ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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プロローグ・土くれ騒動
プロローグ


 イエット王国。

 この国は昔この国に島流しにされた犯罪者達によって創られたといわれている。

 そのため、これといった政府や王族はおらず、複数の犯罪組織が権力を握りこの国を統治していた。

 

 そんなヤバげな国の最西端に彼らはいた。

 

「たく。ヴォイスの奴……仕事の報酬出し渋りやがって。俺がどれだけただ働きしたと思ってやがる」

 

 それは二人組の男女。

 

 一人は、異常なほど眠たそうな雰囲気を垂れ流し、ダラダラと壁に向かって指を動かしている男。名前はライナ・リュート。

 

 ローランド最高の魔術師にして《複写眼(アルファ・スティグマ)》の保持者。

 

 将来の夢は昼寝王国の建国。

 

「ふむ。まったく、その通りだな。お前が夜な夜な町へ繰り出し、町に立ち寄る度に二十人もの女を孕ませたりするから。ここに来るのにも随分と時間がかかってしまった」

 

 もう一人の人物は絶世の美女。

 

 艶やかな金髪に、白磁のようなきめ細やかな肌。神の手によって創られたかのような整った容姿は、町を歩けば、十人中十人が振り向くといっても過言ではない。しかし、何故か無表情。

 

 フェリス・エリス。

 

 ローランド最強と謳われるエリス家の長女にして重度のだんご狂。

 

 将来の夢はだんご王国の建国。

 

 彼らは現在とある国の国王の命令によって、魔王や、悪魔すら滅ぼす《勇者の遺物》を探して旅をしていた。

 

「はいはい」

 

「……」

 

 戯言を軽く流すライナに、フェリスは無表情の中に少しだけ不満を混ぜたが、ライナが指を動かすのを止めたので、遊ぶことを渋々切り上げた。

 

「それで、今回の遺物はどんなものなんだ?」

 

 突如振動を初め、下にスライドし始めた壁をつまらなさそうに見つめながら、フェリスはライナに尋ねた。

 

「《ハルケギニアの銀鏡》っていう遺物で………多分、瞬間移動するための道具」

 

 完全に扉が開ききると二人は何の躊躇いもなく、壁の向こうに出現した真っ暗な通路に足を踏み入れた。

 

「求めるは光輝>>>闇砕(からさぎ)

 

 ライナが指を動かすと瞬時に、魔方陣が空中に浮かび上がり中央から光の球を吐き出す。

 

 その光の球を先頭に二人は通路の奥へと進んでいった。

 

「らしい? なんだそのいい加減な情報は? ふっ、所詮はライナか……」

 

「だから、それなんかムカつくからやめろって。一応今までの伝承の中じゃ一番信憑性があるんだぜ。実際近くの村には鏡を使った人間を見た。飲み込まれた人間を見たって人が多数いたしな」

 

「では、なぜあんないい加減な言い方をした?」

 

 ペラペラと喋りながら二人は歩をすすめる。

 

 途中に侵入者ようの物と思われる罠がいくつも発動するが、ライナはだるそうにしながらもしっかりとよけ、フェリスは無表情のまま罠を剣で切り裂いていく。

 

「いやな、どうも鏡を使った人間が全員帰ってきたわけじゃないみたいなんだわ。鏡を使った人間は伝承の物を合わせて十六人。でも確実に瞬間移動して帰ってこれたのはどれだけ調べてもたったの二人だ。だから俺は今回の遺物は瞬間移動する遺物じゃないと思うんだよな……」

 

 再び壁に突き当たり、ライナはめんどくさそうに両目を意識する。

 

 ライナの両目にはいつの間にか、五芒星が浮かび上がり壁を解析していく。

 

 予想通り壁に見せ掛けた魔法式だったのでライナは壁に手をつっこみ、その魔法式を弄って破壊する。

 

 コレが複写眼の力だった。

 

 ライナの複写眼は魔法式を瞬時に解析して自分のものにできる。

 

 当然解析した魔法は仕組みがわかっているので壊すことも簡単だ。

 

 ものの数秒も経たないうちに、壁は砂になって崩れ、再び通路を出現させた。

 

「では、いったいその鏡は何の道具なんだ?」

 

「いや、それは……わからないけど」

 

 そうこう言っているうちに、二人は目的地に到着した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 広い広い部屋のなかに、何の装飾もされていないただの鏡が銀色の光を発しながらフワフワと浮かんでいた。その下の地面には白い線でサークルが書かれていた。

 

「あれが勇者の遺物か?」

 

「ああ。間違いない。伝承どおりだ」

 

 二人はゆっくりと鏡に近づいていく。

 

「どうやって使う?」

 

「鏡の中に手か何処かを突っ込めば勝手に引き込まれるらしい。だから不用意に触るなよ」

 

「うむ。解った」

 

 そして、二人がサークルに足をふみいれた瞬間!

