第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP29

 

「司令! どうにか出来ないの!」

「無理だね」

 

 サニーサイドに詰め寄るジェミニだったが、サニーサイドは涼しい顔のまま斬り捨てる。

 

「落ち着きなさい。スターでもエイハブでもとてもたどり着けない距離よ」

「時間差無しで実況付きってのは、こういう時逆効果ね………」

 

 ラチェットもたしなめる中、圭子は冷静にリアルタイム送信されてくる戦況を凝視していた。

 

「落ち着いてください姫。現状では、私達が増援に向かう事は不可能です」

「移動手段が無い。この隊の装備は、あくまで拠点防衛用と聞いている」

「そういう事」

 

 フブキとサイフォスの説明に、サニーサイドが笑みと共に締める。

 

「分かってるはずだジェミニ。紐育華撃団はこの街を守るために作られた」

「つまりは、それ以外の事は想定していないという事ね」

 

 サジータが険しい顔で告げるのを、マルセイユが補足する。

 

「大型輸送艇でも数日掛かる距離ですしね………」

「あの白くてすごい速い飛行船があれば何とかなったかもしれませんが………」

 

 真美とダイアナが沈痛な顔をするが、何も出来ないという事実は変わりようが無かった。

 

「司令、ボク達に出来る事は………」

「それは一つあるね」

「見ておく事よ、細分漏らさず」

 

 新次郎の問いにサニーサイドと圭子が同時に答える。

 

「見る? ただ見るだけ?」

「ああそうだよ。それが大事だ」

「次にアレと戦うのは、私達かもしれないのだからね………」

 

 ジェミニが思わず問い返すが、その返答に思わず唾を飲み込む。

 

「よく見ておくといい。ボク達の新たな敵をね………」

 

 

 

(!!)

 

 一心不乱に舞い続ける箒の背を、突然凄まじい悪寒が走る。

 

「な、何だ!?」

 

 思わず舞が止まりそうになるが、それでも必死に舞い続ける。

 

「何だあいつは!」

「な、なんかヤバそう………」

 

 一夏とどりすもそれに気付き、恐怖を感じずにはいられなかった。

 それは、見た目は黒のワンピースを着た女性に見えたが、額には一対の角が生え、その背後には巨大な腕と巨大な顎、何より巨大な砲を持った艤装を携えている。

 そのあまりに対極過ぎる存在は、女性体のうなじから伸びた太いケーブルで繋がり、一体の物と化していた。

 

「エマージェンシー! 敵詳細が検知不可能!」

「何かものすごくヤバそうなのだ!」

「どうにか撤退!」

「敵が再活性化! 撤退を進言します!」

 

 武装神姫達も一斉に騒ぐ中、その異質な深海棲艦最強クラスの姫級、戦艦棲姫は笑みを浮かべながら、砲塔をこちらへと向ける。

 

「いけない!」

「箒!」

 

 その砲塔の狙う先が、紅椿だと気付いた音羽が声を上げ、一夏も大声で叫ぶ。

 

「オチナサイ………」

 

 戦艦棲姫が呟いた直後、轟音と共に砲弾が放たれる。

 

「くっ!」

 

 寸前で箒は舞を中断、紅椿を急上昇させてかろうじて砲弾をかわす。

 砲弾はそのまま弧を描いて海面へと落ちるが、そこで大爆発を起こす。

 

「これは………!」

「どういう砲弾使ってるの!?」

 

 箒は絶句し、音羽も愕然とする。

 だが戦艦棲姫は次弾を装填し、今度は音羽達へと狙いを付ける。

 

「まずい!」

「あんなの食らったら!」

「逃げて!」

「出来ないよオーニャー!」

 

 皆がどうにか音羽を連れて退避しようとするが、戦艦棲姫の砲塔が火を噴く前に、別の砲声が響く。

 

「すまん、遅れた!」

「ラウラ!」

「こいつは私が相手する! 火力なら負けん!」

 

 整備も半端な状態のシュヴァルツェア・レーゲンを駆り、ラウラがパンツァー・カノニーアを速射して戦艦棲姫へと攻撃をしかける。

 

「今の内に桜野曹長を!」

「分かった!」

「待って、ゼロを置いてけない!」

「そっちの赤いの! これ持って!」

「わか…」

 

 ラウラが時間を稼いでいる間に皆が退避しようとするが、そこに戦艦棲姫の砲撃が襲ってくる。

 

