第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP36

 

異なる世界 日本某都市

 

「きれいに無くなってんな………」

 

 小高い丘から、一人の少年がある場所を見ていた。

 その視線の先には、少し前までIS操縦者育成を目的としたIS学園が有ったはずだが、そこは巨大な何かでえぐられたように、何も残されていない。

 突然のIS学園の消失は、世界中でトップニュースとして扱われ、消失からしばし経った今でも、報道関係と思われるヘリが上空に数機いるのが見て取れる。

 

「あいつが死んだ、とは思えねえし。一体何がどうなってやがるんだ? どこにいんだよ一夏」

 

 そう呟く少年、一夏の友人の五反田 弾はため息と共に友人の無事を祈る。

 

「あなたは織斑 一夏の友人ですか?」

「そうだけど………え?」

 

 突然掛けられた声に弾は思わず応えるが、周囲を見回しても人影は見えない。

 

「今、どこから………」

「織斑 一夏の友人で間違いないのですね?」

「………へ?」

 

 声の先を見た弾が、自分の足元、そこにいるあまりに小さい人影を見つける。

 

「フィギュア? いや小型ロボット?」

「故あって、ここを監視している者です。詳細は名乗れません」

 

 その手のひらサイズの少女型ロボット、ただし全身をごついプロテクターに包み、額にゴーグルのようなパーツと右肩に砲身らしき物、足のプロテクターには戦車のような履帯まで付いている謎の存在に、弾は思わず間抜けな声を漏らす。

 

「信頼出来る方をずっと探していました。ある事実を伝えるために」

「事実?」

「IS学園の方々は無事です。ただ、すぐには戻れない場所にいます」

「戻れないって………」

「私が伝えられるのはここまで、これにもう少しだけ情報が有ります」

 

 そう言いながら、その奇妙な少女型ロボットは背中からデータメモリを差し出す。

 それを受け取った弾はそれをしげしげと見つめる。

 

「これは………」

「折を見て公開してください。私は任務を続行します」

 

 言うや否や、その少女型ロボットは素早い動きで物陰に隠れてしまう。

 

「おい、ちょっと!」

 

 すでに見えなくなった相手に弾は何かを言おうとするが、もう影も形も見えなくなっている事に気付く。

 

「折を見てって言われても………」

 

 なお、帰宅した弾がデータメモリの中身を見ると、IS学園消失後の日付になっていて、一夏や他の生徒達の複数の写真や、ISとは違う何かと試合している写真、そして見た事もない何かと共同で戦っている写真を確認している時に妹に見つかり、その日の内にネットに全公開されて大騒動になるのは、また別の話。

 

 

 

太正十八年 帝都東京沖 追浜基地

 

『取り敢えず、設備関係の修復は終わりました。大型転移装置は設置自体は完了しましたが、これから調整に数日かかるそうです』

「何か問題は?」

 

 追浜基地の司令室で、ジオールからの学園の近況報告を冬后が確認していく。

 

『今の所は大丈夫です。嶋少将の助言を元に役割分けが進んでますので定期パトロールの順番で少し揉めてるくらいで』

「学生連中じゃ警戒行動はした事無いだろうからな。坂本少佐からは有視界警戒は必須と言われたし」

『いえ、誰と組むか。というか織斑さんと組みたいという人ばかりで………』

「………苦労してんな、そいつ」

 

 呆れる冬后だったが、そこで表情が少し険しくなる。

 

「で、そっちの装備の稼働率はどこまで回復してる?」

『私個人の見解だと、おそらく30%前後。ISは部品、弾薬の欠乏が出始めてますし、パンツァーに至ってはブリッドの欠乏で戦力が著しく落ちています。それと、ISの専用機持ちの方を中心にPTSDの症状が出ています。設置された教会や神社がカウンセリングに役立ってますが………』

「問題が日を追って山積みになってくな………」

『警戒態勢なら私達とエイラさん達、コンゴウさんとでどうにかなりますが、三度目の襲撃が有ったら保証は出来ません』

「次がどこかは分からないけどな。ここかもしれないし、パリかニューヨークか、それとも全く違うどこかか。坂本少佐が言うには、カールスランドと扶桑の双方から知らせられるだけのウィッチに厳戒態勢が出されたらしい」

