第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP19

 

「何か賑やかだな」

「なんでも、マグロの解体ショーやってるそうですよ?」

「どうしてそうなった?」

「いっぱい捕れたそうで」

「いきなり随分な課外授業からになってしまったな。通常授業との兼ね合いも調整しておかないと」

 

 学園の一室で、窓の外に目をやった千冬にどりあが聞いたばかりの情報を教えてやる。

 

「夕飯はマグロか。豪勢になりそうだな」

「そうですわね」

「う~ん、どうせならお寿司にでもしたい所ですね」

「捌くだけでも大分苦労してましたけれど」

 

 微笑む二人に、その前にいる生徒二人も思わず吊られて笑う。

 

「ともあれ、調査終わりました」

「半分は予想通り、もう半分は予想以上でした」

 

 千冬とどりあに頼まれ、ある事を調べていた盾無とサイコが、そのリストを渡す。

 

「IS学園で現在ここにいるのは、生徒と教師、それとラウラさんの部下の黒ウサギ隊。全員IS適合者です。後は篠ノ之博士ですね」

「東方帝都学園の方は半数はパンツァー能力者。問題はもう半分です」

 

 サイコがリストの詳細を手持ちの端末に表示させていく。

 

「非パンツァー能力者の生徒はやはりパンツァー能力者に何らかの関係のある者達ばかりです。ルームメイト、友人、整備調整などで関係のあるバックアップ要員、そしてパンツァー能力者を姉妹に持つ生徒」

「あまりに露骨だな。つまり、関係者だけをサルベージしてここに集めたという事か?」

「どうやら、そのようです」

「なるほどね。試合の時から薄々気付いていたのだけれど、やはり顔見知りだけって事」

「でも、どうしてそこまで………」

「前例があります」

 

 そこで室内で学園の各種データをチェックしていたエグゼリカが有る事を口にする。

 

「追浜基地で起きた転移現象は、その時にソニックダイバー隊のラストフライトという事もあり、多数の軍高官やマスコミ関係者も訪れていたそうです。しかし、この世界の東京に転移されたのは前回の戦いに参加していた者達と、ソニックダイバー適応者だけでした」

「つまり、敵は確実に狙いを定めてきていると?」

「けど、どうしてパンツァーの人達だけでなく、その関係者まで? バックアップ要員なら分かるけど、そうでない人も多いんでしょう?」

「はい、分かりやすい例を言えば、実況をしていた天野さんはどりすさんのルームメイトという以外、パンツァーとは何の関係もありません」

「そう言えばそうね………」

 

 エグゼリカの説明に、どりあと盾無は首を傾げるが、サイコの説明にさらに疑問は深まる。

 

「敵の意図が不明です。東京やその他の都市ではわざと戦力を増やしてから交戦状態にさせたかと思えば、こちらでは非戦闘員を増やしたり、戦術的に意味があるとは………」

「おそらく、これは戦術ではない。あくまで仮説だが、敵、JAMと言ったか。あいつらには最悪、戦闘をしているという感覚すらない可能性がある」

「確かに、前回の戦闘は明らかにこちらの戦力を図っていた節があったわね」

「そして、その中でも一番の性能を誇った紅椿に最終的に狙いを定めた」

「だとしたら、辻褄は合いますね………」

 

 皆の意見が一応の一致を見た所で、千冬は重い溜息を吐き出す。

 

「どちらにしろ、ISの修理が終わるまでこちらは動けん。紅椿と白式はもう終わったらしいが」

「こちらはもっと深刻ね。ブリッドの在庫をかき集めているのだけれど、どれくらい残っているのやら………」

「ISって、ちゃんと修理してから動かさないと、勝手に回路がバイパス作ったりしてまずいのよね………」

「ブリットは単価が少し高いので、試合の前でも無ければ、在庫を抱えている人は少ないかと………」

「増援をもっと呼んでおきますか? ただ、一度に運べる人員にも限度があって………」

「いや、あれだけの戦力を用意して撤退したという事は、向こうも無限に戦力があるわけではないのだろう」

「すぐに次が来る、という事は無いと見ていいわね」

 