「この!」

「危ない!」

 

 とっさに一夏と箒が弾くが、狙いを逸れた砲弾の爆風が皆を大きく揺らす。

 

「さっきラウラが確かに直撃させたはず…!」

「効いてないよ!?」

 

 一夏が不審に思うが、その背でどりすが戦艦棲姫を指差す。

 その言葉通り、戦艦棲姫は直撃を食らったにもかかわらず、凄まじい速度で破損箇所が再生していた。

 

「馬鹿な! 対艦用の最大出力だぞ!」

『怯むなボーデヴィッヒ少佐! 間を置かず撃ち続けろ!』

「了解!」

 

 第三世代ISの中でも屈指の火力のシュヴァルツェア・レーゲンの最大火力が通じない事にラウラは思わず狼狽するが、そこに美緒の激が飛んで再度パンツァー・カノニーアを構える。

 

「シュヴァルツェア・レーゲンの火力が通じないとは、本物の化物か………!」

「周りのも動き始めた!」

「そっちはこちらで何とか!」

 

 すさまじい砲撃戦の応酬の中、箒が最早神楽での足止めは不可能と判断して降下し、どりすが向かってくる深海棲艦を指差す中、一夏は応戦すべく、雪片弐型を構える。

 

「! 二時方向、水中から二体!」

「撃ってきた!」

「そこか!」

 

 まだセンサー系は生きている零神からの反応に音羽が叫び、ヴァローナがそこから伸びてくる魚雷の航跡に仰天するが、箒が空割から投射したエネルギー刃でかろうじて迎撃する。

 

「まずいぞ! 紅椿にも白式にも水中用の武装なんて無い!」

「こっちもだよ!」

「ゼロにも………」

 

 箒が魚雷の発射元を探るが、潜水したのか相手を見つけられず、どりすも音羽も完全に手を出しあぐねていた。

 

「うあっ!」

「ラウラ!」

 

 そこで、互角の砲撃戦をしていたと思われたシュヴァルツェア・レーゲンが弾き飛ばされ、海面に叩きつけられる前に何とか体勢を立て直す。

 

「AIC(慣性停止結界)で防ぎきれないだと………この砲撃は一体何だ!?」

 

 一対一なら絶対的とも言えるシュヴァルツェア・レーゲンの防御システムを超える戦艦棲姫の攻撃に、ラウラは困惑しつつも再度戦艦棲姫をFCSに捉える。

 

「ダメだ………ISじゃ、こいつらに勝てない………」

「マスター! また魚雷が!」

 

 認めたくない現実に、一夏が奥歯を噛みしめるが、ツガルの警告に慌てて雪羅の荷電粒子砲で迎撃する。

 

「坂本少佐! 敵の火力は予想以上、水中からの攻撃に対処出来ません! どうすれば!」

『防戦に徹しろ! 誰か手の空いている者は…』

『ここにある』

 

 美緒に何か指示を仰ごうとした音羽だったが、突然そこに何者かの通信が割り込んでくる。

 

「マスター! 敵の動きが変化! 陣形を組み直している模様!」

「まさか、これは………」

 

 アーンヴァルとヴァローナが指摘した通り、深海棲艦は突然攻撃を停止したかと思うと、陣形を弧を描くようにして零神に向けて包囲をしく。

 

「まずい、一斉砲撃だ! 機体を破棄して逃げろ!」

「そんな! ゼロを見捨てるなんて出来ないよ!」

 

 相手の意図に気付いたラウラが叫ぶが、音羽は思わず叫び返す。

 

「それに、もう間に合わない………」

 

 完全に包囲を悟った箒が、とっさに零神の前に出て防御システムを最大出力にする。

 

「箒!」

「紅椿で何とか受け止める! その内に…」

「無茶だよ!」

「まず…!」

 

 箒の無謀な試みを皆が止めようとするが、深海棲艦達は一斉に狙いを定める。

 だが、一斉に放たれるはずの攻撃は、予想外の事に中断された。

 突如として彼方から放たれたビーム砲撃が、深海棲艦達を軒並み飲み込んでいく。

 

『え?』

 

 その場にいた全員が思わず声を上げるが、直後にビーム砲撃で海面が蒸発して生じた水蒸気爆発に思わず身構える。

 

「な、何が起きたの!?」

「今の攻撃は………」

「なんて威力だ………」

「あれ!」

 

