第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP03

 

「これは一体………」

 

 司令室に集まった花組隊員達、それに宮藤博士と美緒、そして芳佳と静夏も、司令室の大型画面に映し出される光景に絶句していた。

 

「竜巻、でしょうか?」

「でも、霧みたいなのも見えるぜ?」

「ありえへん! 竜巻と霧じゃ発生条件が全然違うんや!」

「前回はこんな物は見た事も無かったな」

「だが、これは間違いなく次元転移の前兆のようだ」

 

 映し出された、ミカサ記念公園を完全に飲み込むような巨大な霧をまとった竜巻に、誰もが口々に驚きを述べるが、宮藤博士は観測されているデータを手早く解析し、いち早く結論に辿り着く。

 

「しかもかなりの大質量と考えられる。何が来るかまでは分からないが………」

「服部! すぐに偵察に飛べ!」

「り、了解しました!」

「帝国華撃団、出撃準備! 臨戦態勢を取れ!」

『了解!』

 

 美緒の号令と共に静夏が大慌てでストライカーユニットの元へと向かい、大神の号令で花組も霊子甲冑へと搭乗するために向かっていく。

 

「坂本さん、私は!」

「宮藤は負傷者が出たらすぐ治療出来るように待機! 戦闘が市街地に及んだら、手が幾らあっても足りんぞ!」

「帝都に非常事態宣言! 市民は避難の準備を!」

 

 皆が慌てて動き出す中、霧をまとった竜巻が強さを増したかと思うと、急激的に弱まっていく。

 

「来るぞ………」

 

 宮藤博士とかえでが、固唾を飲んで大型画面を見つめていた。

 何が現れるかを確かめるために。

 

 

 

「服部 静夏軍曹、出撃します!」

「轟雷号のトンネルを使って! 指示灯を出すわ!」

「はい機関銃! 重いわね、これ」

「気をつけてください!」

 

 ストライカーユニットを装着した静夏が、薔薇組が出撃準備を手伝う中、一気に滑走を開始する。

 

「花組も状況が分かり次第、出撃するそうよ! 無理は禁物ね!」

「はい!」

 

 琴音が声を掛ける中、静夏はトンネルを滑空して発進していく。

 

「………大丈夫かしら? あの子、多分初陣よ」

「とんだ初陣ね~」

「私達も準備しましょう! 市街戦の可能性もあるそうです!」

 

 琴音と斧彦が心配そうに静夏の後ろ姿を見送るが、菊之丞に促され避難誘導の準備に向かう。

 

「いっそ、友好的なのが来ないかしら?」

 

 琴音の呟きはこれから起こる不安を端的に表わしていた………

 

 

(大丈夫、ただの偵察。落ち着けば問題無い………)

 

 内心自分に言い聞かせながら、静夏はトンネルから帝都の空へと舞い上がる。

 

「正面、目標を補足!」

 

 ちょうど真正面に見える巨大な霧の竜巻に向って、静夏は速度を上げる。

 だが彼女の目の前で、霧の竜巻は急激的にその威力を弱めていった。

 

「目標に変化! 小さくなっていきます!」

『何かが来るかもしれん! 気をつけて接近しろ!』

「はい!」

 

 坂本からの警告を聞きながら、静夏は更に接近する。

 やがて、消えていく霧の竜巻の向こうから、何かが見える。

 

「機影らしき物確認! 接近します!」

 

 

「皆無事!?」

「大丈夫!」

「各機の状態を確認します!」

「一体何よ~!」

 

 突如として発生した異常現象に、ソニックダイバー隊はかろうじて墜落を免れ、Aモードに変形して滞空していた。

 

『全員無事か!』

「四人とも大丈夫です、冬后大佐!」

「ソニックダイバーも全機問題なし!」

「………ねえ、あっち見て」

 

 冬后からの慌てた通信に瑛花と可憐が返信した所で、エリーゼが引きつった顔で一方を指差す。

 

「何か、レトロというかそんな感じの町並みが………」

「ひょっとして、私達またどこか別の世界に跳ばされた!?」

「い、今状況確認を……!? こちらに急速接近中の飛行体確認!」

「ええ!?」

 

 向こうに見えるレンガ作りの町並みに、皆が驚く中、可憐が風神のセンサーをフル作動させた所で一番最初に感知した情報を叫ぶ。

 

(敵? 味方? まずい、今ソニックダイバーは全機、武装を外している………!)

 

 元々ラストフライト後、退役予定の機体だったため、戦闘が起きる事すら考慮していない状態に瑛花が焦りを覚える。

 

『何が近づいてきてる! いや、全機撤退を…』

「ま、待ってください! この反応、類似したデータが有ります!」

「ちょっと、アレ!」

 

 エリーゼがバッハの光学センサーを使って、近付いてくる飛行体の映像を確認、それを各機に送る。

 

「うそ、ウィッチ!?」

「間違い有りません! これはストライカーユニットの反応です!」

「じゃあ、ここはウィッチの世界なの!?」

「うわあ、来た!」

 

 見覚えのある姿に、ソニックダイバー隊が更に混乱する中、ウィッチはすでに目前まで迫っていた。

 

「貴女方、何者ですか! 所属を名乗りなさい!」

「ストップ! たんま!」

 

 突如として現れた、見た事も無い機体に搭乗した四人に向って、静夏は九十九式二号二型改機関銃を向ける。

 慌てて音羽は両手を上げ、他の者達も同様に交戦意思の無い事を示す。

 

「私達は人類統合軍・ソニックダイバー隊の者よ! 貴女、日本、じゃなくて扶桑のウィッチ? だったら坂本 美緒少佐か宮藤 芳佳曹長に問い合わせて!」

「………坂本教官と宮藤少尉の事を知ってるんですか?」

 

 瑛花の口から覚えの有る名が出た事に、静夏の警戒心が緩む。

 

