朝6時。冬は更に深まり、もうこんな時間だと言うのに、空は、まるで映画のシアターのように黒い世界に包まれている。
「…やはり貴様か、幻想郷を汚す異端者め、ここで始末してやる。」
少年は、巫覡の姿に身を包み、白いオーラを放つ。オーラを感じただけで強いことがわかる。私も姿を現し、私の次に、メリー、スミ、にとりが姿を表す。
鼓石は、まだ子供だから戦えない。メリーは、満足なほどの体力がない。そう踏んで、置いてきた。私とスミが攻め、にとりに全ての防御を任せる。
すると少年は、誰だ貴様らは、と睨んだ。
「私は宇佐見蓮子。あんたがストーカーしてるこいつ、宇佐見菫子は私の妹だよ。よくも妹をいじめてくれたね。お礼に、緋封倶楽部全員であんたを懲らしめに来たよ。」
私が挑発気味に彼に話すと、彼は、ならば姉妹共々果てるがいいと言って、暗く笑いを見せた。
「ほう、なるほど。ならば霊夢に代わり、俺が貴様に裁きをくれてやる!」
彼の体内から、大量のオーラが噴き出す。それによって、彼の着ている装束や、龍国神社の森林も震えだす。このまま食らえば、例え三人だろうとすぐにやられてしまう。
こういうのは、やられる前にやれだ。悪いが私は、ヒーローの変身シーンの途中で殴るタイプの人間だ。手加減はしない。
両腕の指の間から、緑色の電流を流し、確認する。その後、すぐに彼の前へ飛び、彼に触れた。
「身体の芯まで傷つけ!」
腕から電流を出し、彼に高電圧の電流を流す。全く聞いていないと言う訳ではないだろうが、まるで聞いていないと言わんばかりの表情をされる。しばらくすると彼は私を睨み、私を逆に掴んで空中へ放り投げた。
「なるほど、貴様も超能力者か。まあいい。幻想郷を荒らすものは、誰であろうと許さん!
《赤龍「朱雀沙羅」》
彼が札をかざすと、彼の側の地中から、四匹の赤いドラゴンが出現し、二匹はスミ達めがけて、もう二匹は私めがけて飛び込んでくる。
にとりが飛び込み、スミに対する二匹のドラゴンを切り裂く。ドラゴンが血を帯び、悲鳴をあげたその一瞬。スミはドラゴンを蹴って飛び上がり、彼めがけて飛び込む。
「頼むよ、伝説の妖刀!」
にとりは私の方のドラゴンに向かい、私の前に立ち塞がって、ドラゴンを縦横無尽に引き裂く、ドラゴンも抵抗するが、それでもにとりの早さには追いつけない。
そこで私は、にとりの刀の異様さに気がついた。この刀…全く血を浴びていない。いや、血を帯びるシーンはあるが、すぐに刀から出る水が、それを洗い流している。
「これって…あの妖刀村雨!?」
「まあレプリカだけど…ね!」
ドラゴンの首や胴体を引き裂くと、ドラゴンはその姿を消した。どうやらあれは、重大なダメージを受ければ消えるらしい。
念力を使ってバランスを取り、着地する。しかし、いきなりなんて大技を使うのだ。これがいくらでも使えるのなら、相当な脅威だ。
しかし、向こうも電流によるダメージは受けている。彼の装束は少しだけ焦げ、彼自身も先ほどの威勢は無傷では残っていない。
「…赤の龍を倒すとはな。だが、これはどうだ!」
《緑龍「常磐深緑」》
彼が新たな札をかざすと、今度は緑色のドラゴンが大地から出現した。それだけではない。ドラゴンは地面に根を張り、養分を吸い取っている。
こいつをどう突破するか。まだ、退けただけで倒していない、赤いドラゴンも残っている。
流石ににとりだけでは処理できないと見なし、緑色のドラゴンを潰しにかかる。ドラゴンは私達が近づくと、強烈な音波を放った。
竜也の近くにいたスミは、これに耐え切れず、後退した。その隙に緑色のドラゴンは地面から棘の鞭を出現させ、スミを引っ叩いて、竜也とスミとの距離をさらに広げる。
私がその音波に耳を塞いでいると、赤いドラゴンが接近し、私に火の玉を吐く。
