
夕焼けは、その深みを増す。メリーからメールが来た。今夜は近くまで来たから、家に泊まってもいいかと言う内容のメールだ。もう一人来るが良いかと返すと、返事はなかった。
「お姉さん…?」
「蓮子で良いよ。」
「レンコ…?」
「私の名前だよ、あと、私の友達も来るけど、良いかな?ちょっと変な人だけど、私の大切な友達なんだ。」
「…うん。」
私は、鼓石と共に、家に向かって歩いた。なんとなくだが、彼女には私が必要な気がした。
平行世界から来た少女、古明地鼓石。一体彼女が何故この世界にいるのかは解らないが、私は彼女を、早く姉の元に返してあげたいと思った。
世界は、まだ闇に染まりきっていない。
私にとって、蓮子と言う少女はなんなのだろう。最初は、ただ一つの研究材料に過ぎなかった。トウキョウの研究員達と彼女を貪ってはみたものの、やはり彼らには高級な実験台すぎた。
まあいい、いつも通りだ。貪るだけ貪って、後はゴミのように捨てれば良い。
指輪型のケータイが、ビジョンを映す。内容は、蓮子からのメール。
まあ、後で読んでおけば良いだろう。それよりも、この女の始末の方が先か。
「ねえ…ちょっと!あなた、外の世界の人間でしょう?幻想郷のことも知ってる。妖怪の私のことを見ても驚かなかった!だから、こう…私ね、幻想郷に戻りたいんだ。聖様のところに行かないと。だから…ちょっと!話聞いてる!?あのね、そんな外の世界の武器、私なんかに通じる訳ないでしょ!私妖怪だよ?なんだったら、あなたのことも食べ…」
ナイフで、彼女の首を貫く。ただの武器ではない。これは、私があちらから持ち込んだ、対妖怪用の武器。どうやら、そこまでは彼女は知らなかったようだ。
馬鹿な奴だ。あいつは、まだあの世界の管理ができていないのか。やはり失敗作だったようだ。
そろそろ、始末せねばならない。