東方七世界   作:tesorus

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兵隊少女と国家権力

昼の三時、木造建築の学校に授業終了のチャイムが鳴る。紫色のセーラー姿の生徒達は次第に声を持ち、その声は雑踏となる。さっさと帰る生徒に、部活動に励もうとする生徒。

 

そしてそんな中に、鍵を持つ三つ葉のペンダントを持つ金髪の生徒が窓をちらりと見て笑う。教室の中では何やら物騒な騒ぎが始まろうとしていた。

 

「…仕事ですね。」

 

翼を迎えに来ていたスミは、突然の怒号と悲鳴に驚く。慌てて振り返ると、一人の生徒を別の生徒が殴り倒していた。理由は反社会軍への冒涜。お嬢様学校ならば当たり前のように聞こえる冒涜であるが、また反社会軍への支持者がいるのも事実である。

 

「治安維持法違反と反逆感情所有罪ですね。身柄を拘束させていただきます。」

 

教室にいたルイズは、生徒を殴り倒した生徒を壁際に後ろ手で強引に拘束しておとなしくさせる。政府の役人さんは最近はウチらと仲が良いからと言って彼女に手を緩めるようにと拘束された生徒の取り巻きは話すが、ルイズは彼らに聞く耳をもたずに次はあなた達ですねとあしらう。

 

すると取り巻きは逆上し、どこで拾ったかも解らぬスタンガンをルイズ相手に取り出して脅す。

 

「…公務執行妨害。罪状で花札でも作る気ですか?」

 

「うるせぇ!」

 

騒然とする他の生徒。スタンガンを見て、そんな物騒なものを学校に持ち込むなどとルイズは呆れて答える。取り巻きはもう我慢できないと言い、ついにそのスタンガンを手にルイズの元へ攻め入る。

 

しかし、その攻撃は彼女へは届かない。三つ葉のペンダントはその攻撃を前に赤いオーラによって紋章を浮き出し、スタンガンによる攻撃をバリアーによって阻害する。そのバリアーの硬さに取り巻きのスタンガンは故障して使い物にならなくなった。

 

「おい、なんだよこれ!くそ…」

 

「まったく。聞いてればさっきからうるせぇだのおいだの、その制服であまり荒い言葉遣いをして欲しくありませんね。さて、あなたはそろそろ連行させていただきます。」

 

ルイズは生徒の両腕を黒い手錠で後ろ手に縛り、きびきび歩いてくださいと生徒に廊下を歩かせる。廊下には騒ぎを聞きつけた他の生徒達が寄ってたかり、その矛先は翼のクラスから一気に廊下そのものに変わる。

 

取り巻き達は何所を無くしたのか、周りの白い眼を気にしてすぐに身を引くようにしてその場を後にした。

 

しばらくの沈黙の後、殴られた生徒は彼女を心配する他の生徒に連れられて保健室へと向かった。翼はそんなクラスメート達を背に、最近たまにこんなことが起こるのよねとスミに話す。

 

「反社会軍、富裕層の学校には関係ないって訳にはいかなさそうね。」

 

「うん。あの娘達も昔はあんなことはなかったのに…やっぱり、もうすぐ徴兵が回ってくるのも絡んでいるのかしら。」

 

「えっ…徴兵!?」

 

スミの驚きに翼はスミが魔界の人間でなかったことを思い出し、そういえば言ってなかったわねと彼女に微笑み、自分達に迫り来る徴兵についての話をした。

 

魔界の少年少女は、ある歳の誕生日を迎えると徴兵に出されるという。これから逃れる為には大量の賄賂を魔界政府に払うか、難病などで逃れるしか方法はない。

 

反社会軍に富裕層がつくことがあるのもこの為である。いくら裕福と言えど、魔界政府が要求するような大金を積むことは多少なりとも無理がある。

 

翼はそれから、あの子が一人で帰るのは可哀想だからとスミと共にしばらくの間教室に残った。

 

「…待っててくださったのですか。もうすぐ日も沈んでしまいますよ?」

 

「なんか…ルイズも大変だよね。でも、いや。だからこそ、ルイズのこと尊敬するよ。あんなことされたら、私ルイズみたいにできないもん。」

 

翼はルイズに対して、流石だよと笑いかける。しかし彼女はそんな翼を無視して、あなたには生涯縁のないことですとそっぽを向いた。

 

