第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP46

 

「次元変動感知」

「異質世界からの物資移動の可能性、多数」

「目標に何らかの目標意思有りと判断」

「警戒レベル上昇………」

 

 

 

帝都 追浜基地

 

「確認急げ!」

「図面通り、問題な~し」

「起動させますから、下がってください」

 

 追浜基地の隣に突貫で造られたプレハブドッグ、その各所にこれも急造の転移装置が設置されていく。

 

「発生装置、安定確認。ジェネレーター出力上昇、転移ホール発生します」

 

 機器を操作していたエミリーの言葉通り、プレハブドッグの各所に設置された転移装置が起動、大型の転移ホールを発生させ、そこから大型の艦影が出てくる。

 

「お、来たな」

「うわあ、懐かしいな~」

 

 その様子を見ていた冬后とソニックダイバー隊の目前で、かつての母艦、攻龍がプレハブドッグ内にその姿を表した。

 

「転移完了、状態安定してます」

「よ~し、タラップ用意! 早速運び込め!」

 

 エミリーからの安全確認の後、大戸の指示で次々とソニックダイバーやその武装、更には各種物資が攻龍内へと運び込まれていく。

 

「なんか、微妙に違わない?」

「Gの方で今回の作戦に向けて多少改造したそうですよ。人員までは揃えられなかったので、オート化とサポートロボット搭載したとか」

 

 エリーゼが首を傾げるのに、可憐が聞いていた事を説明する中、タラップから降りてきた古い大型掃除機を思わせるような外見のサポートロボット達が物資搬入を手伝い始める。

 

「前と違って長期航行とかは予定していないが、また妙な所に飛ばされたりしないといいんだが」

「念の為に食料も多めに積んでおくそうです」

「網も用意しといた方いいかな?」

 

 冬后が前回の事を思い出してぼやく中、エミリーがチェックリストに目を走らせつつ用意周到なのを告げ、音羽は前に食料庫を吹き飛ばされた時の事を思い出す。

 

「取り敢えず今回は大丈夫だと思うぜ」

「用心に越した事はないでしょうけど」

 

 そこでタラップから見覚えのある二人が現れた事にソニックダイバー隊は驚く。

 

「源さん!」

「友子先生も!」

 

 攻龍の元料理長と船医の二人は、元気そうなソニックダイバー隊の姿を見て笑みを浮かべる。

 

「はは、エリーゼだけじゃなく皆も気になってな、無理言って乗せてもらった」

「私は周王さんに呼ばれてね。アイーシャさんを助けた後、治療出来る医者が必要だから」

「中あちこち変わってるから、見といた方がいいぞ。どんな改造されたんだか」

「は~い」

 

 源に促され、ソニックダイバー隊は攻龍へと飛び込んでいく。

 

「やれやれ、どうにか間に合うかな」

「作戦明日だろ? 大丈夫なのか?」

 

 はしゃぐソニックダイバー隊を見送った冬后が頭をかき、源は別の事を心配する。

 

「多少変わっちゃいるが、乗り慣れた船だ。大丈夫だとは思うが………」

「慣れてない連中も乗るって聞いたが」

「まあな」

「これが攻龍………」

「本物初めて見た………」

「へ~」

 

 そこへソニックダイバーレスキュー隊も訪れ、攻龍を興味深そうに見上げていた。

 

「あの子達が新入りか」

「ああ、もっともすでに実戦経験済みだがな。今回も捕虜のレスキューに当たる事になってる」

「荒事からなかなか離れられないな、あんたも」

「オレよりもあいつらだ。もう戦場に立たせる事は無いと思ってたんだがな………」

「こちらとしては経験者がいるのはありがたい所だがな」

 

 そこへ現れた千冬の方へと源は振り向く。

 

「そちらも新入りかい?」

「IS隊指揮官の織斑 千冬、教師兼任だ」

「攻龍の料理長の源だ。そうか、学校ごと来たってのはあんたらか」

「ああ。こちらは私も含め戦争なんてものは未経験だ。色々指導してもらっている」

「そんなモン無いのが一番なんだろうけどな」

 

 千冬から差し出された手を握り返しつつ、源は少しばかり顔をしかめる。

 

「へ~、これがソニックダイバー隊の母艦か~」

「今回は私達の母艦にもなる」

「ISに母艦というのは初めてかもしれませんが」

 

 千冬の後に続き、専用機持ち達も訪れ、攻龍を見上げる。

 

