東方七世界   作:tesorus

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祀られし怪綺の女神

この記憶は、確かに私のものである。が、一体いつの時であっただろうか。

 

季節は春。桜が咲き誇り、その桜は宮廷にまで咲き誇る。私は母親の前で帝に頭を下げ、帝は私の頭を笑顔で撫でる。

 

「阿礼を、幻想郷にですか?」

 

「そうじゃ。彼女に幻想郷の記録係をさせ、この理想郷を永遠に伝えようと思ってな。彼女ならば、夢奈達三姉妹と共に幻想郷を守り続けてくれるじゃろう…」

 

それから数年で、幻想郷は帝の命によって作られ、私達稗田一家は博麗の三姉妹と共に幻想郷に越してきた。しかし、もう何百年もの昔だからであろうか。私はあまりその記憶がはっきりとしていない。

 

「ねえ阿礼、死んだらどうなるのでしょう。本当に極楽に往生できるのでしょうか?阿礼はきっと転生できるでしょうけれど、私達は…」

 

「死んだらって、あなたが言ったらそれこそおしまいでしょうに。まあでも…覚めない眠りと言うのが怖いということは図星かもしれませんね。」

 

霊魔は私に、月々そのようなことを私にボヤいていた。大の博麗の巫女がそんなことでは、一体何のために神道を学んでいるのかと私は毎回返した。

 

そういえば、あれから私は九回も命を落とした訳だが、死んだ瞬間から自我が芽生える瞬間までのことはあまり思い出せない。まるで閻魔がそれをタブーと言わんばかりに封じているようで、私にはどうにも気持ちが悪い。

 

「私の為なら白くなる、あなたの為なら黒くなる。」

 

ふと頭の中に、深月が普段から呟いている言葉が浮かんだ。その言葉の意味を私が追求しても、彼女も母親から聞いた言葉であって、彼女自身もその意味を知らないの一点張りである。

 

そういえば、詠夢も同じことを口々に言っていた気がする。でも、それについて深く懇求したことはあまりなかった。一度意味を教えてもらったこともあるが、もう忘れてしまった。

 

「ごめん、寝てた。今どの辺り…あれ?」

 

夢の中と同じ世界とは思えないデジタルの世界。私が目を覚ますと、冷たい空気の漂う空間の布団の上。

 

私は確か、東京行きのバスに乗っていたはずだ。あの後寝てしまって、今は結衣さんの家にでもいるのだろうか。隣には、世界の破滅など蚊ほどにも思わぬアホヅラをした茶髪のツインテが寝ている。

 

「…ったく。自分の家族を皆殺しにしようとした奴の隣で、よくもそんな顔して寝られるわね。」

 

最近は10月でもそれなりに寒いのか、見慣れぬ暖房装置が音を立てて動いている。あんなものがあるのなら、幻想郷にも少し分けてくれれば、と思いながら起き上がり、外の景色を伺う。

 

外は、人間がこれでもかとひしめく大都市。どうやら私達は長い建物の一角にいるらしく、外の人間はこちらの建物に行き交い、その人間は誰もが黒い着物を着ている。

 

「…この建物、どうなってるの?」

 

一種のカルチャーショックであろうか。私は目の前の見慣れぬ光景にクラクラしながらカーテンを閉じ、再びあのツインテが眠る寝床へ帰った。

 

一方、人造の妖怪の正体も知らぬ者共一行は荒れ果てた地獄郷に身を寄せ、その世界の中で妖怪の正体を探っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は朝の6時。私達は何をするかも知れぬまま颯斗と翼の向かう場所まで同行していた。

 

彼らの母親はまだ朝食の支度中だ。母親に聞くと、せっかくだからついていくといいなどと言って背中を押され、家の門から太陽の方角に何歩も何歩も歩く。

 

「しかし、こんな朝早くに私達のこと起こしてさ、カブトムシでも取るの?もうすぐ冬だってのに…」

 

「まさか、それじゃあ私までカブトムシなんか取るって言うのですか?違いますよ。」

 

翼は私の言葉をクスクス笑いながら返し、その後で、弟の速い足に吸いつけられるように足を速めた。

 

入り組んだ森の道。地にはミミズが這い、木の上には鳥達が巣を作る。日がまだ完全に差さぬ森林は、どこか神の世界への入り口とも感じさせる。

 

「お、そろそろだな。お前達もお参りしていくか?」

 

森を抜けると、日差しによってより幻想的となった神社が姿を現した。しかし、その寂しげな神社はまるで神の怒りによって崩されたようにボロボロであり、今は手入れされている様子もあまり見られない。