『G本部でもメガバースの広範囲探索を行ってる模様ですが、何せ無限とも言っていい範囲では………』

「取り敢えず、転移装置とやらの設置も終わったようだし、正式稼働すれば連携も取れる。それまで各所で警戒するしかないな」

『ここの生徒の皆さんはすでに交流試合の事で頭がいっぱいのようですが』

「まあ、それはそちらに任せとけ。こっちも出たがる奴ばかりで苦労したが」

『でしょうね………とにかく、そちらの準備も有るので、報告はこれ位で』

「どんな些細な異常でも連絡を送ってくれ」

『分かりました』

 

 通信を終えた所で、冬后は大きく息を吐く。

 

「大丈夫ですか?」

「なんとかな」

 

 通信機を操作していたタクミが声をかけてくるが、冬后は少し疲れた声で応える。

 

「話が通じる奴ばかりの分、ワーム大戦の時よりはずっとマシだ。問題が山積みってのは変わらないが」

「早ければ明日にでも転移装置は稼働できそうですし、そうなったら大分楽になると思いますよ、多分………」

「物資のやり取りの簡易化だけでも大分違うな。母船の方はどうなってる?」

「幾つか用意を進めてるようですが、難航してるみたいです。華撃団の母船の改装案も出てるみたいですけど。あ、そう言えば攻龍を持ってくるって話も有るとか」

「解体じゃなかったか?」

「解体って事にして、Gで保管してたらしいです。転移を繰り返したサンプルとして」

「まあ、この際それはありがたいが………そういや、桜野の方はどうなってる?」

「なんでも、一緒に来る研修生の人達と仲良く訓練してるそうです。カーゴベースで素振りしててなんか狭いって遼平さんが」

「そっちは大丈夫そうだな………」

 

 冬后は苦笑しながらも、問題を片付けられる所から片付けるべく、その場を離れた。

 

 

 

「ふぁああ~」

「マスター、寝不足?」

「ちょっとな」

 

 生あくびを噛み殺しつつ、寮の自室から教室へと向かう一夏だったが、肩にいるツガルが心配そうに声を掛けてくる。

 

「ここ数日、どうにも寝付きが悪くてな~」

「大丈夫? なんか、深海棲艦と戦った人は夜うなされてる人いるらしいよ?」

「そうなのか、そう言えば…」

 

 何気に話しながら、設置されて間もない神社と教会の前を通り過ぎようとした所で、そこから出てきた鈴音とシャルロットとばったり出会う。

 

『あ………おはよう』

「おはよう、二人とも朝からお参りする程信心深かっ…」

 

 二人揃ってバツの悪そうな顔をする鈴音とシャルロットに思わず聞こうとした一夏だったが、二人の目の下にクマが有るのに気付いて最後まで言わずにおいた。

 

「最近、毎晩嫌な夢ばっか見て………」

「艦娘の人達が言うには、深海棲艦の瘴気?だかにあてられたせいだから、こういう所でお祈りして払えばいいって聞いたんだけど………」

「効果出てるのかな………?」

「さあ? そっちの方は専門外」

「あらあら、二人共情けないですわね」

 

 明らかに自分より状態が悪い二人に一夏とツガルが心配そうに首を傾げるが、そこへセシリアが声をかけてくる。

 

「慌ててお祈りしなくても、私のように品行方正と日曜礼拝を欠かさない信心が有れば…」

「………セシリア、右目の下、落ちてる」

 

 胸を張るセシリアだったが、一夏が耳元で呟くと慌てて背を向け、懐からコンパクトを取り出してファンデーションでクマを隠す。

 

「あ、今のはその…」

「無理しなくていいわよ、皆似たような状態みたいだから」

「ラウラは平気みたい。対尋問訓練みたいな物だって言ってた」

「何か違うような………」

 

 取り繕うとするセシリアを、鈴音とシャルロットはむしろかばい、一夏もうなだれる。

 