「おいおい、人員減った分ペイロードは増えたそうだが、こいつらの分まで積めるのか?」

「それが、こいつらのISってのは特殊な収納らしくてな。騎乗ってよりは変身って感じで出せるから、搭乗者だけのスペースだけありゃいいらしい」

「破損時のメンテスペースは拝借する事になるし、そのための人員も乗艦させてもらう事になっている」

「結局、前とあまり変わらねえな」

「ああ………」

 

 源の言葉の意味する事を千冬が知るのは少しばかり後の事だった。

 

 

 

『艦載転移装置設置完了~、制御プログラムも受け取った』

「テストしたい所ですが、この船が転移出来る事はまだ向こうに知られるわけにはいきませんから」

 

 イー401の艦内でいおりからの報告を聞いた僧が、最終チェックを走らせながら呟く。

 

「本来なら水中での転移は避けた方がいいらしいが、この船なら計算上は多少は大丈夫だそうだ」

「こっちでも計算し直したけど、多分大丈夫だね」

「多分ね………」

 

 ハルナと蒔絵の報告に、杏平は少しばかり渋い顔をする。

 

「連続転移はやはり難しいか」

『出来ない事はないだろうけど、下手したらこっちの動力ダウンしかねないね。転移して逃げた先で沈没したら無意味だろうし』

「我々にとって未知の技術ですからね。霧にもあるかどうか」

 

 群像の確認にいおりが必要エネルギーとイー401の出力を比較して唸り、僧もうつむいて唸る。

 

『艦其の物が転移するなんてのはさすがに聞いた事は無いわね。もっとも霧には自分達自身ですら使った事の無い兵装なんてザラにあるけど』

「コンゴウあたり妙なの積んでそうだよな………」

「アレ以上に危ない兵装なんて使って欲しくないですけどね」

 

 タカオからの情報に杏平が妙な勘ぐりをし、静が苦笑する。

 

「とにかく、出来うる限りの準備はしておこう。何が出てくるか全く分からない」

「帝都ではエライ目に遭いましたしね」

「また空中母艦なんて出てこねえよな?」

「どうでしょう………」

「でも今度は都市からも離れてるから、多少派手にしても大丈夫だよね?」

「他の所もそのつもりらしい。ラウラから対艦装備でいいかと聞かれた。対要塞装備を考慮した方がいいと答えておいた」

「お前はどういう助言を………」

『さて、それじゃ導通と起動チェックしとくね』

「おっと、各兵装の最終確認だ。規格合ってるよな?」

「医薬品の確認してきますね」

 

 談笑しつつ、誰もが作戦前の最終確認に入っていく。

 それを見ながら僧と群像も確認に入るが、そこでふと僧が呟く。

 

「無事に捕虜を奪還出来るといいのですがね」

「ああ、まずはそれが優先だ。だがそう簡単に行くとは思えない。何を持ち出してくるか分からないのは霧と一緒だ」

「霧は捕虜を取りませんよ」

「ああ、そうだな………」

 

 何が待ち構えているか、群像はただ黙考するしかなかった。

 

 

 

『特定マルチバース、指定座標を確認。かなり大規模な次元変動の痕跡と思われる物を確認出来ました。ただし周辺空間の歪曲から経過日数が有り、詳細は不明』

 

 学園地下の大会議室、そこで各組織指揮官(半数近くは通信参加)がGのオペレッタからの報告を受けていた。

 

「大規模、という事は少なくとも見た目通りではないという事か」

「そうね、ただの無人島ではないという事でしょう」

 

 真っ先に千冬とどりあが口を開き、他の指揮官達も顔をしかめる。

 

「精査すればもっと詳しい事が分かるかもしれませんが、これ以上の精査は向こうに気付かれる可能性も高いので………」

『JAM相手に用心しすぎという事はありません』

 

 補足説明するジオールに、クーリィ(通信参加)は賛同する。

 

『はてさて、一体いつやられたんだか………合衆国のメンツ丸つぶれだね』

『宇宙人の相手なんて本来華撃団の仕事じゃないからね』

 

 サニーサイド(通信参加)もおどけた口調だが若干険しい表情で言うのを、グランマ(通信参加)も苦い顔で返す。

 

「これで何かが有るという事は確定した。しかもかなり大規模な何かが」

「つまり、その大規模な何かに相当する戦力が有る可能性も高いという事になる………」

 

 大神が断言するのに、群像は更に顔をしかめる。

 

「だからこそ、ここの存在を放置する訳には行きません」

『その通りだ。我々もネウロイの巣相手には苦労しているからな』

 

 エルナーの提言に、ガランド(通信参加)も大きくうなずく。

 

「作戦予定は変わらず、戦闘可能戦力は全待機状態での発動となります。最悪の事態に備え、永遠のプリンセス号及び機械化帝国の機動艦隊による宇宙空間からの砲撃準備も行います」

