第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP41

 

異なる世界 横須賀鎮守府

 

「損害は?」

「襲撃の報を聞いて駆けつけた呉鎮守府の部隊とも合わせて、機動艦隊の半数が大破もしくは中破、遭遇した者全員の報告は一致しています」

 

 提督執務室内で、鎮守府の指揮官である提督に秘書官の長門はある報告をしていた。

 

「敵は前回のような未知の敵ではないのは確かなんだな?」

「はい。ただ、深海棲艦が何らかの新兵器を投入したのではないかとの見解が」

「兵器、と言っていいのだろうか。報告通りなら………」

「はい、それは恐るべき力を持った、《刀》だったと」

「深海棲艦相手に近接戦になる事は珍しいが、無いわけじゃない。だが、それだけ強力な兵器が刀というのは………」

「しかも、どうやら深海棲艦が使いまわしていたとの話も有ります。かなり特殊な物かと………」

 

 詳細レポートを手にした大淀が、それを見ながら報告する。

 

「何が起きている? 艦娘の失踪、謎の敵の襲来、そして今度は未知の兵器の登場か………」

「前回助けてくれた、彼女なら何か知っているのかもしれませんが………」

 

 提督の呟きに、大淀は謎の敵の襲撃の時に助けてくれた、黒い少女を思い出していた。

 

「ああ、それともう一つ。これは重要では無いのかもしれませんが、妙な報告が」

「何だ?」

「鎮守府内で、小人を見たという報告が」

「妖精達じゃないのか?」

「それが、艦娘だけでなく、その妖精達からも報告が出ているんです。何か、変わった格好をしているとか」

「何だそれは?」

 

 提督だけでなく、長門も妙な報告に首を傾げる。

 

「危険が無いようならばほっておけ。見間違いかもしれないし」

「だが、ひょっとしたら深海棲艦が何か送り込んできた可能性も………」

「深海棲艦が妖精のような存在を使っているなんて話は聞いた事もありませんけど。ただ、小物が消えてるって話も」

「問題が増えていくな………」

 

 

「どうやら、状況に変化が起きたようね」

「ねえねえ、小人ってひょっとしてバーゼ達の事?」

「多分ね。なるべく姿は隠してたけど、妖精とかいうのがここにはいるみたいだし。本部への定時連絡まで状況が悪化しないといいんだけど」

「メイヴがこの間派手にやったしね~」

 

 

「む?」

 

 損害報告の詳細に目を通していた長門が、鋭い視線で天井を見つめる。

 

「どうかしたか?」

「いえ、今何か…」

 

 提督がそれとなく声を掛けるが、長門は天井を凝視する。

 直後、天井から小さな物音が響く。

 

「曲者か!」

 

 長門は叫びながら、手近に有った物を掴んで天井へと投げつける。

 投げつけられた物、提督の執務机は天井に激突、派手にめり込むと砕け散り、建材と共に崩落して机の上に有った書類を散乱させながら派手なホコリを巻き上げた。

 

「あ………」

「長門、普通は机は投げない物だ」

「ああ、すごい事に………」

 

 思わずしてしまった事に長門が我に返り、提督は呆れるが大淀は呆然としていた。

 

「そもそも、ここの天井と言っても、何か潜める程の空間は…」

「わ~~~!」

「キャ~~!」

 

 大淀が困惑しながら説明している途中、小さな悲鳴と共に机と建材のガレキの上に何かが落ちてくる。

 

「………え?」

「今のは………」

「いたね、何か」

 

 三人が驚いてガレキへと近寄ると、そこに全長15cm程の二つの人影が有った。

 

「なんですかこれ? 人形?」

「目回してるけど」

「一体これは………」

「あうう、ちょっとバーゼ! 貴方が物落とすから気づかれたじゃない!」

「バーゼ悪くないもん! スティレットだって足音立ててたし!」

「ちゃんと潜んでたわよ!」

「だって!」

 

 その小さな人影、片方は薄い青の長髪に、全身を青いプロテクターで覆い脚部にウイングの付いた者と、もう片方は灰色の髪に全身を白いプロテクターで覆い、背部に黒いウイングを付けた者だった。

 

「どうやら、これが噂の小人か」

「は! 見つかった!」

「見つかっちゃった~」

 

 提督がしゃがんでガレキの上の小人を見つめると、青髪の気の強そうな者は驚き、灰色の脳天気な方はむしろ笑っていた。

 

「妖精じゃないですね。完全に実体みたいです」

「だが、普通に喋っているぞ?」

 

 大淀と長門も不思議そうに小さな二人をしゃがんで見つめる。

 

「それで、君達は何者かな?」

「それは………」

「あのね、バーゼ達はフレームアームズ・ガール…」

「ちょっと!」

 

 提督の質問に、青髪は口ごもるが、灰色の髪は答えようとして慌てて口を塞がれる。

 

「フレームアームズ・ガール?」

「そんな物、聞いた事もないぞ?」

「ぐぬぬ………はあ~」

 

 大淀と長門が更に見つめてくる中、青髪はしばらく苦悶していたが、やがて諦めたのかため息をつく。

 

「改めて自己紹介を。私はFAF所属フレームアームズ・ガール、SA―16 STYLET」

「同じくFAF所属、YSX―24 BASELARDだよ♪」

 

 名乗ったフレームアームズ・ガール、青髪のスティレットと灰色髪のバーゼラルドに大淀と長門は顔を見合わせる。

 

「FAF、聞いた事の無い組織だな」

「そりゃそうでしょうね、この世界の組織じゃない物」

 

 提督の呟きに、スティレットが予想外の返事を返してくる。

 