「このソニックダイバーは、退役目前で武装は付いてないわ。このまま、下の基地に着地したいのだけど」

「待ってください。坂本教官! 出現した者達は、人類統合軍ソニックなんとか隊と名乗っています!」

『本当か!? だったら彼女達は敵ではない! 繰り返す、彼女達は味方だ…何だと!?』

「ど、どうかしましたか!?」

『いかん、帝国華撃団が出撃した! すぐにそちらに到着するぞ! 全機着地して交戦意思が無い事を示せ!』

「り、了解! すぐに着地出来ますか!?」

「分かった! でも一体何が…」

「早く!」

 

 静夏が慌てる中、ソニックダイバー各機はAモードのまま下降を始め、静夏も弧を描きながら、真下の追浜基地の滑走路へと着地する。

 

「こちらに向かってくる巨大な飛行体確認!」

「何か来る!」

「あれって、飛行船!?」

「武装飛行船なんて大時代的な………」

 

 ソニックダイバー隊と静夏が向かってくる帝国華撃団の霊子甲冑輸送用武装飛行船・翔鯨丸から、何かが次々と投下されるのに気付き、全員の顔色が変わる。

 

「投下された物体、接近中!」

「今度は何!?」

「いや、本当に何あれ………」

 

 それは、全体が丸みを帯びた、無骨な起動ユニットのような物だった。

 各機体がそれぞれのカラーリングで染め上げられた機体は、ソニックダイバー隊の間近まで来ると、見事に着地する。

 

『帝国華撃団、参上!!』

 

 口上と共に、全機が構えを取る。

 あまりに見事な登場に、ソニックダイバー隊全員が、唖然としていた。

 

「大神司令! この人達は敵では無いそうです! 我々の早とちりみたいです!」

「え?」

 

 慌てて静夏が前へと出て帝国華撃団を制止する。

 

『大神君! 聞こえる!? 出現したのは、かつて坂本少佐達と一緒に戦った、別の世界の部隊だそうよ! 戦闘状態を解除して!』

 

 そこへ遅ればせながら、かえでからの通信が飛び込んでくる。

 

「え? じゃあ皆さん、いきなりここに跳ばされてきたんですか?」

「そうなんですよ。もう何が何やら………」

「ちょっと待って。その機体、ストライカーユニットとも違うみたいだけど、私達が転移してきたって何で知ってるの?」

 

 さくらの問いに音羽が何気なく答えた所で、瑛花が違和感を感じる。

 

「それは、オレとさくら君が、同様の事件に巻き込まれた事が在るからだ」

『………え?』

 

 

 

「統合人類軍 極東方面大隊 第十三航空団所属ソニックダイバー隊指揮官、冬后 蒼哉、階級は大佐だ」

「帝国華撃団司令、大神 一郎大尉です」

 

 互いに自己紹介しながら、冬后と光武二式から降りた大神が握手をかわす。

 

「どうやら驚かせちまったみたいだな」

「いえ、こちらも少し過剰反応でした」

「なにせ、こっちもいきなりの事だったんでな。状況が通じるってのは有り難い。前はそれで一戦交えた事も有ったからな」

「そうですね。もっともこちらで経験したのはオレとさくら君、後は巴里華撃団のエリカ君と紐育華撃団のジェミニ君だけですが」

「同様の組織がパリとニューヨークにもあるって訳か」

「ええ、けど前の事件は、身一つで跳ばされて戦いました。ここまで大掛かりじゃない」

「基地一つ丸ごとキレイに、ってのは前回は無かったな。滑走路まで揃ってやがる」

「まるで狙ったように建て直したかのようだ」

 

 大神がそう言いながら、ちらりと互いの機体を見ているソニックダイバー隊と帝国華撃団を見る。

 

「うわ~、すごいゴツさ」

「ひょっとしてこれ、蒸気機関ですか?」

「なんかあんまりかっこよくな~い」

「何やて!?」

 

 口々に感想を言うソニックダイバー隊だったが、エリーゼの一言に紅蘭が過敏に反応する。

 

「ウチの光武二式をそないな風に…!」

「紅蘭、落ち着きなさい」

「設計概念が違う。イメージの差は仕方ない」

「そっちこそ、凧の骨組みみたいデ~ス」

「何ですって!」

 

 紅蘭をマリアとレニがなだめるが、織姫の余計な一言に今度はエリーゼが激高する。

 

「他のならともかく、私のバッハを!」

「エリーゼ、落ち着いてください」

「他のって何、他のって!」

「あの、私から見たらどちらも変わってますが………」

 

 エリーゼをなだめる可憐と違う意味で起こる音羽だったが、静夏のぽつりと漏らした一言に一応双方が留まる。

 だがそこで、華撃団がこっそり円陣を組む。

 

「ねえ、それよりもあの格好………」

「かなり、大胆ね」

「ウイッチの人達も足丸出しや思ったけど………」

「足どころか全身のライン丸出しデ~ス」

「未来の連中って聞いたけど、未来って暑いんじゃね?」

「高速飛行するという機体に、あの格好は非合理的だ」

「でもちょっとかわいい♪」

「そこ! 何こそこそ話してるの!」

「これはモーションスリットと言って、ソニックダイバー専用のパイロットスーツなんです」

「これの良さが分かるって、少し見直したわ」

「無駄話は後にして。ソニックダイバー全機、ASモードで格納庫まで帰投。私達も着替えるわ」

「だってゼロ。格納庫まで行ける?」「風神、ASモードで格納庫まで帰投」「行くわよバッハ」

 

 格納庫の方に一時行っていた瑛花が、他の三人に指示を出すと、三人もそれぞれの機体に音声指示を出し、自動操縦モードのソニックダイバーがパイロットの後に続けて動き出す。

 

「乗ってなくても動くんかそれ!?」

「単純動作しか出来ないけどな。そっちの機体も出しっぱなしでいいのか?」

「そうだな………そっちの格納庫のそばに置かせてもらっていいか? 今後何が起こるか分からない」

「それは構わないが」

「よし、帝国華撃団も後に続こう。それと帝都の非常事態宣言を解除。警戒体制は続けるように連絡」

 

 冬后の許可をもらい、再度搭乗した帝国華撃団がソニックダイバーの後に続く。

 

