東方七世界   作:tesorus

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魔界編
サビだらけの都市


私達を囲む無数の人間。私達はその中で、まだ意識もはっきりせずにその場に醜態を晒している。

 

「…何で、月の時と同じ状況になるのよ。」

 

いや、正確には月の時と同じ、という訳ではない。七人で異世界の狭間を抜けてきたはずなのに、ここには私とスミ、それから鈴仙とリネアしかいない。

 

魔界に落ちてくるときに離れ離れになったと見るのが妥当だろう。魔界ということは、この人達はルイズのように魔界の兵士なのだろうか。

 

いや、彼らは魔界軍の制服も着ておらず、それどころか彼らの持っている武器は包丁やカッターナイフ。普段ならば武器として使わないものばかりだ。しかし、彼らの態度はそんな武器とは打って変わって、私達に殺意を込めたような態度だ。

 

「恐らく、彼らはただの武装した民間人。私達の敵ではないわ。そうでしょう?」

 

鈴仙の煽り文句に、民衆はさらなる怒りを込めて、罵声で鈴仙の声に応える。

 

「ザルジさん!あんな奴、やっちゃいましょうよ!」

 

「ああ。余所者など引き入れたら、コバヤシ様に怒られるからな。やっちまえ!」

 

リーダー格の男の声の元、私達を取り囲む人々は一斉に私達に襲いかかる。

 

「ちょ…ちょっと待ってください!」

 

私の言葉など聞かず、人々は包丁やカッターナイフを突き立てて突撃する。民衆は、ボロ切れのような着物やゲタに身を包み、見た目こそ貧しいものの、その意志は流石と言わんばかりである。

 

しかし、こちらには列記とした兵隊が二人もいる。そう簡単には負けない。

 

「話し合いの余地なし、と解釈しますね。ではその命を奪うことで贖罪となさい。」

 

「そうだよ、やっちゃおうよ鈴仙。奴らきっとユダの手先だよ。」

 

その一瞬の間に鈴仙は刀を引き抜き、私達に寄る人間を傷つけて近づけない。

 

しかし、彼らも真っ当な鍛え方をしていない訳ではないようだ。彼らは刀で斬られても悲鳴一つ上げず、まだ私達に向かってくる。

 

その敵を睨み、リネアは左腕を垂直に伸ばして弓を作り出し、右脇をしめて矢を持つ素振りをして矢を作り、高熱の矢を放つ。矢は見事敵に命中し、敵はその高熱に焼かれて命を落とした。

 

「くそっ!ザルジさん、ヤナギウラが!」

 

「構うなぁ!かかれぇ!」

 

命を落とした人間のことを心配する人の言葉すらも背に、ザルジというあの集団のリーダーらしき人間は仲間に突撃を命じる。リネアの矢をもろともせず、鈴仙に傷をつけられてもなお立ち向かうその意志は、やはり魔界の人間のものである。

 

ついに彼らは私の右腕を捕らえ、その身をえぐろうとした。私は、右腕はくれてやる覚悟でオーラを彼らの背後に回す。

 

せめて、私の右腕で突破できるなら…

 

「…ぐああああ!」

 

その刹那、私の耳に誰かの悲鳴が蠢いた。突然の出来事を前にして私は辺りの状況をよく確認できず、ただその未知の攻撃の正体を探っていた。

 

私の悲鳴ではない。それに気づくのに数秒。それから、次第に辺りの風景が頭にインポートされてゆく。

 

リーダーを残して、全員がスリングショット…パチンコの弾に殴られて倒れている。何者かは知らないが、その攻撃の主は私達の手を取って誘い、この隙にと私達を街の外れまで案内する。

 

よく見ると、彼はまだほんの幼い子供であった。見た目からすると、小学校低学年くらいであろうか。彼は少しばかりの出っ歯を光らせ、青空のもとを駆け巡る。

 

「ったく、随分お前達も運が悪いな。」

 

少年は、私達の顔も見ずにひたすら走る。リネアは君も魔界の兵隊なの、と彼の腕をたたえて問うた。

 