「この世界? どういう事だ?」

「あの、ひょっとしてこの子達、この間の空飛んでた子の…」

「そ、あれは戦闘妖精 FRX―00 メイヴ。私達はそのサポートユニットみたいな物よ」

「この前ね~、メイヴは私達をここに投下するだけの予定だったのに、JAMが襲ってきたからそっち行っちゃったんだ~」

「つまり、あの襲撃の時から潜んでいた訳ですね」

「待て、あの敵はJAMと言うのか?」

 

 フレームアームズ・ガールの説明に大淀は頷き、長門は更に首を傾げる。

 だが提督は別の事を口にした。

 

「どうやら君達は色々知っているらしいが、一番重要な事を聞きたい。君達がこの鎮守府に潜入していた目的は?」

「私達の目的はここで入手できる情報を入手し、本部へと送信する事。もっとも本部から誰か来ないと送るに送れないけど」

「でもね~、もしバレちゃったらサポートに回っていいって」

「あの、それって?」

「私達は元は競技用に造られたの。それが何でか軍にスカウトされて、ここに送り込まれてね」

「バーゼ達だったら、あまり警戒されないだろうしって」

「そのために、プロテクトもそれほど固くないのよ。だから、こちらの知っている事はこれから教えるわ」

「そうしてもらえるとありがたい。ただまずは…」

 

 提督がうなずいた所で、執務室の扉が勢いよく開かれる。

 

「先程のは何事ですか!」

 

 飛び込んできた艦娘、陸奥が破砕されている天井と机、そして長門を見て何が起きたのかをなんとなく理解した。

 

「長門、貴方またやったのね………」

「すまない、つい………」

「明石に連絡しといてくれ。それと…」

「何事だ!」

「敵襲!?」

「提督は無事!?」

「あ~、大丈夫。長門がちょっと机投げて天井崩しただけだから」

 

 物音というにはデカすぎる音を聞いた艦娘達が、艤装や手近に有ったらしい武器(※掃除道具その他含む)で武装して執務室に突入しようとしてくるのを、陸奥が何とか抑える。

 

「それと、その子達は?」

「情報提供者のようなのですが………」

「どうも………」

「始めましてー。バーゼだよー」

 

 陸奥がガレキの上にいるフレームアームズ・ガールを指差し、大淀も困った顔で説明する。

 それに対しスティレットは気まずそうに、バーゼラルドは暢気に挨拶を返す

 

「おい、それ人形じゃないのか?」

「新しい妖精さん?」

「見えない~」

 

 同じく気付いた艦娘達が覗き込んでくるのを、スティレットとバーゼラルドが困惑するのを長門が拾い上げる。

 

「安心するといい。君達の身柄はこの私が保護しよう」

「そうしてもらえるとありがた…」

 

 好奇の視線に危険を覚えたスティレットが、長門に礼を言おうとそちらを見た時、そこにある獣のような目に気付いて硬直する。

 

「大丈夫だ。この私がつきっきりで保護する。何も心配ない」

 

 心なしか呼吸も荒くなってきている長門に、バーゼも危険を感じてスティレットの背中に隠れようとするが、そこを横から伸びてきた手が二人を長門から救出する。

 

「はいはい、話は私が聞いておくから、長門は自分のした事の片付けをしなさい」

「ぐ………分かった」

「では片付けが住むまで、別室で話を聞くとしよう」

「手空いてる子ちょっと手伝って~」

 

 長門がガレキと化した執務机や建材を運び出す準備をし、大淀がばらまかれた書類を何人かで集める中、提督と陸奥はスティレットとバーゼラルドを伴って別室へと移動する。

 

「さて、まずはどこから聞いた物か」

「こちらもどこから話したらいいか………っと、その前に他の鎮守府とやらにも襲撃が有ったのよね?」

 

 提督の呟きに、スティレットが確認してくる。

 

「そのようね。呉鎮守府を襲ったのはこちらのと何か違うようだけれど」

「じゃあ、そっちのデータある~? ひょっとしたらこっちのデータに有る敵かも~」

 

 バーゼラルドの脳天気な質問に、提督は顔をしかめる。

 

「呉の杉山提督は真面目が過ぎるからな………上を通さないと詳細情報は無理かもしれない」

「少し遠回しすれば何とかなるかも。あそこの提督、優秀なのは確かなんだけどね………」

「アレでも昔に比べれば少しはマシになったぞ。カッコカリとはいえ、所帯持つと変わる物だな」

「何の話?」

「こちらの話だ」

 

 スティレットが提督の方を見上げながら問うが、提督はため息で答える。

 

「ともあれ、君達の事をすぐに信用するかは未定だが、情報は欲しい」

「多分どこも同じような事言うでしょうね?」

「どこも?」

「あのね~私達以外のフレームアームズ・ガールが派遣された世界は他に二つ、どこも似たような状態らしいよ?」

「世界? 二つ?」

「………どうにも、長くなりそうだな」

 

 スティレットとバーゼラルドの話の端々に違和感を感じ、提督と陸奥は思わず顔をしかめる。

 

「けど、これだけは言えるわ。すでに二回の襲撃が起き、三回目はいつ起きるか分からない。下手したら、前回とは比較にならない規模になるかもしれない」

「だから~、潜入がバレたら早めに協力して戦力集めてだって~」

 

 三回目の言葉に、提督の顔が更に険しくなる。

 

「来るのか、アレ以上のが」

「断言は出来ないけれど」

「………そちらの次の連絡予定は?」

「明後日だよ~、もっとも何かあったら変わるかも」

「そうか。陸奥、至急各艦隊の旗艦を集めてくれ。あまりゆっくり聞いている暇は無さそうだ」

「この子達の言う事を信じるんですか?」

「まずは聞いてみる事だ。しかも早急に」

 

 予想以上に事態が深刻らしい事に、提督は即座に緊急会議を開く事を決定。

 ワラでも雲でも、掴める物をようやく見つけた事を悟りながら………

 

 

 

