第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP08

 

帝都防衛戦と同時刻 アメリカ合衆国 紐育(ニューヨーク)

 

 摩天楼を夕闇が訪れようとする中、激戦が繰り広げられていた。

 

「はあっ!」

 

 若い気勢と共に、振り下ろされた白刃が目前の敵を両断する。

 

「まだ来るよシンジロウ!」

「分かってます!」

 

 蒸気を噴出しながら、紐育華撃団・星組採用霊子甲冑 《STAR Ⅴ》がフォーメーションを組む。

 まだ若い、というか幼ささえ感じる童顔の青年、紐育華撃団・星組隊長、大河 新次郎が駆る紅白のカラーリングが施された《フジヤマスター》が手に双刃を構え、押し寄せる敵と相対する。

 その隣、サムライに憧れる赤毛のカウガール、ジェミニ・サンライズの駆る茜色の《ロデオスター》が新次郎をサポートするべく、並んで白刃を構えた。

 

「ここを突破されたらやばいよ!」

「大丈夫! リカ撃ちまくる!」

 

 凛々しい顔つきをした黒人女性、サジータ・ワインバーグの駆る黒色の《ハイウェイスター》が両手にチェーンを構え、いつも元気なおさげの少女、リカリッタ・アリエスの駆る緑色の《シューテイングスター》が二丁拳銃を構える。

 

「敵、更に増えました!」

「全く、何がどうなっているのやら」

 

 メガネをかけた研修医でもある女性、ダイアナ・カプリスの駆る青色の《サイレントスター》が新たに敵機を捉え、性別・年齢共に不詳の謎の天才、九条 昴が駆る紫色の《ランダムスター》が不敵に笑いながら鉄扇を構える。

 紐育華撃団のメンバーの困惑は、今戦っている場所に有った。

 紐育のシンボルである自由の女神像の前、それには違いない。

 だが、本来ならば自由の女神像の前に広がるはずのニューヨーク湾は無く、そこに広がるのは広大な砂漠だった。

 そして困惑のもう一つの原因は、共に戦っている者達にあった。

 

「FIRE!」

 

 号令と共に、一斉に砲弾が発射される。

 霊子甲冑よりも遥かに小さい、キャタピラ状のパーツで構成された陸戦用ストライカーユニットを装備した陸戦ウィッチ達の一斉砲撃が、自分達と共に突如としてこのニューヨークに現れた敵、漆黒の体に赤い光を灯すネウロイに攻撃を開始した。

 

「私達にも分かりません! けど、ここで食い止めないと!」

 

 陸戦ウィッチ隊の隊長、ブリタニア陸軍 セシリア・グリーンダ・マイルズ少佐が部下達に号令を出しつつ、自らも砲撃を繰り返していた。

 

「そっちは任せたよ! 右翼を抑える!」

 

 黒地の戦闘服で統一されたリベリオン陸軍所属陸戦ウィッチ隊、通称 《パットンガールズ》が世界は違えど、自分達の国の象徴を護るべく、押し寄せる四角い体に鋭い足が生えた陸上ネウロイに突撃を掛ける。

 

「敵陣中央に穴を開けるわ! 魔導榴弾装填!」

「はい!」

 

 STAR Ⅴにも劣らない大型の陸戦型ストライカーユニット、試作重戦車ユニット6号「ティーガー」が指導役の顔に傷跡のあるやや年かさのウィッチ、フレデリカ・ポルシェ少佐の指示でティーガーを駆る小柄なウィッチ、シャーロット・リューダ軍曹が88mm砲弾をネウロイの中央に撃ち込み、盛大な爆炎が上がる。

 

「胴体部下中央、そこにコアがあるわ! そこを狙って!」

「簡単に言ってくれる!」

 

 フレデリカが叫ぶのを聞きながら、サジータがハイウェイスターを突出させ、両腕のシザーズチェーンを地面を撃ち込む。

 そのままチェーンは砂の中を進み、真下から陸上ネウロイのコアをそれぞれ貫き、破砕させる。

 

「ボクとジェミニが突撃します! サジータさんとダイアナさんはサポート、リカと昴さんは上空に上がってください!」

『了解!』

 

 陸戦ウィッチと協力して、新次郎は攻勢に出る。

 だが戦場は、地表だけではなかった。

 

 

「小型2、中型3、大型1!」

「それくらいなら、問題ない!」

 

 ジェット戦闘機を彷彿させるシルエットやUFOその物のようなネウロイを従え、大型爆撃機のような巨体の飛行ネウロイを前に、四人のウィッチが待ち構える。

 巫女装束にも似た扶桑陸軍ウィッチの軍装に身を包んで首からカメラを下げたウィッチ、第31統合戦闘飛行隊 《ストームウィッチーズ》隊長、加東 圭子少佐が素早く敵をカウントし、ピンクがかった金髪をし、使い魔らしい猛禽の翼を頭部に生やして自信にあふれた顔をしたストームウィッチーズのエース、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉が平然と突っ込んでいく。

 

「ライーサはマルセイユのサポート、真美は大型を足止めして!」

「了解!」「了解です!」

 

 マルセイユと同じ猛禽の翼を生やした童顔のウィッチ、マルセイユの僚機を務めるライーサ・ペットゲン少尉が後に続き、圭子と同じ扶桑陸軍ウィッチの軍装を着た小柄でおかっぱ頭のウィッチ、稲垣 真美軍曹がその体躯とはあまりにアンバランス過ぎる巨大な砲を構え、大型飛行ネウロイへと向けて発射する。