 

 ゴァ!!

 

「「!!」」

 

 二人はとてつもない力によって鏡に引き寄せられ為す術もなく、鏡に取り込まれた。

 

「ライナ! 触らなければ大丈夫じゃなかったのか!?」

 

「ここだけ、伝承が曲げられていたのか!? サークルは遺物の力が発動している範囲の境界線だったのか!!」

 

 今さら後悔してももう遅い。

 

 二人は諦めたような表情で鏡の中に消えた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ファーストキスだったんだからね!!」

 

 桃色の髪をもつ少女が容赦なく黒髪の少年を殴り付けた!!

 

 どうやら洒落にならない威力だったらしく少年は呆気なく昏倒した。

 

 少女の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

 

 本日使い魔を召喚したピッカピカのトリステイン魔法学院の二年生。

 

 年齢の割に未発達な体と魔法が使えないことがコンプレックスな美少女。

 

 対する黒髪の少年は特にこれといった特徴もないギャルゲーの主人公のような少年だった。

 

 この世界唯一の日本人にして、本日めでたく(笑)使い魔になった少年──平賀才人。

 

 本来なら、ルイズは気絶してしまった才人を乱暴に引き摺りながら自室へと帰るはずだった。

 

 だが、何の運命の悪戯か……。この後すぐに、ルイズは再び異世界の住人を出迎えることになる。

 

「まったく、冗談じゃないわ!! なんで、ラ・ヴァリエールである私の使い魔がこんな貧相な平民なのよ!!」

 

 ルイズがそう言いながら才人を引き摺ろうとしたその時!!

 

『──ァァ……………』

 

 何処からともなく聞こえてきた悲鳴のような声を聞きつけ、ルイズは思わず固まってしまった。

 

 何よ、今の声……。

 

 ルイズは辺りを見回してみるが、他の生徒達はフライで帰ったはずなので辺りには誰もいない。

 

「き、気のせい……よね?」

 

 気味が悪くなり及び腰になるルイズに今度ははっきりと悲鳴が降り掛かった!

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「う、うえ!?」

 

 いよいよ『幽霊っ!?』と思い半泣きになりながら上を見上げたルイズは天空から無数の魔法が降ってくるのに気付いた。

 

「は?」

 

 幽霊以上に異常な事態に、ルイズは少しだけ固まり、地面に直撃した魔法が織り成す爆風によって吹き飛ばされた!!

 

「何なのよ、一体ぃぃぃいいいいい!?」

 

 ルイズの叫びをかき消すように、魔法の雨は地面につきたち続けた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 鏡を抜けると……そこは青い空!?

 

「って、フザケンナァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 パラシュートなしのスカイダイビングをリアルに体験するという、貴重を通り越して一生に一度しかできなさそうな(終わった瞬間死亡は確実だから)、経験を積みながら、ライナはこの状況から打破できる案はないかと必死に頭を巡らせる。

 

「ふむ、飛び降り自殺か?」

 

「前と違って、思いっきり自分に跳ね返ってきているなからそれ!!」

 

 随分とまえに遺跡の縦穴に突き落とされたことを思い出しながらライナはツッコミを入れる。

 

「ふむ、それもそうだな。なんとかしろライナ」

 

「いや、俺にばっか任せてないでお前も少しは協力しろよ!!」

 

「私は剣士だ。あらゆる状況で常に実力を完全に発揮できるように訓練する。しかし裏を返せば、それは実力以上の事態に対応できる能力はないということだ。だから……」

 

 何故かとてつもなく良い笑顔で(ライナ以外には無表情にしか見えないが……)ライナの右肩に手を置く。

 

「逝ってこい、魔法使い」

 

「この前と字が違うぅうううううううう!?」

 

 絶叫を上げながらも、ライナは高速で手を動かしながら、この状況を打破できそうな魔法をとんでもない展開していく。ローランド最高の魔術師の面目躍如といったところだろうか?