AD1929 パリ テアトルシャノワール

 

「これが大体の編成予定か」

「色々あるわね」

「あ、治癒能力持ってる人は救護班に登録してほしいそうなので、エリカこの後ミーティングに行きますね」

「こちらからもジョゼを行かせるか。他に該当するのはいたか………」

 

 会議の骨子で決まった統合組織編成案を、巴里華撃団、502統合戦闘航空団の双方が覗き込んでアレコレ考える。

 

「基本、こちらは各航空団をそのままシフトに当てるそうだが、501を再結成して専属にするらしい」

「今、転移装置をこちらの世界に移送する準備をしているそうですから、それが完了すればようやく任地に戻れそうですし」

 

 ラルとロスマンがガランドから先程来た通達に、ようやく胸を撫で下ろす。

 

「やっと戻れるのか。少し残念だな」

「セーヌ河の件ではお世話になりましたし」

「いやあ~、それなら戻る前に…」

「お互い様だ。気にすんな」

 

 グリシーヌと花火が残念がる中、クルピンスキーが調子に乗る前に直江が肘を入れつつ制止する。

 

「転移装置っての設置したら、こっちにもすぐ来れるんだよね?」

「装置の限界上、東京から扶桑のウィッチ学校経由する事になりますけど」

 

 ニパの疑問に、ラルの肩にいたブライトフェザーが答える。

 

「何だもうちょっと居てもいいのによ」

「ボクもそうしたい所なんだけどね~」

「お前ら、またカードで巻き上げる気だろ………」

 

 ロベリアがどこか含みの有る笑みにクルピンスキーも似たような笑みで答え、直江は呆れ果てる。

 

「所でこの統合組織、一番上が空欄になってません?」

 

 そこでふと皆で見ていた書類の一番の上にある空白部分にポクルイーシキンが気付く。

 

「あ、忘れていた。組織の概要は決まったが、まだ決まってない事が有ったな」

 

 ラルが手を叩いてガランドから最後に言われた事を思い出す。

 

「隊長、それは一体?」

「それは…」

 

 

 

ニューヨーク リトルリップシアター

 

『組織名?』

「そう、それだけ決まってない。というか決めるの忘れててね~」

「何か案が有ったら提出してほしいって」

 

 紐育華撃団、ウィッチ双方の前で、サニーサイドと圭子の発表に皆が顔を見合わせる。

 

「よし! 全世界華撃団で!」

「アフリカの星親衛隊で!」

「却下」

 

 ジェミニとマルセイユがいの一番に提案した組織名は圭子が一刀で切り捨てる。

 

「う~ん、色々な人達が参加するとなると決めるのも難しいですね」

「各自案だけ出して多数決するとか」

 

 ダイアナが考え込み、マイルズが妥協案を示す。

 

「多数決するにも、通信関係の統一もまだだしね。通信班の設立のためにプラムが今学園の方行ってるわ」

「そもそも、人種どころか人間じゃない連中もいるのに、色々統一出来るのかい?」

 

 ラチェットも考え込む中、サジータが一番の懸念事項を呟く。

 

「まあもめる事は有るかもしれないけど、一つだけどこも共通している点があるわ」

「それは?」

「危機感、だね」

 

 圭子の説明に、サジータが思わず問い返した所でサニーサイドが先に答える。

 

「どの組織も一回はJAMもしくはJAMが関連していると思われる敵と交戦している。そしてそのどれもが一筋縄じゃいかないってのも理解した。だから今回の組織設立に一気に傾いたって訳だ」

「つまらないショバ争いするような指揮官がいなかったのは幸運ね。こちらだと前に将校三人がウィッチの指揮権巡って殴り合いしたって話があるくらいだし」

「………多国籍部隊ってのも大変だな」

 

 サニーサイドの説明に圭子の追加がつくが、サジータは思わず呆れ返る。

 

「現状は多国籍どころではないと昴は思う」

「確かに、前の戦い以上に色んな人達いますけど………」

 

 昴の指摘に、真美が前回の事を色々思い出す。

 

「ま、うまくやってくしかないだろうね。次の襲撃がいつのどこでどんな敵が来るかも分からないなら、対処できる人達と仲良くしておくしかない」

「ぶっちゃけたわね。まあどこも同じ事考えてるでしょうけど」

 

 サニーサイドの極論に圭子は思わず苦笑。

 なお、その後組織名については延々と議論が続いたが、決定論は出なかった。

 

 

 

東京 追浜基地

 

「組織名………」

「前に部隊名考えようとして結局決まらなかった事有ったわね」

「結局、ニュースで言ってたのをそのまま採用しましたっけ」

「そんな理由で決まってたの………」

 

 音羽、瑛花、可憐が過去の事例を思い出し、エリーゼが呆れる。

 

「ま、一応意見が有ったらって事だ。研修生達にも言ってあるが、決まるとは思っちゃいない」

「失礼」

 

 冬后も部隊名の件を思い出し苦い顔をするが、そこに緋月が顔を出す。

 

「組織名の件、何か出ましたか?」

「いやさっぱり」

「そうですか。候補が決まっていたなら持っていこうかと思ったのですが」

「あれ、どこへ?」

「情報班結成に伴い、私がソニックダイバー隊担当として出向する事になりました」

「本職も結構いるらしいからな。騙し合いにならないようにな」

「そうですね」

 

 冬后の皮肉を本気かどうかも分からない表情で聞きつつ、緋月は転移装置へと向かっていく。

 

「情報、通信、感知、技術、治療と専門班も結構有りますね」

「状況いかんじゃもっと増えるかもしれないがな」

「人材は結構いますから」

 

 瑛花が現状で決まっている専門班を指折り数え、冬后も頷く中、可憐が送られてきた各組織のメンバーの情報を端末で確認していく。

 