 

「すごいなそれ! リカも欲しいぞ!」

「援護する!」

「大型でも弱点は同じよ! 外装を破壊してコアを探して!」

 

 STAR Ⅴの最大の特徴であるフライトフォームに変形したシューティングスターとランダムスターが上昇してきたのに、圭子が指示を出して二人はそれに従い、攻撃を開始する。

 

「陸戦と空戦、両方出来るなんてすごいですね」

「可変型はこの間もいたけど、それとはまた違うわね」

 

 地上と空中、両方で戦えるSTAR Ⅴに真美が感心し、次弾装填を手伝っている圭子も興味深々にウィッチと華撃団、双方が混じった空戦を見つめていた。

 

「陛下、感想は後です」

「分かってるわサイフォス」

 

 圭子の隣にいる全身甲冑の騎士その物の格好をした武装神姫、騎士型MMS・サイフォスが圭子を守護するべく両手剣コルヌを構える中、圭子は普段の癖で空戦の様子を撮影する。

 

「小型と中型はもう片付くわね。真美、大型を下の連中の頭上に近づけさせないで」

「分かりました! 撃ちます!」

 

 真美が再度砲撃を叩き込み、大型ネウロイの動きが鈍くなる。

 

「予想以上に固いわね………」

「でも効果は出ています!」

「残弾が豊富な訳じゃないからね。マルセイユが来る前にコアだけでも…いけない!」

 

 そこに大型ネウロイの表面が赤く光ったかと思うと、そこから極太のビームが発射され、圭子は慌てて下がり、真美はシールドを張ってなんとかガードする。

 

『ケイ! マミも大丈夫か!』

「こっちは大丈夫!」

「このネウロイ、装甲だけでなく火力もかなりあります!」

 

 マルセイユの通信に答えながら、圭子は砲の再装填を急ぐ。

 

「こちらからも行くぞ!」

「行け行け~!」

 

 ランダムスターとシューテイングスターからミサイルが次々と発射され、大型ネウロイに命中していく。

 ネウロイの装甲が大きく破壊されるが、破壊される端から再生していくのを見た昴が歯ぎしりする。

 

「再生するのか! 普段君達はこれをどうやって倒してるんだ!」

「だからコアを探すのが最優先よ! 悪いけどウチに探知系のウィッチいないから!」

「探知系なら分かるんだな?」

 

 圭子が思わず叫んだ事に、昴が敏感に反応する。

 

「新次郎! ダイアナをこちらによこしてくれ! この大型のコアの場所を探ってもらう!」

『分かりました! こちらはウィッチの人達と何とかします!』

「攻撃を続けて! コアの場所が分かるまで、向こうの注意を惹きつけないと!」

 

 ウィッチと華撃団の攻撃が続く中、変形・上昇してきたサイレントスターが大型ネウロイの周辺を旋回しつつ、検知に入る。

 

「これは………中央部後方、何か有ります! けどかなり奥の方です!」

「装甲のど真ん中か………厄介ね」

 

 ダイアナが叫ぶが、そこへ大型ネウロイのビーム攻撃が多数発射され、空中にいた者達が全員散開してかわす。

 

「しかもこの火力、コアまで到達するのは困難ね」

「ケイさん! あれ!」

 

 圭子が攻めあぐねる中、ビームを回避したランダムスターが、急旋回しつつ大型ネウロイへと迫っていく。

 

「霊力制御、解除。走馬灯!!」

 

 膨大な霊力の閃光を放ちながら、突然ランダムスターが三機に分裂、そのまま三機で旋回しながら霊力の塊を形成し、大型ネウロイへと叩きつける。

 

「すごい固有魔法ね………」

「だが陛下、外したようだ」

 

 昴の必殺技が炸裂する直前、狙いすましたかのような大型ビームがランダムスターを狙い、わずかに軌道を変えざるえなかったために、コアのあると思われる辺りをずれ、中央部を大きく穿っていた。

 

「く、ずれたか………」

「でも相手の火力を削げたわ! 再生部からは攻撃してこないから、そこから狙って! 真美も!」

「行くぞ~!」「はい!」

 

 大型ネウロイの攻撃が弱くなった隙に、シューティングスターと真美が急上昇、攻撃の穴を目掛けて急降下しながら、ミサイルと砲撃を叩き込む。

 

「何か出ました!」

「コアよ! あれを…」

 

 ダイアナと圭子が同時に露出したコアを見つけるが、次の瞬間、狙い澄ました銃撃が叩きこまれ、コアが破砕。

 続けて大型ネウロイも木っ端微塵に砕け散った。

 

「おっと、いい所だけもらったか?」

「そうだな」

 

 他の飛行型ネウロイを全て片付けたマルセイユが、コアの露出した瞬間を逃さず撃破した事に、昴は淡々と答えるが、全員が即座に次の行動へと入る。

 

「陸戦隊を援護、マンハッタン島に一体も上陸させちゃダメよ!」

『了解!』

 

 圭子の指示にウィッチのみならず華撃団も思わず返答しながら、押し寄せる陸上ネウロイへと向けて、急降下していった。

 

 

 

「上は片付いたようです、姫」

「だってさシンジロウ!」

 

