ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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とある宿屋の狂想曲

 トリステイン領の街道上空を、凄まじい速さで駆け抜ける騎影が二つ。

 

 片方は真紅の炎に包まれた巨大な極楽鳥。もう片方はグリフィン。どちらも相当な腕の御手によって操られているのか、一糸乱れぬ編隊を組みながら素晴らしい速さで目的地へと向かっている。

 

「どこから嗅ぎつけたのだ、貴様? まさかアンリエッタが漏らしたわけではあるまい」

 

 ごうごうと気流が吹き荒れる上空での会話は非常に困難なはずなのに、極楽鳥に乗った騎士たるバーシェンは魔術を操り気流を操作。きっちり普通の音量で会話が可能なように細工をしていた。

 

「マザリーニ枢機卿に頼まれまして……。滅びの直前とはいえ、アルビオンの王族の方に無礼を働かれては困るので、監視しろと」

 

「下らん。わたしが死人に鞭を打つような非道な真似をする男だと思っているのかあいつは?」

 

 普段の態度から見ればそう思われても仕方ないんじゃないか? と思いながら、グリフォンの騎士……ワルドは顔をしかめた。

 

「大方何を考えているのかはわかるが、あまり表情に出さないほうが身のためだぞ。私は王族の次に貴族が嫌いだ、子爵」

 

「我が国の権力の半分を握っているお方のセリフとは思えませんね」

 

 軽口をたたきながらもワルドは真剣に表情を引き締め微動だにしないように調節した。先代国王が行った遠征で、この宰相はたった一人で殿を務め数万近い軍勢を屠ったという伝説が残っている。

 

 おそらくはかなりの誇張が入っているのだろうが、その時この男が数十近いエルフたちからトリステイン軍を無傷で守りきったのは、軍関係者たちにとって厳然とした事実だった。下手に逆らわないほうがいいし、何より自分の考えがばれるわけにはいかない。

 

「ふん……。それでいい。ではさっさと行くぞ。ついてこい!!」

 

 その言葉と同時に、バーシェンは極楽鳥の腹を蹴り飛ばし、さらなる加速を指示する。

 

「っつ!! まだ早くなるのか!?」

 

 慌てて加速の指示をするワルドを置き去りにしてバーシェンは白の王国へ向かって旅路を急ぐのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 二人の軍人(片方は元)が国の存亡をかけ凄まじい速度でアルビオンを目指している時……のんびりとした雰囲気で馬に乗って街道を進んでいたサイトは、隣でぐったりとしているライナにこれから行く国のことについていろいろ聞いていた。この世界についていろいろ調べていたライナの知識は、何故か原住民たるルイズの知識を上回ってしまっており、説明もわかりやすいのでサイトは解説を聞きたいときはもっぱらライナに尋ねるのだ。

 

「白の国?」

 

「ああ……今から行くアルビオンの別名だな」

 

 本当なら全速力でアルビオンに向かわなければならないほどの重要事項なのだが、どれだけ使命感を熱くしようとも、ルイズとサイトは悲しきかな、学生であった。姫の頼みごとということでかなり張り切ってはいたのだが、いまいちことの重要性が理解できていないのだ。

 

 こういう時は、年長者であり戦場経験者であるライナたちがフォローを行うべきなのだが、

 

「ああ……。マジでやべぇ。早起きしすぎたせいでマジで、眠い。昨日はいろいろあったから結局寝るの遅かったし、もォだめだ……お休み」

 

 そんなことをブツブツつぶやいた後、本当に寝てしまうライナに、

 

「ふむ……」

 

 またろくでもないことを考え付いたといわんばかりに、ライナだけにわかる表情の変化を見せつつフェリスはすらりと剣を抜く。そして!!

 

「居眠り運転禁止!!」

 

 なんてとんでもないことを言いつつ、剣をライナの背中にぴったりとつきつけた……だけではなく、あろうことかそのまま背中に剣をずっぷりと!!

 

「って、ぐっぎゃぁあああああああ!! お、おいおいおいおい冗談だろ!? てめぇフェリス!! 今のマジでちょっと刺さったじゃねぇか!!」

 

 その感触に悲鳴を上げて飛び起きるライナに向かい、フェリスはさらに剣を構えた。

 

「ふむ……うまくよけたな。ではこれならどうだ?」

 

「って、ぎゃぁああああああああああああああああああ!!」

 

 そして、とんでもない速度で打ち出されるフェリスの剣をライナは悲鳴を上げながら馬上で立ったりバク転したりしながらよけまくった!!

 

 そのうち何度か落ちそうになったが、フェリスはなぜかさらに笑みを濃くしてさらに剣を突き出す速度を上げる。

 

「ふふふ……さぁ、踊れ踊れ罪人め! 死の踊りを踊り狂うといいわ!!」

 

「どんな設定だそれぇえええええええええ!!」

 

 何とか剣の範囲外から逃れたライナはそういって怒鳴る。

 

 フェリスはしばらくの間、剣を何とかライナに届かせようとしていたが、やがて断念したのか剣をスチャッとおさめて一言。

 

「ふむ……。まぁ、そういうわけで居眠り運転は危ない……」

 

「お前の剣のほうがよっぽど危ないわ!!」

 

 ライナの怒声に激しく頷きながらサイトとルイズは乾いた笑みを浮かべた。

 

 なるほど、これはライナが苦労するわけだ。自分なら三日と持たないぞ?