「う~ん、もっとこう簡単に瘴気とかいうの払う方法ないかな?」

「あるぞ」

 

 ツガルが呟いた所で、突然背後から声がかかり、皆が驚いてそちらへと振り向く。

 

「これだけ払っても払いきれぬとは、かなりしつこい瘴気のようじゃ」

「確かに」

「あ、Gの…」

「華風魔じゃ」

「ココロです」

 

 定期パトロール帰りか、パイロットスーツのままの華風魔とココロだったが、先程の発言に専用機持ち達は食いつく。

 

「本当に払えるの!?」

「無論」

「私達はその専門家ですから」

「出来るんだったら、頼みたいんだけど………」

「よかろう、そのために来たのだからのう」

「そうですね」

 

 鈴音とシャルロットがせがむ中、頷きながら、華風魔は腰の刀を抜き、ココロは腰のムチを持って一振りし、専用機持ち達の表情が凍りつく。

 

「あの、それで何を………」

「瘴気を斬る」

「払い飛ばします」

 

 セシリアが恐る恐る聞くのに、華風魔とココロは自信満々に己の得物を構える。

 

「で、誰から所望する?」

「オリジナル程ではありませんが、この聖鞭ヴァンパイアキラー・レプリカ、瘴気くらいは一撃です」

 

 明らかに本気の二人に、専用機持ち達は畏怖するが、互いの顔を見て頷く。

 

『じゃあ一夏から』

「ちょっ…」

「ふむ、ではそこに直れ。下手に動くと諸共斬れるぞ」

「真剣はさすがにまずい…」

「分かりました。では行きます!」

「え、うぎゃあああぁぁ!」

 

 その日の内に、一夏が中学生に鞭でシバかれに行った、というあながち間違いと言えない噂が学園に広がり、放課後一夏は千冬に呼び出される事になった。

 なお、効果は抜群だった。

 

 

 

 数日前に完成したばかり帝都の桟橋に、ゆっくりとイー401の船体は近付いていく。

桟橋に立つ誘導員の指示に従って停止した船体にラダーが掛けられ、それの固定を桟橋に立つ作業員が確認した所で、船体から人影が現れた。

 

「いやー、やっと着いたー」

「周辺に異常も無し。これで護衛任務は終了」

 

 真っ先に降りて周辺を確認した、ポイニーとエスメラルダに続いて、船体を操作しているクルーを除いた他の面子も姿を現し始める。

 

「ようこそ帝都・東京へ」

「護衛任務、お疲れ様です」

 

 桟橋に出迎えに出ていたマリアとかえでが挨拶をする中、にこやかに笑顔を返しながらポイニーが握手をしようと手を差し出す。

 

「初めまして、私は『G』所属の…」

 

 その言葉と紹介が終わる前に、双方のすぐ脇を誰かが凄い勢いで駆け抜けていった。

 

『え?』

 

 ポイニーが振り返ると、ラダーを渡り始めた誰かに抱きつく人物がいた。

 

「心配したんだよ、ミサキちゃーん!」

 

 抱きついた当人、ユナが半泣きになりながらミサキにすがりついていた。

 

「ユ、ユナ。もう大丈夫だって連絡してたでしょう」

 

 ミサキも少し困ったような表情でユナを剥がそうとしていた。

 

「全然、通信には出てくれないし、メールは通じないし、姿確認できないと心配だったんだもん。怪我は本当に大丈夫?」

「ちょ、あちこち撫で回さないで、恥ずかしいから」

「ユナさん心配で普段より15分も寝る時間短かくなったですぅ!」

 

 ユナの後に続いてきたユーリィも心配そうな顔でミサキにすがりつき、その様子を周りの人間はポカンとした顔で見ていた。

 

「ユナちゃーん、ユーリィちゃんも心配だったのは分かるけど。張り切りすぎだよ」

 

 呆れた声で音羽が二人に声をかける。

 

「ま、直接連絡が取れずに心配したのは私達も同じだけど」

「私用通信が制限されてたからね」

「お疲れ様です。音羽ちゃん」

 