 ロデオスターの肩に止まり、上空の交戦状況をデータリンクで随時教えていた墨色の和風装束に身を包んだ武装神姫、忍者型MMS・フブキがマスターに選んだジェミニにそれを伝え、ジエミニはそれを新次郎に伝える。

 

「そちらの機体、対地攻撃は出来るの!?」

「少し難しいです! 昴さん、リカ、ダイアナさん! 降下して防衛線に参加してください!」

「遊撃は上のウィッチ達に任せて!」

「ここから一体も通さないのが任務です、隊長!」

 

 マイルズが手にした52口径砲を連射しながら叫び、その傍らで陸戦ウィッチをそのまま小型にしたような武装神姫、砲台型MMSフォートブラッグがFB256 1.2mm滑腔砲を同じく連射していた。

 

「増援が止まったわ! 今の内に!」

「紐育華撃団、突撃!」

 

 ネウロイの勢いが弱ってきたのを見たウィッチと華撃団は、同時に攻勢に打って出ていた。

 

 

 

「いやはや、すごい絵だね~」

「確かに」

 

 上空から戦闘の様子を見ていた紐育華撃団の移動母艦、武装飛行船 エイハブのブリッジ内で、メガネをかけてやけに芝居がかったしゃべり方をする白スーツの男、紐育華撃団総司令、マイケル・サニーサイドと、その隣で険しい顔をしているスーツ姿の容姿端麗な女性、副司令のラチェット・アルタイルがウィッチと華撃団が総力を上げてネウロイと戦っている光景を観察していた。

 

「この仕事始めて色々見てきたけど、まさか自由の女神の前に砂漠とはね。ちょっとユーモアにしては面白く無いかな?」

「しかも未確認の敵も大量にね。味方もだけど」

「果てさて、本当に彼女達は味方かな?」

 

 サニーサイドは口調だけはおどけて、だがその目は鋭くウィッチ達を見つめていた。

 

「少なくとも、今は敵じゃないわ」

「今は、か。けどだとしたら、ジェミニ君の言ってた事を信じなくちゃいけない」

「異なる世界、そこにいる戦士達………ウィッチの隊長さんも同じ事言ってたわね」

「あと武装神姫とかいうお人形さん達かな? あの子達が現場で間に立ってくれなかったら、危うく三つ巴だったけど」

『サニーサイド司令』

「どうだった杏里君、プラム君」

『ダメです。帝都、パリ共に連絡が取れません。帝都は非常事態宣言が出てたはずですが、それ以降は………』

『武装神姫って子達の言う事が本当だとしたら、同じ事があっちでもそっちでもって事かしら?』

 

 通信に小柄な和風少女と肉感的な美女、支援を任務とする紐育華撃団虹組の吉野 杏里とプラム・スパニエルが映って、他の華撃団との通信途絶とある可能性を口にする。

 

「という事は、東京とパリにもウィッチ達が来てるのかな?」

「敵もって事になるかもしれないけれどね」

『! 大型反応! 何か来るわよ!』

「ああ、見えてるよ」

 

 プラムがレーダーの反応を報告するが、サニーサイドの目には、砂漠が出現したのと同じ霧の竜巻と、そこから出てくる巨大な何かの姿が見えていた。

 

「どうやら、あちらの主役の登場だ」

「あれは………!?」

 

 

 

「ケイ! あれは!」

「何て事………」

 

 霧の竜巻の中から、巨大な陸上ネウロイが姿を表す。

 船をひっくり返し、それに無数の足を付けたようなデタラメなデザイン、実際鹵獲した駆逐艦の船体をそのまま使っている、かつて苦戦した駆逐艦ネウロイの姿に、圭子は絶句した。

 

「陛下!」

「分かってる! マイルズ! 華撃団と協力して右舷に攻撃集中! まずは足を止めて!」

『了解!』

「私達は上空から攻撃して注意を惹きつけるわ!」

「あいつは厄介だからな。マミ、残弾は?」

「あと3発しかありません!」

「じゃあ残しておけ、行くぞライーサ!」

「はい!」

 

 マルセイユが突撃し、ライーサが後に続く。

 発射されるビームの嵐を掻い潜り、シールドで防ぎながら、二人は銃撃を撃ち込んでいく。

 

「さっきの奴にコアを探させろ! 掘り出すだけで一苦労だ!」

「多分もうやっているのでは………」

 

 

 

「ミフネ流奥義、ランブリングホイール!!」

 

 ロデオスターの放つ必殺技が、駆逐艦ネウロイの足をまとめて吹き飛ばす。

 

「奥義………蕾散らし!」

 

 ロデオスターの真上から振り下ろされようとした足に向かってフブキが忍刃鎌 散梅を投じ、旋回した鎌が螺旋を描くように足を駆け上っていき、その軌道に沿って切断された足が零れ落ちていく。

 

「もっとです! まずは足を破壊して動けなくしてください!」

「再生よりも早く破壊すれば!」

 

 新次郎とマイルズの声が飛び交い、ありったけの攻撃が駆逐艦ネウロイに叩きこまれていく。

 

「バランスが崩れてきたわ!」

「よし、ダイアナさん!」

「多分、中央やや前よりの部分です!」

「シャーロット!」

「了解!」

 

 ダイアナが探り当てたコアらしき反応に、ティーガーから放たれた88mm弾が撃ち込まれる。

 

「もう少し後ろです!」

「真美!」

「はい!」

 

