第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP12

 

「む………」

「どうしたマティルダ?」

 

 紐育華撃団の格納庫で、霊子甲冑と共に空戦、陸戦両ストライカーユニットが並んでいるのを見ていたマルセイユが、従者を務める黒人ウィッチが何かを感じたらしい事に気付く。

 

「何かが来ます、鷲の神」

「敵か!?」

 

 マルセイユの一言に、格納庫にいた華撃団、ウィッチ双方が一斉にざわめく。

 

「また!?」

「本当に!?」

「司令室から何か言ってきてるか!?」

「いや、そもそも彼女の言ってる事は信用出来るのかい?」

 

 周囲が騒ぎ始める中、サジータがいささか胡乱な表情でマティルダを見つめる。

 

「マティルダが言うのなら間違いは無いだろう。なにせお告げで私の従者になるくらいだ?」

「は?」

「マティルダさんの固有魔法は私達とは系統がかなり違うらしくて、詳細が分からない事が多いんです。けど、独特の感知能力を持ってるのは確かです」

「災いではないようだ。詳しい事は分からない」

 

 マルセイユの説明にサジータの表情が更に胡乱になるのを、ライーサが慌てて補足する。

 

「私が調べます! サイレントスター、出せますか!?」

「短時間なら!」

「私達も行こう。敵襲でなくても、何かは確かめる必要がある。案外顔見知りかもしれないしな」

 

 紐育華撃団で一番感知に優れたダイアナが慌てて出撃準備を始め、マルセイユとライーサもそれに続く。

 

『三番ルートを使ってください。指示灯出します』

「頼む!」

 

 杏里の誘導に従いながら、フライトモードのサイレントスターとマルセイユ、ライーサが緊急発進していく。

 

『それでは、こちらで感知始めます』

「私達はそちらを探してみよう」

「せめて方向が分かれば………」

『! 東の方向から何かが来ます! え、何ですかこの速度!?』

「東だな!」

 

 何かを感知したダイアナの言葉を元に、マルセイユは即座にそちらへと向かっていく。

 

『どんどん近づいてます! 信じられない速度です!』

「あれか」

 

 遠くに何かを見つけたマルセイユだったが、確かにそれは瞬く間に大きく、つまりは超高速でこちらに向かってきていた。

 

『こちらでも感知したわ! 時速…音速を軽く超えてる!?』

『緊急警戒体勢を…』

「……し、もしもし! 聞こえてますか!?』

 

 プラムとラチェットの慌てた通信に重なるように、別の通信が飛び込んできた。

 

『こちら元501の宮藤 芳佳曹、じゃなくて少尉です! そこのウィッチの人、聞こえてますか!』

「宮藤、ああ思い出した。あの小っさいウィッチだな。こちらマルセイユ、聞こえてるぞ」

『良かった………ってマルセイユさん!? アフリカの星の!?』

「私だけでなく、ストームウィッチーズ全員来てるぞ。どうやらこの世界に来たのは私達だけでは無かったようだな」

『あの、お知り合いですか?』

「ああ、多分あれもな」

 

 誰かと通信しているマルセイユにダイアナが聞いてくるが、近付いてきていた物体、カルナダインの姿にマルセイユは色々納得する。

 

「マルセイユ、あれは確か………」

「紐育華撃団、近付いてきてるのは味方だ。問題はない。まあ別の問題は起きたが」

 

 速度を落とし、こちらへと近付いてきたカルナダインに、マルセイユは腕組みしながら見つめていた。

 

「さて、ケイに何と伝えるべきかな………」

 

 

 

「それでは、皆さんよろしいですか?」

 

 帝国華撃団本部の司令室に、それぞれの指揮官達が集結していた。

 

「あ~、あんたがエルナーさんかい?」

「はい、私が英知のエルナー、光のマトリクスの一つです」

「初めまして! アイドル兼光の救世主の神楽坂 ユナです!」

「ユーリィですぅ」

「一乗院 ミサキです」

「帝国華撃団の皆さんお久しぶり、他の方は初めまして! 巴里華撃団隊長のエリカ・フォンティーヌです!」

「ボクは戦乙女型MMS・アルトアイネス・よろしくね」

 

 米田が宙に浮かんでいるエルナーを不思議そうに見つめ、続いて先程来たばかりの面々を眺めた後に大神に視線を送る。

 

「まあ、武装神姫みたいな物という事で」

「エルナーの記憶・演算能力はボクら武装神姫とは桁が違う」

「前回は随分と助けられた。今回もそうなりそうだがな」

「ま、もう色々見過ぎちまってるしな………」

 

 大神もコメントに困る中、肩にいたプロキシマと対面の席にいた美緒が助言を出し、一応米田も納得しようとする。

 

「だが、さすがにこれは見た事が無い」

 

 門脇の言葉に、上空衛星から送られてきた画像を皆が凝視した。

 

「とんでもない大規模の転移現象です。前回は艦隊その物が異空間に飛ばされた事が有りましたが、これはもっとすごい………」

「周辺に大規模な電波妨害があるらしく、詳細感知が出来てないらしいわ。かなりの数の生命反応はあるらしいけど………」

「それに、この施設群はある物を連想させる」

 