「何か、すごい絵ですね………」

「そうだな。あんたもそれ格納庫に持ってったらどうだ?」

「え~と、坂本教官の指示を仰がないと」

「後でオレから言っとくよ。つうかマシンガン持ってそこいらうろつかれると、ウチの新入りが驚く」

「わかりました、大佐」

 

 ソニックダイバーと霊子甲冑が動く様を茫然と見ていた静夏だったが、冬后にうながされ、魔法力を発動させてストライカーユニットと機関銃を両方背負って後に続く。

 

「………地味にあれが一番すごいと思うんだがな。さて、今度はどんな厄介事が起きるんだ?」

 

 三者三様で格納庫に向かう様に冬后がぽつりと呟きながら、冬后も後に続こうとした所で、こちらに向かってくる蒸気自動車に気付く。

 その車内に、見覚えのある顔が幾つかある事に、冬后は僅かに安堵する。

 

「頼れる相手がいるってのは、悪くないか」

 

 助手席にいる美緒に向って手を上げながら、冬后は車を出迎える事にした。

 

 

 

「うわ、何だありゃ!?」

「なんか、すごいの来たで」

「やっぱここ、異世界なんやろか」

 

 格納庫にいたソニックダイバー専属メカニックの零神担当、橘 僚平、雷神担当の御子神 嵐子、風神担当の御子神 晴子がソニックダイバーの背後から来た霊子甲冑に驚きの声を上げる。

 

「驚くのは後だ! すぐに機体に問題出てないか調べろ!」

「は、はい!」

 

 そこへメカニック班長で、バッハシュテルツェの整備も担当している大戸 代治の声が響き渡り、三人は慌てて準備に取り掛かる。

 

「あちらにも機体があるようだが………」

「あっちは83式飛行外骨格、ソニックダイバー試験機をレスキュー訓練用にカスタムした物だ。本当ならこっちのソニックダイバーも今回のラストフライトの後、退役する予定だったんだが………」

「それは少し先になりそうだ、私もだが」

 

 大神が興味深そうに見るのに大都が説明していると、そう言いながら老齢に達した将校用の礼服をまとった男性が姿を表す。

 

「あなたは?」

「ソニックダイバー隊元旗艦・攻龍艦長の門脇 曹一郎中将だ。正確には元中将になるが」

「失礼しました。自分は帝国華撃団司令、大神 一郎大尉であります」

「話は少し聞いている。大神司令、率直な意見を聞きたい。君の前回の経験上、今後どのような事態が想定される?」

「………襲撃の可能性は高いかと」

「………私も同意見だ。冬后大佐、臨時に指揮権を復帰させたいが、よろしいか」

「しかし長官、一条はともかく、他の三名はすでに除隊しています。臨時措置とはいえ、当人達の意思を確認しないと………」

「それは君に一任する。大戸班長、ソニックダイバーの再武装は可能か」

「………この後軍倉庫へ返却予定だった武装が残ってはいます。しかし、残弾は戦闘一回分がせいぜいです」

「構わん、至急再装備を」

「了解。聞いてたか」

「はい! 至急準備します」

 

 門脇の命令で、大戸が重い声で部下に指示を出し、僚平達は急いで返却予定だったコンテナを開封し始める。

 

「こっちから手ぇ貸そか?」

「そりゃありがたいが、多分規格全然違うぜ?」

「接続はそっちで頼むわ。部品の受け渡しくらいなら出来るやろ。ええよな? 大神はん」

「もちろんだ。至急他の整備員も呼ぼう」

 

 忙しく動く始めたソニックダイバー整備班に、紅蘭が手伝を申し出、大神も増援の連絡を入れる。

 

「忙しい事になりそうだな」

「君も来ていたのか、坂本少佐」

「お久しぶりです、門脇艦長」

「宮藤博士もか、これはありがたい」

 

 そこに冬后と共に姿を表した美緒と宮藤博士に、門脇は声をかける。

 

「なぜか、こちらのウィッチ養成学校と、そっちの帝国華撃団の基地が繫がっている、という繋がりっ放しの状態になっています」

「常時繫がっている、と?」

「そのようです。ただそんな大きくはないようなのですが」

 

 美緒から聞いていた説明を、冬后も門脇に説明する。

 

「原因は不明です。だが、どうやらこちらを優先させた方がいいらしい」

「こちらにその方面の専門家はいないからな。その件は宮藤博士に一任しょう」

「あの、すいませんけど、坂本さんも私も、ウィッチとしては引退しちゃってるんですけど………」

 

 恐る恐ると言った感じで、美緒らと共に来た芳佳が手を挙げる。

 

「あれ、まだ二十歳に行ってないよな?」

「まあ、あの後に色々有って」

「有り体に言えば、私の責任だ」

「こっちも色々有ったからな」

「じゃあ、坂本さん眼帯つけてないのって」

「魔眼も使えなくなったからな、必要なくなった」

「カッコ良かったのに、もったいない………」

「あの………」

 

 そこへ、格納庫におずおずとモーションスリットの上から軍用コートを来た少女が顔を出し、背後に同様の少女達が困惑した表情をしていた。

 

「冬后大佐、一体何がどうなってるんでしょうか?」

「こちらにも説明が欲しいのですが………」

「あ、悪い忘れてた」

 

 その少女達、ソニックダイバーレスキュー隊訓練生達の顔を見て冬后は今更ながら彼女達に何も説明してなかった事を思い出す。

 

「そちらの新入りか?」

「今度設立したソニックダイバーレスキュー隊の訓練生だ。今ここには、前の戦いで攻龍に乗っていた人間と、彼女達だけが跳ばされて来ている」

「………説明は必要だな。今後のためにも」

「それはこちらでしておきましょう」

 

 そう言いながら、鋭利な目つきをした若い男性士官が姿を表す。

 

「緋月少尉か、どうやら本当にあの時のメンバーがそろってるようだな」

「攻龍クルー全員、とはいきませんがね。そちらの方々もご一緒に」

 