「剣戟班は?」「帰国子女班は?」

「無いわよ」

「有ったら面白いね~」

 

 音羽とエリーゼの抗議を瑛花が怒鳴るが、音羽の頭上のヴァローナは笑っていた。

 

「まだ敵にも未知の部分が多い。戦術いかんじゃ案外必要になるかもしれないぞ」

「深海棲艦にゼロの攻撃効いてなかったし」

「帝都に現れたJAMの母艦には逆にクアドラロックが効いてましたね」

「どれに何が効くかをチェックするのがまず先決ね」

「戦闘妖精も全部把握してないんじゃない?」

「多分ね~」

 

 ソニックダイバー隊が今後の戦いに付いて喧々諤々の検討をする中、帝国劇場地下では別の議論が起きていた。

 

 

 

「やっぱ、元が帝国華撃団専用やから、他の機体積むのにも限度があるで?」

「私達は自分達自身とライトニングユニットだけ詰めればいいけど、大型となると難しいわね」

 

 翔鯨丸を前に、今後の母艦運用について紅蘭とポリリーナが話し込んでいた。

 

「特にソニックダイバーは、積むだけなら霊子甲冑用の空き部分でいいけどしれんけど、他にも色々いるんやろ?」

「ナノスキン塗布とかもあるしね。けど、相手がナノマシン使用型兵器なら、ソニックダイバーは極めて有効的な戦力になるわ」

「そやな~、そっち方面はこちらじゃ分からへんし」

「一応、ソニックダイバー隊の母艦を持ってくるって話も出てるようだけど、水上艦なのよね………やはり空中母艦が他にも欲しい所ね」

「あとは紐育華撃団のエイハブくらいやからな。けど他のとこも乗るとしたら問題山積みやで?」

 

 紅蘭も色々考える中、エミリーが翔鯨丸に続くタラップを降りてくる。

 

「そちらはどう?」

「強化プランですが、意外とうまく行くかもしれません。技術レベルが違いすぎて、むしろ完全に別システムになりますし」

「そりゃ、三世紀も離れてりゃそうなるわ………」

「香坂財団で建造中の次元間移動母艦が完成すれば、この問題は無くなるんだけど、まだしばらく掛かりそうらしいし」

「あれ、半分はエリカさんが自分の趣味つぎ込んだせいですよ? なにせ…」

 

 言葉の途中でエミリーの懐で携帯が鳴り、エミリーが慌てて取り出す。

 

「はいエミリー、ええ………分かりました。すぐ戻ります。すいません、ちょっと急用が出来たので、研究所に戻ります」

「行ったり来たりで忙しいこっちゃ。まあウチらもその内そうなるやろうけど………」

「技術班は特に忙しくなりそうね。霊子甲冑じゃ陸上戦しか出来ないし」

「空飛べても、攻撃効かんなら同じやしな。やっぱり、篠ノ之博士の提案、やってみた方ええかもしれんで?」

「合同模擬戦ね………確かに互いの戦力を知っておく必要は有るわ。問題はどこでどうやってやるかだけど」

「見事に陸海空とバラけよるからな………場所用意するだけで一苦労や。華撃団にそこまで都合いい演習場は無いで?」

「JAM前線基地の問題もあるしね………今日中に偵察衛星の追加打ち上げるらしいけど、見つかるかどうか………」

「アテの無いモン探すんは難しいやろ? 今アレコレやっとるらしいが………」

 

 

 

同時刻 ユーラシア大陸上空

 

「こちら亜乃亜。JAMの基地らしき反応無し。っていうか、どう探せばいいのかな?」

「RVのセンサーを最大にして、らしい物を探してはいるけどね………」

 

 この時代にはありえない超高速で飛行しながら、亜乃亜とエリューの二人は戦闘妖精達から聞いたJAM前線基地の探索を行っていた。

 

「でも、戦闘妖精の子達も探したんだけど見つからなかったんじゃないっけ?」

「センサー系ならこちらの方が技術的に上だけど、こんだけあちこちで転移起きてたら、そっちが引っかかるからね。この一帯にはまだ起きてないはず」

「でもって反応無し」

「幾らJAMでも転移反応まで隠せないはず………微弱反応あり?」

「あ、これ薔薇組の人達が言ってた奴じゃない? 確か山の中腹に砂漠がいきなり出来たとかって」

「一応確認しましょう。もっともこれだけ弱かったら前線基地とは思えないけど」

 

 JAMの転移実験と思われる異常現象の一つらしき物の調査を始める亜乃亜とエリューに、別所からの通信が入ってくる。

 

『こちらエスメラルダ、現在オーストラリア上空。JAM前線基地と思われる反応発見出来ず』

『ねえねえエスメ、ついでにコアラ見てこうコアラ!』

『後にしなさいポイニー』

 

『こちら華風魔、現在北極上空。JAM前線基地らしき物は見つからぬ』

『目立った反応無し。すごく静か』

『某とティタ殿で分からぬなら、無理でござろう』

 

 各方面にJAM前線基地探索に飛んでいるGの天使達だったが、誰からも発見の報は届かない。

 

「そもそも、本当に有るのかな?」

「私も前線基地存在の可能性は高いと思うわ。現在JAMがこの世界を起点として活動してるのは明らかだし、それなら観測の中継地として前線基地を置く可能性は高いわ」

『同意見だ。ステルスの移動大型母艦の可能性も有る』

『ならばそれこそ見つからぬ訳は無い。某達だけでなく、トリガーハートや戦闘妖精の者達も探しておるのだし………』

 

 エリューの見解にエスメラルダも賛同するが、華風魔が異を唱える。

 

『これだけ探して見つからないんだから、何か別の手無いかな~?』

「別の手か~………」

 

 ポイニーの提案に亜乃亜は考え込むが、答えは簡単には出なかった。

 

 

 