 

 幸いなことに、二十の三十乗ぐらい展開された魔法によって、ライナたちの落下速度はみるみる減速していき、地面が見える頃には一般人には致命的だが二人なら受け身を取ればなんとかなる程度にまで押さえることができた。

 

「ラストォオオオ! 『求めるは震牙>>>倒地』」

 

 最後に打ち込まれたライナの改造魔法によって、本来地面を隆起させ敵を無数の大地の槍で貫くための魔法は、地面を柔らかい砂に変え天然のクッションになる。

 

「よくやった、ライナ! ご褒美をくれてやろう!!」

 

「は? 何だよいきなり……て、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 もっとも、最終的にライナはフェリスに踏み付けられてしまい、顔面から砂に着地する事になってしまったため、あまりクッションの意味はなかったが……。

 

「てんめぇ、フェリス! フザケンナ! 今回はマジで洒落にならなかったぞ!!」

 

「ん? 何を怒っているライナ。ヴォイスが言うには、お前は女性に踏まれる事を至上の喜びとし、夜な夜な街に繰り出しては、女に踏み付けてくれと懇願して、踏みつけた女を貴様の魔術で孕ませていると……」

 

「何度も言ってるけど、してないからなそんなこと!! ていうかお前、またあの変態の言うこと信じたのか!!」

 

「勿論だ!! この噂をイエット中に広めれば私が指定しただんご屋のだんごを一年分くれるといっていたからな。噂を広めるにはまずは自分がその噂を信じねばなるまい。ちなみに最後によった村では噂が広まり過ぎていたのか、お前のモンタージュ写真と賞金額が書かれていた紙がずらりと貼られていたな」

 

「俺もう表歩けないだろそれぇええええええええ!!」

 

「ちょっと、アンタたちこっちを向きなさい!」

 

 こんな状況でも漫才をやめない二人に、鋭い声と杖が突き付けられた。

 

「あ、アンタたち一体何者よ! ここをトリステイン魔法学院と知っての狼藉……キャア!?」

 

「ふむ、ライナ、とりあえずこの小娘にここが何処なのか聞くとしよう」

 

「いや、まあ、それはいいんだけど……離してやれよ、フェリス。顔が紫色になっているぞ」

 

 しかし、杖を構えて気勢を上げていた少女はあっさりとフェリスに杖を奪われ、襟首を掴んだフェリスが首を締め上げるように彼女を持ち上げたため窒息しかけていた。

 

「バカを言うなライナ。この娘からは拷問をしてでもここが何処なのかを聞き出さねばならない!」

 

「ひっ!」

 

「冗談だからな、本気にするなよ!!」

 

 平然と物騒な言葉を吐き出すフェリスに恐怖し、真っ青になる少女にライナは必死にフォローをいれた。

 

「そして、ここで一番美味いだんご屋の情報を仕入れなければならないのだっ!!」

 

「そんなことだろうと思ったよ……たく」

 

 ライナはこんな状況でも自分のペースを崩さないフェリスに呆れつつも、落ち着いて話を聞ける場所を探した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「異世界ぃいいいいい!?」

 

「ハルケギニアねぇ……」

 

 フェリスが広げただんごセットのシートの上で、ライナがひどくだるそうな、ルイズがあからさまに胡散臭いと言外に含めた声を上げる。

 

「要するに、ここは魔法が使える一部の特権階級が貴族として人民を統治する、ハルケギニアという世界のトリステインという国なんだな?」

 

「ふむ……さきほどルイズが上げた《東方》というところが私たちのいたメノリス大陸ということはないのか?」

 

「十中八九ありえねーよ。確かに文化や技術はうちとさほど変わらねーみたいだけど、月が2つあるっていうのはな……。場所が違うだけじゃ説明ができないだろう?」

 

「確かに……」

 

 一応真剣に話しているように聞こえなくもないが、ライナたちは現在お茶を飲み、だんごを貪りながら話をしているため今一真剣みに欠けた話し合いだった。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 異世界からきたなんていくらなんでも突拍子がなさすぎるわ!! 証拠があるなら信じてもいいけど……」

 

 二人の話についていけず、混乱するルイズの言い分をフェリスはバッサリ切り捨てた。

 

「ふぉふぁへにしふひぃてもはふぁなふほぉふぉ……」

 

「フェリス……だんご食ってから話せ」

 

 モギュモギュ……。

 

切り捨てた!