 エグゼリカの提案を、千冬とどりあがある確信を持って断る。

 

「それはそうかもしれませんが、別の世界で戦力をかき集めているという情報も………」

「節操が無い事だ」

「全く」

 

 エグゼリカの懸念を千冬とどりあは苦笑で返す。

 

「まあ、何かあってもこのお二人がいればなんとか………」

「………そうですわね」

 

 間違いなく学園内で最強の二人に、盾無とサイコも苦笑するしかなかった。

 

 

 

「魚とりに土木工事か、外は賑やかで楽しそうだな」

「ダメだよお姉ちゃん。一番の重傷なんだからね」

 

 病室の窓から、外の様子を眺めていたねじるにたしなめる声が掛けられる。

ねじるの居るベッドの脇で療養の為の服などを準備していたねじるに似た幼い少女、ねじるの妹ねじりが心配げな顔でねじるを見ていた。

 

「分かってるよ。この足じゃ寝てるしかできねぇ」

 

 ねじるの不貞腐れた声に、ねじりは包帯で巻かれている足に視線を向ける。

 

「IS学園の医療技術ってすげーな。こんだけの怪我が半月かからずに治るってよ」

 

 その視線にバツが悪くなったねじるが、既に聞いていたであろう治療経過を再度話すが、ねじりの心配げな表情は晴れる事は無かった。

 

「1週間は家族以外面会謝絶だって言われてるからね」

「んげ、マジか。ますます暇じゃねーか」

 

 そんなねじるに何かを思い出したねじりが、持ってきていた荷物から何かを取り出す。

 

「これ、壊された控室の中から見つかったって預かってきてたんだよ。校内の連絡体制確立の為に、校内の相互連絡だったらメールも電話も出来るって。特別に持ってていいってさ」

 

 取りだした物、ねじるの携帯電話を受け取ったねじるは試合前に切ったままだった電源を入れてみる。

 

「つってもオレなんかに連絡するやつなんか…」

 

 その言葉は起動と同時に鳴りまくるメール着信音に途切れる。

 

「そういやIS学園の生徒会長の妹さんだって人が、パンツァーのランカー上位者とIS学園の専用機持ちだっけか、の人たちの相互連絡体勢取りたいからって言われたから、お姉ちゃんのメルアド教えておいたよ」

「うわああ! 何だこの数!」

 

 慌てて携帯電話を確認してみると、見慣れない相手からのメールが多数来ていた。

 

「パンツァーのランカー連中に、これ篠ノ之箒と織斑一夏って、あの試合の時のか。更識楯無って、あの危ない注射を持ってたやつに、おいおい、どりあ様からまで来てるぞ。どんだけオレのメルアド広がってんだよ!」

「ちゃんと返信しないとダメだよ~」

 

 軽いパニックになってるねじるに、ねじりはやっと浮かべた笑みで答える。

 

「どりすのやつ、『無事?』とか『体調は?』とか一言づつ別メールで送ってよこすんじゃねー!!」

 

 

 

「お~、こりゃ豪勢やな」

「奮発してみた」

 

 食堂にバイキング形式で並ぶ海鮮料理に、のぞみが思わず声を上げるのに、エプロン姿の箒は胸を張って見せる。

 

「使わなかった分はなんとか冷蔵庫に収まった」

「干物か燻製にしようかって話もあるし」

「何か、本格的にサバイバルになってきてる………」

 

 他の料理当番の生徒達があれこれ言うのを半ば呆れながら聞いていたつばさだったが、そこでどりすがトレーを手に首を傾げていた。

 

「パーティー?」

「あ~、バイキング初めてやったか」

「お皿に好きなの取ってくの。食べられる分だけにしなさい」

「ふ~ん、そうなんだ」

「ご主人様、後ろつかえてるのだ。早く早く」

 

 マオチャオに急かされつつ、どりすがあれこれ取っていく。

 

「なんか、本当にあの子お姫様って感じで世間知らずだよな………」

「余程大事に育てられたのでしょう。振る舞いもどこか気品がありますし」

「ただの我侭なお子様にしか見えないんだけど………」

「どっちかな~?」

 