 その男性士官、冬后の副官でもある緋月 玲の姿に、美緒は改めて現状を認識、緋月は訓練生だけでなく帝国華撃団も招こうとする。

 

「嶋少将から前回の戦闘データの拝見許可をもらってます。今後に必要でしょうから。坂本少佐と宮藤曹長には補足説明をお願いします」

「宮藤は今少尉だ、退役扱いだがな」

「それは失礼」

「いやぁ~、興味のある話だね~」

 

 突然何処かから響いた男の声に、全員が一斉にそちらへと振り向く。

 

「格納庫はいいね~。鉄臭いけど」

「おわ!? アンタどこから湧いた!」

 

 点検・再武装中の零神の隣に、白のスーツにオールバック、ギター片手で無駄に爽やかそうな男が立っていた。

 全く気づいてなかった僚平が驚く中、男はギターを一度かき鳴らす。

 

「加山!? いつ帰ってきたんだ!?」

「ついさっきさ、大神~」

「何だ、そっちの関係者か?」

「ええ、まあ………」

 

 その男、加山の事を説明するべきかどうか大神が悩む中、美緒は無造作に加山へと近付いていく。

 

「悪いが、関係者以外は立ち入り禁止、だ!」

 

 最後の一言と同時に、美緒は持参していた刀で無造作に抜き打ちの一撃を放つ。

 

「うひゃあ!?」

 

 いきなりの事に僚平が思わず尻もちをつくが、その斬撃の軌道から、加山は瞬時に消え去る。

 

「おやおや、物騒なお嬢さんだ」

 

 瞬時に零神の頭上まで跳ね上がり、零神の頭部に着地した加山が再度ギターをかき鳴らす。

 

「なるほど、先程の隠行にその身のこなし、情報部の人間か」

「さあてね」

 

 加山の正体を見極めた美緒に、加山、正確には帝国華撃団の隠密行動部隊・月組隊長 加山 雄一はあくまで惚けてみせる。

 

「情報部だ? 資料なら全部渡すから、ここでスパイ活動は勘弁してもらいたいんだがね」

「だそうだ。だから潜り込もうとしている連中を退かせてもらいたいのだが」

『え?』

 

 冬后が渋い顔をし、美緒が更に危険な事を言って周囲の人間の動きが止まる。

 

「そこまでバレてたか。いやいやなかなか出来るね~」

「彼らに他意は無い、というかオレの前の経験上、突発的にここに来たらしい。無理に探りを入れなくてもいいと思うぞ」

「そうか大神。それでは、紳士淑女諸君、さよ~なら~」

 

 大神がうろんな目になりつつある周囲をなだめるように加山に進言すると、加山は大人しく頷き、再度ギターをかき鳴らしながら零神の後ろへと背中から飛び降りる。

 

「おい!?」

 

 慌てて僚平が零神の背後に回りこむが、そこに加山の姿は無かった。

 

「あれ、今確かに………」

「おったよな?」

「まるで忍者みたい………」

(みたい、じゃないんだよな………)

 

 首を傾げる皆に、大神は内心冷や汗をかいていた。

 

「え~と、坂本さん。他にスパイがここに入ってきてるって本当ですか?」

「もう去ったようだな。当たり前と言えば当たり前の反応だ」

「そうなんですか?」

「501の基地にもたまに潜り込もうとしてる奴らがいたぞ、ウィッチの動向を探りにな」

「そ、そうなんですか?」

 

 美緒から音羽と芳佳がさらりととんでもない事を言われ、思わず顔を見合わせる。

 

「それでは会議室へ。今準備をさせてます」

「話半分で聞いとけ。本気で悩んだら泥沼だからな」

「それはそうかもしれないが………」

「それと冬后大佐、少し私は所用があるので後を頼みます」

「てめえも妙な事するなよ」

 

 冬后が状況を理解出来ない者達にかなりアレな助言を出し、大神も思わず肯定するが、緋月が席を外す事に冷めた視線を送る、

 

「亜乃亜ちゃん達がそばにいたから、今頃一生懸命探してくれると思うけど………」

「そうだね、他の子達も大丈夫かな………」

 

 音羽と芳佳がそれぞれの心配をしながら、音羽は更衣室へ芳佳は会議室へと向かっていく。

 格納庫に残った人間と出て行った人間と完全に別れたのを確認した後、緋月は一人で資料室へと向かい、そこで普段使わないプリンタを起動させて現在会議室で行われている説明と同様の内容の資料を印刷し始める。

 

「そろそろ出てきたらどうですか」

「そうさせてもらうか」

 

 他に誰もいないと思われた資料室に、緋月の呼びかけに呼応するように、加山が姿を表す。

 

「よく気付いたな」

「いえ、全く。ただ、自分がそちらの立場ならどう行動するかを考えたまでです」

「なるほどな。それで、今何を刷ってるのかな?」

「こちらで前回起きた次元転移の際の戦闘その他を簡易的にまとめた物です。もうじき印刷が終わるので、これをそちらで一番階級が上で一番話が分かる方に持って行ってください」

「それだけ重要な機密情報を、あっさり渡さなければいけない事態。そう判断していいという事か」

「はい」

 

 加山の問いにいとも簡単に答え、機密情報を印刷する緋月に加山の顔つきが先程とはうってかわって鋭い物になる。

 

「分かった、大至急持って行こう」

「お願いします、紛失に気をつけてください。こちらだと紙は貴重品なので」

「紙が貴重? これだけ進んだ技術を持っていて?」

 

 加山の問いに、緋月は壁に掛かっている地図を指差す。

 そこにある、かつてのワームとの戦闘であちこち欠けている世界地図に加山の視線は更に鋭くなっていった。

 

「何の冗談かと思ったが、これ本物か?」

「それがこちらの世界です。何ならそれも持って行ってください。最悪、その程度では済まなくなります。もっとも世界をそうしたのは他ならぬ、我々人類統合軍ですが」

「大神の出した異世界とやらの報告書は呼んだが、壊滅しかけた世界とはこういう事か」

 