「全員集まったな」

 

 放課後、学園の講義室に専用機持ち達が集められ、講壇でそれを確認した千冬がミーティングを始める。

 

「すでに聞いていると思うが、統合組織設立に伴い、指揮系統を整理する事になった。基本的にはそれぞれの所属、つまりこちらはIS学園で一つの隊とし、指揮官と戦闘リーダーを置く事になる」

「指揮官とは、つまり織斑先生の事ですか?」

「そうなる」

 

 セシリアが手を上げ質問し、千冬はそれに頷く。

 

「それで戦闘リーダーだが、織斑 一夏に任命しようと思う」

「オレ?」

 

 いきなりの事に一夏は驚き、他の専用機持ちも少し驚く。

 

「教か…織斑先生。指揮系統とするなら、更識会長の方が妥当なのでは?」

「私も最初はそのつもりだったのだが…」

「ごめ~ん、私情報班の方に所属する事になったから、代わりに一夏君を推薦したの」

 

 ラウラの問に千冬が答える前に、その隣にいた楯無が申し訳なさそうに答える。

 

「情報班?」

「そ、班長さんからの直々のスカウトでね」

「それって、誰?」

「加山隊長よ」

「ああ、あのギターの………」

 

 シャルロットや鈴音が訝しむ中、楯無の出した名に前回視察に来ていた変わり者の姿を皆が思い出す。

 

「基本、防衛戦や必要時を除き、戦闘には専用機持ちが対処する事になる。また、緊急時には他の組織の指揮官もしくは戦闘リーダーの指揮下に入って戦闘をする事も有り得る。各組織から近い内にデータが送られてくるから、目を通しておくように」

『はい!』

 

『え~! 私がリーダーやりたい!』

『今ランク順って言われたでしょ!』

『だって~!』

 

 隣の部屋から聞こえてくるどりすの駄々に専用機持ち達は思わず隣室との壁を見るが、さすがにそろそろ慣れてきたので誰も何も言わない。

 

「慣れるのにしばらくかかるかもしれんが、今後どのような戦闘が起こるか検討もつかん。迎撃の準備だけは怠るわけにはいかない」

「坂本少佐みたいなベテランの人も結構いるみたいだしね。持ちつ持たれつでやっていきましょ」

「そう言えば、箒はいつ戻ってくるんだろ?」

 

 千冬と楯無が今後について話す中、ふと一夏は帝都からまだ戻ってこない人物の事を口にする。

 

「ああ、先程連絡は有った。もう数日したら戻るらしい」

「転移装置で何時でも戻って来れるんじゃないんですか?」

「向こうでしごかれているらしい。ある程度ケジメを付けて戻ってくると言っていた」

「どんな訓練してんだろう………」

 

 千冬の説明に鈴音が首を傾げるが、更なる説明にシャルロットを始め、他の専用機持ちも神妙な顔をする。

 

「向こうは時代的に戦争経験者も多いからな。米田中将は日露戦争で活躍したそうだし、帝国華撃団の副隊長はロシア革命に参戦してたらしい。ウィッチに至っては現在進行系でネウロイとやらと戦争中だ」

「なるほど、強い訳だな」

「まさか最前線になんて放り込まれてないよね?」

「それは無いみたいですけど………」

 

 千冬の説明にラウラはうなずき、シャルロットは危険な事を呟くが、議事録を整理していた簪がそれとなく調べて返す。

 

「束に至っては転移装置が正式稼働したのをいい事に、あちこちに顔を出しまくってるらしい。迷惑をかけてないといいのだがな………」

「難しいだろうな~………」

 

 織斑姉弟が全く同じ感慨を抱く。

 

「今後の戦い方も色々考えねばならない。これまでの戦闘記録を見る限り、ISで対処出来そうにない敵も他にいそうな事だしな」

「またあんなのと戦うの………」

「もっと危険なのもいるらしいですし………」

 

 千冬の説明に、鈴音とセシリアがげんなりとした顔をするが、誰もがそれは一緒だった。

 

「そうだ、あと本決まりではないようだが、束が妙な事を言い出しているそうだ」

「妙な事?」

「それが、互いの実力を知るために合同模擬戦を開こうって………」

「技術班の人達は結構賛同してるらしいです」

 

 千冬が頭をかきながら話すのを、更識姉妹が追加で説明する。

 

「合同って、どこでいたしますの?」

「ここじゃどう見てもキャパ不足だし………」

「そもそも機体ごとの特性もかなり違う。どうするつもりだ?」

「どうにかすんじゃないかな~………」

 

 専用機持ち達が前の交流試合の事を思い出しつつ首をかしげるが、一夏だけは束ならやりそうだと思っていた時、室内で着信音が響く。

 

「おっと、私か」

 

 千冬が懐から携帯電話を取り出し、送信相手が不明になっている事に顔をしかめつつ電話に出る。

 

「はい織斑…」

『やっほ~ちーちゃん、決まったよ!!』

 

 予想通り、電話口から響く束の声に千冬の顔が一気に険しくなる。

 

「束、何が決まったんだ?」

『全組織の合同模擬戦! 今香坂財団の超銀河研究所だけど、オーナーの子がそれなら演習用の無人惑星と必要設備、提供してくれるってさ~!』

「………何をどう言いくるめた?」

『ん~? 私はただ必要な事説明したら、賛同してもらっただけだよ~。じゃあ私準備に入るね!』

「それ以前に、今そこからどうやって電話を掛けてる? 電話回線は繋がってないはずだ」

『ナイショ♪』

 

 勝手に言いたい事だけ言って、束からの電話が切れる。

 後には、生徒達に今まで見せた事のない表情の千冬が残された。

 

「あ、あの織斑先生………」

「千冬姉、すごい顔になってる………」

「ああ、そうか」

 

