ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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閑話・戻ってきた日常と、望ましくない来訪者

「ご苦労様でしたバーシェン様……。ウェールズ様を連れ帰っていただき、本当に感謝しています」

 

「貴様のためではない。トリステインのためになると思ったからやっただけだ」

 

 涙ながらにウェールズに抱き着き、不機嫌そうな雰囲気を垂れ流す鉄面皮にお礼を言う姫様を見てライナは大きく欠伸をした。

 

 激動のアルビオンから帰ってきて数時間後。ウェールズ皇太子を引きずって(文字通り)帰ってきた宰相に王宮内はいったん騒然となった。

 

 だが、さすがはこの国の実質ナンバーワンの権力を持つ男といったところか、バーシェンはウェールズに跪きそうになる近衛隊達を一喝し、王宮で彼の期間を待っていたアンリエッタを呼びつけた。

 

 そして彼ら王の間へと通され、こうして姫様に礼を言われているわけなのだが……。

 

「まじねみぃ……」

 

「ちょっと、ライナ!! こういう時ぐらいシャキッとしてよ!!」

 

 そんないつものだらけきった態度をとるライナの姿に、ウェールズの姿を見て感涙していたルイズが眉を吊り上げて怒鳴ってきた。もちろん、姫様には聞こえないように小声で……だが。

 

「いやそんなこと言ったってさ……」

 

「ふむ。この色情狂は昨日の夜中突然起きだし「うぇ~へへへへ。ルイズたちも寝静まっていることだし、今がチャンスだ!!」とかいって荒野を駆け抜けたからな。その無理がたたって眠くなっているのだろう」

 

「いや……もう『空の上でどうやって荒野を駆け抜けるんだよっ!!』とか『昨日の夜はルイズたちとはぐれちまってそれに全力で追いつくために貫徹で竜操作していただろうが!!』とか『そもそも俺は色情狂じゃねぇええええええええええええええええ!!』とか、ツッコみたいことはいろいろあるけどTPO読める俺は、あえてツッコまないでおくよフェリス」

 

「いや……ライナさん。口に出している時点でメッチャ聞こえてますし、姫様こっち見て半笑いになってますよ?」

 

 もう、本気で空気読まずに普段の声量でそんなことを言ってのけるライナを見て、空気読まないことでは定評があるサイトですら、顔をひきつらせながらライナの自制を促した。だが、本当は自制を促すべき相手はもう一人いたことに、彼は気づくことができなかった。

 

「ほう。貴様がさっき言わなかった言葉が、すべて私に向いているというのならば、私は『おいライナ。首をはねるぞ?』と、言わないといけないのだが、私もTPOぐらい読めるからな。あえて言わないでおいてやる」

 

 と言ったフェリスは『よし』といった後、ゆっくりと立ち上がり剣をさやから引き抜いた。

 

「え? ちょ……フェリスなにする気?」

 

「むろん、いつもの掛け声なしに貴様の首を……刎ねる」

 

「いやいやいやいやいやぁあああああああああああああああああ!? さすがにここはまずい!! ここは他国の王宮だから!!」

 

「ふふふふ……。きっと赤いだろうな?」

 

「く、くそ……そっちがその気なら俺もやってやるぜぇえええええええええええ!! いつまでもやられっぱなしだと思うな……」

 

「やめんかバカども」

 

 そんな二人の激突を事前に止めたのは、アンリエッタに一通りの報告を終えこちらに戻ってきたバーシェンだった。

 

 跪くルイズたちの横へゆっくりとした足取りでやってきた彼は、立ち上がり戦いの構えを取っている二人に向かって、両腕の魔法を解放!

 

 遠慮ない漆黒の炎をぶちかまし、ライナとフェリスを遠慮なく焼き払おうとして……

 

「って……ちょ、まっ!? お前、その魔法もう使えないんじゃ!?」

 

「ふふふふふ……シネ」

 

 しかし、どういうわけらライナのツッコミはバーシェンには届かなかった。何故か虚ろな笑みを浮かべて黒火(HeiHuo)を引っ込めようとしないバーシェンに、ライナは若干嫌な予感を感じる。

 

「え、ちょっ!? おい、フェリス!! もめている場合じゃねェ、なんかバーシェンが……」

 

「シネェエエエエエエエエエエ、ライナぁああああああああああ!!」

 

「お前もかァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 なんか、やばい!! 本能的にそれを察知したライナは、慌てて隣に立っていた自分の相棒に声をかけるが、その相棒もどうやら壊れていたらしい。奇声を上げ剣を振りかざしとびかかってくる自分の相棒の姿を見たライナは、慌てて身をよじりその攻撃をかわした。

 

 しかし、

 

「いっ!? さ、サイト!!」

 

「死んでください……らいなっさぁああああああああああああああああああああああああん!!」

 

 こちらも壊れているのかいつの間にか抜刀していたデルフリンガーで、ライナを切りつけてくるサイト。そのタイミングはもう不意打ちするには完璧なタイミングで……正直ライナでも避けられそうにない。

 

 ゆっくりと自分の首に向かって近づいてくるデルフリンガーの刃。ライナはそれをしっかりと確認しつつ『あ、これ死んだ……』とあきらめの境地に達しつつ……

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました。

 