 音羽が降り注ぐ海水と荒れ狂う海面に面食らい、箒と一夏が唖然とする中、どりすがある場所を指差す。

 遥か遠くの海上、そこに小さな影が有ったがそれが凄まじい速度でこちらに向かってくる。

 

「増援か! だがあれは………」

「何か、デカいんだけど………」

 

 ISのセンサーでいち早く砲撃の主を突き止めたラウラが声を上げるが、一夏もその相手を突き止め、更に唖然とする。

 

「な、戦艦!?」

「すごいの来ちゃった………」

 

 目視で確認出来る距離で相手は停止、それでもなお分かる巨体に、箒とどりすは絶句する。

 そして、その戦艦の甲板から何かが次々と発射され、それは海面に降りると一直線にこちらに向かってくる。

 

「お待たせしました! 特型駆逐艦吹雪、これより加勢します!」

「第六駆逐隊、参戦よ! うっぷ………」

 

 先頭を走る吹雪に、少し顔色の悪い第六駆逐隊も続く。

 

「ちょっと頭がクラクラする」

「お昼が戻ってきそう………」

「我慢するのです!」

 

 フルバーストモードの超加速に少し酔った第六駆逐隊だったが、海面を疾走しながら陣形を整える。

 

「オーナー! 今の内に!」

「単縦陣! 敵照準、撃て~!」

 

 ビーム砲撃を食らった深海棲艦達が体勢を立て直そうとするのを吹雪の肩にいるランサメントが指摘し、吹雪達が一斉に砲撃を開始。

 さすがにすぐには再生できないレベルのダメージに艦娘達の砲撃が直撃し、深海棲艦達は次々と絶叫を上げながら崩壊していく。

 

「効いてるぞ!」

「理由は分からんが、今の内に…」

 

 明らかに自分達より威力が弱そうな艦娘達の攻撃が深海棲艦に効いている事を確認した一夏は歓声を上げ、箒は撤退しようとする。

 

「動くナ!」

「危ない」

 

 そこへ上空から声がかかり、飛来した銃弾とロケット弾が、水中から襲いかかろうとしていた潜水ヨ級を貫く。

 

「他にも増援が…」

「エイラさん! サーニャちゃん!」

「よ、桜野久しぶり」

「今助けるから」

 

 箒が自分達の上にいるストライカーユニットを履いた二人のウィッチに気付き、音羽は思わず声を上げる。

 

「足にプロペラ付けてる………」

「あれがウィッチのストライカーユニットって奴」

「坂本少佐もあれ使ってたんですか?」

「そっか、プロペラつければいいのか」

 

 初めて見るウィッチの姿に、一夏と箒が唖然とし、どりすは何か妙な事を思いつくが、エイラとサーニャは素早く音羽の救助作業に入る。

 

「コンゴウ! こっちは大丈夫ダ!」

「そっちお願い」

『心得た』

「お前達はそっち持ってコンゴウまで退避だ!」

「分かった!」

 

 エイラが音羽を抱え上げ、サーニャが護衛に着く中、箒は零神を引き上げる。

 そこへダメージを再生しつつあった戦艦棲姫が砲塔をそちらへと向けるが、そこに戦艦から発射されたロケット弾が降り注ぐ。

 

『どういう仕組みで再生するかは分からんが、お前の相手はこの霧の大戦艦 コンゴウがしてやろう』

 

 戦艦、コンゴウはその兵装の照準を戦艦棲姫へと定める。

 

『他にも敵はいるらしいな。出し惜しみは無しだ』

 

 コンゴウは舳先で小さく笑みを浮かべると、大型レーザーカノン、バーチカルランチャー、魚雷発射管を次々と展開、目の前のみならず、学園を包囲している深海棲艦を次々とロックする。

 

『大盤振る舞い、と言うのだったか』

 

 コンゴウの一言と共に、展開していた全兵装が発射。

 極太のレーザー砲撃が、放たれたロケット弾が、射出された魚雷がそれぞれのターゲットへと向けて解き放たれる。

 

「すげえ………」

「戦艦ってこんなに色々付いてるんだ………」

「って、待て! 皆を退避させたか!?」

「大丈夫、勧告済みよ」

 

 コンゴウの甲板に着艦しようとした一夏やどりすが、自分達の頭上を埋め尽くすあまりの火力に驚くが、箒が一番大事な事を叫び、それに答える声が有った。

 