 恐る恐る話しかけるセシリアと一夏に、千冬はなんとか表情を戻す。

 

「束が話を付けたらしい。合同模擬戦の開催が正式に決まったようだ」

『は?』

「場所や設備は香坂財団が提供してくれるそうだ。確かに互いに実力は知る必要が有るが………」

「束さんが言い出したってのがすげえ気になる………」

 

 千冬と一夏が同じ表情で考え込むのを、他の専用機持ち達はどう返すべきかを悩む事となった。

 

 

 

「なんとも手際がいいというか………」

「確かに話は出てましたが、すでにここまで進んでいるとは」

「ひょっとしたら、当初から考えていたのかも」

「随分と細かい所まで考えてある」

「うん」

 

 帝国劇場支配人室で、大神、エルナー、宮藤博士、群像、イオナがつい先程回ってきた合同模擬戦の概要(※立案 篠ノ之 束)に目を通していた。

 

「会場まで手配済みとは」

「こちらのエリカに何を言ったのかは分かりませんが、製品テスト用の無人惑星に設備その他、すぐにでも手配出来るようです」

「あとは各組織の承認が得られればいいという訳か………」

 

 昨日の今日で出してきたとは思えない手回しの良さに、大神とエルナーは半ば呆れていたが、宮藤博士はどこか険しい顔をしていた。

 

「各組織間で相互の戦力把握は確かに必要だろう。そのために合同模擬戦というのも妥当だ。問題は立案者が彼女だという事だが」

「優秀な技術者なのは確かです。帝都への帰路でも、霧やソニックダイバー、RVなどを随分と調べていた」

「織斑女史はJAMよりも篠ノ之博士の方を危険視してるとの情報も有る」

「ISの世界で起きた幾つものIS事件への関与が疑われているとか。証拠は何一つ無いそうですが………」

「だが、現状では協力してもらわなくてはいけない人物なのも確かだ………」

 

 立案者にそこはかとない危険を感じつつ、イオナを除く四人は考え込む。

 

「門脇中将はなんと?」

「共同戦線を張るには、まず互いの戦力を知るのは必要だと。あちらでも今討議中のようですが………」

「多分こちらもそろそろ他の司令から話が来るだろう。帝国華撃団司令としては、賛同してもいいとは思う」

「相互の問題点も洗い出せる。戦闘中に判明するよりは事前に分かった方がいいだろう」

「私達にも参加を呼びかけている。群像が了承するなら、参加する」

「では、取り敢えず賛成という事で」

 

 どこか気になる点はある物の、こうして合同模擬戦の開催は着々と進んでいった。

 

 

 

「以上が、最新の報告です」

 

 とある機密軍事施設の一室、厳重に機密防護措置が施された執務室で、髭面でフライトジャケットを着た白人男性が、その執務室の主へと報告していた。

 

「統合組織設立、相互把握のための合同模擬戦、随分とフットワークが軽いわね」

 

 執務机に有る最新のレポートに目を通しながら、部屋の主、赤毛の長髪で見るからに厳しい目つきをした年配女性が呟く。

 

「それで、こちらは…」

「許可します。情報が欲しいのはこちらも同じ。協力するにしても、互いの手の内は知っておかなくては」

「分かりました」

「あと、彼女はそれまでに間に合いそうかしら」

「まだ調整中です。教授があの状態では………」

「私達に取っては完全に未知のテクノロジーを手探りで調整しているのだからね。安全を最優先させて」

「いっそ、あちらに送ってみては?」

「不安定な状態での次元転移は許可出来ないわ。彼女の状態が安定するか、完全な次元転移システムが構築出来るまでは」

「あちらでは次元転移技術提供の準備中です。近い内に可能になるかと思われます」

 

 それらを聞いた年配女性は、小さく吐息を漏らす。

 

「こちらでJAMが初めて地球に攻めてきた時も、誰もが必死になって応戦した物なのだけれどね………」

「情報公開はとても無理でしょう。幾らなんでもSFが過ぎる………」

「しかし、これは現実よ。かつての惑星フェアリィのように、今度は向こうで応戦しなくてはならない。JAMが再びこちらに目を向けないように………」

 

 

 

「そういう訳で、全組織合同の模擬戦が開催される事に相成った」

 

 追浜基地の一室を借り、ガランドを中心として各戦闘航空団の隊長達が集合して用意されていた資料を見る。

 

「基本は普段と同じ、撃墜判定を出されたら負け。それを班対抗となるそうだ。各武装に簡易的な判定装置をつけるらしい」

「やけに手際がいいですね………」

 

 ガランドに続けて美緒が説明するのを、肩で資料を見ていたアーンヴァルが呟く。

 

「ルール概要までまとめてあるな。色々調整は必要だろうが」

「決まったのって今朝方って聞いたような?」

 

 ラルと圭子も馬鹿に手回しのいい事に首を傾げるが、すでに同様の物が各組織に送られているらしく、今の所反対意見は明確には出ていないようだった。

 

「これ、全部篠ノ之博士が一人で考えたのでしょうか?」

「みたいだね………多分ずっと前から考えてたのではないでしょうか?」

「マッドとは聞いていましたが、ここまでとは………」

 

 サイフォス、ブライトフェザー、ウィトゥルースもやけに細かい所まで書いてある事に関心と呆れが混ざっていた。

 

「面白いんじゃないか? 技術向上にもなるし、各組織との交流にもなる」

「余計な事にならなければデスが」

 

 北郷も頷く中、マリーセレスが余計な茶々を入れてくる。

 

「ウィッチ達は各部隊ごとでの出場とする事にした。似た者同士で戦ってもつまらないからな」

「それに戦力の分析なら、他の部隊と戦ってみる必要も有るだろう。なかなか面白い事になりそうだしな」

 