「そこまでやっちまったら、もう隠しきれねえな………」

 

 エルナーの話す作戦概要に、米田は渋い顔をするしかなかった。

 

「あくまでそれは最後の手段となるでしょう。現状の戦力でどうにか対処出来る事が望ましいです」

「戦力だけは豊富だが、向こうがどれだけ用意しているか、どれだけ投入してくるかだな」

「前回の模擬戦で練度の差もはっきりしましたし、作戦は建てようもありますけど」

 

 エルナーは更に続け、千冬とどりあがやや渋い顔で頷く。

 

「どの道、決行するしか選択肢は無い。これ以上、向こうの好きにさせるわけにはいかない」

 

 今まで無言だった門脇が強い口調で断言し、それを聞いた各指揮官達も表情を引き締める。

 

「それでは、作戦決行は予定通り。各自、準備をお願いいたします」

 

 エルナーの言葉を最後に、皆が頷いてオペレーション・ラプンツェルの最終会議は終了する。

 

「賽は投げられた、という事か」

「イカサマされないといいんですけれど」

 

 千冬とどりあの言葉は、この作戦の全てを物語っていた。

 

 

 

「う~ン………」

 

 出撃を控えた追浜基地の一角、501統合戦闘航空団仮設基地の片隅で、エイラがタロットを前に唸っていた。

 

「またコレやな」

「なんでやろ?」

「さあ?」

 

 それを一通り準備が終わったソニックダイバー隊整備班の三人も同じように唸っている。

 

「何をしてるの?」

 

 そこへ隊長ミーティングを終えてきたミーナが通りがかり、奇妙な状態の四人を見つける。

 

「ミーナ隊長。何度モ占ったんだガ、どうしても同じアルカナが出るンダ」

「なんか、不気味やな~」

「そやそや」

 

 嵐子と晴子もその様子を見て眉根を寄せていた。

 

「それって、どういう事?」

「さあ? こんなの私も初めてダ。多分このアルカナが示す三人が、何か重要な存在カモ」

「で、どれがアイーシャなんだ?」

 

 遼平が隠者、吊し人、女教皇のアルカナを指差して聞く。

 

「う~ん、どれダロ?」

「確か、アイーシャはインドの山奥でしばらくコールドスリープしてたって聞いてるで」

「じゃあこれかいな?」

 

 嵐子の指摘で、晴子が隠者のアルカナを拾い上げる。

 

「あと二つは?」

「私らが知らない奴カモ?」

「有り得るで」

「まだどの世界から来たか分からん敵もおるんやろ?」

「ええ、そうね………」

 

 ミーナがベルギカで戦った相手の事を思い出す。

 

「またアレ出てこないといいんだけど………」

 

 ミーナのポケットにいたストラーフが、後味の悪すぎる相手の事を思い出して呟く。

 

「ともあれ、明日に備えて早く休みましょう。真相はその場に行けばはっきりするわ」

「そうだね」

「ま、結局ソレしかないカ」

「寝よ寝よ」

「そやそや」

「そういや昨日はロクに寝てなかったな~」

 

 ミーナとストラーフに促され、皆が解散していく。

 その場に残ったミーナは、小さくため息を漏らした。

 

「どうやら、オペレーション・ラプンツェルは素直には行きそうにないようね………」

「オーナー、占いでそう悲観しなくても………」

 

 ストラーフもたしなめようとするが、あまりに少ない前情報に、楽天的になれる要素は少なかった。

 

 

 

翌日早朝 アメリカ東海岸沖

 

 朝日がさす海上を切り裂くように、超高速の飛行物体が飛んでいく。

 

「こちらFRX―00、作戦予定時間を確認。これよりオペレーション・ラプンツェルを発動」

 

 きっちり時間通りに作戦を発動させたメイヴが、速度を更に上げて目標地点へと向かっていく。

 

 

「始まったわ」

「全員、準備はいい?」

 

 そこから少し離れた高空に、ステルスモードのカルナダインがメイヴの様子を見守りつつ、フェインティアとクルエルティアが同乗している戦闘妖精達に確認する。

 

「ええ、準備万端よ」

「あとはあの子がバカやらないといいんだけど」

 

 スーパーシルフとシルフィードが頷く中、皆がモニターされているメイヴを固唾を呑んで見守っていた、はずだった。

 

「あの~………」

「なんですか?」

「なぜ私がここに?」

 

 カルナダイン艦内で、唯一生身のあおが恐る恐る手を上げて聞いてくる。

 