 駆逐艦ネウロイに巨大な弾痕が穿たれるが、僅かに位置が違ったらしく、今度は真美が上空から砲撃を叩き込む。

 再度巨大な弾痕が穿たれるが、それでもコアは見えなかった。

 

「また違う場所ですか!?」

「いえ、場所は合ってるはずです! もっと奥の方なんです!」

「じゃあリカも撃つ!」

 

 シューティングスターの連続射撃が弾痕を更に穿っていくが、コアは露出してこない。

 

「固いぞこいつ! もっと撃つ!」

「あんたらこいつと戦った事あるんだろ! どうやって倒したんだい!」

「通常部隊とも合同で、総攻撃してコアを露出させて、ティーガー壱号機を自爆させたの!」

「最後の手は却下だ!」

「パットンガールズは足の再生を阻止! こいつをここに釘付けにするのよ!」

「イエス、マム!」

「上空から狙ってみます! 皆さん援護を!」

 

 放たれたビームを飛び退って避けたフジヤマスターが、フライトフォームに変形して上空へと舞い上がり、大きく旋回して駆逐艦ネウロイを狙う。

 

「弾幕!」

「分かっている!」

「胴体部に一斉斉射!」

 

 新次郎への注意を逸らすべく、空中、地上双方のウィッチ達が一斉攻撃を叩き込む。

 

「罪を償え………バーディクト・チェイン!」

「いただきま~す! モア! モア! ショット!」

 

 ハイウェイスターの鎖の乱舞と、シューティングスターの高速速射が駆逐艦ネウロイの足をまとめてなぎ払い、バランスを崩した駆逐艦ネウロイがその場に転倒する。

 

「退避~!」

「無茶苦茶だ向こうの連中!」

「そっちこそ!」

 

大質量の転倒に皆が慌てて退避し、周辺を砂塵が巻き上げる。

 

「行くぞ! 狼虎滅却・雲雷疾飛!!」

 

 砂塵を突き抜け、フライトフォームのフジヤマスターから新次郎の霊力が吹き出し、巨大な霊子の双翼の刃と化す。

 そのままフジヤマスターの機体を横転させ、霊子の刃で一気に駆逐艦ネウロイを斬り裂いた。

 

「見えた!」

「あれを…」

 

 新次郎の一撃で破壊した部分に見えたコアに、狙える者達全員が狙いをつけるが、いち早く飛来した何かがコアを直撃、粉砕する。

 

「今の…」

「銃でも砲でもなかったような…」

「鷲の神を煩わせるまでもない」

 

 駆逐艦ネウロイの全身が光の粒子となって砕けていく中、昴とサジータが違和感を感じて振り返ると、そこにいる槍とスリングというかなり変わった装備をしたアフリカ系ウィッチが、トドメの投石を叩き込んだ事に気付いて頬を引きつらせる。

 

「見事だったぞマティルダ」

「はい鷲の神」

 

 自分の従兵であるマティルダにマルセイユが声を掛け、マティルダが頭を垂れる。

 

「ちょっと、あれ!」

「あ………」

 

 そこでウィッチ達が自分達とネウロイが潜ってきた霧の竜巻が霧散していく事に気付く。

 

「今なら…」

「お待ちを陛下。次元歪曲が不安定になっています。どこに飛ばされるか分かりません」

「全員待った!」

 

 サイフォスの指摘に、圭子は慌てて飛び込もうとしていたウィッチ達を止める。

 その間に、霧の竜巻は完全に消えてしまっていた。

 

「………消えたな」

「消えちゃいました………」

「私達、戻れない?」

「さあ………」

「大丈夫です隊長。他の武装神姫が各組織に派遣されています。帰還の可能性は充分に在り得るかと」

「つまりそれって、こういう事が起きてるのはここだけじゃないって事?」

 

 唖然とするウィッチ達にフォートブラッグが安心するように告げるが、そのもう一つの意味にフレデリカが僅かに顔を曇らせる。

 

「とりあえず残存敵機無し、これ以上出てくる様子も無いし、一応戦闘終結って事かしら?」

「もう残弾1発しか残ってません………」

 

 上空から空戦ウィッチ達が降下し、改めて紐育華撃団と相対する。

 

「改めて自己紹介させてもらうわ。第31統合戦闘飛行隊・《ストームウィッチーズ》隊長、加東 圭子、階級は少佐よ」

「自分が紐育華撃団星組隊長、大河 新次郎少尉です」

「あら、随分と若い隊長さんね」

「一応19なんですけど………」

 

 ハッチを開けて敬礼した新次郎に、圭子は握手を求め、新次郎もそれに応じる。

 

「それで、この後私達どうしたらいいんでしょう?」

「ですよね………」

 

 周囲を見回したマイルズが漏らした言葉に、シャーロットも呆然と呟く。

 ネウロイは殲滅したが、砂漠はそのまま、異世界らしい事は確かだが、今後の宛も無いウィッチ達は途方に暮れる。

 

「大丈夫です、陛下」

「私達はここに転移現象が起きてる事が確認されたから派遣された。プロフェッサーから直に連絡が来るはずだ」

「そういう訳ですので姫、しばらく彼女達をここで預かってもらえませんか?」

 

 そこで武装神姫達が告げた情報に、双方が顔を見合わせる。

 

『OKOK、ゲストはこちらで面倒見よう!』

「司令、いいんですか?」

『彼女達はニューヨークを共に守ってくれた、言わば戦友だよ? 丁重にもてなさないと、ボクの沽券に関わるさ』

「分かりました、そう伝えます」

 