 

 サイトはそんなことを考えながら、ライナの援護のために先ほどの説明の続きを促す。

 

「で、なんで白の国なんて言われているんですか?」

 

「さぁ、さすがにそこまでは調べられなかった」

 

「ふむ……所詮はライナだからな」

 

「ああ、はいはいもうそれでいいよ」

 

 疲れ切った顔でぐったりと馬に倒れこむライナにフェリスは満足げな表情を浮かべ、うむと頷いた。

 

 そんなふうに戦闘不能になってしまったライナを見てため息をつきつつ、ルイズが代わりに説明を引き継ぐ。

 

「アルビオンはそれに浮かぶ大陸の上にある国なの。だから、大陸から大量の滝が落ちてきて、それが水蒸気になって雲となり、あたり一面を覆うから白の国と呼ばれているのよ」

 

「いや、ちょっと待て!? それに浮かぶ大陸だって!! そんなものがこの世界には普通にあるのかよ!!」

 

 あらゆる大陸が地面にくっついている世界からやってきたサイトにとって、その存在は新鮮どころか異常といっていいほどである。

 

「俺もそれ聞いた時はマジでおどろいたぞ。なんでも風の力をため込んだ魔法石があるみたいでな、それが地面を下から持ち上げているらしい」

 

「飛行石かよ……」

 

 ラピ〇タもびっくりなほどの規格外っぷりである。バルスで崩壊したりしないだろうな?

 

 そんな益体もないことをサイトが考えている時だった!

 

 突如ライナが空間に魔方陣を出現させ、フェリスが剣を引き抜き馬から飛び上がり、ルイズとサイトの後ろに着地した。

 

「え、どうしたんですか!?」

 

「馬鹿者。剣をぬいておけ」

 

 フェリスがそういうと同時に、飛来してきた何かを一刀両断する!

 

「な!!」

 

 真っ二つになった弓矢がサイトのほほをかすり通り過ぎた時、サイトはようやく剣に手をかけ馬から飛び降りた。

 

「相棒、さびしかったぜ……。鞘に入れっぱなしなんてひでぇや」

 

 デルフリンガーが何か言ってくるが、そんなことを気にしている余裕はない。次の攻撃に対してサイトはようやく迎撃態勢を取った。

 

 しかし、ライナとフェリスはさらに次の行動を行っている。

 

「求めるは雷鳴>>>稲光(いづち)!!」

 

 呪文の終了とともに魔方陣からは雷が飛び出し、街道沿いに並んでいた木々の間に隠れていた男たちを容赦なく追い立てる。

 

「な!? 雷!! 風のスクウェアがいるのか!?」

 

「聞いてねぇぞ!? ただの学生じゃなかったのかよ!!」

 

 襲撃者達はそんな悲鳴を上げながら森から飛び出してくる。そんな男たちに閃光のごとき速さで近づいたフェリスは、

 

「ん」

 

 そんな軽い声とともに、剣を一閃! 男たちを容赦なく殴りつけその意識を一気に刈り取る。

 

「す、すげぇええええええええええ!!」

 

 二人の流れるような連携に、サイトは驚愕と憧れの入り混じった歓声を上げるが、まだ戦闘は続いている!

 

「ぼさっとするな!!」

 

 若干強めの声を出しながら、フェリスがルイズを馬から引きずりおろしサイトの髪を引っ張り地面に伏せさせる。

 

「な、なにすんのよ!?」

 

「いってぇえええええええ!!」

 

 二人がそんな悲鳴を上げたとき、先ほどライナが山賊たちを追い立てた森の中から、さらに松明が放り込まれた。おそらく先遣隊がやられた時のために待機していた別働隊だ。

 

 突如として目の前にころげ出でてきた松明に、戦い用に訓練をされていない馬たちが驚き興奮して、前足を振り上げるように立ち上がる。

 

「フェリス! そっちは頼んだ!!」

 

「わかった」

 

 フェリスの返事を聞きながら、ライナは空中に文字を描き、魔法を完成。脳内リミッターを外し、身体能力を底上げする。

 

「我・契約文を捧げ・大地に眠る悪意の精獣を宿す!!」

 

 そして、信じられないほどの跳躍を見せて森の中に飛び込み、弓を構えていた男たちの真ん中に降り立ったライナに、男達は驚愕で目を見開く。彼らはとある男から彼らの妨害を依頼された傭兵なのだが、歴戦の傭兵である彼らの知識にもこのような魔法はなかった。

 

「な、なんだおめぇ!?」

 

 リーダーと思われる男がおびえた声でそう聞いてくるが、ライナは心底めんどくさそうな声を出しながらダラッと頭をかく。

 

「ああ、なんだって聞かれた寮監だって答えるしかないんだけど……。ていうか結構いるじゃん。これ全部捕まえないといけないのか……。あぁ、まじめんどくせぇ。早起きしちゃったせいで眠いしさぁ、フェリスには苛められるしさぁ、もうちょっとここで寝ていいかな?」

 

「「「「「「何しに来たんだ、お前!?」」」」」」

 

 そして、わけのわからないことを言いながら突如としてやる気を失い、その場に寝転がろうとしたライナに男たちはそんなツッコミを入れた。

 

 その時フェリスが、サイトが持っていた剣をひったくり、それに何かを二三つぶやいた後、それをライナに向かって投擲!! 屈んだライナの頬をかすめ木に突き刺さったデルフリンガーにライナはだらだらと冷や汗を流す。

 

「旦那。姉さんから伝言だ」

 

 そして、何故か若干震えながら、デルフリンガーはライナにこう伝えた。

 

「『次は当てる』だそうだ」

 

「さぁて!! 俺もうやる気いっぱいでこいつら捕まえちゃう気満々だから、フェリス剣しまって!?」

 

 ちょっとだけ泣きながら、ライナは加速された体を駆使しリーダーと思われる男を肉薄。そして即座に掌底をもって顎を打ち抜きその意識を刈り取る。

 

「な!!」

 

「は、はやいぞ、こいつ!?」

 

「これでもフェリスよりかは遅いんだぞ……」

 

 ホントどこまででたらめなんだあいつは。と、相棒の異常さを再確認した後ライナは素晴らしい速度で男たちを制圧していく。

 

 回し蹴りを頭に叩き込み、魔方陣を即座に完成させ雷を放つ。トントンと軽く男たちの腕の腕に触れるだけで関節を外し、何をしたのかわからないほどの速度で関節を決め投げ飛ばす!!

