東方七世界   作:tesorus

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裏切り者

魔界都市ミラークロス、この都市が誇るタワーの頂点から見る夜景はとても美しく、まさに絶景と言える。

 

颯斗には家族がいた。彼の姉である翼は世話焼きで、彼が知らない人を連れてきたと知ると、また弟がご迷惑をと謝罪した。しかし、私達はむしろ彼に救われたのだと言うと彼女は安心し、お役に立ててよかったですと部屋の一つを貸してくれた。

 

彼女は紫色のセーラー服を着た黒髪の美人で、その姿を聞くと名門の女学校に通っているらしく、その倍率は何十倍にも達するそうだ。

 

本来なら莫大な学費がかかるが、彼女はその実績で学年上位の成績をあげ、もらった奨学金のおかげで家計には打撃を与えずに済んでいるそうだ。

 

父親は戦死し、今は三人で暮らしているらしい。自分の家はある程度恵まれているから、父親が残してくれた軍隊からのよしみで軍事施設から食料を買えるから良いが、他の家ではもはや反社会軍から物を買うことが当たり前となっている現実があると颯斗の母親から聞いた。

 

私も軍人。昔は師匠と共に人々の傷を癒していたが、彼女らを裏切った今では人々の傷をえぐる仕事しかない。ひょっとすると、颯斗の父親のような死に様がお似合いかもしれない。

 

「はあ、やっぱりここにいた。ドレミーがあなたのこと心配してたよ?」

 

不意に後ろから声がした。私の名前を呼び心配する彼女の白い翼が私を包み、私の肩をそっと撫でる。

 

「…臨在の君に、許しはいただいたのですか?」

 

「任務中よ。命令で別の世界に潜伏していたのだけれど、向こうは天邪鬼を毛嫌いしてる連中の住処だからね。幻想郷に似た世界だけれど、奴ら巫女よりもずっとタフだよ?」

 

「そう。でも、サグメさんは天邪鬼なんかじゃないでしょう?」

 

「似たようなものよ。じゃあね、そろそろ時間だから私帰る。」

 

「…人騒がせな人ですね。」

 

白い翼の少女は、私が振り向くとすでに居なくなっていた。私は彼女が居なくなった後で深いため息をつき、そのタワーから飛び降りた。

 

レトロな風景が目の前で拡大されてゆき、ただの点でしかなかった住民たちはその本性を晒す。

 

着地即飛躍。風の速さで街の天上を駆け抜け、瓦屋根を足場に街中を駆ける。

 

人々は恐ろしいほど静かであった。美しく見えるこの都市の光は、その全てが軍の管理する店であり、他のお店は反社会軍によって管理されていて、その灯りを一切禁止される。

 

「せっかくだし、何か飲んでから帰ろ。」

 

軍の管理する場所は安全だろう。私は灯りの灯る一つの店を見つけ、そののれんを潜った。

 

店の灯りは煌々と光り、中には軍事に携わるであろう人々が酒などを飲んでいた。店主に聞けば、軍が管理する店に入れるだけのお金を持つ民間人などほとんどおらず、それ故に軍の管轄しない、軍に税を取られない店を開き、そこで安く酒を売ったり売春をすれば儲けられるという。

 

「つまり、民間人が入れるのは脱税してる奴らの巣窟だけってことか。」

 

「それだけじゃねえ。軍のお客さんがいるから少し話しづらいが…反社会軍の連中に金を払ったり、奴らの元で働けば、徴兵逃れができるだけの金を軍に払ってもらえるらしいんだ。俺はもう老体だが、孫がそろそろ徴兵の年になるもんで…いやいや!考えてねえよそんなこと!でもよ…いざ孫を戦場にと思うとなあ…」

 

そんな連中ばかりだから、ミラークロスの人民がどんどん堕落してゆくのだ。カウンター席から軍の人間が彼に返答する。やはり依姫様の言う通り、徴兵などを使い国民皆兵を謳う世界だからこその人々の苦しみや辛さの結果なのだろうか。

 

「ところで姉ちゃん、この世界の人間ではなさそうだね。どこの人間だい?いや、別にスパイかどうかを疑っている訳じゃねえが…」

 

「イナバ、と呼ばれている場所です。その場所の兵隊をしておりますが、別にスパイと言う訳ではありませんよ。」

 

「そうか。それは随分とこの世界の恥ずかしい所を見せたね…」

 

彼は顔をしかめながら私にしばらく背を向け、その後で私に注文を聞いた。

 

「ん…任せますよ。」

 