 エルナーとポリリーナが説明する中、群像がクルー達で出したある可能性を口にする。

 

「………学校」

「そう見えますよね」

 

 同じ結論に達していたジオールの呟きに、僧も頷く。

 

「学校?」

「確かに、校舎や体育館のような物が並んでいる。そう見えなくもないな」

 

 米田が首を傾げるが、嶋もその可能性は考えていた。

 

「なんか、私の通ってる学校よりも立派なような?」

「施設の多さから、何らかの専門学校の可能性も有ります。それに問題はそこだけではありません」

 

 ユナが首を傾げる中エルナーがそう言うと、画像の一部が拡大され、妨害の影響か鮮明では無いが、パワードスーツやプロテクターのような物をまとった人影が複数確認できた。

 

「これがコスプレの類で無いとしたら、かなり科学技術が発展した世界から来た物、と推察できます」

「本物だとしたら、かなりの戦闘力を持っていそうではあるが………」

 

 エルナーの推察に、大神が前回の経験から只者ではなさそうな事だけは考慮する。

 

「通信は一切通じてないって訳か」

「残念ながら」

「こちらでも使える限りの周波数を試したそうだが、未だ不通だ」

 

 米田の問に、ジオールと門脇が首を横に振る。

 

「太平洋の真ん中に、完全に孤立した学校が多数の生徒らしき反応と共に有る、という事か………」

「先程、エグゼリカも偵察に向かいました。亜乃亜とエリューに合流して現地に向かってますから、数時間以内に詳細が分かるでしょう」

「それまで向こうが無事なら、だが」

 

 大神の深刻な表情にエルナーが一応補足説明をするが、そこで嶋が誰もがもっとも懸念していた事を口にする。

 

「………これまでのパターンなら、敵襲の可能性は極めて高い、と言えます」

「どうにか、行ける奴は?」

「周辺空間は大規模転移の影響で歪が生じていて、オペレッタでも精密転移は不可能です………」

「カルナダインは今ニューヨークよ、通信装置の設置が終わったら急行するそうだけど………」

「ニューヨークもやはり戦闘があったそうだな」

「パリ同様、未知の敵とウィッチが転移してたそうです。現状は落ち着いているようですが」

 

 門脇中将の言葉に大神が答える。

 

「この位置だと、巴里華撃団のリボルバーカノンも届かない………」

「401の最高速度を持ってしても、急行できる距離じゃない」

「つまりは、無理って事かい」

 

 総括した米田の一言に、誰もがうなだれる。

 

「せめて通信だけでも通じれば、危機を知らせられるのだけど………」

「前回はきっちり巴里、紐育と通じなくしてきた連中だ。そう簡単には出来ねえだろう」

「通信網を寸断するのは戦術の基本だが、ここまで徹底するとは」

「容易ならざる敵です。恐ろしい程高度な技術、戦術、そして膨大な戦力を行使する。そして一体幾つの世界に干渉しているのか、想像もできません………」

「G本部もA級次元災害非常事態の発動協議に入りました。もし発動となれば、Gは今回の件に関し、一切の制限を解除、全面協力する事になります」

「その協議の間に、余計な問題が発生しないといいのだが………」

 

 エルナーとジオールの発言に、大神が険しい顔をする。

 

「何だな、下手に見えるってのは余計心臓に悪ぃモンがあるな」

「全く」

「何でもいい、一方通行でもいいから危険を知らせる方法はないのか!?」

 

 米田、門脇、嶋の三人の老将が焦るが、事態が好転する要素は無かった。

 

『あの………』

 

 そこで、衛星の微調整をしていたエミリーからの通信が入る。

 

「エミリー、どうかしましたか?」

『そっちのに比べると小さいんですが、もう一つ転位反応らしき物を発見したんですが………』

「何だって!?」

 

 予想外の通信に大神が思わず声を上げ、誰もがそれに続くように驚愕の表情を浮かべる。

 

『一時、そちらの観測に衛星を向けたいのですが』

「だそうですが、よろしいですか?」

「そちらの確認も必要だ」

「確かに」

「急いでくれ!」

『了解しました』

 

 エルナーの確認に、米田、大神、美緒の順に賛同し、エミリーは衛星を切り替える。

 

「やはり、まだ他にも転移してきている者達がいるようですね」

「なんてこった、いったいこの世界はどうなっちまうんだよ………」

「分からない。だが、被害が少なくすむように全力は尽くそう」

「私達も手伝います!」

「無論Gもです」

「ウィッチ達にも声は掛けている」

「………」

 

 エルナーが恐れていた事態に、米田は思わずぼやき、門脇、ユナ、ジオール、美緒が協力を申し出る中、群像だけが回答を保留していた所で衛星の画像が切り替わる。

 

『補足しました。太平洋の中央部付近を移動中のようですが』

『あ…』

 

 映しだされた画像を見た群像、僧、イオナが同時に声を上げる。

 

「見覚えが有るのかね?」

「………イオナ」

「間違いない、コンゴウだ」

「コンゴウ? 戦艦 金剛の事かね?」

「正確には霧の大戦艦 コンゴウ、我々と一度敵対し、その後和解したのですが………」

 