 桟橋に同じように音羽を迎えに来ていたスカイガールズの面々が苦笑しながら、その様子を見ていた。

 

「ただいま皆」

 

 その場の雰囲気に取り残されたポイニーが後ろを向いた状態で呆気に取られる中、動揺してなかったエスメラルダがいまだにミサキの体をあちこち調べるユナの肩を叩く。

 

「貴方が神楽坂 ユナね。『G』の報告書で見た。はじめまして、私はG本部所属、力天使エスメラルダ」

「あ、この前に直接学園に行った人だね。ちゃんと挨拶するのは初めてだね。私、神楽坂ユナ、現役アイドルで《光の救世主》だよ」

「ユーリィ・キューブ・神楽坂ですぅ!」

 

 互いの自己紹介を見て我を取り戻したポイニーが苦笑を浮かべていたマリアとかえでに向き直る。

 

「改めてはじめまして。G所属の権天使のポイニー・クーンです」

「ユナさんの言うとおり、この前は挨拶する暇も無かったわね。帝国華撃団の藤枝かえでよ」

「同じく帝国華撃団副隊長のマリアです。指令が多忙のために代理でお迎えにまいりました」

「どこも慌しいですね」

「まったくね」

 

 そう言って両名とポイニーは握手を交わす。

それとは対比的にエスメラルダは挨拶の後はいまだにミサキに抱きついたままのユナを無遠慮に観察していた。

 

「え? 何?」

「ユナ、いいからいい加減離れて…」

 

 なんとかユナを振りほどこうとしていたミサキだったが、背後から感じた視線にその手を止めて、わずかに体をずらしてユナを視線からわずかに隠す。

 

「へ~君があの『光の救世主』なんだね~」

 

 視線に続いてかけられた声にユナはそちらへと顔を向ける。

 

「ご紹介します、篠ノ之博士。彼女が神楽坂ユナ、私達の世界の光の救世主と呼ばれる存在です」

「どうもはじめまして、神楽坂ユナです。えーと」

「ユナ、彼女はあの学園で使われていたISの開発者、篠ノ之 束博士よ」

 

 力の緩んだユナをなんとか引き剥がしたミサキはさりげなくユナを背後にかばいつつ互いを紹介する。

 

「よろしくねユナちゃん!」

 

 陽気に挨拶する束だったが、その視線はエスメラルダを上回る強さでユナを見つめていた。

 

(後ろのエスメラルダも遠慮なくユナを評価しようとしてたけど、篠ノ之博士のは評価、というよりも観察対象を見る科学者ね。人としてみてるかも怪しいぐらいね)

「そちらの皆さんもよろしくー! 見学にきました篠ノ之 束さんだよー」

 

 ミサキの内心を知ってか知らずか、華撃団やスカイガールズに束は声をかけていた。

 

「姉さんが…初見の人に挨拶を?」

 

 束の背後、激しく動揺している箒にねじるはいぶかしげな顔になる。

 

「いや当然だろ?」

「姉さんはそれが当然じゃないんだ………」

「そーなのか?」

 

 そんな会話をしながら、それぞれがラダーを降りていく。

 

「それではGのお二人は司令室で大神指令がお待ちしております。篠ノ之博士と学園からの見学者の皆様は、ミサキさんが案内しますので基地の見学にお回りください。途中まではこちらのマリアがお連れします」

「了解しました。エスメラルダ、ポイニー両名、司令室へ出頭します」

「いやー楽しみだなー」

 

 かえでの案内にただ一人ユナが動揺する。

 

「え? ミサキちゃんも見学なの」

「見学の案内よ。悪いけど仕事だからユナ、また後でね」

「ぶー、きっとだよ」

「おやつ用意して待ってるですぅ!」

 

 しぶしぶユナはミサキから離れた。

 

「さーて私はゼロの調整の手伝いかな」

「その前にあなたも報告よ、門脇中将と緋月少尉、冬后大佐が追浜基地で待ってるわ」

「うわー、そうだった。僚平は?」

「僚平は零神の最終調整を優先させるから、倉庫直行だってさ」

「整備班の皆さんが準備万端で待ってましたから」

 