 

 それにはフェリスのような圧倒的な速さはなかったが、老練された技術と堅実さがあった。

 

 時間にしてわずか数分。ライナは気絶さえた男たちを、持ってきていたロープを用いてアニメのようにぐるぐる巻きにして連れてきた。間抜けな光景に見えるが、こう見えてどんな手段を用いても抜け出せないようになっているローランド軍部直伝の束縛術だ。

 

「おわったぞ、フェリぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 デルフリンガーを木から引く抜き、男たちを連れて戻ってきたライナの報告は途中から悲鳴に変わってしまった。ライナはその時に出会ってしまったのだ。本当の敵に!! 彼の天敵に!!

 

「って、なんで剣投げてきてんだてめぇええええええええええ!!」

 

「ふむ。先ほど言ったはずだ。次は当てると」

 

 むろんフェリスのことだが……。

 

「さぁ色情狂、さっさとお前のお仲間を一人起こせ。なんでこんなことをしたのか聞くぞ」

 

「つぅか、俺をこんなやつらと一緒にすんのやめてくんない? ようやくまともな世界に来れたと思ったら最近トリスタニアでもイエットみたいに俺が色情狂って噂が流れてんだけど?」

 

「ふむ。団子屋のやつらにそういううわさを広めるように言っておいたしな!!」

 

「やっぱりお前の仕業か!?」

 

 そんな風に軽口をたたきながらじゃれあう二人を見て、サイトは茫然としていた。フーケとの戦いでライナの強さの一端は見ていたが、これほど強いとは思っていなかったのだ。おまけに、相棒のフェリスもかなりできる。剣を持ちガンダールヴ状態になった自分ですら視認することが難しいほどの速度で動き、どう見ても華奢な体から放たれる剣は鉄の鏃すら両断する。

 

「あ、あんたたち……こんなに強かったの!? サイトよりも強いじゃない!!」

 

 さすがに驚きを隠せないルイズがそうつぶやくのを聞いて、サイトはショックを受けた。

 

 そして、先ほどの戦闘での自分を振り返り……。

 

 あ、あれ? オレなにしたっけ?

 

 危うく初めの矢で死にそうになったサイト。感心しすぎるあまり松明攻撃に気づけなかったサイト。最後には、剣をひったくられ何もできなかったサイト……。

 

 そういえばフーケ戦でもそんなに活躍していなかったような……?

 

「や、やべぇ……………このままじゃおれやべぇ………」

 

 このままじゃいらない子確定じゃね? そう考えてしまったサイトの脳裏に、ライナたちに抱き着いているルイズが思い浮かび……。

 

『もぉ、ライナたち大好き!! 私の使い魔になってよ! え、サイト? いらないわよあんな洗濯も満足にできない使い魔なんて。どこえなりとも行けばいいわ』

 

 なんとことを嬉々として言っているルイズが簡単に想像できて……。

 

「つ、強くならないと!!」

 

 動機はかなり不純であったが、ようやく事態の深刻さに気付いたサイトは最低でもフェリス並みに剣を使えるようになることを決意するのだった。

 

 

 

 ちなみに、男たちはフェリスの手によって拷問されてしまい彼らが知っていることを洗いざらい話すことになってしまう。

 

 その工程で、ライナに新たなトラウマが刻まれてしまうのだが、あまりに凄惨な拷問方法だったのでここでの明記は避けさせてもらう。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 アルビオンへの港町。ラ・ロシェール。ライナたちはそこで休憩を取ることになったのだが、そこで問題が起こった。

 

「なんで一銭も持ってきてないのよ!?」

 

「しかたないだろ? ルイズたちがもってきていると思ったんだから………」

 

「ふむ。というかお前たちはなぜ二人で出る予定だったのに金を持って生きていないのだ?」

 

「も、持ってきてるわよ!! でも、まさかあの宿があんなに高いなんて思っていなかったのよ!」

 

 そう。彼女たちは宿に泊まる金がなかったのだ。ライナは学園から支給する給金をすべてロングビルに渡しているし、フェリスに至っては元の世界でもかなりの浪費家だった。(主に団子関連で……。ほとんどライナの借金ということになっているのだが)。この二人が金を持っているわけがない。

 

 対するルイズも似たり寄ったり。本来なら必要経費は姫様から支給される予定だったのだが、今回の件は一度断った後の独断専行のためそんなものが出るわけがなく、実家からの仕送りで暮らしているルイズがそれほど金を持っているわけがない。

 

 異世界から来たサイトに至っては論外である。

 

「まったく……どうすんのよ?」

 

「まぁ、野宿しかないよな……」

 

「ふむ。それしかないだろう」

 

 ライナとフェリスはそんなことさらっと言いながら、野宿できる場所を探そうとする。彼らとしても宿に泊まりたかったが泊まれないというなら、それはそれで別に気にしない。もともと旅をしている間はまともな宿に泊まれることのほうが少なかったのだし、彼らにとって野宿はさほど苦にならないのだ。

 

 しかし、ほかの二人……特にルイズは違う。

 

「野宿って……そんなこと考えられないわ!!」

 

「安い宿でもいいから、部屋とりましょうよ!!」

 

「それもだめよ!! 貴族がそんな安い宿になんか泊まれないわ!!」

 

「どーしろっつーんだよ!?」

 

 思わずサイトは怒鳴ってしまうが、ライナとフェリスは肩をすくめただけで流す。

 

 貴族なんて大体こんなもんだと割り切っているのだ。もともと腐った貴族たちと付き合ってきた彼らはこの手の耐性は高いほうである。

 

 といっても、夜中に騒がれても迷惑だし、貴族云々はほっておいて確かに宿に泊まれるならそれに越したことはない。

 

 フェリスに拷問された傭兵たちによると、どうやら自分たちは仮面をつけた風の使い手のメイジに狙われているらしいのだから。壁や屋根があったほうがありがたいといえばありがたいのだ。だが……。

 

「金がねぇんじゃ仕方ないだろ?」

 

「ふむ。我慢しろ」

 

「う~」

 

 結局いろいろ考えた後野宿しかないと結論を出したライナやフェリスに言い含まれて、ルイズは不満げに頬を膨らませる。

 

 そんな時!