 目ざとく気付いた嶋が詰問し、僧が詳細を説明する。

 

「つまり、あんたらのお仲間って事でいいのかい?」

「少なくても、今は敵対意思は持ってないはずですが」

「接触してみる。霧同士の概念通信なら、この状況でも繋がるかもしれない」

「タカオ、ヒュウガ、イオナのサポートを頼む」

『了解したわ』『了解、艦長』

 

 米田も聞く中、群像が少し考えながら説明し、イオナは概念伝達を試みる。

 

 

 

『コンゴウ』

『401? お前もこの世界に来て…たのか』

 

 イオナの呼びかけに答えるように、コンゴウの意識は概念空間に表示される。

 庭園を思わせる空間内に、イオナとコンゴウの両者が表示されるが、その場と互いにノイズが走っている事に両者は僅かに疑念を感じていた。

 

『この世界…来ていた。つまりコンゴウは何が…たか知ってる』

『…あ、前に経験した…いう者達から聞い…』

『大規模な転移……空間歪曲で…イズが生じてる』

『…があった?』

『データを……す。コンゴウも……い。それと、ここに向か…て』

『分かった』

 

 互いに現状のデータを交換し、イオナは大規模転移の座標を教えて概念伝達を遮断した。

 

 

 

「どうだった?」

「間違いない、コンゴウだった。向こうも状況は把握している」

「把握、どうやって?」

「同乗者がいる」

 

 群像の問に答え、イオナはもらったばかりのデータを一部表示させる。

 

「これは、エイラとサーニャ!?」

「周王君もか」

「………こっちの小さい子達、艦娘ってタグ付いてるわね」

 

 表示された同乗者のデータに、美緒、門脇、ポリリーナがそれぞれ声を上げる。

 

「そちらの関係者が乗っているという事ですか?」

「そうなるな。そう言えばパリの502から二人が行方不明になったとは聞いていたが………」

「こちらもだ。だが、気になる事が」

「周王さんは、アイーシャと一緒に行方不明になったって聞いてましたが………」

 

 奇妙な偶然に群像が首を傾げる中、ジオールがある事を気にかけた。

 

「アイーシャ、アイーシャ・クリシュナムの事もデータにある。転移の際にはぐれたらしい。その時、狙いは私だと言っていたと記録されてる」

「何だと!」

 

 淡々とデータを読み上げるイオナだったが、その内容に嶋が思わず席を立ち上がる。

 

「そのアイーシャってのがさらわれると、何かまずいのかい?」

「………ソニックダイバーは、彼女のデータをベースに作られている。そのデータが敵の手に渡るのは、危険と言わざるを得ない」

「つまり、元祖の被験者………」

「それは確かにまずい………」

 

 米田の問に嶋が答えるが、それを聞いた大神と群像も更に表情を険しくする。

 

「群像」

「分かっている。状況はこちらの予想を遥かに超えている。蒼き鋼はこれより、状況解決までそちらに全面協力する」

「コンゴウまで来てるとなると、他の霧の船も何時現れても不思議ではありませんしね」

 

 イオナに促され群像が協力を決断、僧もそれを支持する。

 

「それはありがてえ、あんたらの船はちとばかり強烈だが、必要になるかもしれねえ」

「自衛可能で動かせる船は希少だ。蒼き鋼の参加は歓迎しよう」

 

 米田と門脇が頷くが、場の空気は重いままだった。

 

「しかしこうも問題が次から次へと………」

「アイーシャちゃんって、あの無口な子だよね? どこにいるか分からないかな?」

「何かヒントでもあれば探せるかもしれないけど………」

「今は片付けられる所から片付けていくしかあるまい。我々に出来る事は限られている」

「そうですね。まずはこの街の整備と再度の襲撃に対する迎撃体制の確率、そして襲ってきた敵の情報精査を…」

「あ~、こっちの分はこっちでやるから気にしなくていいぜ。正直、またあいつらが攻めてきても、通常部隊じゃ相手にもならねえしな」

「ニューヨークとも回線が繋がったら、至急にパリの司令を交えて状況確認をしておかないと………そう言えばニューヨークのサニーサイド司令とは直接の面識は無かったか」

「この学校の監視はこっちで続けておくわ。せめてエグゼリカ達が到着するまで、無事でいてくれるといいんだけれど………」

「コンゴウも向かってるけど、距離が大分有る。すぐには無理」

「目下の所問題は、長距離移動可能な母艦が無いという事でしょうか」

「前の戦闘で、プリティー・バルキリーはフレームまでダメージが行ってて修理の目処がつかなかったわね………」

「どこから手をつけていけばいいのか………」

 

 山積みとなっている問題を次々と討議しながら、会議はしばらく続く。

 

「あれ? マスター、これって………」

 

 最初にアーンヴァルが、美緒の袖を引いて衛星からの画像を指差す。

 

「これは、人が集合している?」

「何か始まるのか?」

 

 群像が次に気付き、討議がしばし中断して皆がその画像に視線を集めた。

 