 隣のテーブルに座ったどりす達を見ながら一夏が呟いたのを、両隣に座っていたセシリアと鈴音がそれぞれ持論を述べ、テーブルからドレッシングを一夏へと手渡しながらツガルが首を傾げる。

 

「育ちってのはあると思うよ。やっぱお姫様ともなると…」

 

 一夏の向かいでマグロのカルパッチョを食べていたシャルロットが何気にどりす達の方を見るが、そこで何かに気付いて動きが止まる。

 

「うん? どうしたシャルロット?」

「あれ………」

 

 シャルロットに促され、一夏達もそちらを見て凍りつく。

 そこには、皿の上の料理に大量のドレッシングを掛けているどりすの姿があった。

 

「うわあ………」

「………生まれが、なんだって?」

 

 シャルロットがドン引きし、鈴音が呆れるが、それを一口食べたどりすが、こんどはソースを掛け始める。

 

「え~と………」

「あの………」

 

 一夏とセシリアが二の句が告げなくなっている中、どりすは一口食べる度に皿の上に様々な調味料を掛けていく。

 

「あ、あの、プリンセスは味覚障害でもあるんでしょうか?」

「いや、それが………」

「これ、いつもの事なんや………」

 

 さすがに堪えきれなくなったセシリアが問うと、つばさとのぞみが恥ずかしそうにうつむく。

 

「その、この子箱入り過ぎてここに入学するまで、王宮料理しか食べた事なくって………」

「普通の料理が舌に合わないらしゅうて、どうにか出来ないかとやっとる内に………」

「あう………」

 

 二人が説明する中、どりすの前にはありったけの調味料が掛かった、カオスとしか言いようのない物が鎮座していた。

 

「………ご主人様、ただでさえ貴重な食料なのだ。これは………」

「私達にはよく分からないけど、人間の味覚の許容量超えてるんじゃ?」

 

 マオチャオとツガルも呆然とする中、どりすは味すら想像したくない皿を前に、ちょっぴり涙ぐむ。

 

「昨日何食ったんだ、その子?」

「どりあさんが有事用に王宮料理の缶詰用意してたとかで………」

「もっとも、そんな多くは用意しとらんようやけど」

 

 一夏の疑問につばさとのぞみが答える中、どりすの手は止まったままだった。

 

「どうすんのよそれ? いくら余裕が有るっていっても、一応今私達サバイバル中なのよ?」

「うう………」

「やっぱ、缶詰もらってこよか?」

「いや、でもなんとか食事は取らせないと………」

「この調子だと、プリンセスに調味料使い果たされそうなんだけど………」

「バウ!」

 

 しかめっ面のどりすの周りで皆が口々に言う中、最後に響いた鳴き声に皆が止まり、そちらを見る。

 

「バウバウ!」

「あ、チロ!」

 

 食堂の窓ガラスに張り付くようにしている寸止まりの犬に、どりすがカオスになった皿を手に駆け寄っていく。

 

「何ですの、あのブサ…気品に掛ける犬は?」

「プリンセスのペット?」

「いえ、我が校の敷地に住み着いている野良犬です。まさか来ていたとは」

 

 セシリアと鈴音の疑問に、遅れて食堂に来たサイコのあまりにアレな解答に更に続ける。

 

「見ての通り、餌さえもらえれば誰にでも尻尾を振って腹を見せる、どうしようもない駄犬です」

「駄犬って………」

「えと、間違ってないかも………」

 

 一夏が思わず口ごもるが、シャルロットはどりすが差し出したカオスを嬉々として貪るチロの姿に、苦笑するしかなかった。

 

「どりすさん、どりあ様からこれを」

「あ、王宮料理!」

 

 サイコが持ってきた缶詰を、どりすは瞬時に駆け寄って受け取り、嬉々として食べ始める。

 

「残り少ないんやなかったんか?」

「どりあ様から、最低限でも食事を取らせておくように、と。再度の敵襲に備えられるだけの体力は維持しておく必要があるとか」

「………どりあさんは次があるって判断しているのね」

「………千冬姉も似たような事言ってたな」

「なら、食って力つけとくのが大事やな」

「そうね、とっとと食べちゃお」

「あ、これおいし~」

 

