その名はδ   作:かえー

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幕間:人生ゲーム

今日も平和な一日、指名手配犯になってから学校に行く必要がなくなったために毎日暇を持て余している。オメガを探すといっても流石に毎日探していると空きが刺してくる気がするし、ついでに警官に見つかってしまったら後も子もないため、たまにこんな時間が出来てしまう。暇つぶしと言ってもまう外に出れないので何もできず、辛うじて続いている趣味は『グザイの実験体にされどこまで体は持つのか』である。痛い上に一日を六に楽しく過ごせたことはない。

時刻は1時過ぎを指していた。お昼ご飯のオムレツを平らげ、鳴海の寝顔を横目に家の家計簿を付けていると珍しく家のチャイムがなった。

 

「ピンポ~ン、勇実ちゃんが遊びに来たよ~!」

 

「…勇実、一緒に遊ぼう。」 「何しに来たんだよ…」

 

二人のセリフが被ってしまい、お互い顔を見合わせるが鳴海はすごく嫌な顔をしていた。まるでお父さんとのものと一緒に洗濯機で一緒に洗われた娘のような顔だ。別に帰れと言ったわけでもないが…とりあえず鳴海の前では勇実との会話はNGのようだ。

 

「まぁまぁ二人とも…遊んだらすぐ帰るから、安心して圭くん?」

 

「あ、いやそういう意味はないんだけど…お茶用意してくるよ。」

 

「お前はいつも口が一言多い、だから私はお前が嫌い。」

 

「あはは…」

 

いつものような会話が繰り広げられる中、リビングの床が開き中から白衣に身を包んだ老人が何か箱を持ちながら出てきた。彼はグザイ。IQは測定不可能、並みの人間では追いつけないほどの知能を持つギリシア族である。

 

「ん、いつものメンバーがそろっとるな。今日はのちょっと面白いものを拾ってきたのじゃが、皆でやってみないか?」

 

「どうせまた変なメカだろ?頼むから家を吹き飛ばすことはやめてくれよ?」

 

「違う、これじゃ…人生ゲームというやつじゃ。」

 

「人生ゲーム…何それ…わからない。」

 

『風の噂で聞いたことがあるわねェ…皆が同じ場所からスタートし、それぞれ違う道を歩んでいく…そして大金を多く獲得していたプレイヤーの勝利。億万長者になるか…はたまた金がなくなり開拓者になるか…アメリカで生まれたけれど、日本でも人気のある双六ゲームねェ。』

 

「なんでお前そんなに知ってるんだよ…お前の出身地ってギリシャだろ…?」

 

『さァ…郷に従った結果よォ?』

 

「今のあいつの人生は負け組の道一直線だね。」

 

 

鳴海の一言を無視し、鳴海を乗っ取りながら話したゼータに感心しながら、箱を開けてみる。中身はその名の通り人生ゲームとそれに使用する道具が入っていた。人生ゲームに異議は誰もいなかったために四人で始めることにした。

 

ゲームは順調に進み、全員が職業マスを超えてお金を着々と稼いでいた…一人を除き。

鳴海はゼータのアドバイス虚しく、マイナスマスや退職、挙句の果てには株で失敗し全額をドブに投げ捨てるという綺麗なプレイングミスを犯した。恐らく以前の鳴海なら人生ゲームを破壊し街に出ていったが、今は勇実がいるせいか涙目で震えながらもゲームを続行している。その姿を普段の鳴海の姿と比べるとギャップが大きすぎて非常に滑稽だ。流石に冷たい目線が飛んできたので、考えるのをやめプレーを続行した。因みに俺は教師になった。全くなる気はなかったが、無職よりましだと思いやむなく就職した。グザイは博士に就職し、給料トップの職業を利用し、何やら店マスに止まる度何かを買っている。勇実はアイドルになった。確かにクラスでもあの人気で、完璧に物事をこなす彼女ならアイドルはぴったりだ。だが、たまに出る天然が足を引っ張らないか、少し不安にもなった。

鳴海の番、ローン獲得一歩手前の彼女は放心状態で駒を進める。が、ついに転機が訪れた。結婚マスだ。が、俺はそのマスの内容に絶句した。

 

「ん…結婚マス。お祝いに他のプレイヤーからお金を1万円ずつもらい、このゲームに参加している異性のプレイヤーにプロポーズすることができる。プロポーズされたプレイヤーは返事を返し、良ければお互い婚姻関係となり共に行動を共にする。なお婚姻状態のプレイヤーは財産を共有するものとし、出た目は半分と数値とし、二人で一人のプレイヤーとするぅ!?なんだよこれ!俺の知ってる人生ゲームにはこんなマスねえぞ!?」

 

「最近の人生ゲームもリアルになったね…私も知らなかった!」

 

「っていうことで…鳴海結婚おめでとう……」

 

と、一万円だけ渡してターンを回そうとするが、鳴海の目には光が戻ってきていた。この中で男性プレイヤーは俺とグザイしかいないが、彼女なら勇実と結婚するといいかねないし、逆らえばゲームはめちゃくちゃになってしまわねかねないため、空気は凍り付く。鳴海は俺とグザイを見比べ、立ち上がると席を移動した。鳴海は勇実の前を通過し、俺の横に寝転がってきた。今までにない行動に、心臓が爆発しそうになる。鳴海は抱き着くと俺の肩にほおずりをする。正直、もう生きた心地がしなかった。普段の鳴海からは全く考えられない行動…鳴海が甘えるなんんて恐らく今後一生見られないであろう光景で貴重なのだが…逆を返せば嫌な予感がした。