「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 あまりに悲惨すぎる&意味不明すぎる夢に、目を覚ました瞬間ライナは上半身を跳ね上げようとして、

 

 自分の首にひんやりとした鋭いものが当たったのを感じ取り、慌ててその動作を止めた。

 

「チッ……。惜しかったな。もう少し勢いよく起き上がっていればその首バッサリと……」

 

「あぁ……またお前か、フェリス」

 

 どこかでやられた覚えがある、フェリスのイタズラ――寝ているライナに剣を突きつけ悪夢の原因を作る――風景にため息をつきながら、ライナは光が差し込んでくるカーテンへと目を向ける。

 

 アルビオンの革命が終了してはや数日。ライナたちは無事に魔法学園へと帰ってきていた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その頃のローランドでは……。

 

「頼んだぞ」

 

「お任せください」

 

 シオンが銀色に光り輝く鏡を前に、一人の男に指示を出していた。

 

 その男はシオンが手渡した一枚の手紙を恭しく受け取ると、何のためらいも見せずに銀色の鏡へと体をくぐらせる。

 

 そして男が見えなくなった瞬間、シオンの背後にルシルが出現した。

 

「本当に彼でよかったのかい?」

 

「あぁ。異世界……それも本当に帰ってこられるかどうかわからないとなると、『円命の女神』の可能性があるミルク・カラードたちは送れない。イリスちゃんでもよかったんだが、彼女の場合は異世界まで行かせるとなるとやや不安が残る。やはり、実力的にも年齢的にもなんとかなりそうな彼が適任だろう」

 

「そうかな?」

 

 意味深な笑みを浮かべて姿を消すルシルに、シオンはため息をつきながら鏡を見つめた。

 

 その鏡は、もう輝きを失い無言で浮遊しているだけのただの鏡に成り果てていた。この勇者の遺物……忘却欠片(ルール・フラグメ)の名は《ハルケギニアの銀鏡》。女神が作ったものではない異端の忘却欠片で、その効力は定期的に異世界への門を開くというもの。

 

 その周期は本来なら数十年といった単位なのだが、今回はシオンとルシルの力によってこの異物を無理やり動かしたのだ。

 

 その副作用なのか、この鏡はもう遺物としての力を失っている。こちらからの連絡手段は……完全に断たれたといっていいだろう。

 

 だから、シオンは祈るしかなかった。

 

 自分が送り込んだ助っ人が……ちゃんとライナたちを連れて帰ってくれるように。

 

 ローランドの《英雄王》シオン・アスタール。しかし、今の彼は英雄王としてではなく……一人のシオンとして、心配そうな表情をその顔に浮かべていた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その人物は槍を携えていた。

 

「ここが……異世界ですか」

 

 その人物はひどくさわやかな笑みを浮かべていた。

 

「ライナさんもフェリスさんも……無事ならいいのですが」

 

 その人物は……何やら珍妙な物体を抱えていた。

 

「なにせ……まだ槍が世界最強の武器だと、示せていないのですからァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 その人物はやたらとさわやかな笑みを浮かべつつ、残像でも残るんじゃないかと思えるほどの速度まで加速し、自分が出現した森を抜けるために爆走を開始した。

 

 この人物が、ライナに悪夢を見せるまで……あと数日。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

『はい……。はい……。かしこまりました』

 

 ひっそりと、闇の中にたたずむ主の背後に控えた女暗殺者は、主が定期報告を終えたのを確認すると慎重に言葉を選びながら口を開いた。

 

「あのお方は何と?」

 

「興味を持った……だそうよ」

 

 つまり、あの二人を調べろということか。女暗殺者は今までの経験から主が何を求めているのかを即座に察し、少しだけ眉をしかめた。

 

 今二人の話題に上っているのは、バーシェンが引きつれてきた女剣士と、見たこともない魔法を操る男のメイジ。

 

 バーシェンが無双していることなど、いまさらすぎるので黒幕殿は何も言わない。せいぜい「厄介だな」という感想程度しかもらっていなかったことを、女暗殺者は主の定期報告を聞きながら確認していた。

 

 だからこそ、今回興味を持たれたのはあの二人だろうと女暗殺者はあたりをつけたのだ。

 

「ええ。虚無の二人のほうは、私が調べましょう。あと……」

 

「はい?」

 

「ウェールズを殺してきなさい。このまま冷静な判断で兵糧攻めにされたのでは……あの方の楽しみが減ってしまうわ」

 

「御意……」

 

 女暗殺者は『暗殺』という過激な命令に眉一つ動かすことなくそう答えると、自分が被っていた仮面をゆっくりとはずしその素顔をさらす。

 

「では……トリステインに潜入してまいります。一か月ほどかかりますが、よろしいですか?」

 

「ええ。期待しているわよ……。えっと……」

 

 主が自分をどう呼ぶか逡巡するのをみて、女暗殺者は「そういえば、まだ今回の依頼での名前を決めていなかったな……」といまさらながら思い出し、言葉を付け足す。

 

「今回の任務中では……《ビオ・メンテ》とお呼びください」

 

 真紅の瞳に真紅の髪。二つの(アカ)を宿した暗殺者は、その整っているといっても問題ない顔立ちを、まるで凍りついたかのように動かさないまま……そう答えた。

 

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