現想世界トウキョウ
戻った世界は、私たちが出かけた時刻に、向こうで過ごした時間を足した時刻。今日は講義は休みで、もう秋が来ると思わせるような気候。少しずつ暑さが和らぎ、穏やかな秋の風が吹き込む。
向こうは冬だったので、あんな気候がこの場にも来ると思うと、何だか嫌な感じだ。
「はあ…昨日の講義休んじゃったな…」
もう少し欠席したら、単位を失ってしまうかもしれない。何で欠席で単位を失わねばならないのだ。テストさえできていれば、それで良いじゃないか。
「お姉ちゃん、朝御飯まだ?」
「…ああ、メリーが買い出し行ってるから、もう少し待ってな。あとさ、あんた高校は行かなくて良いの?」
「うん。11月から行けば留年にはならないから、まだ良いかなって。」
「…私が言えたことじゃないけどさ、学校には行った方が良いと思うよ?」
スミは、夏休みの初めから2015年に居て、そして、年明けの2016年に私達と共に帰ってきた。その空白期間は、年を越すほどの旅をしたにもかかわらず、わずか数ヶ月。
つまり、彼女は私たちよりも数ヶ月だけ、歳をとったことにもなる。私達はそれが嫌で、旅立つ前の時間と合わせた時間に帰ったが。
まあ、きっと彼女にそれを言ったら発狂するので、言わないでおこう。
そうか、もうすぐ学校の学園祭か。となると、サークルの出し物が必要になる。
こういうことは、大学一年生だから初めてなので、何をすれば良いかわからない。まあメリーもいるし、なんとかなるだろう。
それからしばらくして、メリーが買い出しから戻ってきて、朝食を作ってくれた。
トースト、ゆで卵、コーヒー。トーストの焼き加減もちょうど良くて、コーヒーは少し濃いめ。
「ねえ、そういえばさ。これからどうするの?」
トーストをたいらげながら、にとりが私やメリーに話しかける。「これからどうする」と言うのは、今日の予定とかではなく、あの人造の妖怪をどうやって調べるかと言うことであろう。
恐らく、本や雑誌は役に立たないだろう。今の時代、ネットワークも危うい。
と言うか、ネットに関しては、メリーが帰ってくるまでに私達で調べた。しかし、やはり情報はなかった。
そもそも、にとり曰く、この世界幻想郷に関する情報は、全て歴史の闇に葬り去られているらしい。そのことが書かれた掲示板やSNSのページには、大量のブラクラやウイルスが撒かれていた。ネットワークの管理をしている政府機関も、そのページを開いたことによって存じたネットワークに関しては、全くサポートを受けつけない。
逆に、通報すればこちら側が捕まる。
「えっ、それって、管理者がブラクラやウイルスをばら撒いてるってこと!?」
「そういうこと。なんで、そこまでして幻想郷を庇うのかは知らないけどね。」
ひょっとして、人造の妖怪がこの世界に干渉している?スミの問いかけに対し、私もそんな疑問を抱きながら、ゆで卵を貪る。
そもそも、「人造の妖怪」って、一体何者なのだろう。ひょっとして、遥か昔の偉人達の作った人造人間が幻想入りした?
