第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP16

 

「これで、最後か!」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンから射出されたワイヤーブレードが、向かってきていた飛行型の最後の一機を破壊する。

 

「被害状況報告!」

「二名負傷! しかし戦闘続行は可能です!」

「こっちも無事や!」

「しかし、ブリッドは使い果たしました………」

 

 ラウラの確認にクラリッサが手早く報告、ついでにのぞみとサイコも返答する。

 

「残弾は!」

「重火器は残30%を切りました!」

「こちらもミサイルの残数が………」

「くそ、どいつもスカンピンかい」

「ま、あれだけ派手にやればね~」

 

 誰もが疲弊し、残弾も少ない中、なぜか一人だけ元気な束が分解には失敗したが分かった敵のデータをまとめていく。

 

「う~んすごいね。これだけ高度な兵器、見た事無いよ。無人兵器なのは確かだけど、恐らく個々が高度な自己判断能力を持って、互いの判断で戦術を同調させる、どうやったらこんな芸当可能なのかな~?」

「あの、篠ノ之博士、それで対策は………」

「今の所不明かな? 多分これECM効かせようが何しようが、戦術行動が取れるレベルまでシステムが構築されてる。つくづく凄いね~」

 

 束がただ感心していることに、他の者達は無言で顔を見合わせる。

 

「とにかく、敵戦力は現状だと教官と瑠璃堂女史に集中してる」

「やはり、能力が高い所に集中してると見ていいですね」

「それと、あの子の所にも」

 

 簪が上空でドッグファイトを繰り広げている少女を見上げる。

 

「隊長、指示を」

「苦戦している場所に加勢に行くべきだろうが、戦域があまりに拡大している」

「それと、補給が出来ない以上、過度の戦闘参加は避けるべきでは?」

「でも見捨てるいうワケにもいかんやろ?」

 

 パンツァー、IS双方エネルギーの残量も少なく、増援に行くのもためらわる状況に、全員が判断に迷う。

 だが、それは予想外の形で中断する。

 

「あ、ちょうどいい所に!」

「ラウラ! ちょっと手伝って!」

 

 こちらへと急いで向かってくるはさみと鈴音の背後に、大量の敵が着いてきているのを見た束を除く全員の顔が引きつる。

 

「取り敢えず、やる事は決まりましね」

「………ええ」

「黒ウサギ隊、あの二人を援護する!」

「了解!」

 

 やや呆れ気味のサイコと簪が呟いた直後、ラウラの号令と共に全員が一斉に攻撃を開始した。

 

 

 

「………しまいましたわ」

 

 エネルギー切れでトリガーを引いても反応しなくなったスターライトmkⅢを収納したセシリアは、近接ショートブレードのインターセプターを構える。

 

「ガス欠?」

「ええ、そちらは?」

「似たような物ね」

 

 のずるもアームから吐き出される旋風が弱くなってきている事に、限界が近付いてきている事を悟っていた。

 

「竜巻は多分もう作れない」

「仕方ありませんわね。こちらも残った武装はこれだけですし」

 

 過剰使用でわずかに白煙を上げてるアームを手にしたのずると、激戦でビットも全て失ったセシリアが自重気味に呟くが、それでもなお戦意は失ってなかった。

 

「この程度で代表候補生が音を上げる訳にはいきませんわ!」

「同感ね!」

 

 まだこちらに向かってくる敵へと向けた二人が構えた時、銃撃と閃光が先に敵を撃破する。

 

「よかったセシリア! 無事だったんだね!」

「のずる! 大丈夫ですの!?」

 

 こちらを見つけて向かってくるシャルロットとあかりだったが、それを追ってくるように敵の姿が見えてもいた。

 

「シャルロットさん! そちらの様子は?」

「それが、武装ほとんど使っちゃって、残弾無いんだ!」

「こっちもなんだけど………」

「けど、四人でかき集めればなんとかなるでしょう?」

 

 あかりの提言に、二人がこちらに来た理由を悟ったセシリアとのずるが頷く。

 

「それじゃあ、もうひと暴れするわよ?」

 

 あかりの言葉を合図に、全員が一斉に残った武装を敵へと向けた。

 

 

 

「そこだぁ!」

 

 ねじるが全力で突き出したドリルが、相手の装甲とぶつかり、壮絶な火花が飛び散る。

 

「くっ!」

 

 異様に硬い手応えが、ドリルが装甲に食い込んでいない何よりの証拠だという事に、ねじるが歯噛みする。

 

「危ない!」

 

 そこにねじるの頭上へと脚部が振り下ろされそうになったのを、箒が慌てて救出する。

 

『ブラッディ・ドリル、ピンチを脱した! 篠ノ之選手、ファインプレイです!』

 

「くそ、ブリッドはもう無えし、ドリルもこれじゃあ………」

 

 つばさの実況が響く中、己のドリルがもうボロボロになっている事にねじるは悪態をつくが、ちらりと今にも飛び出しそうなどりすを見て、それ以上は口をつぐむ。

 

「せめて、あと一箇所貫けりゃ………」

「それが難しいな」

 

 箒も手にした二刀が刃こぼれを生じてきている事に気づいていたが、一夏には知られないようにしていた。

 

「これ以上時間を掛ければ、あの二人は堪えきれずに飛び出してくるかもしれん」

「どりすが飛び込んでこないのが不思議だよ」

「一夏が抑えてる、こちらを信じてな」

「期待には応えたいけどな!」

 

 発射されたビームを左右に跳んで回避しつつ、ねじると箒は打開策を考える。

 

(ブリッドは使い果たしちまった………せめてあと一撃、ドリルが持ってくれれば)

(エネルギーがもうほとんど残っていない………絢爛舞踏が使えれば!)