 ガランドと北郷もそう言いながら笑うのを、他のウィッチ達は引きつった笑みで聞いていた。

 

「私は審判長を依頼されたので、そちらに行く事になりますが」

「坂本の審判なら誰も文句言わんだろう。何か有ったらたたっ斬れ」

「そちらの方が問題になるのでは………」

「負傷者は何割まで容認される?」

「あの、出来れば出さない方が………」

「出来れば前回中心だった501を出したい所だが、期日までに間に合うかどうか」

 

 いささか危険な内容が討議されるが、実はどの組織でも似たような事が論じられていた………

 

 

 

異なる世界 AD 1946 ベルギカ サントロン基地

 

「久しぶりね」

「こちらこそ」

 

 ミーナが微笑みながら差し出した手を、クルエルティアが握り返す。

 

「そちらでは色々有ったようだけど」

「そちらも。だからあれを各所に置く事になったわ」

 

 クルエルティアがそう言いながら己の背後、サントロン基地の一角に今運んできたばかりの転移装置を指差す。

 

「これで、あちこちにすぐ行けるの?」

「この規模だと装置間同士の空間転移が限度ですから、この世界内だけですが」

「あとどこどこに配置するんだ?」

「え~と、こっちに来てるウィッチの本拠地と、扶桑のウィッチ学校、あとペリーヌのとこにも置くって」

 

 ハルトマンとバルクホルンが興味深そうに見る中、エグゼリカとフェインティアが設置準備を勧めていた。

 

「カルナダインをこっちに持ってこれればいいんだけど、艦載レベルの次元転移装置はまだ製造途中らしくてね~。これ設置したらこれでまた扶桑まで戻って受け取って次に設置の繰り返し」

「手間だが、致し方ないマイスター」

 

 フェインティアのボヤきに、ムルメルティアも頷く。

 

「ペリーヌさんの所に置くのはいいアイデアね。彼女はまだ復興活動途中で離れにくいと聞いてたし。すぐに行って戻れるなら彼女も喜ぶでしょう」

「待って、それって制御どうするの? 微調整出来る技術者なんてこの世界いないよ?」

 

 手を叩いて喜ぶミーナだったが、肩にいたストラーフが異を唱える。

 

「武装神姫が一体派遣されるそうです。なんでも、Gの方でマドカさんが作った試験機だとか」

「試験機? 大丈夫なのか?」

「問題ない。そもそも我々に使われている技術の一部はこちらのマドカ女史がプロフェッサー・クリシュナムに提供した物だ」

 

 エグゼリカの説明にバルクホルンは眉をひそめるが、続けてのムルメルティアの説明に更に首を傾げる。

 

「クリシュナム、という事は………」

「アイーシャさん? 行方不明って聞いたけど………」

「こっちのプロフェッサー・クリシュナムとそっちのアイーシャ・クリシュナムはパラレル存在だよ。そっちのはまだ行方不明中」

「ややこしいな~」

 

 ストラーフの説明に、ハルトマンが更に首を傾げる。

 

「そう言えば組織名についてなんですけど」

「ああ、案がありすぎてもめてるって………」

「私送ったよ~、《ハルトマンと愉快な仲間達》!」

「マジメに考えんか!」

「プロフェッサーの出した案が採用されそうらしい。と言うか、他はどれも似たような案ばかりだとか」

 

 エグゼリカの話にウィッチ達があれこれ言う中、ムルメルティアが切り出す。

 

「その情報またこっち来てないな~」

「まだ決定稿じゃないのよ。指揮官クラスは誰も組織名なんてのにこだわってないみたいで、思いっきり後回しにしてるみたいだし」

「ガランド少将が後回しにするって余程の事ね」

 

 ストラーフが小首を傾げるが、フェインティアがため息混じりに状況を説明、ミーナは別の懸念を感じていた。

 

「それで、そちらのプロフェッサーの考えた組織名ってどんなのかしら?」

「それは…」

 

 

 

「NEXUS OF REPRESENT NEIGHBOR、通称・《NORN(ノルン)》………」

「繋がりを示す隣人達、か」

 

 帝国劇場の支配人室で、先程決まったばかりの組織名をかえでやポリリーナ達が確認していた。

 

「ノルン、北欧神話の運命を司る三姉妹の女神の事でも有りますね」

「過去を司るウルズ、現在を司るベルダンディー、未来を司るスクルド、だったわね」

 

 マリアが決まった通称の意味を悟る中、ポリリーナも頷く。

 

「まさしくぴったりね。色々な世界、色々な時代から集まっているんだから」

「ジェネレーションギャップを埋めるのが一苦労ですが………」

 

 かえでが組織概要その他を印刷した書類に目を通して微笑するが、ミドリは手元の携帯端末で同じ物を見ながら小さく唸る。

 

「それで、合同模擬戦の事だけど」

「紅蘭が嬉々として準備進めてるわ。判定装置とやらの取り付けに苦労してたけど」

「基本はペイント弾や模造刀、競技用レーザーガンになるわね。こちらも出力調整しておかないと」

「会場はエリカ様が色々準備しています。中継の準備も万全です」

「白熱しそうね………」

「ともあれ、詳しい所は大神司令が戻ってきてからね」

 

 ルールの詳細変更検討中の中、現状決まっている事の確認作業が進められていく。

 

「同盟可、ただし模擬戦中の一方的破棄は即失格、ね」

「戦力や技術不足を補うためでしょう。今頃あちこちで話し合われているはず」

「華撃団全てで同盟して戦う、というのもありですね」

「エリカ様はむしろエリカ7で独立するでしょうけど」

「あ、武装神姫は戦闘参加禁止、情報担当は可ともある」

「あくまで各組織での戦闘力を見るわけね」

「そう言えば、あの二人はいつまでこちらにいるの?」

「模擬戦の前には戻るって行ってたわ」

 