「これは、戦ってますね………」

「まさか、内部衝突か?」

「そこまでとは思えないけど………」

「模擬戦か?」

「もう少し詳細な画像が欲しい所だが」

 

 闘技場のような場所で始まった戦いに、誰もがその様子を凝視していた。

 

「双方、かなり高度な戦闘力を有している事が、これで証明されましたね」

「大型の方、かなりの機動力と火力があるようだし、小型の方は特性特化といった所かしら?」

 

 エルナーとポリリーナが端的に解釈する中、画面の中の両者は激しい戦闘を繰り広げていた。

 

「すごい迫力ですぅ」

「うわ、すご~い」

「どっちも頑張れ~」

「だが、どうしてこのような事に?」

「そりゃあ見ず知らずの似たような連中がかち合ったら、ケンカくらいおっぱじまるだろうさ」

「我々の場合は、訳もわからず戦闘に巻き込まれましたがね」

「それはどこも同じだ。まだ戦力がまとまっていただけ救いが有る」

 

 ユーリィ、ユナ、シスターエリカが興奮して見る中、門脇がぽつりと呟いた所で、米田、群像、美緒がそれぞれ個人的な意見を述べる。

 

「あれ、中断したのか?」

「ちょうど三分だマスター、どうやら本当に試合のようだ」

「ボクシング形式でしょうか?」

「ならむしろ安心して見れるか。どうやらちゃんと管理する者が双方いるようだ」

 

 戦っていた両者が双方下がっていったのを見た大神が首を傾げた所で、プロキシマが時間を指摘し、僧と嶋がある意味安堵する。

 

「一つ気になる事がある」

「どうしたイオナ?」

「コンゴウからもらったデータにある戦闘データがある」

 

 唐突にイオナが口を開くと、ある映像を映し出す。

 そこには、異形の存在と戦う者達の映像だった。

 

「こいつは………」

「データと一致した。パリに現れた深海棲艦と同一の存在」

「間違いありません! エリカよく似たのと戦いました!」

「ちょっと待て、たしかコンゴウは太平洋を航行中と先程…」

「他にもいるかもしれないわね」

 

 イオナが淡々とデータを比較して出た結論を述べ、シスターエリカが肯定する中、美緒とポリリーナがある可能性に気付き、表情を険しくする。

 

「だとしたら、非常にまずい。パリではまだセーヌ川に出現したから川岸から攻撃できたが、もしこれが海だったら………」

「コンゴウの火力でも撃破出来ず、ウィッチと艦娘でトドメを刺したらしい」

「コンゴウの火力は如何ほどだ?」

「はっきり言ってしまえば、401とは桁違い、筋金入りの重砲撃艦です」

「破壊じゃなく、浄化が必要な奴かもしれねえな、ある意味華撃団のいる所に現れたのは行幸だったろうさ」

 

 大神、嶋、米田が交互にイオナや僧に聞いて出したある結論に達するが、そこではたと再開されたらしい学園の試合へと注目が移る。

 

「………この人達は、対処出来るでしょうか?」

「現状では分からないわね………他に深海棲艦が居れば、の話ではあるけれど」

「一体、今この世界にどんだけの敵が湧いてんだよ………」

「ニューヨークの詳細もまだ分からないままだ」

「そろそろ回線が繋がってもいいのですが………」

 

 問題の上に更に問題が積み重なる状況に、その場に暗雲が立ち込めそうになる。

 

「各地の状況が解明するまで、こちらで出来る事をするしかあるまい」

「そうですね、損傷した機体の修復とそれぞれの部隊の再編、と言った所でしょうか」

「もうじきこっちのエリカも色々準備して戻ってくるはずだから、もう少し状況を好転させられるかも」

 

 門脇、大神、ポリリーナがそれぞれ述べた所で、会議は一度解散となり、全員がそれぞれの仕事へと取り掛かる。

 

「千早艦長」

「何でしょうか、大神司令」

「君達の船で、あの学園までどれくらいで行ける?」

「イオナ」

「急いで行けば7日とかからない。が、コンゴウが接敵した敵がいる可能性もあるから一概には言えない」

「7日か………どこまで備えているかだな」

「何が?」

「生活物資、特に食料ですね」

 

 大神が言わんとする事を、群像は代弁する。

 

「あ~、確かにご飯ないと大変ですよね」

「なんか、女の子ばっかだったからお菓子もないと」

 

 そばで話を聞いていたシスターエリカとアルトアイネスも加わって来る中、大神は話を続ける。

 

「現状で大量の物資を自衛して運べるのは、君達の潜水艦だけだ。カルナダインは早いが、積載量はそれ程大きくないらしい。場合によっては頼む事になると思うのだが………」

「それは構いません。お互い様、という奴でしょうから」

「あの学園の生徒達が状況を理解しているか、というのもあるからね」

「私達はすぐに教えてもらった、皆理解するのには苦労していた」

「それが普通だよ。オレだって前は苦労したさ」

「でも結構楽しかったですよ♪ 面白い人達たくさんいて」

「マスターの基準は少しずれてない?」

「あ、マスターその時の資料見せてもらっていいかな?」

「出来ればこちらにも」

「参考になるかな?」

 