「こっちはまだまだいけるのだ!」

「援護は任せて!」

 

 やる気満々のマオチャオとツガルに二人は苦笑しながらも、得物を構え直す。

 

「同時に一点突破、出来るか?」

「ええ、それじゃ援護を頼む」

「任せ…」

 

 強行突破をねじると箒が決意した時、突然大型の上部から何かが発射された。

 

「何あれ?」

 

 ツガルの疑問は、すぐに解ける事になった。

 予想外の結果となって………

 

 

 

「何!?」

「あれは………」

 

 闘技場上空で敵を迎え撃っていた盾無と真耶だったが、そこで妙な細長いポッドのような物が複数真下から上がってきた事に気付く。

 それがある物に酷似している事に盾無が気付き、叫んだ。

 

「一夏君逃げて!!」

『え…』

 

 とっさにランスに内蔵されたガトリングでポッドを射撃しつつ、盾無は叫ぶ。

 都合三つ発射されたポッドの内二つは弾丸によって破壊されるが、残った一つが閃光を発したかと思うと、内部から鋭い無数の光が下へと向かって発射された。

 

「まさか、あれは!?」

 

 

 

『一夏君逃げて!!』

 

 盾無の必死の叫びを、全員が聞いていた。

 状況を理解できないまでも、全員が一斉に動いていた。

 叫びの意味を理解したのは、その直後だった。

 上空のポッドから、無数の光が高速で発射される。

 

「これは!?」

 

 半ば反射的に、箒は二刀を振るって光を薙ぎ払い、白刃に当たった光は甲高い音を立てる。

 

「スプレッドニードルなのだ!」

「しかも、フィールドコーティングされてる!?」

 

 二体の武装神姫が、その正体に気付く。

 それはフィールドに覆われ、高速で射出された長大な針だった。

 光の雨にしか見えないニードルが、その場に高速で降り注ぐ。

 降り注いだのは数瞬だったが、その数瞬の間に、状況は一遍していた。

 

『これは、とんでもない兵器です! 周辺の様相が一変しました! まるで針山地獄です!』

 

 つばさの実況通り、周辺には1mはあろうかというニードルが無数に突き刺さり、巨大な剣山のような状態だった。

 その中、戦っていた者達の荒い呼吸音が響く。

 

「なんとか、持ってくれた………紅椿でもギリギリとはなんてフィールド出力だ………」

 

 あまりの速度に、初撃以外は迎撃できなかった箒だったが、紅椿のバリアと装甲がかろうじて持ち堪え、軽傷で済んでいた。

 

「大丈夫!?」

「助かった!」

 

 一瞬の判断で、一夏の肩に駆け上り、ブリッドを使用しながら上空にドリルを向けてニードルを軒並み払い除けたどりすだったが、二人の周囲には無数のニードルが突き立っていた。

 

「あ、危なかったのだ………」

「間一髪………」

 

 持ち前の小ささでなんとか降り注ぐニードルの隙間にいたマオチャオとツガルが、自分達の間近に突き立つニードルに震え上がる。

 だが、一人だけ回避しきれなかった者がいた。

 

「ち、っくしょう………」

「ねじる!」

 

 シールドを掲げてニードルを防ごうとしたねじるだったが、装甲貫通を目的としたニードルの一本がシールドを貫通し、ねじるの足を地面に縫い止めていた。

 

『まさか、バリア貫通兵器!』

『アンチISウェポン・《ゲイボルグ》! まだ理論構築段階のはずなのに!』

 

 真耶と盾無がまだどの国も完成どころか試作品すら作れていないはずの兵器に、愕然とする。

 

「このための武装か!」

「ねじる、今行く!」

「来るな!」

 

 突き立つニードルをドリルでかき分けながらねじるの救助に向かおうとするどりすだったが、ねじるはこれこそが敵の狙いだと気付いていた。

 

「まずい………!」

 

 箒も救助に向かおうとする中、大型の装甲の一部、ちょうどねじるの真正面にビームの光が灯り始める。

 

「まずいのだ!」

「出力がさっきと違う!」

 

 マオチャオとツガルは、そのビームが今までよりも高出力である事に気付き、慌ててねじるの元へと向かおうとする。

 

「ダメだ! 来るな!」

 

 このままではみんな巻き添えになると思ったねじるはなんとか逃げようとするが、ニードルはその長さ故に容易に抜けず、シールドを構えようとするが、それもすでにニードルによってかなり破損していた。

 

「くっ…そ………」

 

 最早逃げられないと悟ったねじるが覚悟した時、その前に立つ影が有った。

 

「零落白夜、発動!」

「一夏!」

 

 飛び出した一夏が零落白夜を発動、放たれたビームを迎撃する。

 零落白夜のエネルギー無効化が放たれたビームと拮抗し、周辺に閃光の残滓を撒き散らしながらもビームを消滅していく。

 やがてビームが完全に消えた所で、雪片弐型がエネルギー切れで光を失い、続けて白式もその場に擱座しかける。

 

「一夏! 馬鹿か! こんな所でエネルギーを使い切ってどうする!」

「そいつでトドメ刺すんじゃなかったのか!」

「いや、でもそうしないと君が危なかったから………」

 

 箒とねじるに同時に怒鳴られ、一夏が罰の悪そうな顔をするが、二人も一夏の言い分も正しいとは思っていた。

 が、これで切り札を失った事もまた事実だった。

 

「とにかく、まずはこっちなのだ!」

「上お願い! 私は下!」

 