 

「別に信じて貰わなくても構わない。私たちはこのままここを出てメノリス大陸に帰るすべを探す」

 

「ああ? だったら現地での協力者はいたほうがいいだろう。この子に手伝って貰おうぜ」

 

「そう言って少女に優しく接し、油断した少女が部屋に連れ込んだ瞬間、野獣となったおまえは……」

 

「おそったり、てごめにしたり、ましてや攫って荒野を駆け抜けたりしないからな」

 

「むぅ……」

 

 再びライナに封殺されてしまい、フェリスは若干不満げな顔をする。

 

「まあとにかくだ、こいつの力は借りない。こいつはどうみても子供だし、ましてや箱入りの貴族のご令嬢だ」

 

「お前とはえらい違いだな……ギャァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 フェリスの剣に殴打され吹き飛ぶライナ。

 

 きり揉みして吹っ飛んでいく彼にルイズは『えっ! 大丈夫なの!!』とばかりに目を見開く。

 

 グッシャァアアアア! と音を立てて地面に倒れ伏すライナを尻目にフェリスは平然と話を続けた。

 

「私達が求めている遺物の情報は持っていないだろう」

 

「まあ、そうだな」

 

 そして平然と立ち上がってくるライナにルイズは再び驚愕した。『え、なんで無事なの!?』と。

 

「というわけだ。行くぞ、ライナ。来られる遺物があったのだ。帰る遺物もあるはずだ」

 

「了解」

 

 二人はそういうと、魔法学院の校門をくぐり、さっさと何処かへ行ってしまった。

 

「なんなのよ、あいつらは……」

 

 ルイズは暫く呆然としたあと、

 

「これ、どうしよう……」

 

 フェリスが置いていってしまっただんごセットを途方に暮れたように見つめた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「で、これからどうするんだよ?」

 

 深夜、何故かライナとフェリスの二人は薄暗い裏街道に立っており、月を眺めながら何かを待っていた。

 

「ふむ。ライナなにをするにも先立つものが必要だ」

 

「ああ、金か……。でも働くのめんどくせぇ」

 

「そういって貴様は、自分が手にかけた女たちを馬車馬のようにこき使っているのだな」

 

「使ってねーよ。ていうか女に手を出した覚えもねーよ」

 

 フェリスワールド全開な相棒にため息を突きながら、ライナはそのまま地面に寝転がる。

 

 ライナはその気になればどんな所でも──最悪歩きながらでも──睡眠をとることができるという特技を持っていた。

 

「寝るなァアアアアアアアアアアアアアアア、ライナァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 フェリスはそんな相棒に優しく声をかけ、剣を引き抜き――その首に向かって勢い良く!

 

「って、アッブナアアアアアアイ!」

 

 ライナは慌てて目を見開き全力で回避。なんとか自分の首と胴体の離婚を防ぐことができた。

 

「危なかったなライナ! 危うく永遠の眠りにつくところだったぞ!!」

 

「主な理由はお前だけどな!」

 

 そんなふうに、二人が漫才を繰り広げているとき、

 

「へへへへ。今日はついているな、おい」

 

「おお、こんな上玉が手に入るとはな……」

 

 下品な笑みを浮かべ、汚い服装の男たちが四十人以上姿を表した。

 

「ふむ。獲物が来たようだ」

 

「あぁ? ……あそういう事」

 

 フェリスの言葉に何かを察したライナはめんどくさそうに立ち上がり、服についた埃を払う。

 

「へへへ、さておまえらグボォア!」

 

 そして男の一人がフェリスたちを恫喝しようとしたとき、突如とんでもない勢いで吹き飛び地面を三回バウンドしたあと沈黙した。

 

 男たちは一瞬何が起きたかわからず、ポカンとしたが、

 

「さて、先立つものを手に入れるために……ライナ、こいつらが溜め込んだお宝をすべていただくぞ!」

 

「了解、あねさん」

 

 自分達が手を出してはいけないものに、手を出してしまったことは良くわかったそうだ……。

 

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