「まさか、俺はただの村人Aだよ。ああやって反社会軍から村人を守ってるだけだ。」

 

「反社会軍?国を倒すためのレジスタンスが居るの?」

 

「違うよ。軍部の目を盗んで、金を村人からゆすり取って金儲けしてるだけの連中。なんだかんだ言って、たまに監視に来る軍部にだけには良い顔してるからレジスタンスなんかじゃないよ。」

 

彼と一緒に街を歩いていると、異様な街の光景を目の当たりにした。市場で保存環境の悪い野菜を買い漁る住民。売り子は柄が悪く、赤子もいる目の前だというのに、売り子は煙草を吸っている。

 

そして、住民が手にした作物はほんのわずかばかり。キャベツの外殻、りんごの芯、醤油は水で薄め、もはや茶色の濃度が限界にまで薄まっている。

 

「奴ら、他の商人が売り出す作物を闇市で転売してぼろ儲けしてるのさ。それで、闇市以外で売ろうとする連中はボコして、結局住民は闇市無しじゃあ生活できないから、闇市に手を伸ばすって訳さ。」

 

辺りを見ると、りんご一つが物凄い値段で売られている。これ一つを他の世界で買えば、りんごを箱買いできてしまいそうだ。

 

こんな場所で生活していれば、簡単に餓死してしまう。それを彼に伝えると、彼からは予想だにしない回答が帰ってきた。

 

「さっきの連中見たろ?あれが反社会軍なんだが、あいつら元はただの住民さ。反社会軍に傭兵として入れば、生活できるだけの金が貰えるんだ。それで、いつも反社会軍に抗う人々の盾にされるのはあんな奴らさ。」

 

「…そうだったんだ。」

 

随分と薄気味悪い世界だ。これが無責任な初見の感想だが、恐らくこんな世界を見たら皆そう思うだろう。

 

しかし、慣れというものは随分怖い話で、どんな地獄だろうと生きていこうと思えばさほど気にならなくなるのもまた人間。恐らくここの住民は、犯罪者のぼったくりに身を委ねて、時にはそんな連中の言いなりになることにも何ら疑問を持たなくなっているだろう。

 

「俺は榊原颯斗って言うんだ。お前達、他の世界から来たんだろ?何か手伝えることがあるなら言ってくれ。力になるぜ。」

 

私達は彼の言葉に甘えることにした。彼の家は街の外れにあり、反社会軍の影響を受けにくい場所にある。

 

風情のある住宅。門から住宅までの通路には石の歩道があり、綺麗に手入れされている。住宅の門には風情のある木の引き戸が使われており、屋根は綺麗な瓦屋根である。

 

私が彼の言うとおりに家へお邪魔する刹那、青く澄み渡った空は急に暗転し、透明な雫がぽたぽたと空から垂れ始めた。

 

メリー達、反社会軍にやられてたりしないかなと、私は演技でもないことを口にした。

 

「あれ、おかしいな?」

 

空が暗転しているのは、魔界の街だけではない。魔界と幻想郷をかつて繋いでいた門は既に機能を失い、博麗の巫女が訪れた際に灯っていた光はその輝きを失っていた。

 

「あれ…おかしいな。ここに門番とか居なかったっけ?居たって魅魔様が昔…」

 

「門番?サラさんなら、もういないよ。時空を超える技術が確立されたから、こんな巨大な次元移動装置は必要なくなったんだ。今は処理するにも金がかかるから、そのまま形だけ残ってるんだ。」

 

「ま、確かにね。じゃあサラさんはもうクビ?」

 

「まあね。でも魔界の兵隊としてはまだまだ現役だよ。サラさ〜ん?」

 

にとりの心配する声を前にして、レイクロクが門の反対側に声をかけると、桃色のサイドテールを身につけた少女が門の外側から姿を現した。しかし、少女は昔のような赤い服は着ておらず、代わりにルイズと同じような緑色の軍服を着ている。

 

「クビだなんて、縁起でもないこと言うからには強いんでしょうね?」

 