 慌てて駆け寄ったマオチャオがねじるの足を貫いていた針の上部を格闘用ナックルクローの研爪で、下部をツガルが近接武器フォービドブレードで破壊し、なんとか拘束を解く。

 

「ちっ………」

「抜くな! 出血が酷くなるぞ!」

「それくらい分かってる! くそ、ブラッティ・ドリルが血まみれじゃあ笑い話だ………」

「ねじる! 動かないで!」

 

 運良く血管は逸れてたらしく、出血量こそ少ない物の確実に片足は使い物にならない状況に、ねじるは奥歯を噛みしめるが、そこから更に状況は悪化していく。

 

「一夏! 白式を解除して逃げろ!」

「何とか残ったエネルギーで、雪片弐型だけでも…」

 

 ほとんど動かない白式を武装だけでも使えないかと一夏がバイパス設定をしようとした時だった。

 

「やばい、逃げろ!!」

 

 ねじるが動けない自分達に向かって、再度ビームが放たれようとしているのに気付き、顔色を変える。

 

「ねじる! こっち!」「急ぐのだ!」

「馬鹿逃げろ!」

 

 どりすとマオチャオがねじるを逃がそうと腕を引っ張るが、間に合わないと感じたねじるはそれを振り払おうとする。

 

「マスター! 逃げて!」

「一夏!」

「来るな!」

 

 ツガルがなんとか一夏を連れ出そうとし、箒も近寄ろうとした所で突然紅椿の動きが鈍る。

 

「な…」

 

 慌てて背後を見た箒は、背部のウイング部分がニードルで破損している事に気付いた。

 

「ダメ、間に合わない…」

「一夏~!!」

 

 ビームが発射される瞬間、ツガルは思わず目を閉じ、箒が叫ぶ。

 ビームの閃光がその場を覆うとした時、突如として生まれた別の光がビームを阻んだ。

 

『これは一体なんでしょう!? 何かのシールドが大型のビーム攻撃を阻んでおります!』

 

 つばさもあまりの眩しさに目を覆う中、ビームが途切れ、皆を守った物の正体が露わになる。

 

「ちょ、何それ!?」

 

 どりすが思わず声を上げる。

 その先には、全身から燐光を発する紅椿の姿が有った。

 

「発動、したのか………《絢爛舞踏》!」

「箒!」

「分かってる一夏!」

 

 箒が手を伸ばし、白式へと触れる。

 すると、枯渇していたはずの白式のエネルギーがみるみる回復していく。

 紅椿のワンオフ・アビリティー、エネルギーを無制限に増大させる《絢爛舞踏》が、戦況を一変させていた。

 

「お前、そんないいのあるならもっと早く使え!」

「そうなのだ!」

「私自身の意思で発動出来ないんだ!」

 

 ねじるとマオチャオが思わず文句を言うが、実際箒の意思では自由に発動出来ないのは事実だった。

 一夏がピンチになった時だけ発動出来るという事実はあえて言わず、箒と一夏は大型へと再度対峙する。

 

「ち、そっちだけか………」

「そうでもないよ」

 

 ねじるが舌打ちする中、ツガルが突然武装をパージ、武装は合体してスノーモービルを思わせる機動ユニット、レインディアバスターへと変化する。

 

「ちょっともらうね」

「は?」

 

 ツガルはレインディアに騎乗して紅椿の周囲を旋回、その背後に光の粒子が集っていく。

 

「私からのプレゼントだよ!」

 

 そのままツガルはねじるとどりすの上へと行くと光の粒子を投下、それに触れた二人のエネルギーも回復していく。

 

「馬鹿な!? 絢爛舞踏のエネルギーを違う機体に、しかもISでもないのに!」

「これが私の特殊能力。エネルギー変換搬送能力だー!」

「はは、サンタ型ってのは伊達じゃなかったか」

 

 紅椿の燐光が収まる頃には、IS・パンツァー双方のエネルギーは充分なまでに回復していた。

 

「仕切り直し、かな」

 一夏が白式を立ち上がらせ、大型に向け構える。皆がそれに続くように再度、闘志を漲らせていく。

 

『ああっと、まさかの回復です! パンツァー、IS双方残りわずかだったはずのエネルギーが回復しています!』

「よおし、こっから一気に逆転を…」

 

 どりすが俄然やる気になるが、大型が突然けたたましいサイレンのような音を響かせる。

 

「何だこれ!?」

「音波攻撃か!?」

「何かちがうのだ!」

「これは、何かの信号?」

 

 全員が思わず耳を塞ぐが、サイレンは唐突に停止する。

 

「悪あがきを……一気に行くぞ…」

『一夏君!』

 

 箒が先陣を切ろうとした時、盾無の切羽詰まった声が響く。

 

『敵が、敵が全部こっちに向かってきてます!』

『背中から撃たれてもお構いなし! 残存戦力全てここに狙いを変えたようよ!』

 

 真耶も慌てる声も続き、皆が先程のサイレンの意味を悟った。

 

「狙いは、紅椿か!」

「目立ち過ぎなんだよ!」

「だから私の意思で絢爛舞踏は制御出来ないんだ!」

「その件は後だ! とにかく、一刻も早くこいつを…」

『来たわ! 防ぎきれない………!』

 

 再度の形勢逆転に、一夏が大型に一気に向かおうとするが、そこに向かってきた敵の一部が盾無と真耶の弾幕をくぐり抜けて闘技場へと潜り込もうとする。

 

「なんとか私達が…」

「防ぐ…」

 

 マオチャオとツガルが迎撃に向かおうとした時、上空から飛来した銃弾と、アンカーが敵を撃破する。

 