 

「ルイズ? ルイズじゃないか!?」

 

「へ?」

 

 突然声をかけられた後、ルイズは突如何者かに抱き上げられクルクル回り始めた。

 

「こんなところで会えるなんて、運命の神はなんて粋なことをしてくれるんだ。僕の可愛いルイズ! 会いたかったよ!!」

 

「わ、ワルド様!?」

 

 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。それがルイズの婚約者との初めての接触だった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「捨ててこい。俺たちにガキのお守りをしている余裕はない」

 

「犬猫じゃないんですからもう少し言い方があるじゃないですか……」

 

 ワルドによって《女神の杵》亭と呼ばれる宿屋につれてこられたルイズたちは静謐な殺気を放つ真紅の魔法使いの前に連れてこられた。なんでも現在のワルドの上司だそうだ。

 

「ですが彼女たちも女王陛下から理由も聞かされているみたいですし……このまま放置というわけにはいかないでしょう」

 

「ワルド子爵……正直言わせてもらうと、私はガキが戦場に出るという行為そのものが嫌いだ。先のある若者があんな場所で命を落とすべきではないと思っている。国の裏事情を知られたからといってガキを巻き込んで戦場に一緒に連れて行くほど、腐ってはいないつもりだ」

 

 真紅の魔法使の言葉に、ライナは感嘆の声を上げフェリスは少しだけ表情を動かした。

 

 なかなかどうして、あんな女王のもとにも立派な人物はいるものである。

 

「だからガキはさっさとおうちに帰ってクソして寝てろ小娘」

 

「な、なんですてぇええええええええええええええええええええ!?」

 

 惜しむらくは、口が悪すぎて喧嘩を売っているようにしか聞こえないことであろう。真紅の魔法使いが本当にルイズのためを思っていたとしても、これでは焼け石に水である。

 

「私は姫様に直々に頼まれてこの任務に就いたの!! どこの馬の骨かは知らないけど、公爵家であり殿下の勅命を受けた私たちを止めることはできないわよ!!」

 

「公爵家? どこだ?」

 

「ラ・ヴァリエールよ!!」

 

 どうだ! といわんばかりにない胸を精一杯張る様子に、真紅の魔法使いは少し眉を動かしただけでこんなことをのたまった。

 

「ふん。カリンの娘だったか。あの小娘は元気にしているのか?」

 

「え……………」

 

 突如として挙げられた名前にルイズは真っ青になる。その変化を不審に思ったライナたちは寄ってたかってルイズを元に戻そうとしたが、どうやら完全に処理落ちしてしまっているらしく治るのにしばらくかかりそうだ。

 

「殿下……カリンどのとは?」

 

「私の古き良き思い出だからな。正直貴様のような、知り合って間もない者には教えたくない」

 

「そうですか」

 

 明確どころか、いっそすがすがしいほどはっきりとした拒絶されてしまいワルドは口元をひきつらせながら引っ込んだ。そして、それと同時にルイズが処理落ちから復活。震える声音でこう尋ねる。

 

「あ、あの……一つお伺いしたいのですが、母とはどのようなご関係で」

 

「なに……大した関係ではない。お互いに命を救い救われた間柄というだけだ。戦場経験者ではさして珍しい経験ではないさ」

 

 普通の兵士だったらそうだっただろうけど………。こと、ルイズの母親に関してはそんなことはありえない。

 

 常勝無敗。一騎当千。無敵無双。最強の騎士…………。綺羅星の如く輝くトリステインの英雄たちの中で最も恐れられもっともミステリアスな存在とされた、前王時代最強の騎士。烈風のカリン。それがルイズの母親である。

 

 そんな騎士を助けられる存在なんて……。

 

 そこで、ルイズは思い出してしまった。マザリーニと同格の地位におり、あの厳格かつ他人を見る目が誰よりも厳しい父から、絶対に逆らうなと言わしめた男の名を。

 

「も、もしかして……あなた、いえ、あなた様はバーシェン・フォービン卿ですか?」

 

「ようやく分かったか小娘。カリンに似て頭のめぐりはかなり悪ようだ。あいつの短絡思考……もとい突撃思想には何度苦労させられたことか……」

 

 若干嫌なことを思い出しているのか、鉄面皮の額にしわがよるがそんなことは些細なことである。今問題となっているのは……。

 

「階級がわかったのなら、貴様に命令をくれてやる、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。初めからこうしていればよかったのだ」

 

 バーシェンはそういって、一枚の書類を書き上げルイズにつきつけた。

 

「さっさと帰れ。宰相命令だ。破った場合爵位の剥奪を貴様の実家に言い渡す」

 

 悪魔のような脅迫をして、バーシェンはさっさとその部屋を出ていくのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 結局夜も遅いということで、その宿屋にはバーシェンのおごりで(ただし請求書はルイズの実家行き)で泊めてもらえることになった四人は、フカフカのベッドに寝転びうめき声をあげながらバタバタと足を暴れさせるルイズに閉口していた。

 

「なぁ、ルイズ。そんな落ち込むことないだろ? もともと俺は反対だったし、口は悪かったけどあの宰相さんが言っていたことは正しいよ。わざわざ俺たちが危ないことしなくてもあの人が何とかしてくれるみたいだし……俺たちはおとなしく帰ろうぜ」

 

 面倒くさがりのライナと、基本的に団子のこと以外はどうでもいいフェリスは当然のごとくルイズを慰めるなんて気の利いたまねはしない。そのため、その役割は付き合いがこの中で一番長いサイトに自然に回ってきた。