普通ならば、そう考えるのが普通だろう。しかし、果たしてそんな昔に、結界を強化し、異世界化するほどの力を持った人造人間など、本当に創ることができただろうか。
いや、無理だ。そんな技術、私達の世界には存在しない。となれば、やはりメトロポリスの陰謀が絡んでいると言うことになる。
この世界にオーパーツを送り込み、他の世界すらも牛耳ろうとした世界ならば、あり得るかもしれない。偶然だが、メリーもメトロポリスに興味がある。
「メリー!」
「なっ…何?って、なんとなく解るわ。メトロポリスに行きたいのでしょう?」
メリーの返答に、激しく首を縦にふる。できれば今すぐにでもメトロポリスへ行き、にとりのミッションを終わらせ、幻想郷を救い出したい。
しかし、メリーは首を横に振った。理由を聞くと、魔力不足がどうのこうので、今日すぐとはいかず、魔力が貯まるのは、早くても明日になるらしい。
メトロポリスの人達は、たどり着いた場所からか、この世界をトウキョウと呼ぶらしい。このトウキョウからメトロポリスは、離れ過ぎており、メリーの魔力で到達するには、間の4つもの世界を経由する必要があるらしい。
私は愕然としたが、これを頼み込んだ本人であるにとりは、そもそも本当にメトロポリスの仕業かなどは分からないから、色々な世界から情報を得た方が良いと、その条件を快く受け入れた。
出発は、明日の8時。私達はそれまで、このトウキョウで時間を費やすことにした。
いつものカフェに、スミ、鼓石、にとりを連れて行くことにした。大学の食堂や図書館でも良かったかもと一瞬思ったが、図書館は学生証が無いと入れないし、食堂は知り合いがいるといけないと思い、カフェにした。
考えてみると、鼓石に出会ったのも、このカフェだ。あの不思議な手紙の送り主は、もしかすると、鼓石に友達を作ってあげようとした、鼓石のお姉さんだったのかも。
そんなことを想像しながら、カフェでお気に入りのコーヒーを頼み、店に備えつけの接続口にケータイを差し込み、キーボードを展開する。
「あれ?お姉ちゃん、ここに宿題しに来たの?」
「うん。来週にはレポート出さなきゃいけないしね。」
「ええ!?せっかくみんないるのに、それは流石に酷くない?」
「ああ、うん。そうだね。」
「ねえちょっと!話聞いてよ!私達とレポート、どっちが大切なの!?」
「レポート。」
「そんな!」
「しっ、あんまり大声出すと、店の人に追い出されちゃう。あんたらはゲームでもやってな。」
スミから目を背け、キーボードに手を置く。課題は4ページ終わっていて、残りは2枚ほど書けばいい。午前中には終わるだろう。
「あれ?そういえば、メリーは?」
「知らない。あいつ、日中はまるで何してるか解らないからね。多分講義でしょ。」
メリーに関することは、私はまるで知らない。が、2016年の世界で、少しだけメリーの過去の扉が開きかけた気がする。
メトロポリスと、郷少年の関係か。私にはよくわからないが、メリーを日中見かけないのも、そういう理由なのかもしれない。
日が昇るに連れ、カフェは混み始め、相席などを求める店員の声が目立ち始めた。
私達の座っている席は、5人がけの席。一つだけ空いている席に相席を求められ、金髪の美少女がそこに座る。
美少女は、遥か昔の兵士のような格好をしている。店に入り、外したと思われる緑色のつばつきの帽子を膝に乗せ、同じ色のシャツのような制服を着て、同じ色のズボンに加えて長靴を履いている。
どこかの国の軍人なのだろうか。いや、だとしても、そんな彼女が何故こんな場所に?そもそも、こんな若いうちから兵士として教育される国などあるだろうか。
…いやいや、もしかすると、ただのコスプレかもしれない。そんなことを考えながら彼女を見続けていると、彼女はどうされました?と私に話しかけてきた。
「いや、なんかこう…服装が気になって…どこかの軍隊の人なんですか?」
「はい、そうです。でなければこんな服装、好き好んでしませんよ。少し任務があって、今日はここの近くに来ました。まあ、大した任務ではないのですが。」
彼女は、私の質問に対して答えると、運ばれてきたコーヒーを飲み、人探しを頼まれているのですと私に話した。
彼女の国では、軍人はキツい訓練を強いられ、昇格は至難だと言う。その他にも、彼女は色々な話を私達にしてくれた。
どこか、重要なことを隠しているような気はしたが、まあ軍人には国家秘密も握っているので、あまり重要な話はできないのだろう。
私達は、そんなこんなで打ち解けられたのだが、にとりだけは、彼女が来てから、怪しげな目で彼女を見ている。
「そういえば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。私はルイズと申します。あなたは…」
「ああ、宇佐見蓮子って言います。近所の大学で、オカルトサークルをやっていて…」
「宇佐見…蓮子…?」