 

「圭…その結婚してほしい…」

 

おそらくこの時、俺の血圧は標準値を確実に超えていた気がする。感情を抑えたはよかったが恐らく顔に出ていたであろう。このどうしようもない気持ちと名前のない感情に押しつぶされ、しばらく意識を失った。

五分後、なんとか意識を取り戻したが俺の腕には鳴海がひっついていた。剥がそうとすると睨んでくる。また、結婚も拒否しようとしたが、睨まれ結婚する羽目になった。その時も冷たい目線が俺に刺さっていたような気がした。

俺の財産を吸い取り、鳴海はすっかり元気を取り戻した。逆に俺のメンタルは人生のジェットコースターを上り下りし、俺はグロッキーだった。これが勇実だったら楽だっただろうに…と思った矢先、勇実も結婚マスに止まった。

 

「うーん…なら私も圭くんを選ぼうかな?」

 

「圭は私の持ち物。悪いけど勇実にも渡せない。」

 

「いや…よく見たら、すでに結婚状態の相手にもプロポーズすることができる。相手を取られた婚姻者は取ったプレイヤーと同じマスに止まることで取られた相手を奪い返すことができるらしいのじゃ…ところでわしにプロポーズすることは」

 

「ないです。」

 

というわけで珍しく鳴海と勇実が火花を散らすこととなった。

それ以降、追いつき追い越しが続き、席の移動が続き、裁定が入り俺の人生はジェットコースターを超え、バミューダ地帯に入った船のように揺られていた。鳴海が追いつかれれることに席を移動し、勇実が失速すると鳴海が略奪する。精神的な疲労が限界に達していた…そして察する。不倫とは自分が女を振り回しているようにも見えるが…裏を返せば女に男が振り回されているのではないかと思う。自分が他の女を好きになり、それを見た本妻はさらに好きになってもらおうとアピールをし、男を自分の物にしようとする。それに対しもう一人の女は同じことをしいたちごっこの状態となってしまう。すべてがこうではないと思うが、良い経験をさせてもらった。そしてそう思ったことにとりあえず謝罪をしておいた。

 

「追いついたし…婚姻者がいる場合、子供を授かる。」

 

「追いついた!婚姻者がいる場合、お婆ちゃんから3万円もらう!」

 

「追いついた。落石事故、婚姻者がいる場合は夫が身代わりになり一回休みを免れる。」「酷くねえか!?」

 

「追いついたよ!キスによって夫は次の自分の番、二回行動できる!」「ブラックすぎるだろ!!」

 

「ゴールした…長かったのう。」

 

と、これ以外にもさんざん振り回されたのだが、この勝負はいきなり終わってしまう。よく見たらグザイはとっくにゴールしており、さらに清算まで始めている。

 

「まてよおっさん!まだこの二人がやってんだろ?まだわからないって…」

 

「圭、わしはお前さんたちが仲良くやっている間に色々仕込んでおいたのじゃ。家を借り、高価なものを安く買い…このゴールですべて売りさばきお金にして大金を得る。」

 

「だからって俺たちはまだマスが残っているんだぜ?」

 

「ゴールまで後15マス。そこまでにあるマスでプラスマイナスの割合は9:5、最大で手に入るお金は最大でも12万円。圭、お前の所持金を見てみるんだ。」

 

見てみると…現在勇実とパートナーを組んでいるが自分の手に残されているのはたった3万、勇実は5万、鳴海に関しては1万を切ろうとしていた。グザイの手には10万の札が4枚…それ以外にも、5万や2万札がきっちり束になっておいてあった。結局俺ら三人が積んだために、このゲームはグザイの勝利が決まった。

 

ゲームを片づけた後、勇実と鳴海はぐったりしていた。その二人は後に寝てしまい、毛布をかけて放置してあげた。喧嘩しているせいか、二人は抱き合わずに間が空いている。改めて今回の人生ゲームでいろんなことが分かった。人生いつでも成功ではない。失敗もあり、その失敗から成功だってある。この人生ゲームがすべて本当にあるわけではないが、嫌でもそのイベントに歩んでいかないといけないことだってわかる。ルーレットを操作して進む人生もまたいいかもしれないが、先がわからない人生は予測不能で…何が起こるかわからないから面白い。説明は出来ないがそんな人の心理もある気がする。全て俺の意見だが。

 

「だが…本当にお前が勇実や鳴海と結婚することになって、取り合いになったらどうするんじゃ?」

 

「まぁ…どうにかするだろう…」

 

「本音、どっちがいい…強いてでもいいんじゃ」

 

「…」

 

声を小さくして話した。だが、俺に大切な人なんてできない…みんな大切で、程よい仲間。特別扱いなんてできない。

グザイはいいことを聞いたといわんばかりに走って地下室へ向かった。拡散されると非常に困るのでその後を走って追う。時刻は夜七時、そんな夜でも俺たちは家の中を走り回っていた。

 

「なら…ロケットパンチ!!」

 

「…ただのこけおどしだな、人生って本当に成功ばかりではないな!」

 

「まずい…捕まってしまう…まて、圭、お前の言うことは聞くから頼む、球体のホルマリン漬けはよしてくれ!」

 

「やなこっ…ブゴッ!!」

 

その時、不発に終わったはずのロケットパンチが起動し、俺の顔面に直撃した。そして運悪く、二人が寝ている間に不時着してしまいさらに、二人にハグされ行動ができなくなってしまう。これだから人生は嫌なんだ…ため息をつき天井を見上げる。誰かは分からないが、後ろで女性がくすくすと笑っていた。

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