東方七世界   作:tesorus

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沙羅双樹と優曇華の花

現想世界トウキョウ、この世界には表裏が存在する。

 

国の政策によってがんじがらめに縛り上げられた表の世界。TKGの総帥である血郷結衣や、国の関係者によって情報は完全に操作され、今や民主国家など夢のまた夢である。

 

あれだけ他の世界を地獄と言ってきたが、結果としてこの世から犯罪などを減らすには、やはりこの方法が一番手っ取り早いのだろう。異端者は消し、国に殉ずる者には祝福を。これが社会性動物の原初にして結論であるのかもしれない。

 

そして、この世界の裏側。この裏社会を牛耳る宇佐見巣脳という男。彼こそ、私達宇佐見姉妹の父親である。ひょっとすると、私の暗さは彼に似たのかもしれない。

 

「菫子にせっかく会えたのに、随分酷いことするんだね。」

 

「そうですね。まあ、私達が思っている以上に、彼女が立ち向かわねばならない闇は深く非道な物であるということですよ。臭いものには蓋を、ということは私はどうも嫌いでしてね。」

 

暗闇に挿す一筋の光。黒い装束を着た少女と話す、黒い軍人のような洋服に身を包む少女は彼女を睨みながら、可愛そう、とスミに漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、これしきの弾幕ではお前達を潰すことはできないか。」

 

骸骨から放たれる弾幕は、次第に強さを増していった。能力を使うことができないこの空間では、彼女に対抗する術もまるでない。

 

しかし、私の周りの人外共は私の腕を掴んでヒラヒラと彼女のゾンビ・フェアリーなる弾幕を避け続ける。

 

「まるで歯ごたえのない弾幕ですね。本当に、この世界で戦ってきた妖怪ですか?こんな連中ばかりなのだから、敵に殲滅されるのでは?」

 

レイセンは隻眼の眼で笑い、妖怪少女はその煽りに彼女を睨む。

 

おお、煽る煽る。案の定その言葉は彼女の逆鱗を逆撫で、次なるスペルカードを彼女は手に取る。

 

「ほらほら、弾幕なり霊魂なり、好きな物を出しなさい。ク・ソ・雑・魚。」

 

「くっ、貴様ぁぁぁぁ!」

 

《屍霊「食人怨霊」》

 

五体の人の形をした何かが、私達を求めて地を這う。私達は別に能力が使えるようになった訳でも、特に形勢が逆転した訳でもない。

 

レイセン、沙羅双樹の少女。彼女の見せる恐ろしさすら含む余裕はいったい何から来ているのか。

 

彼女のスペルカードはあと一つ。しかも、それを出現させるには今の弾幕を逃げ切らねばならない。それなのに、あんな風に煽ってしまったら、何をするか解らない。

 

「何もできませんよ。どうせ使うことのできる武器は、あらかじめ宣言した三枚のスペルカード。どれも強力であることに変わりはありません。しかし、彼本来の力は入っていないでしょう。」

 

「どうしてそんなこと…」

 

「戦闘において、相手に最大限の力を晒すことはタブーです。それが勝負の世界の掟であることは、彼が一番知っているはずです。」

 

「そんなの、三枚だけで私達を…」

 

「それは、あくまで殺める対象が私達だけであったときの話。彼…実はお尋ね者なのでは?」

 

さて、まずはしっかり避けることからですね。彼女は私の腕を引っ張り、人の形をした怪物が開く口から私を引っ張り出す。強く彼女に引っ張られたせいか、Tシャツの襟が私の首を締め、私は痛い痛いと彼女に痛がってみせたが、彼女には無視された。

 

それでもと私は彼女に必死に自己主張をしてみせるが、挙げ句の果てには彼女に五月蝿いともう片方の手で張り手を喰らわされた。

 

「とはいえ、流石にこのルールは今の我々にはキツいですね。私一人ならまだしも、能力に依存せねば動けないクソ雑魚達をこうも並べていると重荷になります。」

 

「ちょっと、それ私にも言ってるの?こんな弾幕、能力無しでも避けられますけど。」

 

「ふうん、そうですか。右の足、触れてるくせに。」

 

「…っ!」

 