「! 間に合ったのだ!」

「よ、良かった~」

「あれは………」

 

 武装神姫が胸を撫で下ろす中、一夏は上空を見上げていた。

 

 

「拠点防御モード移行」

「行って、ディアフェンド!」

 

 二人の少女の掛け声と共に、闘技場に潜り込もうとしていた敵に銃弾とアンカーが炸裂する。

 

「さっきの…」

「でもあちらは?」

 

 片方は先程まで上空で奮戦していた漆黒の少女だったが、それと対極的な白いスーツに攻撃ユニットを装備した少女が高速ですれ違いながら、ビームアンカーとビーム砲撃で敵を次々と撃破していく。

 

「私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート《TH60 EXELICA》! 今からそちらを援護します!」

 

 エグゼリカは一瞬だけ、自分と共に援護攻撃を行った漆黒の少女に視線を向けるが、彼女はこちらを丸で気にも止めずに向かってくる敵群へと向かっていった。それを見たエグゼリカも躊躇を振り払うように同じように敵群への攻撃を再開させた

 

「………また変わった人が来ましたね」

「しかも無茶苦茶強いですし。まだ誰か来る!?」

 

 エグゼリカの圧倒的な戦闘力に思わず攻撃の手を止める真耶と盾無だったが、そこで別の反応が向かってきている事に気付いた。

 

「亜乃亜!」

「分かってるエリュー! プラトニック・エナジー全開!」

『ドラマチック・バースト!!』

 

 そこに赤と蒼の機体にまたがった少女達が同時に攻撃、サーチレーザーとスプレッドボムが敵をまとめて薙ぎ払っていく。

 

「あっちもすごいですね………」

「IS以外にこれだけの機体があるなんて………」

「私達は秘密時空組織「G」の者です! エグゼリカさんと共に、皆さんを救助に来ました!」

「取り敢えず、敵を殲滅します!」

 

 赤の機体に跨ったエリューが簡単に紹介をするが、蒼の機体に跨った亜乃亜はすぐさま敵へと向かっていく。

 

「一夏君、こっちは何とかするわ! そちらをお願い!」

「くれぐれも無茶はしないでください!」

『分かりました! そちらも無茶はしないでください!』

 

 相次ぐ形勢逆転に、少し混乱しながらも盾無と真耶は当初の闘技場防衛に専念する事にした。

 

「今来た子達、何か知ってるみたいですね」

「救助って言ってましたしね。でもまずは、この戦いを終わらせてからにしましょう!」

 

 盾無と真耶は背中合わせになりながら、己の得物を構えた。

 

 

 

「さっき言ってた増援の人達が来たみたいだ!」

「あてになるの、その人達?」

「来たのはトリガーハートとRV、どちらもマスター達に引けを取らない戦力なのだ!」

「あちらは任せて、こっちを倒そう!」

 

 一夏が上空を横切るのがどうやら通信してきた相手らしい事を確信するが、どりすは半信半疑だった。

 だがマオチャオとツガルの助言に、こちらの戦いに専念する事にする。

 

『戦いはより激しさを増してきております! 上空には敵の大群と、謎の友軍が激戦を繰り広げている模様!』

 

 つばさの実況が指し示す通り、上空でも地上でも、戦闘は更に激化していった。

 

「動けるか!?」

「ちょっとやばいな………」

 

 幾ら串刺しから抜け出したとは言え、まだニードルが刺さったままのねじるが、激痛に堪えながらも姿勢制御用のバーニアで大型の攻撃を回避し、箒はそれをカバーする。

 

「無理なら下がれ! エネルギーは回復出来ても、ダメージや負傷までは回復出来ないぞ!」

「あと一撃、後一撃穿てれば………!」

 

 どりすの一撃を確実に叩き込むには、どうしても自分のあと一撃が必要だという事をねじるは自覚していたが、足からの激痛がそれを困難な状態にしていた。

 

「危ないのだ! ドリルならここにもあるのだ!」

「そんな小さいのでどうにかなるか! オレがどうにか…」

『使って!』

 

 そこに、上空で防衛戦をしていた盾無の声と共に、何かが落下してくる。

 

「マズい!」

 

 大型がそれを狙ってビームを発射しようとするが、ツガルが素早くそれをキャッチして放たれたビームを回避する。

 

『更識家直伝の鎮痛剤よ! 即効性があるから、患部に注射して!』

「こうかな!?」

 

 ツガルがキャッチしたアンプルケースから無針注射器を取り出し、ねじるの突き刺さったままのニードルの間近へと注射する。

 

「うぐっ!」

「ねじる!」

「は、はは、よく効くなこれ………」

 

 一瞬顔を歪めるねじるだったが、ウソのように痛みが和らいでくるのに苦笑する。

 

『常習性出るかもしれないから、一回だけだからね!』

『何が入ってるんですかそれ!』

 

 さらりと盾無が危険な事を言って真耶が突っ込むが、ねじるは気にしない事にしてドリルを構える。

 

「おい、そこのポニーテール。こっちにもっとエネルギー寄越せ」

「待て、これはIS用のアビリティーだ!」

「私は元々エネルギー変換搬送機能が有ったから出来たけど、直には危ないよ!?」

「構わねえ! いいからやれ!」

 

 限界が見え始めているドリルを箒の前に突き出したねじるに、箒とツガルは反対するが、ねじるは頑として叫ぶ。

 

「余ってるの全部注いでも構わねえ!」

「責任は持てんぞ!」

 

 箒もあと一撃を撃ち込むにはこれしかないと自覚し、半ばやけくそでねじるのドリルに絢爛舞踏の残エネルギーを注ぎ込む。

 効果はテキメンで、ねじるのドリルが猛回転を始め、ねじるは笑みを浮かべる。

 