 一抹の不安を感じつつ、皆が食事を進める。

 来るべき敵の再来に備えるために。

 

 

 

「おかしいわね」

「確かに」

 

 コンゴウによって集められたデータを見た周王の呟きに、コンゴウも同意する。

 

「周辺海域に、深海棲艦らしき存在が全く確認出来ないなんて………」

「撃沈されたと思わしき艦艇も確認出来ない。もっとも一般船が通る航路から離れているらしいのも確かだが」

「他の場所で起きた転移に比べて、あまりに小さすぎる? ひょっとして、私達の転移は偶発的だった?」

「分からん。データが少なすぎる」

「エグゼリカさんが接触した戦闘妖精を名乗る子だったら、何か知っていたのかもしれないけれど」

「もし見かけたら探ってみよう」

「それ、ハッキングって言うのよ。知ってる?」

「初めて聞く言葉だ」

「博士~、コンゴウさ~ん」

「ご飯ですよ~」

「今行くわ」

 

 懸念していた深海棲艦の被害が全く無い事に、周王は疑問を抱きつつも新設された食堂へと向かう。

 

「お皿取ってお皿!」

「お箸足りない~」

「はい並べて」

 

 食堂では艦娘達が姦しく料理を並べ、サーニャが作ったオラーシャ料理が中心となった食事が用意される。

 

「毎度悪いわね」

「いえ、構いません」

「こんだけ面子いテ、料理出来るのサーニャ一人だけだシな………」

「今度芳佳ちゃんから教わった扶桑料理も作ってみます」

「私も料理はちょっと………」

 

 サーニャは微笑するが、実際に調理を一人に頼っている実情にエイラは呆れ、吹雪も言葉を濁す。

 

「私達だって手伝ってるわ!」

「簡単な事だけだけど」

「サーニャさんが色々教えてくれるのです」

「洗い物だってしてるし!」

「皿割ってモ、コンゴウが作ってくれるしな」

「ぶ~」

 

 第六駆逐隊も騒ぐ中、何かと騒がしい食事風景をコンゴウはじっと見つめながら食事を進める。

 

「騒がしいのは苦手?」

「少しな。毎回よくもこれだけ…」

 

 周王が聞いてきた事に答えていたコンゴウの手がふいに止まり、同時にサーニャの頭に使い魔の耳と魔導針が現れる。

 

「時空歪曲反応だ」

「何かが来た」

「敵襲!?」

「いや、小さすぎる」

「これは………」

 

 艦娘達が慌ててパンやスプーン片手に甲板に駆け上がり、そこに虚空に小さな渦が有るのに気付く。

 

「あれは………」

「あ」

 

 遅れて登ってきたサーニャとエイラが、それが何かに気付く。

 そしてその小さな渦から小さな人影が出てくる。

 

「やっぱりカ」

「これは………」

「次元転移反応を確認、指定条件に一致。私は武装神姫・カブト型MMSランサメント。今からあなたが私のオーナーだ」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 吹雪の前に立った朱色のアーマーとホーンを持つ武装神姫、ランサメントに吹雪は思わずお辞儀する。

 

「随分と物々しい妖精さんね」

「これは武装神姫っテ奴だ。小っさいけど、役に立つゾ」

「これが?」

「確かにちっちゃい艤装が付いてるのです」

「う~ん」

「見た目では判断しない方がいい」

 

 半信半疑の艦娘達だったが、そこにコンゴウが甲板に姿を見せる。

 

「何を積んでいるのか知らないが、そのサイズではあり得ないエネルギー数値だ。推測出来る戦闘力はお前達より上かもしれん」

「そうなんですか?」

「そちらもね。メンタルモデル、だったっけ?」

「はいはい、話は食事してからにしましょう」

 

 互いを警戒しているらしいコンゴウとランサメントを、最後に甲板にきた周王がたしなめて皆で食堂へと戻っていく。

 

「そうそう、私の姉妹機が別の艦娘の人達の所に派遣されたよ」

「姉妹機?」

 

 

 

