東方七世界   作:tesorus

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ネゼリ・アリゼネ

どこへ向かうとも知れぬ夜の闇、果てなく黒く染まる夜の光は我が現し身か。

 

かつて過去の世界で私に安らぎのひとときを与えたそのネオンの光は、今や残酷な下衆となって私に襲いかかる。まるで自分の全てを否定されているようで、今の私には絶えられない。

 

光無き地帯では闇、闇無き地帯では光が私をついばみ、かつて私が幻想郷で受けた罪への報いを再び受けているような孤独感に襲われる。

 

私を責め立てるような街の雑踏。苦渋を詰めたような機械の明かり。もう、何もかもが私の気に触る。

 

「…誰か、誰か私の味方になってよ。」

 

私は気づけば光当たらぬ深淵に倒れ、もう東も西も分からぬようになった。

 

コンクリートの大地は、予想だにせぬくらいに非情で冷たい。幻想郷の柔らかい土とは大違いだ。

 

そして、そんな私を見下す黒い影。心なしか雨も降ってきた。黒い影は傘を差し、そんな所で寝たら風邪ひくよと私に傘を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、本当に月の使者になっちゃったんだね。君は。」

 

散らばる死体。その隣でその血を眺める1匹の河童は、私を睨んで不吉な笑みを浮かべた。

 

「どうして…だって、私は今ここであなたをこの手で…!?」

 

「妖怪は死なない。無限に人の心に残る狂気、その身に帯びる凶々しさ。月の聖獣には分かるまい。」

 

彼女は自らの死体から外れた首に口づけ、その脳髄を含んだ頭蓋骨をガジガジと貪る。首からは眼球が垂れ、もう一人の彼女の足元に落ちた。

 

彼女は落ちた眼球を踏み潰し、怖い?と私に微笑んでみせる。

 

「何かあるといけないからね、こうなるように仕組んでおいたんだ。ネゼリ・アリゼネ、零は無限を欲し、無限は零に還る。上から読んでも下から読んでも同じ言葉の呪い。」

 

彼女の外れた首から、黒い涙が流れる。その涙はやがてもう一人の彼女に取り込まれ、やがて彼女は衣に包まれずに全裸となる。

 

彼女から伝わる、この世の全てを超越するかのような穢れのオーラ。側に居るだけで不快になっていく。

 

「…こんな力があったなんて。」

 

「無い無い。もう使っちゃったからね。それに、元々これは阿求からの貰い物なんだ。なんなら、もう一回私の首でも斬ってみれば?もうネゼリ・アリゼネの転生能力は使えない。ただ、私は紛れもない妖怪。私は死んでも、私はあなたの中で恨みとなって生き続けるよ?」

 

「………。」

 

「さて、穢れ無き月の聖獣。私がこのまま、あなたを月になんて帰すと思う?」

 

彼女を、ネゼリ・アリゼネなるオーラが再び包む。すると彼女は、昔のような作業着に身を包み、懐から黒い本を取り出した。中には、幻想郷の住人の名前とスケッチが大量に記されていた。

 

「ネゼリ・アリゼネに転生した以上、代償として私の能力は使えない。蘇生した訳でもないから、魂、見た目、記憶以外は、私は河城にとりとは全く関係のない妖怪と化した訳だ。その代わり…私はネゼリ・アリゼネの能力を使うことができる。この本の中には、死した妖怪達の恨めしい気持ちが込められてるんだ。」

 

まさに闇堕ち、と言ったようなものであろうか。彼女は真ん中あたりのページを開き、妖怪の黒いオーラを解き放つ。

 

「恐れろ、妖怪の憎悪を忘れた人間共!今宵は震えて眠れ、生けるものは死に晒せ!ネゼリ・アリゼネ、百鬼夜行!」

 

スケッチに描かれた血まみれの巫女、彼女は黒い塊となり、具現化してにとりに口づけする。愛してるよ、妖怪殺しの罪深き巫女。彼女がそういうと、巫女は笑って消えた。

 

「逝けぇ!主に空を飛ぶ程度の能力!」

 

彼女は黒い巫女装束に身を包み、お祓い棒を手に殴りかかってくる。

 

「…霊夢の能力。なるほど、死者の能力を使えるのね。不謹慎な能力。」

 

「死ねぇ!霊符、夢想封印!」

 

とりあえず、ここだと狭すぎる。私は窓から飛び降り、ネオンきらめく世界をかける。どこへ逃げる気だ、彼女は邪教の巫女らしき怪しき結界による攻撃によって、私の背中に傷をつける。

 

このままでは流石にかなわない。私はビルの間を飛び回り、彼女の動きを見極める。穢らわしい妖怪が、臭くて臭くて仕方がない。

 

私はこの世界を嫌い、彼女はこの世界を救おうとしている。はずなのだが、予期せぬ来客が来たようだ。

 

妖怪討伐は巫女の仕事。それは外の世界でも変わらないか。背中につけた小型飛行機、足にはローラースケーター。実にいびつな博麗の巫女が姿を現わす。

 

「ったく、味方同士で何やってるの?ここは幻想郷じゃないの、こんな都会の真ん中で恥ずかしい。」

 

「博麗深月…!」

 

その巫女は、随分と変わり果てたかつての仲間を抱えていた。少女はあなたの手なんか借りなくても、と言って深月の手を離し、その身体を宙に浮かす。

 

「…霊夢さんの幽霊?」

 

「孫の深月って言うの。今は時給7ドルで博麗の巫女をしてるので。文句あるなら雇い主の居る鈴奈庵に投げ込んで。」

 

「…何よ、もう放っておいてよ!私はどうすればいいの!?外も中も私を責める人だらけ、優しいお姉ちゃんも、結局私に気を遣っているだけなのよ!だから…誰かが私の味方になって…霊夢さんなら、霊夢さんならきっとと思ったのに…!」

 

「あっそ、じゃあ僕はあなたの味方だよ。巫女は人間の味方って相場で決まってるって言われてるし。」

 

「…そんな簡単に!」

 

「まあ、あなたのことは後だ。妖怪討伐も巫女の仕事って相場で決まってるからね。ネゼリ・アリゼネ、河城にとり。まずはあんた。少し頭冷やしてもらうよ。」

 

巫女は菫子を抱きしめ、その後で向き合う私達を睨み、左手の指輪の水晶を光らせる。

 

《弾幕展開モード、起動します。敵、確認しました。種族、能力及び既存妖怪との適合データを幻想郷縁起.exeより参照中。10…20…80…》

 

「ちょっと待ちなよ、私はこいつに殺されて、それで反撃する為に戦ってるんだけど。何で私が深月とやらなきゃいけないのさ。」

 

にとりは霊夢の影を身体から消し、携帯のアプリケーションによる弾幕展開を準備する彼女に詰め寄る。

 

「その為のネゼリアじゃないの?だったら不死身になる力使った後で時空を超える機械使って、鈴仙を月の都に強制送還すればいい話でしょ。」

 

《解析完了。既存妖怪の該当データ無し、種族、ネゼリ・アリゼネ。能力、堕ち命を書へ綴じ乱用する程度の能力。》

 

「とにかく、外の世界でドンパチされたら困るのよ。僕はあの妖怪どもやご先祖様みたいに外に行くのを禁止したりはしない。ただの時代にそぐわない監禁罪だし、何より僕が行き来してる時点で人のことは言えないからさ。」

 

《弾幕展開フィールド、展開。異変解決モードに切り替わりました。プレイヤー博麗深月、健闘を祈ります。》

 

「さ、僕と遊ぼうか。」

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