リネアの右足を見ると、弾幕に撃たれた傷が腫れ上がっていた。慌てて彼女から離れるリネアに対し、穢れ無き天界のキューピッドだとしても、月の都にあなたのような馬鹿は歓迎できませんと彼女を煽りながら、私の懐に手を伸ばす。

 

「借りますね。」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

懐から取り出したのは、仕事用に持ち歩いている拳銃。彼女はそれだけを持つと私を突き放し、装填済みの睡眠弾を全て投げ捨て、代わりに自らの懐の実弾を私の拳銃に装填する。

 

そして、地上に落ちていく最中に引き金に人差し指をかける。黒い髪の妖怪は残りの人間もどきをさし向けるが、彼女は私の銃を使って全てを撃ち滅ぼす。

 

「特殊能力は使えない、体術では避けきることは困難。ならば武力行使はどうします?」

 

「……。」

 

「ジ・エンド。クソ雑魚、あなたの負けです。」

 

引き金を引く音。沙羅双樹の花は、情けも知らない無垢の色をしていた。

 

そして、その色は優曇華の花すら犯していく。彼女が月に忠誠をと受けた「浄化」の光は、彼女の精神にすら影響する。

 

光は必ずしも正しい光とも限らないし、闇は必ずしも卑しい闇とも限らない。穢れもまた、その一種であろうか。潔癖を求めるあまりに人としての穢れの喜びすら否定され、月の光によってその全てを削ぎ取られる。これこそ「浄化」の正体である。

 

生死の概念を精製する穢れのオーラを払うことは、一見容易いように聞こえて難しい。故に穢れを溜め込むことは月の民の間で恐れられ、月の民は、トウキョウなどの五世界の民のように穢れた民を追放することによって、都の平和を守ってきた。

 

「あ………あああ…痛い…痛い…」

 

綿月依姫が持ち込んだ、「浄化」のプロジェクト。それは長年、月の都が禁忌としてきた脅威的なプロジェクトであった。

 

「汚い、こんなの耐えられないわ。こんな穢れた世界にいたら腐ってしまいそう。」

 

実は、蓬莱の薬はこの実験の副産物とされた説が存在する。以前の「浄化」のプロジェクト。それは地上へ堕ちた賢人達を月の都にサルベージする為に八意永琳が主軸となって実験が成された。

 

蓬莱の薬が完成しながら、この「浄化」のプロジェクトが進行されたことには訳があり、それは実験に玉兎や下等階級の月人が使われたことが背景にあった。蓬莱の薬を飲んだ月の民は、月の都に居られぬほどの穢れを生じさせることは知っての通りだろう。

 

「違う…この地上は私達にとって…嫌、もう登ってこないでよ!どっか行ってよぉ…このままじゃ私…」

 

八意永琳の消失によってこの「浄化」プロジェクトは廃案となる。あと少し、そんな場所までこの計画は完成していた。この「浄化」によって月の民が背負う副作用は、蓬莱の薬とは比べ物にならないほどにまで本人の思考や性格に侵食する。

 

これを恐れた月の民は、月人を全て貴族として迎い入れ、嫦娥は玉兎全てに決まった役を与えるなどをし、その計画を永遠に進行できぬような環境とした。しかし、月の都は紺珠異変を境に徐々に変化して行き、実に数億年ぶりに「浄化」計画の被害者が出ることとなる。

 

これは、紺珠異変の犯人にして月の都への反逆者である彼女が、月の都へ復讐するために仕組んだことなのだろうか。だが、それによる被害者が彼女の愛した玉兎であることを、彼女は想定していただろうか。

 

「…くだらない。私の命は全て月のもの。こんな地上で穢れた服など着たくもない。月以外の穢れた飯も食いたくない。地上の穢れた民と友好関係など、築きたくもない。」

 

ベッドから起き、手元の刀を手に取る。古い服は汚いと脱ぎ捨て、月の制服を着て扉を開ける。

 

「あ、起きたんだ。あのさ!阿求も小鈴もこっちに来たって。これでようやく…」

 

目の前には何もない。ただ、穢れた血が流れるだけである。




クリスマスにレギュラーが死ぬ小説があるらしい
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