「周王さん!」

「久しぶりね、桜野さん。とにかく、零神を中へ」

 

 甲板で出迎えた周王に音羽は声をかけるが、周王は挨拶もそこそこに、甲板に造られたハンガーエレベーターを起動させる。

 

「何だこの船………戦艦なのにこんな装備が?」

「こっちにはカタパルトも有るぞ」

「私が設計して彼女に造ってもらったのよ」

「あいつ、この船の構造を自在に変えられるンダ」

「この中なら大丈夫。私達は吹雪ちゃん達の増援に行く」

 

 かなりデタラメなコンゴウの兵装に箒と一夏が首を傾げるが、エイラとサーニャは音羽を下ろすと、再度戦場へと向かって行く。

 

「オレ達も行くぞ!」

「しかし、ISの攻撃では………」

「そっちで削って、こっちで倒せばいい! そうやってきた!」

 

 零神を格納した一夏が、ウィッチの後を追おうとし、箒はためらうが一夏の背でどりすはカイザードリルをかざしながら宣言する。

 それを見た箒は、未だに戦意を失っていない二人の姿に己も戦意を奮い立たせる。

 

『一夏! 何か水上を走っている者達と足にプロペラ付けた者達が来て、そいつらの攻撃は効いているが、牽制が必要だ! 早く来てくれ!』

「今行く!」

「残エネルギーは少ないけど、まだ行けます!」

「反撃開始なのだ!」

「マスター、増援部隊到着! これより共闘に入ります!」

「あ、私はオーニャーの護衛に残るね」

 

 武装神姫達もヴァローナを残して出撃するISに続く。

 

「周王さん! スプレッドブースとか作れません!?」

「さすがにすぐは無理よ。ソニックダイバーの母艦機能まで想定してなかったし」

「でも、皆戦ってるのに!」

「無理だよオーニャー、零神も結構ダメージ食らってるし………」

『無事だな音羽! しばらくそこにいろ! 零神はすぐには無理だ!』

 

 何とか再出撃出来ないかとする音羽だったが、周王のみならずヴァローナと僚平にも止められる。

 

「戦況データはリアルタイムで受け取っていた。お前は私達の到着まで十分に戦った。後は任せろ」

「………分かった」

 

 舳先にいたコンゴウにも言われ、音羽はうなだれながらも頷く。

 

「それに、他の増援ももう少しのようだ」

 

 そう言いながら、コンゴウは空を見上げていた。

 

 

 

コンゴウ到着より少し前 パリ

 

「リボルバーカノン、発射準備完了!」

「射出カプセル、準備完了してます!」

 

 メルとシーの報告が響く中、巴里華撃団本部の画面に、凱旋門地下に設置された巨大なリボルバー拳銃のような物がデッキアップした様子が映し出される。

 

『それじゃあ、座標と合わせてね!』

「了解です」

「グランマ、全準備完了です!」

 

 初弾のカプセル内から、フェインティアが確認をする中、グランマがリボルバーカノンの発射トリガーに手をかける。

 

「それじゃあ行くよ、リボルバーカノン、発射」

 

 グランマの指がトリガーを引くと、巨大な銃弾のような射出カプセルが遥か彼方へと発射されていった。

 当初の予定通り、日本の遥か上空、外気圏まで来た所でフェインティアはカプセルから飛び出す。

 

「クルエルティア、来てる?」

『ええ、予定通りに。座標確認を』

「確認したわ」

 

 カルナダインの姿と待機していたクルエルティアを確認したフェインティアだったが、そこに次の射出カプセルが迫ってくる。

 

「マイスター、では手筈通りに」

「クルエルティア!」

「ええ」

 

 肩口にいたムルメルティアの言葉通り、間近まで迫ってきたカプセルに、フェインティアはアンカー艦からアンカーを射出、カプセルをキャプチャーしてスイングバイでクルエルティアの方に放り投げる。

 

「こちらも!」

 

 投じられたカプセルをクルエルティアもアンカーでキャプチャー、それをスタンバイしていたカルナダインのトリガーハート用カタパルトへと誘導、セットする。

 

『射出カプセル、セット確認!』

『突入角度、突入速度、再計算』

『準備OK、発射します!』

 

 カタパルトのサイズを射出カプセルに合わせて変更させ、カルナとブレータが突入カプセルを学園方向へと向け、角度と速度を計算すると、カプセルをカタパルトから学園へと向けて発射する。