 先程のおちゃらけた雰囲気とは程遠い、深刻な顔をした加山に、緋月は印刷を終えた資料をまとめて手渡す。

 

「これを。早急に頼みます。今ここで戦闘が始まっても、不思議ではありませんから」

「ありがたく頂戴する。悪いようにはしないと約束しよう」

「お願いします。はっきり言ってしまえば、我々は今丸腰に近い状態なので」

「それでは」

 

 資料を受け取った加山は敬礼するとその場から即座に消える。

 

「さて、間に合えばいいのですが………」

 

 

 

 会議室に急いで設置されたパイプ椅子に座り、着替えを終えたソニックダイバー隊と研修生、ウィッチ、帝国華撃団の面々が、映し出される映像を見入っていた。

 

「そうそう、ここでミーナさんと出会ったのが始まりだったっけ」

「あれは、宇宙船って奴かな?」

「うわあ、なんかすごいのと戦ったんだね」

「いきなりこっちに来たのは驚いたな」

「あの、何ですかこのすごい数の船団とウィッチ………」

「何かすごいのが………」

「え? なんか巨大なロボットが………」

 

 かつての幾つもの世界を股にかけた激戦に、その時を懐かしむ者、質問を次々出す者、ただ絶句する者、反応はそれぞれだった。

 やがて映像が終わり、見ていた者達がそれぞれそばにいる者達と小声で話し合う。

 

「みんな、言いたい事は色々あるだろうけど、一つだけ言える事がある」

 

 各自討論状態になる中、宮藤博士が口火を切る。

 

「これは前回の事をおおまかにまとめた物だが、君達にとって、決して他人事ではない」

「同様、もしくはそれ以上の事が起きる可能性が高い、という事か」

 

 宮藤博士の言葉を代弁するように、大神が放った一言に、その場に動揺が走る。

 

「………桜野、園宮、エリーゼ。もしそうなったら、再度戦線に復帰してもらうかもしれん。いいか?」

「うんいいよ」「分かりました」「ja(はい)」

 

 冬后が慎重に聞いてきた復帰意思の有無に、三人はあっさりと快諾する。

 

「いいの? 今度はいつまで戦うかも分からないのよ?」

「瑛花さん一人だけじゃ、ソニックダイバー隊にならないでしょ?」

「戦闘になったら、風神の索敵能力と私の解析能力は必須でしょうし」

「新入りに私の実力を見せるのも面白そうだし」

 

 瑛花も思わず問うが、三者三様の返答が返ってくる。

 

「それに、亜乃亜ちゃん達が助けに来てくれうだろうし」

「ま、それを待つしかないってのもあるが………」

「先程出てた、あの大火力の機体に乗ってた子達だったか」

「異世界転移技術をこちらで持っているのは彼女達Gだけなんです。問題はこちらから知らせる方法が無くて………」

 

 救援が来る事を一切疑っていない音羽に、冬后も渋い顔をして頷く。

 大神は先程まで見てた資料映像の説明を思い出し、瑛花がそれを補足する。

 

「取り敢えず今の所、仕掛けてくるような連中は来てないが、そのまま来ないたぁ、まず思えないしな」

「確かに」

「即座に防衛体制を整えた方がいいだろう。ここにあのソニックダイバーとかいう機体以外の軍備は?」

 

 冬后と宮藤博士が考えこむ中、大神の出した質問に冬后が無言で首を左右に振る。

 

「それでは、ソニックダイバーの再武装が終るまで、帝国華撃団がここの警備に当たろう。どれくらいかかるかだが………」

「明朝までには何とか、っておやっさんは言ってたが………」

「文字通り突貫作業か………こちらで隊員を半数ずつに分けて当番制で警備しよう。マリア、カンナと織姫君とすぐに就寝して四時間交代、サクラ君とアイリス、レニはオレとそれまで光武に搭乗して警備に当たる。紅蘭は、ずっと再武装の手伝いしてそうだな」

「了解しました司令」

「服部、準戦闘体勢で待機だ。ソニックダイバーが使えない以上、すぐに動ける航空戦力はお前だけだ」

「は、はい! 了解です!」

「私は一度戻って戦力を集められないか上層部に進言してくる。その間、宮藤少尉の指揮下に入れ」

「了解です!」

「え? あの坂本さん、私指揮なんて………」

「新人一人に防空任せるわけにはいかん。飛べなくても、飛んだ経験がある事が重要だ」

「よろしくお願いします! 宮藤少尉!」

「あの、冬后大佐。私達は………」

「取り敢えず飯食って寝とけ。シミュレーション訓練ようやく始めるたって連中にやれる事は今の所無い」

 

 幾つもの指示が矢継ぎ早に飛び交い、急遽各種シフトが組まれていく。

 

「どうやら、随分長いラストフライトになりそうね………」

「そのようだ。問題は、私も宮藤も飛べないという事だ。国内防衛に回っているウィッチをかき集められればいいのだが………」

「間に合うかしら、こちらも、そちらも」

 

 瑛花と美緒の会話は、現状の一番の問題を表わしていた………

 

 

 

「脇を締め、骨格で銃を支え、距離を詰めてスコープからはみ出るくらいに………」

「はい静夏ちゃん」

 

 追浜基地の寮の屋上、傍らにストライカーユニットを置き、銃を手に教えられた事を反芻していた静夏に、芳佳がお茶と夜食を持ってくる。

 

「こ、これは宮藤少尉! 上官に夜食を運ばせるなど!」

「いいからいいから。あまり緊張してると、持たないよ」

「その通りよ、見張りなんて周囲の景色楽しむくらいの気持ちでやらないと」

「下がちょっとうるさいのが難点ですけど」

「斧彦さんに、菊之丞さんでしたっけ? お二人もどうぞ。あれ、もう一人の方は?」

 

 静夏と一緒に警戒任務に当たっていた薔薇組だったが、人数が足りない事に芳佳が首を傾げる

 