「なぜって、戦闘妖精達の監督役でしょ?」

「だからなんで私に!? ブッカー隊長の仕事じゃ!?」

「隊長なら学園の作戦本部でオブザーバーしてる」

「JAMについての専門家の意見がほしいって」

「実戦に出るなんて聞いてないよ!?」

 

 ファーン1・2の説明にあおは半ば絶叫していた。

 

「お給料がいい職場って聞いたからFAFに就職したのに~!」

「………あお、機密保持だのなんだのって規定に書いてたのちゃんと読んだ?」

『もう直目標地点です』

 

 狼狽するあおにポケットにいるイノセンティアが呆れるが、そこにブレータの報告が響く。

 

「それで、本当に基地かどうかの確認って何するの?」

「そう言えば聞いてないですね………」

「何かJAMを識別する方法でもあるのでは?」

 

 フェインティアの何気ない問にクルエルティアも頷き、ムルメルティアは戦闘妖精達の方を見る。

 

「その、識別する方法と言っても………」

「あの子の事だから、アレね」

「アレでしょう」

「アレか」

「アレって?」

 

 戦闘妖精達はその方法が何か知っているらしいが、あおは知らずに思わず聞く。

そんな中、モニターされているメイヴはフェインティア・イミテイト、そちらではツヴァイからもたらされた技術を応用して作られた兵装転移システムを使い、大型の爆弾を装備する。

 

『あれ? これって………』

 

 それを確認したカルナが、各組織の協力でまだ製作途中の兵装データから一致する兵装を割り出す。

 

『バンカーバスター、対地中攻撃用爆弾!?』

「ちょっと待った~!!」

「まさか見分ける方法って………」

「直接攻撃!?」

『FRX―00、目標に攻撃開始』

 

 仰天したトリガーハート達の制止も聞かず、メイヴはバンカーバスターを投下。

 その様子をモニターしていた各組織、特に攻龍にスタンバイ中だったソニックダイバー隊から悲鳴が飛び交う中、投下されたバンカーバスターは地表にたどり着く前に、目標の無人島の地表から突如として放たれたビームに撃破される。

 

『目標からの攻撃確認。敵の施設である可能性大』

「とんでもない確かめ方ね………全員出撃準備を…」

『待ってください!』

 

 ブレータが目標地点からの攻撃を確認、クルエルティアが出撃準備を進めようとする時、突然カルナからの報告が入る。

 

「何事?」

『目標の無人島、各所から迎撃兵器が出現!』

『周辺海底から複数の隆起を確認、何らかの迎撃設備の可能性大』

 

 カルナとブレータから次々と報告が入り、報告通り何も無かったはずの無人島の各所がせり上がって幾つもの迎撃兵器が出現、更に周辺の海から奇妙なタワーにも見える物が出現する。

 

「あれは、JAMのブーストカタパルトです!」

「本物初めて見た………」

 

 スーパーシルフが出現したタワーが何かに気付き、あおが場違いな感想を述べるが、そこからJAMの高機動ユニットが次々と発進、メイヴへと向かっていく。

 

「カルナ、ステルスモード解除! 全機発進体勢! ブレータ、作戦をアルファからガンマに格上げ、全組織に即時転移準備を!」

「急ぐわよ!」

「分かってるわ!」

「…気をつけてね~!」

 

 クルエルティアの指示が飛び交い、トリガーハートと戦闘妖精達がカタパルトへと飛び出していくのを、一人取り残されかけたあおがとりあえず声援を送る。

 その最中にも、モニターは次々と出現するJAMの機体を映し出し、それは各組織にも同時中継されていた………

 

 

 

「グラディウス学園チーム、全機発進!」

「次元ビーコン、各機同調確認! 転移座標設定したよ!」

「PEコンバーター、出力最大!」

「急ぐ」

「発進します!」

 

 数少ない転移システム対応機体であるRVが、学園の大型転移装置の補助を使って目標地点へと転移していく。

 

「………即時投入か、当初の予定よりも早い」

 

 己の甲板上で、その様子をモニターしていたコンゴウだったが、他の拠点でも次々と転移準備に入っている情報が入ってくる。

 

『霧のコンゴウさん! 状況モニターしてますか!?』

 

 そこへ少し狼狽気味の真耶が通信を入れてくる。

 

「している。どうやらJAMは予想よりも大規模な拠点を要していたようだな」

『そうなんです! ひょっとしたらそちらにも出撃要請が出るかもしれませんから、準備しててください!』

「いいだろう」

 

 慌てふためいて半ば一方的な通信にコンゴウが返答すると、即座に通信が切れる。

 

「出し惜しみしている余裕も無くなる所、という事か」

 

 独り言ちたコンゴウは、少し考えるとグラフサークルを展開、現在稼働出来る全兵装を稼働状態へと移行させていく。

 

