妹が欲しい
実妹、義妹は問わない。
ちょっとツンデレが入っているくらいがいい。
クーデレも捨てがたい。
いっそあらゆる属性の妹が欲しい。
集えよこの地に、まいしすたー。
いつから俺はこの夢を聖杯に託したくなったのだろうか。
軽音部のアニメを見てからというもの、俺のオタクとしての躍進は凄まじかった。
すぐに深夜アニメをかたっぱしから観始め、妹アニメにハマり、アイドルアニメにハマり。
萌え路線だけではなく、硬派なアニメも全て好きだった。
CDから入ってフィギュア、抱き枕と順調にステップアップしていた、高校三年生のあの頃。
なにはともあれ。
丸戸義幸は、
海外へ留学することにした。
唐突に感じるかも知れないが、実際に急な話だった。
高校卒業の半年前、誰しもが進路に悩ませて、学校は陰鬱な雰囲気に包まれていた。
帰宅して、塾に通う準備をしていた時。
母親に何気なく海外留学も面白そうだね、と言った。
「そう?なら行ってきなさい」
これだけで俺の留学は決まったのだ。
別に裕福でもない家庭だ。
漁村の、どちらかといえば近所でよくない噂が立つ家庭だ。
その家を仕切る母親はまさに鶴の一声で俺を海外へと飛び立たせたのだ。
俺にとっても実際都合が良かった。
大学受験なんて無意味なことはしたくない。
同級生たちは特に何がやりたいわけでもなく、少しでもいい大学にいかなくてはという使命感に駆られ机にかじりついている。
そんな状況も、社会も、たまらなく嫌いだった。
海外にでてみたかったというのも事実だ。
この恵まれた国にいては、将来的に何かが欠落すると思った。
これは自分自身を変えるいいチャンスに違いない。
勉強が大変でアニメを見ている暇はないだろう。
ゲームで遊ぶ暇もないだろう。
それでもいい、それでいい。
俺はこの棘の道を突き進むんだ。
勘違いしないでよ、別に自分に心酔なんてしてないんだからね。
昔からの腐れ縁で、おしゃべりの双子にこの話をしたとたんに学校中に噂は広まっていた。
俺はこれでもそれなりに有名人だったので、それなりに話が広がったらしい。
え?キモオタ風情が有名人だった?うんこでももらしたの?
なんて心無い疑問が脳に浮かんでいる方々。
本当だよ、嘘じゃないよ。
なにせ生徒会長だってやってたんだからね。
必死に勉強をしている同期を後目にほくそ笑みながら、高校生としての最後の三か月間を俺は怠惰に過ごした。
もちろん英語の勉強はしていたし、ビザの取得手続きなんかもあったから全く暇ではなかったのだが。
なにせ初めての海外で、何が必要で何が要らないのかがさっぱりわからなかったのである。
わからないということが、わからない。
自分が知らなかったという事実すら認識できない状態だったのだ。
結論。
「いけばわかるさ!」
もうこの時から俺はいろいろと勘違いしていたような気もするが、それは置いておこう。
俺は晴れて高校を卒業し、海外へと飛び立つ。
不思議と不安はなかった。
しかしそれも当然だろう。
不安に思えるほど知っていることが少なかったのだ。
不安とは、ある程度の情報があるからこそ、不備の可能性を予想し想像することで人が憶えるものである。
しかしその予想すらままらない状態ではなんの対策を講じることもできないのだ。
言い方を変えれば、想像力や先を予想できる能力に乏しい人間は不安を覚えにくいという言い方もできるが。
若い俺にはそんな能力が発達しているはずもなく、のうのうと毎日を過ごした。
そして、時は来たのだ。
部活の後輩からはそれなりに惜しまれ、友人からもエールを貰って、悪くない卒業式だ。
不思議と涙は出なかった。
ついに日本にいられなくなったか、などと言う不届き者もいた。
そんなに俺は浮いてなかったでしょ!
それから二週間後。
飛行機の分厚い窓ガラスごしに、海に囲まれた島国が見える。
俺は今日、飛び立ったのだ。
アメリカ合衆国、ワシントン州シアトルという町に。