私達がカフェでお茶をしてから数時間後の夕方。私は、気があうと思いアドレスを交換したルイズさんに呼び出され、近くの公園に向かった。
ルイズさんは、公園で本を読んでいた。彼女に声をかけると、お待ちしていましたと、先ほど私に見せた笑顔を見せた。
「…あのう、大丈夫ですか?お仕事の人探しって言うのは。」
「はい。もちろん忘れていませんよ…目の前のあなたを誘拐し、メトロポリスについて尋問し、答えねば拷問をするのが、私の任務ですから!」
彼女は、そう言い終わると同時に、私のそばへ駆け寄り、胸倉を掴んだ。
私が彼女の力に圧倒されている間に、彼女は私を地にうつ伏せに抑え込み、身体の自由を奪う。
流石は軍人。中学生くらいの身体をしていながら、完全に力負けしている。抵抗すると更に身体を締め上げられ、もう足でジタバタするしか抵抗ができないほどになる。
何故、彼女がメトロポリスのことを知っているのかはわからない。ただ、今は彼女に素直に従うしかなさそうだ。相手も超能力に通じているのかは知らないが、超能力も抑え込まれ、オーラでルイズを吹き飛ばすこともできない。
「…解った、もう降参。あなたの言うことには従うわ。」
「そうですか。ではそのまま、じっとしていてもらえますか?」
彼女の拘束が和らぎ、起きあがれるようになると、彼女は、ベンチの側にかけてあったロープをつかみ、私達の両腕を後手に縛り、両足も同じように縛った。
「ふふ、あなたと別れて、あなたが馬鹿やってる間に取ってきました。道端で会った見ず知らずの人を信用しきってはいけませんよ。緋封倶楽部の首、宇佐見蓮子。」
そうだ。やっぱり彼女、私のことは知っていた。私は彼女にオカルトサークルとは言ったが、「緋封倶楽部」と言う名前のことは一切伝えていない。
彼女は私の服の首元を荒っぽくつかみ、ポケットからサバイバルナイフを出して突きつける。公園で誰か通らないものかとキョロキョロ見回すが、こんな時間に誰が通るはずもない。
ロープもキツく、私の知っている縄抜けは一つも通用しない。
「ちょっと待って…解った、全部話すから。でもその前に聞かせて。貴女は一体、何者なの?」
彼女のサバイバルナイフに目をやりながら、彼女に話しかける。殺されることはないだろうが、逆らえば痛い目にあう。膝立ちで捕縛されている私と、それを見下して尋問する彼女。
殺されるも痛めつけられるも彼女次第。どこの世界の人間だろうと、軍人ならば多少なりとも礼節があるはず。彼女の良心を信じ、彼女に話しかける。
すると彼女は、私の問いに喜んで答えてくれた。
「そうですね、貴女ならば驚きもしないでしょう。私は、こことパラレルワールドの関係にある、魔界都市ミラークロスの兵士です。女王陛下の命により、「人造の妖怪」に関する情報を貴女からお聞きしに来ました。貴女達緋封倶楽部が、数十年前の幻想郷に干渉し、その「人造の妖怪」によるものである結界を破壊しようとしたことは調査済みです。さあ、お答えを…」
そうか、やはり彼女は平行世界の住民。だからにとりは、あんな形相をしていたのか。
だがしかし、彼女はメトロポリスの住民ではない。となれば、その魔界都市ミラークロスと言うのは、残り4つのうちのどれかの世界と言うことになる。
幻想郷にある、結界の破壊。それをやろうとしたのはスミだが、それを言っても彼女は信じないだろう。
「私達は過去の幻想郷で、結界を破壊しようとした。それは、いずれ起こる幻想郷最大の異変の犯人「人造の妖怪」と関係があり、またその異変の元凶でもあるとされるから…です。」
「そうですか、それは不可能ですね。タイムパラドックスに対する圧力が働いて、時の狭間から修正されるはずです。と言うか、そんなことを聞きたい訳ではありません。一体どこから、「人造の妖怪」の話を聞いたのですか?答えねば、五分ごとに親指から、爪を削ぎ落とします。」
彼女は私に質問したあと、右手の親指の爪を少しだけ押した。これだけでも、凄い圧力が指に伝わってくる。
「…私は、人造の妖怪のことに関してはしらない。にとりって言う、仲間から聞いたの。だから…」
「そうですか。なら、そのにとりと言う方を拷問すれば、情報を吐きますかね?」
