東方七世界   作:tesorus

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嫦娥よ、見ているか!実に1ヶ月ぶりに更新をしてやったぞ!失踪など考えて……なかったと思う。


潔癖の少女兵

「うっ…この声は…」

 

鈴仙の苦虫を噛むような顔。その前で知り合いなのかと颯斗は彼女に問うが、彼女はそれに答えずに、冷やかしならさっさと帰ってくださいと言わんばかりに扉から目だけを覗かせる。

 

「おお、誰かと思えば我が愛しの玉兎、鈴仙ではないか!どうじゃ?私に協力するのならば、お前に世界の半分をくれてやろう!」

 

「どこのネタですか、それ…」

 

鈴仙は神霊のくだらない冗談に呆れて目を瞑り、一旦気持ちを入れ替えて扉を開ける。古いトウキョウのゲームのネタじゃと笑う神霊に対し、鈴仙は再び冷酷な表情に戻る。

 

「まあいいです。このまま帰るならそれでよし、帝や依姫様の命を狙うというのならば…!」

 

彼女が神霊の首に刀をかけると、神霊は相変わらずつれない奴じゃとため息を吐き、もうすっかり嫦娥の手先となってしまったのかと哀しげな顔をした。

 

「そうか。せっかくお気に入りの鈴仙にはとっておきの情報を教えてやろうと来てみたのに…」

 

まったく、あれだけ肥やされた穢れもすっかりお前からは感じられぬわ。蓬莱の薬も無しに、一体何をすればこんな風にと鈴仙を撫でる。

 

「あら、知りたい?残念だけど、鈴仙はもう穢れた他の五つの世界の連中とは違うのよ。彼女は月の力によって「浄化」した、穢れを元の玉兎のレベルにまで消し去った記念すべき1体目の浄化兵!住蘭様、見ていてください。これによって、いずれ八意様や輝夜様も元に戻して見せます!」

 

「おのれ、よくも私の鈴仙をこのような姿に…!だが、その浄化で蓬莱の薬の効力が消せるとは思えんぞ。さてはお主、永琳や姫が「穢れ」を持つとでも思っているのか?」

 

鈴仙の頭に手を当てながら、自らの技術を熱弁する依姫さんに対して、純狐と名乗る神霊は引きつった顔をしながらも反論を試みる。

 

「浄化」とか「穢れ」とか、まるで鈴仙が昔はボロ雑巾だったみたいな言い草だが、一体何のことか解らない。しかしそれ以上に意味が解らないのは、鈴仙がこのことに関して何の興味も持っていないこと。

 

そういえば、竹取物語において月の使者は地上を「汚なき所」と罵っていた。それで、はるか昔に罪によって地に堕とされた輝夜姫は蓬莱の薬を包んで翁に渡したが、翁はこれを拒んだとされている。

 

もし、月の人間が依姫さんや春秋達ということであり、また竹取物語が真の話であるとするならばこれは全て通じる話だ。

 

月の民たる鈴仙が穢れなど持つ訳がない。しかし、先ほどにとりは彼女と飲み交わした仲と言っていた。ということは、鈴仙はとある理由で地上に堕とされ、それで穢れに満ちていた?

 

そういえば、はるか昔に誰かが言っていた気がする。いつの出来事だっただろうか。私はまだ物心がついておらず、ひたすら遊びほうけていた。そんな中、竹取物語を誰かに読み聞かされ、輝夜姫が可哀想であるとその人に告げた。

 

「そうだな。だが、輝夜姫はまだ月などに帰れはしないさ。蓬莱の薬は禁忌であるからね。」

 

「キンキって?」

 

「絶対に飲んじゃいけないって意味さ。輝夜姫はそれで罰として、地上に堕とされたんだ。」

 

「ふうん…じゃあ姫様は悪い人なんだね。なんだか意外だなあ…」

 

「別に悪い人ではないさ。長らく生きることは、誰もが願うことだからね。レンやスミにも、いずれ解る時が来るよ。」

 

まさか、いや、そんなはずは。だって姫は兎なんかじゃない。いや、でも…

 

「違うわ。優曇華院は輝夜姫なんかじゃない。それに、優曇華院は別に罰として地上に堕とされた訳じゃないの。」

 

思い違いをする私に、銀髪の少女は私の耳元で囁く。名前も知らない彼女は私に告げ口をした後で、純狐の反論に胸糞を悪くした依姫さんの元で急ぎましょうと呟いた。

 

依姫さんはそれに反応したのか、先ほど話した「穢れ」の話を差し置き、話しすぎたと言わんばかりの顔で必死に口を抑えた上で純狐から離れ、もうこんな場所に居ると穢れてしまうからと言って再び魔界都市から離脱する。

 

「ふふ、そうじゃ。それで良いのじゃ。どうせお前にあの二人を戻せはせぬ。」

 