 

「次が来てるぞマイスター!」

「分かってるわよ! ガルクアード!」

 

 次のカプセルも同様にキャプチャーしながら、フェインティアは思わず苦笑する。

 

 

「まさか、アンカー使ってカプセルを軌道修正するなんてね」

「確かにこれなら、軌道調節も簡単に出来るし、カルナダインの出力なら再加速も十分」

「ちょっとカッコ悪い」

 

 カルナダインの艦内で、ジオール、マドカ、ティタが順調に再加速が進んでいくのを見ていた。

 

「これが終わったら、次は私達よ」

「最高速度での到達限界からの射出距離算出してるよ。カルナにも送ったから」

「急ぐ、亜乃亜とエリュー結構ピンチ」

『緊急連絡、緊急連絡』

 

 出撃準備を整える三人だったが、そこで突然オペレッタからの通信が入る。

 

『本部から緊急通達、増援を当該マルチバースに強制転移を決定。当該座標詳細を転送してください』

「増援? 本部から?」

 

 

「こんな原始的な方法、チルダでやったら笑い者ね」

「今は誰も笑わない、まずはあの学園を救う事が第一だ」

「そうね」

 

 肩で話しかけるムルメルティアに笑みを送りながら、フェインティアは次々と射出カプセルをアンカーで渡しながら、カルナダインにセット、発射を繰り返す。

 

「これで、最後!」

 

 最後のカプセルを渡し、それが無事発射された所でフェインティアはそれらが間違いなく学園へと向かっているのを確認する。

 

「じゃあフェインティア、私達も」

「悪いけど、先に行ってて。私はヤボ用ってのが有るから」

「………ええそうね」

 

 フェインティアが言うヤボ用が何かを悟ったクルエルティアは自分だけカルナダインに乗り込み、学園へと向かっていく。

 

「さて、ムルメルティア」

「分かっている。斥候を探すのだな」

「そういう事」

 

 この戦いを観察している者を探すため、フェインティアはセンサーを最大にしながら、大気と宇宙の間を飛行していった。

 

 

 

「突如として出現した謎の戦艦、それは霧の艦隊の大戦艦、コンゴウだそうです! そのすさまじい火力に、戦況は一変しました!」

「一変したのは確か、だが………」

 

 コンゴウの凄まじい支援攻撃につばさは鼻息も荒く実況するが、美緒は鋭い視線でモニターに映される戦況を確認していく。

 そこには、跡形もなく吹っ飛ぶかと思われる程の攻撃を喰らいながらも、なお再生している深海棲艦の姿が写っていた。

 

(ネウロイでもここまで厄介ではない。ウィッチの魔法力に類する力による攻撃ではないと、倒せないという事か? いや、それとも………)

『坂本少佐!』

「桜野、無事だったか?」

『はい! 私もゼロも大丈夫です! けど、再出撃は無理みたいです………』

「無理はするな、増援到着までの時間を稼げただけでも上出来だ」

 

 音羽からの申し訳無さそうな通信に美緒が返信している所で、周王からの通信も入ってくる。

 

『坂本少佐、そちらで戦況はモニターしている?』

「周王博士、そちらの残弾はどれくらい有る?」

『かなり余裕はあるわ。けど、効かないのなら意味は無いわね』

「気付いてたか」

『小規模だけど、深海棲艦とは前に一度交戦した事が有ったから』

『問題無い、友軍の退避を確認した。本命を使う』

「本命? そうかアレか………」

「はい?」

 

 周王との通信に割り込んできたコンゴウが言う本命が何か悟った美緒だったが、つばさは首を傾げる。

 

「総員、前線から完全退避! 巻き込まれたら、消し飛ぶぞ」

「あの、一体何を………」

「見ていれば分かる」

 

 美緒の警告につばさが何かイヤな予感を感じた時、コンゴウから新たなロケット弾と魚雷が発射される。

 若干形状が違うかと思ったそれらが深海棲艦へと炸裂した瞬間、爆風ではなく黒い渦のような者が発生し、その渦に巻き込まれた物を見境なく飲み込んでいく。

 

「こ、これは………」

「侵食弾頭というらしい。効果範囲全ての空間を侵食し、えぐりとばす。下手なシールドなぞ全く無意味の兵器だ」

「と、とんでもない物を出してきました! これって国際条例とかに違反してないんでしょうか!?」

『霧にそんな物は無い』

 