私は跳ね返そうと、スミと二人で、念力で火の粉を制御し、ドラゴンへ跳ね返す。しかし、その火の粉を、棘の鞭が防ぐ。それによって、棘の鞭は焼け落ちた。
このままでは、三人皆殺しになってしまう。竜也はそれを嘲笑うように、三種類目のドラゴンを召喚し、更に私達を追い詰める。
《青龍「激流豪雨」》
前方に自然の龍、背後に火と水の龍。とても三人相手とは思えぬほどの相手だ。唯一手段が残されているのならば、彼自身。ドラゴンを無視し、彼に一気に飛び込む。それができねば、死あるのみ。
私はスミに合図をかけ、一気に敵の懐へ飛び込む。無茶苦茶だが、守りはにとりに任せるしかない。
どちらにせよ、引くわけにはいかない。私は許せない。スミをあんなにしたあいつを。
そんな恨みを抱く私、そして、私達がその間置き去りにしている数十年後には、私が知りもしない世界で、私が知りもしないような少女が生きている。
少女は、独りであった。友人は居るが、彼女の全てを知らない。私の知らない世界は、まだまだ存在する。
少女はそんな絶望の中、一人で喘ぎ苦しみ、こんな状況に居て、こんなことを考えていた。
怖い、辛い。できればどこか、彼らの手の届かない所へ逃げたい。
「次!腹筋2000回!それが終わらない奴は、今日の朝食は抜きだ!」
ただひたすら、焼き付けるように命令された言葉を聞く。逆らえば、また殴られる。1日が終わろうが、目を瞑り、開ければ、また私達には地獄のような日々が待っている。
繰り返して繰り返して、もう何十年経っただろう。血豆ができては潰れ、できては潰れる。私の金髪の髪も、このままでは全て抜け落ちてしまう。
もう考えるだけ無駄だ。考えない方が楽になれる。意識を殺して、ひたすら訓練を続けている。ここを地獄と言わずして、どこを地獄と言うのだろう。
しばらくして、命令されたことを終わらせた。腕は血まみれになり、そこへ石が食い込み、悲鳴を上げる。すると上等兵が飛んできて、兵長様の睡眠の邪魔になるとかならぬとかで、殴りつけられる。
こんな手では朝食は食えないと、水を手に押しつけられる。水が手にしみ、極上の拷問を受けているような気分になる。
朝食など、食べられる訳がない。喉は渇き、身体全身に気持ち悪さが漂う感覚で、食欲など湧かない。この感覚は、数十年経っても、全く変わらない。
それでも、ここで朝食を食わねば、後々死ぬような空腹に襲われる。何とかして、朝食を駆け込む。
一体、どこで道を間違えたのだろうか。これだけの思いをしても、学校では、いや、人前では余裕の表情で出なくてはならない。さもなくば、軍のみんなに示しがつかない。
学校が終われば、また訓練だ。友人の家で一泊し、それで夜と朝の訓練を回避することもできるが、それも一時、地獄から遠のいただけに過ぎない。
無限に繰り返される日々。学校に行きながらなので、昇進などできる訳もない。逆に学校に行かねば、私は希望を失って朽ち果ててしまう。
学校は楽しい。あいつと話ができる。あそこは、私にとっての希望だ。そりゃあ、少し嫌な奴はいるが、それでも、こんな軍の訓練よりはずっと楽だ。
学校にいない間は、あんなことはできない。個性は捨てろと言われ、量産型の戦闘マシーンに身を染める。
みんなのように、放課後楽しく話し合うこともできない。終われば軍の車が迎えに来て、一部の人間からは後ろ指をさされる。
魔法使いってのは辛い。軍の指示でなっては見たものの、早く死ねないから、どんどん地獄にいる日々は増していく。
数十年前に行った作戦で見た、一人の少女。彼女に会いたい。できれば、私も彼女のように…
無理だ。私は嫌われた、あの娘に。だから、もう居場所はここしかない。
もう嫌だ。誰か助けてよ…