「ありがとね。琴音ならさっき急用で呼び出されて行っちゃった」

「何か上で色々揉めてるみたいです。ここは前に大規模な戦闘が有った場所なので、変に警戒されてるらしくて」

「はあ~そう言えば華撃団の人達もそんな事言ってましたね」

「あら、芳佳ちゃんこそ、前の戦いじゃ大活躍したって聞いたわよ」

「まあ、それほどでも。あ、お茶冷めちゃいますよ。静夏ちゃんも」

「そ、そうですか………」

 

 恐縮しながら、静夏が夜食を受け取る。

 にこやかにその様子を見ている芳佳と、先程見せられた激戦の中心で奮戦する芳佳、その両者がどうにも重ならず、静夏は困惑していた。

 

「あの、宮藤少尉」

「何? 静夏ちゃん」

「敵は、やはり来ると思いますか」

「う~ん、どうだろ? 何も無くて、音羽ちゃん達が無事帰れるのが一番なんだろうけど、大神さんも何か起こるって言ってるし………」

 

 芳佳の最後の台詞に、静夏は思わず生唾を飲み込む。

 

「一郎ちゃんがそういうなら、そうなんでしょうね」

「大神さんは帝都、巴里、双方の華撃団の隊長をしてた人ですからね。前に異世界とかで何があったかまでは知りませんけど、今回もそうなるって考えてるんでしょう」

 

 薔薇組の二人の言葉に、静夏の顔が更に深刻さを増す。

 

「でも、帝国華撃団の人達も強そうだし、ソニックダイバーも今晩中には戦えるようになるっていうから、もし何かあっても、無理はしない方いいよ」

「そうそう、ウチの花組は強いわよ~」

「他の組の人達も緊急招集が掛けられてますし、臨戦態勢は完璧です」

「だってさ」

「しかし、自分は軍人です。軍人である以上、敵が来たなら戦わなければ」

「私は、軍人として戦ってたなんて思ってないけど」

「えっ………」

 

 意外な言葉に、静夏は絶句する。

 

「お父さんの口癖、知ってる? 「その力を、多くの人を守るために」私は、ずっとその気持で飛んでた。軍人じゃなく、誰かを守るウィッチとして」

「軍人でなく、ウィッチとして………」

「立派なお父様ね」

「はい! でも普段は娘の行事事に顔も出せない駄目な人なんですけどよ」

「それは残念ね」

「忙しそうですからね、今も下で色々やってるみたいですし」

「あ、さっきのは坂本さんには内緒ね。そんな事言ったなんて知ったら、怒られそうだから」

「私には分かりません。ウィッチになったからこそ、軍人になったのです。軍人として飛び、戦う事こそがウィッチとしての本懐ではないのですか!?」

 

 思わず語気を強くする静夏だったが、それを芳佳は微笑で受け止める。

 

「いつか静夏ちゃんにも分かるよ」

「そう、なのでしょうか………」

「うん。それじゃ、あまり力まない程度に警備お願いね。薔薇組の人達も」

「了解しました………」

「任せてちょうだい」

「夜食ごちそうさまでした」

 

 芳佳に手を振って見送った二人が、静夏が先程の芳佳の言葉にまだ悩んでいるのに気付く。

 

「静夏さん、私達が見てますので少し休んだ方が」「何かあったら、すぐに起こすから心配ないわよ」

 

 二人の提案に静夏は首を横に振る。

 

「私が任されたのです。休むわけには」

 

 力なく返事をしながら静夏は夜空を見つめる、そして芳佳の言葉を理解出来ぬまま、夜明けを迎える事になった。

 

 

 

「零神の接続は終わった! チェック走らせる!」

「ちょっとこっち手伝い頼むわ」

「給弾するで、離れてや!」

「FCSをちゃんと立ち上げとけ! 無駄弾撃たせる余裕はないからな!」

「う~ん、口径はなんとかなりそうやけど、中身はまるで別物や。こっちのは使えそうにないで」

「さっきすみれ君と連絡が取れた。光武用の武装を幾つか持ってきてもらう。機体全高は似てるから、使えない事は無いと思うんだが………」

「おやっさん、外接でFCS連動出来るか?」

「いじってみねえと分からねえな。今度はこっちが武装で悩む番か」

 

 追浜基地の格納庫で、夜通し行われていたソニックダイバーの再武装は、ようやく最終チェックの段階にこぎつけていた。

 帝国華撃団も作業に関わり、ソニックダイバー隊はかつての戦闘部隊としての様相を取り戻しつつあった。

 

「何とか、間に合いそうだな」

「ええ、正直作業中に敵襲があったらどうしようかと思いましたが」

 

 作業に徹夜で付きそう事になった冬后と大神がそう言いながら、自分達自身の言葉に違和感を感じずにはいられなかった。

 

「なあ、気付いてるか」

「もちろん、何かがおかしい」

「どうして、襲ってこない?」

「まるで…」

「大神君!」

 

 何かを言いかけた所で、かえでが慌てて飛び込んできた事で大神は出しかけた言葉を中断させる。

 

「かえでさん、何か起きましたか?」

「それが、軍のタカ派が動き始めたそうよ。ここを制圧するため、部隊を派遣するみたい!」

「なんだって!?」

「そりゃ、首都の眼と鼻の先にこんなもんが出現すりゃそうなるわな………」

 

 ある意味、真っ当とも言える軍の反応に、大神が狼狽し、冬后も口調とは裏腹に焦りを感じる。

 

「そっちの力で抑えられるか?」

「難しい………帝国華撃団はあくまで帝都防衛のための独立部隊だ。軍その物に影響力は少ない」

「さすがにここを制圧されたらやばいが、こっちから手出すのもやばい。どうする?」

 

 悩む二人だったが、複数の軍用蒸気トラックが向かってくるのが見えて、即座に警戒レベルを引き上げる。

 

「格納庫を閉鎖し、外から見えないようにしててくれ。何とか話をつけてくる」

「そうは言ってもよ」

「誰か来る!」

 