「よし、行ける!」

「援護する!」

 

 猛回転するドリルをかざして突撃するねじるに、箒も雨月と空割を手に続くが、ねじるのドリルがスパークを始め、あまつさえ回転に耐えきれず、赤熱化すら始めているのに愕然とする。

 

「待て! それでは…」

「構わねえって言っただろうが!」

 

 誰よりもねじるがその事に気付いていたが、構わずねじるはバーニアを最大出力で噴射させ、大型へと向かっていく。

 

「露払いはする!」

 

 箒も覚悟を決め、ねじるに向かって振り下ろされる脚部を次々と斬り払い、突破口を開く。

 振ってくる破片を避けもせず、ねじるは大きく振りかぶったドリルを、大型の装甲へと突きつける。

 

「いっけええぇぇ!!」

 

 凄まじいまでのスパークが飛び散り、高硬度を穿つ甲高い掘削音が周囲に響き渡る。

 

『これはすごいです! ブラッディ・ドリル渾身の一撃です!!』

 

 つばさの実況も興奮する中、それは突如として中断する。

 負荷に耐えきれなかったドリルが、シールド諸共爆散した事によって。

 

「うぐっ!」

「大丈夫か!」

 

 飛び散った己のドリルの破片で傷付き、爆散の影響で利き腕も負傷したねじるが倒れそうになるのを、箒は抱えて一気に後ろへと下がる。

 

「なんて無茶な事を………!」

「まあな。けど目的は果たしたぜ………」

「ああ………」

 

 どう見てもこれ以上は戦闘不能なねじるをかばいながら、箒はねじると二人がかりで穿った穴を見つめる。

 大型の強固な装甲、それにちょうど円を描くように等間隔で穿たれた穴を。

 

「どりす! 後は任せた!」

「任せてねじる!」

「一夏! 分かってるな!?」

「ああ! 下がっててくれ!」

 

 二人が決死の覚悟で作ってくれたチャンスを活かすべく、どりすと一夏が入れ違いで突撃していく。

 だが大型も危険と判断したのか、攻撃が更に苛烈になっていく。

 

『ブラッディ・ドリル戦線離脱です! しかし敵の猛攻の前に、果たしてドリルプリンセスと織斑選手は突破口を開けるのでしょうか!?』

 

 つばさの実況も響く中、どりすと一夏は振り回される脚部と絶え間ないビーム攻撃に突撃の中断を余儀なくされる。

 

(ねじるが作ってくれたチャンス、なんとしてもアイツを貫くんだ!)

(箒がくれたチャンス、なんとしてもアイツを倒す!)

 

 二人共、タッグが作ってくれた僅かな勝機を掴むべく、攻撃を回避し、弾きながらも隙を窺う。

 

「マスター、援護するのだ!」

「任せて、マスター!」

 

 マオチャオとツガルも加わり、それに応ずるように、更に大型の攻撃も激しくなる。

 

「何とか………」

「アイツを………!」

 

 残った力と気力の全てを込めるため、どりすと一夏は防戦しながらチャンスをうかがっていた。

 

 

 

「アールスティア、オートファイア! ディアフェンド、フルスイング!」

 

 砲撃艦からの連続砲撃を繰り出しながら、エグゼリカはアンカーでキャプチャーした敵をスイングし、周辺の敵を一掃していく。

 

「ビックバイパー、モードセレクト《HORIZONTAL》モード!」

「ロードブリティッシュ、T・MISSILE、RIPPLEセット! 攻撃開始!」

 

 亜乃亜とエリューが己のRVの兵装を選択、ミサイルとレーザーが次々と敵を破壊していく。

 

「友軍判定、攻撃目標から除外」

 

 漆黒の少女はそれらを見ながら、淡々と機銃とナイフで一撃離脱を繰り広げていく。

 

「すさまじいな………」

「ホンマ………」

 

 下でその様子を見ていたラウラとのぞみが思わず声を漏らした。

 

「先程来た三機、どれもすごい性能です。ISに全然引けを取ってません」

「むしろ上かもしれませんわね」

「誰が作ったんだろうね~。あ、あの白い子もアンドロイドだね」

 

 唖然としながらそれぞれ解析していた簪、サイコ、それに束がそれぞれほぼ同じ結論に辿り着くが、それ以上は考えずに闘技場に集結している敵へと向かっていく。

 

「さっきまであんなしつこかったのに、突然ガン無視っては馬鹿にし過ぎじゃない!?」

「よっぽど気になるのが有るんでしょうけど………」

 

 鈴音が声を荒げ、はさみは首を傾げる。

 上空でも地上でも、あれ程苛烈に攻勢をかけてきていた敵は、背後から撃たれようと無視して闘技場へと向かっていく。

 

「どうやら、一番の得物を紅椿だと理解したのかと」

「あの二刀流のか、何か違うんか?」

「あはは~、紅椿は私が作った最新型の第四世代ISだからね~。それに絢爛舞踏も発動してる。そこが興味引いたんだろうね」

 

 簪が敵の行動変化を冷静に判断し、のぞみが首を傾げるのを束が補足する。

 

「こっちだって最新型よ! 第三世代機だけど………」

「先程までこちらを狙ってきたかと思えば、今度は紅椿一択か。随分と判断が早いな」

「何か基準があるのかも………」

「新しいのだけ欲しがるなんて、ガキみたいな連中やな」

「無人機である以上、なんらかの判断基準は設定されてるはずですが………」

「知らないわよ、そんなの」

 