 音羽を連れて、スカイガールズの面々が、かえでに連れられてGの天使達が、マリアとミサキに連れられて見学組が、それぞれへと向かう。

その姿が消える前に、401のハッチにタカオのパネルが浮かび上がる。

 

『ちょっとー、カーゴスペースそのままなんだけどー、まさかこのまま居座るんじゃないでしょうね?』

 

 生憎、答える者は誰もいなかった。

 

 

 

「ここが………」

「なんかすげえな」

「へ~」

 

 イー401の帝都到着と共に、帝国華撃団地下基地へと案内された箒、ねじる、束の三人は、予想以上の規模に驚いていた。

 

「蒸気機関で全部動いてるって話だけど………」

「いかにもスチームパンクって感じだな」

「なるほど~、そういう方向性で技術が発展するとこうなるんだ~」

「蒸気革命と言われる特殊な産業革命が有ったため、この方向に発展した模様です。多分皆さんの知ってる大正時代よりもずっと技術は進んでいます」

「お、あんたらやな。ここの責任者の李・紅蘭や。よろしゅうな」

 

 自分達が知る施設とは全く異なる技術に三人が興味を示し、ミサキが説明する中、紅蘭が挨拶しつつにこやかに手を差し出し、それを束が握った事に箒が驚く。

 

「篠ノ之 束だよ、よろしく」

「お、聞いてるで。ISとかいうの造った人やろ? あんたら未来の人から見たら時代遅れかもしれへんけど、一応これが今の帝都の技術の最新鋭やさかい、なんでも聞いてや」

「また姉さんが初見の人物に挨拶してる………」

「だからそんなに珍しいのか?」

「昔は私と一夏と織斑先生以外とは相手にすらしなかった」

「珍しい物見て興奮してんだろ」

 

 明らかに普段と態度の違う束に、箒は不信感を抱くが、紅蘭の説明に根掘り葉掘り質問を繰り返す様子に、ねじるの意見が正しいのかもしれないと思い直す。

 

「あれが今ウチで使っている光武二式、そちらが移動用列車の轟雷号に、向こうに空中母艦の翔鯨丸が置いてあるんや」

「武装列車に装甲飛行船まで………」

「これ、こっちでも使えないか?」

「そういう意見も出とるんやけど、いかんせん、轟雷号はレールが無いとこに行けんし、翔鯨丸は他のとこみたいに速く飛べへんから」

「それをクリアすれば使えるって事だよね? 技術格差の分、むしろ外付けで防御装置や兵装積んでみるのはどう?」

「それはおもろい意見やな! 具体的には…」

 

 何か議論が白熱している紅蘭と束を横目で見つつ、箒は轟雷号の方へと近寄ってみる。

 

「ISの母艦運用なんて、多分誰も考えてないわね。ISの速度に下手な航空機じゃ追いつけないし」

「こっちじゃ、一応軍や警察にパンツァー部隊はいるけど、こんなデカいのなんて使ってるとこはないな。まあ、ここのは使ってる機体もでかいし」

「前回にこちらで使ってた母艦はダメージがひどくて廃艦になったわ。代わりのはいつ完成するか分からないし」

 

 ねじるも色々興味深そうに見ながら頷き、ミサキも束の方に注意しつつも色々と説明する。

 

「あら、新顔かしら?」

 

 そこで背後から声を掛けられた箒が振り向き、そこにいた琴音達薔薇組の姿に凍りつく。

 

「あなた、どこかで見た気が………そうそう、音羽ちゃんと試合してた子じゃない」

「し、篠ノ之 箒です………」

「帝国華撃団 薔薇組、隊長の清流院 琴音、こちらは部下の斧彦と菊之丞よ」

 

 自己紹介しながら差し出された手を、箒はぎこちなく握る。

 

「そっちの子は、確か前々回の襲撃で足を怪我してた子じゃなかったかしら? もう大丈夫なの?」

「あ、ああ。もう治ってる」

「無理はしちゃダメよ~、困った時はお互い助け合いましょう」

 