「次元転移反応を確認、指定条件一致………ヤーは武装神姫、クワガタ型MMSエスパディア。今から貴女がヤーのオーナー………」

「………時間考えてほしいデ~ス」

 

 深夜と言うしか無い時間、巴里華撃団が用意してくれた仮眠室で寝ていた金剛の枕元に現われた蒼色のアーマーとダブルホーンを持つ武装神姫に、金剛は目をこすりつつボヤく。

 

「ただでさえ、パラレルワールドとか未来世界とか、色々有りすぎて疲れてま~す」

「イズイニッチェ、姉妹機と同時に派遣されたので………」

「シスター? いるですか?」

「ダー、ヤーは二体同時運用を想定されているMMS。姉妹機はもう片方の艦娘の所に」

「それと、私はロシア語わかりまセ~ン」

「………」

 

 時たまエスパディアに交じる言葉がロシア語らしいのは理解出来るが、意味が分からない金剛が眠そうな目を更に胡乱にする。

 

「とにかく、詳しい事は明日の朝デ~ス」

「ダー、オーナー」

 

 それだけ言うと金剛は再度横になる。

 翌日、枕と共に潰されそうになっているのを堪えているエスパディアが他の艦娘達によって発見された。

 

 

 

「………何してるんだ加山」

「よお大神、見れば分かるだろう?」

 

 帝国劇場の前に有った土産物の出店を買い占める勢いの加山に、大神は唖然とする。

 

「初対面、しか女性ばかりの所だそうだからな。ちゃんと手土産用意してかないと、失礼だろう? この帝劇提灯なんてどうだと思う?」

「今連絡が有って、遅れてた物資の搬入がようやく終わりそうだから、一時間後に出港だそうだぞ」

「おっと、それはいけない。じゃあそれとこれも。朝早くから申し訳なかったね。お釣りは取っといてくれよ」

「毎度~」

 

 出店の若い女店主がほくほく顔で会計をしていく。

 山のような手土産を用意しておいた車に加山は次々と詰め込み、大神も呆れながら手伝う。

 

「じゃあしばらく留守にするから、帝都を頼む」

「ああ、そちらの方はお前に任せよう」

「ま、何とかやってみるさ。あちらは戦力になりそうだからな」

 

 気軽に言う加山を苦笑しながら、大神はその場を離れる。

 

「………それじゃあしばらく頼むよ、盾無君」

「はい隊長」

 

 車に乗り込む前に、出店の女店主、そして月組隊員の一人に密かに声をかけると、加山は車を発進させた。

 

 

 

「艦長、予定より二時間弱遅れましたが、搬送資材及び同行人員揃いました。出港可能です」

「いや、予定外がまだいるんじゃね?」

 

 ブリッジでの僧の報告に、杏平が突っ込みを入れる。

 

「出発だそうよ、アイリス。もう戻らないと」

 

 見学がてら見送りに来たアイリスと付き添いで来ていたさくらが、別れを惜しんでいる二人に声を掛ける。

 

「うん分かった。それじゃ蒔絵、少しの間、お別れだね」

「大丈夫、ちょっとの間だけだから。またアイリス達に会いに戻ってくるよ」

「本当だよ、ジャンポールもヨタロウに会えなくて寂しがるからね」

「私は別に…モガッ!?」

 

 アイリスと蒔絵のやり取りにいらぬ返事をしようとしたキリシマをハルナが手で抑えて黙らせる。

 

「それでは皆さん、ギリギリまで申し訳ありませんでした。良い航海を」

「じゃあ又ね」

「うん又ね」

 

 桜がブリッジ内の皆に頭を下げ、アイリスが別れの挨拶を交わした後、その姿が忽然と消える。

 

「本当に瞬間移動できるんですね~。びっくりです」

 

 その様子をぽかんとした様子で見ていた静が呆然と呟く。

 

「先程の二名、桟橋に移動確認。艦内準備完了です」

「了解だ。イオナ」

「ん」

 

 群像の問いかけにイオナは頷いてみせる。

それを見やった群像は視線を真っ直ぐに前へと向ける。

 

「出港する」

「出港~」

 