 

「ダメよ……あいつなんだか信用できないわ。口悪いし、私のことガキっていったし、口悪いし、見た目いいし、口悪いし、頭いいし、口悪いし、母様の戦友だし…………」

 

「口悪いって何回いうつもりだよ……。あと最後あたりは褒め言葉だ」

 

「仕方ないでしょぉおおおおおおお!! バーシェン卿っていったら、先の国王の時代で烈風のカリンと並び立つほどの実力者で、《紅蓮の大賢人》の称号を先王陛下に直々に賜った英雄なのよ!? おまけに新しい魔法の開発や、領地経営の手腕は他の追随を許さないし、どれだけ年をとっても全盛期を美しい姿を保っている超絶美形宰相なのよ!? ぶっちゃけあんなこと言われなかったら、サインもらっておきたいぐらいなんだから!! そしたら一生女友達に自慢できるのよ!?」

 

「そんなにすげーのあの人!?」

 

 サイトとしてはそっちのほうがびっくりだ。まるで彼の世界のアイドルではないか!!

 

「おまけにまだ結婚されていないし……舞踏会に出てきたときなんて社交界の名だたる強者が目の色変えてアタックするぐらい人気あるんだから!!」

 

 はいはいそうですか……。ったく、美形なんて死ねばいいんだ。と、若干僻みが入った思考を巡らせながら、サイトはルイズの横に座る。

 

「で、あきらめんのかよ?」

 

「あきらめるしかないでしょう……あんなこと言われた後じゃ。さすがに実家に迷惑はかけられないわ」

 

「でもさぁ、爵位剥奪なんて宰相にできんのか? あれは国王だけの特権だろ?」

 

 そこでようやくライナが口を挟んできた。

 

 少なくともライナの世界では爵位剥奪なんてまねはよっぽどのことをしない限り実行されることはない。あんまり横暴なことをしていると反乱の芽を残してしまう可能性があるからだ。そのため、爵位剥奪は公開処刑並みの重罰で国王しか使えないようになっているのだが……。

 

「私たちトリステインは前王陛下が崩御されてから、国王の座が開いているの。本当はアンリエッタ様かお后様がそこに座る予定だったんだけど……お后様は前王陛下の喪に服しておられるから即位を辞退。アンリエッタ様はお若い上にまだまだ王をするには経験不足と貴族院に判断されて即位を見送られたの。だから、本来国王が持つはずの権限を枢機卿と宰相閣下で分担して行使されておられるのよ。宰相閣下がもつその権限の中に……」

 

「爵位剥奪権があったというわけか……」

 

 なるほど、なかなか厄介な相手のようだと、ライナはあの宰相への認識を改めた。

 

 ライナたちがそんな会話をしている時だった……。

 

 部屋の扉がコンコンと叩かれ、ルイズが返答をする前に一人の男が入ってきた。

 

「ルイズ……。ああ、すまなかったね。僕の力が及ばないばっかりに!!」

 

 かなり大げさな身振りをしながら入ってきたのは、もちろんあのジャック・ワルドだ。

 

「すまない皆さん。私たちは二人きりで話したいから……少し席を外してくれないか?」

 

 そういわれて、サイトはむっとした。なんだかこいつは気に食わないのだ。先ほどの宰相とは違い、非の打ちどころのないイケメンだし、よくよく話を聞いてみるとなんとルイズの婚約者というではないか!?

 

 その事実を聞いた時サイトのワルドに対する敵意はマックスを振り切っている。とにかくこいつのすべてが気に食わないといったところである。

 

「ワルド様……」

 

 おまけにルイズは恍惚とした表情で顔を真っ赤にしているし。(サイト主観)

 

 気にくわねぇぜ……ひょろもやしの貴族のくせに!!

 

 この前のギーシュを基準として貴族というものを評価してしまっていたサイトは、怒りで目が曇っていたこともあり、ワルドの強さに気づけなかった。

 

「そんなこと知らねぇよ。俺はルイズの使い魔だ。話があるなら俺を同席させろ!!」

 

 思わずそんな対応を取ってしまうサイトをみて、ライナは面倒だなといわんばかりに顔をしかめ、フェリスは特に表情を変えることもなく団子をほおばる。

 

「君が使い魔? 面白い冗談だね、少年」

 

「それは本当のことよ、ワルド様。こいつ……この人は私の使い魔の平賀才人よ」

 

 学園のメンバーと同じようにサイトのことをバカにされてしまい、さすがにむっと来たルイズが援護射撃をする。それには真剣に驚いたのか、ワルドは目を見開き……そしてうれしそうに微笑んだ。

 

「なるほど。どうやら私の目に狂いはなかったようだ。ルイズ……やはり君は特別だ」

 

「?」

 

 突然わけのわからないことを言いながら、ルイズに近づいていくワルドの前にデルフリンガーを手に持ったサイトが立ちふさがる。

 

「おい!!」

 

 さすがにこれは黙っているわけにはいかないと思ったのか、ライナがそう注意の声を上げるが、サイトは聞こうとしない。

 

「……貴族の前で剣に手をかけるということがどういうことか、わかっているのかな、少年?」

 

 それを見てもにこやかな笑みを崩さないワルドに、サイトはさらに敵愾心を増した。どこまで完璧なら気が済むんだこいつは!! と………。

 

「わるいですね子爵閣下。あいにくと、主人を守るのが使い魔の仕事なもんで……。たとえばロリコン趣味の変態子爵から主人を守るとか?」

 

「言ってくれるね……。ルイズは十分可愛いと思うけど?」

 

 さらっとキザなセリフを吐くワルドに、サイトの怒りのボルテージはさらに上がり真っ赤になって照れるルイズがその勢いに拍車をかける。

 

「ルイズと話をしたきゃ俺を倒して行けよ!!」

 