 IS使い達が文句を言う中、パンツァー達も賛同するが、闘技場とそれを覆い尽くさんばかりの敵の姿が見えてくる。

 

「中はどうなっている!」

「まだ戦闘中みたいです!」

「ここは私達が受け持つ! 黒ウサギ隊は負傷者の救助に回れ!」

『了解!』

 

 ラウラの指示で素早く黒ウサギ隊が散開し、残った者達が戦闘態勢を取る。

 

「あ、ラウラに簪! 鈴も!」

「そちらは無事でしたの!?」

「シャルロット! セシリアもか!」

「一応皆さん生きてますわね」

「どこもえらい目にあってたみたいだけど」

「あかり! のずる! 無事だったみたいね」

 

 各所で戦っていた者達も続々と集結し、誰もがこの戦いの終わりが近い事を予感していた。

 

「ランキング上位の人とブリッドの残ってる人は前衛に、そうじゃない人は後方から援護お願いしますね」

「エネルギー残量と残弾数を確認! 残弾の無い者は後方待機!」

 

 どりあと千冬も駆けつけ、指示を飛ばしながらも敵を撃破していく。

 だが集合してきた面子の中に、とある人影を見つけた千冬の表情が一際厳しくなる。

 

「あ、ちーちゃん。できれば一機くらい生け捕りお願い♪」

「束か、そちらで勝手にやれ」

「お知り合い?」

「ISを作り上げた人物だ。恐らく今ここで一番の危険人物だがな」

 

 平然と声をかけてきた束に冷たい一瞥をくれた千冬に、どりあが説明を聞いてなんとなく納得する。

 闘技場を取り囲む敵を逆に取り囲もうとした時、突然敵が反転してこちらへと攻撃を開始する。

 

「あらあら、通せんぼのようね」

「どうしても通したくないようだな」

 

 迫りくる敵の向こう、闘技場からは激しい戦闘音が鳴り響いてくるのを聞きながら、どりあと千冬は己の得物を構える。

 

「援護します!!」

 

 そこで上空から声が聞こえたかと思うと、亜乃亜がビックバイパーを急降下させつつ、対地ミサイルを次々と放つ。

 

「無茶しよるで、あの青いの!」

「兵装はIS以上だな」

 

 放たれたミサイルで敵の一角が吹き飛ぶ中、のぞみとラウラは爆風から顔を守りながら呟き、そして同時に動き出す。

 

「じゃあ行きましょうか」

「行くぞ!」

 

 どりあと千冬の声に応じるように、その場にいた全員が一斉に敵へと向かっていった。

 

 

 

「フォーム…」

 

 ねじるの作ってくれた攻撃ポイントを狙うべく、どりすはフォームアップしようとするが、振り下ろされた脚部に中断を余儀なくされる。

 

「またぁ!?」

「防御がやたらと固くなったのだ!」

「狙われたらヤバいって分かってるんだ!」

「デカいのになんてせせこましい!」

 

 マオチャオ、一夏、ツガルもなんとかどりすの渾身の一撃を叩き込む隙を作り出そうとするが、大型の攻撃は更に苛烈さを増す。

 

(どうする? 一度下がるか? いや、そうしたら後ろにいる二人に攻撃が向かうかもしれない! それにエネルギーが回復したと言っても、もう全員体力は限界に近い!)

 

 一夏は荒くなっている呼吸をなんとか整えようとするが、すでにそれすら困難な程に疲労が蓄積されていた。

 

「もう一度!」

「分かったのだマスター!」

 

 再度どりすがマオチャオと突撃をかけようとするが、放たれるビームに回避に専念せざるを余儀なくされる。

 

「どうにかして、相手の動きを一瞬でも止められれば………!」

「けどマスター、あの装甲はこちらの火力じゃ!」

 

 大型の動きを阻害出来る程の火力を持った者はこの場にいない事、そして闘技場の外から激しい戦闘音が聞こえる事から、増援も期待出来そうにない事に一夏は必死になって打開策を考える。

 それが思い浮かぶよりも早く、事態は更に悪化した。

 大型の攻撃が突如として止んだかと思うと、全ての脚部が地面に降ろされる。

 

「え?」

「は?」

「何なのだ?」

「何を…」

 

 一瞬呆気に取られたどりす、一夏、マオチャオ、ツガルだったが、相手の次の動きは更に予想外だった。

 大型はその脚部全てを使い、凄まじい速度と質量でこちらへと向かって突撃してきた。

 

「ええええ!?」

「こっちだ!」

 

 とんでもない大質量の突撃に、どりすが絶叫する中、一夏がとっさにその腕を掴んで宙へと舞い上がる。

 そこへ狙いすましたかのように無数のビーム攻撃が集中し、一夏は白式を縦横に動かしてなんとか避ける。

 

「離して! このままだと的になる!」

「出来るか! まさかこんな手を使ってくるなんて………」

「後ろ! 後ろ迫ってきてるのだ!」

「こんなのあり!?」

 

 下手に高度を取ると狙い撃ちされると思った一夏が暴れるどりすを掴んだまま高度を下げると、今度は大型の巨体が一気に迫ってくる。

 

「一夏!」

「箒! その子を連れてシェルターに逃げろ!」

「しかし!」

「オレに構うな! 増援に行け!」

 

 逃げる者達を追う大型が、観客席をその巨体で抉っていく様を見ながら箒も判断に迷う。

 

(紅椿でもあれは止められない! どうすれば…)

 

 

「いけない!」

 

 上空のエグゼリカは眼下の戦いが再度苦境に立たされたのに気付き、援護に向かおうとする。その瞬間、自分に向けて何者かがデータ通信を送ってくる。

 

