鳥人間襲撃事件からしばし、あの事件が原因でその場にいた五人には俺の状況を話さざるを得なくなってしまい身の上を話すこととなった。ギリシアのこと、デルタになったこと、身の回りの怪事件のこと一つも隠すことなくすべて晒した…皆戸惑いを隠せていなかったが正体を見られてしまった以上仕方ないことだと思う。森山さんは一番反応が少なく頷くと受容してくれた。夏も目の前で真実を見たからか納得してくれるが、彩人、勇美は全く把握できていない…顔をしていた。警察の追っ手を避けるために結局解散した…が、あの日以来確実に勇実の目線が冷たくなった。
そんなことを思い返しながらノイズ通りを猫を抱えながら一人帰り道を帰宅していた。またあの時みたいに俺の心に穴が開いたような、俺を構成する何かが消えてしまったような…頭は働かないし、足は常時千鳥足、病気こそないものの健康状態は最低の状態に陥っていた。俺がデルタを取り込んでから一度もいいことなんてない。俺はあの球体を絶対許さない…と、気づけばノイズ通りを抜け学校の校門が見えてきた。そこの前から誰か走ってくるのが見えたが、太陽の光に照らされ見えない。よく見ようとした時、視界が歪み始め体の力が抜けていく。ブロックノイズのように割れていく世界、宙に放られる感覚、何もかも初めてで体が即座に反応できない。このまま地に落ちていきたい…自然とそんなことを考え意識を放棄した。
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あの日以来、圭君が全く私を見てくれなくなった。大問題だ。圭君がギリシアだろうと、ギリシアの破壊者だろうと、警察に追われてようとそんなことはどうでもよくてただ、圭君がいつもみたいに話してくれないことが問題なのだ。仮に彼が自分の正体をさらして、問題に巻き込まれないようにしているとしていても私と幼馴染の関係から、もう私とは運命共同体…な気がする。だから私は彼がどんな境遇や過去、今があろうとも受け入れたい。
そのためにまずはギリシアを知る所から始めた。登校時に圭君をじっと見たり、挙動をしっかりと観察。またそれを察されないよう、圭君から目を向けてきたら目を自然に逸らし他の女子と話す。他にも、博物館や図書館でギリシアの歴史について調べた。
私にとってギリシアなんて未知の世界。そしてそれに幼馴染が関わっていると考えると燃えてきた。
「…ギリシア族。ローマ帝国時代に栄えた一つの国の守護者。24のギリシャ文字に例えられ当時の人類を統括していた。ローマ時代の終盤、ギリシア襲撃事件がありギリシア族は封印、そして今はギリシャの奥底に眠る…」
「デルタ。ギリシア族4番目の守護霊。身分が低いものの、ある日22体のギリシアを滅ぼし、王オメガを滅ぼしたことで23体のギリシア族を封印した。ふむむ…」
新聞とほんの重要なページを模写し、もしもの時に備え毎日家でシミュレーションしてみる。いきなり襲い掛かってきた時、話しかけてきた時…私ができることを今行い、一秒でも早く圭君を楽にしてあげたい。苦しみから解放してあげたいと思った。毎日話そうと思うけど、まだデルタに対して殺されるかもしれないという恐怖が抜けず圭君を見るだけでいつも通り過ぎてしまう。そんな自分が弱く思えた。
周りからは何でもできる、天才と褒められ、勉強や人生で苦しんだことはほぼないと思う。褒められることは楽しいし、勝つことも楽しい。それがとってもつまらなかった。手加減せずにいつも全力で立ち向かうスタイルにはだれも文句は言わない。皆私に注意などしてくれず、群がってくる。が、それは嘘だ。私だってできないことだってある。地球に心理や人間の心理、自らの興味のないことも分からない。一番は一度も大切な人が出来たことがないことだ。私にはお母さんもお父さんもいない。気づけば愛なんてものどこかに消えてしまっていた。
けどいつも気づけば圭君がそばにいてくれた。私の身分なんて関係なしに、毎日野原を一緒に走り回り、夏は海に行って泳ぎ、冬は雪合戦をした。私の話をいつも聞いてくれた。だから圭君が困っていることがあれば私は助けたい。その思い出毎日生活を続けていたらこうなっていたのである。
明日言おう。圭君の悩みをすべて解決しよう。それで圭君が楽に幸せに暮らせるようになれば…私は嬉しい。何かの視線を感じ後ろを振り向いてみるがなにもいない。もしかしたらデルタかもなぁ。変な空想劇を繰り広げながら床についた。