サラは、にとりのことを見てフッと笑った。対して彼女はサラを見て、こいつはヤバイねと彼女から身を引いた。

 

彼女から出るオーラはそれくらいに強く、この間のルイズよりも闇が増し、それが圧力を強めていた。しかし、にとりを見て怖いのとサラが笑うと、彼女はそんなことはないと心に嘘をつく。

 

「ただ…この間会ったルイズって兵隊が強かった。でも君は、彼女よりも強い。それはわかる。」

 

「ありがとう。褒め言葉として受け取っておくわ。彼女のことも含めてね。私はルイズ達二等兵に命令を下す、上等兵を統括する総兵長をしているの。ルイズとは格が違うのよ。こんな下等兵が着る制服、本当は着なくても良いの。解る?」

 

「…とにかく、強いってことは解った。でもお前、あの時魅魔様に負けたじゃん!」

 

「魅魔って…?ああ、あの神様ね。まあ、あの時は私も弱かったし、何より陛下だって敵わなかったんだ。でも今は違う。魔界は強大になったんだ。昔とは比べ物にならないほどにね!」

 

「サラさん、魔界自慢はそれくらいにして、そろそろ本題に入りましょう。」

 

サラをなだめるレイクロクの言葉を耳にして、サラは更に機嫌を損ねる。

 

「っ…!何だ貴様!上等兵の身分で、上官の私に命令するのか!」

 

レイクロクがサラの怒りを笑いながら沈めようとする。そんな光景を、残る鼓石は何も考えずに見ていた。ひょっとすると、魔界の兵士とも仲良くなれるかも。そんなことを頭の片隅に垣間見ながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いが互いの所在を解らぬ隙間、一人の少女はそれを良いことにして新たなる闇を作り出す。

 

全ては手筈通り。もし、ワガママな未来の使者の事件が誰かの意図したものであったなら。鈴仙がそのことで味方につき、蓮子達と共に旅をすることが仕組まれたものであったなら。

 

あの時も、あの時も、博麗の巫女が異変を解決したことが仕組まれていたように。

 

「はい、あんたに頼まれたもの貰ってきたよ。これでいいの?」

 

「うん、ありがと。トアちゃんは働き者で偉い偉い。」

 

少女は微笑みながら、トアの頭を撫でる。時空を超える間に便乗して抜けてくるなんて。彼女はため息をつき、少女は彼女に再び語りかける。

 

「知ってる?不死の妙薬って、月の人間の骨なのよ?」

 

「奇妙な話ね。それにしても、もっと奇妙なのはあなたの方よ。トウキョウのガキの血なんか飲み干して、一体何が目的なの?どうせ生まれ変わる先なんか選べるご時世。死ぬことが怖いなんて言わせないわよ。それとも、そこまで身体と記憶が大事?」

 

「ザッツライト。あ、後者のほうね。私は見てみたいのよ。その為に、生まれてから死ぬまでの時間が必要なのよ。運命の刻まで無限に生まれ変わり、そこまでの記憶を綴る稗田の宿命。となれば、必ず終止符を打つ為に必要な時に生まれ変わらねばならない。」

 

「ふうん、その運命の刻ってのがみたいの?阿呆らしい。」

 

「まさか。それじゃあ、私があのガキを利用した意味が無いわ。あの娘が旅をすれば、やがて「あの能力」に辿り着くかもしれない。みんなの世界を救いたい!とか綺麗事吐いて、その能力を見つけるかもしれないからね。それなら、わざわざ郷少年と組ませる意味はない。」

 

「ふうん。その為に、こんな死骸を?」

 

「郷少年はその能力の鍵で本来の所有者だから、一応手に入れておくのが華だったけれどね。実は、それはあまり必要じゃないわ。必要なのは、あれが無いとガキに思い込ませることよ。」

 

「そうね。それがあれば、運命の刻が起きかけても死骸飲めば、ってなるものね…まったく、あなたはいつも欲望に馬鹿正直ね。マエリベリー・ハーン教授。」

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