 色々合同模擬戦に向けての話が進む中、ふとミドリが学園から来た二人(※束は神出鬼没過ぎて除外)の事を思い出すが、かえでが先程聞いていた事を口にする。

 

「勉強になると言ってたわ。色々とね」

「色々、ね………」

 

 マリアの言葉に、ポリリーナは苦笑する。

 その頃、当の二人、箒とねじるは………

 

 

 

「ふ~………」

「だ~………」

 

 帝国劇場地下の大浴場に、箒とねじるの気の抜けた声が響く。

 

「お二人とも、熱心なのはいいですけど、あまり無理はしないでくださいね。幾ら芳佳ちゃんが治してくれると言っても、限度があるから」

「はい………」「肝に命じます………」

 

 一緒に入っていたさくらが二人に先程までやっていた稽古の事を注意しながら、先に上がる。

 残された二人は、そのまましばし無言で湯船に使っていた。

 やがておもむろに箒から口を開く。

 

「サムr…坂本少佐クラスがごろごろいるとは、本当だったな」

「全く」

 

 箒のつぶやきに、ねじるも頷く。

 

「二人がかりで一本も取れないとは思わなかったぜ………」

「北辰一刀流の皆伝だそうだ。私程度ではまだまだ追いつかん」

「達、だがな………」

 

 ねじるがボヤきながら、負傷した足を屈伸して具合を確かめる。

 

「足はもういいようだな」

「完全にな。これなら合同模擬戦にも出れそうだ」

「パンツァーはランク上位者だけを部隊編成すると聞いてるが」

「ギリギリ入ってるよ。変動ランクだから、油断してたら落とされっけど」

「こっちは専用機持ちで編成するらしいからな。一夏が隊長になるらしい」

「アレで大丈夫か?」

「言うな、更識会長が情報班に入るので、代理に指名されたそうだ」

「部隊編成ってのも何かと大変だよな~」

「合同模擬戦で更に粗が出てきそうだがな」

「ま、怪我してもすぐ治せるってのは便利だが」

 

 ねじるが自分の左手、午前中の訓練で捻挫したはずのそれを見る。

 

「華撃団やウィッチには変わった力持った奴がいるとは聞いてたが、治癒能力ってのは便利だな」

「他にも色々あるらしい。坂本少佐は元は透視能力持ちだったそうだ」

「本気でやらねえと、勝ち目無さそうだな~」

 

 湯船に浸かりながらあれこれ呟いていた二人だったが、そぞろ上がろうとしたねじるが何気なく箒の方を見る。

 

「………前の交流戦の決着、それでつけたって本当みたいだな」

「!! どこでそれを!」

「当人から聞いた。確かにそれだけのだったら…」

「誰がするか!!」

 

 

 

異なる世界 とあるマンション

 

「何がどうなっているの………」

 

 長い黒髪の少女が、机の上に幾つもの盗撮したと思われる写真を貼り付け、そこに写っている物を凝視していた。

 その写真にはバレットスーツをまとった人影が、異形と戦う様子が撮影されていたが、少女の顔は険しさを増していく。

 

「アローンじゃない、示現エンジンを狙っていた様子も無いけど、周辺に無差別攻撃している………」

 

 その少女、黒騎 れいの前にある机には銃火器や次元エンジンの図面が無造作に置かれ、彼女がただの少女でない事が見て取れる。

 

「アローン以上に出現パターンが読めない………うまく出現が重なれば、戦力が分散出来るかも………」

 

 考え込むれいだったが、そこで小さな鳴き声が響く。

 自室から隣のリビングルームへと移動したれいは、そこに吊るしてある鳥かごへと手を伸ばす。

 

「どうしたのピースケ? そういえばご飯がまだだったわね」

 

 先程までの険しい顔とはうって変わり、れいは鳥かごの主のインコへと手を伸ばす。

 だがそこで、背後から一際大きな羽音が響き、れいははっとして振り返る。

 ベランダにいる一羽のカラスの姿に、れいは思わず硬直する。

 

『最近うまくいってないようですね』

 

 そのカラスから、畏怖しか感じられない声が響く。

 その声に、れいは震えながら答えようとする。

 

「前回、その前に出てきたアレは、一体なんなのですか? アローンでは無いようですが…」

『アレは、恐らくあなたと同じ異なる世界の存在でしょう。何者かまでは分かりませんが、人類と敵対している事だけは確かです』

「しかし、逆にアローンに攻撃していたのも見ています。なぜ、そのような物がこの世界に?」

『そんな事はあなたの考える事では有りません。あなたはただ、示現エンジンの破壊だけを考えればいいのです』

「しかし!」

 

 反論しようとしたれいだったが、そこでカラスの両目が赤く光る。

 

「キャアアアァ!」

 

 同時に、れいの首筋にある鳥の羽根を模した文様が発光し、れいがすさまじい苦悶を上げる。

 

『疑問を持つ事は許しませ…』

 

 言葉の途中で、突如として飛来した何かがカラスを襲い、カラスは思わずその場を飛び退く。

 

『これは!?』

 

 その飛来した物が、超小型の鎌だと気付いたカラスが驚愕する中、苦悶していたれいの耳に小さな羽音が響いた。

 

「ピースケ?」

 

 苦悶の影響か、焦点の合わない目でれいが鳥かごの方を見ると、そこに羽ばたく小さな影に気付く。

 鳥かごの上に立つ、全長15cm程の白い和風のプロテクターに身を包み、背中に純白の羽を持つ人影は、カラスに向けて投じた忍刃鎌・散梅を受け取る。

 

「わらわは忍者型MMS・ミズキ。次元転移反応確認。指定条件に全項目一致。今からそなたがわらわのオーナーじゃ」

 

 武装神姫・ミズキはれいを見据えながら、小さな体で高々と宣言した………

 


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