「…眠い。」
アラームが、朝の気持ち良い眠りを潰し、現実の訪れを告げる。
指輪を見ると、時刻は朝の6時頃。今日は大学の講義は二時間目からだし、特にバイトの予定も入っていない。ならば、一体何の為にこれほど早起きしたのだろうか。
最近は布団で寝る人間はほとんど見ないが、私はひたすら布団を好む。この低反発、この寝心地。そして何より、掃除が楽で、値段が安い。
私はアパートに住んでいるのだが、家賃で、バイトのお金の半分がなくなってしまう。故に、家計に響くものはあまり買いたくない。
昨夜、鼓石やメリーにもそれを強要しようとした。メリーはいつもで慣れているが、流石に鼓石は無理であった。どうやら彼女、布団で寝たことがないらしい。と言うことで、彼女には仕方なくソファで寝てもらうことにした。
彼女の住む平行世界がどんな場所かは知らないが、よほど発達した世界に住んでいるのだろう。布団が無いなんて。私はその世界では生きていけないだろう。
横を見ると、人の白い靴下が見える。あれ、一体誰の足だろう。
そう思い、改めて上を見ると、そこには金髪の見慣れた女性が立っていた。
「21分15秒寝坊よ、蓮子。」
「………ひっ…ひい!」
思い出した。昨日の夜に鼓石が寝た後に、彼女の秘密を探ろうとして、少しばかり彼女の服を拝借した。名目は、洗濯をするため。まあそれは、名実共にそうしなければ臭いからと言う理由もあるので、彼女には今、妹が小さい時に着ていたパジャマを着せてある。
しかしその後、私は睡魔に襲われて、それを調べる前に、明日の6時にアラーム入れておいてとメリーに告げて、布団を敷いて寝てしまったのだ。そして、今に至る。
「…彼女が起きる前に、調べる。でしょ?」
布団から飛び起き、彼女のことを見る。そうだ、怪しまれるといけないからと、出来るだけ彼女にバレないようにと思ってした作戦なのに、私が寝ぼけていて何になるんだ。
「緋封倶楽部、活動開始よ!」
「…まったく。まあ良いわ。大体のことはわかったし。」
「え?そうなの?」
私がそう聞くと、彼女ははぁ、と溜息をつき、どれだけ寝坊したと思っているのと、ジト目で私を見た。
「まず、この生地。凄いのよ?ついた汚れは、どんな汚れでも一瞬で取り払う。仮にドブに落としても、何事もなかったかのように乾いてる。それに、そんな匂いもない。洗濯は不要ね。」
「…そっか。」
「それと、この生地の秘密は他にもあるの。数百度の灼熱の世界でも、マイナス数百度の極寒でも、決して着ている人間の、体感温度は一定になるように作られているの。」
「…だから、あんなに暑くても、こんな厚着でいられたのね。凄い…」
どんな極寒でも、灼熱でも着られる服か。そんなことを言われたら、考えることは恐らく全世界共通だろう。これがあれば、夏も冬も快適。となれば…
「ねえメリー!その服、ちょっと着てみ…」
「駄目!!」
私がそう言おうとした瞬間、彼女の拳骨が、私目掛けて飛ぶ。私は頬を強く殴られ、布団に叩きつけられた。
布団の低反発で、私は床の痛みを受け、数秒悶絶した。
「メリー…いくらなんでも…」
痛かった。凄く痛かった。私は悲鳴をあげ、涙を流す。メリーはそれを見て我に返り、伸びたらどうするのと、照れくさく言った。
…気のせいだろうか。あんなメリーの恐ろしい顔をみたのは初めてだ。本当に、私を殴った理由はそれだけだろうか。
「…それと、蓮子。彼女の居る世界は恐らく、この世界の何百倍も文明が発達した、未来都市メトロポリスと呼ばれる場所よ。」
「…未来都市メトロポリス。なるほどね。だからあんな、夢のような服を着ているのね。でも、何でそんな世界の正式名称をメリーが知ってるの?」
「前に、境界の境から、チラッと行ったことがあるのよ。そこで、そこの世界の人間がそう言っているのを聞いたのよ。」
彼女は呆れ顔で、何となく解るでしょうと私に目で合図した。その後、メリーはエプロンに身を包み、私達の朝食を作り始めた。
なんだ。全部調べておいてくれたなら、もっと寝ておけばよかった。そんなことを考えて、また布団に潜ると、今度は鼓石が起きてきてしまった。
「蓮子、お寝坊さん?」
「…ごめんなさい。」
彼女につられ、私も再び布団から起きる。
未来都市メトロポリス、か。京都も、ここ五十年で随分と発展したが、それ以上に発達した世界なのか。ひょっとしたら、古代文明のオーパーツなんかも、メトロポリスから流れ着いたもの?