「私はいつでも構わない。何時でも呼べ」

 

 各組織にそう通告し、コンゴウは己の力が必要な時を待つ事にしていた。

 

 

 

「なんて数だ………」

「大神司令、こちらはどうするの?」

「まだです。翔鯨丸の飛行性能では、あの数の高機動のJAM相手には的にしかならない。制空権をある程度確保した後、こちらも転移を」

 

 翔鯨丸のブリッジで、次々と出現するJAMの大群を冷静に分析する大神がかえでに時期を待つように伝える。

 

『大神司令! こちらは出撃準備整ってます!』

『こちらも何時でもいけます!』

 

 格納庫からマリアとミーナの報告を聞きながら、大神は頷く。

 

「まだだ、せめて上空の敵が半減しないと………」

『紐育華撃団から入電! エイハブが転移準備に入った模様! 同じくイー401も転移準備に入りました!』

『こちら攻龍! 作戦がガンマに繰り上げられたため、転移準備にはいります!』

 

 由里とタクミからの通信が飛び込み、大神もこちらの出るタイミングを見図るべく、モニターに映し出される映像を凝視していた。

 

「………空中戦力だけでこれか。だが、他にも戦力を保有しているかもしれないな」

「それはあり得るね。また深海棲艦とか色々出してくるかも」

 

 大神の呟きに、肩に居たプロキシマが同意する。

 その言葉が現実の物となるのに時間は掛からなかった。

 

 

 

『転移座標設定、相対座標入力』

『転移装置にエネルギー充填終了、いつでも行けるよ~』

「準備完了です、艦長」

 

 タカオといおりからの報告を受け、僧が転移準備が終わった事を群像に告げる。

 

「間違って妙なとこにワープしないといいんだけどよ」

「すぐに分かる。イー401、これよりオペレーション・ラプンツェルの作戦区域に転移する!」

『了解艦長! 転移装置始動!』

 

 杏平が微妙な顔をするが、群像は意を決して転移を命じ、タカオがそれを受けて渡されたプログラム通りに転移装置を始動させる。

 イー401内に奇妙な鳴動と違和感、そして視覚異常が広がるが、数瞬後には元に戻る。

 

『座標確認、目的座標に転移完了よ』

「便利ですね~、これ」

「向こうにいた時、こいつが有ったらな~」

「タカオ、戦況を確認。イオナと静は周辺海域に他に敵影が無いかを確認。対空戦闘用意、照準は全光学式に設定」

 

先程まで学園近隣沖で待機していたのが、数瞬で全く違う海域にいるのを確認したクルー達がその便利さに驚くが、そこで群像の鋭い指示が飛び、一斉に皆が動き出す。

 

『上空は大激戦の真っ最中、今RV隊が合流したわ。カルナダインは戦闘空域からちょうど本艦の真逆の方向に確認』

「水中からの発射用カタパルト、21確認。敵機発進は現状止んでいる」

「海中内に現在敵影無し」

「対空兵器全機、攻撃準備完了! 何時でも行けるぜ艦長!」

「微速前進! 友軍機を巻き込まないように、援護攻撃を…」

「待ってください! 水中に謎の音源発生!」

「音源発生点から何らかの放出を確認した」

 

 静とイオナの報告にクルー達に一気に緊張が走る。

 

「何らかって何だ!?」

「分からない、放出物体の1つあたりの直径は30cm前後。数は多いけど」

「何でしょう、敵機でも機雷爆雷の類でも無さそうですが」

「対水中目標攻撃の用意!」

「もうやってるぜ、艦長!」

 

 杏平が魚雷その他の発射準備を即座にしながら問うが、イオナからの報告に僧が首を傾げる。

 

「放出物体変化確認、一部は融合しつつ急速に膨張」

「何だそりゃ!?」

「待て、独自のエネルギーパターン及びナノマシン反応を確認。データベースに一致、これは、ソニックダイバー隊が交戦していたワームだ」

「ハルハルの言うとおりだよ! 融合・膨張したワームが直ぐに海上へと上がってる。データにあった行動パターンと全く同じ!」

「何だと!?」

 

 ハルナと蒔絵からの報告に、群像は驚愕するしかなかった。

 

 

 

「イー401から緊急連絡! 目標地点にワームの発生を確認したそうです!」

「確かなのか」

「送られてきたデータをこちらでも確認しました! 間違いなくワームのセル反応です!」

 

 転移準備を進める攻龍のブリッジ内で、タクミの報告を門脇が確認するが、七恵が独自に解析して間違いない事を確認する。

 