「いいえ。多分、それは無理…多分彼女も、誰かから聞いたのだと思う。じゃなきゃ、もうとっくに、それに関して動いてるから…あのさ、私達も、これからその秘密を探っていくからさ、待っててくれないかな?」
なんとなくだが、彼女とはまともに話せる気がした。震えながら答える私に、冷酷な彼女の眼が突き刺さる。彼女は何も言わずに、じっと私を見てくる。
できれば、もう逃げてしまいたい。本当のことは言った。全部話して丸裸になった。
しかし、それでも彼女は離してくれない。本当に知らないと言っているのに、まだ何かを隠していると思っているのだろうか。
彼女さ私の親指を触れ、ぐっと力を入れる。この力で剥がされたら、耐えられぬほどの痛みが襲ってくるだろう。私は往生際悪く、どこまでも彼女に命乞いをする。
「あと2分。言わなければ、力ずくで…」
彼女が私の親指に触れ、またいたぶろうとした時だった。
私と彼女との間は引き裂かれ、私を縛っていたロープは完全に解けた。その後、誰かの頼りない腕に抱かれ、私は仰向けに倒れる。
一瞬の出来事に、私は慌てふためき、辺りを見回す。右奥のルイズ、側にはいくつかのベンチ。そして私の側には、グレーの服を着た緑髪の少女。
彼女は私に、大丈夫?と笑いかけ、黒いグローブで覆われた右手を差し出す。
彼女の手を取り、立ち上がる。するとルイズさんは私を睨みつけた。
「…なるほどなるほど。まさか、あなたがメトロポリスとグルだったとは。」
「ち…違うの!この子はメトロポリスとは関係ない!」
「嘘おっしゃい!それは、メトロポリスの人民服!彼らだけが持つ、制服のようなもの!信用してはいけないと言ったけれど…どうやらそれは、私への…私達へのブーメランだったようね!」
「ううっ…どう説明すれば…」
彼女に伝わらぬこの思い。私のそんな思いを抱く私に、鼓石は私の前に立ち、彼女と向き合った。
ルイズの腕に灯る、魔力の塊。それは次第に大きくなり、無限の氷の塊へと変化する。
なるほど、やはり、彼女も何かしらの力を持っている。それで私の超能力が使えなかったのか。
彼女は、氷の塊を槍上に変化させ、その全てを鼓石に放り投げる。
しかし鼓石はそれを片手で受け止め、バラバラに砕き、彼女への懐へと走り出す。この速さ、この世の人間とは思えない。多分、並の速さの車ならば追い越してしまうだろう。
ルイズも、その速さを察し、目の前に巨大な雪の壁を貼る。しかしその壁も、彼女の前には一切通じない。
このままでは、メトロポリスの人間に殺されてしまう。彼女はそう察し、身構える。しかし、鼓石は彼女への攻撃を止めた。
「はい!忘れ物!」
鼓石は、彼女に先ほどのロープを渡し、ニコッと笑った。ルイズは彼女の行為に対し、一体何が起きたか分からないと言った顔で、しばらく硬直した。
彼女はその後、すぐに我に返り、真っ赤に顔を赤らめ、何も言わずに受け取った。
「あのさあのさ!お姉ちゃん、別の世界の兵士さんなんだよね!」
「え?ええ…まあ…」
「凄くかっこいいね!国のみんなの為に戦って、守ってくれるなんて!私の世界にも、そういう人達がいるんだけど、やっぱりかっこいいんだ!それで…」
鼓石の無邪気な眼差しを前にして、ルイズは戸惑い、また予想していた人間と違うと、目や耳を疑う。
彼女は、鼓石の話を聞いていると、やがて参ってしまい、完全に鼓石のペースに飲まれている。いつの間にか、彼女が帯びていた黒いオーラは薄くなっていた。
「はぁ…メトロポリスも、あなたみたいな人ばかりだったら、こんなことしなくても良いのに。もう疲れちゃった。あなた、名前は?何でこんな場所にいるの?」
「古明地鼓石!お姉ちゃんに、いろいろな所へ旅して来なさいって言われて、それでこんな所に来たの!」
「そう…まあ良いわ。宇佐見蓮子に、古明地鼓石か。よくわからない人達ね…蓮子。わかりました。あなたの言うことは信じます。それなら、あなたがたっぷり知識を蓄えてお腹いっぱいになったら、またその知識、奪いに来るわ。」
彼女は腕時計をいじり、どこかへ消えた。
それにしても、不思議な人だった。まあ、それは鼓石も同じだが。
なるほど。人造の妖怪と、未来都市メトロポリス。異世界でも、この二つは脅威として見られていると言うことか。
私はよくわからないが、協力できることは協力しよう。私は鼓石と笑いあい、今夜はどこかへ食べに行こうかと誘った。