 体格とは壮絶に有ってない口調で話しかけてくる斧彦に、ねじるは引きつった笑みで返すしかなかった。

 

「それじゃ、私達は仕事があるからこれくらいで。よく見てくといいわ」

 

 手を振りながら去っていく薔薇組に、箒とねじるは引きつった顔で指さしながら紅蘭とミサキに説明を求める。

 

「ああ、あの三人組はウチの補助部隊や。見た目はちと変わっとるけど、結構優秀なんやで」

「ビジュルアル的に問題は有るけど、仕事は堅実にこなすわ」

「色々な部隊があるんだね~」

「………見なかった事にしよう」

「ああ」

 

 何故か納得している束だったが、箒とねじるは脳内から消去する事にした。

 

「そういや転移装置とかいうの、明後日あたりから正式に使えるらしいで。それ動いたら、すぐに戻れるやろけど、どうするんや?」

「私はもうしばらくこっちにいるよ。会議の時は戻るけど」

「私も色々知りたい事があるから、しばらくは…」

「オレはレポートあげなきゃなんねえし」

「さよか。ま、動いても人の方は許可制になるらしいで。物資は最優先らしいやけど」

「昨日の通信で、艦娘の人達が結構大食漢で食料が怪しくなってきたとか言ってたような………」

「どりすも相変わらずらしいぜ。普通の食事も少しは食うようにしてるらしいが」

「どこも食い物は大切やな~」

 

 とめどない事を話していた所で、一行はある部屋の前に立つ。

 

「さて、一番見せたかった所はここや」

「倉庫か何かに見えますが………」

「元は、やけど」

 

 そう言いながら紅蘭は扉を開き、その中にある物を見せる。

 

「な、何だこれ………」

 

 室内には複数の観測機器のような物が置かれ、それらが取り囲む先に有る虚空の渦にねじるが思わず呟き、箒は絶句していた。

 

「ああ、来たか」

「来たで宮藤博士。こちらはストライカーユニットの開発者の宮藤 一郎博士や」

 

 それらの観測機器のそばで観測結果を見ていた宮藤博士を紅蘭が紹介する。

 

「IS開発した篠ノ之 束だよ、よろしく」

「噂はかねがね」

 

 束は自己紹介するが、その視線は背後の観測機器に表示されるデータに向いていた。

 

「あの数値、本当?」

「一応ね」

「ふ~ん………」

 

 束は他の観測機器、複数の世界から持ち込まれたのか、技術レベルが違うそれらの示すデータを見回し、首を傾げる。

 

「そもそも、これがいきなりここに現れたのが全ての始まりや。この渦は、ウィッチの養成学校に繋がっとる。色々な世界の技術で調べたんやけど、なんでこれがここにあるのか、どうしても分からへん」

「こちらの技術で調べても、原因は不明。非常識としか言いようがない状態よ」

「へ~」

 

 紅蘭とミサキの説明を聞きながら、束はその渦、転移ゲートにいきなり頭を突っ込む。

 

「おい!?」

「姉さん!?」

 

 ねじるが仰天し、箒も思わず姉を引っ張ろうとするが、首から先が向こう側にあるにも関わらず、何を見たのか束の尻が楽しげに揺れているのに気付き、手を止める。

 

「面白いね~。本当に全然違う所に繋がってる」

 

 頭を引っこ抜いた束が心底楽しそうに笑っているのを見た箒は、思わず背筋に寒気が走る。

 

「あの? 今こちらに来られた方は?」

 

 束がこちらに戻ってくるのと入れ替わりに、困惑した表情を浮かべた静夏がゲートの向こうから顔を覗かせる。

 

「驚かせてすまんな静夏はん、連絡しておった学園からの見学者の皆さんや」

 

 紅蘭の説明に、慌てて静夏は束達に敬礼する。

 