純狐は満足気な表情を見せ、そろそろ私も帰ろうかと言って魔界都市から離脱しようとする。しかし、鈴仙は彼女の腕を掴み、教えたかった情報を話しなさいと純狐に詰め寄る。

 

「良いのか?私などに触れば、また以前のように穢れてしまうぞ?」

 

「うるさいわね、そんな風に言うのなら、さっさと情報を!」

 

「仕方ないのぉ。というか、今のお主は綺麗すぎる。私の知っている鈴仙ではない。だから全ては教えぬ。一つだけ教えてやろう…」

 

純狐は瞳を閉じ、扇子で口を隠しながら一言だけ呟き、その後で紋章を開いて魔界都市から離脱した。

 

その後、残された私達は潔癖なまでに浄化された月の大使館を後にした。何故だか、このまま見ていると私はそこに引き込まれてしまうようで嫌になる。月の都にいたあの時には何も感じなかったのに、一体どうしたというのだろうか。

 

「いやぁ、それにしても鈴仙のアレには笑ったよ。豊姫様に似たのか、とことんエンターテイナーだよね鈴仙は!」

 

「何よ、いけないの?もう私は立派な月の刺客。その気になれば、師匠や姫様だって私の手で…!」

 

「よく言うよ、戻ってきたばかりの頃にはホームシックで師匠師匠って泣いてたくせに。あ、今も時々あるよね。」

 

「………!!」

 

月の大使館からの帰り道、鈴瑚が笑いながら鈴仙を煽ると彼女は顔を真っ赤にしてやめなさいよと鈴瑚の首元を掴む。私からしたら、あまり彼女が泣く姿を想像することは難しいが、彼女はそれほどに泣き虫なのだろうか。

 

まあ、今はあまりそんなことは言っていられない。しかし、彼女のそういえば月の都も変わったよねと言う発言にはどこか興味深いものがあった。

 

彼女曰く、元より月の都はかつての日本ような静かな佇まいではなく、もっと龍が鳴き獅子が猛るような活気のある世界であったと言う。私が三国志みたいな雰囲気だねと話すと、まさにそのような世界であったと清蘭は返す。

 

「…そうね、あまり意識していなかったけれど。まあ月の都が華やかなことに変わりはないわ。」

 

聞けば、月の都はとある事情で世界観をガラリと変えたらしい。建て前は嫦娥を二度と目覚めぬように沈めるだとか、妖精を近づける「覇気」を無くして平和を祈る為であるとされているが、どうにもそれとは異なると噂されている。何でも、月人の一部が玉兎と等しい身分に堕とされたことにも絡んでいるとか絡んでいないとか。

 

月世界の闇はまだまだ深い。月から降り注ぐ光はいつしも聖なるものとは限らず、時には闇を一層濃くするがため放つ光であるのかもしれない。しかし私は、それよりも今は反社会軍の闇を上手く沈めねばということに夢中であった。

 

…その反社会軍の騒動が、潔癖を求める少女兵によって血の海に沈められているとも知らずに。

 

「嘘、これって……リネア!一体どうしちゃったの!?」

 

闇市を照らす、残酷な光。闇市には苦い焦げた匂いと人々の内臓が転がっていた。天使はその身を赤く染め、眼は光を無くして冷たく輝く。

 

「…どうしちゃったの、とは人聞きが悪いわね。私達の目的は反社会軍の殲滅。ならばこれで良いはず。さて、そろそろ魔界軍に報告に行ってこの穢れた世界とはおさらばね。」

 

天使は誰もいないタイミングを狙っていた。彼女は恐らく、スミ達が反社会軍とケリをつける為に闇市へ繰り出す時を見計らって抜け出し、買い物客もろとも反社会軍を皆殺しにした。

 

「でも、でもこんなの!せっかくあれだけ翼達と作戦を練ったのに、そんな!」

 

「作戦?あんな馬鹿馬鹿しいもの、作戦だなんて言えないわ。相手は目にするにも痛々しいマフィア共、関わっている奴にも罪はあるわ。まあもっとも、地上で生まれ、行き、死ぬ…それだけで立派な罪だけれど…」

 

パチン!

 

スミは耐えきれず、右手でリネアの頬を叩く。その二人を何事かと集まる野次馬などとうに殺した今、その情景は二人きりの記憶となる。

 

ほら、やっぱり和解なんて無理だと諦めている。リネアはスミから受けた痛みにもかかわらず微笑み、そんな彼女を褒め称えた。

 

唐突の暴力。戦場はいかに姑息に攻められるかで生死が決まる。昨晩寝首をかかれたことを忘れたか。今日解決できねばまた襲われる。今度は昨日の不可説転倍かもしれない。戦場に於いて、一番重荷となるのは優しさであると知れ。

 

叩きつけるような天使からの悪魔のような説教に、スミはとうとう怒りを抑えきれずにいた。

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