 つばさも侵食弾頭の凄まじい威力に思わず異論を唱えるが、聞いていたのかコンゴウから冷静な突っ込みが入る。

 

「戦果を確認! 侵食弾頭は効いているか!」

『こちらトロン! 魚型の消滅を確認!』

『こちらミサキ! 人形は倒しきれてないけど、効いてはいるわ!』

『侵食弾頭ですら耐えるのか!?』

 

 各所から報告が届くが、侵食弾頭ですら決定打にならない事に群像が驚愕する。

 

「予想はしていた。篠ノ之の最新型の攻撃が通じないという事は、物理的には倒す事は困難だろう」

「じゃあどうすればいいのでしょうか!?」

「コンゴウ、侵食弾頭の使用は極力控えろ。今パリからも艦娘達が向かっているそうだ」

『そうか』

 

 美緒の指示にコンゴウは一言だけ返すと、発射され続ける各兵装が少しだけ弱くなる。

 

「控えてこれとは、凄まじい火力です………」

「千早艦長、コンゴウに支援攻撃の詳細指示を。空羽、トロン、撃破可能な敵機を優先して撃破。ミサキは防衛線を突破しそうな敵機を優先!」

 

 美緒が矢継ぎ早に指示を出しながら、再度戦況を確認。

 そして、コンゴウの攻撃を真正面から受けながらも、平然と反撃している戦艦棲姫を見て唾を飲み込む。

 

「問題はこいつか」

「信じられません! 霧の大戦艦 コンゴウの攻撃を食らって、撃ち返しているとんでもない深海棲艦がいます! 果たして到着した艦娘と呼ばれる人達はこれを倒せるのでしょうか!?」

(恐らく、今の戦力では無理だろう………)

 

 つばさの実況が響く中、美緒はパリからの増援の到着を待つしかなかった。

 

 

 

「なんとも凄まじい………」

「401の兵装が可愛く思える程だ。だが………」

 

 コンゴウの支援攻撃の凄まじさを会議室で見ていた千冬と嶋だったが、それほどの攻撃を食らってもなお再生を続ける深海棲艦に、底知れぬ恐怖を感じずにはいられなかった。

 

「我々が戦っていたワームも苦戦させられたが、これはそれ以上だ」

「異質、と言うのが一番でしょう。最新型ISの数々にパンツァーや他の戦力を使用して、防衛線を張るのが精一杯とは、私の認識の範囲から逸脱している」

「同感だ。前回の戦いでも色々な物を見たが、今回はそれ以上に見る事になるだろう、これからも」

 

 嶋の言葉に、千冬が組んだ手を強く握り締める。

 

「まずは、ここを生き残る事。ここにいる者達全員で」

「その通りだ」

『高空から高速で落下してくる物体確認! シグナル確認、パリからの増援部隊です! 到着まで約50秒!』

 

 そこで静からの通信に、二人は僅かに表情を変える。

 

「対深海棲艦戦の専門家がもう直到着する」

「彼女達に任せるしかないようですね」

「この戦いをよく見ておくべきだろう。今後、我々がどうするべきかの、指標となるだろうからな………」

 

 嶋は、深海棲艦と激戦が終局に入ろうとしている事と、その後について思案を巡らせていた………

 

 

 

「霧の艦隊のコンゴウが到着したわ!」

「うひゃあ!」

 

 自分達の頭上を飛び越えて降ってくる、コンゴウからの支援攻撃にエリューと亜乃亜は思わず頭をすくめる。

 

「狙いは全て正確です。けど………」

 

 弾着をチェックしていたエグゼリカは、凄まじい弾幕が一発も狙いを外していない事に驚くが、それを食らった深海棲艦がまだ活動している事も確認していた。

 

「亜乃亜、トドメを」

「う、うん」

 

 深海棲艦が再生している間にトドメを刺そうとするエリューだったが、亜乃亜からの返事は弱い物だった。

 

(プラトニック・エナジーを使いすぎてる。回復しても、疲労までは治せない………)

 

 エリューは自分と亜乃亜のPEゲージをチェック、それがかなり低下している事に焦りを覚える。

 

「あと、もう少し!」

「なんとか…!」

 

 それでもなお向かおうとする二人だったが、そこで甲高い警報が鳴り響く。

 

「え? 何これ!?」

「本部からの強制転移!?」

 

 二人が驚く中、二人のRVをマーカーに何かが強制転移されてくる。

 