「ちょ、サイト!! 何言っているのよ!! やめなさい!! ワルド様は魔法衛士なのよ!!」

 

 兵隊のメイジの中でもエリートとされる部隊の一員たるワルドに、剣が多少振るえる程度の実力しか持たないサイトが勝てると思うほど、ルイズは無知ではなかった。

 

 ギーシュとの決闘の時みたいに使い魔がぼろぼろになるのを恐れて、ルイズは何とか二人を止めようと試みるが……あいにくとワルドのほうにもスイッチが入ってしまっているらしい。

 

 ワルドはさわやかな笑みを崩すことなく、肩をすくめた。

 

「いいだろう少年。ルイズを守る使い魔がどの程度できるのかも見ておきたいし……その勝負うけよう」

 

「ちょ!! ワルド!?」

 

「ようやくそう呼んでくれたねルイズ。さま付けは正直他人行儀な気がして嫌だったんだ。これからはそう呼んでくれ」

 

 そして、キザに一礼をしたあと、サイトのこう提案した。

 

「だが今日はもう遅い。決闘は明日の朝でどうかな? どちらにしろ私たちは『スヴェル』の月夜までここで足止めを食らうことになっているしね。時間はたっぷりとある」

 

「わかりました。じゃぁ中庭でやりましょう。逃げないで下さいよ!!」

 

「逃げないよ。貴族に二言はないからね。では、お休みルイズ」

 

 そういってワルドが部屋を出て行ったあと……。

 

「何勝手なことしてんのよアンタはぁああああああああああああ!!」

 

 話も聞かずに勝手に決闘を取り付けてしまったサイトに、ルイズは強烈な折檻を加えた。

 

「フェリス~。うるさくて寝れないからお前ちょっとサイト助けてこい」

 

 そして、今まで黙ったまま事の成り行きを見守っていた……と思ったらなんと目を見開きながら爆睡するというライナ流睡眠真拳を発動していたライナがようやく目をさまし、心底面倒だといわんばかりにフェリスにそう頼んだ。

 

 しかし、フェリスはフェリスで、

 

「ふむ……私は今団子で忙しいからな。助けるならお前が助けてこい」

 

 なんてことを言ってきており……。

 

「お前はどこまで非情なんだよ!」

 

「連続婦女暴行魔に言われたくないな」

 

 なんてことを言いながら、不毛な争いを始めてしまっていた。

 

 結局どちらも助けてくれないんだから、両方とも同じぐらいに非情だろ!? とルイズに殴られながらサイトが思ってしまったということは……言うまでもないだろう。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「火葬されたいのか?」

 

「冗談に聞こえません」

 

「冗談ではないのだがな……」

 

 早朝。朝早くから起こされてしまい若干不機嫌なバーシェンを介添え人として、サイトとワルドの決闘は今開始しようとしていた。

 

「なぁ、フェリス……どっちが勝つと思う?」

 

「決まっている。あのロリコンだ」

 

「だよなぁ……」

 

 ロリコン認定されたんだ……。フェリスに言葉に埒もないことを考えながらも、ライナはじっとワルドを見つめた。

 

 ちなみに二人がこの場にいるのは、いざというときのためにサイトとワルドを止めてもらおうと、ルイズが招集したのだ。

 

「あいつかなり訓練されてるよ……。まさしく《軍人》って言った感じだな。まぁ、お前どころかシルにも勝てねぇだろうけど」

 

「だがあいつは魔法使いなのだろう? それを考えれば……」

 

「ああ……サイトに勝ち目はねぇよ。というか、魔法使われなくても勝てるかどうか怪しい」

 

 そして決闘はライナたちの言う通りになった。

 

「それでは……始めろ!!」

 

 めんどくさそうに言われた開始の合図とともに、神速の速さでサイトがワルドの懐に入り込む。しかし、ワルドはさっとバックステップを踏みデルフリンガーの間合いから逃れる。そして、魔法衛士用に改良されたローブをひるがえしながら杖を一閃。デルフリンガーを強烈に打ちすえサイトのバランスを崩す。

 

「なるほど……速さに自信があるようだね。だが、魔法衛士隊のメイジにはそれでは勝てないよ」

 

 その言葉とともに、バランスを崩したサイトに向かって杖による刺突を放つワルド。サイトは必死にそれを捌くが、二つの突きがその防衛網を抜け額と右腕を強烈に打ちすえる。

 

「く!!」

 

 利き腕に走ったダメージにサイトは思わずデルフリンガーを取り落としてしまう。

 

「相棒!!」

 

「魔法衛士隊は杖を剣のように扱い呪文を完成させる。軍人の基礎中の基礎だ。君の動きは確かに早い。さすがは伝説の使い魔……ガンダールヴだ」

 

「っ!! どうしてそれを!?」

 

「よそ見をしている暇があるのかい?」

 

 その言葉とともにワルドは杖を一閃サイトの腹を強く打ちすえる。

 

「がぁ!!」

 

 サイトはその一撃を受けながらも、何とかデルフリンガーを回収再びガンダールヴの状態になるが……。

 

「ああ、相棒。こりゃ負けたわ」

 

 デルフの言葉とともにワルドが唱えていた呪文が完成した。

 

「エア・ハンマー!!」

 

 呪文の終了とともに空気の槌がサイトを一撃。サイトはきれいに吹き飛び壁際に詰みあげてあった樽の中に突っ込み、それを粉砕なしながら倒れこんだ。

 

「どれだけ早く動けようが、君の動きは素人のそれだ。それでは、ルイズを守ることはできない」

 

 最後にそう言い残し、バーシェンから勝ちの判定を受けたワルドはルイズの手をとり裕然と部屋へと帰って行った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その夜。サイトを一人にしたほうがいいというバーシェンの判断のもと、部屋を分けられたフェリスとライナは自分たちの部屋の中でのんびりとくつろいでいた。