「失礼しました! 自分は扶桑のウィッチ養成学校所属の服部 静夏軍曹です」

「驚かせてすまん。私はIS学園の篠ノ之 箒。先ほどそちらを覗いてたのは姉の束だ」

「オレは東方帝都学園の我王ねじる。扶桑って、あちらの日本の事だったか。あのサムライ少佐もそんな名乗りしてたな」

「坂本教官の事ですか?」

「教官って、そうかあんたサムライ少佐の教え子か」

「あの、坂本教官ひょっとしてそちらでも厳しい指導をなにかされたのでしょうか」

「…まぁ想像通りの事態だと思ってちょうだい」

 

 ミサキの返答に、静夏は思い当たるふしがあるのか少しだけ遠い目をした後、すぐに真顔に戻る。

 

「そうします。それでは私は任務中ですのでこれで失礼します」

 

 静夏がゲートの向こうへと戻るのを見ていた束だったが、視線の片隅は観測機器へと向けられていた。

 

「人が通過しても観測結果に揺らぎも出ないのかー。完全この状態で安定しちゃってるんだねー」

「この渦が安定してるってのも信じがたいが、事実だ」

 

 束の言葉を宮藤博士も肯定する。

 

「でも異世界への転移ってのが、ここまでエネルギー食うとはね~。この小さい渦に、今学園で使ってるジェネレーターフル出力並のエネルギーが常時消費されてる事になるね」

「え………たったこれだけに?」

「マジかよ………」

 

 ISでは通れなさそうなサイズの転移ゲートの消費エネルギーに、箒とねじるも驚く。

 

「いや~、ホント来てよかったよ。面白いものばっかりだね~」

 

 そう言う束の笑顔に、箒は思わず生唾を飲み込む。

 

(織斑先生、やっぱり私では手に負えないかもしれません………)

 

 

 

 コンゴウの艦体から伸びるケーブルの上を、手のひらサイズの赤いバイクのような物が疾走する。

 

「うわ!」

「きゃっ!」

「どいてどいて~」

 

 その超小型バイク、アークトライクモードの武装神姫、アークが驚く生徒達を尻目に、ケーブルの上を縦横に疾走し、やがて転移装置の元へとたどり着く。

 

「マスター、目視確認終了! 異常なし!」

「ありがとアーク」

 

 マスターである亜弥乎へと報告したアークがその肩へとよじ登る。

 

「全回線チェック完了」

「予備回線もOK」

「じゃあコンゴウ、よろしく」

『分かった』

 

 ようやく全ての設置が完了した大型転移装置に、コンゴウへと接続されたケーブルから大出力の電力が供給され、重い音を立てて装置が起動、大型サークル状の装置が淡い光を放つ。

 

「起動確認、各部チェックを」

「今の所問題は無い」

「安定してるね」

「ようしコンゴウ、後はいいわよ」

 

 エミリーの指示でチェックが促され、起動が正式確認された所で、コンゴウからの通電が止まる。

 

「じゃあ続けて転送実験しますね」

「これがうまく行ったら、後は問題ありませんね」

「そろそろ物資足りなくなってきたしね」

 

 エミリーが転送プログラムを起動させる中、狂花と亜弥乎もチェックを走らせながら呟く。

 

「じゃあ始めます」

 

 エミリーが転送プロセスを起動、大型サークルが一瞬発光したかと思うと、そこに複数のコンテナが現れる。

 

「実験確認、これで全部問題無しです」

「じゃああとよろしく~」

 

 ヒュウガが声を掛けると、控えていた生徒達がコンテナへと群がり、それを開放して中に有った生鮮食品を取り出して運び始める。

 

「大丈夫だと思いますけど、状態チェックしてからにしてくださいね~」

「状態に問題は無いと思うわよ。賞味期限が分からないのは問題だけど」

 

 エミリーの注意に、仕分け担当になった鈴音が野菜などが新鮮なままだが、付けられている製造年月日の世紀単位の違いに眉を潜める。

 

「他の転移装置ともリンクしますから、ここから東京、パリ、ニューヨークの三箇所にも行けるようになります」

「じゃあ箒はすぐ帰ってこれそうね」

「あ~、なんか束さんの動向が怪しいから、しばらく戻れないかもしれないって連絡来てたぞ」

 