「敵機確認、攻撃開始」

「いっくよ~」

 

 強制転移されてきたのが、エメラルドグリーンとパープルの二機のRVだと確認したのと、その二機が同時に攻撃したのはほぼ同時。

 

「この程度の相手に苦労してたのですか」

「でも見た目は結構ホラーだよ?」

 

 エメラルドグリーンのRVに乗った淡い黄金色の瞳を持ったツインテールの天使が淡々と話し、パープルのRVに乗った長いポニーテールに大きな耳飾りをした天使が気さくに話しかける。

 

「エスメラルダ!? それにポイニーまで!」

「………誰?」

 

 その二人を知っているエリューが驚くが、亜乃亜は素直に首を傾げる。

 

「秘密時空組織G本部所属、力天使エスメラルダ。本部からの要請で増援に来た」

「同じく、権天使のポイニー・クーンだよ、よろしくね♪」

 

 淡々と告げるエスメラルダと気さくなポイニーというある意味両極端な両者だったが挨拶もそこそこに再生しつつある深海棲艦へと向き直る。

 

「ROUNDセット」

「GRAVITYセット!」

 

 エスメラルダのRV・ジェイドナイトとポイニーのRV・ファルシオンσが武装をセット、同時に深海棲艦へと向かっていく。

 

「待って! コンゴウからの支援攻撃が…」

 

 再度ロケット弾が振ってくるのに、エグゼリカは二人を止めようとするが、ジェイドナイトからは全方位に発射される特殊なレーザーが真上のロケット弾と真下の深海棲艦を同時に破壊、ファルシオンσは驚異的な機動でロケット弾をかわしながら小型の重力崩壊レーザーを深海棲艦に撃ち込んでいく。

 

「すごい………」

「二人共本部直属のエリート天使よ。私達とはレベルが違うわ」

「エリート、ですか」

 

 亜乃亜が二人の戦闘力の高さに呆気に取られ、エリューが改めてレベルの違いを感じ、エグゼリカですらそれを認めざるを得なかった。

 

「それじゃあ、あの二人と一緒にもうちょっとだけ頑張ろう!」

「ええ、そうね」

「行きます!」

 

 亜乃亜の一言に我に返ったエリューとエグゼリカは、二人の後を追って深海棲艦へと向かっていった。

 

 

 

「そこだぁ!」

 

 もう何度目になるか分からない全力射撃を放ったミサキは、荒い呼吸を何とか整えようとしながら、最後の回復ドリンクを手に取って一息に嚥下する。

 

「ミサキさん! もう無理よ!」

「バイタルが不安定になってます!」

「後は私が…」

「無理よ、ISの攻撃も、ブリッド無しのパンツァーの攻撃も致命傷にはなりえない。致命傷を与えられるのは私しかいない」

 

 明らかに疲弊しきっているミサキを、更識姉妹とサイコが止めようとするが、ミサキはきっぱりとそれを断る。

 

「こちらの攻撃だけでなく、これだけの支援攻撃を食らっても迫ってくるなんて………」

「元の世界で報告しても、信じてもらえませんね………」

「質の悪いモグラ叩きですね!」

 

 頭上を飛んでくるコンゴウからの支援のロケット弾を喰らいながらも迫ってくる深海棲艦に、楯無と簪が食い止め、サイコがダメージを与え、ミサキがトドメをさすというパターンでなんとかしのいでいたが、ミサキの負担は深刻な状態にまでなっていた。

 

「数はもう少ないけど、ヤバそうなのが残ってるようね………」

「姉さん、こちらも残弾が………」

「このままだと支えきれないかもしれません」

「今、増援がこちらに…アレね」

 

 皆が追い詰められている事に焦りを感じていた時、ミサキは上空から降下してくる物体に気付く。

 

「敵の注意を惹きつけるわよ!」

『了解!』

 

 ミサキの号令と共に、全員で一斉攻撃を開始。

 放たれる無数の弾幕に、残った深海棲艦が逆にこちらへと向かってくる。

 

「人形、しかも重武装!」

「姉さん! ミサイルがもうありません!」

 

 弾幕を喰らいながらも迫るセーラー服のような装束にマントを羽織り、複数の砲塔を携えた戦艦タ級と、重巡リ級に四人が攻撃を集中させるが、相手の勢いは止まらない。

 

「チャージ時間を稼いで! 全力射撃で…」

 