 

「まぁ、ああいう経験も必要だよな……。俺らの場合は負けたら即死亡だったから負けることなんてできなかったけど……」

 

「うむ。お前は常勝無敗ともっぱら噂の変態色情狂だからな。私以外の人間に負けることなどプライドが許さなかったから、負けたらそいつを犯して口封じしていたんだろう」

 

「はいはい……」

 

「むぅ……」

 

「あれ、なんだ? 不満なのか?」

 

「お前が嫌がらなければなにも面白くない」

 

「そう言われてもねぇ……」

 

「ふむ。やはり首だけお散歩させる必要があるようだな」

 

「首だけ散歩したら死ぬだろうが!?」

 

 ようやくライナの突っ込みがもらえてご満悦なフェリスは団子セットを取り出し窓際に並べた。

 

「まぁ、そんな戯言はさておき、月見団子をするぞ、ライナ。付き合え」

 

「ああ……もういいけどさ。いつものことだし……」

 

 若干疲れた表情を浮かべながらライナがフェリスからもらったお茶に口をつけた時だった。

 

「あの…………………すいません。フェリスさんはいますか?」

 

「なんだ?」

 

 扉の外からの呼びかけに、フェリスはそう返事を返した。すると、扉を開けてサイトが入ってくる。

 

「何か用か?」

 

「ふむ。お前も月見団子をしにきたのか? だがあいにく団子は二人分しか無くてな……」

 

「いや……たぶん違うから安心しろフェリス」

 

 二人がそんなことを言いながら、いつもの不毛な言い争いに移ろうとしたとき、突如サイトが頭を床につけて土下座をしたのだ。

 

「な! 何してのお前!?」

 

「ふむ。天地が二つに割れるほどの私の美貌にひれ伏したのだろう」

 

「フェリスぅ。ちょっと黙ってぇ」

 

「お願いします!! 俺に剣を教えてください!!」

 

「「………………」」

 

 サイトのその言葉に二人はようやく事態を飲み込んだ。

 

「おれ……強くなりたいんです!! もう二度と負けないために……ルイズを守れるように!! 強くなりたいんです!!」

 

 そんな涙交じりの言葉を聞きながら、ライナはフェリスのほうを見た。

 

 一度フェリスはアルアという少年を鍛えたことがあるのだが、あれは非常事態だったからこその奇跡といえる。

 

 フェリスのあの圧倒的な剣術は幼少期の文字通り地獄(・・)の訓練によって手に入れたものだ。そんなフェリスのことだ、あまり剣に関しては教えたくはないのかもしれない……。

 

 しかし、ライナの心配は杞憂に終わった。

 

「ふむ。いいだろう。私がお前を強くしてやる」

 

 その返事に、ライナは少しだけ驚き、サイトはパッと顔を上げた。

 

「ただし、訓練は学園に帰ってからだ。それまでは待て」

 

「はい……わかりました」

 

 サイトはそれだけ言うと、何度も頭を下げて部屋を出て行くの見届けるとライナはダラッとしながらフェリスに疑問をぶつける。

 

「なんで教えようなんて思ったんだ?」

 

「ふむ。というか剣を教えることに関してはそれほど抵抗はない。よく道場で兄様の代わりに剣術を教えていたりするからな」

 

「ああ……そういえばエリス家ってそうだったな」

 

 ローランド最強の称号を持つあそこは貴族の剣術指南もしているのだった……。フェリスの妹のイリスもよく道場で遊んでいるとか言っていたし……。

 

「それに私は学園で特にすることもないしな。暇つぶしにはちょうどいい」

 

 まぁ、そんなところだろう。前々から剣を教えるとか冗談半分で言っていたし。

 

「あんまいじめんなよ……」

 

「ふむ。善処しよう」

 

 世渡り上手だった自分の弟子の悲鳴を思い出しつつ、ライナはサイトに向かって手を合わせるのだった。

 

 その時!!

 

 ゴッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 すさまじい轟音とともに、宿屋の一階から煙が噴き出した!!

 

 

「っ!! なんだ!?」

 

「爆発か? 下に行くぞ、ライナ!!」

 

「わかってるよ!!」

 

 二人はそう言いながら、全速力で下への階段へと駆け出した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そして、下に下りたライナたちを待っていたのは、

 

「どういうことだ? 襲撃を行うならもっと早い段階でできたはずだ。なぜ今になってあんな奴らがここに奇襲を仕掛けている?」

 

 横倒しにしたテーブルを盾にして思考をしているバーシェンと無数の武装をした傭兵たちだった。

 

「何があったんだ!?」

 

「ん? 確かライナ・リュートとかいったな。なに大したことはないタダの襲撃だ」

 

「襲撃って時点で『タダの』はついちゃいけないだろ!?」

 

 そんな軽口をたたきながら、ライナとフェリスはおんなじように机の陰に隠れた。

 

「どうして反撃しない」

 

「考えなしに攻撃しても碌なことはないからな。とりあえず襲撃の理由がはっきりとしてから反撃する主義なんだよ。襲撃の理由はおそらくおれたちの任務の妨害だろうが、もっと早くに襲撃できたはずなのに今の段階で襲撃してくる理由がわからん。お前たち何か知らないか?」

 

 バーシェンの質問に、ライナたちは今まですっかり忘れていたことをようやく思い出した。

 

「ああ、そういえばおれたち変な仮面のメイジ狙われているんだった」

 

「……詳しく話せ」

 

 そして、ライナがこの前受けた襲撃について話すと、バーシェンはため息をつきながら、

 

「もっと早くに言わんかこのバカ者が!!」

 

 容赦ない目つきをライナの目に叩き込んだ!!