「恐らくは、前回も確認されたコピーでしょうが………」

「だが驚異には違いない。レベルは?」

「現在確認中! 急速に成長しています!」

 

 嶋の表情が険しくなり、門脇もうつむく中、七恵の報告も険しさを増す。

 

「転移までの必要時間は?」

「あともう少し~。座標設定は終わってるから、エネルギーチャージが終わればすぐだよ~」

 

 門脇の問に、転移装置操作のためにブリッジにいたヴァローナが答える。

 

「ソニックダイバー隊に出撃準備。転移完了後に即時出撃」

「IS隊、転移完了後に即座に上がってソニックダイバー隊の出撃を護衛後、援護に回れ」

 

 門脇の指示に続けて、IS隊指揮のためにブリッジに詰めていた千冬も専用機持ち達に指示を出す。

 

「ソニックダイバー隊、出撃準備!」

「転移まであと三分くらい~?」

「全員ナノスキン塗布! すぐに出れるようにしとけ!」

 

 タクミからの連絡にヴァローナの報告が重なり、冬后の指示が飛ぶ。

 

「参考までに聞くが、ワームの戦闘力はどれくらいだ?」

「だいぶ個体差が有る。だが、結果は聞いてるよな?」

 

 千冬の問に、冬后が端的に答える。

 艦内で見せられた虫食い状態となった世界地図を思い出した千冬が、小さくツバを飲み込んだ。

 

「こちらの教え子達の手に負えるといいのだが………」

 

 

「ワームが出現したって本当!?」

「どうやら本当らしい」

「今イー401が交戦中だそうです!」

「また性懲りもなく!」

 

 ソニックダイバー隊控室からスプレットブースに飛び込みながら、ソニックダイバー隊の四人が口々に叫ぶ。

 

「そっちも準備しておいて!」

「サポートよろしくね~」

 

 扉が閉まる前に音羽とエリーゼが控室で先程まで話していた専用機持ち達に声をかけていく。

 

「さすがに手際がいいな………」

「慣れてんでしょ」

 

 瞬く間に出撃準備を整えていくソニックダイバー隊に箒と鈴音が唖然とするが、即座に気を取り直す。

 

「じゃあ予定通り、転移してすぐ前部と後部の甲板に出てISを展開。ソニックダイバーの出撃に合わせてこちらも出撃を」

 

 一夏が事前のブリーフィングを思い出しつつ、専用機持ち達に指示を出す。

 

「ワームって、確かかなり大きいのもいるのでしょう?」

「資料通りならそうらしいけど………」

「あと再生力もかなり高いらしい。余程の高火力で攻撃するか、ナノマシン構成を破壊するしかないと有った」

「後者が出来るのはソニックダイバーによるクアドラロックだけです。私達はその援護になります」

 

 専用機持ち達はワームについて見聞していたデータを突き合わせていたが、そこで楯無が手を叩いてそれを止めさせる。

 

「餅は餅屋、って言うからね。ワームへのトドメはあちらに任せて、私達は私達に出来る事をしましょう」

「そうですね。じゃあ急ごう!」

 

 楯無に促され、箒が先導して専用機持ちたちがそれぞれ甲板へと向かっていく。

 

「………やっぱり、楯無会長が隊長やった方が良いんじゃ」

「言ったでしょ、私は裏方。頑張りなさい、一夏隊長」

 

 最後に残った一夏がポツリと言った所で、楯無が愛用の扇子で一夏に発破をかけ、そして二人してその場を後にした。

 

 

「エネルギー充填完了~、転移するよ~」

「これより、目標地点に転移します。各員は備えてください」

 

 ヴァローナの脳天気な通告にタクミが慌てて艦内に報告し、間を置かずして鳴動と違和感、視覚異常が生じたかと思うと、程なくそれは収まる。

 

「転移完了したよ~」

「艦内の現状を確認! 異常が起きてないかを確認せよ」

「ソニックダイバーとカタパルトに問題は無いか!? 大丈夫ならすぐ出撃だ!」

「専用機各機、セルフチェックを走らせつつ攻龍上空にて待機、敵機に備えろ」

 

 転移時の酩酊も収まらぬ中、嶋、冬后、千冬の指示が飛び交う。

 

「艦内各所、異常ありません!」

「ソニックダイバー各機及びカタパルト異常無し、発進体勢に入りました!」

「じゃあオ~ニャ~の所に行くね~」

 

 七恵とタクミの報告が響く中、ヴァローナだけが能天気に格納庫の方へと向かう。

 そんな中、ブリッジからISが次々と上昇していくのが見え、各々得物を構えたISが攻龍の防衛に当たる。

 