 群像の号令に続いて、イオナが艦体を動かす。

 

『いってらっしゃ~い』

『気をつけてね~』

 

 大勢の見送りが手を振る中、401は徐々に速度を上げていく。

 

「潜行可能になるまで、現状速度を維持。潜行可能になったらすぐに潜行、原速で進む」

「分かった」

「各種ソナーセンサー、警戒を怠るな。外海に敵がいないとも限らん」

「了解です艦長」

「弾薬類の残弾が少ないのが懸念事項ですね」

「いざとなったら、逃げるしかねえぞ。超重力砲も壊れたまんまだからな」

「我々の目的は、あの学園に赴き現状を視察、今後を検討する事だ。無駄な戦いは避けるべきだろう」

 

 ブリッジ内で群像の指示の元、クルー達があれこれ動く中、嶋がブリッジに現れる。

 

「ではそうさせてもらいます」

「階級はともかく、この船の責任者は君だ。運行は任せる」

「中退の士官候補生ですけどね」

「そう言えばそうだったな。中退から潜水艦の艦長とは随分と急な出世だが」

「色々有ったんですよ、現在進行形ですが」

「それはこちらもだがな。本来なら完全退役のはずだったんだが………」

 

 途中から群像に代わって僧が答える中、嶋も少し表情を曇らせる。

 

「今回の件が片付くまで、弱音を吐くわけにはいかん。ましてや、影響が更に広がる可能性も出てきている」

「まずは早い所物資を届けないといけませんね」

「転送装置とやらがきちんと起動すればいいのだが………」

 

 ブリッジ内で色々な不安が論議されている頃………

 

 

「意外と中は広いな。元の400型とは丸で違う」

「………オリジナル知ってるんスか?」

「ああ、まだ試験航海中だったが乗った事がある」

「これがマジのジェネレーションギャップって奴か………」

 

 美緒が繁々と艦内を見て回るのを案内していた杏平が、美緒の実体験の話に驚く。

 

「正確にはパラレルギャップですけど。案外、船だけじゃないパラレル存在が結構いる可能性も」

「そうだな」

「つまり、オレのそっくりさんがいるかもしれないって事?」

「先祖か子孫かもしれんぞ。香坂 エリカは実は前の私の部下の子孫に当たるらしい」

「パラレルですけどね」

 

 アーンヴァルと美緒の説明に、杏平は今一納得しきれないのか、首を傾げる。

 

「そういや、そっちの401ってやっぱ普通の潜水艦?」

「いや、ウィッチの水中母艦として設計されていた。我々が戦っていたネウロイは何故か水が苦手でな。潜水艦からのウィッチ強襲案が進んでいた。実際、一度行った事も有る」

「それって、カタパルトからスクランブルって奴?」

「いや、ストライカー用発射筒で水中から撃ち出した」

「マスター、それってICBMみたいにですか?」

「………ウィッチってすげえ」

「そちらもやっていただろう」

「いやあれはウチの艦長がメンタルモデルなら大丈夫だろうって事で………生身だとさすがに………」

「生憎こちらもやったのは私ではないがな」

 

 そう言いながら豪快に笑う美緒に、杏平は何かもっととんでもない事をやったんじゃないか? という疑問を感じずにはいられなかった。

 

 

「う~ん………」

「どうしてこの男は出港してすぐに体調が悪化したんだ?」

「船酔いって言うんだよ、ハルハル」

「船酔い、船の動揺によって内耳にある三半規管が刺激されることで起こる身体の諸症状」

「こいつも元は水上艦の乗員だと聞いたが」

「いや~、実は前もやってんだよね~」

「情けな~い。あ、これじゃない?」

 

 出港してすぐに医務室送りになった僚平に、ハルナとキリシマが首を傾げ、蒔絵が説明する中、音羽が頬をかきながらヴァローナと共に薬を探す。

 

「有った酔い止め」

「お水お水」

「お、わりいな………」

 

 青い顔をして薬と水を受け取った僚平がそれを一気に飲み干す。

 