 

「目がァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

 どこかの天空の城を狙っている悪役のような悲鳴を上げながら、のたうちまわるライナを放置しバーシェンは再び思考の海に潜りこむ。

 

「くそ!! さっさと帰してももう巻き込まれているってことか!? どこで知ったのかは知らんが、おそらくその黒幕は姫がお前たちに任務を与えるということだけを聞いたんだろう。それで、結果的に本命のおれたちではなくお前たちを狙っているというわけか……厄介なことになった」

 

 そして、思考の海から帰ってきたバーシェンは涙をいっぱい流すライナに向かって、指を突き付けた。

 

「小僧。どの程度戦える!?」

 

「ま、魔法と体術が少し。あの程度の相手だったら余裕で勝てる」

 

「よし、お前は俺とここで殿をしろ!! 遠距離攻撃の手段があるほうがいいからな。剣士はワルド達にこのことをしらせて、裏口から逃げろ!! ワルドにルイズ嬢とサイトの坊やの護衛をさせる。腐っても魔法衛士だ。何とかするだろう?」

 

「ふむ。私のことはいいのか?」

 

「そこそこ戦えるんだろ? ワルドよりかは強いと言っているのが決闘のときに聞こえたぞ。期待している!!」

 

 それだけ言うと、バーシェンはあたりに紙の束をばらまく。

 

「何してんだ?」

 

「奥の手はあんまり使いたくないのでな。これは故郷のポピュラーな魔法だ」

 

 瞬間、紙たちがまるで生きているかのように旋回を始め空中を複雑な手順を踏みながら通り過ぎていく。

 

「符縛炎帝!! 《炎界(YanJie)》!!」

 

 そして、バーシェンの呪文の詠唱が締めくくられると同時に、ライナの瞳は見た!! ライナたちの国では正体不明とされており、この世界では精霊と呼ばれる無数の光の粒が一点に収束し最後には爆発するかのように拡大し深紅の炎をともすのを!!

 

 瞬間!! 先ほどとは比べ物にならないほどの爆音とともに、深紅の炎が宿の一階を蹂躙。中に入り込もうとしていた傭兵たちを容赦なく焼き払った!!

 

「うわぁ……結構威力たけーなこれ」

 

 魔法の解析と習得を終えたライナはその威力を見て顔をひきつらせた。

 

「きさま………その目は一体何だ? いや、まぁいい。そんなことにかまっている暇はないしな」

 

 そして、テーブルから悠然と歩き出たバーシェンに向かって無数の銃口が向けられる。

 

「ではな剣士。あいつらのことを頼んだぞ。魔法使い、ついてこい。報酬ぐらいは払ってやるからしっかり働け!!」

 

「え、ちょなに勝手に……ああ、もうめんどくせぇ!!」

 

 ライナ自身そうするしかないと思っていたのか、テーブルの裏でさせっせと魔方陣を作り上げ、稲光を放出させる!!

 

「ふむ……ではライナ、死ぬなよ」

 

「わかってるよ!!」

 

 フェリスは最後にそう言うと、さっさと宿屋に二階にあがりルイズたちをたたき起しに行くのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 宿屋の襲撃を受けて約二十分が経った。宿屋はもはや原形を残しておらず、黒焦げになった傭兵たちの死体が無数の転がっている。

 

「おまえ……やりすぎだろ」

 

「黙れ。やらなければやられていた。殺さなくていいという選択肢はよほどのことがない限り存在しないものだ」

 

「それはそうだけどさぁ……」

 

 傭兵たちの実力は、一人ひとりならばたいしたことはなかったが、対メイジように編成された特殊部隊だったのかライナとバーシェンは苦戦を強いられてしまった。その結果がこの惨状だ。さすがのバーシェンもあんなことを言ったが若干後悔しているほどの凄惨さである。

 

 とはいえ、アルビオン行の船が出港したのは先ほどバーシェンが視認した。おそらくワルドが足りない風石の分を魔力で補うとでも言って無理やり出させたのだろう。さすがは魔法衛士。判断が速いと、バーシェンは珍しく他人の行為に感心した。

 

「それで……黒幕自らお出ましとは、奴らを追わなくていいのか?」

 

「そうそう。いまどき陰謀とかマジで面倒だから、いますぐやめてほしいんだけど」

 

 そして、彼らの前に立つのはたった一人の男。漆黒のローブに不気味な仮面をかぶり、男は佇んでいた。

 

 フェリスが引き出した男の特徴と一致する。おそらくはこの男が傭兵を差し向けてきた男なのだろう。

 

「何が目的だ……と、聞く必要もないな。だが一応は情報をは引き出させてもらうぞ。おとなしくつかまれ」

 

「フフフフフフフフフフフ」

 

 バーシェンがそう言いながら、手袋をつけた手を男に向けた時だった。男は不気味な笑い声をあげながら、ローブをひるがえした。

 

「いやいや……これでいいのだよ、バーシェン卿。私の目的はあなたを私から引き離して、ルイズをこちらに連れてくることだったのだから!!」

 

「な!! 貴様、まさか!!」

 

「何言っているんだ、こいつ?」

 

 意味がわからないライナを放置し、男はまるで空気に解けるように姿を消した!!

 

「な!!」

 

 そこでライナはようやく複写眼(アルファ・スティグマ)を使用。男が魔力で構成された偽物だということを解析する。

 

「おい、いまの!!」

 

偏在(ユビキタス)!! 犯人はあいつか!! くそ、俺の幻獣はアルビオンまで飛べないぞ!!」

 

 犯人にようやく目星がついたのか、バーシェンは苦々しい表情をしながら、額を抑えた。再び思考の海に入り解決策はないかと模索しているのだろう。

 

 その時、ライナは自分の指に装着されている指輪のことをようやく思い出し、バーシェンに提案した。

 

「なぁ、俺多分アルビオンまで行く手段があるんだけど、乗ってみるか?」

 

「なに?」

 

 きらりと輝く指輪を掲げ、ライナは本当に疲れ切ったため息をついた。しかし、その瞳には珍しいことに、かなりの真剣み帯びていたという。

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