「JAM敵群、こちらに気付いた模様! 向かってきます!」

『こちらイー401、こちらでサーチしたワーム情報を送るわ! うえ、気持ち悪!』

 

 臨戦態勢を取る攻龍に、タカオからの通信が余計な一言と共に送られてくる。

 

「出現したワームはほとんどCからBレベル! ただし一体がまだ成長中! このままだとSレベルに達します!」

「イー401に打電! すぐに攻撃を!」

「艦長、どうやらもう遅いようです………」

 

 サーチ結果を聞いた門脇が警告しようとするが、ブリッジから外を見ていた冬后はその視線の先に出現した物を見て呟く。

 海面を突き破るような勢いで飛び出してくる、巨大な口が飛び出してくる光景を。

 

 

 

「え?」

 

 JAM高機動ユニットと空中戦の真っ最中だった亜乃亜が、突然響いた警告アラームと真下からの巨大すぎる反応に一瞬対処が遅れる。

 自分の真下から、その軌道上に有る物すべてを飲み込みながら迫る巨大な口に、亜乃亜がRVを急上昇させようとするが、それよりも飛来したアンカーが絡み、巨大な口の軌道上から引っ張り出す方が早かった。

 

「アブな!? ありがとう!」

「気をつけて!」

 

 亜乃亜を救い出したエグゼリカだったが、彼女飲み込もうとした巨大な物体はようやく上昇を終えて口を閉ざし、JAM数機を飲み込み、弾き飛ばして爆砕させたそれが降下していく。

 

「この反応、ワーム!」

「JAMはこれまで戦力にしてたなんて………」

 

 かつて戦った強敵の反応に、亜乃亜とエグゼリカは絶句する。

 

『ワームの相手は専門家に任せて、私達は制空権の確保を!』

『クアドラロックの使用エリアを確保しないと!』

 

 ジオールとクルエルティアの指示が飛び交い、亜乃亜とエグゼリカは無言で頷くと、そろって敵へと向かっていく。

 

「片っ端から落とすわよ!」

「ソニックダイバーの作戦範囲確保します!」

 

 宣言ともに、レーザーとアンカーがJAMへと向かって放たれた。

 

 

 

「ソニックダイバー全機、発進しました!」

「じゃあ予定通りに」

「各機援護に!」

 

 攻龍上空で発進するソニックダイバーを見守りながら、更識姉妹と一夏の声が飛び交う。

 

「じゃあよろしくね!」

「こちらこそ!」

 

 零神にはラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡが。

 

「注意しろ、ワームはどこから何を使ってくるか分からない」

「見るからにキモイしね………」

 

 雷神には甲龍が。

 

「セル構成を解析します! 援護を!」

「分かりました!」

 

 風神には紅椿が。

 

「Das Strategieziel ist Vernichtung und Rettung.(作戦目標は殲滅、そして救出)」

「Gut, ich werde dich abdecken.(了解、援護する)」

 

 バッハシュテルツェにはシュヴァルツェア・レーゲンがそれぞれ援護についた。

 

「セシリア! まずは向こうの様子を見る! 攻撃を!」

「分かりましたわ!」

 

 一夏の指示に、狙撃ポジションを取りながらセシリアがスターライトmkⅢを高出力で発射する。

 海中に半ばその身を没し、見た目にはまるで岩山のようにも見えるSレベルワームにレーザーが直撃し、いとも簡単に弾かれる。

 

「な………装甲目標用出力ですわよ!?」

「簪!」

「外装はかなりの高密度のようです!」

「もっと高出力の攻撃を!」

 

 まさか全く効かないとは予想外だったセシリアが驚愕し、一夏が解析に回っている簪に問うが、簪と可憐は同じ結論に至っていた。

 

「出力なら任せろ! 出し惜しみは無しだ!」

 

 今度はラウラが大口径レールカノンを構え、初っ端から最大出力で発射する。

 放たれた超高速弾がSレベルワームに直撃し、破壊されたセルを撒き散らす。

 

「このまま攻撃を続ける! その内に…」

「Warte(待って)!」

 

 速射しようとするラウラだったが、そこでエリーゼが制止する。

 攻撃を食らったSレベルワームが、突如として海面から上昇を開始、上昇するにつれ、海面下に隠れていた部分が顕になり、それを見た専用機持ち達は絶句する。

 

「お、大きい………」

 

 今まで自分達が見ていたのが、文字通り氷山の一角にしか過ぎなかった事にシャルロットは呆然と呟く。

 

「あ、あんた達こんなのと戦ってたの!?」

 

 ISとは比べようもない巨大さに、鈴音は思わず叫ぶ。

 

「あれとどう戦えば………」

 