 緊張する大神と冬后だったが、かえでの一言に、大神は急いでそちらへと向かっていく。

 だが、こちらへと向かってくるのがたった一人という事にまず疑問を感じ、それが見覚えのある人物だと気付いて目を大きく見開く。

 

「よう、大神~」

「よ、米田司令!?」

「司令はテメエだろう」

 

 向かってきた将校用軍服に身を包んだ小柄な初老男性、帝国華撃団・前司令、米田 一基 元・中将の姿に大神は絶句せざるを得なかった。

 

「米田中将………どうしてここに?」

「ん~? こういう訳だ」

 

 大神の後を追ってきたかえでも驚く中、米田は一枚の紙を渡す。

 それは大日本帝国軍元帥府からの指令書で、米田 一基 元・中将を、特例で現役に復帰、今回の件の全件を委任する旨が記されていた。

 

「これは………」

「ま、そういうこった。こっちの方はオレっちが抑えとくから、気にすんな」

 

 そう言いながら米田は大神に近づくと、小さな声で囁く。

 

「賢人機関が動いたぜ、オレの再任は花小路伯爵による物だ。加山が夜の内にあちこち動きまくったらしい。おかげで朝飯も食わねえでこんな事になっちまったが」

 

 華撃団構想を提案・設立した、世界的影の思考組織の名に、大神とかえでの顔色が変わる。

 

「あれ、知り合いか?」

「よお、邪魔するぜ」

 

 そんな事もつゆ知らず、何か話し込んでいる三人の元に冬后が姿を現し、米田は気楽に挨拶する。

 

「オレは帝国陸軍の元・中将の米田って者だ。まあしばらく元が取れそうだが。ああ後ろのは気にする事ねぇぜ。オレがいりゃ手を出す事は無ぇだろ」

「これは失礼しました。自分は人類統合軍の冬后 蒼哉大佐です」

「帝国華撃団の前司令に当たる人です」

 

 将校と聞いて冬后が慌てて敬礼し、大神がそっと米田の正体を明かす。

 

「ここで一番えらいのってアンタかい?」

「あ、いや今は臨時指揮権で別の人が」

「じゃあその人に会わせてもらえねえかい? 聞きたい事があるんでよ」

「了解しました。失礼ですが、こちらの事情は…」

「加山から多少聞いたぜ。正直、老いぼれの頭には何が何だか分からねえが」

「誰もが、ですよ」

「じゃあ行くとすっか、大神~テメエも来い」

「はい、司令……じゃなくて中将」

 

 つい前の呼び方をした大神が慌てて言い直し、冬后の先導で追浜基地へと向かう。

 最後尾となったかえでがちらりと後ろを見ると、トラックから降りてきた兵隊達が、ある者は緊張した顔で、ある者は渋い顔でこちらの方を睨んでいた。

 

「米田中将じゃなかったら、抑えられなかったわね………花小路伯爵と加山君に感謝しないと。けど、事態はそこまで深刻になっている?」

 

 

 

「人類統合軍極東方面軍、門脇 曹一朗 元・中将です」

「大日本帝国陸軍、米田 一基 元・中将だ。あんたも楽隠居引っ張りだされた口かい?」

「ええ、まあ」

 

 追浜基地の会議室で、二人の老将が握手をかわす。

 

「資料は読ませてもらったが、今一分からねえ、異世界ってのがよ。だが、この部屋に来るまでに見た物が、少なくても帝都に無さそうだっての位は分かる」

「それだけでも理解していただければ、話は早い」

 

 米田が格納庫で見せられたソニックダイバーや会議室の各種電子機器を見ながら呟き、門脇は小さく頷く。

 

「それらを踏まえて、聞きたい事が二つ。これからあんたらがどうしたいか、そしてこれからどうなるか」

「最大の目的は、無論元の世界への帰還という事になります」

「あては?」

「前回共闘した組織で、こういう異世界への関与への対処を目的とした《G》と呼ばれる組織との関わりが若干あります。我々がここに来る直前、そのGの者が間近におり、今こちらを帰還させるべく、尽力している物と」

「帰るあてはあるって事かい。ただ」

「正直には帰れない」

 

 門脇の言葉に、米田の顔が険しくなる。

 

「米田中将、彼らの転移は、明らかに人為的な物です。こちらに来た人間は、明らかに選別されている模様です」

「ま、こんなどでかい施設が自然に出たり消えたりされても困るけどよ」

「たまにあるってGの連中言ってたような………」

「だが、人員選別となれば話は別では?」

「確かに、な」

 

 同席していた冬后の呟きに、大神もある種の確信を込めて反論する。

 

「最大の問題は、別に在る。と言うよりも、更に大きくなりつつある」

「なぜ、仕掛けてこねえのか」

 

 門脇の言わんとする事を、予感していた米田が代弁し、門脇は頷く。

 

「確かにおかしいです。自分の時は、大抵戦場に跳ばされる事が多かったんですが………」

「そりゃこっちも同じだ。行く先々でひでえ目に有った」

「今回は違う。これだけのお膳立てをしておきながら、何もリアクションが無い」

「確かに、おかしい話だな。仕掛けるなら、向こうが気付く前に一気にけしかけるのが戦術の基本中の基本だ。政治的取引があるって訳でもあるめえし」

「これをしたのが何者かも分からないのに、政治的取引も何も………」

「それこそ、向こうから姿を現して行う物では?」

「もしくは………」

「失礼します」

 

 ある可能性に四人がたどり着きかけた所で、ドアがノックされ、険しい顔つきの初老の将校、攻龍の元・副長の嶋 秋嵩 元・少将が顔を出す。

 

「ソニックダイバーの再武装を終了、追浜基地設備の各種点検も終わりました。ただ、自家発電でどこまで電源が持つかまでは………」

「仕方あるまい。元々訓練基地だ、軍事基地ではない」

「電源ならすみれ君が、いや帝国華撃団の技術的後援の神埼重工が最新型蒸気機関を用意してくれている。規格が合うかどうかが問題だが………」

「ワーム大戦の時を思い出すな、あの時も使える物は何でも使った物だ」

「全くです。動力源なら、発電機に繋いでしまえば使えるはず」

「自転車こいだ時よりはマシですな」

「どんだけ切羽詰まった戦いを?」

「さすがに自転車こいだ事はねえな………」

 