しかし、スミはそんな中で本当に翼には縁がないで終わるかと疑問に思っていた。彼女の言う徴兵が本当の話ならば、翼も近いうちにと言うことになるからだ。

 

「徴兵」などスミは身近に感じたこともなかった。そして、その「徴兵」がこの世界には生々しくその爪痕を残す。

 

まるで彼女達が徴兵を捨てたから、それがこの世界に降ってきたような雰囲気がして、彼女は複雑な心境の中にいる。

 

「あ、ねえルイズ!今日は泊まっていかない?お母さんが今日は美味しいものたくさん作るって!」

 

「そうですか、ありがとうございます。でも遠慮しておきます。今日はきっとそちらに戻れないと思うので。」

 

彼女が翼の誘いを冷たくあしらうと、翼は兵隊さんは大変だと言って、それなら駄菓子屋で何か奢るからさと二人の腕を掴んで教室から出た。

 

あいにく、その日はもう駄菓子屋でゆっくりしている時間などはなく、翼に駄菓子を買い与えられるとルイズはさっさとその場を後にした。スミは友達少なそうとルイズの背中に話すが、翼は彼女にしてやれることはこれくらいしかないとスミに返す。

 

「私だって、颯斗みたいに反社会軍を追っ払えるようになりたい。でも、そんなことをする気力もないし、学校のみんなには男臭いとか言われるかもしれないからさ…」

 

目の前の現状を変えたい。でも私はそんな柄でもないし、第一勇気もない。そんな目の前の彼女は自分とよく似ているとスミは薄々感じていた。

 

だからこそ、彼女は今は翼に勇気を与えねばならないとも思っていた。まだ戦う意志を持たない彼女ならば、きっと反社会軍に堕ちた人間達も救うことができる。明確な作戦はまだ未知数であるが、きっと自分達がいる間に世界の変わる瞬間を見せてやろうと胸に決めていた。

 

一方、ルイズは彼女とはまるで違うことを考えており、それは明日の一日で全てを終わらせてやろうと言った禁忌の心情であった。

 

これをやれば終わる。しかし、これをやってしまえば別の意味で全てが終わる。そんなものであった。

 

そして丁度その頃、目の前の現状を彼女らとはまるで違う形で受け止めようとする。そんな私達が別れを告げた世界では私達の残してきたものに新手を打とうと模索している月世界の兵隊がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…人造の妖怪、ね。妖怪は不完全な世界の因子を取り込んだ人間の眷属とされているけれど、俗に魔法使いと呼ばれる者共はその因子を人工的に作り出すことで命を保ち、莫大な魔力を飼うことができる。彼らを人造の妖怪と言うのならばそうかもしれないけれど、きっと優曇華院の言っているそれとは違うのよね。」

 

今宵は満月。月世界の異界を渡る術が最も機能する時間。

 

解っている。もはや姉さんだけにこの事は任せておけない。一人一人が動かねば、またあの時のように師匠達に迷惑をかけてしまうかもしれない。いや。幻想郷の危機となると、既に悪魔を前にして師匠の命は無くなっているかもしれない。

 

「…お呼びでしょうか?」

 

「ええ。レイセン、今日の稽古のメニューを言ってみなさい。」

 

「えっと…もう彼女も帰ってきたのですからそろそろ新しい名前を…」

 

「言ってみなさいって言ってるの。」

 

「むう…腕立て千回とランニング10キロ、それから腹筋五百で、できなきゃ夕飯抜きで自主トレであってますか?だから、こんな場所で油売ってないで早く済ませたいのですが…その…」

 

「そう。今日はその稽古抜いていいから、誰か後輩連れてミラークロスまで行ってきなさい。こないだの子達みたいに無断で戦死されると後が面倒がかかるから、必ず人数分の遺書を書いてこちらにあらかじめよこすこと。良いわね?」

 

「ええ!?てか、向こうに行って何すればいいのですか?」

 

「知らない。鈴仙探して、彼女の手伝いしてくれればいいわ。」

 

用事だけを話すと、後の彼女の用事は聞かずに彼女を下げた。夏冬も離反して、師匠も居なくなった今、臨在様に一番期待されているのは私達なはず。姉さんが席を外している間は私がぬかる訳にはいかない。

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