「くそ、潜水艦は別口なのか………?」

「攻龍の時も慣れたから、すぐに慣れるって」

「そうだよ」

「ああ、そうだな………」

「本当に大丈夫なのかこれで? 人間とはすぐにシステムを改変出来るわけではないはずだが」

「便利な体してんな、あんたら………」

「う~ん、私もご飯の時お薬飲まないとダメだからな~」

 

 そう言いながら、蒔絵は普段から持ち歩いているポシェットから持ち歩いてるタブレットケースを見せる。

 

「え? 何か病気でも?」

「あのね、胃が弱いからこれ飲まなきゃダメなの」

「天才少女も大変なんだね~」

 

 音羽と僚平は以外な蒔絵の急所に驚くが、ヴァローナだけは別の事を考えていた。

 

(アレって、消化酵素剤? あんなに?)

 

 些細な疑問の真相を知るのは、しばらく経ってからの事だった。

 

 

「う~ん、意外と快適だね~」

「まだ近海だからでしょう。遠洋だと海流で揺れる事もあります」

「そっか、海中だからね。もっともすでに酔ってる人もいたけど」

 

 あてがわれた自室で学園に着いてからの事について打ち合わせてしていた加山とミサキが、ふと乗り心地を口にする。

 

「それと加山隊長」

「何かなミサキ君」

「これはどうにかした方が………」

 

 ミサキはちらりと、部屋の隅に山盛りになっている手土産に視線を移す。

 

「いやあ、何が喜んでくれるか迷ってたらそうなってね~。欲しいのあったら持っていってもいいよ?」

「いえ、結構です」

「遠慮せずに。紐育のオレの店じゃどれも人気商品だよ?」

「そう言えば、表の顔は貿易商でしたね」

「そうだ、その転移装置とやらが上手くいったら、あの学園にも店を出してみるってのはどうだい?」

「………通貨の問題があると思います」

「う~ん、両替が必要か~」

 

 こうやって話していても、今一人格が掴みきれない加山に、ミサキは内心相手を図り損ねていた。

 

(各華撃団を繋ぐ情報役、世界中に情報網を持っているとも聞いたけど、得体がしれないわね………)

「あ、一応言っておくけど、余計な手土産は追加しないでくれるかな?」

 

 突然の加山の指摘に、ミサキは驚愕をなんとか態度に出さないように押しとどめる。

 

「何の事でしょうか?」

「はっはっは、言ってみただけだよ」

 

 加山は笑いながらも、ミサキの手が懐から戻されるのに気付いていた。

 ミサキも、こっそり手土産に仕掛けようとしていたマイクロ盗聴器の設置を断念する事にしていた。

 

(前言撤回、とんでもない切れ者………)

(やっぱり何かしようとしてたか。どうやら油断出来ない子だね)

 

 互いに相手を探りながら、打ち合わせは続いた………

 

 

 

「クーちゃん、ご飯持ってきたよ~」

「束様、食事くらい自分で用意出来ますが………」

「新鮮だよ、食べないともったいないからさ」

 

 学園融合のどさくさに出来た空間に秘密裏に作った自室に、束は夜食と称して持ってきたシーフードメニューをクロエへと手渡す。

 

「いや~、思ってたよりも動きが早いね。視察団が遅くても一週間以内に来るらしいよ?」

「存じてます。軍の将校クラスが団長とか」

「どうやら、ここを値踏みする気満々だね。私のISを見てどう評価するかな~」

「紅椿や白式が決して劣っているとは思いませんが、トリガーハートやRVを見ると………」

 

 手渡された食事に手を伸ばしつつ、クロエは集めた先程の戦闘データを思い出していた。

 

「頃合い的にはちょうどいいんじゃないかな? 次の敵襲もその頃だろうし」

 

 束の一言に、クロエの手が止まる。

 

「何か、根拠が?」

「ん~? その頃には他のISの修理も終わってるし、怪我人も重傷者以外は戦闘可能になってるだろうしね」

「襲撃するなら、むしろ体制が整っていない今では?」

「それじゃあ、正確なデータが取れないじゃない。私だったら、そうするね。データを完璧に取るには………」

 

 束の予測が正しい事を知るのは、視察団が到着した後の事だった………

 


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