 サニーサイドからの快諾に、新次郎はその旨をウィッチ達に伝える。

 

「ねえシンジロウ、そういえばアレまだだよね?」

「そうですね」

「やろうやろう! 大勢でやると面白そうだ!」

「何かあるのか?」

「あのね…」

 

 ジェミニとリカが何かを囃し立てるのをマルセイユが不思議そうに見た所に、ジェミニがそれを教える。

 

「ほほう、それは面白そうだ」

「や、やるんですかティナ?」

「ウィッチ全員集合!」

 

 にやりと笑ったマルセイユにライーサが身構えるが、マルセイユはそのまま集合を掛ける。

 

「え? やるんですか?」

「いいねそれ!」

「もっと寄って! それじゃあ…」

「せ~の」

『勝利のポーズ、キメっ!!』

 

 ウィッチ、華撃団、そして武装神姫達がポーズを決めた所で、圭子の指がシャッターを押した。

 

 

「戦闘行動終結を確認しました」

「転移戦力と現地戦力の共闘により敵を撃破、敵は特徴からネウロイと称される個体と思われます」

「大規模な周辺転移と思われる砂漠はそのままです。今後、同様のケースが増える可能性が在り得るかと」

「FFR―31MR/D、帰投します」

 

 

 

帝都防衛戦と同時刻 フランス 巴里(パリ)

 

 本来ならば夜の帳が静けさをもたらずはずの時間、それとは裏腹の光景がそこには広がっていた。

 

「戦士の魂よ…ここに集え! ゲール・サント!!」

 

 膨大な霊力で構成された水柱が吹き上がり、眼前の敵を吹き飛ばす。

 

「こちらは片付いた!」

「グリシーヌ、こちらももうすぐです!」

「こっち来てくれ! また新手だ!」

 

 手に巨大な斧を持った青い機体、巴里華撃団・花組採用霊子甲冑・《光武F2》を駆る金髪碧眼の貴族にしてバイキングの末裔でもあるグリシーヌ・ブルーメールが即座に仲間の応援に向かう。

 その彼女の前に立ちふさがるように、小型の空中機が立ちふさがる。

 

「く!」

 

 走りながら斧を構えるグリシーヌ機だったが、小型機は彼女が応戦するよりも早く、飛来した銃弾に撃墜される。

 

「空はこちらに任せてもらえるかな?」

「頼む!」

「って、それだけ?」

 

 小型機を撃墜した者に短い礼だけ言ってグリシーヌは仲間の元へと急ぐ。

 ちょっとだけ顔をしかめた犬の耳を持った長身のウィッチ、第502統合戦闘航空団《ブレイブウィッチーズ》所属、ヴァルトルート・クルピンスキー中尉はすぐに気を取り直して戦闘を続行する。

 

「はてさて、さっきまでペテルブルグのはずが花のパリ、しかも夜戦の真っ最中とはね」

「中尉! 無駄口叩いてないで行きますよ!」

「はいはい」

 

 クルピンスキーの背後、白クマの耳を持ったヘアバンドをしたウィッチ、アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉が怒鳴りつけ、二人は敵へと向かっていった。

 

「それで大尉はアレ、何だと思う?」

「前に見たワームとかバクテリアンとはどこか違うみたいですが………」

 

 突如としてセーヌ川に現れ、市街地に破壊活動を行っているその敵の姿に、二人は首を傾げていた。

 それは、巨大な魚のような形をしていた。

 大きさだけで言えば大型のサメかクジラに見えなくもないが、川岸の街灯に照らされたその体表は金属質の光沢を帯びており、口には人間を思わせる四角い歯が並んでいる。

 そしてその目には青白い炎が灯り、迎撃していて見えた、足のような物まで生えている。

 何より、口から砲撃を放つ魚類なぞという物が存在するはずもなかった。

 

「この際、敵の正体は後回しだ。運の良い事に、我々の攻撃も彼女達の攻撃もよく効いているようだからな」

 

 二人の前、コルセットを付けた狼の耳を持つウィッチ、ブレイブウィッチーズ隊長 グンドュラ・ラル少佐が謎の巨大魚が放つ砲撃を回避しつつ、銃撃を続けながら呟く。

 

「弾幕を張り、川岸に追い込んで向こうにトドメを任せよう。破壊力は向こうの方が上みたいだからな」

「その方がいいです、マスター。厄介なのもいるみたいですし」

 

 ラルのそばでメガネにナースキャップ、手に注射器型デバイスまで持った武装神姫、ナース型MMSブライトフェザーが注射器型ランチャー、バスターシュリンジで援護射撃を行いながら敵を確認する。

 

「魚はそんなに怖くありません!」

「問題はあっち! 今、管野少尉が相手してる方です!」

 

 ガリア空軍の制服に身を包んだお下げ頭でペルシア猫の耳を持つウィッチ、ジョーゼット・ルマール少尉と、扶桑海軍の藍色の士官服に身を包んだショートヘアのウサギの耳を持つウィッチ、下原 定子少尉が巨大魚の向こうにいる二つの人影を指差す。

 

「こいつ! こいつめ!」

 

 レザージャケットにマフラーを巻いた小柄なウィッチ、管野 直枝少尉が、迫り来る小型の眼と口を持った奇怪な小型機を次々と撃ち落とす。

 その先、そこに一見、人を思わせるシルエットが有った。

 それは白いボディスーツをまとい、手に杖を持った少女のような姿をしていたが、その目には巨大魚同様、青白い炎が灯っており、そして水面になんの支えも無しに何故か立っている。