彼は私の言葉を聞くと、じゃあ隣の姉ちゃんと同じでいいかいと言って私に焼酎と焼き鳥を差し出した。

 

焼き鳥からは非常に香ばしい良い匂いがして、食欲をそそる。幻想郷で通っていた妖怪の巣くう酒屋には焼き鳥を置いていないし、イナバの酒屋でもあまり焼き鳥を食べることはなかった。いつの時を最後に食べなくなったかは忘れたが、この味だけは覚えている。

 

「ミスティアの店は、焼き鳥なんか置いてなかったわね。」

 

「……え?」

 

ふと聞こえる懐かしい声。その声を最後に聞いたのは、焼き鳥などを食べた日よりもずっと前な気がした。

 

隣に座る、緑色の軍服を着た金髪の美少女。似たような美人は二人といないその冷たい人形のような表情は今でも覚えている。指にはめた人形を操る道具や、その表象は昔とあまり変わらない。

 

彼女は、私と同じメニューをたいらげ、私などには目もくれずに店主に金を払ってその場を後にした。私が何度も声をかけることもできたが、結局彼女に対しては何も言えなかった。

 

幻想郷を裏切ったのは私も同じ。例え幻想郷が滅ぼうが残ろうが、そこが私達の帰る場所になることなど、二度とありえない。

 

「まあそもそもその幻想郷も、今や異界からの住民の馴れ合いの場と化しているから、別に大したことじゃあ無いわね。紅魔館の連中に赤目の天邪鬼、守谷の連中、あんたら永遠亭の連中と、それから八雲一家。チルノと大妖精に、聖や今の博麗の巫女の血筋。この辺りは全て異世界の奴らよね…唯一それっぽい阿求も、結局は幻想郷の破滅を望んでいるようだし。」

 

彼女は私の返事を待たずに居酒屋にお金を払い、白いドロップを口に含んでその場を後にした。

 

彼女の中に、一味だけ私が幻想郷の住民であると信じていた者達が紛れ込んでいることを私は知っていた。私の中の何かが壊れた気がした。ついに私は、知りたいのか知りたく無いのかも解らぬパンドラの箱の中身を覗かされたと言う訳だ。

 

「八雲紫が人造の妖怪…か…。」

 

すみません、お勘定をお願いします。そんなことは言った気がする。しかし店主は、金ならば先ほどのお嬢さんから頂いていると言っていた気もする。とにかく店主は私に金を催促してこなかったので、私は店から出た。

 

「酒って、こんなマズい物だったかしら。」

 

霊夢や魔理沙、それから師匠達と楽しげに宴を開いていた時のことを思い出す。もうあんなことは二度と叶わないくせに、どこかでまたあのようなことができると信じているような気もしていたのだ。

 

蓮子のせいだろうか、それともにとりが私を再び受け入れてくれているからだろうか。いずれにせよ、私はもうあの世界の者ではない。

 

「…制服の替え、持ってくるの忘れちゃったな。」

 

慣れもしないレトロの世界で走り回ったからだろうか。桃色の装束は汗まみれだ。私は榊原家に足を運び、自分が持ってきたカバンに着れる物などないかとカバンを漁る。

 

しかし、中には依姫様に隠れて使っていた拳銃が二丁と、時空を超える力を持つ勾玉。そして、もう見たくもない数十年前の月兵の制服。こいつは、私が幻想郷で長い間着ていたものだ。

 

「…もういいや。これで。」

 

残った寝巻きで外出する訳にはいかないし、上着は幻想郷に置いてきた。上着を脱いで行動するのは、いつぞやの月世界が凍結された時の異変解決の時以来だろう。

 

この服を着ていると、次の日には永遠亭で目が覚めそうで嫌になる。帝の娘である姫様は人使いが荒かったが、あれはあれで、いや、あの方が幸せだったことは明白である。

 

「…こんな時間におかえりかと思えば、またお出かけですか?」

 

私がガタガタとバックを漁り、着替えていたら颯斗の母親が起きてきてしまった。私は彼女に、この着物を明日洗ってもらえないかと渡して、銭湯にでも行こうと思っていたが、できれば少し風呂を貸してくれないかと彼女に話した。

 

「洗濯ったって…普通に洗濯板で洗って良いものなのですか?」

 

「はい。すみません。」

 

「ああ、そうですか…夜は物騒ですから、気をつけてくださいね。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

彼女の後ろ姿を見送り、私は少し覚めた風呂で身体を癒す。風呂だと変なことを考えてしまうのは私だろうか。

 

まあ、私はいつも変なことを考えているからあまり変わらないか。私はしばらくそんな自問自答を繰り返していた。

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