 箒は手にした双刀では斬れそうもないスケール差に、愕然としていた。

 だが、即座に動いた者達がいた。

 

「じっとしてたら危ないよ!」

「すぐに向こうの攻撃が来るぞ!」

「解析に移ります! 援護を!」

「とにかく撃ちまくって!」

 

 ソニックダイバー隊は巨大なSレベルワームに怯む事無く、まずはデータ収集すべく周囲を旋回しながら攻撃を開始する。

 

「簪、解析を!」

「はい姉さん!」

「セシリア! 援護攻撃を! 手を休めるな!」

「分かりましたわ!」

「他のみんなもソニックダイバー隊に続け! まずは相手のデータを集めるんだ!」

 

 解析を妹に任せた楯無もソニックダイバー隊に続き、一夏も雪羅を連射しながら指示を飛ばす。

 

(隊長に必要なのは観察力と判断力。まずは後方で冷静な判断が出来るようにする事)

 

 大神から教えられた事を思い出しつつ、一夏は飛び出したくなるのを抑えて戦場を観察する。

 

(デカい………あれはカメ? いや背中にあんなの生えてるカメなんて………)

 

 震えそうになる体を奮い立たせ、一夏はSレベルワームを観察するが、そこで山のようにも見える口の下に並ぶ一対の巨大な目と視線がかち合う。

 

「何なんだこいつ………!」

 

 見た事も無い異形の姿をしたSレベルワームに、一夏は雪片弐型を強く握りしめるしかなかった。

 

 

 

「………始まった」

 

 ベッドの上でアイーシャはそれを感じていた。

 程なくして、隠しようもない振動が幾つも響いてくる。

 

(聞こえてる?)

(ええ、はっきりと)

(これは、ひょっとして戦闘?)

 

 ナノマシンを介して隣室の者達と連絡を取るアイーシャだったが、他の者達も状況の変化に気付いていた。

 

(みんなが来てくれた。すぐに救援が来る)

(でもおかしいです。振動も小さいし、砲声の類がほとんど聞こえない)

(簡単、遮蔽物が有るから)

(つまり今私達がいるのは、地下。しかもかなり深い)

 

 僅かな情報から、今自分達が置かれている状況を理解した者達は、これから何をすべきかは考える。

 

(だとしたら、室内から出れても脱出は困難)

(救援が来るまで待つしかないと………)

(………残ったエネルギーでまだ出来る事がある。けどあいつらにも気付かれるから、後をよろしく)

(一体何を)

 

 

 

 戦場で戦う者達に、一斉に信号が届く。

 

「これは、救援信号!?」

「この識別パターン、まさか!」

「彼女よ!」

 

 トリガーハート達が、その信号の識別パターンに覚えが有る事に一斉に気付く。

 

「救援信号受信。敵味方識別一致、信号はFツヴァイ」

「彼女も、ここにいる!」

「無事だったんですね!?」

 

 戦闘妖精達もその信号の主に気付き、喜色を浮かべる。

 

『イミティト、じゃなくてFツヴァイからの物と思われる救援信号を受信!』

『発進位置を解析特定。目標の小島、地下50mと断定されました』

 

 カルナとブレータが信号の発信元を特定、その情報が即座に全組織へと発進される。

 

「地下50m!? そこにアイーシャはいるの!?」

「今はこっちに集中して!」

 

 音羽が送られてきたデータに驚くが、瑛花の言葉にまずは目前の戦闘に集中する。

 

「他に何か情報は!?」

「暗号通信が付随、FAF仕様の物です!」

『今解読してる! イノセンティア!』

『解読完了、内容は要救助者三名有り!』

 

 一夏が簪に問うが、あおがFAFの解読プロトコルを持っているイノセンティアを急かして解読させる。

 

「これが本当なら、つまりここにはアイーシャとFツヴァイ、そしてもう一人………」

「いる事になるな」

 

 攻龍のブリッジで、七恵が突如として舞い込んできたデータに驚き、冬后も頷く。

 

「あ、信号途絶しました!」

「何か有ったのか!?」

「途絶前後の出力から見て、エネルギー切れかと思われます!」

「つまり、彼女はそういう状況か………」

「こちらからも随時交信を試みてみます!」

 

 七恵の解析にブリッジ内がざわめき、タクミもなんとか交信を試みるが、繋がらない。

 

「艦長」

「作戦をガンマからゼータに。全組織に戦闘参加を要請」

 

 嶋に促され、門脇は即座に作戦レベルを更に引き上げを打診。

 それに応じて、状況の推移を見守っていた他の者達も一斉に転移に入る。

 さらなる激戦の幕が、上がろうとしていた………

 


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