 多少聞いていた前回の件とシスターエリカの言動にそこはかとなくアルトアイネスは違和感を感じ、プロキシマと群像の要請に大神は前回の状況を思い出して苦笑する。

 

「あ」

「どうしたイオナ」

「コンゴウには食料が積載されてない」

「………ちょっと待った、確か人間が何人か乗ってるって………」

「それって、漂流って言うんじゃありません?」

「だよね………」

「………そっちの方が優先だな」

「カルナダインに運んでもらおうマスター、あれならすぐだ」

「本当にどんどんやる事が増えてくな………」

「全くです」

 

 大神と群像は再度苦笑しながら、次の仕事に取り掛かるべくその場を急いで後にした。

 

 

 

『ハ~イ、ハジメマシテ、帝国華撃団司令、オオガミ イチロウ。巴里華撃団司令、イザベル・ライラック』

「こちらこそ、サニーサイド司令」

『やれやれ、まさか華撃団の三司令がこんな形で顔を併せる事になるなんてね………』

 

 繋がったばかりの回線で、ニューヨーク、パリ、そして東京のそれぞれの華撃団司令が初めての邂逅を果たしていた。

 

「お互い、話したい事は多いだろうが、まずは一番新しい問題について」

『聞いてるさ、太平洋に妙な物が現れたって?』

『ボクもさっきクルエルティア君から聞いたよ。生憎と、太平洋はこっちの管轄外かな~?』

「恐らく、そんな事は言ってられなくなるでしょう」

 

 冗談めかして言うサニーサイドだったが、大神の真剣な表情に、サニーサイドの顔が僅かに険しくなる。

 

『パラレルワールド、か………正直意味がよく分からないのだけど、こっちに来たウィッチの子達の言う事を信じるなら、今自由の女神の前にサハラ砂漠の一部が広がっている』

『そっちはサハラかい。こっちに来た連中はペテルブルグからだって言ってたよ』

「こちらはまだ国内だから、近いと言えば近いんでしょうか………この子達はどこから来たんでしょうか………」

 

 大神はそう言いながら、太平洋の学園の映像をプロキシマに表示させる。

 

『つまりミスター大神、君はこのような事がこれから更に増える、そう言いたいのかい?』

「ええ、恐らくは」

『考えたくはないね、ウィッチの子達が来てくれなかったら、こっちは危なかったよ』

『こちらもですよ、マダム。しかし、それでもトウキョウを襲った連中よりは遥かに小規模だった』

「………こちらの見解では、それすら威力偵察だった可能性が高いと推察しています」

『聞きたくなかった話さね。しかも、襲ってきた連中は全部違うらしいじゃないさ』

『こちらを襲ってきたのは、ウィッチの子達がネウロイって呼んでました』

『こちらのは深海棲艦とかいう奴らしい、本物の化物だったよ………』

「そして、帝都を襲った敵は全く持って正体不明………」

『………リボルバーカノンをこっちとそっちにも作るかい?』

『一応似たような企画はあるんですけど、大統領が乗り気じゃなくて困ってますよ』

「だが、必要になる時がすぐそこまで来てるかもしれません」

『……………』

 

 大神の言葉に、両司令は思わず沈黙する。

 

「こちらから言える事は一つ、来訪した人達と協力してほしい」

『もちろんさ、彼女達はニューヨークを共に守ってくれた。手厚く歓迎してる所だよ』

『こっちもさ。来てくれて助かったよ………』

「我々華撃団のみならず、彼女達の力と一致団結しなければ、今後の戦いは勝てない。そう思っておいてください」

『………分かったよムッシュー。あんたがそう断言するなら、巴里華撃団は全面協力を約束しよう』

『紐育華撃団もご一緒しましょう。ま、大統領が後から何か言ってくるかもしれませんが』

『それ位そっちで何とかおし。市民を守れなくて何のための華撃団だい!』

「まあまあグランマ。こちらも米田前司令が動いてくれなかったら、色々危なかったですし。賢人機関も動いているようです、動きにくい事態は何とか避けられるかもしれません」

『そうしてもらいたい物だけどね。さて、さしあたって何からすればいいかな?』

「まずは…」

 

 

 

「これは?」

 

 霧とは違う者からの接触に、コンゴウは違和感を覚えながら、それを受け取る。

 概念伝達の空間、花が咲乱れる草原にコンゴウと接触してきた者が現れる。

 

「貴女が、霧の大戦艦コンゴウ?」

「そうだ、お前は?」

「初めまして、私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート・《TH32 CRUELTEAR》。イオナさんから聞いてない?」

「トリガーハート、これか」

「どうやら先程情報があった太平洋の大規模転移を位置的に挟んでない分、こちらとの概念伝達はクリアなようね」

「そのようだな。あれ程大規模な次元歪曲は観測した事が無い。それで私に何のようだ」

「私達は今、ニューヨークにいるの。今からこちらを発つ所なんだけど、乗ってる人達の必要物資を運んで欲しいって言われて。何が必要かリストをまとめてくれる?」

「いいだろう。少し待っていてくれ」

 

 そう言うと、コンゴウは概念伝達を一度遮断する。

 