 人類統合軍の三人がかつての大戦を思い出し、その内容に帝国軍の二人が僅かに引く。

 

「つまり、ほぼ戦闘準備が整った」

「それを、待ってたってのか? それならつじつまは合うが、理由が分からねえ」

「ソニックダイバー隊と、帝国華撃団を、一緒に戦わせるために?」

「そういう事に、なるのか?」

「なぜ、わざわざこちらの戦力を増やすような事を………」

「大神さん、いますか? すみれさんが色々持ってきてくれたそうです」

「分かった、今行くよ」

 

 誰もが疑問だらけの中、さくらの声に大神が返答する。

 

「すいませんが、資材が届いたようなのでこれで」

「オレも行こう、中身を確認したい」

「そちらは頼む」

「オレも一度帝国劇場に行ってくる。何が起きるかは分からねえが、華撃団だけじゃなく軍に準備させる必要もありそうだしな」

「坂本少佐はまだ戻らないのか?」

「先程従兵から直に戻ると連絡が」

 

 予想される敵襲が近づいてきているであろう可能性に、指揮官達の動きがにわかに慌ただしくなってくる。

 

「何が攻めてくるのか、そして我々だけで対処出来るのか………」

 

 門脇の呟きは、彼の内心の焦りを現していた………

 

 

 

「それはこちらに! 蒸気機関はどちらへ?」

「あっちの発電室だ! 僚平、繋いどけ!」

「うへえ、久しぶりの徹夜仕事の後なのに」

「手伝うで」

「皆さ~ん、朝ごはんですよ~」

「たくさん食べてくださいね」

 

 大型トラック数台が乗り付けた格納庫前で、すこし強気そうな雰囲気をまとった女性、元帝国華撃団花組、現・神埼重工取締役の神埼 すみれが荷降ろしを指示し、タクミとさくらと芳佳が三人で作ったオニギリを配っていた。

 

「お久しぶりです、すみれさん。すみれさんもどうですか?」

「せっかくですからいただきますわ。それにしても、随分と変わった機体がありますのね」

「ソニックダイバーの事ですか? 話どこまで聞いてます?」

「詳しい所までまだ。昨日の深夜、いきなり大神大尉に電話で起こされて協力して欲しいと懇願されたとしか。他でもない大尉のお願いですから、こうやって赴いたまでですの」

「それはすいません。こっちもあるだけので足りなくて………」

 

 タクミがすみれに頭を下げる中、幾つかの武装が降ろされていく。

 

「霊子甲冑用の武装試作機、20粍機関銃とシルスウス複合鋼剣と槍、その他持ってきましたけれど、そちらの方々、霊力持ってますの?」

「あ~、それはちょっと………」

「念のため、徹甲弾と炸裂弾の複合弾帯を用意させましたわ」

「これ、FCSつけられるやろか?」

「つうか、こっちの剣、零神なら使えるかどうか………」

 

 各種武装を嵐子と晴子がチェックする中、トラックの一番奥に、すみれ色の霊子甲冑があるのに芳佳が気付く。

 

「これって………」

「私の光武二式ですわ。手が足りない時はご助勢をしようかと思いまして」

「でもすみれさん、霊力が………」

「あらさくらさん、一線には出れなくても、まだまだ操縦の腕は衰えてませんわよ?」

「メシだメシ~ってすみれじゃねえか」

「あらカンナさん。あなたは相変わらずのようですわね」

「朝食が済んだら、試射させてもらっていいかしら?」

「FCSの取り付けが先や」

「これ、ゼロで持てるかな~」

 

 起きてきた者達や徹夜明けの者達が朝食と武装に群がり、格納庫内は喧騒に包まれる。

 それが、嵐の前の静けさである事を知るのは、それ程の時を必要とはしなかった。

 

 

 

同時刻 足立区上空

 

 東京湾上とは大帝国劇場を挟み、ちょうど対極線上にある地点に、異常が起き始めていた。

 

「あれ、何だ?」

 

 朝一で家の前を掃除していた住人が、虚空に浮かぶ奇妙な物に気付く。

 最初は雲かと思っていたが、すぐにそうでないと知る。

 それは始終形を変え、漂うそれは霧のようだったが、やがて渦を巻き始める。

 一人、また一人と住人達が異常に気付く中、渦巻く霧はどんどんその大きさを増していき、やがて竜巻と言っても過言ではないレベルにまで成長した。

 

「なんだぁ!?」

「旋風だ! 家の中に入れ!」

「あれが!?」

 

 住人達が騒ぎ、慌てて屋内に避難しようとする中、更に予想外の事が起きる。

 霧の竜巻の中から、何かが飛び出してきた。

 鋭角な胴体を持ち、三角形を組み合わせたようなその異形に、気付いた者達は絶句する。

 それは、まだこの時代に存在しないはずの物、ジェット戦闘機にも見える存在だったが、その表面は縞模様のような物が明滅し、更にまるで振動でもしているかのようにその姿はぶれて見える。

 

「何じゃありゃあ!?」

「誰か警察、いや軍隊、いや帝国華撃団に連絡だ!」

「華撃団の連絡先なんて知るか…」

 

 住人達が騒ぎ始める中、突如として出現した謎の機体から、噴煙を上げて何かが発射される。

 

「え…」

 

 発射されたそれは、そのまま一気に下降して建物に激突、爆発を起こす。

 

「こ、攻撃だ!」

「逃げろ~~!!」

「おい、他にも出てくるぞ!」

 

 悲鳴と絶叫が飛び交う中、霧の竜巻の中から、似たような物が次々と出現していく。

 のみならず、同じように鋭角に尖った胴体に、不自然に尖った足を持つ奇妙な物体、未来ならば歩行戦車と呼ばれる兵器に似た物も次々と降下してくる。

 それらこそが、まごうことなき、《敵》だった……………

 


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