「これは、攻撃タイミング指示?」

 

 予感と共に視線を走らせると、自分と同じように援護へと向かおうとする漆黒の少女がいた。

どちらともなく頷きあい、2機そろって大型へと向かっていった。

 

 

 

 焦る箒の目に、ふと上空から高速でこちらに向かってくる黒と白の影に気付いた。

 

「対地中攻撃モード。バンカーバスターセット」

「ディアフェンド! フルスイング!」

 

 漆黒の少女はどこかから大型の地中攻撃用爆弾を用意し、エグゼリカは周辺にいた敵をまとめてアンカーでキャプチャー、最大出力のスイングで大型へと解き放つ。

 上空から迫る物体に、大型は迎撃しようとビームを放つが、かなりの質量を持つまでにまとめられた塊は削られるも、勢いそのままに大型へと激突する。

 

「投下」

 

 続けて漆黒の少女がバンカーバスターを投下、放たれたバンカーバスターは少女から離れると同時にブースターで高速降下を開始し、大型へと直撃。

 地中施設破壊を目的とされたバンカーバスターは盛大な爆発と共に凄まじい火柱を吹き上げる。

 

「うわあぁ!?」

「なんて無茶苦茶………」

 

 予想外の援護(?)にどりすと一夏は唖然とするが、その攻撃が大型の動きを完全に止めた事に気付く。

 

「マスター!」

「今だよ!」

 

 マオチャオとツガルの言葉に、二人は同時に動いた。

 

「行っけえええぇぇ!!」

 

 意識せずに、どりすがフォームアップ。

 最後のブリッドをチャージし、高速回転するカイザードリルを手にバーニアを全開。

 ねじると箒が作ってくれた唯一のポイント、円状に穴が穿たれた部分の中央に、残った力全てを使ってカイザードリルを叩き込む。

 凄まじいまでの掘削音と火花が周辺に飛び散り、大型が断末魔のような軋み音と共に脚部をどりすへと振り下ろそうとするが、そこへマオチャオとツガルの援護攻撃がそれを阻む。

 

「させないのだ!」

「させません!」

 

 マオチャオが猫のようなパーツが付いた攻撃ビット、プチマスィーンズと格闘戦で脚部をそらし、ツガルはホーンスナイパーライフルで脚部の先端のみを狙い撃って軌道を逸らす。

 

「ああああぁぁ!!」

 

 どりすの咆哮と共に、とうとう大型の装甲も限界を迎え、どりすのドリルが突き刺さった部分を中心に、円状に穿たれた部分が渦を巻くようにして壮大な破壊音と共に瓦解する。

 

「やっ、た………」

 

 そこでどりすも限界を迎え、フォームアップが解けて崩れる中、一夏が雪片弐型を手に迫る。

 

「行くぞ白式! 零落白夜、最大出力!」

 

 一夏はどりすが崩した装甲、その中に蠢く機械的にも有機的にも見える奇怪な内部に光刃を突き刺し、残ったエネルギー全てを使って零落白夜を発動させる。

 凄まじいエネルギーのせめぎ合いが周辺に閃光の乱舞となって舞い散り、相殺しきれないエネルギーが白式のシールドを貫いて一夏に傷を負わせるが、一夏は手を緩めようとはしない。

 

「これで、どうだああぁぁ!」

 

 最後のエネルギーを振り絞り、一夏は雪片弐型を上へと振り抜く。

 それを追うように、大型の内部に残っていたエネルギーが間欠泉のように吹き出していく。

 

「トドメ、だ!!」

 

 そのまま、一夏は雪片弐型を袈裟斬りに振り下ろす。

 斬撃の軌道を示すように一直線の閃光が大型の内部へと刻まれ、大型は最後の抵抗のように脚部を白式へと振り下ろす直前に動きが止まる。

 そして、ドリルの渦と光刃の斬撃がそのまま広がるように装甲にヒビが生じ、それが全体へと及んだ瞬間、巨体の割には小さい爆発と共にガラス細工のように一気に砕け散った。

 

「や、やった………」

「そうだね………」

「一夏!」

「どりす!」

 

 戦闘の痕跡以外、残っていない闘技場に満身創痍の状態で立ち尽くす一夏と崩れ落ちたままのどりすは、肩を貸しながら寄ってくる箒とねじるに笑みを浮かべる。

 

『やった! やりました! 語り尽くせぬ激戦の末、とうとう大型の敵の撃破に成功しました!!』

 

 つばさも歓喜の声を上げる中、闘技場に押し寄せていた他の敵達が一斉に反転、瞬く間に逃走に移る。

 

「あら?」

「え?」

 

 相次いた爆発の余波でちょっぴり煤けた盾無と真耶は、突然の事に思わず間抜けな声を漏らすが、敵の空戦型は陸戦型を掴み上げると、上空へと舞い上がってそこに発生した小型の霧の竜巻の中へと次々消えていく。

 

「ちょ、逃げ出した~!?」

「待てこら! 今まで散々好き勝手やっておきながら…」

「追ってはダメよ」

「敵は撤退を始めた! 戦闘中止! 追撃は禁止だ!」

 

 IS、パンツァー双方に突然の事に文句を言う中、どりあと千冬が追おうとする者達を止める。

 

「さて、それじゃあ怪我した人達は集まって。保健委員の方は治療準備してね」

「被害状況の確認急げ! 負傷者を重度の者から医務室へ!」

「闘技場の状態確認手伝って下さい! でないとシェルターの子達が出られません!」

 