「今トリガーハートを名乗る者から連絡が有った。必要物資を運んでくれるらしい」

「本当か!? そうか、あいつらも来てたんダナ」

「正直、助かったわね。用意出来る物資にも限度があったし」

 

 出来た干物を作ったばかりの保存室にしまい込んでいたエイラと、かなり手狭な個室でナノマテリアル製製図器で何か図面のような物を書いていた周王が胸を撫で下ろす。

 

「取り敢えず食料、日持ち効く奴ナ」

「冷蔵庫って用意出来る?」

「温度を下げるだけなら、それほど難しくない」

「後は着替えと、水以外の飲み物と、予備の銃と弾薬と…」

「何をしているのです?」

 

 エイラが持参していた手帳にリストを書いていた所に、艤装の点検をしていた電が顔を覗かせ、他の暁型もリストを覗き込む。

 

「仲間と連絡取れたんデ、物資運んでくれるんダナ」

「それは、どれくらい掛かりそう?」

「カルナダインなら、今日中には来ると思うんダナ」

 

 それを聞いた暁型四人の顔が一気に明るくなる。

 

「せめて寝巻きが欲しい!」

「シャワーに石鹸がない」

「何か甘いの欲しいのです!」

「って言うか、無い物多すぎ!」

「あ~、順番に言エ、順番」

 

 あれこれ要望を出す暁型艦娘達にエイラは呆れながらも、リストに書き足していく。

 

「入手できればPCが欲しいんだけど、無理な注文ね。コンゴウさんに説明しきるのも難しいし」

「私らの時代よか過去じゃ無理ダロ。サーニャ~、カルナダインがこっちに来てくれるって言うカラ、何か欲しい物はあるカ~?」

「ちょっと見せて」

 

 甲板から降りてきたサーニャが、エイラの書き込んでいたリストを見て、少し考える。

 

「調味料があった方いいと思う」

「そうだな、塩味だけってのもアレだし」

「食料に野菜と柑橘系も」

「おっとそうだっタ」

「医薬品も必要になるかもしれないわ。特にビタミン剤の類」

「取り敢えずコレ。食料が最優先なんダナ」

「分かった。伝えておこう」

 

 最終的にサーニャと周王がまとめたメモを見たコンゴウは再度概念伝達を行う。

 

 

「これが一応必要物資のリスト、食料を再優先だそうだ」

「分かったわ、至急用意してもらう。皆元気?」

「ああ、やかましいくらいだ」

「それはよかったわ、こっちは色々大変で」

「401からデータはもらった。401が戦うというなら、私も協力しよう」

「心強いわ。これからよろしく」

 

 そう言いながら、クルエルティアは片手を差し出す。

 しばし迷ってから、コンゴウはその手を握り返した。

 

「人間は、友好を結ぶ時こうするんだったな」

「兵器である私達がやるのは、少しおかしいかもしれないけれど」

「もう、私達は兵器ではないのかもしれない」

「そうかもしれないわね、誰から命令された訳でもなく、自分達の意思で戦う事を選んだのならば。一段落ついたら、貴女とはゆっくり話したいわね」

「そうか………」

 

 我知らず笑みを浮かべながら、コンゴウは概念伝達を切った。

 

 

 

「取り敢えず、必要物資リストをまとめてもらいました」

「結構あるね~、まあ太平洋漂流中なら仕方ないけど」

 

 紐育華撃団の支配人室で、クルエルティアが表示したリストをサニーサイドがすばやくメモに書き写していく。

 

「さて、お~い、誰か手開いてるのはいるかい?」

「はい!」

「お呼びでしょうか」

 

 サニーサイドの呼びかけに、ジェミニが室内に顔を出し、肩にいたフブキも名乗りを上げる。

 

「これ、至急そろえてきてくれ。彼女のお仲間が太平洋で漂流中らしくてね」

「え? 漂流!? 大変だ!」

「急ぎましょう、姫」

「マギーの店まだ開いてるかな~?」

「他にも誰か手伝ってもらうといい、結構あるからね。これだけあればいいかな」

 

 結構な額の紙幣をサニーサイドは渡し、ジェミニとフブキは司令室を後にする。

 

「それじゃあ、話の続きといこうか」

「はい、今後の可能性ですね」

「大神司令にはああ言っちゃったけど、正直、君達の船を見るとかなりの技術格差があるように思えるんだよね」

「それは間違っていないでしょう。ただ、それだけとは言えません。私達トリガーハート

に出来ない事を、華撃団なら出来るかもしれません」

 

 そこで支配人の扉がノックされ、圭子が顔を見せる。

 

「失礼します、さっきジェミニさんだったかすごい勢いで走ってきましたけど、何かありました?」

「それが、エイラさんとサーニャさんが太平洋で漂流してるって連絡が」

「漂流? 大丈夫なのそれ?」

「何でも、君達と同じように別の世界とやらから来た戦艦に乗ってるらしい霧のコンゴウ、だったっけ?」

「はい、東京には霧の401を名乗る船が出現しました」

「401にコンゴウ? なんで扶桑の戦闘艦が…」

「それと船体は無いそうですが、タカオとハルナとキリシマとヒュウガと…」

「ちょ、ちょっと待った、なんでそんなに!?」

「本人達も由来は知らないそうです。かつての戦闘艦の名と姿を関した、霧の艦隊と呼ばれる存在という事以外は、何も………」

「陛下、どうやらこちらの予想以上に転移してきた勢力は多いらしい。プロフェッサーも把握しきれていない」

「どうやらそうみたいね」

 