 それだけでも異常なのに、少女の頭部には更に異質さを際立たせるように、まるで巨大魚の頭部を横に伸ばして貼り付けたような、怪物の頭が乗っていた。

 その奇怪な頭部の口から、次々と小型機が吐き出され、ウィッチと華撃団を苦しめていた。

 

「一体何匹出てくるんだこいつら!」

「下がって管野少尉! 一対一で戦える相手じゃないわ!」

 

 キリのない小型機の襲撃に直枝が悪態をつくが、そこで小柄なベスト姿の狐の耳を持つウィッチ、エディータ・ロスマン曹長が援護射撃を行いながら撤退を促す。

 

「あっちにも妙なのがいる! ってうわあっ!」

 

 スオムス空軍仕様のセーターにショートヘアで雪イタチの耳を持つウィッチ、ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン(通称ニパ)曹長が新手を指さすが、直後襲ってきた砲撃に慌ててシールドで防ごうとするが、防ぎきれずに吹き飛ばされる。

 

「ニパさん!」「大丈夫か!」

「な、何とか………結構強烈………」

 

 仲間が声をかけてくる中、何とか体勢を立て直したニパが上昇しながら、砲撃を放ってきた敵を見る。

 砲撃を行ったのは更なる異形で、怪物の口が三つ連なり、そこから腕が生え、その腕で当たり前のように水面に立っている、という最早生物としての体すらなしてなかった。

 その異形の左右の口の上に生えた砲塔が、ウィッチ達を狙う。

 

「回避して!」

「ダメだ小さいのが来た!」

 

 次に狙われた直枝とロスマンが回避しようとするが、小型機に周囲を囲まれ、退路を絶たれてしまう。

 だが砲撃が放たれる直前、立て続けに放たれた矢が砲塔に直撃、爆散させる。

 

「あれは私がお相手します!」

「頼んだ!」

 

 川岸にいた巨大蒸気弓を構えた黒い光武F2、それの搭乗者の北大路男爵家の令嬢にしてフランス人のクォーターの北大路 花火が、今度は異形の中央に向けて矢を番える。

 そこで異形の中央の口が大きく開いたかと思うと、飛び出した黒い塊が水面へと飛び込み、高速で花火機へと向かっていく。

 

「魚雷!?」

「避けろ!」

 

 予想外の攻撃にウィッチ達が叫ぶが、魚雷は花火機の手前で突然爆発する。

 

「間に合った! 花火大丈夫!?」

「はい、ありがとうコクリコさん」

 

 サーモンピンクで両肩に蒸気砲を搭載した光武F2、搭乗者の巴里歌劇団最年少の東南アジア系の少女、コクリコが寸前で魚雷を迎撃し、再度の雷撃に備える。

 異形が次弾の魚雷を放とうとするが、突如として口から魚雷ではなく鉤爪が飛び出し、更には鉤爪から炎が吹き出して口内で魚雷が爆発、異形自身も吹き飛んでしまう。

 

「あんま舐めた真似すんじゃねえよ」

 

 爆煙の向こうから、深緑で両腕に鋭い爪を装備した光武F2が現れる。

 その搭乗者、銀髪にメガネを掛けたどこかガラの悪い女性、その実パリ始まって以来の大悪党と言われた人物ロベリア・カルリーニが自機の鉤爪を振るって焦げた血肉を払い落とす。

 

「ちっ! 今度はあっちって言ってんだよ!」

 

 足場代わりにしていた巨大魚にロベリアは鉤爪を突き刺し操ろうとするが、激しく抵抗され、止む無くトドメを刺すと川岸までなんとか跳躍する。

 

「無茶するね、君」

「こっちは飛べねえんだよ」

 

 クルピンスキーが呆れる中、ロベリアはセーヌ川内の敵を睨みつける。

 

「どうやら、向こうは水上か水中にしかいれないようだね」

「分かってんなら、こっちに追い立てな。斬り裂いて、燃やしてやる」

「はいはい」

 

 明らかに機嫌の悪いロベリアに、クルピンスキーは素直に答えながら銃を構える。

 

(原因はアレだよね………)

 

 こちらに口腔を向けてくる巨大魚に向けてトリガーを引きながら、クルピンスキーは街灯に照らし出されている、翼を持った赤い光武F2を横目で見る。

 完全に沈黙している赤の光武F2、その搭乗者がどうなったかをウィッチ達も見ていた。

 

「多分大丈夫、って言っても信じてもらえないかな?」

「ブツブツ言うのは後だ! 手付きが向こうにもいるぞ!」

「帽子付きを包囲して! かなり厄介よ!」

「花火、コクリコ! どうにかあの帽子付きを川岸に追い立てられないか!?」

「やってみます!」「ちょっと遠いけど!」

 

 砲撃をかわし、防ぎつつ、ウィッチと華撃団が徐々に敵を減らしていった。

 

 

「敵、更に撃破! 残り僅かです」

「市街地の火災は現在消化中! 被害は思っていたよりも少ないみたいです!」

「あの子達のお陰だね、あたしらだけじゃ手に負えなかった」

 