そんなことを小声で呟いていると、地獄耳のメリーが反応し、かもねと、私の話に付け足すように話した。
よくわからないが、布団が無い以上、私は行きたくないな。そんなことを考えながら、顔を洗い、メリーの作ってくれた朝食をたいらげる。
私の作ったものの何倍も、メリーの料理は美味しい。使っているものはまったく同じなのに、何故味が違うのだろう。流石に皿洗いまでさせるのはメリーに悪いので、皿洗いは自分でやることにした。
メリーは、それからしばらくすると、突然、もし嫌じゃなければ、タイムスリップしてみない?と私を誘った。
単なる彼女の趣味ならばお断りしたいが、聞くと真っ当な理由があった。
今から63年前の2016年に、時空の歪みが生じていたと言うことが、最近の研究で解ったと言う。存在しない世界の転生者である「郷少年」と呼ばれる人間達の存在。それの手がかりとなるかもしれない、「幻想郷」と呼ばれる世界で起きた過去最大の事件も、丁度あの辺りに起きた。
最凶覚異変。結局、あの異変を解決したのは博麗霊夢だが、他にも、その異変に関わった少年が存在したと言う。そして、その少年こそが、「郷少年」であるのではないか。と言うのがメリーの考えらしい。
郷少年は三人存在する。一人はメリーが干渉したことのある少女。もう一人は、先ほど言った少年。
ならば、もう一人は何処にいるのか?いずれにせよ、この時代に生きているかは怪しいくらいに時が経った。
だが、2016年に飛べば、確実に生きている。だから何だと言う話だが、まあ科学者を動かせるのは単なる好奇心。メリーもその一人ならば、付き合えば面白い発見や、メリーの秘密をまた知る一つの手がかりが得られるかもしれない。
今、2016年には、私の妹がいる。彼女も超能力者であり、私よりも強い。メリーが彼女にある頼みごとをしたらしい。
発見したかどうかはわからない。見つけたら戻ってくるようにとは言ってあるらしいが、時を超えているので、仮に見つけたにしても、どの時代に戻ってくるのかが解らない。
「で、私達が直接迎えに行くと。でも大丈夫なの?そんな勝手にやって、その後の未来で行き違いにスミが帰ってきたら、スミ消えちゃうかもしれないのに…」
「大丈夫よ。時ってのは、あなたが考えるように、そんな映画のように脆くないわ。案外強固にできているものなのよ。干渉者によってどこかで運命が変わっても、必ずどこかで折り合いがつくようにできているのよ。例えば、過去に死んだ友人を助けようとしても、必ずその時刻には、何かしらの原因で死ぬようになっているの。せいぜい起こるなら、記憶が多少改変されたり、書物が書き換わったりするだけ。しかも、私達が知らず知らずのうちにね。もしかすると、私達が知っている過去は、既に書き換わった未来かもしれないわよ?」
「ちょ…やめてよそう言うの。じゃあ、私達がスミを引き上げても、スミが未来で消えたりはしないってことね。」
「そう。まあせいぜい、帰ってきたと思った記憶が、変に時の狭間をフラフラして帰ってきたって記憶に変わるだけよ。それじゃ、そろそろ…」
「待って!私も行く!」
メリーが、タイムスリップの準備をすると、鼓石が私の服をつかみ、そう懇願してきた。
私は突然の出来事に、子供ができるような内容じゃないと思って断ろうとしたが、その前にメリーが許可した。
メリーはその後、彼女は、外見は子供でも、れっきとした平行世界の住民よと、私に囁いた。