 肩にいたサイフォスの助言に、圭子は顔を曇らせる。

 

「………クルエルティア、貴方に言うのは筋違いかもしれないけど、その霧の艦隊って信用出来るの?」

「色々理由はあるみたいだけど、大丈夫だと思うわ。東京襲撃の時は共闘したし、何より漂流している人を拾って一緒にいるような人達が、悪い人だとは思えないわ」

「それもそうね。前もそうだったけど、基本飛ばされてくるのはお人好しばかりだし」

「成る程、けどこっちはどうかな………」

 

 微笑するクルエルティアと圭子にサニーサイドも吊られて微笑するが、そこで先程届いたばかりの画像を支配人室の蒸気ビジョンに映し出す。

 

「これは………」

「つい先程太平洋に出現した物らしい。正確な数は未確認だが、数百人単位で人がいるのは確かなようだ」

「数百人!?」

「学校じゃないかって話だけど、ただの学校じゃないのは確かです」

 

 クルエルティアも自分でリアルタイムの映像を映し出しながら、一部を拡大する。

 

「これって、戦ってる?」

「模擬戦というか、試合のような事をしているらしいわ。何故かは分からないけど」

「そりゃ、事情分からないけど似たような人達がいきなり一緒にいたら、ケンカの一つも起きるだろうさ。ちゃんとルールに乗っとっているらしいなら、優秀な指揮官か指導者が双方にいると考えられるし」

「確かに、衝突が試合の形式で行われているなら、抑止できる者がいるという事だ」

「ここに誰か武装神姫は?」

「不明だ、事態が急すぎてまだ状況が把握出来ていない」

「今エグゼリカ達が向かってます。数時間以内には着くはずですが………」

「それまで何もなければ、だけどね」

 

 圭子が自分達がここに現れた時、サハラ砂漠でネウロイと交戦中にいきなり霧の竜巻に諸共飲み込まれ、目を開けた瞬間に自由の女神が飛び込んできた事を思い出す。

 

「向こうで頑張ってもらうしかないよ、ここからじゃどうしようも無いんだしね」

「それはそうですけど………」

「物資を届けたら、カルナダインも現地に向かいます」

「慌ただしい世界一周ね~」

「現状で高速長距離移動可能な艦はカルナダインしかないし、通信状況も不安定なら直接行くしかないから」

「行った所で、信用してくれるかどうかは別問題だけれど」

「ウチも、ジェミニ君がロボットやヴァンパイアや甲冑着た騎士と一緒に戦ったなんて話、誰もがいつもの妄想だと思ってたからね~」

「そちらの話も後で詳しく聞きたい所ですが」

 

 どうにも自分達とは大分違う世界を体験したらしい華撃団にクルエルティアは首を傾げるが、他に優先事項は山とあったので取り敢えず後に回す事にする。

 

「でも宮藤博士が来てくれたのは助かったわ。ここの整備班とうろ覚えの宮藤理論説明しながらのユニット整備はさすがに無茶があったから」

「基本システムはかなり類似はしてるらしいけどね。一緒に来た芳佳君だっけ? 霊子甲冑動かせたって話聞いたよ」

「芳佳さんの力が強すぎてオーバーヒートしましたけどね。ユニットの整備の方、まだかかりそうですか?」

「大体構造が把握出来れば、こっちの整備班でもある程度は出来そうって話よ。まあ間に合わせではあるけど。ついでに華撃団の霊子甲冑も見てもらってるって」

「果てさて、何て言われてる事やら」

 

 冗談めかしたサニーサイドの苦笑に、クルエルティアと圭子も苦笑で答えるしかなかった。

 

 

 

「成る程、確かに帝都や巴里のとは基本コンセプトから違いますね」

「ええ、元々は軍用人型蒸気をベースに、独自の改良を加えた物ですから」

「確かに出力は他の華撃団に比べてかなり高い。だがそれは同時に機関始動時の消費魔力、いやこっちだと霊力か、それがかなりの量を要求されます。減衰期に入った人がそれを行えば、力の減衰が加速する可能性が高い。こちらでもそのような事例が有りましたし」

「成る程、機関始動時とは考えませんでしたな」

 

 紐育華撃団の格納庫で、宮藤博士と小柄な中国系の老人、紐育華撃団 参謀兼整備班長の王が熱心に話し込んでいた。

 それを隣で聞いていたラチェットが、表情を曇らせていた。

 

「機関の出力を上げすぎて、こっちの力が減っていったとはね」

「帝国華撃団で聞いた話を総合すれば、他の隊員達も気をつけた方がいい。霊力の減退が早く始まる可能性もある」

「貴方みたいな人がこちらにいてくれたら、他の華撃団も随分と楽だったでしょうに」

「その通りですな。正直、私共ではとても敵いません」

「あくまで使用者保護を再優先に研究を進めた結果ですよ。安全面で言えば、文句無しの機体です」

「お父さん! エイラさんとサーニャちゃん見つかったって! 今イオナちゃんの仲間の船で漂流中だから、食料買ってきてもらったらすぐ出発するって!」

「やれやれ、どうやらまた急ぐ必要がありそうだな」

 