 どりあと千冬、降りてきた真耶も加わって次々と指示が飛ぶ中、いつの間にか敵は一機もいなくなっていた。

 戦っていた者達も気持ちを切り替え、負傷者の搬送や状況確認へと移る中、上空から二機のRVが降下してくる。

 

「皆さん大丈夫でしたか!?」

「死傷者は!」

「あら、さっきは増援ありがとうね」

「死者は現状では確認されていない。重傷者は数名出たようだが………」

「よかった~~、何とか間に合った~」

 

 胸を撫で下ろす亜乃亜に、どりあと千冬が鋭い視線を向ける。

 

「それじゃあ、こちらから色々聞きたい事もあるのだけど、よろしいかしら?」

「構いません。元から私達は状況確認のために向かってましたし、答えられる限りは答えます」

「そうか、それと………」

 

 エリューがどこから説明すべきか考える中、千冬は上空を見る。

 今だそこにいる、黒と白の人影を。

 

 

 

「戦闘行動終了を確認」

「あ、あの!」

 

 漆黒の少女が帰投しようとするのを、エグゼリカが呼び止める。

 

「私達が到着する前の増援、ありがとうございます。私は…」

「《TH60 EXELICA》、地球に漂着した三機のトリガーハートの内の一機」

 

 漆黒の少女が、まだ説明もしていないこちらの状況を知っている事に、エグゼリカは驚く。

 

「どうしてそれを………」

「私は戦闘妖精《FRX―00 メイヴ》」

 

 漆黒の少女、メイヴは簡潔に名乗ると、そのまま身を翻す。

 

「待ってください! 他にも聞きたい事が…」

「気をつけろ。JAMの攻撃は、これからが本番だ」

 

 それだけ言うと、メイブは一気に加速し、慌ててエグゼリカは跡を追うがすぐに転移して姿を消してしまう。

 

「JAM、それが敵の名前………」

 

 新たに得た、だがあまりに少ない情報にエグゼリカはどう皆に説明すべきか考えつつ、地上へと降下を開始した。

 

 

 

「箒、大丈夫か?」

「紅椿が持ってくれたから、大した事は無い。だが彼女が………」

「………あの鎮痛剤、何入ってた? なんかほとんど痛くないんだが」

「絶対ヤバいの入ってるのだ」

「切れる前に、ちゃんとした治療を…」

「あ~~!!」

 

 ねじるを医務室に運ぼうかとする一夏と箒だったが、そこで突然どりすが大声を上げて立ち上がる。

 

「な、何だ!?」

「試合! 試合どうなったの!?」

「………は?」

 

 声を荒げるどりすに、一夏と箒は目が点になる。

 

「お前、この状況でまだそんな事言ってんのか………」

「だって、この試合で全体の勝敗決まるんだよ!?」

 

 ねじるも呆れる中、どりすはそれでもまだ勝敗を気にしていた。

 

『え~、ドリルプリンセスが試合結果を気にしてますが、パンツァーリーグ正式ルールだと、試合中に何らかの災害、もしくは完全な第三者の乱入などで試合続行不可能になった場合、その試合は無効試合になります』

「そんなああぁぁ………」

「まだやる気だったのかよ………」

「タフなプリンセスだね………」

「私はこれ以上やれんぞ、絢爛舞踏も切れたし」

 

 つばさの説明に完全に力を落とし、再度崩れ落ちるどりすに、他の三人は心底呆れ返る。

 

「救援が来たのだ!」

「こっち! 要緊急の負傷者いるよ!」

 

 闘技場内に入ってきた保険委員に、マオチャオとツガルが手を振って知らせていた………

 

 

 

「疲れた………」

「そうだね………」

 

 あの後、治療だの状況確認や設備の応急処置だのに駆り出され、すっかり疲れ果てた一夏はツガルを肩に載せたまま、寮の自室へと向かっていた。

 

「一度にあれこれ起こりすぎて、訳分からないし」

「ま、いきなりパラレルワールドなんて言わてれてもそりゃ信じられないよね」

「もう考えるのは後にして、寝よう寝よう」

「そうしよ。私もそうする」

 

 何とか自分と同じように壁に埋まっていたクレイドルを掘り出してもらったツガルも、エネルギーが切れそうなので休眠を最優先させる事にした。

 

 

 

「疲れたぁ~」

「色々あったからね~………」

「本当なのだ………」

 

 疲れきったどりすにルームメイトのつばさとどりすの肩に乗ったマオチャオも同意する。

 

「ねじるは大丈夫かな~」

「IS学園側の大病院並の医療設備で処置したし、しばらく安静にしてたら大丈夫だって。こっちのより設備良かったし」

「何なら治癒専門の人員も数日以内に呼べるのだ」

「ねじる治してくれるなら、なんだっていいよ。お姉さま、明日も朝練はいつも通りって言ってたし」

「私も明日は早く起きて号外まとめないと」

「取り敢えず後にするのだ。寝ないととても活動できそうにないのだ………」

 

 三者三様で疲労感を覚える中、寮の自室のドアを開けようとした時、ある事に気付く。

 

「ん?」

「あれ?」

 

 互いに隣のドアの前にいる一夏とどりすは、ワンテンポ遅れてその事に気付いた。

 

「あ~~!? 何であんたがここにいるの!?」

「何でって、ここオレの部屋なんだけど………」

「あの、こっちは私達の部屋なんですけど………」

 

 一夏を指差すどりすに、一夏は戸惑って説明するが、つばさの説明に一瞬思考が停止する。

 

「お隣さんなのだマスター」

「お隣さんだねマスター」

『ええ~~!?』

 

 武装神姫の説明に、この日最後の絶叫が寮内に木霊した………

 


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