 パリ・モンマルトにあるダンスホール・テアトルシャノワール、更にその地下にある巴里華撃団本部で、ショートカットの生真面目そうなメイドとゆるやかなロングヘアーの天然そうなメイド、巴里華撃団オペレーターのメル・レゾンとシー・カプリスが状況を報告する。

 それを司令席に座って黒猫を抱いた中年婦人、巴里華撃団総司令 イザベル・ライラック、通称グランマが映しだされている華撃団と共に戦うウィッチ達を見て嘆息する。

 

「それで、エリカの方は?」

「通信を呼び出してはいるんですが、まだ………」

「東京とニューヨークの方は?」

「そっちも繋がらないですぅ。大神さん達に何かあったんでしょうか………」

「…そうかい。今は敵の撃破に集中させておき」

「そう伝えます」

「エリカさん、どこに行っちゃったんでしょうか………」

 

 

 

「おりゃああぁぁ!!」

 

 直枝が突撃し、手にした扶桑刀で手付きを真横に両断する。

 

「残る一匹!」

「あの帽子付き、随分と身持ちが固いね~」

 

 再現無く小型を吐き出してくる帽子付きに、ウィッチも華撃団も攻めあぐねる。

 

「川の中央から動こうとしない。こっちの攻撃範囲を完全に読んでいるな」

「グリシーヌ、矢の残りが………」

「おいあんたら! どうにかこっちを運べないか!」

「その機体、何kgあるんです? 戦闘中にはちょっと………」

「こちらの残弾も少ない、一気に勝負を決めるべきか?」

「けどマスター、あの敵個体は外見以上に頑強そうです」

「オレが突っ込む! 援護してくれ!」

「ナオちゃんだけじゃ危ないよ、ボクも行こう」

「こちらで何とか川岸まで追い込む。トドメを頼…」

「あれ?」

 

 ウィッチ達が突撃を敢行しようかとした時、コクリコがある事に気付く。

 

「あの胸の大きいお姉ちゃんの、燃えてない?」

『え』

 

 帽子付きの周辺を旋回包囲していたウィッチ達の中、ニパのストライカーユニットが突然のエンジン不良で火を吹く。

 

「え? え? うわあああぁぁ!!」

 

 本人が気付いた時にはすでに遅く、バランスを取ろうとするもかなわず、墜落していく。

 しかも、帽子付きへと向かって。

 

「ヲ………!」

 

 帽子付きの口から、言葉とも言えない声が漏れ、向かってくるニパへと向かって小型機を集中させる。

 

「うわああぁぁぁん!」

 

 自分に向かってくる無数の小型機に、ニパは涙を流しながらシールドを張り、小型機を弾き飛ばし、何割かは防ぎきれずに食らいながら、そのまま帽子付きの怪物頭部へと直撃した。

 

「ヲ………」

「よくやったニパ!」

 

 体当たりは全く想定してなかったのか、帽子付きの体勢が大きく崩れる。

 その隙を逃さず、直枝が最大速度で突撃、固有魔法の圧縮シールドを拳に形成、帽子付きへと叩きつける。

 

「ヲ…!」

 

 帽子付きは必殺の一撃を杖で受け止め、しばらく拮抗したかのように見えたが、限界に達してへし折れ、圧縮シールドの拳が腹へと叩きこまれる。

 

「こいつ、硬ぇ……!」

 

 だが直枝も、シールド越しに拳に伝わってくる感触の異常さに気付いてた。

 ダメージは確実に有ったのか、帽子付きの体がくの字に折れ、口からは人の物とは明らかに違う青い血が吐き出される。

 トドメを刺そうと直枝は背に吊るした扶桑刀に手を伸ばすが、そこで帽子付きの怪物頭部の触手が腕と首に絡みついてくる。

 

「この、離せ!」

 

 間違いなく絞め殺すに充分足りえる力が込められた触手だったが、飛来した銃弾が直枝を絞殺の窮地から救った。

 

「離れてナオちゃん!」

「行きますわ!」「はい!」「了解です!」

 

 クルピンスキーが狙いすました銃撃で直枝と帽子付きを引き剥がし、直枝が離れた直後、ポクルイーシキン、定子、ジョゼが三人がかりでシールドごと帽子付きへと体当たりする。

 

「ヲ……!」

「なんて硬度してるの!?」

 

 ウィッチの切り札とも言えるシールド突撃を帽子付きは受け止めようとするが、三人がかりの全力突撃の勢いは止めきれず、その体が水上を押されていく。

 

「3、2、1!」

「今っ!」

 

 ポクルイーシキンが謎のカウントをすると同時に、三人が一斉に離れる。

 そこで帽子付きが体勢を立て直そうとした時、その体の左右から鉤爪と斧が突き刺さった。

 

「ヲ………」

「何言ってるか分からねえよ」

「背後からとは卑怯かもしれないが、千載一遇のチャンスを逃すわけには行かなかったのだ」

 

 川岸まで押し出された帽子付きを、ロベリア機とグリシーヌ機が己の得物で完全に捉え、花火機とコクリコ機がほぼゼロ距離で構えていた。

 

「ご容赦を」

「喰らえ~!」

 

 ゼロ距離で蒸気弓と蒸気砲が発射され、巴里華撃団四人がかりの攻撃の前に帽子付きの体は限界に達し、粉々に吹き飛んでいく。

 

「どうやら、終わったようだな」

「ええ、ただ………」

 