 鈴音が呟いたのを、仕分けを手伝っていた一夏が反論する。

 

「やっぱ、あの人行かせたのまずかったんじゃ………」

「すごい積極的にあれこれ聞いて調べてるらしい。普段と違いすぎて怖いとも言ってたな~」

「研究熱心な方なんでしょう。私も似たような者ですし」

「どうかな………」

 

 エミリーの言葉に、一夏は首を捻る。

 

「向こうで変な物造り出してたりして?」

「有り得そうなのがな~」

 

 仕分けチェックしていたツガルの一言に、一夏の顔は更に渋い物になる。

 

「頼んでたの、来てるかな?」

「え~と、調味料だったね」

「こん中から探すんんかい………」

 

 そこにつばさとのぞみが結構な種類のリストから、頼んでいた物を探す。

 

「王宮料理とやら作ってみるんだっけ? なんなら手伝おうか?」

「その時は頼みます」

「レシピはどりあさんにもらったんやけど、うまく行く自信は全然ないわ」

「プリンセスのアレもどうにかした方いいな………」

「確かに」

 

 どりすの偏食解決のために、王宮料理の自作を試みる二人に、実家が中華料理屋だった鈴音は協力を申し出、一夏は毎食の惨状を思い出してツガルと共に呟く。

 

「うまくいったようだな」

「ええ、エネルギー提供ありがとうございます」

「あんた、それ死ぬ程似合ってないわよ………」

 

 そこへ転移装置の様子を見に来たコンゴウにエミリーが礼を言うが、何故かIS学園の制服姿のコンゴウにヒュウガが呆れる。

 

「洗濯している間、これしかないと言われた。老廃物の出ない私には必要ないと言ったんだが」

「そりゃ、同じ格好で何日もいればね………」

「ウィッチや艦娘達にも言われた。昨日はレトロ金剛に無理やり風呂とやらに入れられたし」

「なんか、ホントずれてるよね、この人………」

「人じゃないけど、他の人じゃない連中よりもずっとズレてるで」

「前から思っていたが、何故誰もが私に構うのだ?」

 

 つばさとのぞみが呟く中、コンゴウが小首を傾げる。

 

「そりゃあ、危ない所助けてもらったし。今この学園を護ってもらってるから」

「皆さん感謝してるんですよ。まあ超重力砲には皆さんドン引きしてましたけど………」

「成り行きだ。ここの守備は401に頼まれたからやっているだけだ」

「それでも助けてもらってる事には変わりないし」

 

 一夏とエミリーの説明に、まだどこか釈然としないコンゴウだったが、そこへ声が掛けられる。

 

「ミストコンゴウ、ここにいたネ。そろそティータイムの時間ネ」

「そうか」

「その前に、この中に頼んでおいた茶葉があるはずだから、探すの手伝ってほしいネ」

「分かった」

 

 茶葉を探しに来た金剛に、コンゴウはコンテナをアナライズしていとも簡単に紅茶の缶を見つけ出し、二人してその場を去っていく。

 

「………あれが一番謎だよな」

「性格真逆もいい所だし」

「金剛同士のせいでしょうか………」

 

 毎日のように一緒にティータイムをしているコンゴウと金剛に、その場にいる者達は首を傾げる。

 

「じゃあこっちのも探そう」

「さっきのアレ、あんたは出来ないんか?」

「出来ない事は無いけど、香辛料の違いなんて私には分からないわよ?」

「詰まる所はマニュアルしかないか………」

「じゃあ奥にないか探してみるね」

「手伝うよ」

 

 かなりの種類になかなか進まない仕分けに、ツガルとアークがその小柄な体躯を生かしてコンテナの中へと潜り込んで目的の物を探し始める。

 

「生鮮食品から優先して運んで。冷凍はコンテナごとかな~」

「いっそISで運ぶかな?」

 

 鈴音と一夏も仕分けを続行する中、ヒュウガは何気にコンゴウと金剛が去っていた方向を見る。

 

「マヤに似てるせいかしらね………」

 

 ヒュウガの呟きに気付いた者はいなかった。

 


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