 芳佳が大声で話しながら駆け寄った所で、宮藤博士は残った仕事を手早く片付けていく。

 

「それでは、残った整備の方は」

「何とかしてみましょう。随分と勉強になりましたしな」

「こちらこそ。起動時出力を蒸気機関安定してからにすれば、霊力消費を抑えられると思います」

「改良してみます」

「何だもう行ってしまうのか」

「お忙しいですね」

 

 握手している宮藤博士と王に、マルセイユとフレデリカも姿を見せる。

 

「こちらもお礼を。さすがにティーガー型をうろ覚えの手探り整備は遠慮したかったので」

「あれは悪い機体ではないけど、乗るウィッチを大分選ぶから気をつけて」

「もちろん」

「私も助かったぞ、さすがにアフリカの星のユニットが整備不良では話にならんからな」

「ちょっと飛び方に無理をさせてるね、近い内にオーバーホールする必要が出てくるかも」

「それにしても、どうせならこっちの整備班も一緒に飛ばしてほしかったわね………」

「ソニックダイバー隊の人達は基地まるごとでしたけど。あやうくこっちの陸軍の人達に包囲されそうになりましたが………」

「どこも問題だらけってわけね。太平洋にも何か現われたって話だし」

「なんなら私が増援に行ってもいいぞ!」

「…ひょっとしたらそうなるかもしれないな」

 

 始終強気なマルセイユに、宮藤博士が小さく呟いた事に、ラチェットは気付いていたがその意味する事をなんとなく感じ取っていた。

 

「ラチェットさん! 作戦室で太平洋に現われた奴の画像見れるそうですよ! 皆さん集まってます!」

「新次郎君、今行くわ。それじゃ、私はこれで」

「私も見たいぞ、どこにある?」

 

 ぞろぞろと連れ立って行く華撃団とウィッチを見送った宮藤博士は、パリでも双方仲良くやっていた事を思い出す。

 

「今の所、対立とかないようで安心しました」

「その余裕すら無かった、というのが正しいでしょう。危うく市街地にまで被害が及ぶ所でしたので」

「東京はかなり被害が出ましたし、パリも少ないとは言え被害が出ています。もっとも、皆が力を合わせなければ、どこまで被害が広がっていたか………」

「整備を急がないといけませんな。敵の正体すらまだ皆目見当もつかないのでは」

「我々の仕事は、彼女達の力を完全に発揮出来る状態に機体を保つ事ですからね………」

 

 次の戦いが迫ってくる予感を感じつつ、二人の技術者は自分達の仕事を急いだ。

 

 

 

「やれやれ、これはすごい」

「そうとしか言いようが無いのは事実だ」

 

 自由の女神の前に広がる砂漠に、加山がおもわず呟き、同伴していた昴も同意する。

 

「こちらの調査で、成分的には間違いなくサハラ砂漠の砂だそうだ」

「帝都には小さいが基地一つが丸々現われたからね。大神司令が状況を理解出来てよかったと言うべきか否か」

「ジェミニが言ってた事を信じてた人間は誰もいなかった。だが、これでは信じるしかない」

「賢人機関の上層部にもそろそろ連絡が行ったろうね。今頃大騒ぎだろうが………」

「太極しか見れない連中は後回しだ。今後どうするかが重要だ」

「とにかく、ウィッチの子達は前も似たような事やってるようだから、上手くやっておいてほしいね」

「協力的で助かっている。あの隊長、元記者だとかで、交渉がやけにうまい」

 

 そこまで言ってた所で、加山のキネマトロンが着信音を鳴らす。

 

「おや、そちらの司令から? はい加山」

『ミスター加山、状況に変化だ。今度は太平洋に学校みたいな施設が現われたらしい』

「学校?」

 

 横で聞いていた昴も首を傾げる中、サニーサードは続ける。

 

『どうやら、ただの学校じゃないのは確かだ。変わった格好の子達が試合してるよ。これはすごいな………充分客が呼べる』

「すぐに戻ります。やれやれ、帝都に戻る前にまた寄り道かな?」

「新顔が次から次か。果たして使い物になるんだろうかね?」

「そうじゃなかったら、問題がまた増えるね~。帝都だと新人の子達まで駆り出してたけど、援護が精々だったしね」

「………全員が歴戦とは限らない、か。そもそも転移とやらの基準は何だ?」

「それを今調べてる所だよ。これから何が起きるか、それに対して華撃団はどう動くべきか、ってね」

「護るべき物のために戦う、それこそが華撃団の唯一絶対の存在意義、違うかな?」

「それはそうなんだけどね。どうやら、護るべきは街じゃなく、世界その物になりそうだよ………」

「………」

 

 加山の言葉に、昴は愛用の鉄扇で口元を隠して無言で応えるしかなかった………

 


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