 敵がいなくなった事を確認したラルとロスマンだったが、華撃団の面々は次々と自身の光武F2から降りると、赤い光武F2へと駆け寄る。

 それを取り囲むようにウィッチ達も次々と着地していく

 

「ハッチを開けるんだ!」

「分かってる!」

 

 グリシーヌとロベリアが急いで緊急開放手順を踏むと、ハッチが開いてそこから一人の少女が出てきた。

 

「これは………」

 

 その光武F2の本来の搭乗者、初代巴里華撃団隊長だった大神 一郎から二代目隊長に指名されたエリカ・フォンティーヌの姿はそこに無く、代わりにセーラー服をまとい、僅かに伸ばした髪を後ろで結んだ一人の少女がそこにいた。

 

「この子………」

「知ってる奴か?」

「いんや、けどこいつ………」

 

 クルピンスキーと直枝もその少女を見るが、傷つき、気絶しているらしいその少女は、背に船舶の機関のような物を背負い、足にはこれまた船腹のような物を履き、手には小型の砲塔すら持っていた。

 

「海戦用ストライカーユニットなんて聞いた事ある?」

「無い、そもそもこいつウィッチなのか?」

「それよりも、エリカどこ行っちゃったの!?」

「そうです! エリカさんは………」

 

 首を傾げるウィッチ達に、コクリコと花火が戦闘中ずっと言うまいとしていた事を口走る。

 

「………彼女をこの中にかくまった直後、敵の攻撃で霧の竜巻の中に飲み込まれた。それはこの目で見た」

「その後に帽子付きが現れると、直後に霧の竜巻は消えてしまいました」

 

 グリシーヌが状況を確かめるようにつぶやいた言葉に、ロスマンが続ける。

 

「まさか跡形もなく吹き飛んじまったとか………」

「不吉な事を言うな! エリカがそう簡単に…」

「それなら大丈夫だな」

 

 混乱している華撃団に、近寄ってきたラルがある事を教えようとする。

 

「なぜそう言える?」

「私も見たが、確かにあの妙な奴らの現れた霧の竜巻に入っていった。そして、私達もその霧の竜巻に飲み込まれてここに来たからだ」

「何だと!?」

「実を言うと、私達も行方不明になった仲間を探している最中、ここに飛ばされたんです。いなくなった二人、ユーティライネン中尉とリトヴャク中尉は最後に『霧の竜巻が…』と通信してきた後、行方不明になったんです」

「そうか………だが残念だがその二人の事はこちらにも分からない」

「そうですか………」

 

 ロスマンの説明に、グリシーヌは小さく首を左右に振り、ウィッチ達も華撃団同様、項垂れる。

 

「大丈夫ですマスター、彼女にも武装神姫が一体、付いています」

「そういや戦闘が始まるとほぼ同時にエリカの所にも来てたな」

「さっきの戦闘じゃ、そっちの小さいのは役立ってたのは見たが、本当にエリカも大丈夫なのか?」

「ここに居ない、という事はエリカさんと一緒だと思いますけど…」

「そちらもこちらも、互いの無事を祈るしかない、か。とりあえずジョゼ、その子の応急処置を」

「はい」

 

 ブライトフェザーがサポートの武装神姫が付いていた事を説明するが、皆の顔は晴れない。

 ラルの指示で、ジョゼが固有魔法の治癒魔法を謎の少女へと使う。

 

「エリカみたいな事出来るんだな」

「エリカさんという方も治癒魔法持ちなんですか? 私のは応急処置がせいぜいで………あら?」

 

 ロベリアが興味深そうに見る中、ジョゼは治癒を続けるが、妙な事に気付く。

 

「何か、効きが弱いような………魔力が少ないせいでしょうか?」

「ん~?」

 

 更にロベリアが謎の少女に顔を近付け、花をひくつかせる。

 

「おいこいつ、血から妙な匂いしてるぞ。油みてえな」

「油? 光武の物ではないのか?」

「いんや、明らかに違うぜ」

 

 ロベリアが無造作に少女の傷から流れていた血を指先で取ると、口に入れる。

 途端に顔をしかめ、舐めた血ごとツバとして吐き出した。

 

「汚~い」

「こいつ、人間じゃねえ! 油臭え血が出てやがる!」

「何?」

 

 コクリコが顔をしかめるが、ロベリアの発した言葉に華撃団に緊張が走る。

 

「人間じゃない、確かアンドロイドとか言ったか?」

「はい、前回の戦いではトリガーハートや機械人と言った方々も参加してました。ただ、この人はそのどちらでもないようですが………」

 

 ラルが前の戦いにいた者達を思い出すが、ブライトフェザーはセンサーで少女の反応が明らかに生物に限りなく近い事に首を傾げる。

 

「う………ん」

 

 そこでジョゼの治癒魔法が効果を発揮したのか、少女が目を覚ます。

 

「気が付きましたか?」

「ここは………」

「パリのセーヌ川だ。君の名前は?」

「私は横須賀鎮守府所属艦娘、特型駆逐艦 吹雪です………」

 

 少女、吹雪の自己紹介に、華撃団とウィッチは顔を見合わせるしかなかった………

 ちなみにその頃、流されかけていたニパはポクルイーキシンによって救出されていた。

 

 

 

「戦闘行動終結を確認」

「敵は未確認の戦力、該当データは皆無ね」

「現地戦力一名、戦闘中超空間通路に飲み込まれ、MIA(※戦闘中行方不明)」

「FFR―31、帰投するわ」

 


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