 ミサキが再度チャージに入ろうとするが、そこで降下していたカプセルが展開し、中から人影が飛び出す。

 

「ファイアー!」

 

 掛け声と共に、空中で放たれた砲弾が戦艦タ級に直撃し、動きが止まる。

 人影は砲撃の威力に空中を回転しながら、見事に体勢を持ち直して着水する。

 

「お待たせネ! 金剛型一番艦・金剛、到着! これよりユー達に加勢するヨ!」

 

 ガッツポーズを取る金剛に、四人は唖然としていた。

 

「変わった人が来たみたいね………」

「姉さん、他にも来ます」

 

 続けてカプセルが次々と展開し、今度は中から弓をつがえた者達が次々と矢を放つ。

 放たれた矢は空中で小型のレシプロ戦闘機に変じ、戦艦タ級と重巡リ級に襲いかかる。

 

「全機発艦、急いで」

「分かってるわよ!」

「ちょっと酔いました………」

 

 加賀を筆頭に、瑞鶴、翔鶴が着水しながら次々と艦載機を発艦させ、次のカプセルが開く。

 

「北上さん大丈夫!?」

「なんとか。空中発艦した艦娘は私達が初めてだろうね~」

 

 二人揃って着水した大井と北上が、そろって艤装を構える。

 

「オーナー、同士は当該施設の反対側にて交戦中の模様」

「OKエスパディア、このまま敵を蹴散らしつつ、ブッキー達と合流するね!」

 

 肩にいたエスパディアからの報告に、金剛は次弾を装填しつつ、皆に指示を出す。

 

「彼女達を援護! 一気に巻き直すわよ!」

「了解!」

 

 艦娘達を援護すべく、楯無を中心に他の者達も体勢を立て直す。

 そこで、ミサキがある事に気付いた。

 

「あ………」

「どうかしましたか?」

「パリに来た艦娘は6人。全員来たのに、カプセルがもう一つ………」

「まだ、誰か来る?」

 

 簪もそれに気付いたが、そのカプセルは他のと違い、学園の中心の方へと向かっていた。

 

 

 

「お姉さま、こちらにカプセルが向かってきます!」

「まさか、座標ミス!?」

 

 こちらに向かってくる突入カプセルに黒ウサギ隊の一人が気付き、クラリッサは判断に迷う。

 

「生体反応有るわよ、誰か乗ってる」

「一体誰が………」

 

 ヒュウガが平然と言う中、エミリーもどうすべきか迷うが、突入カプセルが展開、中から真紅の躯体に翼を持った霊子甲冑が、滑空しながら転移装置のそばへと文字通り舞い降りた。

 

「皆さん大丈夫ですか!? 巴里華撃団二代目隊長エリカ・フォンティーヌ、助っ人に来ました!」

「エリカ君か!」

「あ、加山さん!」

 

 舞い降りた光武F2から響くシスターエリカの声に加山が反応し、それに気付いたシスターエリカも手を振る。

 

「ちょうどよかった! 私と加山隊長だけじゃ限界なの!」

「分かりました!」

 

 エミリーの言葉に反応するように、エリカ機は十字架を模した巨体なマシンガンを構える。

 

「マスター! ここにある機械は壊したらダメだからね!」

「大丈夫です! ちゃんと外します!」

「じゃあ足元!」

 

 頭部脇にいるアルトアイネスの忠告にシスターエリカは元気よく答えるが、エリカ機の足元、機材の一部を踏み潰している事にアルトアイネスは声を上げる。

 

「あ、すいませ~ん!」

「………東京に来た時から思ってましたけど、あの方、大丈夫ですか?」

「まあ変わった子だけど、一応巴里華撃団花組の隊長だから。実力は確かだよ」

 

 エミリーがそこはかとなく不安を感じるが、加山の説明に一応は納得する。

 

「マスター、10時方向に敵機!」

「分かりました!」

 

 アルトアイネスの指摘にシスターエリカは素早く十字型機関銃を向けてトリガーを引く。

 放たれた弾丸は、向かってきていた小型機数機をまとめて貫き、崩壊させた。

 

「おお! 効いてる!」

「よし、みんなエリカ君を中心に陣を立て直そう! もう少しだ!」

『了解!』

 

 クラリッサが驚く中、加山の指示で転移装備防護に回っていた者達が声を上げる。

 激戦の終焉が、迫りつつあった………

 


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