 

「えっと…この神社って…」

 

「大丈夫、ちゃんと願いは神綺様に届くぜ。だいぶ前の落雷でボロくなって、今ではあまり訪れる人もいないけどな。」

 

神綺と言うのは魔界を創りし神であり、また女王陛下そのものでもあると颯斗は私に話した。つまり、私を捕えろとルイズに命令したのはここの神社の神様と言うことにもなる。神様の命令に逆らった私は罰当たりなのだろうかと言う気にもなってくる。

 

「俺たちが今こうして生きていられるのも、神綺様のお陰なんだ。だからこうして、毎日お祈りをと思ってな。」

 

颯斗と翼は、既に錆びた鈴を鳴らして手を合わせる。すぐ近くの軍事施設に現存する神様を思って神社に手を合わせると言うのもずいぶんと滑稽な話にも思えるが、彼らにとっては永遠に心を通わせぬ著名な歌姫のごとく、実在しようが会うことのできぬ影に触れる唯一の手段であるのかもしれない。

 

しばらくすると、翼はそろそろご飯ねと言って帰ることを提示した。見ると、既に空は透き通った水の色をしていた。

 

翼と颯斗の家に帰ると、彼らの母親は朝食の準備を終え、今日は少し遅かったですねと出迎えてくれる。

 

何故彼らが毎朝、長い距離を歩いて女王陛下を拝みに行くのか。その理由を彼らに聞くと、母親が行けと言うからと話し、さらに理由として、母親は熱心な女王への信仰者であると言うことも聞いた。

 

なんとなくだが、私は彼女に自分が彼女らの深く信仰している女王の命に逆らい、女王の兵隊を遠ざけたとはとても言えなくなってしまった。

 

またこの忌々しい食器が、とリネアは身体を震わせながら持ち慣れない箸と睨めっこしている。

 

「今度は少しゆっくりできそうですから、教えてあげますね。」

 

「むぅ…」

 

まずは箸の持ち方からと、鈴仙は箸を持つリネアの先をいじる。別にそんなことしなくていいからと彼女は渋るが、上手くなりたいでしょと言われると口ごもりをして彼女に手を貸す。

 

歳が近いせいか、この一日で翼とスミはすっかり仲良くなった。二人の話に入っていこうとすると、別にハブられる訳ではないのだが場違いな感じがして身を引いてしまう。

 

「私ってやっぱり高坊や中坊達とは合わないのかしら。」

 

「蓮子は女って言うよりも男っぽいからかもな。俺もツバ姉とは全然話さねえし。話すと言うよりかは、怒られてばっかりだ。」

 

それで一人拗ねて、颯斗にフォローされる。魔界だから男女など関係なく、みんなルイズのようにくっ殺のような性格かと思っていたが、どうやら翼を見る限りは違うようだ。

 

「そうだ!今日は学校なのだけれど、帰り学校で待ち合わせしない?連れて行きたい所があるの!」

 

スミと翼の仲睦ましげな会話が聞こえてくる。翼の誘いに対して本当にいいの?と喜んだスミの声を背に、颯斗はまたあの場所でたむろして来るのかと聞こえるようにボヤいた。

 

「またとは何よ!またとは!」

 

「別に?俺んとこの女共もよく行く場所だからな。菫子に変なもの喰わせるなよ?」

 

「あそこに変なものなんかある訳ないでしょ!ガキは変な秘密基地作って遊んでなさいよ!」

 

「んだとこのっ!」

 

食事中にもみ合いの喧嘩をする二人に、いつものことなので放っておいてくださいと母親は私に耳打ちをする。

 

私はそれを聞いて、やはり兄弟はどこの世界でも変わらないのかなと思って笑っていた。

 

この時私は、まだメリーがメトロポリスの人間、ましてや人造の妖怪たる「yagumo.exe」の開発者であることなど知る由もなかった。しかし、そのことに気づこうとしている人間は一人、また一人と増えていった。

 

同時刻メトロポリスの一角に研究室を構える天才少女はバーチャル空間へ通じるキーボードを押しながら、何かを追い求めていた。

 

「マエリベリー教授。私は科学者として、ずっとあなたの背中を追ってきました。それは科学者としての尊敬と共に、超えねばならない過去の壁でもあります。常に「旧作」を超えてこそ「新作」を作る意味があるのです。昔からしたら未来はまさかの連続。その一端をあなたにお見せしましょう。」

 

悟はメリーの管轄しているネット上の管理システムに干渉し、寄せくるパスワードの確認を全てクリアにする。そして、果てにあるyagumo.exeの解析に至ろうとしていた。

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