朝、規則正しく起きて先回りして校門の前に立つ。圭君は人がいない時間帯を好んで登校する…と、三分たった後に予想通り彼は現れた。金髪の荒々しい髪、私の幼馴染にして、初対面の相手。彼と話せると考えると足は勝手に動いていた。圭君の方向に向かう途中、圭君の後ろから背の高い男が現れる。服を見ると…以前から襲ってくる警官の服とそっくりだった。無性に腹が立ち、薙刀を取り出し飛びかかろうとするが、突然地面が割れていき私の体は落ちていくような感覚を覚える。何故か落ちていくたびに意識が途切れていくような気がした。最期に圭君に手を伸ばしもう少しと思ったところで強い衝撃を覚えた。
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気づくとそこは白い空間となっていた。俺の両四肢には鎖が巻き付けられており動けない。首を精いっぱい動かして周りを見るが俺の体は十字架に縛られ脱出する手段は見つかりそうになかった。ここはどこだ…グザイにサインを飛ばすが全く反応が帰ってこない、それどころかサインを送ることすらできない。混乱で頭が回らないその時だった。体全体に電撃が走り痺れが俺の四肢と脳を襲う。三秒ほどスパークした俺の体からは黒い煙が出ており吐き出す息は焦げ臭い。いきなりドアが開いたと思うと黒い軍服のようなものを着た男が俺の目の前に立ちはだかる。華奢な体つきに、カクカクとした輪郭、小さい三角眼からは怪しい雰囲気を感じる。その男は俺をさらにつり上げ話し始める。
「人間だと即死クラスの電撃を食らっても普通に息をし続けられる…さすがギリシアと融合した人間だ。」
ケラケラ笑い続けるその顔がとてつもなく憎たらしい。相手の手にはリモコンがあり恐らくあれで電撃をコントロールすることができるのだろう。が、奪うことは出来そうにない。
「申し遅れたよ、私の名は鍵沼健次。東京都…違うな、新東京都の元都知事にして未来警察主任、だ。恐らく君も知っているだろう。」
「お前が親父達を…何の目的で!!」
「すまない、気に触れたなら謝ろう。私は人類を新しい世界に導いただけだ。世界は常に新しい世界へ一歩歩んでいる。我々は遅れていた…が、私がこの国を大きくリードさせた。これにより世界は私たちを追ってまた新たなものが生まれる…いいことだ。」
「それが犠牲を払った奴の言うことか!!お前のせいで俺の家族…いや、人類の大半が犠牲になったんだぞ!!それを分かっているのか!!!」
そう、鍵沼は世界の最先端を総取りする新しい世界、電子世界を開発した。自身は東京都知事をしながら研究に携わり、誰も成し遂げることが出来なかった世界を開発し、日本すべての都市が電子化した。人類が以前想像していた、空間上でインターネット、空飛ぶ車、瞬間移動など楽になる生活が実現してしまったが、その裏では多大な犠牲があった。
物心ついたとき、俺を隠し俺の親はどちらも都に連行された。必ず返ってくるからと言われたが、約束を信じて待つ俺の元には声すら届かない。圧力につぶされ報道されることはなかったものの、鍵沼名義で電子化に対応する人体実験を行っていたことが関係者から発覚。鍵沼は責任を取り自殺、だが新東京計画はそのまま進められ電子化してしまった。
「あれは協力だ。都民や市民が私の計画に乗ってくれてできたのだ。人類調節のお蔭で高齢化の問題はなくなり、謎の人口減少で焦った国民が子供を生み出し、やがてベビーブームが訪れる。国民にも私たちにもwinwinの協定だ。」
「ふざけるな!!」
その時、俺の体に再び電撃が走る。のどが焼けるほど痛く、無意識に俺ののどから叫び声が漏れる。体に力が入らず、ただ無抵抗に電撃を食らい続けることしか出来なかった。
「さて、今回君に来てもらった理由なのだが。日本の電子化が成功した今、私が世界を掴む準備はできた。後は力だ。今私の手元には最強の人工のギリシアがいる。ギリシアの王、オメガから力を奪った…後はデルタの力を手に入れるだけだ。」
「お断りだ!第一、こんな危険な奴が野に放たれたら誰も止めることができないだろ…例えお前でも止めることができない。」
「君が正直に渡してくれたら君は前みたいに平凡な日常を手に入れることができる。やはり私の考えはどちらも有利になるのだ。」
「お前のせいで俺には平凡なんて来るわけないだろう…いい加減にしろよ!」
「ふむ…なら力ずくでも奪い取る。君の命がどこまで持つか見ものだな。」
と、モニターを開くと筒状のポッドが表示される。そこも同じ白い部屋で、ポッドの中には白い球体が浮いている。予想しなくても、あれが人工のギリシアだとわかる。見ていると腕に針が刺さる感触が襲ってくる。痛くないが、そこから何か吸い上げられる感触。が、そんなことより驚くことが起こる。
ポッドが映る部屋に、突如人影が現れる。黒いロングヘアーに制服を着こなす少女、住池勇実がそこにいたのである。俺は頭が真っ白になる。このままだと彼女が死んでしまう。俺が死ぬことよりも、人が失われることが嫌だ…また俺は人を守れないのか…目の前には絶望しかなかった。